自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
……そして、一話伸びました。
――なんだかぐだるww
□<グランドル> 【槍騎兵】ヴィーレ・ラルテ
――そこは地獄だった。
空気を焦がし、固い地面を融解させてドロドロにする真っ赤な炎。
ヴィーレが渾身の力を込めて射た炎の矢は、【解体王】の身体を燃やし尽くすことなく燃え広がった。
引火したのは――『ティアンの骸』だ。先ほどまで、アレウスが駆けて捲れ上がった地面の土は見えない。
――それは何故か?
まるで大雨が降った田んぼ道のように、
汚れた赤黒い水面は炎の明かりをユラユラと映していた。そんな血の湖へ浮かぶ死体の孤島。
幾つもの【アイテムボックス】から飛び出した死体は炎に包まれ……
「……【
ヴィーレの鋭い眼光がその地獄を突き刺した。
マグマのように湧き上がる怒り。
睨まれるだけで【気絶】してしましそうな程に濃密な殺気。
直に直視してしまえば【恐怖】に掛かってしまう程の本気の殺意が込められた視線が【解体王】を突き刺す。
『――ィヒッ? ィヒヒヒヒヒヒヒヒ~~ッ!!』
しかし返ってきたのは嘲笑うような奇声だった。
『ギィ、グギャギャギャ!!』
『---~~~~ッ』
続いて重なるように。
辺りを一帯から聞こえてくる不気味な呻き声と悲鳴。
声にもならないような低周波の音と耳を
しかし……それ以上におぞましい『死体生物』の姿。
――その体中に人間の目玉を生やし、ギョロギョロと黒目を動かす死体生物。
――何本もの腕を切って、そして繋げて出来ただろう蛇のような、手の死体生物。
――蜘蛛のように何本もの腕とモンスターが混ぜられたキメラな死体生物。
弾け飛び、地面に叩きつけられてその身を弾けさせた『死体生物』や壁を這い動く『死体生物』の姿に、ヴィーレ思いっきり眉を顰めた。
余りにも醜く、そして悍ましい。背筋が凍り、鳥肌が立ちそうになる白い肌……が、それ以上の怒りと炎でほんのり赤く紅朝した。
「――口は開かなくていい。答えを聞きたいわけでもない。
だが、貴様は、ティアンを……人の命を何だと思っているっ」
……吼えた言葉。
無意識に噛み締めていた唇は小さく裂け、ほんのり紅に滲む口元。
ジワリっと。
口内にほんのり鉄の味が広がっては消えていく。
「殺人鬼……当たり前のように人を殺す<マスター>。貴様は、何を思って人を殺すッ」
遊びで作ったような『死体生物』の姿。人を人とも思わないような所業に、ヴィーレは握り込んでいた手綱を手の儀らへと食い込ませた。
既に亡くなったティアンの亡骸の身の毛もよだつような仕打ち。
【
その真紅の瞳の中で燃える憤怒の炎は、限界なく怒りを燃料にし燃え上がっていた。
まるで何を求める苦悶の声のような大合唱が耳へと届き、心底不愉快だ。
同時に、
「――ハァッ!!」
『HIHIIIIIiiiiiiiN!!』
握り込んだ手綱を力強く引いた。
飛び跳ねる赤黒い血飛沫。アレウスの豪脚に踏み潰され、蹂躙されていく『死体生物』の断末魔が響く。
怒り……ではなく慈悲。
《一騎当神》に《我は不死鳥の騎士為り》で付与された炎が進んだ道を焼き払い、一切の容赦なく『死体生物』を轢き殺していく。
――“最速の騎兵”
目の前に広がっていた距離を踏み潰し、ゼロにする。
そして……
『ギャギギギギギギィィィ~~イ!!』
「へぇ? あ、うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
互いに身体を抱き寄せ【恐怖】から顔を背けるビーオ達。
そんな彼らの背後から忍び寄った『死体生物』が威嚇するように声を上げた。
体中に生やした『人の口』。
不規則にとってつけたような口からは黄色い粘液をまき散らし、生々しい――肉の異臭を吐き出した。
悲鳴を上げるビーオ達。【盗賊】には《気配操作》など、《危険察知》などのスキルも習得しているはずだが……あまりに現実離れした地獄の光景に頭は【恐怖】に囚われ、身体は金縛りにあったかのように動くことが出来ないでいたのだ。
【アイテムボックス】が破壊され、周囲一帯に『死体生物』が飛び散ってしまった。と、言うのも理由に一つだろう。
生々しい吐息を吐きながら噛みつこうとする何個もの口。
折れて尖った歯が、一部が抜け落ちて歯並びの悪い口がビーオ達へと突き立てようと大きく開かれ。
「――殺人鬼。この
襲い掛かった『死体生物』の口を、一本の『深緑の穿槍』が貫いた。
神速の突き。
アレウスの速度が乗せられた長槍は容易に死体の身体を貫き――焼却する。その場には『死体生物』の姿形は一切ない。
ただ、地面には灰色の灰だけが積もっていた。
ブレる長槍を握った右腕。
すると次の瞬間、ビーオ達へとにじり寄っていた『死体生物』達が灰となって燃え尽きていた。
灰だけが風に吹かれ、夜の空に舞っていく。空から差し込む月光は見送るように夜空に浮かんだ灰を見送り、ヴィーレの姿をハッキリと照らす。
構えた長槍を炎が纏い、炎鎧の奥から覗き見える紅の瞳がやけに明るく輝いて見えた。
そして……
――ヴィーレは長槍を【解体王】へと突きつけて言う。
心に誓うように、決意するように。
ヴィーレは憤怒の声で宣言した。
「――これ以上、私が……誰一人として殺させない。血を流す行為を見過ごせない。
――――貴様は……ここで死ね」
ニヤリ――と。
黄色いレインコートの奥で、赤い三日月が弧を描いたのだった。
◇◇◇
ヴィーレは『頭脳派』か。もしくは『感覚派』と聞かれれば……両方である。
と言う答えが最も正しい表現だろう。
――この
――リアルでは運動が全くできず、氷のように冷えた冷静な性格と学内ではトップレベルの頭脳。
【騎神】ヴィーレ・ラルテと言う<マスター>は知略的に、そして感覚に優れた人間だったのだ。
師匠と共に戦った【魔樹妖花 アドーニア】。
助けるために戦った【殺戮熾天 アズラーイール】。
彼女はこの世界では常に感覚を鍛え、戦闘経験を積んできた。<マスター>としてはかなり濃厚な戦いの日々を過ごした。……戦闘経験だけで言うならそれこそ一部の抜きんでた天災たちに近いレベルで経験し、積み重ねてきている。
しかし、そんな彼女が“決闘都市”<ギデオン>へ訪れてから、毎日するようになった習慣があった。
それは何か?
――『下級職のジョブ、一つ一つの特徴の暗記』
であった。
下級職だけでも軽く千は超える程存在するだろうが、それはヴィーレにとってさして苦でもない。まるで読書をするようにスラスラと目を通し、暗記していく。
そして、そのきっかけは単純で簡潔。
五つ目のジョブを選択する際に<アルター王国>の『固有ジョブ』について調べたことだった。
『騎士の国』――<アルター王国>。
その名の通り、西方3国では希少な回復職である【
誰もが憧れ、<アルター王国>を選ぶきっかけになるだろう【
特有のジョブは数多く、ヴィーレも結果的に【弓狩人】を選んだものの頭を悩ませたのである。
「う~ん……【騎士】かぁ~」
【騎兵】に合いそうなジョブが多い【騎士】系統。
その時、ヴィーレは『掲示板』や<DIN>を利用して情報を集めた。
生産職も戦闘職も関係ない。
目につくものから頭に叩き込み、記憶する。そして自分に合いそうなジョブを吟味していったのだ。
そして……一つのジョブが目についた。
「ん……【
転職条件は『【完全遺骸】の《解体》を5回以上』なんて、こんな難しい条件の『下級職』につける人なんているのかな?」
目を通していたのは『掲示板』。
思わず笑ってしまう程に難しい転職条件に目を奪われたのだ。
【完全遺骸】、それはヴィーレでも片手で数え切れる程度しかドロップした覚えのない超激レアドロップアイテム。
【死霊術師】のアンデット素材に。
そして《解体》することでたくさんのアイテムが回収できる宝箱。
この条件を満たすのに何か月。
【解体屋】の上位職――【
『超級職』まで頑張ろうと思えば、まさに茨の道だ。
「『超級職』までにはどれだけの【完全遺骸】を《解体》しなきゃならないんだろう。もしかし『100』ぐらいだったりして」
そんなことを呟きながらヴィーレ次のジョブへと視線を移したのだった。
◇◆◇
真っ赤な炎が陽炎のように朧げに揺らめいた。
「ハァッ!!」
鋭い裂帛。
一瞬だけ手綱から放れたヴィーレの左腕が霞み、『矢筒』から引き抜いた何本もの矢を弓に番えた。AGIが5000以上には《我は不死鳥の騎士為り》で引き上げられた早業である。
布製の防具である【スカーレットact.1】を身に着けた上からでもわかるヴィーレの華奢なくびれ。
上空へ。右へ。
そして両前脚を持ち上げ急停止からの急旋回。
狭く暗い路地裏で激しく体動するアレウスに《騎乗》していても、女の子特有の細い身体はブレること無く矢を番えては引き絞る。
「アレウス、フェイッ!!」
『BURUUUUUUUU~~!!』
呼ばれた声に合わせるように。
彼女の求めるままに従魔は動く。
――【不死鳥の紅帯】へと変化した【炎怪廻鳥 フェニックス】は、引き絞れらた矢へと炎を這わせた。
同時に腰から靡く『炎の腰帯』がヴィーレの身体をアレウスへと固定する。
――迫りくる『死体生物』を轢き殺し、一切止まることなくかけ続けていた【グランド・デミ・スレイプニル】。
ヴィーレの一番目の騎獣は、合図と共に騎射を補助するよう為に駆けていた身体を僅かに宙へ躍らせ振動を掻き消した。
この間――絶対時間にして
景色が『点』から『線』へ。
一秒ごとに移り変わり、流れていく超々音速機動の中でヴィーレ達は戦っていた。
その姿を誰も捉えることは出来ない。
当の本人……【騎神】であるヴィーレ自身も超々音速機動へ体感速度は追いつけていない。【解体王】の位置は一瞬で移り変わり、何処を走っているのか分かっているかも怪しい程だ。
それもそう。当たり前と言えば当たり前。
いくら《我は不死鳥の騎士為り》でAGIを引き上げても体感速度が《一騎当神》で強化されたアレウスのAGIに追いつくはずも無い。
『ガッ、ガァあぁぁああああ!?』
しかし、攻撃は正確無比。
――【解体王】へと一本も外すことなく撃ち穿つ炎の矢。
――【解体王】の身体を刺しては削る長槍の矛先。
――アレウスが踏み込めば、肉が弾け飛び赤い血が地面を染め上げた。
それはもはや見る人が見れば、神業に等しいことが分かるほどの技量。
今だに『人馬一体』とはいかないものの、ヴィーレが。アレウスが。そしてフェイが互いに最善な行動を取り続けることで成し遂げられる奇跡のような戦いだった。
(……やっぱり――きついっ!!)
許容限界を超えたスピード。
そして、ステータスに表示された【
余りに速すぎた超々音速機動は徐々にヴィーレ自身の身体を病のように蝕む。小さな罅が。小さな負傷が。無理を通したリバウンドが重なるように、ヴィーレのHPを削り始めていた。
そして……
「うわぁぁぁぁぁあああああ~~~っ!!」
背後から聞こえてきたビーオ達の悲鳴。
この場において無力なビーオ達の命を奪おうと、大量の『死体生物』が
しかしその牙は、腕は彼らへは届かない。一瞬で矢を放ったヴィーレによって射られ、全身を塵へと姿を変えたからだ。
「ハァッ、ハァッ……」
『BURuuuu……』
余りに速すぎた超々音速機動。
それが引き起こしたのは身体への反動だけではない。
(――
音速を超えたジェット機よりも速いアレウス。
その背に《騎乗》しているヴィーレはまともに酸素が吸い込めないでいたのだ。
胸は締め付けられるように痛みを訴え、喉は焼けるように焼けただれる。
そんな中、ヴィーレは咽喉の痛みを堪え、息も絶え絶えな口を開き。そして【解体王】を睨みつけながら叫んだ。
「このっ――卑怯者めッ!!」
怒りか?
もしくは
夜の闇空に良く通る声は路地裏に響き。
『ィヒッ、ィヒヒヒヒヒヒヒヒィッ!!!』
――【解体王】は嘲笑するような奇声を上げたのだった。
【解体王】の<エンブリオ>――【接断包丁 カイタイシンショ】。
『必殺スキル』はご存知の通り、『接触条件の防御無視の瞬間《解体》。
では、『固有スキル』。【カイタイシンショ】の本来のスキルとは何だろうか?
その能力特性は大きく分けて
――『アイテム化』
――『接合』
この2つだった。
1つ目のスキル名は、《永
――『【カイタイシンショ】で切り取った部位は【アイテム化】し、時間経過による影響を受け付けないようになる』。
一文で書かれた詳細欄。
しかしその効果は第Ⅴ形態<エンブリオ>に見合う、強力なスキルだった。
モンスターの身体を切り取れば【完全遺骸】と同じく、切り取った部位がアイテムとして残る。そして……その効果は<マスター>にすら影響した。
不死身の<マスター>。本来ならデスペナルティと一緒に光の粒子となって消える筈の身体も、【カイタイシンショ】で切り取られてしまえばその場に残り続けるのだ。
それこそ――――『
2つ目のスキル名は、《
――『【カイタイシンショ】で断ち切った断面同士を繋ぎなおす』。
それこそが【解体王】を殺人鬼へと至らせたスキル。
自身の身体さえバラバラに《解体》し、繋ぎ直すスキルだった。《永久保存の切断遺骸》で殺し、奪い取った身体を自身のモノと入れ替え、どれだけの傷を負っても取り換えてきたのだ。
しかし、何より恐ろしいことは
――亜竜の強靭な足を。
――<マスター>の目玉を。
――ティアンの腕を。
奪い、繋ぐ。
明らかに大きさの合わない切断面同士も繋ぎ合わせ、結果的に殺人鬼としての『異形』な姿が産まれたのだ。
もはや、元の身体は『頭』と『左手の甲』しか残っていないだろう。
故に、
『ィヒヒヒヒヒ、ヒヒ――楽しいっ、楽しいっ、楽しいナァァァァァアアアアアア~~!!?
人間を《解体》して奪うって……ィヒ、ィヒヒヒヒヒヒヒヒィ! なんだか興奮しちゃうナァァァァァァ!!』
忌々しい声で笑う【解体王】。
何十。何百という亡骸と『死体生物』と合体したような姿の【解体王】は、黄色いレインコートを半ば埋もれさせながら耳障りな声で叫んだ。
「――ハァッ! アグッ……口を、閉じ、ろっ!」
『ィヒヒ、苦しそうだなぁぁぁ、【騎神】ンンンン? ィヒヒヒヒヒイ~~、頑張らないと皆死んじゃうよぉ~~!!』
【アイテムボックス】から飛び散ったティアンの亡骸と『死体生物』の合成巨人。
四肢を撃ち飛ばされ、その体が【火傷】に覆われた【解体王】だが、周囲の『死体生物』の身体を自身の身体へと再接合することで生き延びていたのだ。
醜い。
その姿は醜悪を極めていた。
――ティアンの顔がずらりと並ぶ皮膚。
――身体から飛び出しているモンスターの脚。
――真っ赤な肉と臓器が噴き出しては接着される。
体重を支え切れず、辺りの
どれだけの亡骸があれば、これだけの大きさになるのだろう?
太ったような身体。
今なお、《永久保存の切断遺骸》によって脈動し続ける身体は波打つように。
あらゆるものを圧殺しながら《完全接着の断面肉塊》によって、その範囲を広げていく。
『ィヒヒヒ、ィヒヒヒヒヒヒヒヒィ~~~ッ!!』
その巨大な死肉の身体に、何本もの矢が深々と刺さった。
唯の矢ではない……渾身の炎が込められた炎の矢である。
地面すらも溶解させる猛火は【解体王】の身体へと燃え移り、その醜い身体を塵に――――
――『ボトリッ』
塵にする前に、周囲の肉ごと地面へと切り離された。
同時に、無くなった肉を補完するように切り離された断面同士がくっついていく。
「――~~ッ!! このっ!!」
『ィヒヒヒヒヒ、何度やっても無駄だよぉぉぉ。イヒ、ィヒヒヒヒヒ!!』
再生する死肉の身体。
地面を溶解させるほどの炎でも殺しきれない巨人。
それは、ヴィーレにとって途方もない山のような……倒しきれない敵のような。そんな感覚を抱かせていたのだった。
「――限界はっ、有る、はずっ」
それでも。
途方もない、倒れることの無い敵だとして駆けるのを止めはしない。
何故なら彼女は知っているからだ。
【解体王】の身体を包み込む死肉の壁――それは
ティアンの亡骸が。モンスターの【完全遺骸】が原料だと言うのなら、必ずどこかに限界があるはずなのだ。
少しでも死肉の壁が薄くなったのなら、神速をもって突撃し、【解体王】の首を取る。それを成し遂げられる自身が【騎神】であるヴィーレにはある。
しかし……
(――なんで)
――何で、死肉の壁に限界が見えないっ!??
焼き払い、削り取っても終わり気配すら見えない死肉の壁。
それがヴィーレの身を焦燥感に焦がす原因でもあった。
だが、それもそのはず。
ヴィーレは知らない、【解体王】への『転職条件』を。
かつて彼女が想像した【完全遺骸】の『100』回以上の《解体》、その数字の桁が一つ足りない事に。
■■■
【解体屋】系統超級職――【
『転職条件』
・【解体屋】、【解体者】のカンストした状態であること。
・ボスモンスターの【完全遺骸】を一回以上《解体》する。
・レベル50以上の【完全遺骸】の
■■■
それこそが、【解体王】の『転職条件』であることを。