自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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長くなったので二話に分けました。
【解体王】のルビを《キング・オブ・カット》から《キング・オブ・チョッパー》に変更しました。


第17話 悪あがき

 □■□

 

 

 

 

 

 

 ――この<Infinite Dendrogram>には、所謂就いてはならな(・・・・・・・)いジョブ(・・・・)が存在する。

 

 

 

 

 

 この世界では、幾度となく時代が始まっては終え。文明が滅んでは生き延びたティアンが新たな文明を発達させてきた。

 しかし、そんな世界にはたった一つ変わることの無いモノが存在する。

 ソレは『世界システム』とでも呼ぶべきモノ。

 

 ――星の数ほども存在する『ジョブ』である。

 

 もちろん、とあるジョブが封印される。

 もしくは就くのに必要不可欠な血脈が途絶えるなど、ロストすることはあってもその殆どが今なお続くシステムとして<Infinite Dendrogram>には存在した。

 だが、この時代、ロストしていたジョブに――“空席”となっていた『玉座』に座る者が急増し始めた。

 そう……<マスター>だ。

 常に死に隣り合わせなティアンとは違う。

 <マスター>達は長年積み重ねてきた技術で、もしくは孵化させた<エンブリオ>の能力で。そして、突然の非日常で開花さ(・・・・・・・)せた才能(・・・・)で超級職へと辿り着く。

 確かに、そして着実に『超級職』に就く<マスター>は少しづつではあるが増加しつつあった。

 

 

 ――積み重ねた経験で数々の条件を突破し、辿り着く【(キング)】の玉座。

 

 ――<エンブリオ>で軽々と作り出し、手にした【将軍(ジェネラル)】の玉座。

 

 ――選ばれた天賦の才を世界に認められ、座る【(ザ・ワン)】の玉座。

 

 

 どんどんと『超級職』に就く<マスター>が増えていく。

 それが良い事なのか。

 それとも悪い事なのかは誰にも分からない。

 しかし……(ティアン)の視線から見て、確実に悪い事が存在した。

 

 不死身な身体で当たり前のように危険を冒し、<エンブリオ>で簡単に条件を満たす<マスター>。

 そんな<マスター>の一部が、就いてはならない――――忌避されるジョ(・・・・・・・)()へと手を伸ばしたのだ。

 『系統なし』、もしくは『犯罪者系統ジョブ』と呼ばれるジョブ。

 

 ――殺人を繰り返すことによって就ける【殺人王】。

 ――あらゆる犯罪を繰り返すことによって就ける【犯罪王】。

 

 就くこと自体が極めて困難であり、忌避される超級職を目指す者が現れてしまった。

 そして、既にそんな忌避されるジョブに無意識に就いてしまった<マスター>が居た。

 そのジョブは、先々期文明以降、『生産職』ながらも『犯罪者系統ジョブ』にカテゴリーされてしまったジョブ。

 現在の<カルディナ>の“氷冷都市”<グランドル>で猟奇殺人を繰り返す『玉座』。

 

 

 

 

 

 ――【解体王(キング・オブ・チョッパー)】は、紛れも無く就いてはいけないジョブの一つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □■□<グランドル> 【槍騎兵】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 強く、大きく弦を引き絞る。

 今にでも張りつめた強弓の弦は切れてしまうのではないか。

 傍から見ればそう思ってしまう程に引き絞られ、番えられた一本の矢。

 華奢な細い少女の腕では引けない弦は、全てを燃やし尽くしてしまいそうな程に赤い炎鎧に手助けされるように力強く。そして矢は一切ブレることは無い、強い意志で引かれていた。

 

 

 ――赤い、ただ赤い炎が纏う矢。

 

 

 人、1人の命を奪うには明らかな威力。

 直撃してしまえば死体すら消し飛ぶかもしれないオーバーキル気味な凄まじい威力の矢。

 しかし……それでいい。

 強弓を構えたヴィーレには【解体王】に対する同情も。ほんの少しの手加減すら残っていないのだから。

 炎鎧から覗く、劫火のような真紅の炎を燃やす瞳。

 そして、

 

 

 

 

 

 「――何もしゃべるな。ただ黙って焼死しろ」

 

 

 最後の矢は引き放たれた。 

 空気を疾走する炎だ。

 風を焦がし、一瞬だが夜を染め上げる紅だ。

 まるで流星のような……超高熱体のレーザーだ。

 

 

 「――後悔しながら燃え尽きろ」

 

 

 ヴィーレはその様子を馬上から、凍り付くような冷たい視線で見下ろしていた。

 未だに心の中で揺れる憤怒の炎。

 目の前で倒れ、ダルマとなった【解体王】を目にしても、その炎は全く収まる気配を見せない事を他でも無い。ヴィーレ自身が分かっていた。

 故に、その炎の矢は八つ当たり。

 【解体王】が起こしてきた殺人と。

 ヴィーレ自身の中で納まることの無い怒りの余熱が込められたとどめの一撃である。

 

 ――狙いはその『心臓』。

 

 当たれば心臓辺りを吹き飛ばし、その身体の一片をも残さず炎が全てを焼き尽くすだろう。

 炎の矢は真っすぐと狙い通りの飛んでいく。

 

 

 「……」

 

 

 ヴィーレは決着がついたことを。

 放った矢が【解体王】の心臓を穿つことを確信した。

 

 

 ――その時だった。

 

 

 

 

 

 『――――ィヒッ』

 

 

 その声を聞いた。

 

 

 「――ッ!!」

 

 

 嘲笑するかのような。

 まるで――計画通りに事が進(・・・・・・・)んだ(・・)とでも言いたげな奇声。

 そんな奇声を上げるのはこの場にはった一人。

 ――目の前で動くことも出来ず倒れ伏す、【解体王】の他に居るはずも無い。

 

 

 『ィヒ、ィヒヒヒヒヒーー~~ッ!!』

 

 

 【解体王】が取った行動。

 それは、

 

 

 ――『矢に地面へと縫(・・・・・・・)い留められた左(・・・・・・・)足を引き(・・・・)矢から逃れるよ(・・・・・・・)うに身体を丸め(・・・・・・・)()』。

 

 

 たったそれだけだった。

 いや、だがそれでいい!!

 【解体王】は、殺人鬼は馬鹿ではない。

 リアルではごく普通の暮らしを送ってはいるし、頭の方もむしろ平均以上に良く回る方である。

 

 故に、死体を詰めた【アイテムボックス】には念のために『死体生物』を忍ばすことを怠らなかった。

 故に、顔を見られたティアンには、こうして口止めの為に殺しに来た。

 

 そんな殺人鬼が。

 【解体王】が考えうる最善策、それが身体を丸める(・・・・・・)と言う行動だった。

 

 

 「……何を――?」

 

 

 その動きの意図を理解しきれず、ヴィーレはただ不思議に思った。

 炎の矢は先ほど【解体王】の心臓があった地面に突き刺さるだろう。

 だが、その程度で無傷で逃げ切れるわけはない。

 矢自体は外れたとしても、込められた炎が辺り一帯を焼き払う。身体を丸めた程度ではその範囲からは逃げきれずその身は炎に焼かれ【炭化】するはずだ。

 そもそも、身体を丸めた……と言っても猫のように完全に丸くなっているわけではない。

 せいぜいが腰を曲げ、前屈のように腰(・・・・・・・)をくの字に(・・・・・)――

 

 (――まって、腰をくの字に?)

 

 もし動きの真の目的が、矢から逃れることでは無かったら?

 それが……体より先に炎で(・・・・・・・)燃やしたいモノ(・・・・・・・)があり、それを燃やそうとしただけなら?

 

 

 「――ッ! まさかっ!!」

 

 

 【解体王】の目的に気が付き、瞬時に数本の矢を弓に番える。

 炎を付与する暇もない。

 ただ、その【解体王】の目的を阻止するべく反射的に何本もの矢を引き放ったのだった。

 

 

 しかし……既に放たれた。

 渾身の力と炎が込められた炎の矢に追いつけるはずも無い。

 

 

 耳に響いて聞こえたのは矢が地面へと着弾し、辺り一帯を吹き飛ばす破壊音。

 炎が辺りに広がる焼却音。

 そして、

 

 

 『ヒヒッ、ィ~~~ヒッヒッヒッヒッヒッヒィィィイイイイ!!』

 

 

 高らかな、嘲笑うかのような【解体王】の笑い声だった。

 炎は広がる。

 全てを飲み込む炎。

 千切れていた【解体王】の腕を飲み込み、一瞬で塵へと変える。

 砕けていた瓦礫を焼き溶かし、ドロドロの液体へと変える。

 そんな猛火は勢いよく広がり、そして……

 

 

 

 

 

 

 『ィヒヒッ! 第二ラウンドの始まりだァァァァァァアアアアアア~~ッ!!』

 

 

 ――【解体王】の腰、そこに装備されていた複数の【アイテムボックス】を飲み込んだ。

 

 

 燃やし尽くす炎。

 飲み込まれた【アイテムボックス】。

 それらが起こす現象はたった一つ。

 

 

 「――っ!」

 

 

 何かが連続するような破壊音(・・・)と共に、辺り一帯に【ティアンのバラバラ死体】と『死体生物』がはじけ飛んだのだった。

 

 

 

 

 

 




本当は【解体王】との戦いは一話で納まる予定だったのに……
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