自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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第24話 激突

 □【槍騎兵】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 「――フェイッ!!」

 『KWeeeeeーーッ!!』

 

 

 掛け声と共にフェイが真っ暗な夜空を飛翔する。 

 巨大な【怪鳥】形態へと変化したその身体は炎そのもの。赤い炎に僅かに混じった青い炎で出来た翼を大きく広げ、夜空に赤の軌跡を残しながら飛び回っていた。

 私はその背に《騎乗》しながら歯を食いしばる。

 左手だけで掴んだ手綱はフェイへと指令を飛ばす指示器でもあり、たった一本の私にとっての命綱である。

 ……苦しい、けど放しちゃだめだ。

 私へと牙を剥く慣性と風圧を気合で耐えながら、私は下から音も無く伸びてきた鎖から大きく距離を取る。

 そして――そのまま急降下し、【義賊王】へと突撃した。

 

 

 「《紅炎の炎舞》ッ!」

 『KWEeee!』

 

 

 眼前に迫るシアンディールの姿。

 超スピードで迫りくる光景に向け、フェイの嘴から真紅の炎が放たれ全てを赤一色へと塗り替える。

 

 ――《紅炎の炎舞》の攻撃対象は【義賊王】たった一人。

 

 避けきれない程の広範囲の炎。

 そして、その炎すらもカモフラージュにして私は【義賊王】へと接近し……

 

 

 

 

 

 「――無駄だ」

 

 

 炎を弾いて現れる、高速回転する大きな銀色の球体に緊急離脱した。

 

 

 「《ライト・オーバースナッチ》」

 

 

 同時に銀色の球体から聞こえるスキル名。

 【義賊王】の固有スキルである《ライト・オーバースナッチ》は、見えないはずの私へと正確に発動しする。

 そして、

 

 

 『KWee!?』

 

 

 緊急離脱したフェイ。

 そのスキルの範囲から逃げきれなかったフェイの尻尾の尾羽を炎ごと一部毟り取った。

 ……まさにギリギリ。

 尾羽は毟り取られたが軽傷である。《蒼炎の再生》で簡単に治る傷だ。

 しかし……【義賊王】の猛攻撃はそれだけでは終わらない。私の脳内では《危険察知》が途絶えずに鳴り続けているのだから・

 

 

 「――来るよっ!」

 

 

 フェイへと《騎乗》しながら、後方へと視線を向ける私。

 そこには、宙を走る(・・・・)【義賊王】の姿があった。

 

 (……本当にやり辛い!!)

 

 思わずそう心の中で叫ばずにはいられない。

 それほどに信じられない、馬鹿らしいような光景があったからだ。

 

 

 ――【義賊王】の左手に巻き付き、私へと伸び続ける鎖。そして鎖の上を走る【義賊王】。

 

 

 空を飛ぶことが出来ない【義賊王】の対空手段。

 まるでサーカスの【曲芸師】のような綱渡りである。

 夜の闇の中では《暗視》があっても完全に見通せるわけでもないのに、足を踏み外せば地面へと真っ逆さまな危険が付きまとうはずなのに……シアンディールは躊躇わない。

 伸縮する鎖を超音速機動で駆け抜け、私へと急接近した。

 しかし……【義賊王】が《一騎当神》で強化されたフェイにAGIで追いつけるはずも無い。

 

 『ハーフエルフ』であるシアンディールの【義賊王】。

 そのレベルは長年の商会での砂漠横断の護衛も務め、ティアンとしては異常な……『Lv.364』まで上がっている。AGIも限界なく上がり、軽く超音速に達しているだろう。

 

 しかし……フェイのAGIも《一騎当神》、《幻獣強化》。《魔獣咆哮》で強化し続け3万近いAGIを保ち続けていた。

 ――手加減無し。

 片手とは言え、本気の《騎乗》技術とフェイの速度が相合わされば追いつけ筈も無い。――そう考え、【義賊王】を振り切ろうとした瞬間だった。

 

 

 『KWee!??』

 「――ッ!! 危ないっ!」

 

 

 突然目の前に現れた【義賊王】に。

 

 

 「――《パラライズ・スロー》」

 

 

 その手から放たれた複数の黒塗りの【ナイトペイン】に、咄嗟に叫んだ。

 一切の金属らしい刃の反射を見せない短剣――【ナイトペイン】。【麻痺】が付与された【ナイトペイン】はその姿を夜の闇へと完全に溶け込ませ、私へと迫り来ていたのだ。

 炎の明かりで一部は見える、だけど。

 

 (……避けきれない!!)

 

 予想外な場所からの攻撃。

 直ぐ目の前から放たれた【ナイトペイン】を完全に避けきることは不可能だった。

 そして……流石【義賊王】。

 

 (――私以上に戦い慣れてるっ)

 

 《パラライズ・スロー》で放たれた【ナイトペイン】は一か所ではない。私が避けることも予想したうえで、避けた先でも当たるように放射状に投擲されていた。

 たしか【ナイトペイン】は安物ではない。

 それ自体がかなり頑丈なナイフだったはずである。故に《紅炎の炎舞》でも溶かしきるのは難しいだろう。

 眼前に迫る【ナイトペイン】。

 それをスローモーションのようにコマ送りにしながら、私は最適解を探し出す。

 そして――考え抜いた末に、勢いよく手綱を引いた。

 

 

 「――突っ込め、フェイッ!!」

 『――!? KWeeeeeeーーッ!』

 

 

 放射状に作り出されたナイフの弾幕。

 避けきる時間は無く、必ず当たる……それなら避けずに真っすぐ突っ込んでしまえばいい!

 私の指示に少し驚きながら、そして躊躇いなく突撃するフェイ。

 

 放たれた【ナイトペイン】がフェイの炎身体を透過する。

 避けきれない軌道の【ナイトペイン】が私の頬を掠め、一筋の赤い線をつくる。

 同時に肩にも激しい痛みと衝撃が走るが……関係ない。

 

 

 「フッ、<マスター>って言うのは随分いかれてる奴ばっからしいなッ!」

 

 

 その様子に瞠目する【義賊王】はそう私に向けて叫ぶが……その目は何処か楽し気に笑っていた。

 

 

 「貴方こそっ! ティアンだと思えない事をしますねっ!」

 

 

 私もそう返事をしながら【義賊王】を睨みつけた。

 

 ――先ほど、【義賊王】が突然私の目の前に現れたタネ。

 そのタネはなんてことはない……先ほどまで足場にしていた鎖を操り、自身の身体を私の進行方向へと放り投げたのだ。

 

 一つ間違えば、超音速機動で飛翔するフェイに激突し。

 そして地面へと落下し死んでしまうかもしれない博打のような荒業、それをシアンディールは躊躇いなく実行したのだ。

 死んでも三日経てば蘇る<マスター>の賭けではない。……【義賊王】としての、ティアンとしての命がけの技。

 今回の計画と言い、荒業と言い――まるで自分の命がどうなってもいいような行動。

 自殺志願者のような動きに私は笑うこともできず、目の前で笑みを浮かべるシアンディールを怒りを込めた視線で睨みつけた。

 

 

 「そういうヴィーレさん……いや【騎神】、お前こそ<マスター>らしくない事をする」

 

 

 【ナイトペイン】の投擲から僅かな時間。

 その僅かな時間で鎖の先を砂漠へと固定し、アンカーで引き寄せるように急降下し地面に着陸したシアンディールの声が聞こえてくる。

 不思議がるような。笑うような言葉に私は口を紡ぐんだ。

 そして一瞬だけ手綱から左手を放し、肩へと突き立った【ナイトペイン】を引き抜いた。

 

 

 「――フェイ、《蒼炎の再生》お願い」

 『KWeeee』

 

 

 返事をするような鳴き声。

 同時に肩の傷を蒼い炎が包み込み【麻痺】の状態異常ごと完治させた。

 

 

 「――《ライト・オーバースナッチ》」

 「――ッ!」

 

 

 そして、砂漠に降り立った【義賊王】から伸びてくる鎖と。

 微かに風に乗って聞こえてくるスキル名に、【義賊王】から大きく距離をとった。

 

 ……300……400……500メテル。

 

 際限なく伸び続けるようにも見える鎖。

 それが伸びるのを止めたのは【義賊王】の姿が闇に隠れ見えなくなる程の距離だった。

 500メテルもの距離を取り続け、ようやく縮み始めた鎖に私も距離を取るのを止めて宙に留まる。

 

 

 「――かなりきついね……」

 

 

 私は眉を顰め、無意識に呟く。

 それもしょうがない、【義賊王】シアンディールとの戦い。それは想像以上に苦戦を強いられていたからである。

 

 ――右腕を無くし、低下した私自身の攻撃手段。

 ――【義賊王】の伸縮自在の鎖。

 ――中距離で留まることを許さない《ライト・オーバースナッチ》。

 

 幾つもの要因が存在するが、一番の問題はそこではない。

 私が苦戦する一番の理由、それは……

 

 

 「――捕まえるって、かなり難しいんだね」

 

 

 『【義賊王】の捕縛(・・)

 敵を殺さずに捕まえるという条件が私を苦しめていたのだ。

 【義賊王】は三日経てば蘇る<マスター>である私を容赦なく殺そうと攻撃してくる中、私は捕縛しなければならない。

 加えて言うなら、私には捕縛に適した攻撃が存在しない。

 動けない程度に敵を焼き、半殺しにする。

 もしくは【アドーニア】の《栄華の庭園》で状態異常を何重にも付与し、動きを封じるしか無いのだ。

 

 (数秒。……ほんの数秒だけ接近できれば勝てるのに)

 

 『AGI型』の【義賊王】との高速戦闘。

 中、近距離での戦いに向いたシアンディールを相手に、それはほぼ不可能ではないかと思えるほどに困難な難題だった。

 私はフェイの手綱を引き、【義賊王】の周りを回るように飛翔する。

 

 

 「……あのまま逃げてくれれば俺も楽だったんだがな」

 「貴方を止めるまで絶対に逃げないよ」

 

 

 ギラついた目で笑うシアンディール。

 私はその様子を観察し……口を開いた。

 

 

 「――その鎖、『特典武具』ですよね? 《射程延長》と……きっとスキルの射程も(・・・・・・)伸ばす(・・・)スキルを持った」

 「……」

 「射程は500メテルか、さっきのがブラフなら600メテルは伸びる。……違いますか?」

 

 

 そう――これまでの戦闘で推測した鎖についての憶測を口にした。

 きっと間違っていない。そう確信しながら言葉にした。

 

 

 「ずいぶんと【騎神】っていうのは甘い<マスター>らしい。まさか目の前の敵に相手の得物の詳細を聞くとは……【盗賊】でもそんなことしない」

 「……別に教えて欲しいわけじゃ無いですよ。ただ気になっただけなので」

 

 

 先ほどまで私を殺そうと。

 【義賊王】を捕縛しようとしていた敵関係の私と【義賊王】。

 しかし何故だか今はのんびりとした、気の抜けた会話をしていた。

 【義賊王】は自身の周りに半球状の結界を作るように鎖を漂わせ、私はその隙を探るように飛び続ける。

 赤の他人が見れば、『何をしているんだ?』と首を傾げたくなるような光景。

 穏やかな会話をしつつ、かつ互いに隙を探る殺伐とした戦いが広がっていた。

 

 

 「……絶対に無いことだが……【騎神】、お前が俺に勝てたら教えてやるよ」

 

 

 自身の周りに漂わせていた鎖を縮小させ始めた【義賊王】。

 その様子に私は少しだけ笑みを浮かべ、手綱を握りしめ。

 

 

 「――その言葉、忘れないでくださいねッ! フェイッ!!」

 『KWeeeeーーッ!』

 

 

 同時に手綱を勢いよく引き、フェイは流星の如く真っすぐに【義賊王】へ向けて疾走した。

 私の推測を信じるのなら鎖の『特典武具』によって《ライト・オーバースナッチ》……、その他、全てのスキルが超広範囲で使用可能ということになる。

 鎖の先に付いたナイフにも触れるのは危ない。

 しかし、それ以上に近づくことすら危険だ。

 

 (生半可な攻撃じゃ届きすらしない)

 

 だから……私は左手に握った手綱を緩め、そして口に咥えた(・・・・・)

 そして、【ミラーズ・ベイ】をその手に握った。

 

 

 

 

 

 「――殺す気で行くッ!!」

 『KWe、KWEeeeeee~~!!』

 

 

 手加減も、油断も一切ない。

 私は長槍を前方に構え、ただ真っすぐに突貫した。

 

 

 「血迷ったか……? その長槍を薦めたのは俺だ!」

 

 

 その光景に【義賊王】は怒りに顔を歪めた。

 【ミラーズ・ベイ】、そのスキルである《衝突反撃》。

 それは【ミラーズ・ベイ】を用いた攻撃の際、自身へと伝わる衝撃を。敵の得物とぶつかり合った衝撃をそのまま【ミラーズ・ベイ】の攻撃力に反転し、叩き返すスキル。

 ――接近戦。

 加えて言うなら騎乗槍として真価を発揮するだろうスキルだ。

 それをまさか、長槍を売った本人に。こんな遠距離から堂々と晒して突撃するなど……

 

 

 「――【義賊王()】を、舐めるなッ!!」

 

 

 【義賊王】の怒りを買う――挑発に違いなかった。

 突撃する私に【義賊王】は鎖の先に付いた短剣を握る。

 そして、

 

 

 「《アクセル・シュート》ォッ!!」

 

 

 握り込んだ短剣を無動作で私へと発射した。

 『特典武具』である鎖はその特性として、使用者の『AGI』と同じ速度で自由自在に動かすことが出来る。

 そんな短剣付きの鎖が《アクセル・シュート》によって2倍に加速する。

 私へと音速――2万を超えた超音速で迫りくる短剣。

 ――その様子は……まさにミサイル。

 

 

 外すことは無い。

 その短剣の付いた鎖は『特典武具』であり、自由自在にうごかせるのだから。

 

 迎撃することも出来ない。

 触れたが最後……近づくだけでも《ライト・オーバースナッチ》の餌食なのだから。

 

 逃げる事は出来ない。

 そのミサイルは超音速。標的を500メテルまで追跡する。

 

 

 【義賊王】の怒りの一投は真っすぐ私へ。私を真正面から突き殺すように進路上へ放たれた。

 【義賊王】へと向けて突撃する私。

 私へと向けて放たれた短剣。

 どちらも超音速に達した一撃は相対速度によって遥かに速く接近する。

 このまま突き進めば【ミラーズ・ベイ】と短剣はぶつかり、私が打ち勝つ。そして《ライト・オーバースナッチ》で心臓を奪われるだろう。

 だから、

 

 

 「……舐めてなんかないよ」

 「――な!?」

 

 

 

 

 

 私はフェイの背から真夜中の闇へと――宙へとその身を躍らせ(・・・・・・・)()

 

 

 「――ッ」

 

 

 凍えるような夜の寒さ。

 その空気が吹き荒れるように私を打ち付ける。指先が瞬時に赤く霜焼けになり、先の見えない闇に背筋に寒気が走った。

 しかし、白くなる息を吐きながら……私は笑った。

 【ミラーズ・ベイ】を握った手は離さず、私はただ名前を呼んだ。

 

 

 「来てっ! フェイ、アロン――《喚起》―アレウス!!」

 

 

 叫ぶと同時に視界を炎が明るく照らし、炎が私の体を包む。

 【不死鳥の紅帯】となり、私を守ってくれたフェイがいた。

 

 

 『GWOOOOOOーーッ!!』

 

 

 地を鳴り響かせる方向と共に、闇が動いた。

 隠し続けていた《隠蔽》を解き、砂漠の砂を巻き上げながら《地盤操作》によって道が出来た。

 そして――同時に【義賊王】が地面へと膝を着き、その姿を霞ませる。

 ――アロンの《地盤超重》による重力空間。

 ――下から突き上げるように【義賊王】を持ち上げた《地盤操作》。

 下に引かれる重力と上へと突き上げられる慣性に、【義賊王】は耐えきれずに膝を着いたのだ。

 そして、

 

 

 「とばすよ、アレウスッ!!」

 『HIHIIIiiiiiii~~N!!』

 

 

 アロンが作り出した岩盤の道。

 曲がり角も無い一本道に蹄の音を鳴り響かせ、漆黒の黒馬が疾走する。

 それは初めからこうなることが分かっていたかのように。私の落下地点にピッタ合うようにに駆けだしていた。

 そして《騎乗》するアレウスの背。

 

 ――落下による衝撃は無い。

 

 落下の力をその場に置いてきぼりにするように。

 それすらも駆けだすための推進力にするように、アレウスが《一騎当神》によってそのスピードを上げたからだ。

 ――神速。

 一本道ならば片手でも関係ない。

 【義賊王】ですら目で追うのがやっとな超音速機動で真っ直ぐに駆け抜ける。

 その速度は500メテル以上あった私と【義賊王】の距離を一瞬で埋めた。

 

 

 「お、オオォォォォオオオオオオッ!! 俺は、此処で……倒れるわけにはいかないッ!!」

 「ううん、此処で止める――シアンディール!!」

 

 

 立ち上がるのも難しいはずの重力。

 【拘束】が身体をを襲う中、【義賊王】は立ち上がりながら吼えた。

 自身の長年の悲願を達するために。妹の、家族の仇を討つために。

 

 私も吼える。

 これ以上、目の前で起こる悲劇を防ぐために。

 目の前にいる……私にとって、そして<グランドル>中の人々から信頼される――怨念に囚われたシアンディールを救うために。

 

 

 

 

 

 【義賊王】が《瞬間装備》でその左手に一丁の拳銃を握りしめ、何かを掴む様に右手を前へ……前へと伸ばす。

 

 私は左手の【ミラーズ・ベイ】で【義賊王】の拳銃を狙い、一歩……たった一歩でも早く【アドーニア】の射程に入ろうと手綱を強く噛みしめた。

 そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――《狂乱魔笛》ィィイイイッ!!」

 

 

 どこからか聞こえた奇声共に地面が割れ、足場の岩盤ごと突如発生した砂地獄へと落下したのだった。

 

 

 

 

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