自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
□<レンソイス砂漠> 【弓狩人】ヴィーレ・ラルテ
【スフィンクス】との戦闘に勝利してから数分。
私は身体を襲う疲労感に負け、白い砂漠のど真ん中で両手を広げ、大の字になって仰向けに寝転がっていた。
まだまだ休まる気のない太陽がギラギラと照らしつけるが……今はそれが少し気持ちいい。
砂で汚れることなんて気にしない。
私は目をつむりながら……笑みを浮かべた。
ゆっくりと右腕を持ち上げお腹辺りに手を伸ばす。
すると私のお腹に重なるような形でグデンッと、伸びきっているベグのプニプニの身体に指が触れる。
……いや、少しだけ嘘。
『プニプニ』というより『ブニブニ』だ。
だけど初めは苦手だった幼虫も今はもう慣れてきたので気にならない。
「かなり長引いちゃったけど……何とか勝てたね。
危ないところもあったし、デスペナルティになっちゃうんじゃないかって本当にヒヤヒヤしたよ~」
笑いながら安堵のため息を吐く。
そんな独り言に、ベグがもぞもぞと動いて返事を返してくれた。
まるで
――ベグは幼虫型の従魔。
今日でレベルが一気に上がったとはいえ、幼虫形態で。加えて産地である森ではない砂漠での活動に、かなり体力を消耗しているのかもしれない。
それかただ単純に動くのが面倒くさいか、だ。
「かなりって言うか、薄氷の勝利だったし」
寝ころんだまま視線を左へと移す。
視線の先には大きな物体が――
――あと、炎が通じなくて怒っているのだろうか?
『死体蹴り』ならぬ『死体突き』を繰り返すフェイの姿が目にはいる。
(……カラスみたい)
不死鳥なのにやっていることはカラス。
そんな事実に思わず苦笑いする。
いや、そもそもまだ【スフィンクス】は死んだわけではない。
――軽傷による【出血】が【大出血】に。
――【毒】と【猛毒】が二重に掛かりじわじわとHPを削る。
――【混乱】や【魅了】、【強制睡眠】に【麻痺】や【脱力】でまともに動けず。
幾重にも掛かった状態異常によって【スフィンクス】は死んではいないものの戦闘不可能になっていた。
既に指一本、尻尾すら動かせない。
あと数分もすればHPは全損し、消えるぐらいの瀕死である。
「こうして見ると【アドーニア】はやっぱりズルいなぁ~。どれだけ耐性やENDが高くっても【無効】じゃない限りは何回も判定を繰り返して、何時かは状態異常にしちゃうんだもん」
どれだけ状態異常の耐性が高くとも【無効】ではない。
それに対して《栄華の庭園》は範囲内に居る限り、何度も状態異常の付与の判定が発生する。もちろん軽減系のスキルに対してはどうしようもないけど……すべての状態異常に対策するなど実質的に不可能。
【花冠咲結 アドーニア】改めてチートのような強さを持っていることを再確認した戦闘だった。
ううん、それだけじゃない。
勝てた要因は幾つも。
運が良かったのだ。
「本当に……あの鎖も普通のアイテムボックスに入れてあって助かったよ」
元々はアロンようの手綱代わりに使えないかと買った鎖。
実際は使えもしないし、アロンに指示するような場面が全くないので無駄な買い物になった。
――と思っていたんだけど、今回はそれに助けられた形になった。
あれが無ければ、今回の作戦は取れなかっただろう。
加えて運も良かった。
仮に【スフィンクス】に《騎乗》中に、蛇の尾から攻撃を受ければあれほど簡単には行かなかった。
少なくとも《我は不死鳥の騎士為り》を発動させたうえで、怪我も避けられなかったと断言できる。
思い返すと改めて綱渡り。
ガバガバな穴だらけの作戦だったのだと思う。
「空中戦……ううん。私自身の攻撃力の不足が今後の課題かぁ~。
……師匠から騎乗槍の扱いも習っておくべきだったかも」
そんな事を考えながら妄想する。
すると想像上の私は騎乗槍を全くうまく使えず、モンスターと間違えて木に突き刺してしまっていた。
……運動神経が皆無なせいだ。
動体視力には自信があるけど、何故か運動は弓術以外からきしなのだ。
(……料理と歌と運動以外はほとんど出来るのに)
改めて謎である。
きっと師匠に習っていたら厳しすぎて泣いていただろう。
「う~ん……」
次のジョブ、そして課題に頭を悩ます。
その時だった。
――『----~~~~ッ!!』
地面を揺るがすような低い咆哮。
同時に私の寝転んでいた白い砂が微振動し、僅かに盛り上がった。
揺れは収まる気配を見せない。
むしろ、その揺れはどんどんと激しさを増し、
――『ドンッ!!!』
砂漠の砂を空高く打ち上げながら、ソレは砂上へと踊りでた。
「お帰り~、アロン」
『GAWUWUWUUUU~~♪』
打ち上げられた砂を【アイテムボックス】から取り出した適当なアイテムで防ぎ、私は砂中から勢いよく飛び出したアロンに苦笑いした。
そんな私にアロンもご機嫌に唸りを上げる。
<レンソイス砂漠>にはそれほどモンスターが多かったのか。
それとも美味しい鉱石を発見してお腹いっぱい食べたのか。
短いゴツゴツとした尻尾をブンブンと振り回すほど嬉し気なアロンの様子に私は笑う。
(レベルはっと……)
指を滑らし開くウィンドウ。
ステータスから確認できるアロンの欄をタップし、その詳細を表示させた。
『【リソスフェア・ドラゴン】/アロン Lv.15』
上がったレベルは2。
今までのレベルの上がり方を省みれば、2レベルも上がれば大成功である。
……なるほど。
寝ころんでいると分かりずらかったが、身体の大きさもより一層巨大になっている気がした。
「お疲れ様、街に戻ったらまたみんなでご飯にしようね」
『Gawuuuuuuu~』
アレウスも今頃、【ジュエル】の中で拗ねてしまっているかもしれない。
私は『レベル上げはお終い』っと。
お腹の上の乗っているベグをどかしながら身体を起こす。
そして裾やお尻。髪の毛についた砂を払い落した。
後は【スフィンクス】を倒しきり、おそらく【モノポール】との戦闘で戦闘不能になっているだろうホオズキを回収して<グランドル>に帰還するだけである。
「……ンッ~~~~~-----!!」
大きく身体を伸ばし、息を吸い込む。
そしてアロンへと振り向き、
「それじゃあ、手間だけどこのモンスターに止めを――――
――『それは困りますね』――ッ!」
大きな、大きな女性の声。
突然聞こえてきたその声に、思わず悲鳴を上げそうになりながら声の主へと振り返る。
声の主……彼女はいつの間にか私の背後に
――【スフィンクス】と同じ人頭獣、しかし【スフィンクス】より数倍巨大な身体。
――【スフィンクス】とは違う女性の頭、そしてその額に開かれた
――そして……【スフィンクス】とは違う、表示されたモンスターネーム。
私は驚きに目を見開きながら呆然と呟く。
「……<UBM>、【封儀神獣 ヒエログリフ】」
明らかに【嵐竜王 ドラグハリケーン】と同等。
もしくは
いつの間に。
いや、それよりもどうやって《ハンティング・フィールド》を潜り抜けたのか。
頭は混乱し、心臓が掴まれたかのような感覚に背筋を凍らせる。
私だけではない――アロンもフェイ、そしてベグ私と同様に身体をこわばらせ、ただ目の前に現れた【封儀神獣 ヒエログリフ】を睨みつけるしかできなかった。
それは一目見て、分かってしまっていたからだ。
(きっと、今の私じゃこの<UBM>には勝てない!!)
っと。
そんな私達に【ヒエログリフ】は優しく、愛おしそうに笑う。
『……いい判断です。今の貴女では例え、奇跡を何度起こそうが私には勝てません。0には何を掛けても0ですが、今の貴女では何かを掛けることも、足すことも出来ませんから。
そういう面では好ましいと捉えられますね』
『ゴクリッ』と。
自然と飲み込めなくなった唾を飲み込み、息を吐く。
私は目の前の【ヒエログリフ】から目を離せないでいた。
『ウフフ、そんなに警戒する必要はありません。
私はこの【スフィンクス】……愚息を連れて帰りに来ただけですから。その証拠に……ほら、貴女の《危険察知》は反応していないでしょう?』
【ヒエログリフ】はそんな私達の様子にクスクスと。
獅子の手を器用に口へと持ち上げ目を細めて苦笑を漏らした。
そして、そのまま持ち上げた手を地面へと倒れ伏している【スフィンクス】へと押し当てた。
するとどうだろう。
次の瞬間、【スフィンクス】に掛かっていた全ての状態異常は掻き消え、ただ、傷ついた身体から血を流す【スフィンクス】の姿がそこにはあった。
――――!
その様子に声にならない声を漏らす。
同時に今更ながら《危険察知》が反応していないことに気が付き、少し緊張が解けた。
「――ぁ」
口を開き、喉を震わせると小さいながら声が漏れた。
どうやら体に異常はないらしい。
ステータスには【恐怖】が発生しているが喋る分には問題はないようだ。
私は言い間違えないように、刺激しないようにゆっくりと声を絞り出す。
「……<UBM>も喋ることができるんですね」
……何言っているんだ、私-----ッ!!
思わず思ってしまった疑問に、そして煽っているとも捉えられる言葉に思いっきり冷や汗を流した。
『――? 当たりまえですよ? 貴女の従魔にも意志はあるのでしょう。
それに貴女達と同じ頭と口を持っているのだから当たり前。別にモンスターの形や種族に関わらず喋ることが出来るモンスターは多いですし、『人化』できるモンスターも少数ですが居ますよ?』
しかし【ヒエログリフ】はその程度の事は気にしないらしい。
もしくはモンスターとしての感覚では特に気にならないのか。
彼女は人の頭を捻りながら不思議そうに私を見下ろした。
『――それで、質問はそれだけですか?』
「――貴女の目的は何なんです……」
『それはさっきも言ったと思いますが……この子を回収しに来たのです。
と言いますか、私がこの子を貴女達に差し向けたんですけどね』
私の質問に彼女は意地悪そうに。楽しそうに笑った。
『実はですけどね、貴女達がこの砂漠に足を踏み入れてからずっと見ていたのです。それで貴女が丁度この愚息の調子に乗ってきた鼻っぱしらを折るのにちょうど良いと思ってしまった――って言うのも理由ですか。
後は……退屈凌ぎと面白そうだったから。ですね』
茶目っ気に片眼を瞑る彼女。
「……それじゃあ、今この場で私達をどうしようとかそういう狙いではないんですね?」
『えぇ、当り前です。その気ならば貴女達はとっくにやられているはずですから』
「そう――だね」
その通りだ。
【ヒエログリフ】が言っている事はハッタリなんかじゃない、その気になれば一瞬で私達を殺せる。
それにきっと彼女は嘘をつかない。
私はそんな雰囲気を肌でピリピリと感じ取っていた。
『それにしても……何だか運命を感じてしまうわね。あの子を倒したのも『焔の騎士』と『機械の男』だったもの。
まぁ、あの子は魔法に特化し過ぎてたし、今回は『炎の騎兵』一人だけだっけけど』
『焔の騎士』? 『機械の男』?
この<UBM>は何の事を言って言っているのだろうか。
「あの……用が無いなら早くその【スフィンクス】を連れて立ち去って欲しいんだけど」
『……冷たいです』
冷たい、冷たくない以前に正直、【恐怖】の状態異常がキツい。
何時もなら直ぐにフェイの《蒼炎の再生》で治してもらうので、状態異常に長時間掛かると言う状態にあまり慣れていないのだ。
特にベグはまだまだ弱い。
【ヒエログリフ】を目の前に【恐怖】だけでは済んでいない可能性もあった。
『いえ、そうですね。久しぶりに生きた人間との会話だったから柄にもなくはしゃいでしまいました。
この子の傷も癒えた訳ではないし、もう帰らせてもらうとしましょう』
彼女はそう言いながら倒れている【スフィンクス】を一瞥する。
するとどうだろう。
【スフィンクス】の倒れる砂が持ち上がり、音もなく宙に浮かび始めた。
(【スフィンクス】には魔法が効きにくいんだと思ってたけど……砂を持ち上げているだけだからセーフなのかな?)
そんな感想を抱いていると、空へと飛び始めていた彼女が再び視線を私へと向ける。
『人間は嫌いだけど……貴女はそれほど嫌いでもないですね。この子も殺さないでおいてもらいましたし、【封儀神獣 ヒエログリフ】から感謝をしておきます』
そう微笑むと同時に小さなピンポン玉ほどの球体が空から落ち、ストンと私の手の中に収まった。
『持っておきなさい。それはこの砂漠における私の目の一つ。
もし貴女がピンチになったときは礼代わりに一回だけ助けて上げる。もちろんこの砂漠内に限りますが』
ソレは小さな『目の紋様』が刻まれた球だった。
少し不気味で気持ち悪い。
……けど、きっと捨てたら【ヒエログリフ】にも分かってしまうのだろう。恐る恐る球を掴み、【アイテムボックス】へと放り込む。
『貴女……。
まぁ、いいです。それじゃあ私達は立ち去らせてもらいますので』
どこか不満そうな声を漏らした【ヒエログリフ】。
しかしその姿は言葉を言い切るが早いか、一瞬でその場から消えていた。
思い返せば、唐突に背後に現れ、そして《ハンティングフィールド》にも反応しなかった。
<UBM>としての固有スキルだろうか?
何にしろ言葉を話し、楽しそうに笑い、何もせずに……むしろアイテムをくれて帰る。
初めて会うタイプの<UBM>だったことには間違い無かった。
「【スフィンクス】のドロップアイテムは高く売れそうだったから残念だけど……生きて帰れるだけ儲けもの、かな?」
そんな感想と共に消えた【恐怖】を確認し、肩の力を抜いた。
そしてアロンやフェイ、ベグのいる方向へと振り返りながら、
「それじゃあ、ホオズキと合流して<グランドル>に帰ろっか!
フェイ、アロン、そして――ベグ?」
視界に入った、見慣れた2体の従魔の姿。
そして見慣れぬ――
――大きさ5メテル程の
その
実は、第7話から第9話を1話で収めるつもりでしたが、駄文に駄文を重ね、結果三話構成20000文字オーバー。
……ベグの変化を書くだけだったのに。
推敲はめんどくさいのでやらない主義だ!!