自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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なんか、長くなった。
あとグダりましたww


第13話 追跡! 人造地下迷宮

 □“氷冷都市”<グランドル> 【槍騎兵(スピア・ライダー)】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 ――粉雪が上空に舞い散り、東の地平線が薄っすらと明らむ。

 

 

 

 

 

 <カルディナ>の夜の冷え切った空気が朝日に照らされ、宙に降りた霜がゆっくりと溶かされ消えていく。

 それでも少し寒いけど……夜の寒さよりはましだ。

 『ハァー』っと、白い息を吐きながら、胸に抱きしめるフェイの炎の羽毛。

 時刻は朝の6時。

 ――リアルでの午後4時頃である。

 

 『ピトリッ』っと、地面に着いた手に朝露が触れ、その冷たさに指をずらした。

 きっと宙に降りていた霜が溶かされ、朝露になったのだろう。そしてこれから容赦なく降り注ぐ陽光に温められ、蒸気になって空に。

 夜には冷やされ霜に――と、ずっと同じ循環を繰り返していくのだ。

 私はそんな朝早くの“氷冷都市”<グランドル>の。

 貧民街の大通りに面した屋根の上で座り込みながら、大通りを忙しなく行きかう【商人】達の様子を見下ろしていた。

 

 

 「何て言うか――うん、暇だね」

 

 

 大通りからは少し見えずらい位置。

 したから見上げでもしなければ気が付かないような場所で、私は少し気だるげに呟いた。

 

 

 「……仕方ねぇだろ。お前の【アイテムボックス】を盗んだ――【盗賊】のビーオだったか? そいつがいつ動き出すか分かんねぇんだからよぉ。

  そもそもお前が朝から見張ろうって言い出したんだぞ?」

 「……だぞぉ」

 

 

 突然、横から飛んでくる突っ込み。

 その指摘に何も言えずに、ただひっそりと冷や汗を流す。

 

 

 「それはそうなんだけどね……」

 

 

 そう、私達が朝から屋根の上で大通りを見張る理由。

 それは一日おきに盗賊行為を行う貧民街の盗賊グループ――そのリーダーであるビーオを捕まえるためだった。

 基本的にティアン専門である盗賊グループ。

 しかし<マスター>から盗んでしまった彼らは、今までにない程警戒していることだろう。

 もしかしたら暫くは何もせずに潜んでいるかもしれない。

 だけど……

 

 (……ジョニーが言うには、ビーオ達は盗みで毎日を生き抜いているって聞いた。それに盗品は直ぐにはお金に変えられない。

  5人グループなら食料もお金も5人分必要なはず。

  ――私の【アイテムボックス】にも食料は入ってなかったし、きっと近いうちに動くよね?)

 

 だけど、問題なのはいつ来るかは分からない事だ。

 結果、【商人】達が起きて仕事を行う早朝から、このような場所に居ることになったのである。

 しかし、ただただ時間だけが無意味に過ぎていき、既に一時間が経過しようとしていた。

 私も流石に我慢の限界。

 これ以上、何もせずに待つだけと言うのは耐えられそうになかった。

 

 

 「――アレウス達に朝ご飯でも上げてようかな?」

 『Kweee~?』

 

 

 腕の中で縮小化して丸くなっていたフェイ。

 だけど私の『朝ご飯』の言葉に反応したのか、ムクりと眠たげな顔を上げた。

 

 

 「ホオズキ、少しの間見張りを代わってって欲しいんだけど――」

 「おう、別にいいぜ。だけど早めに戻って来いよ? 奴が来たら俺一人でとっ捕まえちまうぜ」

 「……ン、お酒飲んで待ってる」

 

 

 【鬼斬大刃】を紙で拭き取って綺麗にしながら、ブラブラと私を追い払うように手を払うホオズキ。

 そして【アイテムボックス】から酒樽を取り出し、嬉しそうに頬を染めて、朝酒に走るシュリちゃん。

 ――相変わらず変わらない。

 どんな時でもマイペースな二人の様子に私は苦笑しながら頷いた。

 

 

 「うん、でも何かあったら【テレパシーカフス】で連絡してね?」

 

 

 返事は無い。

 だけどこれはいつもの事。

 ホオズキとシュリちゃんは分かっていることに対してはあまり返事をしなかったり、二人きりの時は心の中で会話――? しているらしい。

 特に蒼い髪以外似ているところが無い二人。

 だけど、こういう様子を見ると、やっぱり<マスター>と<エンブリオ>なんだと少しだけほっこりしてしまうのは私の秘密だ。

 並んで座り込むホオズキとシュリちゃん。

 二人の背中を少し眺め――

 

 

 「――よしっ! 私達もいこっか?」

 『KWe、KWeeee~!!』

 

 

 私はフェイを抱えて貧民街の奥。

 アレウスを出しても問題なさそうな場所を目指して歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 「――《喚起》―アレウス、ベグ」

 

 

 何重にもなった貧民街の屋根の上。

 <グランドル>の大門から街を分断するように伸びる大通りから離れた、分厚い要塞壁に近い場所の……そんな少し開けた屋根の上で私は【ジュエル】から皆を《喚起》した。

 

 ――軽く叩くと鈍い音が鳴る硬い屋根。

 ――テニスコート程度の広さがある一続きの一枚岩。

 

 アレウス達を呼び出して、屋根を突き破る心配も無い。

 みんな(騎獣)の朝食と世話をするのに十分な環境だ。

 私は右手の【ジュエル】から形取られるアレウス達をジッと待ち、そして……

 

 

 『BURUUUUuuu~』

 「アハハ、くすぐったいよ。アレウス」

 

 

 呼び出すと同時に、私の首筋に鼻先を摺り寄せてくる巨大な黒馬。

 首筋に当たるくすぐったい感触に笑みを浮かべながら、その鉄のように硬い毛並みと筋骨隆々の身体を持つ、アレウスの頭をゴシゴシと撫でた。

 体長が3メテルを超え、体重は……おそらく1tを超えるだろう半神軍馬。

 昔は気軽に背伸びするだけで撫でることが出来た頭を、ここぞとばかりに撫でまくる。

 

 ――【グランド・デミ・スレイプニル】に進化してから生えた2本の刃角。

 

 何でも切り裂き、貫いてしまいそうな力強さを思わせる刃角へと手を添え、抱き着いていた首を放しながら目を合わせる。

 交差する紅玉色の双眼。

 そして、少しだけ不満そうな意志を帯びた色を見て、再び笑った。

 

 

 「フフッ、不満そうな顔してるけど毎日会ってるでしょ?」

 『BURu、BRURURUUuuuu』

 「――でも一緒に戦えてない? って、う~ん。<カルディナ>は殆どが砂漠だからね。アレウスはきっと足が砂に取られちゃうからしょうがないよ」

 

 

 例え、《悪路走行》を身に着けていたとしても<カルディナ>の砂漠では荷が重い。

 レベルが低い《悪路走行》だけでは、すぐに体力が尽きてしまうだろう。

 

 ――それでも拗ねている様子のアレウス。

 

 私はそんな姿を見ながら慰める。

 

 

 「大丈夫だよ。もし砂漠じゃない場所での戦闘になったらアレウスを真っ先に呼ぶから。

  それに……【義賊王】へのリベンジでは、きっと力を借りることになるからね」

 

 

 そこまで言うと、渋々納得したように首を縦に振るアレウス。

 私はアレウスの頭にポンッと手を置いたのだった。

 

 

 

 

 

 「それより朝ごはんにしよう? お金にもかなり余裕が出来たからね。お腹いっぱい食べて大丈夫だよ」

 

 

 腰に巻いた【アイテムボックス】から食料を取り出し、アレウスの目の前にドンッと置く。

 そんな私の横で、『まだかまだか』と爛々と目を輝かせるフェイ。

 フェイが食べるのは基本的に『炎』だ。

 いつもなら適当なアイテムに火をつければ済むんだけど……

 

 (屋根の上でボヤ騒ぎは怖いしね?)

 

 あくまで【盗賊】ビーオを待ち伏せしている私達。

 それなのにボヤだと騒ぎになって見つかってしまっては元も子もないだろう。

 ……仕方がない。

 私は少し――いや、かなり高価なアイテムである【ジェム―《クリムゾン・スフィア》】を取り出すとフェイへと手渡した。

 

 

 「……大切に食べてね?」

 『KWe!!』

 

 

 ――心配だ。

 嬉しそうに【ジェム】を咥え、嬉しそうにブンブンと首を振り回すフェイの動きを見ながら眉を顰める。

 

 

 「あとはベグだけど……」

 

 

 振り返る私。

 その先にあるのはアレウスの大きさにも負けない、大きな脈動する白い繭だった。

 先日のレベリングから変わらず閉じこもったままのベグ。

 私はそんな眉へと、売却せずにとっておいた『魔蟲系』モンスターのドロップアイテムを押し付けた。

 すると……どうだろう。

 

 ――器用にドロップアイテムを絡みとる白い糸。

 

 白い繭が少しづつドロップアイテムを飲み込んでいくではないか。

 どんな原理かも。

 そして何が起こっているかも分からない。

 ただベグにも何か考えがあってこうして閉じこもっているのだろう。

 ひたすらドロップアイテムを取り出しては押し付けるを繰り返す。そして満腹になると跳ねのけるような動きを始めた糸に、私も動きを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――ふぅ」

 

 

 皆はまだ食事中、食べきるまでに暫くは時間がかかるだろう。

 私はフェイ達に並ぶように。足を宙に揺らすように腰を下ろした。

 同時に【アイテムボックス】から【サンドイッチ】を取り出し、リアルでのように人目気にすることなく勢いよく口いっぱいに頬張った。

 

 ――シンプルな味のハムと野菜。

 

 安くて無難な。

 それでいて、この世界で食べると一際美味しく感じる【サンドイッチ】である。

 ただ、リアルでの癖を抜けきらせる事は出来ないのか、食事中は何も喋らない。

 呆然と青い空を眺め、これからの事を考える。

 そしてなんとなく『ウィンドウ』のステータス欄を開いてみた。

 

 

 『【槍騎兵】Lv.1』

 

 

 私の6つ目のジョブであり、4つ目の下級職。

 近接戦における弱点を潰し、《騎乗》状態での槍を使うのに特化した【槍騎兵】だ。

 

 ――相変わらずのHPとSTR、そしてAGI型下級職。

 ――《騎乗》状態で槍を使うための《平衡感覚》と《騎乗槍》、《耐久力上昇》スキル。

 

 その他、幾つかの汎用スキルが盛りだくさんだ。

 【女戦士】のような『固有スキル』は有りはしないが、スキルレベルを上げていけば必ず役に立つに違いない。

 

 

 「……ムグ、ぷはぁ~。――ふぅ、槍も手に入ったし早めに手に馴染ませなきゃ」

 

 

 【サンドイッチ】を完食し、口内に残った不快感を水で流し込む。

 口端に付いた水滴。

 ソレを手の甲で拭うと同時に、【アイテムボックス】から一つのアイテム――シアンさんに貰った『長槍』を取り出した。

 取り出した『長槍』はその文字通り長く、手にずっしりとした重量を感じさせる。

 

 

 「シアンさんはああ言っていたし、私も嬉しくなっちゃって受け取ったけど……今更だけどちゃんと使えるか心配だなぁ~」

 

 

 困惑が混じった声で呟く小さな不安。

 両手の上に乗った『長槍』を見つめ、私は『ハァ……』っと、大きなため息を吐いた。

 だけど、そう感じてしまうのもしょうがない。

 その武器は下級職である【槍騎兵】にとってあまりに分不相応に思えてしまったからだ。

 

 

 ――黄色から深緑へ、持ち手から槍先にかけて変化していく色彩。

 ――私の手で握るには丁度良く、軸がズレることなく真っ直ぐに伸びた魔法金属(・・・・)製の柄。

 ――矛先には柄から一繋ぎになった――斬撃もできそうな少し長めの金属矛。

 

 

 シンプルな造形ではあるが、槍について詳しくない私でも一目見れば業物である。

 そう思えるような長槍だった。

 

 

 「性能も……多分強い、かな?」

 

 

 私にとって、近接武器を持つの初めての事だ。

 【万死慈聖 アズラーイール】も近接武器だけど、あれはスキルに特化した『特典武具』なので比較対象には出来ないだろう。

 ――開く『長槍』の詳細欄。

 そこには《鑑定眼》を持っていないので全てを見ることは出来ないものの、高い攻撃力とスキルが記されていた。

 

 

 

 

 

 【ミラーズ・ベイ】

 天地の名立たる刀匠によって打ち鍛えられた深緑の穿槍。

 かつては“天下五大槍”に数えられていたものの一度折れてしまい、本来の名を取り上げられた業物である。

 修復され、その特性は低下した――が、それでも優れた槍であることに変わりはない。

 

 装備補正:

 ・攻撃力+570

 

 装備スキル:

 《衝突反撃》Lv.4

 《破壊耐性》Lv.1

 《■■■■■■■(二度打ち叶わず)

 

 装備条件:

 合計レベル250以上

 

 

 

 

 

 シアンさん曰はく、

 

 

 ――『<マスター>が増加し、内乱が激化した<天地>から流れてきた名槍』

 

 ――『かの【花魁】が愛した【謀神(ザ・ストラテジー)】の武器だったモノ』

 

 ――『槍であり、ランスである――半壊した武器』

 

 

 それが私の新たに手にした武器――『新緑の穿槍』の正体だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 「なぁ……」

 

 

 ――あれから何時間経っただろう?

 監視は始めた時には東から照らし始めていた朝日。

 しかし、その太陽はいつの間にか天頂を駆け抜け、砂漠の西へと沈み始めていた。

 時刻は夕暮れ。

 私達は<グランドル>での三日目を何もすることなくただ屋根の上で過ごしていたのだった。

 

 

 「……何? ホオズキ」

 「いつになったらビーオってのは現れるんだ。もう何時間ここで待ってると思ってんだ?」

 「……だ?」

 

 

 監視に飽きて、屋根の上で横になるホオズキ。

 そんなホオズキを枕にして寝転がるシュリちゃん。

 しかしそれも当たり前である。

 むしろ『一日中同じ場所に座って、犯人が現れるまで監視する』なんてリアルでも困難な事だ。何よりそれをやっているのが、ジッとしていたら死んでしまうのではないかと思える程の戦闘好き程であるホオズキだ。

 ここまで耐えていたのが奇跡である。

 

 

 「いつになったらって……分からないから待ってるんだけど……」

 

 

 かく言う私も我慢の限界。

 常に大通りへと凝らしていた目は疲れ果て、今にも閉じてしまいそうな程に重たくなってしまっている。

 必死に起きようと意識して、ギリギリ起きている。

 それでも既に私の顎は胸に抱えたフェイの頭へと乗せられ、視線だけが大通りに向けられている状態だ。

 

 

 「う~ん、……もしかしたらジョニーの言ってた通り、今日は警戒して何もしないのかも」

 

 

 流石にここまで現れないと、そう思えてくる。

 何故か戦闘するよりも疲れ果て、喋るのすら億劫な口を開き、呟いた。

 

 

 「あぁ? ならどうするっつうんだ? まさか明日もここで監視するのか?」

 「……それなら、シュリ。……<紋章>に戻ってる、よ?」

 

 

 あからさまに嫌そうな声を出す二人だけど……うん、私も嫌だ。

 流石に明日も今日と同じことをするのは回避したい。

 

 (かと言っても、あの【アイテムボックス】を諦める事は出来ないし……)

 

 あの【アイテムボックス】には本当に貴重なアイテムが。

 それこそ、この世界でも二つと無いものばかりが入れある。

 ――【【逆賊王】の手記】に従って宝さがしに行ったら、逆に大切なアイテムを盗られてしまった。……なんて事になっては笑えもしない。

 

 

 「う~ん……」

 

 

 視線は逸らさず、大通りへ。

 鈍くなり始めた頭だけを脳内でフル回転させて、これからの事を考える。

 そして――

 

 

 「――あ」

 

 「なんだ!! 見つけたのか!?」

 「……のか?」

 

 

 私の漏らした声に、ホオズキが勢いよく身体を起こしながら反応した。

 

 

 「ううん、違うよ。ただ、ほら……あれ」

 「チッ! 紛らわしい声を出すなよ。今俺達が探してんのは、ビーオとか言う糞ガキだ――――ぁ?」

 

 

 苛ついたように愚痴り始めようとしたホオズキ。

 しかしホオズキも私の指さす先に居た人物に視線を移し――言いかけていた愚痴を止めた。

 それもそのはず。

 視線の先に居た二人の人物(・・・・・)

 誰かを探すように辺りをキョロキョロと見渡し、私達を見つけると嬉しそうに目を輝かせる。

 

 

 

 

 

 ――<グランドル>に来た初日、ホオズキが助けた貧民街の二人の少女だった。

 

 

 「あ? 何してんだアイツら?」

 

 

 私達を見つけると、何かを伝えようと身振り手振りする少女達。

 声を出さないのは、私達がこうして隠れるようにしているのを察してくれているのだろうか?

 大通りの少し外れ。

 夕暮れも相合わさり薄暗い路地裏は数メテル先は暗闇だ。

 そんな路地裏から隠れるよう少女達はこちらを覗っていたのだった。

 しかし私達が気が付いただけで、いずれ他のティアンが少女達に気が付き。そして結果、私達にも気が付いてしまうかもしれない。

 そうなればビーオ達が現れる可能性もゼロになる。

 

 (――まだ、誰も気に止めて無いけど……)

 

 私はホオズキとシュリちゃん達の方へと振り返る。

 

 

 「どうする?」

 「どうするっつったてな……そもそもあいつらは何を言いてぇんだ」

 「……ここからじゃ、聞こえない」

 

 

 何の用か聞きに行ってもいいけど……流石にリスクが高いかな?

 

  

 「うん……あ、そうだっ。私が何を言ってるのか読み取ろうか?」

 「あぁ?」

 「私、少しだけなら雰囲気とか表情なんかで何が言いたいか読みとれるんだ~。《読唇術》に近いのかな?」

 

 

 そんな私の言葉にホオズキは怪訝そうに眉を顰め、シュリちゃんは無言でこちらを見る。

 どうやら疑っているらしい。

 もちろん私は《読唇術》スキルなんて習得していないし、それに準じたジョブにも就いていない。

 これは私のリアルでの特技。

 知らぬ間に出来るようになった処世術だ。

 

 

 「言葉で説明すると難しいから……実際にやってみるね」

 

 

 二人にそう告げると、路地裏の少女達へと集中する。

 

 ――少女達の表情。

 ――何かを示すような動き。

 ――その行動に滲み出る雰囲気。

 

 《暗視》を習得しているからだろう。

 暗闇に紛れ、見えずらい少女達の些細な動きや表情すら確実に捉えることが出来る。

 ジッと観察する事、10秒。

 どうやら同じ動きを何度も繰り返しているようだ。

 更に細かく、用心深く観察する。

 そして……

 

 

 「……『貴女達の探している人の居場所まで、私達が案内してあげます』――だって」

 「「……まじか」」

 

 

 言葉をかぶらせた二人を見て、私は笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 ――迷路のような貧民街を歩く。

 

 

 既に此処まで来るのに二回階段を上り、四回下りた。

 左右に曲がった回数は優に二桁を超えている。

 入り組んだ道は方向感覚を狂わせ、歩いて来た道を分からなくさせてくる。

 仮に、此処で突然放置されてしまえば脱出するのは独りでは不可能だろう。

 しかし、私達はそんな貧民街を先頭を歩く少女達のおかげで迷うこともなく進む事が出来ていた。

 

 

 「でも本当に助かったね? あのままじゃ、また明日も一日中監視しなきゃならないところだったよ」

 「おぅ、そうだな。

  このガキ共ときっかけを作った俺に感謝しろ」

 「……傲慢、だ」

 

 

 二人の少女が先導し、その後ろをホオズキとシュリちゃん。そして私の順で並んで歩く。

 少女たちは一言も喋らない。

 ただ、時折後ろを振り返って私達が付いてきていることを確認しながら歩いていた。

 

 

 「もうかなり暗くなってきたね」

 

 

 空は既に夕焼けに染まり、路地裏は暗闇の世界だ。

 街灯は一つも無い。

 星も月明かりも屋根に妨げられ届かない。

 不気味な程に静寂が訪れ、暗闇の中をひたすら歩く。

 

 

 「「――――」」

 

 

 そんな時間が少しだけ過ぎた時だった。

 二人の少女は突然立ち止まった。

 

 

 「……あそこか?」

 

 

 そんな私達が立ち止まった場所の目と鼻の先。

 数十メテル先には周りにボロ小屋のような建物に紛れ込む様に、薄っすらと明かりの灯った家が建っていた。

 確認するホオズキ。

 そんなホオズキの視線を受け、二人の少女は無言で頷いた。

 

 

 「あの小屋に裏口はあるか?」 

 

 

 二人の少女は今度は顔を見合わせ、そして同時に首を傾げる。

 

 ――裏口があるかは分からない。

 

 入口があの扉一つだけだったなら確実だったけど……。

 私達はあの小屋の裏へと続く道を知らない。

 どうやら、このまま突入して無理やり制圧するしかないようだ。

 

 

 「……どうする?」

 「俺が先に突入する。お前は念の為に炎の壁の準備をしといてくれ。

  ――行くぞ、シュリっ」

 「……ン」

 

 

 作戦らしい作戦もない。

 ステータスにまかせて制圧する力技だ。

 しかし、それが最も昨日な作戦でもある。

 

 

 「よし、行くぞ――」

 

 

 作戦の合図も無い。

 ホオズキはその血煙の吹き上がる身体を盛り上がらせ、そして。

 

 

 

 

 

 ――一瞬で数メテルの距離を駆け抜け、小屋の扉を蹴り破った。

 

 

 「速いよっ!!」

 

 

 私もその後を追い、すぐさま小屋に向けて駆けだした。 

 《騎乗》しなくても辿り着くまでは数秒である。

 私は先行したホオズキに直ぐに追いつき、そして扉が無くなった小屋の中を覗き込み――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――え?」

 

 

 中を覗き込んだ私。

 その瞳に映ったのは夕暮れの暗闇の中でもハッキリと分かる――一面真っ赤に染(・・・・・・・)まった(・・・)床。

 血の海となった小屋を見た。

 

 

 

 

 

 ――元の石床が見えない程に血で溢れた床。

 

 ――壁には飛び散った血しぶきが辺り一面に吹きかかり、床には人だったモノが転がっていた。

 

 ――小屋の中央には破壊された【アイテムボックス】。

 

 

 目を疑うような。

 目を背けたくなるような光景がそこにはあった。

 

 

 「……何これ」

 

 

 問題なのは人だったモノ。

 それが一人ではないということだ。

 

 

 ――4等分に勝ち割られた頭。

 

 ――輪切りにされた足と腕。

 

 ――目についた心臓は7つ。頭は10。腕は25本を超えていた。

 

 

 「――~~ッ!」

 「おいっ!! ぼさっとしてんじゃねぇ!!」

 

 

 その光景に思考停止していた私はホオズキの声に我に返る。

 そうして、改めて小屋の中を覗いてソレに気が付いた。

 部屋の中央――壊れた【アイテムボックス】の上。

 その上に座り込む様に小さなソレは蹲っていた。

 

 

 『グチャ……ガリッボキッ。グチュグチュ』っと。

 

 

 ソレは床にまき散らされた内臓を齧り、引きちぎり、そして食べていた。

 

 

 「……【ゾンビ】?」

 

 

 いや、【ゾンビ】などのアンデット系モンスターではない。

 そもそもモンスターはセーブポイントには侵入できない仕様のはずである。なにより、ソレの頭の上にはモンスターネームは表示されなかった。

 

 

 「……おい」

 

 

 低く、警戒するような唸り声をかけた。

 ――『ビクリッ』っと。

 ホオズキの声にソレは反応し、動きを止める。

 そしてゆっくりと私達の方へとその顔を振り返った。

 

 

 ――恐怖に染まった死人の顔、それが4つ(・・)

 

 

 ボロボロになった腕は四本生え、取ってくっつけたような人間の部位があちらこちらから生え伸びていた。

 

 (……気持ち悪い)

 

 まるで人をバラバラに分解(・・・・・・・)し、捏ねてくっつけた様な。

 そんなおぞましい姿をソレはしていた。

 そして、

 

 

 『ーーーー~~~!!』

 

 

 声にならない奇声を上げて飛び掛かってくるその生物。

 

 

 「――チッ!! 人間じゃねぇなら容赦はしねぇぜ!!」

 

 

 まさに一瞬だ。

 《瞬間装備》でホオズキの手の中に握られた一本の大太刀。

 ホオズキは高いステータスで力任せに壁ごと、その生物を叩ききった。

 身体を二つに分断し、落下していく生物。

 だけど……まだである。

 

 

 『グギャギャ!!』

 「――なっ!?」

 

 

 身体を真っ二つにされながらこちらへ向かってくる生物。

 どんな生物でも、モンスターであろうと【即死】のはずだ。しかしその生物はこちらへ向かって這いずってくる。

 

 

 「どいてっ、ホオズキ! ――フェイ!!」

 

 

 身体を真っ二つにされても死なない生物。

 それなら、その身体一片も(・・・・・・・)残さず火葬して(・・・・・・・)やればいい(・・・・・)

 超高温で放たれる《紅炎の炎舞》。

 真紅の炎はその生物を飲み込み、火だるまに。そして真っ黒な灰へと変えていく。

 そして数秒後。

 元の形は跡形もなく、塵となった生物がそこには居た。

 

 

 「……もう動かないかな?」 

 「動けねぇどころか死んでんだろ。それよりどうなってんだ、これは――」

 

 

 【盗賊】ビーオが率いる盗賊グループを探しにここまで来た私達。

 しかし、そのアジトと思わしき小屋。

 そこに居たのは血だまりの中で食事をする謎の生物だった。

 

 (……あの子たちが嘘を吐くとも思えないし)

 

 チラリと視線を移す背後。

 そこには心配そうな、不安げな顔でこちらを見る二人の少女の姿があった。

 私の頭の中を疑問が次々と浮かび上がっては消えていく。

 

 

 ――何で、いや誰がこんなことをしたのか?

 ――ビーオ達は何処に行ってしまったのか?

 ――今すぐ、憲兵をここまで呼んでくるべきなのか?

 

 

 そんな疑問に無意識に考え込んでしまい……

 

 

 「――おい」

 

 

 突然、掛けられたホオズキの声に我に返った。

 

 

 「この血だまりの臭いであんま鼻が効かねぇが……多分、生き残りがいるぜ」

 「え?」

 「きっとビーオ達は此処に居た。そこで何か――おそらくこの【アイテムボックス】を開けてしまい、さっきの生物に襲われたんじゃねぇか?」

 

 

 なるほど、確かにそうだ。

 こんな壁に吹きかかるような血飛沫、どう頑張ってもこんな風にはならない。

 ビーオ達が無理やり【アイテムボックス】をこじ開けようとして、そして壊れた結果、中身が辺り一面に飛散したとみるのが妥当である。

 なら……

 

 

 「……ビーオ達は生きている?」

 「全員じゃねぇかもしれねぇがな」

 

 

 それなら取るべき行動はたった一つだ。

 

 

 「――ホオズキ。追跡することは出来る?」

 「……半々だ。もし、こんな血だまりが他にもあるようなら無理だが」

 

 

 どうする? っと、私を見下ろすホオズキの視線。

 そんなホオズキに対して私はただ頷いた。

 

 

 「追いかけよう」

 「……おう!! ――お前らは~、ここまで案内してくれたことには感謝しておくぜ。

  だけど今すぐ大通りまで引き返せ。んでもって、俺達が戻るまで人目に付く場所に居ろ。憲兵も呼んでこなくていい」

 

 

 後ろの案内してくれた少女たちは向けそう言うと、彼女たちは無言で小さく頷いた、

 そして、

 

 

 「臭いが消えるかもしれねぇ、全速力で追跡するぜ?」

 「うん、問題ないよ。私は《騎乗》して追いかけるから」

 

 

 蹴り破った扉とは反対。

 別の路地裏へと続いた裏口を飛び出した。

 既に真っ暗な、視界が潰れた路地裏を臭いと炎の明かりを頼りに疾走する。

 

 時には障害物を強行突破し。

 時には途切れてしまった血の臭いから、行先を予想する。

 

 そして、

 

 

 「……ここだ」

 

 

 辿り着いた場所。

 そこは前とは少し違うものの、地下道へと続く穴がポッカリと口を開けて広がっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




 【ミラーズ・ベイ】
 天地の名立たる刀匠によって打ち鍛えられた深緑の穿槍。
 かつては“天下五大槍”に数えられていたものの一度折れてしまい、本来の名を取り上げられた業物である。
 修復され、その特性は低下した――が、それでも優れた槍であることに変わりはない。

 装備補正:
 ・攻撃力+570

 装備スキル:
 《衝突反撃》Lv.4
 《破壊耐性》Lv.1
 《■■■■■■■(二度打ち叶わず)

 装備条件:
 合計レベル250以上



――三メテルを超える長い柄にほっそりとしたシンプルな矛先。
 巨大なランス、と言うよりは普通に歩兵が使うような槍に近い。
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