自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
□<グランドル・愚者の石積み商会> 【弓狩人】ヴィーレ・ラルテ
「なるほど……つまりメインウェポンが壊れた時に使える予備武器を探していたが、満足できるものが見つからず困っている。――と言うことか、【騎神】」
私の事を『ヴィーレ』とは呼ばず【騎神】と呼ぶ男。
男――白銀の重装備を身に着けた<砂塵旅団>のリーダーは、腕を組みながら嫌そうな声でそう私に確認した。
嫌そうな……と言うよりは
『超級職』である【騎神】。
そして【戦車競争】での一件で随分と嫌われてしまったらしい。
しかし、それでも互いに話すのは彼の後ろを塞ぐように並ぶ、他の<砂塵旅団>のメンバーが居るからに違いない。
私は後ろで見守るシアンさんを他所に、愛想笑いを浮かべながら男の言葉に頷いた。
「そうですけど……あの、別に用事があるなら相談に乗ってもらわなくても大丈夫ですよ……?」
これほど嫌われていると流石に気まずい。
と、言うよりも彼らに『予備武器を探している』と嘘を吐く罪悪感が、チクチクと胸に痛みを走らせる。
私は嘘が嫌いだし、嘘を吐きたくも無い。
――でも、流石に『【怒涛之迅雷】や武器を入れた【アイテムボックス】を盗まれて、急遽予備武器を探してます』……とは絶対に言う訳にはいかなかった。
正直に全てを話してしまったら。
それに彼らが怒ったら。
【戦車競争】のリベンジだと、突然戦闘になりデスペナルティになる可能性も『0%』では無いはずだ。
今以上に嫌われることの無いように、恐る恐る言葉にする。
……が。
「フンッ、それなら我々はここでお暇させてもらう。せいぜい悩み苦し――――「もうっ、だからリーダーはうじうじ昔の事を蒸し返し過ぎだって!!」――――むっ」
すぐさま踵を返し、商店を後にしようとする男を背後に居た【殲滅騎兵】の女性が必死に引き留めた。
それでも不満そうな顔を隠しもしない男に他のメンバーが困ったように。
どこか楽しむ様に口を開らく。
「そうだよ、せっかく【騎兵】系統の【騎神】、しかもまだ<マスター>でも数少ない『超級職』に会ったんだ。いがみ合わずに騎兵仲間として話しても良いんじゃないか?」
「あぁ、僕も【騎神】のジョブについてや<レジェンダリア>での話についても聞きたいしね」
口々に出る意見。
その度に男の顔の皺が深くなっているだろうことが後ろからでもなんとなく分かった。
「だが、こいつは我々の敵だ」
「それは【戦車競争】での話でしょ? 昨日の敵は今日の今日の友――ってね。気にしてるのはリーダーだけだよ」
名前は知らないけど……確かスタート同時に奇襲をてきた【砲撃騎兵】の人だ。
改めて自分の仲間が全員反対意見と気が付いたのだろう。
男とそのメンバー。そして私達の間に小さな静寂が訪れる。
そして――『フンッ』と。
荒い鼻息を吐くような口癖を吐きながら、再び私を睨む様に振り返った。
「それで【騎神】、我々に何が聞きたい」
(……あ、やっぱり名前では呼ばないんだ)
そんな事を考え、
(ううん、私も名前で呼んでないからお互い様か)
頭の中で納得する。
むしろ嫌いだから名前を呼ばない彼よりも、名前を知らない私の方が性格が悪い気がする。
……だけどこのタイミングで名前を聞いたらまずいよね?
どうしようか少し思案し――『後でフレンド登録をお願いしてみよ』っと中々の名案を思い付いた。
少しの間、考え込む私。
そんな様子を怪しむように、男は訝し気に眉を傾けた。
「何も言う気が無いのなら我々はもう行くぞ?」
「……あ、ううん。ごめんなさい、少し考え込んでいて――実は予備武器に強弓を探していたんですけど何処か手に入りそうな場所は知りませんか?」
どうせなら強弓に近い。
【純穿蛇竜の強弓・ネイティブ】の強さに近い、強力な弓が欲しい。
もし売っている場所を知っていたらシアンさんには申し訳ないが、ここでは購入せず日用品や回復アイテムをお礼として貰うことにしよう。
少しの申し訳なさ。
同時に少しの期待感を持ちながら<砂塵旅団>の返事を待つ。
そして……
「強弓か。――フム、見たことはあるな」
帰ってきた言葉は私にとって喜ばしいものだった。
「とは言ってもドラグノマドで見たぐらいだが。たしかあれは大規模なオークションでだったか? 天地産の剛弓とレジェンダリア産の強弓だったはずだ」
「そうだね、僕も見た気がするよ。むしろドラグノマドに無いアイテムの方が珍しい気もするけどね」
「……あ、確か<アルター王国>の<ギデオン>にもあった気がするわよ?」
しかし、どれも<グランドル>での事ではなく遠い都市でのものばかり。
少し期待していた分、ガクリッと肩を落としてしまった。
きっと、<グランドル>では売っている商店は無いだろう。
その事に影が差すように心が陰った。
「もし強弓に拘るならドラグノマドまで貴様の騎獣を走らせるか、<厳冬山脈>の『神造ダンジョン』に潜ることだな。あそになら高レベルのモンスターも山程いるから目当ての武器も手に入る。
――もちろん<UBM>もうじゃうじゃ居るがな」
「……『神造ダンジョン』ですか? 私も少し興味がありますけど」
「あそこは止めた方が良いですよ~。『神造ダンジョン』自体は山の麓にありますが、そこに行くまででも命が幾つあっても足りませんからぁ~」
男の意見に反対したのは他でも無いシアンさんだった。
その表情はいつもの優しい顔だが目が据わり、どことなく雰囲気からも真剣さを感じる。
――この世界で生きるティアン。
そこにはティアンである彼らからだからこそ言うことが出来る言葉に対する重みがあった。
きっと私が挑んでも辿り着くことすら出来ない。
シアンさんは私が『超級職』であることを知っている――その上での忠告なのだ。
(そう言えば……『掲示板』でも<厳冬山脈>の『神造ダンジョン』に挑んだって人は見てないかも……)
それほどの強さ。
無策に挑めば無駄にアレウス達を殺してしまうことになるかもしれない。
それだけは絶対に嫌だった。
「そうですね……『神造ダンジョン』に潜るのは止めておきます。<グランドル>にそれほど長く滞在する予定も無かったので」
「えぇ、それが良いですよ~」
だけど話は振り出しに戻ってしまった。
やはり強弓は諦めて、使えそうな武器を探すしかないのだろうか?
――そんな風に思い始めた時だった。
「――【騎神】、そもそも気になっていたが何故貴様は弓を使っている?」
眉を顰め、睨みつけるように見る此方をリーダーの男。
私はその意味を理解できずに首を傾げる。
そんな様子にまた苛つくように声を少し荒げて言う。
「【騎神】は察するに騎獣のステータスを莫大に引き上げるジョブ……と我々は見ているがそれは間違ってはいないだろう。
それならそのステータスを生かす……近接攻撃の武器が最適解のはず。
そんな当たり前の事に【騎神】である貴様が気付かない訳が無いはずだ」
「――あぁ、うん」
言おうとしていることを理解し、納得する。
そしてもちろん近接攻撃の武器が一番適していることも知っている。
事実、師匠の武器は『突撃槍』。
戦闘スタイルも人馬族として十倍化された自身のステータスを生かした、あらゆるものを置き去りにし、躱し、そして突破する。
――所謂、『突撃騎兵』のようなスタイルだった。
逆に私の戦闘スタイルは
高いポテンシャルを発揮できるアレウスや遠距離攻撃が出来るフェイ達が居るのに、強弓での遠距離攻撃。
当たり前だが、そこには風圧や騎獣とのスピードの感覚差も生じている。
――歪な戦闘スタイルを、持ち前の弓と騎乗技術でカバーする。
それが私の現在の戦闘スタイルだった。
「確かに弓は合っているとは思ってませんけど……でも、皆さんも遠距離攻撃が中心の方もいるじゃないですか」
銃を使う【砲撃騎兵】。
魔法を使う【魔導騎兵】。
私が知っているだけでも二人だ。
「フンッ、違うな。
我々は基本的にパーティーで行動するから遠距離攻撃できる仲間がいるだけだ。そもそも貴様とは違って【騎神】ではないからな。遠距離攻撃でもそれほど差が出るわけではない。
だが、貴様は違うだろ――【騎神】」
合理的な考えである。
私は少し思案し……彼らに正直な理由を言うことを決意した。
彼らなら別に言いふらすような真似はしないだろう。
親切に相談に乗ってくれている彼らを見ると、そんな風に思うことが出来た。
「……実は――リアルで運動神経が壊滅的に悪いんです。弓以外、まともに使うことが出来ないぐらい。剣道も薙刀も何でか上手くいかなくって。
それに私が【騎兵】になった頃はまだフェイも居なくて、アレウスだけでしたから」
あの頃は<エンブリオ>も孵化しておらず、まともな攻撃手段が全くなかった。
それこそアレウスの体当たりと踏みつけ。
そして私の弓での攻撃。
【騎兵】だったころの戦闘スタイルを【騎神】になってからも変えることはせず、そこにフェイの炎が加わった形である。
これが私の行きついた戦闘スタイル――現在の私だった。
そして、男は私の言葉を聞き……
「――フンッ、それは違うな」
……鼻笑いと共に一蹴された。
「そもそも貴様は根本的に勘違いしている。
――『
今度こそ意味が分からない。
私は男の言いたい意味が理解できず、大人しく黙って男の言葉の続きを待った。
「現実で銃を撃ったことが無い<マスター>でもこの世界では【銃士】に就き、熟練の腕前のように撃つことが出来る。剣など使ったことが無い<マスター>でも【剣士】に就き、戦うことが出来る。
かく言う俺も現実では朝の通勤で車に乗るぐらいで、空飛ぶ馬になど乗ったことなどあるわけが無い。
ここまで言えば貴様も分かるはずだ」
……なんとなく言いたいことは分かってきた。
つまり、彼はこう言いたいのだ。
「――
「……フンッ、あくまで我々の推測だがな。
もちろん無関係なわけではないだろう。リアルで出来ることはジョブに就かずに再現することも可能……加えて、貴様の【騎神】のように才能が無ければ就けないジョブもあるからな」
同時に思い出したのは<Infinite Dendrogram>の謳い文句。
『誰にとってものオンリーワン、そして無限の可能性を提供するゲームである』――と。
私はそれを<エンブリオ>やジョブの事だと思っていた。
だけど――もしかしたら。
それはこの身体に秘められたポテンシャル、才能の事も指していたのかもしれない。
「そう言えば、<ドワイフ皇国>の【操縦士】の《操縦》スキルは持っているだけで感覚的に機械について理解できると小耳に聞いたことがありますね~」
私の予感をシアンさんの言葉が確信に変える。
<Infinite Dendrogram>におけるジョブ。
そのジョブのスキルには大なり小なり、『センススキル』とも言えるだろう感覚に作用するスキルが存在するのだ。
――暗闇に差し込んだ一筋の光。
今までの私なら想像もしなかった考えが頭の中で思い浮かび。
そして現実味を帯びていく。
――フェイに《騎乗》した空中戦。
――通じない《紅炎の炎舞》。
――圧倒的に欠けている物理攻撃手段。
「……うん」
思わず嬉しくなり、閉じていた薄い唇は微かに弧を描いていた。
頬も緩み、微笑を浮かべる。
「あの、偶々会っただけなのにこんなに相談に乗って貰ってありがとうございます。
……でも、もう大丈夫です」
本当に、凄く助かった。
純粋に私だけではここまで思いつくことも、決断することも出来なかっただろう。
私は目の前で相変わらず腕を組み、不満そうな顔をする男に勢いよく頭を下げた。
――数秒。
互いの間に沈黙が流れ、そして。
「――フンッ!」
変わらぬ荒い鼻息を聞き顔を上げた。
男の方向を向くが――目は合わない。
男が既に身体を翻し、私に背中を向けていたからだ。
「我々も暇ではない。これから大切なクエストもあるのでな、これでお暇させてもらうぞ」
初めに聞きかけた言葉。
しかしその声には最初程の刺々しさや嫌悪感はない。
歩き出した男を止める者も居ない――<砂塵旅団>のメンバーは道を開け、ニヤニヤと自分たちのリーダーを見守っているだけだった。
『カツカツ』っと。
岩石の張られた床を歩く音を響かせ、店の奥へと消えていく男と<砂塵旅団>のメンバー。
私はその後ろ姿を見送り……そしてシアンさんへと振り返った。
「あの、実はもう一つ見てみたい武器があるんですけど――」
「えぇ、もちろん大丈夫ですよぉ~。どんな武器をご覧になりますかぁ~?」
これまで待たせてしまっていたシアンさんは、何も気にしないと言うような雰囲気で笑顔を見せる。
乾燥する唇。
暑さに関わらずに生温い空気を吸い込み、口を開き。
私は……
「――槍。騎乗していても使えるような、硬くて鋭い。亜竜級モンスターの甲殻も貫ける。
そんな『長槍』ってありますか?」
……理想を現実にするための一言を言い放った。
そしてシアンさんは変わらない笑みを、よりいっそう深くしてゆっくりと頷き言う。
「ありますよぉ~。ヴィーレさんにピッタリな、とっておきの
カンスト寸前の【弓狩人】。
私の中で次のジョブを【
――余談~
この後、再び<砂塵旅団>と出くわし無事フレンド登録に成功!!
ヴィーレの友達が五増えた!!