自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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第21話 追跡=迷子

 □<グランドル・地下道> 【槍騎兵】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 雨降る曇天の空を、一匹の不死鳥と騎兵が飛翔する。

 雨水は容赦なく不死鳥へと襲い掛かるが……不思議と赤い炎は消える様子が無い。

 むしろ触れた雨水を一瞬で蒸気へと蒸発させ、次第に火力を増しながら<グランドル>の上空を飛び回っていた。

 不死鳥に《騎乗》する騎兵。

 紅色の髪が特徴的な“最速の騎兵”は雨に打たれながら。

 雨がカーテンのように前を遮り、見通しの悪い視界に目を細めて、濡れて滑りやすい手綱を左手でしっかりと握りしめながら小さくぼやいた。

 

 

 「……結構溜まったけど、まだまだ足りないね」

 『KWeee』

 

 

 私達が<愚者の石積み商会>から飛び立り、真っ先に取った行動。

 それは<グランドル>に溜まった『怨念』の回収だった。

 

 

 「野生のモンスター相手なら足りるだろうけど……【解体王】が相手だと不安かも。全力で戦って一分ってところかな?」

 

 

 数か月前から始まった謎の猟奇殺人。

 目を反らそうとしても、嫌でも感じ取ってしまう<グランドル>に潜む殺人鬼の影。

 そしてつい一昨日起こってしまった『死体生物』の襲撃は、人々の不安や恐れを爆発させるには十分すぎる程の起爆剤だったのだ。

 決して少なくない。

 【殺戮熾天 アズラーイール】が起こした殺戮が起きた時と同じくらいの怨念の量。

 そんな大量の怨念を私は【万死慈悲 アズラーイール】の《怨念燃炎》スキルで、街中を飛び回り回収していたのだった。

 

 (やってることは殆ど【死霊術師】の領分だけど――)

 

 だけど、今回ばかりはありがたい。

 【解体王】との戦いで全て消費してしまったMPとSP。【骨折】の治療の為に使用した《蒼炎の再生》とログアウトしていたため空っぽな《火炎増畜(フレイム・アカラマティッド)》。

 フェイの『怪鳥』形態へ変化出来るかも怪しい、まともに戦闘で使えるだけのMPとSPが残っていなかった。

 

 

 ――【解体王】の追跡。

 

 

 それ以前の問題であるMPとSP不足に、私は頭を悩まし奔走していたのだった。

 

 

 

 

 

 「他の超級職なら、アレウスと単騎で挑んでも良いんだけど――【解体王】を討つには炎がいるし……」

 

 

 <グランドル>の近くにマグマ溜まりでもあれば、無理やり刺激して吸収で解決しただろう。

 だけどここは“氷冷都市”。

 極寒の<厳冬山脈>が近くに聳え立ち、地下深くまで『地下道』が伸びた場所である。

 そんな強引な手を取ることも出来ず、少しづつ集めることしか出来ない。

 

 【炎怪廻鳥 フェニックス】の弱点。

 スキル使用を完全に『外部リソース』に依存した欠点が、ここに来て私達の目の前に立ちふさがっていた。

 

 

 「ホオズキが指名手配されて<監獄>まで送られるまでのタイムリミットは二日……ううん、シアンさんの言うような市長ならもっと短いはず」

 

 

 【解体王】の追跡。

 そして何かしらの手段でのMPとSPの蓄積を急がねばならない。

 私は雨にうたれ、冷静な頭で思考を巡らしていた。

 

 (この雨は炎からの吸収は無理だ。……【ジェム】から吸収することも出来るけど)

 

 【ジェム】から吸収には限界がある。

 魔法はその【魔術師(メイジ)】の込めたMP量。その【魔術師】自身のMPの総量で威力が決まるのだ。

 フェイの《紅炎の炎舞》とは違い、《詠唱》で威力を引き上げることも出来るが……残念なことに【ジェム】に込められている魔法は一定の威力。

 《火炎増畜》の倍率で増幅させても決して多い量にはならないはずだ。

 何より、熱や火系統の【ジェム】は高価でそれほど量も無い。

 ――そうなれば、私が取れる手段は限られてくる。

 

 

 「――フェイ、一昨日の【解体王】と戦った場所まで飛んでくれる?」

 『KWeeee~?』

 

 

 雨で聞き取り辛い声。

 私はフェイを導くように手綱を緩め、進行方向側の鐙ニアーラ掛けた足でわき腹を小突く。

 

 

 「【解体王】がこの街に居るとしたらきっと地下道の何処か。あの大穴から地下道に潜って、怨念を回収しながら追跡しよう」

 『KWeee、KWe、KWeee~!』

 

 

 それは危険な行為だ。

 フェイの炎が無く、内部の構造が少しも分からない。【解体王】が潜んでいる可能性の高い地下道を突き進む。

 最悪の場合、突然【カイタイシンショ】を死角から当てられデスペナルティの可能性もあるだろう。

 片腕の私では入り組んだ地下道を《騎乗》することは出来ないかもしれない。

 だけど……きっとそれ以外ない。

 私の考える限りで大量のMPとSPが増畜できそうな場所で、【解体王】を捉えることの出来る最善策。

 

 

 「……」

 

 

 雨が降っている為に飛ぶ速度は亜音速。

 超音速機動なんかで飛んでしまえば、雨が散弾のように私に突き刺さり、すぐさまデスペナルティになるからだ。

 しかし、それでも数秒で辿り着く【狂偶蹄獣改造生物 ヒポトヴォルグ】が掘った大きな縦穴。

 貧民街の幾つもの小屋が踏み潰され、その中央に垂直に出来た縦穴を見下ろした。

 『死体生物』の襲撃を受け、全ての地下道へ続く穴が封じられた今。唯一地下道へ侵入出来る場所でもある。

 明かりを灯すマジックアイテムも無い。

 一寸先は完全な闇に包まれた縦穴は、まるで獲物が飛び込んでくるのをジッと待っているかのようだった。

 そんな穴を見下ろし……唾を飲み込んだ。

 

 何だか……凄く嫌な感じだ。

 穴の奥から溢れ出る空気に肌がピリつくような。寒気のするような。

 

 

 『KWeee?』

 「うん、大丈夫だよ」

 

 

 激しく跳ねだした心臓。体の中で大きな音を立てる心音と加速していく脈動。

 私は自信の胸へと手を当て、ゆっくりと深呼吸することで無理やり緊張を押し殺した。

 そして……

 

 

 「行こう、フェイ――」

 『KWeeeee!!』

 

 

 私達は地下道へと続く、暗闇の縦穴へと飛び込んだのだった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 ヴィーレは強い。

 <マスター>の全体で見てももちろんだが、西洋三か国と<カルディナ>の【騎兵】や【操縦士(ドライバー)】が集った【戦車競争】で優勝したことからも明らかだ。

 強者が互いに競い、殺し合う“蟲毒の壺”と化した<天地>は除くが。

 しかしそれでも“騎兵最速”、もしくは“騎兵最強”と言っても間違いではない程にその実力は突き抜けていた。

 

 

 ――超々音速機動で動くヴィーレは現状、最速で。 

  そしてこの先にも捉えることが出来るのは一部だろう、突き抜けた機動力。

 

 ――遠距離から正確無比に撃ち貫く騎射に接近戦用の長槍。

  間合いを詰め、回復にも転用できる万能な不死鳥の炎。

 

 ――地上戦闘特化のアレウスに、空中戦が可能なフェイなど。

  それぞれの特性に抜き出た騎獣。

 

 

 加えて<アルター王国>の――どこぞの【剛闘士(ストロング・グラディエーター)】を除けば『特典武具』も二つと多い部類だ。

 接近戦殺しの【アドーニア】。

 《○○生命体》のスキルを持つモンスターだろうと殺す【アズラーイール】。

 どちらも強力な、そして尖った性能な『特典武具』。

 【解体王】との戦いでは片腕を失い、挙句の果てに闘争を許してしまったが……それは【解体王】もまた強かっただけ。

 ヴィーレは間違いなく、強い部類の戦闘系<マスター>だった。

 

 

 そして……また、頭のネジが外れた<マスター>だった。

 

 

 世間では“野伏所撃理論”に。<マスター>達が“ガードナー獣戦士理論”に夢中になっている時。

 ――ヴィーレは“《騎乗》特化型ビルド”を迷わず選んでいたのだから。

 全てが中途半端な【炎怪廻鳥 フェニックス】の。【騎神】である師匠に出会った影響と才能が開花した影響もあったのだろう。

 幾つもの要因が重なり、混じりあった結果――今代の【騎神】となったヴィーレが此処にいた。

 全てを置き去りにして、どの間合いからの攻撃も可能な『個人戦闘型』。

 

 

 ……故に、ヴィーレには現状大きな欠点が存在した。それは……

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 「……もしかして。ううん、もしかしなくても……」

 『BURURUuuuuu?』

 

 

 薄暗く入り組んだ“人工迷宮”である『地下道』。

 遥か昔は貯蔵庫として機能していたが何度もの拡張によって迷路と化し、一部のモンスターが棲みついた。

 言うならば一種の――『自然型ダンジョン』だ。

 浅い階層は<グランドル>の街中に広がり比較的安全だが、地下へと進むほどモンスターの数は比例するように多くなっていく。

 貧民街の子供たちは、何故か(・・・)ある程度内部の構造を知っているらしいが……仮に余所者が迷い込んでしまっては出ることも困難な巨大な迷路である。

 

 知る人も片手で数える程しかいないが……その階層数は30にも及ぶ。

 円形の<グランドル>から真下へと伸びた『円柱型地下迷宮』。

 侮って足を踏み入れてしまえば、脱出困難な迷宮に食料は尽き、昼夜関係なく襲い掛かるモンスターに気を狂わしてしまうだろう“初見殺しの迷宮”。

 ……それが、この地下道の真の姿だった。

 そして……何が良いたいかと言えば、

 

 

 「……迷った」

 『BU!? BURUUUU~!??』

 

 

 ヴィーレは現状、絶賛迷子中だった。

 

 

 「前回はビーオ達とホオズキが居たから出られたの忘れてたよ……」

 

 

 そう、一回目の地下道はホオズキの『血の糸』で。

 二回目はビーオ達の案内によって脱出できたのを忘れていたのだ。

 加えて言えば、現在は街へと出ることが出来る穴は全て封鎖され、脱出口は私達が侵入した縦穴だけだった。(縦穴と言っても比較的浅いところで途絶えていたので、脱出口は一つだけ)

 

 

 「……んっ」

 

 

 鳴り響く《危険察知》の警鐘。

 耳鳴り程度の弱弱しい警鐘だったが、私はすぐさま意識を研ぎ澄まし敵へと備えた。

 

 

 『――――――~~~~ッ!!』

 

 

 そんな次の瞬間、姿を現したのは半透明なモンスターの姿だった。

 悲鳴のような金切り声。

 《物理無効》と《物質透過》スキルを持ち、《ドレイン》を使用してくる下級モンスター――【レイダー・レイス】。

 【ゴブリン】よりも撃たれ弱い。しかし、その前衛殺しと脅かしてくる嫌らしさで<マスター>達から嫌われているモンスターだ。

 進行方向へと現れた【レイダー・レイス】はゆっくりとした動きで、私に《ドレイン》しようと半透明な骨の腕を伸ばす。

 

 

 『~~ッ……!?』

 

 

 そして……次の瞬間、その身体を雷光が消し飛ばした。

 ――響く、雷鳴の音。

 ――鳴る、車輪の音。

 アレウスが超音速機動で駆け抜け、あらゆるモンスターを【怒涛之迅雷】が迅雷で焼き払っていたのだ。

 【解体王】の奇襲も防ぐことが出来、フェイの炎がわりの迅雷である。

 

 (――本当は片手で制御しきれるようなものでも無いんだけど……)

 

 《騎乗》より遥かに制御が難しい【怒涛之迅雷】。

 【騎神】の《一騎当神》が合わさり、まさに片手運転、事故待ったなしの暴走戦車のはずなのだが……私は操作に集中することで何とか制御が出来ていた。

 【レイダー・レイス】がドロップしたアイテム。

 一瞬で遥か後方へと流されていくドロップアイテムは地面へと落下し……炎の帯がそれをつかみ取った。

 

 

 【不死鳥の紅帯】形態のフェイ。

 フェイが私の右腕代わりを。

 ドロップアイテムの回収を。

 《火炎増畜》での怨念からのMP&SPの蓄積を、全てを並行してこなしてくれていたのだ。

 結果、私は《怨念燃炎》を発動させながら《騎乗》に集中するだけで済んでいたのだった。

 

 

 「――この融解した車輪跡。間違いなく、迷子だねっ!」

 『BURUUUU……』

 

 

 私の声に、『知ってます』と相槌を打つようなアレウスの低い鳴き声。

 しかし……それも当たり前だ。かれこれ一時間は車輪跡のある――一度通った場所を走っていたのだから。

 単純に私が迷ったと認めるのが嫌で口に出さなかっただけである。

 しかし、誠に遺憾ながら。本当は認めたくはないが『迷子』ということを自覚しなければならない程の時間が経っていた。

 

 

 「唯でさえ時間が無いのに……迷子」

 

 

 正直、全く笑えない。

 というより、事態は想像以上に深刻であった。

 

 

 ――ヴィーレは“《騎乗》特化型ビルド”

 

 

 故に、探索系スキルを殆ど習得していなかったのだ。

 【弓狩人】はカンストしておらず、《気配探知》など生物に対してのモノが殆どである。

 そして此処は、街の広さの円が地下30階層分まで伸びた地下迷宮。

 迷えば……命を失う。

 しかし幸いな事に、濃い怨念が霧散していた地下道のおかげでMPとSPは十二分に溜まっていた。最後の手段だが、地上まで焼き溶かし脱出するという手段も取れないことは無い。

 もちろん出来る限り取りたくない手段だが。

 

 

 「取りあえず、上の階層への階段を見つけよう」

 

 

 そんな自己暗示にも似た言葉を紡ぎながら手綱を握る。が……

 

 ……見つからない。

 

 一度迷うと何故か抜け出せないように。

 底なし沼に嵌ってしまったように、駆ければ駆ける程に同じ場所をループする。

 迷っていると、錯覚が深刻化していくのだ。

 

 (――どうしよう?)

 

 より一層迷い込みながら、進み続ける。

 そんな時だった。

 

 

 「――んっ」

 『HIHIIIIiiiiiiN』

 

 

 大きく開けた空間。

 体育館ほどの開けた空間を駆け抜けようとした時だった。 

 

 ――いくつもの熱線が私を掠め、壁を融解させた。

 ――真っ赤な火炎が迫り、フェイが吸収する。

 

 私は今までとは違う。

 地下道で轢き殺し、焼き払ってきた攻撃とは違うモンスターを目の前に思わず手綱を引いて停止した。

 視線の先。

 真正面へと立ち塞がった二体のモンスターに思わず口を開く。

 

 

 「【オルトロス】に【ランドゲイザー】……」

 

 

 ファンタジー特有の架空のモンスターへの驚きで口を開けたのだ。

 そして自然と笑みを浮かべ、乾いた唇を舐めた。

 

 

 「火ってことは……もしかして利用できるのかな?」

 

 

 ジッと見つめた視線の先の【オルトロス】。

 何故かビクリッと身体を震わせた【オルトロス】に反応するように、僅かに動いた車輪から紫電が走ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




めっちゃ原作面白かったですね!!
<UBM>認定は予想外過ぎて武者震いしました~ww
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