自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
□“氷冷都市”<グランドル> 【弓狩人】ヴィーレ・ラルテ
「あぁー糞っ! いやー惜しかったな、シュリ?
俺もアイツにかなりダメージを与えたんだがなー、やっぱ砂中に潜られると相性が悪いんだよなー!」
レベリングを終え、<グランドル>へと帰還した私達。
数時間かけて歩いて移動した道のりをフェイに《騎乗》し、たったの十分で<グランドル>の石門の前方へと辿り着いていた。
昨日みたいに【商人】達が行列を作って並ぶ。
既に時刻は夕暮れの時間である。
砂漠の太陽も西へと傾き、遠目に見える<レンソイス砂漠>の白い砂漠が黄金に輝いて、砂金の砂漠の様に見えた。
そんな時間だからだろう。
昨日よりは少ない行列に並び、自分の番を待ちながら隣で大げさに声を上げるホオズキを眺めていた。
「あー、うん。ほんとに惜しかったんだぜ!?
多分、
「アハハ、でも私が迎えに行ったときは首だけ出して埋められていたけど……?」
「ち、違うぜ!? あれは……あれだ、名誉ある負傷の結果ってやつだ!」
素でやっているのか、それともネタでやっているのだろうか?
バレバレな棒読みな声。
『うんうん』っと。腕を君ながら明後日の方向に目線を逸らし頷くホオズキを、ニヤニヤと笑みを浮かべながら見上げるように話していた。
どうやら【モノポール】の討伐は散々な結果となったらしい。
(フッ、フフッ……)
今思い返しても笑ってしまう。
【テレパシーカフス】からの《念話》を受け迎えに行った私。
そこで見た者はまるで生首の様に、首から上だけを地上に出して埋まったホオズキの姿だった。
「フッ、アハハハハ~ッ。
うん、そうだね。名誉ある負傷……? で地面に埋まっちゃったんだもんね、うん。それはしょうがないよ」
――これはからかわずにはいられない。
必死に吹き出すのを我慢しながら強がるホオズキと会話する。
そして……
「……それで、実際はどうだったの? シュリちゃん」
明後日の方向を眩しそうに見るホオズキ。
その後ろで――怒ったように眉を顰め、口を尖らせながらホオズキの脛を蹴るシュリちゃんを見た。
……うん、怒ったシュリちゃんも可愛い。
私が聞くと同時に、シュリちゃんはいつもとは正反対に饒舌に愚痴りだした。
「……最悪。……本当、最悪。
……何も考えずに突っ込んだせいで、電磁波を食らって【麻痺】。分けわかんないうちに砂鉄に捕まって、砂漠を引きずり回された」
「へぇー、よく生きてたね」
何も考えずに打つ相槌。
するとそれが駄目だったのか、シュリちゃんは頬を『プゥー』っと膨らませた。
「……無事、じゃない。
……おやつみたいに足から齧られて。再生で手一杯……せっかく貯め込んだ『血』、かなり使った。……全部、ホオズキが馬鹿なせい」
「そ、そうなんだ」
私の思っていた以上にご立腹なようだ。
実際にこんなに喋るシュリちゃんは見たことも無い。加えて、ひたすらホオズキに蹴りを入れている所を見ればどれだけ怒っているかは明らかだ。
『チラリッ』とホオズキを覗き見る。
するとなんともないような顔をしているけど――なんとなくションボリとした雰囲気をしている。
(そう言えば、Type:メイデンのシュリちゃんはホオズキと心の中で会話できるんだっけ)
私の場合、【従魔師】の《魔物言語》を習得していなくても、フェイやアレウス達の考えがなんとなく分かる。
だけど実際に心の中で会話をしたことは無い。
このホオズキの様子を見る限り、既にかなり愚痴られたみたいだ。
「ホオズキ……後で何かシュリちゃんの機嫌を取っておいた方がいいと思うよ」
「……今、丁度酒を十本奢る約束をさせられたところだ。――1本1万リル以上の酒を、な」
十万かぁ。
今回の【モノポール】との戦闘で消費した『血』にお酒と、かなりの大出費だ。
私は同情の視線を送ろうとして、止めた。
よくよく考えればホオズキの自業自得、自己責任である。
同情の余地は無い。
「……ヴィーレに、見捨てられた、から。……シュリは――」
(……私も後でお酒をプレゼントしておこう)
そう、心の中で思ったのだった。
◇◆◇『<愚者の石積み商会>・大通り商店』
【大商人】シアンさんが商会長を担う<愚者の石積み商会>の本店は、大通りの隅――貧民街と綺麗な側面の<グランドル>との境界線に存在した。
他の商店のような華やかさは無いが、大きく、そしてしっかりとした印象を受ける硬派の店。
私達は簡単にその商店を見つけ、入店する。
そして、
「……満足」
今現在。
私の目の前には嬉しそうに目を細め、大量のお酒を抱き抱えるシュリちゃんの姿があった、
『エヘヘ』と、緩む赤く薄い唇。
――シアンさんからのお礼であるお酒、3本。
――ホオズキに奢らせ……買って貰ったお酒、10本。
――私の【アイテムボックス】に残っていたお酒、1本。
計14本、シュリちゃんの身体よりも大きい樽や、ボトルを丁寧に。そして、すっごく嬉しそうに1本1本【アイテムボックス】にしまっていく。
(酒蔵みたいな量……と言うか、あそこに入っているのもしかして全部お酒じゃ――)
私は思わず引きつりそうな頬を堪えながらその様子を見守っていた。
「いや~、ヴィーレさんのおかげで何とか数が足りそうです~。予想以上に貧民街の子供たちの食料が少なくなっていて……あ、これが買い取りしたドロップアイテムの売却金となりますぅ~」
手渡される大量のリルが入れられたら袋。
それを受け取ると【アイテムボックス】にしまい込む、そして『ウィンドウ』からキッチリと金額を確認した。
「ありがとうございます。
それにしても……かなり大きい商会なんてすね、働いている人数も多そうですし」
「そうですね~、私に【商人】のイロハを教えてくれた人の商会を引き継いだので、<グランドル>でもかなり大規模な商会ですぅ~」
「あ、そう言えばシアンさんも此処の出身だって言ってましたね」
見渡す店内。
武器や防具、回復アイテムから日常品まで品揃え豊富に並んだ商品棚。
そこには冒険者らしいティアンから<マスター>まで様々な人達が行き交ってはアイテムを買っては店を出る。
【商人】じゃない私が一目見ただけでも分かる。
きっと<愚者の石積み商会>は此処、<グランドル>でも1、2を争うほど規模の大きい商会だ。
そして同時に、一つの異色な光景が目に映った。
「――働いている子供が多いですね」
店内で働いているティアン達。
その殆どが砂漠で見た【商人】の大人ではなく、小さな子供たちだった。
――人族や黒狼族、ドワーフや小人族など。
その種族に区切りなく、全員が同じ制服を着て店員として働いていた。
「ええ、彼らは貧民街の孤児ですよ~。<愚者の石積み商会>は一部孤児院の運営なんかもしているので、働く子供たちの仕事を斡旋したりもしてるんですぅ~。
……同じ街の仲間が『奴隷』になって働くなんて見たく無いですしね」
孤児である子供達に仕事を与えると同時に経験を積ませ、一部のジョブによっては経験値を稼がせる。
結果、飢える子供達の数は減り、商会としての将来の働き手も確保できる。まるでインターンシップのような仕組みだ。
<愚者の石積み商会>はこうした活動で人々の信頼を勝ち取り、ここまで大規模な商会まで成長していったのだ。
(凄い……けど……)
シアンさんの全てを救おうとする姿勢と実行力に対する尊敬と。
そしてそれ程までに1日、また1日。明日を迎える事にさえ生死が掛かった現実の厳しさに、私はどんな顔をすればいいのがが分からなかった。
「……ヴィーレ?」
無意識に噛みしめていた唇が小さく切れて、僅かな鉄の味がした。
「――あ、そう言えばヴィーレさん! 約束覚えてますか~?」
少ししんみりとした雰囲気を切り替えようと元気な声を出すシアンさん。
私は突然の声に驚きながら、何の約束かを思い出せず首を捻る。
「<グランドル>までの護衛のお礼の件です。ヴィーレさんには何もお渡し出来てませんでしたからぁ~」
――思い出した。
「あ、別に報酬は結構ですよ。偶々行き先が同じだっただけですし」
「いえ~、それでもやっぱり商会長としてお礼をしておきたいんです。【大商人】として皆に『商人のイロハ』を教えている身としても、受け取ってもらわなければ示しがつかないので~』
……前から思ってたけどシアンさんも大概頑固な性格をしてる。
きっと、私がお礼の物を受け取るまで納得せず、この会話が何度も続くのだろう。
「面倒くせぇ。タダで貰えるんだ、そう言うのは礼言って貰っておけばいいんだぜ?」
「……だぜ?」
「……そんな事言われても――それにホオズキはもう受け取っちゃったから簡単に言えるんだよ」
『ギクリッ!』、と。
硬直するホオズキ。
「お、俺の事は関係ねぇだろ? これは年上としての助言だぜ。
それにお前、今はメイン武器が無くて全然戦えねぇんだろ? 【義賊王】との再戦もあるんだ、変わりの武器でもって見繕って貰えよ」
「……貰え、よ?」
その言葉に今度は私がギクリッと、する番だった。
――一理ある。
事実、さっきまでのレベル上げで【スフィンクス】相手に苦戦したばかりだ。
フェイの炎に頼らない物理攻撃手段……堅い甲殻を持つモンスターだろうと倒せるような武器が欲しい。
「……」
チラリッと横目に見るシアンさんの顔。
「分かりましたぁ~! ヴィーレさんに合った武器、何でもプレゼントします~」
そこにはとても嬉しそうな。いい笑顔で頷くシアンさんがいたのだった。
◇
「さっそくですけどヴィーレさん。何か武器について要望はありますかぁ~?」
大規模な――田舎のスーパーマーケット程の広さのある<愚者の石積み商会>の本店。
更に『日用品』や『武器』、『回復アイテム』など細かく分けられた区域をシアンさんに案内されながら、どんな武器がいいのか話しかけられる。
――どんな武器か?
そう聞かれるとやっぱり直ぐに頭を過ったのは、一つ。
「出来れば弓がいいです」
使い慣れた強弓。
私が今まで使っていたメインウェポンである【純穿蛇竜の強弓・ネイティブ】に近い方が良いに違いない。
「では、弓について何か細かい要望なんかはありませんかぁ~……とも言っても、実は弓の仕入れは少なくて種類もそれほど多くは無いんですが」
(……種類かぁ~)
細かい要望は思いつかないけど、出来れば強弓だったら嬉しいかもしれない。
「そうですね、出来れば騎乗用の強弓で。【ドラグワーム】にダメージを与えられるくらい貫通力がある弓が良いんですけど……」
「【ドラグワーム】にダメージですか……それは――かなり難しいかもしれませんねぇ~」
「あ? それはこの店には良い弓がねぇって事か?」
「……か?」
ホオズキの疑問にシアンさんは後ろを見ずに頷いた。
そして進めていた足を止め、目の前に広がる棚に指さすように振り返る。
ずらりと並んだ武器棚。
埋め尽くすように様々な種類の弓が並んではいたが……それは少し私の思ったものと違った武器だった。
――一際高価そうな、<墓標迷宮>から出土したアイテムらしい水の魔弓。
――幼いティアン用だろう、小さく、そして装備条件が無い【初心者の弓】。
――弓とは一味違う。歯車や滑車、引き金が付いたボウガン。
その種類は豊富だが、私の求めるような強弓は何処にも置かれてはいなかった。
「この通り弓の種類はそれなりにあるんですが、見ての通り強弓は仕入れては無いんですよ~」
「それは……やっぱり弓を使う人が少ないからですか?」
「うーん、どう言えばいいんですか分からないんですが~」
困ったように頬をかくシアンさん。
そして私をチラリッと一目見て、ゆっくりと説明し始めた。
「実は強弓自体あまり見かけない、と言うほどでも無いですが比較的珍しめな武器なんです~」
『何故だか分かりますか?』と視線で問いかけてくるシアンさん。
私は少し悩み、『造るのが難しいから?』と答えた。しかし首を横に振られる。
ホオズキは……始めから興味が無いのか、他の武器を興味深そうに眺めている。シュリちゃんもお酒に夢中らしい。
そんな様子に、シアンさんは答え合わせのように笑いながら口を開いた。
「理由は簡単で、使えないからです。ヴィーレさんは強弓を手に入れたとき、何か問題にぶつかりませんでしたか?」
【純穿蛇竜の強弓・ネイティブ】を手に入れた時にぶつかった問題……。
既に懐かしく感じる記憶の引き出しを開け、何があったかを思い出していく。
(【ハイ・スパイラル・ドラゴン】との戦い? じゃないよね。あれは強弓を手に入れる前だし)
頭を捻り、絞り出す。
……強弓専用の矢?
……騎乗状態での使いやすさだろうか?
それとも――
「――
「当たりです~」
ニヤリと、笑みを浮かべながらシアンさんは間延びした声で言った。
「装備制限自体はある程度強い武具だと付いているんですが、強弓の場合はその装備制限が『STRの値』に関係することが多いんです。
【弓手】は基本的にSTRはそれほど伸びません。スキルなんかで必要になるのはDEXやAGIですから~
だから仮に更に良い弓を――強弓を使おうとするなら他のジョブに就く必要があるんです。ですが<マスター>とは違って私達にはジョブやレベルの限界がありますから……」
なんとなく理由が分かってきた。
仮に強弓があっても使える人が極端に少ない。
……その結果、弓を作るジョブの人も売れない強弓を作る必要はなく、作らなくなってしまうのだ。
「ヴィーレさんの強弓――【純穿蛇竜の強弓・ネイティブ】ですが……あ、すいません。実は以前、少し目にして《鑑定眼》を使ってしまって~」
「――あ、全然大丈夫ですよ?」
「それは良かったですぅ~。……それで【純穿蛇竜の強弓・ネイティブ】ですが、あれは純竜級モンスターからのドロップアイテムですよね?」
シアンさんの質問に私は頷く。
「純竜級モンスターのドロップアイテムの強弓となると……おそらく、STR特化の下級職をとっても全然届きません。上級職に就かなければ使えない強弓。
それほどの弓となると流石に市場には出回らなくて~。それこそ<墓標迷宮>から出土でもしない限りは……」
確かにそうだ。
<マスター>が増え始めているこれからは出回るようにもなるかもしれないけど、今手に入れるのはかなり困難としか言いようがない。
シアンさんは申し訳なさそうな表情で私を見る。
「《自動装填機能》付きボウガンなどでしたらありますけど……これではヴィーレさんの要望にはあいませんし~」
射程も。
連射速度も。
威力も低い。
扱いやすさは強弓を遥かに上回るだろうけど、それでもあまり使う気にならなかった。
今更だけど、【純穿蛇竜の強弓・ネイティブ】はかなり貴重な武器だったのかもしれない。その大きさも威力も、射程も私にピッタリと合っていた。
「うん、でもあくまで予備武器だからこの中から選ぶことにします。この商店で無いのなら<グランドル>のどの商店に行っても買えないと思うので」
「そうですね……力に慣れず申し訳ないです~」
――またしても微妙な空気になってしまった。
私はなんとなく目についた気になった弓を手に取り、その武器についてシアンさんが詳しく説明してくれる。
手にとっては別の弓へ。
そしてまた別の弓へ。
手に握る度に何処か拭えない違和感を感じ、違う武器へと手を伸ばしてしまう。
(――やっぱり、【純穿蛇竜の強弓・ネイティブ】に慣れちゃってるからなのかな……?)
既に手に馴染み過ぎた強弓の感覚は身体が覚えてしまっていた。
シアンさんもそのことが分かっていたのか。
それとも【商人】としての意地か。
次々と取り換える弓を手短に、そして正確に説明していく。
その時だった。
「――――-ダー。でも、それなら新しい武器を買う必要は無いんじゃない? クランの経営の為にもお金は必要でしょ? たった一回のクエストの為に武器を新調なんて……」
「だから言っているだろう。
今回のクエストは高難易度の分、金になる。クエストを達成するためにも新しい装備は必要であり、達成できたなら新調しても十分黒字に………………なに?」
背後から聞こえてくる複数人の足音。
何処かのクランのリーダーと、その仲間の会話が聞こえてしまい思わず振り返ってしまう。
チラリッ、と。
振り返った私はリーダーの男と視線が合う。
――女性2人に男性4人の6人パーティー。
――何かの真似か、白を基調に揃えられた装備。
――全員の装備に刻印された『砂と牙』のエンブレム。
私は何処かで見た覚えのあるそのパーティーの面々とエンブレムに眉を顰め……
「……あっ」
「……何故お前が此処にいる――――【騎神】」
かつて【戦車競争】の決勝戦で戦った<砂塵旅団>の【天馬騎兵】の――リーダーの男は心底嫌そうに顔を歪めたのだった。
もう出すことは無いだろうと思っていたモブの皆さん。
まさかの(ノリで)再登場ですww