自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
明日は……更新できたら
□<旧・ハムレット平原> 【騎兵】ヴィーレ・ラルテ
高難易度である修行クエストが始まってからはや五日。
私とアレウスは死にも勝る……むしろ死にたくなってくるほどの厳しい修業を生き抜いていた。
修行開始初日も【亜竜猛虎】を倒した後に、【ハイ・ポイズン・ロータス】という毒を持った植物型モンスターや【バーグラー・フォレストモンキー】というアイテムを盗んでくる大きな猿と戦闘をさせられた。
特に【バーグラー・フォレストモンキー】は特殊なスキルで矢を盗まれた時は死んだと思ったものである。
常に限界ギリギリ、私たちより少し強い程度のモンスターとの戦闘に明け暮れる日々。
もう何度死線を潜ったのかは分からない。
少なくとも十を超えたのは確かだ。
決まって限界を出したうえで勝てるか勝てないかと言う敵を修行に選んでくる師匠には、畏敬の念を抱かずにはいられない程だ。
そんな終わりの見えない地獄の修行の為、今日も<Infinite Dendrogram>にログインしたのだが。
「……なんでだろう?」
「どうかしましたかヴィーレさん。こちらに戻って早々に悩んでいる様子ですが」
すでに私が助け出された場所が拠点に成りつつある開けた森。
そこで焚火の監視をしていた師匠が訝し気に私に話しかける。
まぁ、私が聞いて欲しそうにしていたからだろうけど……。
「実は私がここに来た切っ掛けのモンスター、<UBM>なんですがまだ討伐されてないらしいんですよ。特別な装備が手に入ると聞いて<マスター>が競争するように挑んでいるはずなんですけど……おかしくないですか?」
<Infinite Dendrogram>がリリースされてから、こちらの世界で二週間以上が経っている。
ほとんどの<マスター>の<エンブリオ>が第二形態に進化し、早い人では第四形態になったと掲示板では噂になっていた。
ジョブも皆、二つ目から三つ目に就いている。
そんな私より遥かに強いはずの<マスター>がこぞって挑んでも倒せない<UBM>。
いくら特異なスキルやステータスを持っていても既に倒されていても可笑しくない。<UBM>の情報も掲示板に流れていたのだから。
「……ふむ、もしかしたら<UBM>を取り合っているのかもしれませんね」
そんな私の疑問に師匠は難しい顔で答える。
「なんで<UBM>を取り合うんです? 速く倒してしまった方が良いに決まってるじゃないですか」
「ヴィーレさんは知らないのですね。<UBM>を倒して手に入る特殊な武具、『特典武具』はその<UBM>の討伐で最も功績の大きい人しか手に入らないのですよ。
おそらくそれを知って、互いに邪魔をしあっているのでしょう」
……それって大丈夫なのだろうか?
<UBM>を倒すことも困難なはずだが、それを奪い合うなんて。
これではそのうち<マスター>同士の殺し合いでも始まってしまいそうだ、もしかしたらもう起こっているかもしれないが。
「……しかし何で【妖精女王】は動かないのでしょう……他にも【
私の疑問は解決したが、今度は師匠が悩みだした。
師匠は時折こうして悩む癖がある。いつも何を言っているのかは分からないが、この状態になるとしばらく何を話しかけても反応がなくなるのだ。
私はその間、いつもアレウスの世話をすることにしている。
「《喚起》——アレウス!」
『HIhiiiiiiiN!』
大きく嘶きながら一体の軍馬が【ジュエル】から出現する。
しかし、その姿は以前とは少し違う。
「アレウスも進化かぁ~、本当に立派になったねー」
そう、先日の修行で亜竜級モンスターを討伐した際にアレウスが進化したのだ。
その姿は出会った時と大きさはたいして変化していないが、その毛並みは一部大きく変わっていた。
一部に入っていた筋のような赤の毛並みは、全身で刺青のような形で顕れ、頭部から
筋肉質だった体もさらに武骨で力強くなったように感じる。
名称も【グランド・ウォーホース】から【グランド・クリムズン・ウォーホース】へと変化した。
『クリムズン』と言うのは体毛の赤毛の事を指しているのだろう。
師匠曰く、強さ的には亜竜級上位。
唯でさえ強かった相棒がさらに逞しくなってしまった。
「ほんとにかっこいいよ、アレウス」
こうして進化から1日たった今も嬉しさで頬が緩んでしまう。
まるで私の事のように感じてしまうのだ。
そんな成長を喜びながら、アイテムボックスから取り出した馬用ブラシで毛並みを整え始める。ここ数日は修行が忙しくて毎日はしてあげられなかったので気持ちよさそうだ。
すると突然私の左手の紋章が光り出す。
これも毎日お馴染みの光景だ。
「おはよう、フェイ。キミはほんとに自由だよね」
跳び出してきたのは炎の卵。
私の<エンブリオ>でもある【炎怪廻鳥 フェニックス】だ。今では名前が長いので『フェイ』と呼んでいる。
ここ数日はモンスター討伐ばかりだったので、あまり姿は見かけなかったがどうやら元気そうで何よりだ。
フェイはアレウスの背中の上で嬉しそうな様子で器用にクルクルと回る。
そんなフェイを取り出したタオルでゴシゴシと拭いてやる。
「私が魔法職だったらいいんだけどなぁ、まだフェイの力を借りるのはもう少し先になりそうだねぇ」
しかしあれから一週間と一日。
未だに第一形態とは言え、常に私のMPとSPを増畜し続けている。
私は魔法職では無いので《瞑想》などと言ったMP回復を速めるスキルは持っていないが、流石にこれほどの時間ため込むと莫大なMPを蓄えていそうである。
こうしてアレウスやフェイに囲まれて過ごすのは幸せな時間である。
(こんな時間が何時まで続けばいいのに)
そう思った瞬間だった。
「すいません、ヴィーレさん。それでは修行を始めましょう」
地獄の修行の始まりが告げられるのは。
◇◇◇
「ところで師匠、今日はアレウスで移動しろって言わないんですね」
「ヴィーレさんは騎乗しての移動は嫌いなんじゃありませんでしたか?」
「まぁ、今では徒歩の方が大変なので」
五日にもよる修行の成果だろうか。
この霧のかかった大魔樹林の中でも苦労なく移動できるようになっていた。
戦闘に関しても全く問題ない。【騎神】である師匠に太鼓判を押して貰えるほど、今までより技術も上がっている。アレウスも進化した今、亜竜級モンスターだろうと遅れはとらないだろう。
私は師匠の後を跳び跳ねるように追いかける。
「そう言えばヴィーレさんのレベルは今、どれくらいですか?」
突然どうしたのだろうか?
技術ばかりを教えてくる師匠がレベルを聞いてくるなど珍しい。
「えっと、確か42ですね。それがどうかしたんですか?」
「いえ、ただ予定より良いペースで修行が進んでいるので、少し期間を早めようかと思いまして」
……いまいち師匠の意図が読み取れない。何が言いたいのだろう。
「私達、人馬種族は一人で亜竜級モンスターを倒すことで一人前と認められます。
ヴィーレの古里、別の世界ではそういった事はありませんか?」
「ありますよ。大人と認められるのは20歳からですけど、『可愛い子には旅をさせよ』や『獅子は我が子を千尋の谷に落とす』って言った諺もあるぐらいですから」
「それは良かった」
……何が良かったんだろう?
あと、なぜか先程から《危険察知》が警鐘を鳴らし続けているのだけど。
「実はこの辺りにも似たような事をしていた部族があるんですよ」
「……」
「その部族は幼少より【
そして無事、上位職に転職できたものを一人前と認めたとか。
残念ながら【樹霧浸食 アームンディム】の進行上に村が位置していた事もあって、全滅してしまいましたが」
あれ? よく見たら周りに人が住んでいたような家の跡が残っているような……。
加えて朽ち果てた厳重であっただろう廃墟から、地面にポッカリと空いた洞穴が少し見えた。中からはモンスターのうなき声のような、空気の吹き抜ける空洞音が聞こえてくる。
……もしかしなくても、ダンジョン?
「さて、ヴィーレさん。今から貴女に試練を課します」
「あの……嘘ですよね?」
近づいてきたことで、その全貌が見え始めた地下型ダンジョン。
そのダンジョンは直径2メテル程の大穴が下へと伸び、底が見えないほどの高さへ続いていた。
「このダンジョンはかれこれ五十年は誰も入っていませんからね……4日、4日で【騎兵】をカンストさせ、最下層に存在するジョブクリスタルで好きなジョブに転職してきて下さい」
「し、師匠!? 私のメインウェポンは弓ですよ!?
回復アイテムだって少なくなってきてるのに、それに食べ物はどうするんです!」
「自給自足してください」
辛辣!
余りの厳しさに言葉がこれ以上出てこない。
大体、この高さから落ちて死なない人なんて人ではない。混乱しきった頭で何かを訴えようとするも、声は出なかった。
師匠はそんな私を見て、軽く微笑む。
「では、期待していますよ。我が弟子、ヴィーレ」
同時に肩をその筋肉質な手で押され、後ろへとよろめき……
「キ、キャアァァァァァァアーーー!!」
ぱっかりと口を開けて待つダンジョンへと、人生二度目の空中落下を果たしたのだった。
◇◆◇ 【■神】■■■・ライダー
彼は焚き火の前で一人立ち尽くす。
その強い光の灯った眼は下ではなく上を、“霊都”<アムニール>へと向いていた。
彼の懸念は一つ。
自身が故郷へと向かっているだろう一体の<UBM>だ。
「手遅れにならなければいいが……」
<UBM>は存在事態がイレギュラーと言ってもいい存在だ。特異なスキルも高いステータスも討伐者に遺す特典武具さえも。
しかし忘れてはいけないのだ。
<UBM>は特別な存在、それと同時に一体の
傷つけば倒れもするし、何かに対して怒りも抱く。人を倒せば
人が超級職に就いて終わりではないように、決して<UBM>がモンスターにとっての終着点ではないのだ。
「また動かないつもりか【妖精女王】、今は確かに<マスター>がいる。しかしそれが良い結果に結び付くなどと考えては100年前の二の舞だぞ」
男はそんな自身の言葉に自嘲的に笑みを洩らす。
<マスター>に未来を託そうとしているのは自分も同じ事だったと。
そして同時に心の中でも思っている、『あの<マスター>に賭けてみたい』と。
「最悪の場合は私が命を賭けて打ち倒そう……」
100年前のように……仮に敵が<神話級>であったとしても。
但し、その場合は確実に寿命は尽き果て、死に絶えるだろうが。
彼は自身の右足、痛みも感じることのない木の義足を無意識に撫でた。
「頼みましたよ、……」
その言葉は最後まで聴こえず、宙にかかった霧へと霧散していったのだった。