自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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第25話 蒼い羽

 □“氷冷都市”<グランドル>

 

 

 

 

 

 「……狙撃、失敗」

 『だから<マスター>~、さっさと『必殺スキル』を使ってやっちゃえば良かったんだって!』

 

 

 

 

 

 【義賊王】による襲撃に未だ混乱の収まる様子のない夜の<グランドル>。

 裕福な住宅街からは今も立ち上り続ける煙。

 曇り空ではまともな光源もなく、おそらく上がっていることだろう事だけが分かった。

 焦げた臭いは消えることなく街中へと充満していたからだ。

 街の『魔灯』は何故か(・・・)全て破壊され、文字通り“暗闇の街”。

 

 月明かりも。

 街明かりも。

 そして、火事による明かりもない。

 

 完全な闇に包まれた<グランドル>……その城壁の上にその男は居た。

 

 

 「煩い」

 『あ~でたっ! そうやって嫌なこと言われると直ぐに「煩い」だぁ~! 私は<マスター>のそう言うところ直した方が良いと思うぞ?

  あと私に冷たい所と人使いが荒い所。あとは~、……金遣いに厳しい所とかも』

 「……煩い、そもそもお前は『人』じゃない」

 

 

 互いに……と言うより一方的な。

 1人(・・)の人影が、城壁上で元気が良さそうな女性の声と軽口を叩き合っていたのだ。

 

 ――そう、1人。

 

 城壁上にたった1人しかいない。

 それなのに互いに罵り合う会話はどこか滑稽に……いや、第三者から見ればただの変人である。仮にこの場にもう1人誰か居たとしても、女性の声は聞こ(・・・・・・・)えない(・・・)のだから。

 

 

 「――どちらにせよ失敗。恐らく【解体王】。あの縦穴は射程外」

 

 

 男は言う、「横槍が無ければ自分が狙撃出来ていた」と。

 そして……僅かに顔を出した満月。

 厚い雲からすり抜けた淡い月光が<グランドル>の城壁へと降り注ぎ、男の姿を微かに露わにした。

 

 

 ――男の左半身を纏う蒼銀色の鳥を模した軽装。

 ――鳥の鉤爪の3つの指で掴む……3メテル超えの(・・・・・・・)銃身を誇る黄色(・・・・・・・)のライフル(・・・・・)

 ――それは唯のライフルではない。対物――を超えた、『対巨大モンスターライフル』。

 

 

 ……異様だ。

 <Infinite Dendrogram>の世界では自身のアバターを動物よりに、もしくは自身の性別を変えることも――『無限の可能性』を謳うだけあって全てが自由である。

 ……もちろんそんな事するのはかなりの上級者。

 もしくは特殊な趣味を持った極少数に絞られるのだが。

 しかし男はそれらのような『半獣人アバター』ではない。意味は違うが体の中央線から左へ、腕は始祖鳥のような蒼銀の羽の生えた鉤爪であり、足は鳥の鉤脚だった。

 

 仮にその鳥に似せた軽装だけなら、独特な装備だと思うことも出来ただろう。

 

 だが、続いて男の見た目以上に気になるモノ――『対巨大モンスターライフル』が目を引いた。

 鳥の鉤爪が支える銃身は腕より太く、そして長い。

 それはもはや狙撃銃と言うよりも『空母』などに設置されている砲に近い。

 男はそんなライフルを重そうに支えながら、ゆっくりと城壁に沿って歩き出した。

 

 

 『それでこれからどうするのさ? <マスター>。私達もあの穴まで追いかけてもいいけど~』

 「――待機。このまま【解体王】と【騎神】の迎撃に専念。

  夜明けまで待機し、連絡が無ければ【義賊王】の救出に向かう」

 

 

 男は独り言にしか聞こえない会話を交わす。

 そして…

 

 

 「――ッ!」

 

 

 突如、微振動し始めた(・・・・・・・)男の左腕の軽装に付いた『蒼銀の羽根』に男はその足を止めた。

 次第に振動の激しさを増していく羽根。

 同時に男の纏っていた空気が変化する。

 警戒心の無い緩い雰囲気が一瞬のうちに、感覚を研ぎ澄ましているプロのスポーツ選手のように。 

 まるで獲物を仕留める狩人のように。

 『ピリリッ』っと――その空気を変質させた。

 

 

 「……」

 『――南西138度、上2メテル。5秒後……4……3……2……1……今ッ!』

 

 

 合図と共に引き金を引いた。

 宙の暗闇へと向けられたら大きな銃口からは、一瞬ではあるが辺りを眩しく照らす程のノルズフラッシュを光らせる。

 同時に銃身を黄色い雷が駆け巡った。

 長い銃身――その所々に刻み込まれた溝。

 まるで雨水が地面の溝に沿って流れ込むように、避雷針へと折れ曲がりながら落ちる落雷のように。

 溝を黄色い雷が駆け抜け、その銃口へと駆け巡ったのだ。

 

 

 「――シュート」

 

 

 同時に凄まじい轟音と共に、男へと飛んできたそれを撃ち砕け散らした。

 雷を纏わせ、規格外の長い銃身。そして落雷の音にも似た轟音。

 そのどれもが『対巨大モンスターライフル』と相い合わさり、とあるモノを彷彿とさせた。

 

 『レールガン(・・・・・)

 

 それは近代の技術では実現不可能な。

 いや、この規模での再現は不可能なはずの超科学の産物。

 男が支えるそのライフルはライフルではない――この世界だからこそ作り出せる電磁加速砲その物だった。

 

 

 「《次弾装填》」

 『命中!! ……したけどカウント無し(・・・・・・)、人じゃないよ?』

 

 

 銃口を下へ。

 溜まった熱を放熱するように銃口を赤く染めながら、男はボルトを勢いよく引く。

 

 ――『ガチャッ、コンッ!!』

 

 同時に小さな煙を上げながらその装填口から手の平サイズの空弾を吐き出し、宙で回転しながら地面で跳ねて甲高い音を鳴らした。

 《自動装填》が主流なこの世界では珍しい……と、言うよりも絶滅危惧種の手動装填。

 それでも――早い。

 瞬く間に次の弾を込め、男は油断なく銃口を闇へと向けた。

 それだけでも男が――謎の<マスター>がかなりの強者であることが直ぐに察せられた。

 そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やっぱりよぉー、小さな部屋でジッと何もしないで待つってのは俺にはどうも性にあって無いみてぇだ」

 『……バカ、だから――ね?』

 「うっせぇーよっ!」

 

 

 声は遠い。

 恐らく対岸の城壁上から聞こえるだろう馬鹿みたいに大きな声が微かにだが男まで届いた。

 

 

 「いや、そもそも何で俺が捕まんなきゃいけねぇんだ? 何で大人しくしてなきゃいけねぇんだ? なぁ……そうだよなぁ?」

 『……訂正。……バカ、じゃなくて、チンパン』

 

 

 馬鹿みたいな。  

 ネタにも聞こえる会話だが――油断は出来なかった。  

 対岸にいる人物は2キロメテルも遠くからこちらへ向けて何かをぶん投げてきたのだから。ティアンの誰も城壁上に立つ男に気がつかない状況で、偶然かもしれないが発見してきたのだから。

 

 

 「だからよ……決めたんだ。精々好きなだけ俺のやりたいように暴れて、んでもって市長の奴をぶん殴ってから国際指名手配されようってな。

  どうせ<カルディナ>のセーブポイントが使えなくなっても俺には関係ないねぇしな。

  この街に着いてから負けてばっかりだったからな、憂さ晴らしだぜ」

 

 

 ――再び、微かにだが月光がさした。

 照らし出したのは対面の城壁上、ちょうど声の主のいる場所だった。

 

 

 「怪しい奴は全員ぶっ潰すつもりで岩投げてみたが……幸先良いぜ。その独特の銃声、聞き覚えがあるぞ」

 

 

 ――『鬼』

 それもどちらかと言えば悪鬼の類。

 巨大な引き締まった身体と額から見える青い角。半身を【タロース・コア】の岩鎧を隠しながら片手に大太刀、片手に槍を握って凶悪に男は笑った。

 

 

 「――【義賊王】の仲間の【狙撃手】だな? なにしてんのかはしらねぇが、ここでぶっ殺させてもらうぜ!」

 

 

 身体から立ち上らせる《戦鬼到達》による血煙。

 その敵を――ホオズキを視認し、男もライフルを構えた。

 

 

 「……敵、【襲撃者(レイダー)】ホオズキを確認。これより敵勢力の制圧に移る」

 『オーケー<マスター>! 全機能、フル開放で行こー!」

 

 

 男は――【魔導狙撃手(マジック・シューター)】アインはそう自身の<エンブリオ>へと合図をし、

 

 

 

 「《撃滅の蒼翼(スチュパリデス)》、《射撃補正・空》。――《紅雷暴走(オーバーロード)》、【トニトゥルス】」

 

 

 鋼鉄の蒼い軽装を広げる左翼。

 黄色から赤へと変化した雷光。

 2つの『特典武具』のスキルを同時開放したアインは『スコープ』を覗き込み、そっと引き金を引いたのだった。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 轟音が鳴り響き、超加速された弾丸が暗闇を撃ち抜く。

 『対巨大モンスターライフル』と言う名に負けない程、規格外の弾丸は低い音を鳴らしながら風を切り、真っ直ぐにホオズキへと直進していく。

 これほどの闇の中だと狙う精度も下がりそうなものだ。

 ……しかし、何故かアインは走るホオズキを正確無比に狙撃していた。

 

 ――『偏差撃ち』

 

 俗にFPSなどの銃を用いた対人ゲームや実際の軍人も用いる技術。

 動いているモノの行動を先読みし、その先へと狙撃する――簡単そうにも思えはするがかなり難しい技術である。

 アインはそんな『偏差撃ち』を動じることなく。

 闇の中だろうと関係なく、自身の元へと突撃してくるホオズキに狙撃し続けていた。

 

 

 「しゃらっ、くせぇっ!!」

 

 

 ホオズキはその銃弾に合わせるように血で出来た刀を振り抜く。

 そして、

 

 

 『――ヒット』

 

 

 ホオズキが身に纏う岩の鎧ごと、銃弾が当たった部位を大きく削り撃ち飛ばした。

 抉れた断面からは血が噴き出す。

 そして瞬時に身体の再生が始まった。

 体を大きく抉られバランスも取れずに走ることも困難な損傷を受けたホオズキ。

 しかし……それでも走ることは止めない。無理やり【タロース・コア】の全身鎧を叩き割った城壁の岩で復元し、義手義足のように四肢を生み出すことによって走っていた。

 しかし……

 

 

 「――どうなってやがる、こいつは……」

 

 

 体を襲う違和感に歯を食いしばった。

 ホオズキは自分が頭がそれほど良くないことも、面倒くさがりで戦略的な戦闘は出来ない事を知っている。

 だからこそ【シュテンドウジ】が。

 【血】形態になりながらも意識を持つシュリが、再生や『血』を使った強化など。戦闘中の小難しいことは全てこなしてくれているのだ。

 しかし今回に限り、ホオズキ自身も気が付くほどにその異変は大きなものだった。

 

 

 「……体が重い」

 『……弾、受けるたびに重たくなってる』

 

 

 敵の狙撃に被弾する度に、ホオズキの重さが増してい(・・・・・・・)()

 今は《戦鬼到達》によるステータス補正の上昇でそれほど影響が大きくはない。

 しかし……一歩進めた足が城壁を砕き、沈む。

 

 

 『……負けてる』

 

 

 シュリちゃんの言う通り。

 徐々にだがステータスの上昇より重力の増加の方が大きく、ホオズキの身体は重たくなり続けていた。

 

 (……敵の<エンブリオ>か)

 

 恐らく着弾した敵の重力を増やす<エンブリオ>。

 それならば対策は簡単だ。ただ、敵の狙撃を避ければ良い、それだけなのに……。

 再び轟音が鳴り響き、そして体が吹き飛んだ。

 

 ――避けられない。

 

 ステータスが徐々にだが上がっているホオズキのAGIは既に5000をオーバーしている。しかしそれ以上に増していく重さによって狙撃を躱すことが出来ないでいたのだ。

 いや……違う。

 おそらく重さが増していなくても同じだろう。

 敵の【魔導狙撃手】――アインの狙撃による銃弾、その弾速は優に音速を突破し超音速に達して(・・・・・・・)いる(・・)のだから。

 

 

 「――ヒット」 

 『何だろあの<マスター>? もうそろそろ体重が1トンを超える(・・・・・・・)筈なんだけど~。それなのに動けるし再生って……モンスターよりモンスターしてるよ」

 

 

 アインの動きは止まらない。

 ただ精密機器のように正確に、無駄な動作なく次弾を装填し――引き金を引く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【魔導狙撃手】アイン・シューター。

 

 <ドライフ皇国>出身であるアインは今では<カルディナ>を拠点にして『賞金稼ぎ』をしている<マスター>だ。

 何処のクランにも属さない一匹狼。

 受けるクエストは『討伐依頼』のみ。

 故に、その名は<カルディナ>の『掲示板』にも。<ドライフ皇国>の『掲示板』にも載ることは一度たりとも無かった。

 しかし……その名を多くの<マスター>が知っている。

 その強さと――敵に認識される前に殺す、暗殺にも似た超狙撃。

 一度狙われてしまえば決して逃げきることが出来ない<マスター>として知っていた。

 

 

 ――【狙撃名手(シャープシューター)】でも無いのに、【狙撃名手】を超えた十数キロメテルもの距離からの狙撃。

 ――『魔力式狙撃銃』でありながらその法則を超えた、超音速の弾丸。

 ――デスペナルティの間際に運が良ければ見ることが出来る蒼い翼。

 

 

 <マスター>達は彼に畏怖と、そして称賛を込めて。現実での有名な狙撃手の二つ名を真似て、彼をこう呼ぶ。

 

 

 

 

 

 ――“アジュ()ール・フ()ェザー()”……と。

 

 

 

 

 




【魔導狙撃手】アイン・シューター。

<エンブリオ>
・不明

『特典武具』
・【■■■■ スチュパリデス】
・【■■■■ トニトゥルス】

備考
ヴィーレが主人公に決まる前に、主人公となる予定だった<マスター>。
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