自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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第15話 真夜中の襲撃者

 □<グランドル> 【槍騎兵】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大通りを外れ、城壁近くの少し開けた裏通り。

 辺りは不気味なほど静まり返り、月光が照らし出した雲が地面に大きな影を落とした。

 ……息苦しい。

 今すぐ、吐き出してしまいたくなるほどの威圧感。

 その威圧感は目の前の――1人の異形の【解体王】を中心に私達を包み込んでいた。

 

 

 『……ィヒッ』

 

 

 両手に握った中華包丁(・・・・)から絶え間なく赤い血が滴り落ち。

 ――『ピチョリ』

 っと、波紋を生んで赤い水溜まりに初めて消えた。

 波紋が発生しては消えていく。

 その赤い鏡のような表面には銀色に反射する中華包丁の危うさと、三日月のように割れた殺人鬼の浮かべる――魔物性が映し出されていた。

 地面に転がった骸と化した憲兵のティアン。

 しかし【解体王】はそこに何も見えないかのように人肉を踏み抜き、耳障りな音を立てながらこちらにゆっくりと此方へ足を踏み出してくる。 

 

 (――~~ッ!!)

 

 そのティアンを人とも捉えず、ゴミとも思わない。

 【解体王】の人間性と残虐性に唾を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 「――てめぇ……何もんだ」

 

 

 震えの無い強い意志の籠った声。

 ホオズキのギラついた子供も泣いてしまいそうな眼光が【解体王】を貫く。

 

 

 『――ギ、ィヒヒヒ?』

 

 

 しかし言葉に返ってきたのは意味の無いくぐもった声。

 黄色いレインコートから言葉にならない奇声が漏れた。

 そして【解体王】の首が90度を超え、グルリと有り得ない角度に曲がり、三日月のような弧を描く赤い口がレインコートから覗き見えた。

 

 

 『―――――ッ~~~!!』

 

 

 そして――その毛の生えた獣人の腕が霞んで消えた。

 

 

 「このっ、糞野郎がっ!!」

 

 

 大振りに振り下ろされた中華包丁と薙ぎられた大太刀が煌めき、ぶつかり火花を散らす。

 突然始まった真夜中の戦闘。

 金属音が静寂の空間に鳴り響く。

 そして……私は目を見開いた。

 

 

 「ホオズキっ!」

 「ぐっがっ、殺人鬼如きがぁぁあああ!!」

 

 

 鍔迫り合い――刃と刃がぶつかり、拮抗していた互いの攻撃。

 その均衡は一瞬のうちに崩れ去り、振り下ろされた中華包丁はホオズキの大太刀を押し切り、その鬼のように逞し(・・・・・・・)い肩に刃を食い(・・・・・・・)込ませたのだ(・・・・・・)

 【狂戦士】、【吸血鬼】と高いステータス補正を持ち、《戦鬼到達》によってどんどんとステータスが上がっていくホオズキ。

 【解体王】はそのSTRを上回り、力勝負でホオズキに押し勝ったのだ。

 だが、ホオズキも負けてはいない。

 

 

 「てめぇなんぞに、殺される俺じゃねぇぜ!!」

 

 

 その身体からより一層激しく血煙を立ち昇らせながら、少しずつ中華包丁を押し返していく。

 そして、

 

 

 

 

 

 ――『《人()()ラせ(タイ)()()だの(ショ)肉》』

 

 

 「――あぁ?」

 

 

 発せられた初めての意味のある言葉。

 ――『必殺スキル』の発言と共に、細切れとなって(・・・・・・・)呆気なく(・・・・)地面に崩れ落ち(・・・・・・・)たのだった(・・・・・)

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 まず、始めに聞いたのはホオズキの逞しい腕が地面へと落(・・・・・・)ちる(・・)鈍く重たい音だった。

 そして腕に続くように様々な音。

 

 ――内臓が零れるみずみずしい音。

 ――地面で跳ねる硬い骨の音。

 ――大量にぶちまかれた血の音。

 

 宣言された『必殺スキル』

 【カイタイシンショ】と言うふうに聞こえたそのスキルが生み出した光景、それは。

 

 

 ――『骨』、『心臓』、『肝臓』、『爪』。

 

 

 その体の9割を細かく部位ごとに解体された(・・・・・)ホオズキの後ろ姿だった。

 ENDも、そしてその身体を覆っていた【タロース・コア】の全身鎧も関係ない。

 一瞬のうちにその身体は細かく《解体》され、既に人の形を保ってはいなかった。

 悍ましい雰囲気に痺れる脳内。 

 そんな硬直する私の神経を真っ先に駆け巡ったのは、悪寒にも似た寒気のする恐怖だった。

 【殺戮織天 アズラーイール】との戦闘以上の恐怖が身体を支配する。指先は凍ったように冷たく、足は地面に張り付いているかのように動かない。

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――――ヴィーレェェエ!! ガキ共を守れぇ!! 狙いは俺たちじゃねぇ、ガキ共の口封じだ!!」

 

 

 ――限界を超え(・・・・・)意識は戦闘モー(・・・・・・・)ドへと落ち変わ(・・・・・・・)った(・・)

 

 

 それは一種のブレーカーのようなものだ。

 電流が過剰に流れてしまうと安全の為、ブレーカーが落ち、電流を遮断する安全装置。

 同じく人間と言うのも、ある意味一種のブレーカーをかね備えている。

 

 恐怖による【気絶】。

 

 その精神が耐えきれないほどの恐怖を感じた瞬間、人間は自身の心を守るために自身の意識を飛ばすのだ。

 多くの人間がその安全装置を持っている。

 自然な、ごく当たり前の機構。

 だが、同時にその安全装置が変に壊れている(・・・・・・・)者がたまにいる。

 そして――紛れもなくヴィーレはその壊れた安全装置の持ち主だった。

 

 

 「――」

 『キヒ、キヒヒヒヒヒィーー!!』

 

 

 ホオズキは、身体の9割を《解体》され地面に倒れ伏していた。

 【解体王(殺人鬼)】はその中華包丁に滴るほどの鮮血を振りまきながら、ビーオに向け凶刃を振り下ろさんと大きく身体をしならせていた。

 そして、

 

 

 「……《喚起》―アレウス」

 『キ、ィヒ?』

 

 

 異形な姿をした【解体王】、その背後に大きな影が出来た。

 月光はその漆黒の毛並みに吸い込まれ、暗闇の空には爛々と輝く紅の双眼が浮かんでいた。

 二本の刃角だけが光を反射してキラキラと輝く。

 《喚起》によって召喚されたアレウスが大きく上半身を持ち上げ、【解体王】を背後から踏み殺そうとその豪脚を振り上げたのだ。

 

 

 『HIHIiiiiiiiiーー~~N!!』

 

 

 大きな嘶きと共に振り下ろされた豪脚。

 1トンに達するアレウスの踏み付けだ、仮に『下級職』なら体当たりで瀕死。タンク型の『上位職』でも無傷とはいかない攻撃力を持った攻撃である。

 

 

 

 

 

 

 だが――【解体王】には関係ない。

 

 

 『ヒヒ、イヒヒヒヒヒヒヒヒィィィィィイイイイイ!!!』

 

 

 中華包丁――【解体王】の第Ⅴ形態<エンブリオ>。

 『Type:アームズ・テリトリー』である【裁断包丁 カイタイシンショ】は二丁で一つの<エンブリオ>なのだから。

 

 ……故に、その三日月の如き弧をえがく笑みは歪まない。

 

 振り下ろした一本の【裁断包丁 カイタイシンショ】。

 そして、その背後から残りのもう一本が影から這い出るように勢いよくアレウスの首へと向け飛び出した。

 有り得ない角度。

 右手に握った中華包丁が左から飛び出してきたのだ。

 腕の長さも足りなければ、そこまで曲がるはずも無い。

 しかし、【解体王】の腕は届く。まるで海に生息する蛸のような吸盤の生えた触手の右腕だったからである。

 

 

 『BURUUUUUUUU!!』

 

 

 アレウスはその中華包丁を自身の二本の刃角で打ち払おうとするが――それは、最もしてはならない行為。

 【解体王】に【裁断包丁 カイタイシンショ】。

 その必殺スキルである《人はバラせばただの肉》。

 その能力は、『敵への接触状態(・・・・・・・)における(・・・・)ENDと防御力(・・・・・・・)無視の瞬間解体(・・・・・・・)なのだから(・・・・・)

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 【解体王(殺人鬼)】の<エンブリオ>、【裁断包丁 カイタイシンショ】はType:アームズ・テリトリー。

 その形も、二本の中華包丁と言う至極あっさりとした<エンブリオ>である。

 また保有するスキルもかなり少ない。

 

 ――ヴィーレの<エンブリオ>である【炎怪廻鳥 フェニックス】。

 ――ホオズキの<エンブリオ>である【到達鬼姫 シュテンドウジ】。

 

 それら前者の<エンブリオ>とは違う、とある二つの能力に特(・・・・・・・)化した(・・・)<エンブリオ>であった。

 忠実に<マスター>の欲望を実現した【裁断包丁 カイタイシンショ】。

 かつて江戸時代、医学が発達していなかった時代。

 杉田玄白がオランダの“解剖書”――『ターヘル・アナトミア』を日本語へと訳した、日本初の解剖書をモチーフとした<エンブリオ>。

 そんな【裁断包丁 カイタイシンショ】の『必殺スキル』。

 

 

 ――《人()()ラせ(タイ)()()だの(ショ)肉》。

 

 

 その能力とは、『刃の触れた生物の身体をENDと防御力を無視し、一瞬で解体する』と言ったものだった。

 強力な一撃(・・・・・)――ではないのだ(・・・・・・)

 その名の通り、『必殺スキル』。

 触れれば【即死】。

 ホオズキの場合は体の『血』が<エンブリオ>である置換型だったから一命を取り留めただけ。

 ただ単に、凄まじく運が良かっただけなのだ。

 

 故に、断言する。

 もし仮にその刃がアレウスの刃角に触れ、必殺スキルが発動したとする。

 その場合には慈悲は無い。

 

 

 

 

 

 ――必ず全身を数千と言うパーツに《解体》され、【即死】するだろうと。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 時は一秒、一秒と迫っていた。

 

 ――ビーオの口封じのために振り下ろされた、一本の中華包丁。

 ――アレウスに振るわれた迎撃であり【即死】の刃。

 

 救えるのは二つに一つ。

 助けられる人物はたった一人、ヴィーレだけ。

 死んでしまえばもう生き返ることの無い――師匠と同じこの世界に生きるティアン。

 片やこの世界で初めに出会い、此処に至るまで幾度の危機を共に乗り越えてきたアレウス。

 

 

 「――」

 

 

 私はその二つの刃を、スローモーショ(・・・・・・・)()で眺めていた。

 いつもなら浮かぶはずの笑みは浮かばず、心は驚く程に冷静だった。

 

 (きっと、何かが一線を越えてしまったんだ)

 

 いつもの私なら、きっとこの土壇場で迷っていただろう。

 そして、何だかんだ言って両方とも救うのだろう。

 まるで他人事のようにも思えるその光景が、ゆっくりと流れていく。

 だけど、

 

 (ううん。……冷静、だけど。先ほどから変わらないモノが私の中に感じる)

 

 思考は冷静に。

 そして……

 

 

 

 

 

 

 「――アレウス、そのまま気にせずソイツを踏み殺して」

 

 『ィ、ィヒ?』

 

 

 私はそう言い放ちながら【解体王】の左腕を握り潰し(・・・・・・・)、アレウスへと迫っていた中華包丁を【ミラーズ・ベイ】を振るい、受け止めていた。

 振り下ろされていたはずの腕は、迎撃の中華包丁はビクともしない。

 ――ホオズキにさえ、押し勝った【解体王】のSTR。

 それなのに、1ミリたりともこれ以上先に食い込み、進むことは決してなかった。

 

 

 

 

 

 「私自身もこんな、変に感情が抜け落ちた様な状況は初めてだけど――それでも。やっぱり変わらないモノがある」

 

 

 目の前の――腕を掴むまでに接近している【解体王】。

 

 その異形の姿から、私はもう恐怖を感じることは無かった。

 そのレインコートから見える三日月の如き弧をえがく笑みは既に消え失せ、奇声が聞こえることは無かった。

 

 ただ、抜け落ちた感情に。

 消え失せた恐怖と奇声に比例するように、一つの使命の如き感情が私の中で劫火となって燃え上がった。

 

 

 「――殺人鬼。私は……貴様の存在を認(・・・・・・・)められない(・・・・・)

  例え、これが私の我儘だったとしても、その所業が許せない。

 

 

 

  だから――此処で、この世界から退場しろ【解体王】」

 

 

 心の中で劫火となって燃え上がった感情――それは『憤怒』。

 

 真紅の髪は怒りを体現するかのように炎に包まれ、ユラユラと揺れる。

 同時にヴィーレの身体を真紅の―STRとAGIに全てのMPとSPを注ぎ込んだ炎の甲冑が覆いつくした。

 暗闇に包まれた闇夜の裏路地。

 霜の降りる筈の砂漠の夜は、炎に溶かされ燃え尽きた。

 

 ――炎の紅帯だけが風に揺れる。

 

 今宵、始まるのは二つの『玉座』に座る<マスター>通しの殺し合い。

 対人特化型ビルドである【解体王】。

 初めて本気で怒りに身体を任せ、人を殺す【騎神】。

 “遊戯派”と“世界派”によるぶつかり合い。

 

 

 『ヒ、ィヒヒヒヒヒヒヒヒィ!!!』

 「見せるぞ、私の全力」

 

 

 至近距離。

 殺意にまみれた視線だけが交錯する。

 

 

 

 

 

 月光が雲を抜け、二人の姿を照らし出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 




【裁断包丁 カイタイシンショ】
<マスター>;??????
Type:アームズ・テリトリー 到達形態:Ⅴ 
紋章:???
能力特性:《解体》&?????
スキル:《?????》《?????》
必殺スキル:《人はバラせばただの肉》
      刃の触れた生物のENDと防御力を無視し、その身体を瞬時に《解体》する。
モチーフ:昭和時代に杉田玄白が翻訳した解剖書“解体新書”
備考:<グランドル>で暗躍する【解体王】の<エンブリオ>。  
   シンプルな二本の中華包丁と特化した能力を保有している模様。<マスター>の欲望を忠実に表している。 
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