自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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多分、これで四章の半分はいったはず……


第14話 【■■王】

 □■□

 

 

 

 

 

 ――遥か昔、“三強時代”が終わりを迎え大陸中が無数の国々に分断した時代。

 

 

 今の<カルディナ>に位置する辺りに栄えた巨大国家の王が、不老長寿を求めて【地竜王 マザードラグランド】へと手を出した。

 確証の無い伝説。

 単なる願望混じりの噂事。

 王の命令に従い多くの兵が<厳冬山脈>に足を踏み入れた結果、それは今でも多くのティアンが知っている。

 

 

 【地竜王】事件である。

 

 

 そして、その災禍に真っ先に晒されたのが他でも無い。

 <厳冬山脈>の麓に最も近い位置に存在する都市――“氷冷都市”<グランドル>だった。

 しかし、ここで一つの疑問が生じてしまう。

 【地竜王】事件に巻き込まれ多くの国が<UBM>や純竜の地竜種の大群に滅ぼされた。

 国は滅び、何時しか<カルディナ>という一つの国に収束する。

 それなのに……。

 それなのに、何故<グランドル>は残っているのか?

 答えは簡単である。

 

 

 ――都市自体は跡形もなく滅びたが、その都市のティアンは殆どが無傷だったからだ。

 

 

 “氷冷都市”とは、食料やアイテムの冷凍と言う形で保存することに優れた都市。

 では、それらは何処で保存するか?

 

 ――冷凍庫か? 

 いや、違う。

 

 ――では、薄氷の張ったオアシスか?

 いや、違う。

 

 “氷冷都市”<グランドル>においてアイテムの保管に使われた場所。

 それは地下へと木の根のように広域に生え伸びた、地下道という“天然の冷凍庫”だった。

 <グランドル>のティアン達。

 彼らは【地竜王】事件を迷路のような地下へと逃げ込み、そして保存してあった食料によって生き延びることが出来たのだ。

 【砂鉄滋竜 モノポール】のような地中を潜行する地竜がいなかったのは幸運と言うべきか。

 もしくは<厳冬山脈>を越えられるはずも無いので当たり前と言うべきか。

 結果、彼らは生き延びて、再び強固な城壁と巨大バリスタを設置することとなる。

 

 

 

 

 

 しかし……今はもう、使用されることも無くなった過去の遺産。

 ――<グランドル>の地下へと根深く広がった、『人造地下迷宮』は今なお埋まることなく存在しているのだった。

 

 

 

 

 

 □<グランドル・地下道> 【槍騎兵】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 数メテル先は全く視界が効かない暗黒の暗闇。

 既に日の沈み、空気が凍り付くほどの寒さである外気は地下道へと流れ込み、全てを凍り付かせる極寒の冷凍庫となっていた。

 また、臭いもきつい。

 辺りからは湿ったカビ臭さが漂い、モンスターの呻き声が地下道内を反響する。

 フェイの《紅炎の炎舞》の炎で恒常的に辺りを照らしているが……

  

 (……少し寒い)

 

 やはり極寒の地下道。

 視界は《暗視》も合わせて十分明るくなっているものの、露出した肌は寒気に鳥肌が立っていた。

 

 

 「かなり遠くまで逃げてるね」

 「あぁ、もしかしたら近道でもあったのかもしれねぇな。俺達は『血』の気配を頼りに愚直に追いかけるしかねぇが……」

 

 

 此処に来るまでに数え切れないほど出くわした分かれ道。

 入り組んだ迷路のような道や開けた空間を突破し、下へと続く階段も追覚えているだけでも三回は下ったはずだ。

 ダミーの壁を強行突破したりもした。

 だけど、それでも追いつけない。

 それだけでもこの地下道が<グランドル>中の地下に生え伸び、広大であることが察せられる。

 

 (私はフェイに《騎乗》してるし、ホオズキのスピードもだんだんと上がっているのに……)

 

 それなのに【盗賊】であるビーオ達に追いつけないというのはあり得ない。

 確実に何処かで裏道があったのだろう。

 しかし『血』の気配が充満し、ハッキリと感じ取れないホオズキ。

 そして【槍騎兵】へと転職し、察知系のスキルが使用できない私達はそれに気が付けなかったのだった。

 もちろん、今更そんな事を考えても後の祭りだ。

 思考を切り替え、出来る限り周囲の気配に気を配る。

 

 

 「問題ねぇよ、もうだいぶ『血』の気配には近づいてるぜ。もう一分も経たずに追いつけるはずだ」

 

 

 私の少し前を先行するホオズキ。

 片手に【鬼斬大刃】を握り、AGI型上級職顔負けの速度で走りながら話しかけてきた。

 

 

 「それよりも分かってるよな? アイツらは今逃げてるんだ、つまり……」

 「うん、もちろんだよ。敵がいる(・・・・)ってことだよね? ビーオを追いかけている」

 

 

 ビーオ達を追いかける敵。

 AGIはそれほどではないが、普通に戦えば彼らが殺されてしまうだろう強さを持った敵だ。

 私には心当たりがある。

 ……と言うよりは、追いかけるような敵は一つしか思いつかないだけだけど。

 

 (十中八九、さっきまで戦った死体みたいな生物だよね?)

 

 物理的な攻撃が効きにくい醜い生き物。

 

 

 「……ビーオ達を確認したら私が炎で焼き払うから」

 

 

 この地下道には【カースド・ファントム】と言った、アストラル体のモンスターも居る。

 物理的な攻撃手段しか持たないホオズキとは相性が悪すぎる。

 『おうっ』と返事を返すホオズキ。

 地下道内に反響するその声を聞きながら、私は【アイテムボックス】から【ミラーズ・ベイ】を《瞬間装備》した。

 手にはまだ馴染んでは無いけど、ここで使わない手は無いだろう。

 そして……

 

 

 

 

 

 『わっ、わあぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ~~~!!』

 

 「近いぞ!」

 「分かってるっ」

 

 

 前方から反響する悲鳴。

 確実に近い場所から聞こえるその声に、私達はスピードのギアを引き上げた。

 グングンと後ろへと流れていく同じ通路の壁。

 数秒間、真っ直ぐな地下道を疾走し、

 

 

 『グギョギョギャ! ギャーー!!』

 

 

 飛び出したのは少し開けた十字路だった。

 テニスコート程の広さの空間に四方向か真っ暗な地下道が繋がっている。

 そして、

 

 

 「く、来るなぁぁ!!」

 

 

 その中央に悲鳴の主は居た。

 

 ――ボロボロの服に擦り傷だらけの顔。

 ――小学生ほどの身体を恐怖に震わせ、両手に握り込んだ小さな【スチールナイフ】。

 ――周りには泣いて座り込む少女や頭から血を流す子供居た。

 

 おそらく【スチールナイフ】を振り回しているのが【盗賊】ビーオだ。

 その周りに居る子供も4人いる。

 どうやら此処まで誰一人欠けることなく、逃走出来ていたようだけど……

 

 

 『ァア、ヴォアァァアアア!!』

 

 

 その周囲を先ほどまで小屋で見た、死体生物が取り囲んでいた。

 二回りも高い死体生物。

 不自然に顔だけが集められた死体生物。

 泥団子のように体中から目玉と腕を生やす死体生物。

 そのおぞましさは口で言い表すことも憚られそうな程である。

 ゆっくりと。そして確実にその不死生物はビーオ達へとにじり寄っていく。

 

 

 

 

 

 「――フェイ! 《紅炎の炎舞》!!」

 『Kweeeee~!!』

 

 

 そして、死体生物たちは断末魔も上げることなく消え去った。

 塵一つ、一瞬の間すら与えることの無い最大火力。

 恐怖に囚われたビーオ達と死体生物から漏れだす怨念が《怨念燃炎》で私達の力へと変わる。

 フェイから放たれた真紅の炎はビーオ達ごと包み込み、辺りを炎の世界に変えたのだった。

 

 

 「――フッ!!」

 

 

 辛うじて逃れた不死生物。

 その醜い身体を、突進の威力を乗せた【ミラーズ・ベイ】が無慈悲に貫く。

 そして、

 

 

 「《シザーランス》!!」

 

 

 スキルの宣言。

 それと同時に貫いた死体生物の身体が大きなブロック状になって切れた。

 

 

 「今のうちに、ホオズキ!!」

 「おう!!」

 

 

 突然の炎に錯乱するビーオ達に近づくホオズキ。

 後は、彼らを保護して地上へ生還。そして【アイテムボックス】を取り返すだけだ。

 【スチールナイフ】をものともしないホオズキは、堂々と正面からビーオ達に近づいてく。

 

 

 「落ち着けっ。俺達はお前らを助けに来たんだぞ。

  取りあえずナイフを下ろせ、さっさとここを脱出するぜ!」

 「……た、助け?」

 

 

 ホオズキの声にビーオは手に食い込むほど強く握り込んだ【スチールナイフ】を下ろす。

 同時にホオズキの左手に浮かぶ《紋章》を一瞥しする。

 そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「く、来るなぁぁぁ! 殺人鬼め(・・・・)!!」

 

 

 恐怖に血走った目で、握り込んだナイフを深々とホオズキの胸へと突き刺したのだった。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 「――ぁ? 何してんだ、お前? 助けに来たっつっただろ、ぶっ飛ばすぞ」

 

 

 ナイフの柄まで深々と、正確に突き刺された心臓。

 ホオズキは、そんな自身へと突き立ったものを見下ろしながら、苛ついたように吐き捨てた。

 ビーオの決死の一撃。

 ティアンなら。……いや、<マスター>でも【即死】の一撃。

 しかしそのナイフはホオズキの命を奪うことなく、まるで棘でも取るように簡単に抜きとられ、後ろへ向けて放り捨てられた。

 

 ――『カランッ』と、ナイフと石の通路が甲高い音を立てる。

 

 そんな一瞬の間。

 その間にホオズキの傷は跡形もなく塞がってしまっていた。

 

 

 「チッ! だいたい俺達が殺人鬼だとぉ? それならとっくの前にお前をぶっ殺してるぜ」

 「う、煩い!! 俺は知ってるんだぞ! 

  今、街を騒がせている殺人鬼。――それがお前たち<マスター>だってことは!!」

 

 

 半泣きになりながら叫ぶビーオ。

 問題なのは、その発言である。

 

 

 ――殺人鬼は<マス(・・・・・・・)ター>だ(・・・・)

 

 

 それは私達に予想以上に大きな衝撃を与える言葉だった。 

 

 ――バラバラに切り刻まれ、【アイテムボックス】に詰め込まれていただろう死体の山。

 ――ソレを開けた者へと襲い掛かる死体生物。

 ――<グランドル>中に充満するほどの『死』と『血』の気配。

 

 私達はそれが【吸血清 オールドリーチ】の仕業によるものだと思っていたけど、もしそれが違うとしたら。

 その犯人が<マスター>だとしたら。

 『そんなはずは無い』と言う否定したい気持ちと、『感じていた違和感が判明した』ような納得するような気持。

 まるで喉につかえていた小骨が取れた様な。

 そんな感覚が私を襲った。

 

 

 「……だけどっ!! 今はここから抜け出すことを優先して!!」

 「――ッ! あぁ、分かってる!」

 

 

 炎は絶えず辺りを焼却する。

 しかしそれでも死体生物の姿が消え去ることは無い。

 私達が進んできた方向を含め、4方向から絶え(・・・・・・・)()死体生物がなだ(・・・・・・・)れ込んできてい(・・・・・・・)るからだ(・・・・)

 ……何体居るのだろう?

 尽きることなく無限に湧き出る死体生物。

 そして生者を嫉む様に【カースド・ファントム】も釣られて寄ってくる。

 

 

 「もうっ! ――何体……居るの!!」

 

 

 倒しても倒してもキリがない。

 ただレベル1だった【槍騎兵】のレベルだけがどんどんと上がっていく。

 

 

 「ホオズキッ! まだなの!?」

 

 

 辺りから怨念を炎に置換しているとは言え、それも無限ではない。

 いつかは辺りを覆う炎も尽きてしまうだろう。

 私はすこし焦る内心を抑えながら、フェイの上で【ミラーズ・ベイ】を振るう。

 

 ――穿ち、切り払い、叩き払う。

 

 少しづつは慣れてきているが、やはり強弓よりも使い辛い。

 生存力の高い不死生物が相手だと尚更だ。

 

 

 「――分かってる! この糞ガキが暴れるんだ! 

  ちょっとま――「誰が糞ガキだ! この殺人鬼!!」――うっせぇよ!!」

 「――いいから! 早くして!」

 

 

 背後でギャアギャアと騒ぎ立てるホオズキとビーオ。

 ただでさえ最高速度が出しにくい地下道。

 加えて、4方向を私一人でカバーしているのだ。

 遊んでいないで早くして欲しい!!

 

 

 「これ……でもねぇ。何処にあるっつうんだ……いや、これか!!」

 

 

 背後から響いてくる大きな声。

 そして、

 

 

 「おいっ、見つけたぞ! 受け取れ!!」

 「――ッ!」

 

 

 ソレは勢いよく私の方向へと向け、放物線を描きながら飛んできた。

 視線は目の前の死体生物から離せない。

 ……だけど!!

 

 (――ここ!)

 

 後ろから飛んできたそれを。

 視界の端に映った微妙な炎の変化を捉え、それ――私の『貴重品用』【アイテムボックス】をつかみ取った。

 そして同時に、その中身へと手を伸ばす。

 

 (お願い! 入っていてっ――)

 

 願いにも似た賭け。

 あの血だまりの小屋では私の【アイテムボックス】は見つからなかった。それは何故か?

 

 ――私の【アイテムボックス】にはロックのようなものが掛かっていなかったからだ。

 

 逆にロックが掛かっていただろう【アイテムボックス】は無理やりこじ開けられ、壊されるのだろう。

 つまり、私の【アイテムボックス】は無事。

 現在進行形でビーオが持ち運んでいる可能性が高かった。

 そして……

 

 

 「――あった!!」

 

 

 賭けには勝った。

 私は既に懐かしいその形に笑みを思わず笑みを浮かべる。

 久々に手元の戻った、何だか安心するような。嬉しい気持ちだ。

 【アイテムボックス】から引っ張り出すように取り出したソレは、下に這いずっていた死体生物をひき潰す。そして落雷のような音(・・・・・・・)を鳴らした(・・・・・)

 

 

 「……うん。行けるよ、ホオズキ。ここから脱出するから――飛び乗って!」

 

 

 取り出したのは【怒涛之迅雷】。

 通路ギリギリ、目一杯の大きさを誇る【怒涛之迅雷】は走り出すとともに辺り一帯を焼き払った。

 フェイが飛翔し、車輪が唸る。

 ゆっくりとそのスピードを上げていき――

 

 

 「――乗ったぞ!」

 

 

 少し鈍くなった荷台の重さに、勢いよく手綱を引いた。

 

 

 「フェイ、全力で飛ばすよ!!」

 『KWe、kWEeeeeeee!!』

 

 

 迫りくる死体生物を轢き殺し、焼き払う。

 上へと昇る階段も、直角の曲がり角も関係ない。《慣性操作》と《重力軽減》があらゆる障害を無視し、破壊し突き進む。

 そして、

 

 

 「――――これは、気持ちいいかも!!」

 『Kweeee~~!』

 

 

 プチプチと言う感覚と全速力で走る感覚に酔いしれるように笑みを浮かべながら、地上へと駆け抜けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 迷路のような地下道を抜け、地上へと脱出した私達。

 そんな私達を迎えたのは満点の星空と、夜の帳の降りた暗闇の世界だった。

 相変わらず外は寒い。

 戦闘で火照った身体を冷ますようで、妙に風が心地よかった。

 

 

 「それで? てめぇ、さっきまで殺人鬼は<マスター>だっつってたな。その理由も含めてお前の知っていること全てゲロってもらうぜ。

  もちろん【義賊王】の正体もなぁ!?」

 「……ホオズキ、〇クザみたい」

 

 

 夜風に吹かれる私。

 その視界の端で先ほどまで死体生物から救い出したビーオ達を、ホオズキが脅すように尋問していた。

 もちろん、暴力を振るうわけでもない。

 顔面の凶悪さと口の悪さで脅す――チンピラのような脅しである。

 その証拠に、ビーオ達全員の身体には傷は無い。《蒼炎の再生》によって、全ての軽傷をフェイが治してしまったからだ。

 ――死体生物にやられた怪我より、脱出の際に掛かった風圧で折れた骨の方が重傷だったのはご愛敬である。

 

 

 「煩い! そんなの俺達の盗んだあの死体入りの【アイテムボックス】が<マスター>から盗んだものだったからに決まってるだろ!」

 「は? そんな事俺が知ってる訳ねぇだろ」

 

 

 ……子供相手に大人げない。

 だけど何も口を出さずに無言で見守る。

 

 

 「つまりこういうことだ。

  お前は俺達以外の<マスター>からも【アイテムボックス】を盗んだ。んでもって、その中に入っていたのが小屋に飛散していた臓物だった。これで合ってるな?」

 「……フンッ! 何だ? あんたら殺人鬼の事も知らずに捕まえようとしてたのかよっ。ばっかだなぁ~!」

 「……ホオズキ。……こいつ、黙らせ、る?」

 

 

 煽ってくるビーオに切れるシュリちゃん。

 ……シュリちゃんは――問題ないか。

 だけど、確かにそうだ。

 私達は【義賊王】に気を取られるあまり、殺人鬼に対して犯行は【吸血清 オールドリーチ】によるものだと思い込み疑いもしなかった。

 これは完全な私達のミスだ。

 

 

 「いいよ、助けてくれた礼だ。殺人鬼について教えてやるよ」

 

 

 ビーオはそう言うと、饒舌に話し始めた。

 

 

 「殺人鬼はな、三か月前に突然現れたんだ。

  そして夜な夜な、街の住人を捕まえては殺して、そして【アイテムボックス】に詰め込んで街に捨てていくんだ」

 

 

 ――醜悪な手段だ。

 それもあの遊ぶようにバラ(・・・・・・・)バラにされた死(・・・・・・・)()を見た今ならよく分かる。

 そして……それを行っているのが私達と同じ<マスター>だと聞いて、尚更怒りが込み上げる。

 

 

 「まぁ……それは良い。それよりてめぇはその殺人鬼から【アイテムボックス】を盗んだって言うなら、その正体もハッキリ見たんだろうな?」

 「当り前だろ! 俺だって【盗賊】だ、相手の様子をじっくり確認してから盗むか判断するよっ」

 

 

 ――ん?

 それはもしかして私はカモだと思われたということだろうか?

 そう考えると何だか怒りがポツポツと湧いてくるが……頭を振り、冷静になる。

 今一番に聞き出すのは殺人鬼の正体だ。

 【義賊王】もほってはおけないけど、それ以上に<マスター>の殺人鬼などほっておくことは許せない。

 私達は黙ってビーオの発言を待つ、そして。

 

 

 「もちろん知ってるぞ」

 

 

 その言葉に思わず息を飲んだ。

 身体はすっかり冷え切り、喉が不自然に乾く。

 

 

 「殺人鬼……そいつは頭からローブを被っていて、それで白い(・・)――――『お前たち! そこで何をしている!?』――あ?」

 

 

 肝心なところは、途中から割り込んできた大声にかき消された。

 姿を現したのは憲兵の服を着た男。

 

 (……<マスター>じゃない)

 

 その左手にももちろん“紋章”は見当たらない。

 完全なこの<グランドル>の憲兵のティアンである。

 【マジックランプ】を片手に、槍を握りながらこちらへと近づいてくる。

 

 

 「こんなところで何をやっている!? いや、それよりもそこのお前たち。たしか【盗賊】ビーオだな?

  街の【商人】達から『盗難』で指名手配されているぞ」

 「――あ、やべっ!」

 

 

 私達を無視してビーオ達を捕まえようと、足を進める憲兵の男。

 ニヤニヤと嬉しそうな顔を隠しもしない男は下品な笑みを浮かべ舌なめずりをする。

 

 

 「これであの賞金は俺のもんだ。全く感謝だぜ、寒い中こんな街外れまで来たかいがあったってもん――

 

 

 

 

 

 

  ――――ブヴェ?」

 

 

 その言葉は最後まで続かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――え?」

 

 

 ――『ギラリッ』っと何かが月明かりに反射する。

 

 数秒差で、ボトリと何かが地面に落ちる。

 そして……雨が降った。

 

 

 ――男の頭が乗っていた場所を起点とし、ホースから水が噴き出るように雨が降った。

 

 

 「――~~?」

 

 

 呻き声のような、何かが萎んでいくような音。

 同時に雨は止み――『バタリッ』っと。

 憲兵の身体は地面へと倒れ込み、大きな水たまりを作る。

 そして、その憲兵の代わりと言わんばかりにその場には別の人物の影が差していた。

 

 

 

 

 

 ――黄色いレインコートに赤い水玉(・・・・)

 

 ――長い脚、獣人の腕、リザードマンの尾。釣り合わぬ歪な体格。

 

 ――『ポタッポタッ』と、地面に垂れる涎。そして月明かりが反射する両手に握られた肉断ち包丁(・・・・・)

 

 

 

 

 

 「……イヒ、イヒヒヒヒィ~~ッ!!」

 

 

 振り抜かれたベットリと血の付いた肉断ち包丁。

 レインコートの男はその肉断ち包丁を振り、包丁にこびり付いた血と油を振り落とす。

 

 

 ――男が一歩踏み込むと、『グチャリ』っと肉が嫌な音を奏でる。

 

 

 そしてその足元から、弾かれたように目玉が足元に転がってきた。

 余りの衝撃に動くことも、口を動かすことも出来ない私達。

 そんな私達に、顔の見えない(殺人鬼)は――――この世界で【解体王(キング・オブ・チョッパー)】と呼ばれる男は笑う。

 そしてボソリと呟いた。

 

 

 

 

 

 『――《人()()ラせ(タイ)()()だの(ショ)肉》』

 

 

 ……と。

 

 

 

 

 

 

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