自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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“要注意!!”
今話は超鬱展開です。食事前、何かをする前に読んで気分が悪くなった。
みたいなことになっても文句は無しです、感想で来たらブチギレます。

個人的には文章力的にそれほどではないとは思いますが、ゲームなのに生々しいのは無理な人はブラバ推奨です。


第12話 悲劇の爪痕

 □<愚者の石積み商会> 【弓狩人】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 私はステップするような足取りで歩いていた。

 

 

 ――久しぶり……と言う訳でもないが、まるでテストが終わった夜のような。

 ――家での習い事が一区切りつき、重圧から解放されたかのような。

 そんなちょっとした嬉しい、心弾むような気分で歩いていた。

 

 

 「~~♪」

 

 

 浮かれた気分。

 自然と無意識のうちに好きな歌の鼻歌を口ずさむ。

 何故、これほど気分がいいのかは明白だ。

 新たにシアンさんからお礼という形で貰った予備武器。そしてつい数時間前に明らかになった私の弱点を克服することが出来そうな考えが現実的になったからだ。

 

 そしてもちろん充実したのは、私の心だけではない、

 買い込んだアイテムや日用品、数が少なくなり始めていた回復ポーションなども十分すぎるほどに補充する事ができていた。

 軽い足取りで歩く店内、すると視線の先の角からホオズキとシュリちゃんが姿を現す。

 

 

 「よぉ、随分と機嫌が良いじゃねぇか。……その様子を見るにいい武器が見つかったみたいだな」

 「……だな?」

 

 

 何かで時間を潰していたのだろう。

 暇そうな――ぼんやりとした声に、私は満面の笑みを浮かべながら頷いた。

 

 

 「うんっ、まあね。シアンさんと、あと<砂塵旅団>の皆のおかげだよ」

 「<砂塵旅団>……? まぁいい、これでお前も【義賊王】と戦えるな」

 「……な?」

 

 

 満足そうな顔をするホオズキとムスッとしたシュリちゃん。

 すっかりいつも通りの調子に戻った二人。

 

 

 「うん、出来れば武器ならしとレベル上げの時間が少し欲しいけどね?」

 

 

 そんな、いきなり【義賊王】を探して倒そうとでも言い出しそうなホオズキ達に一応念押した。

 

 ――初めて扱う『長槍』。

 

 しかもまだ私は【弓狩人】である。

 あと数レベルでカンストなので頑張ってレベルを上げ切るか。

 もしくはこの後、近くの『冒険者ギルド』に立ち寄って『クリスタル』で【槍騎兵】に転職しなければならない。

 私にとっての6つ目のジョブ――そして4つ目の『下級職』だ。

 慣れ親しんだ【騎兵】系統の職業。

 上手くすれば、行動や条件をクリアしなければ習得できないジョブスキルも簡単に習得することが出来るだろう。

 

 

 (問題は――どうやって槍の扱いを身につけるかだけど)

 

 

 《騎乗》に関しては私にとっては十八番だ。

 だけど槍術。加えて、馬上槍となるとどう扱えばいいのか全く分からない。

 きっとアレウスやフェイそしてアロン達に合わせた槍の使い方も完全に身につけるとなれば、かなり時間が掛かってしまうはずだ。

 【義賊王】との再戦には……中途半端な状態での戦闘になるのは避けられない。

 

 

 「……せめて師匠が居てくれれば――。一から教えてもらえたんだけど」

 

 

 懐かしむ様に。

 なんとなくそう呟いた。

 

 

 「お前の師匠ってやつがどんな奴かは知らねぇが、死んじまった奴のことを言ってもしょうがねぇだろ」

 

 

 すると私の前を歩くホオズキから聞こえてくる声。

 その言葉に私は口を曲げる。

 

 

 「……ホオズキって本当にデレカシーが無いよね」

 「……ホオズキだから、しょうがない、よ。……ヴィーレ?」

 

 

 ホオズキの真後ろで。

 ホオズキの<エンブリオ>であるシュリちゃんと、ホオズキに聞こえる声で陰口をたたく。

 すると多少は聞いたのだろうか?

 ――『チッ』っと。

 小さな舌打ちと共に歩く速さが少し速くなった。

 そして、

 

 

 「馬鹿な事してねぇでさっさと行くぜ。この商会はかなり大きいんだろ?

  もしかしたら【義賊王】について知っている奴が何人かは居るかもしれねぇ」

 

 

 どうやら聞き取り調査をするらしい。

 その言葉に私は驚きを隠せず、目を見開き――思わずシュリちゃんと顔を見合わせた。 

 そして笑みを浮かべる。

 

 

 「ホオズキって敵に突っ込むだけじゃなかったんだね」

 「……驚愕」

 

 

 私達の言葉。

 その声がホオズキへと聞こえ、

 

 

 「長げぇよ!! いつまでその子芝居やってんだ!!」

 

 

 怒ったように更に速足になるホオズキ。

 その背中をシュリちゃんと笑いながら、小走りするように追いかけたのだった。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 「――【義賊王】について知っていることを教えて欲しい……ですか~?」

 

 

 既に窓の外には夕暮れの茜色に染まる建物。

 あれほど暑かった陽光もなりをおさめ、空気は少しだけうすら寒くなり始めていた。

 

 ――肌を撫でる冷えた空気。

 

 寒さに耐性が無い私は、思わず手で身体を摩る。

 しかしそんな私の視線の先には店仕舞いの為、棚に並んだ商品を片付けたり、会計を計算に忙しくそうに動き回るティアン達の姿があった。

 そんな中、私達は先に商店のロビーへと戻り、働く部下たちの様子を見守っていたシアンさんに話しかけていた。

 

 

 「あぁ、この商会はかなり規模が大きいんだろ? それにあんたもこの街で産まれたなら、ここについて詳しいはずだぜ。

  少しくらいは【義賊王】について知っているんじゃねぇか?」

 

 

 ただでさえ、二メテルもの大男であるホオズキ。

 それに加えて、ぶっきらぼうな話し方と低めの声が混じり合わさり、まるで脅しているような光景に見える。

 ――子供なら十中八九、確実に泣く。

 ――大人でもリアルなら声が震えてしまうだろう。

 しかし、相手は既にホオズキの事を知っているシアンさん。

 加えて、見た目よりも遥かに長い人生を生き、モンスターや災害が跋扈するこの世界で【大商人】として生き抜いてきた強者である。

 

 

 「そうですねぇ~」

 

 

 っと、クルクルと癖のある焦げ茶色の髪を弄り、苦笑する。

 そして、

 

 

 「申し訳ないですが、それは出来ないです~」

 「あ? 何でだ」

 

 

 一言。

 【義賊王】に対する質問は、ばっさりと躊躇いなく断られた。

 

 

 「そもそも何故ホオズキさん達は【義賊王】の事を調べようとしているのです~? 確か、アイテムの補給のために立ち寄っただけで数日で<黄河帝国>に向け出発すると聞いてましたが……」

 「予定が変わってな。少し【義賊王】の奴に用ができたんだ」

 「……たんだ?」

 

 

 シアンさんの言葉や仕草。

 少し小さくなり、低くなった声。

 それはまるで『何かを隠している』、もしくは『【義賊王】についての質問を避けさせようとしている』かのようだった。

 きっとシアンさんは(・・・・・)【義賊王】の正(・・・・・・・)体を知っている(・・・・・・・)

 分かっている上でそれを隠そうとしているんだ。

 

 (当たり前と言えば……当たり前なのかも)

 

 シアンさんは『ハーフエルフ』。

 この<グランドル>で産まれ、数十年もの間【大商人】として働いているティアンだ。

 逆に言えば、知らないわけが無い。

 ホオズキもその事に気が付いているのか、問い詰めるようにシアンさんをジッと見る。

 

 

 「そう……ですか。私は何があったかは知りません。

  ですが――私としては<グランドル>の厄介ごとに首を突っ込まないで、無事にこの街を出発してほしかったのですがぁ~」

 「色々とごめんなさい、でも。

 

 

 

  ――やっぱり見て見ぬ振りは出来ないので」

 

 

 シアンさんの親切心。

 それを私は知ったうえで断った。

 知らなかったら私は既にこの街を旅立っていたかもしれない。だけど、知ってしまったからには無視する事は出来なかった。

 

 (――私が知らなくてもホオズキが気付いて、行動を起こしただろうけど)

 

 シアンさんに告げる私の言葉。

 その時だった。

 

 

 「……」

 「……」

 

 

 不意に視線が交差する。

 『本気ですか?』と、試すような。品定めするような鋭い視線。

 私はそのシアンさんの青い瞳を真正面から見つめ返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――沈黙。

 

 

 私達の間を静寂が落ちる。

 そして……

 

 

 「……はぁ~、分かりました。

  ――私がお話しできることはお話ししましょう、ですが」

 

 

 小さなため息と言葉と共に、シアンさんはチラリッと。

 商店内を見渡した。

 私とホオズキもそれに釣られるように辺りを見渡す。

 

 

 ――商店中から私達を突き刺す冷たい視線。

 

 

 いつの間にか此方をジッと見つめている、商店で働く貧民街のティアンの視線に気が付いた。

 『ゾワリッ』っと、寒気が走る背筋。

 恐怖を煽るような視線に私は思わず身動ぎ、私の服の裾を『ギュッ』っとシュリちゃんがひっそり握った。

 

 

 「――少し場所を変えましょうか~」

 

 

 シアンさんはそう言いながら、外へと続く扉を開いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そよ風が吹き、通りに並ぶ、魔灯の明るい光の中に紅の髪が舞った。

 乱れた髪を手で押さえ、歩く。

 障害物が無く吹きさらしの裏路地。

 そんな中をホオズキとシアンさんが壁になるように歩いてくれる。

 

 (何処まで行くんだろう?)

 

 既に周りに人影は無い。

 貧民街の迷路のような道に入り、昇って、降りて、少し広めな道に抜ける。

 別に方向音痴と言うわけでも、逆に覚えが良いわけでもないけど既に来た道は分からない程入り組んでいた。

 『くしゅんっ』っと。

 シュリちゃんが小さくクシャミして、【アイテムボックス】からレズに作って貰った上着を羽織った。

 そんな様子を見て、【アイテムボックス】に入っているのがお酒だけじゃなくて安心する。

 

 

 「それで、何を教えてくれるんだ? つーよりも何処へ向かっているんだ?」

 

 

 暇なのが耐えられないと言うようにホオズキが口を開く。

 

 

 「向かっているのはこの街の『焼却所』ですよ。

  そして私が話せることは……【義賊王】の誕生の話、ですかね~」

 

 

 【義賊王】の誕生の話。

 それはきっと【義賊王】が産まれた話、ではない。【義賊王】が【義賊王】と呼ばれるようになった時の話だろう。

 私はその事に少し驚きながらも何かあるのだろうと、黙ってシアンさんの話を待った。

 

 

 「そうですね~、それが起きたのは今より……二十年ほど前の事だったと思います」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 ――少年は、貧民街で毎日を辛うじて生きつなげる孤児だった。

 

 

 

 

 

 その当時は貧民街も今ほど恵まれた場所ではない。

 

 ――ボロボロの掘っ立て小屋のような家。

 ――ゴミが捨てられ、旋風の吹きこむ路地裏。

 ――道端に倒れ込む老人やお腹を空かせてなく子供。

 

 少年は毎朝、焼却炉へと運ばれる仲間を見て起きていた。

 日も昇らない朝早くに目覚め、街外に存在するオアシスから【氷】を街へと運ぶ。

 暑さに対し、氷は冷たい。

 一日中触れる氷と氷水に手はふやけ、萎んで直ぐにボロボロとなる。

 周りに巻き込まれるように就いていた【盗賊】のステータスも全く伸びず、盗賊行為に手を染めていなかった少年はレベルも全く上がらなかった。

 

 

 しかし、そんな少年には大切な人(・・・・)が居た。

 

 

 『――ただいま、■■■■■■』

 『……おかえり、■■■お兄ちゃん』

 

 

 ――血の繋がりが無い『妹』がいた。

 

 妹は病気(・・)だった。

 何時切ったか忘れてしまったほど伸ばしている淡い翠玉色の髪。そして、兄に少し似た(・・・・・・)深緑色の瞳をしていた。

 

 

 『足は――大丈夫か?』

 

 

 少年の視線の先には小さな、そして【石化・継続】状態の小さな脚。

 太ももまで【石化】し、一日。また一日とほんの少しづつ石化が進行し、広がっていく。

 病毒系とも呪怨系とも分からない病気。

 決して治らないわけでもないが、治らなければいつかは確実に死ぬ。

 そんな寝たきりの妹の為、少年は毎日生き抜くだけでも困難な貧民街でボロボロになりながら働いていた。

 

 

 『お兄ちゃん、私は――『大丈夫、きっと間に合う。僕が働いて【快癒万能霊薬(エリクシル)】を買って来るから』――うん』

 

 

 必死に働いて、人生と言う長い時間を全て費やし、ようやく買うことが出来るかと言うほどの法外な値段の【快癒万能霊薬】。

 しかし少年はいつかは必ず買うことが出来る。

 そんな確信と。

 そして希望をだけを生きがいに必死に働いていた。

 

 

 この後、少年は数年間。毎日が周りの死に溢れた生活の中、ひたすら働いて生活する事となる。

 

 

 

 

 

 ――そして、転機が訪れる(・・・・・・)

 

 

 とある街の有力者の目にその姿が止まったのだ。

 少年は本当に、本当に運が良かった。

 

 ――妹が何かしらの別の病気に掛かってしまったら。

 ――街に人間目当ての<UBM>が紛れ込んだら。

 ――何かしらの影響で街を寒波が襲ったら。

 

 ほんの些細なことで少年の心の支えは圧し折れ、その身体は物言わぬ骸になっていただろう。

 だけど奇跡は実在する。

 この世には神が存在する。

 結果、少年は生き延び、有力者の元で『弟子』として働くようになっていた。

 大出世も大出世。

 文字通り、彼の生活は一変した。

 

 

 

 

 

 有力者の手足となり大陸中を渡り歩き、時には【盗賊】としてモンスターと戦い、貪るように知識を身に着ける。

 

 

 少年はいつしか街の誰からも認められるような青年へと成長していた。

 そして悲劇は唐突に。

 少年が遂に【快癒万能霊薬】を買い、<グランドル>へと帰還した時に終わっていた(・・・・・・)

 

 

 『――ただいま、■■■■■■! やっと【快癒万能霊薬】を手に入れることが出来たんだ! これで…………■■■■■■?』

 

 

 帰ってきたボロボロの家。

 そこで待っているはずの妹は、聞こえてくるはずの『おかえり』の声は聞こえてはこなかった。

 歩けるはずの無い、血の繋がりの無い妹はその姿を消していた。

 そしてようやく気が付く。

 

 

 

 

 

 ――妹だけではない(・・・・・・・)、と。

 

 

 

 

  

 子供や老人まで、たくさんの人が暮らす貧民街。

 しかしその日、彼は貧民街で誰一人として見かけた事が無かったのだ。

 

 

 『――奴隷狩り』

 

 

 それはただの無力な一般人を攫い、『奴隷』として売り飛ばす【奴隷商(スレイプ・ディーラー)】の人間狩りである。

 もちろん自主的に『奴隷』となり、身を売ることで働き、生活を立てることも珍しくは無い。

 それは【契約書】で行うことが出来る、所謂合法の奴隷だ。

 しかし……これは違う。

 

 ――禁止された『一般人を攫い、奴隷として売る』という行為。

 

 もちろん西洋三カ国はもちろん、<カルディナ>でも禁止されている行為である。

 しかし<カルディナ>に限り、こう付け加えられる。

 

 ――『金が関わらなければ』っと。

 

 無力な一般人が大勢住む貧民街。

 仮に攫われたとしても毎日人が死ぬような場所だ、誰かが消えても誰も気が付くはずも無い。

 何より<グランドル>の人々は。

 貧民街ではなく店を持ち、毎日食事をとり、そして綺麗な手をしているような一般人は彼らが居なくなったことを衛兵にも訴えない。むしろ――『ゴミが消えて綺麗になった』と、笑って黙認するだろう。

 いくつかの要因が重なり、結果こうして起こってしまったのだ。

 『街単位での奴隷(・・・・・・・)狩り(・・)』と言う悲劇が。

 

 

 『――ッ!! ■■■■■■!!』

 

 

 少年は我に返り、走り出す。

 手に持った【快癒万能霊薬】が割れ、中身を地面へと撒き散らし、そのガラスの破片を深く握り込んで血が出ている事にも気が付かない。

 心臓を潰されるような。 

 今にも心が折れそうな不安感に襲われながら街中を。<カルディナ>中を探し回った。

 

 

 簡単な問題だ。足が【石化】し歩けない妹、彼女の未来に待つ結末は何か?

 

 

 『――あ、アァーーーーーーー』

 

 

 雨の降る<グランドル>の『焼却所』。

 数日後、妹はそこに居た。

 

 ――【石化】した脚を無残にも砕かれ。

 ――着ていた数枚の服は破り捨てられ、紫色に腫れた肌を晒した、凌辱された後の骸と化して。

 

 

 『――~~~~~ッ!!!!』

 

 

 声にならない慟哭が、雨の降る街に響く。

 爪先から血を流し、目を見開き、内臓がとび出る程に叫んだ。

 雨にうたれ、すっかり冷え切った妹を抱きしめ、涙を流した。

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『――誰だ』

 

 

 『悲しみ』は『憎悪』へと変化した。

 

 ――殺し尽くさなければ、妹を攫った【奴隷商】を。

 ――八つ裂きにしなければ、妹を弄んだ犯人を。

 

 少年の声は雨音の木霊する<グランドル>へと掻き消え、

 

 

 『――市長さ。お前さんの抱きかかえる娘を運んできた男が市長の従者だったからのぉ』

 

 

 答えは返ってきた。

 少年は声のする方向へと振り返った。

 そこに座り込んでいたのは、少年が貧民街で働いていた時から良く知る人物、この『焼却所』で【墓守】をしている老人だった。

 

 そして少年は知っている。

 【墓守】の老人は今まで一度も嘘を吐いたことが無いことを。

 

 少年の《真偽判定》は証明する。

 【墓守】の言葉が真実であることを。

 

 そして――

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 「――【義賊王】が誕生した、と私は聞きました~」

 

 

 シアンさんの話は終わると同時に、歩いていた足も止まった。

 目的地に着いたのだろう。

 私は商店に居た時とは一転、奈落の底のような悲しい気持ちになりながら顔をあげる。

 その視線の先に映ったのは真っ赤な炎。

 

 ――ゴォゴォと音を立て、燃やす『焼却所』。

 ――その傍らに建てられた小さな石の石碑。

 

 すっかり空を覆いつくした夜の闇だが、月明かりと炎に照らされ、石碑に何かが刻み込まれていることだけは分かった。

 

 

 「……ホオズキ。……気が付いて(・・・・・)()?」

 「気のせいかと思ったが、シュリが言うならそうなんだろ(・・・・・・)

 

 

 私の隣で、ホオズキとシュリちゃんが小声で話す。

 そんな中、私はジッと。

 炎に照らされ、赤い影を作った石碑を見つめていた。

 

 

 「私は……一人の貧民街の人間として【義賊王】の正体は言えません。ですからこれが私がお教え出来る精一杯ですぅ~。

  もし、ヴィーレさん達が【義賊王】を止めると言うのなら、これが少しはヒントになると思います~」

 

 

 シアンさんは目を伏せ、黙禱しながらそう言った。

 そして続けている。

 

 

 「あくまで<グランドル>における非劇は先程話した一回だけです。その言葉をよく理解して、それ相応の覚悟で動くことをお勧めしますよ。

  もし、その覚悟が無いのなら……」

 

 

 シアンさんは顔を上げ、何かを見透かすように私の目を見据えた。

 向かい合う、青い瞳の中で燃える炎。

 赤い劫火は青と混じって紫紺に揺らぐ。

 そんな瞳を通して私は、鏡のように反射する私自身の揺らいだ瞳を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 




多分、今章で一番鬱な話。
だけど何故だろう……深夜テンションも相合わさり、書ききった心地よい爽快感がぁー↑
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