自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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第29.5話 【冥魂騎 ペイルライダー】

 □“先々期文明時代”・<カルディナ>周辺

 

 

 

 

 

 「――こんな戦場でも星は見えるのね」

 

 

 そこは現在の<カルディナ>の一面砂漠の乾ききった景色とは違う。

 緑の植物や点々と廃墟のような建物が立ち並ぶ――これから生命を一切感じられないような砂漠へと滅ぼされるとは誰も想像できないような豊かな場所だった。

 遠く離れた街ではたくさんの人々が今も過ごしている。

 地下では昼夜を問わず、“名工”フラグマンの工房が稼働し続ける……大陸の中央地点。

 

 それは、突如、海の向こう側から進行してきた“異大陸船”と13体の『化身』によって滅びる前の時代。

 後に、先々期文明と呼ばれる時代。

 彼女は複数の小さな焚火がポツポツとあるだけの野営地で、星が輝く夜空を眺めていた。

 篝火は焚かれることなく、辺りは数メテル先は見えない程に暗い。

 しかし彼女はそんな暗闇の中でも辺りの景色がハッキリ見えているように見渡しながら、背中を預けた騎獣――巨大な黒狼である【ハイパシーン・ハイウルフ】の顎を撫でた。

 

 

 「……何だか寒いわ」

 『GURUUUUuuuuuuu……』

 

 

 寒くはないはずだ。

 彼女は【アダマンタイト】で作られた全身を纏ったフルプレートアーマーを身に着けているのだから。加えて外気も夜だが肌寒くはない。

 そもそも彼女は就いているジョブの特性上、寒さなどなんともない。

 だが、それでも黒狼に身体を寄せ合いながら……そう、不安そうに口にした。

 そして――。

 

 

 

 

 

 「何じゃ? 武勇に絶えぬ【冥骸騎(イモータル・デスライダー)】ともあろうお主でも怖がることはあるんじゃのぅ。

  それともただ寒いのなら余が温めてやろうか? もちろん――夜伽で……じゃがな」

 「……結構よ。私にはこの子がいるもの」

 「カハハハッ! まさか余が獣程度に負けて振られるとはッ、決戦前に一夜ともに過ごせないかと密かに狙っていたのじゃがな――それともそういう趣味なのか」

 

 

 彼女――『騎兵系統派生超級職』である【冥骸騎】に就く彼女へと、背後から声を掛けたのは一人の少女であった。

 見た目的には中学生に上がった程度の年齢だろうか?

 年寄りのような口調に対して年齢が見合わない年端もいかない少女。

 『超級職』である【冥骸騎】に対しての口調といい、この野営地に似合わぬ年齢といい不思議な少女。

 そしてその少女の見た目もまた、特徴的だった。

 

 ――金糸を編んだような腰まで伸びた髪と少し焼けた小麦色の肌。

 ――水着のような胸と腰を覆う僅かな布と指に嵌めた『赤』と『青』の指輪。

 ――片手で引きずる大きな酒瓶と背後に従える【赤虎】。

 

 少女だが……少女ではない。

 その歳で『超級職』に就く少女は、【冥骸騎】の隣へと腰を下ろしながら酒瓶の蓋を片手で簡単にこ(・・・・・・・)じ開ける(・・・・)

 

 

 「……貴女はいつもそんな下品な事を言ってるの? それとも【女戦士(アマゾネス)】って言うのはそういうものなのかしら――【女帝(エンプレス・レグナント)】」

 「カハハハ、手厳しいのぉ。なに、今回の“進化の化身”が相手となれば余も死を覚悟するものよ。人間としても生存本能がうずくというものじゃ」

 「――そう」

 

 

 【女帝】と呼ばれた少女は、そう笑いながら静かに酒をあおいだ。

 野営地に居る十数人の男や獣人、エルフや吸血鬼。

 そんな中で二人も『超級職』がいるのは不思議な事――というわけでは無い。

 十数人のティアン……彼らは【総司令官(コマンダー・イン・チーフ)】を中心とした超級職のみで構(・・・・・・・)成された(・・・・)“進化の化身”討伐隊なのだから。

 

 ――一人一人がその名を轟かせる英雄。

 

 無限に進化を続けて微塵も倒せる気配もない“進化の化身”を、進化も追いつかない程に個に長けた『超級職』の隊で倒す。

 各地で戦う大勢いた同胞は、その半分以上が既に身体を地に伏せた。

 “名工”フラグマンの兵器もその殆どが破られ、再び造り直すのにも時間が足りない。……そもそも造り直せたとしても13体の化身を倒せるかは分からない。 

 それほどに追い込まれが故に、集い、そして決行した討伐隊であった。

 

 

 「貴方は――勝てると思うの?」

 「そうよな……まぁ、勝てんじゃろう。余らが集まるにはあまりにも遅すぎたからのぉ。良くて時間稼ぎじゃ」

 

 

 どこか不安そうに言う【冥骸騎】に対し、腹を決めたように大人びた仕草で事もなげ言う【女帝】。

 見た目とは正反対に二人は夜空を言葉を交わす。

 今から死地に向かう者同士だからか。

 それとも互いに『騎兵』に似た戦い方をする『超級職』同士だから、大して仲が良いわけでもない二人は何も言わない。

 

 

 「貴方は怖くは無いの? ……私は……少し怖いわ。何よりこの子と離れ離れになるのが嫌なの」

 

 

 【冥骸騎】である女性はそう言いながら騎獣を撫でていた腕を――鎧の中で震えていた腕をもう片手で掴み抱える。

 彼女は怖がりだった。

 本当なら戦うのも止め、どこかでのんびりと暮らしたいと心の底から思っているほどに。

 『超級職』へと辿り着いたのは、死ぬのが怖くて我武者羅に戦ってきただけ。

 【冥骸騎】に就いたのも一重に死ぬのが怖かったから。

 その身体を覆い隠すフルプレートアーマーは、外の世界から自分の世界を守るため。

 

 ――武勇に名をはせた英雄。

 

 そう聞けば聴こえは良いが、【冥骸騎】はただの怖がりな一人の女性だった。

 そんな【冥骸騎】は気が付けば、死を目前に弱り切った心が本音を吐き出していた。彼女自身も何故そんな事を【女帝】に漏らしたかは分からない……もしかしたら何か勇気が出るような言葉をかけて鼓舞してくれるのではないかという一抹の期待もあったのかもしれない。

 

 

 「……そうよな。余も死ぬのは怖いのぉ」

 

 

 しかし、返ってきたのは励ましには程遠い。

 同意する言葉だった。

 

 

 「【女戦士】は死も恐れん――と言うがのぅ、あれは違う。余も生まれた瞬間から【女戦士】でも【女傑】でも……まして【女帝】だったわけじゃない。

  ただそうとしか生きられなかったんじゃ。強さを求め、敵を滅ぼす。余らはその道しか知らん」

 

 

 まだ人生の半分も生きていないだろう【女帝】。

 少女は酒を飲みほしながら語る。

 

 

 「ン、カハハハッ。勘違いはするでないぞ? 別に余は余の事を悲しいとなぞ思ったことは無いし、別の道に生きたかった訳じゃないのでな。むしろ誇りの思うておるぐらいじゃ。

  ――だから、示さねばならぬ(・・・・・・・)

  余を【女帝】と認め、慕ってくれた従僕達の為にも。この道を選んだ余自身為にものぉ」

 

 

 そして……笑う。

 

 

 「人生とは証明じゃ。人が人としての軌跡を残す、己自身の証明よ。故に、余は怖くても逃げぬ。逃げれば自分を自分自身で否定することになるからのぉ……だから、死ぬとしても戦うのじゃ」

 

 

 ――誇りを証明すると。

 その為なら、死も恐れぬと。【女帝】である少女はそう口にした。

 【冥骸騎】はそんな姿がどこか眩しく、苦笑した。

 

 

 「――凄いわね。私は怖がってばかりだから。……私にもそんな誇れるものがあったら良かったのだけれど」

 「カハハハッ、何を言う。そちのその生存願望も一種の立派な誇りのようなものよ。余も、此処に集ったあやつらも誰もがソレは知っているんじゃから間違いないぞ?」

 「そう……なのかしら」

 「うむ、余が保証するぞ」

 

 

 話しているうちに【冥骸騎】は、自身の腕の震えが治まっていることに気が付いた。

 今でも死に対する恐れはある。

 しかし……不思議と先ほどまでの不安は無く、気持ちは軽かった。

 

 

 「のぅ、【冥骸騎】。一つ賭けをせぬか?」

 「……賭け?」

 

 

 そんな【冥骸騎】へと再び話しかける【女帝】。

 カハハハッ――と。

 軽快に笑い声を上げる少女は【冥骸騎】へと笑みを浮かべながら賭けを持ちかけた。

 

 

 「そうじゃ。もし明日の戦いでお互いに生き残れたなら――そちの一晩を余にくれはせんか?」

 「――私が死んだら?」

 「馬鹿を言うでない。【冥骸騎】には『最終奥義(ファイナル・ブロウ)』があるじゃろう」

 

 

 よく知っていると【冥骸騎】は笑う。

 『超級職』の中でもほんの一握りの『超級職』が持っているとされる『最終奥義』。その殆どが使用者の命と引き換えに発動する――命を懸けた技。

 

 曰く、敵を倒すまで自我を失い暴走し、飲まず食わずで戦い続ける『最終奥義』。

 曰く、身に着けた強大な力で空間を叩き割り、その反動で死ぬ『最終奥義』。

 曰く、自身へのダメージを配下へと肩代わりさせ、自爆させる『最終奥義』。

 

 それらは、命がけのモノが殆どであり効果もまた強大である――まさに奥義を超えた『最終奥義』。

 それが【冥骸騎】にも存在する。

 

 

 ――《黄泉帰り(蘇り)》。

 

 それは自身が死ぬと同時に発動するパッシブスキル。

 自身が死ぬと同時にしばらくの間眠りにつき、自身と騎獣の混じりあった『アンデット』へと蘇ると言うもの。

 蘇った瞬間、【冥骸騎】は離れていってしまうが、ステータスも強化される。

 死んでもなお、戦い続けるためのスキル。

 

 

 彼女自身も発動したこともなければ、発動すればどうなるかは詳しくは分からない。

 しかし“進化の化身”と戦いで戦死しても、彼女は必ず蘇る。

 この【女帝】はどういう訳か、【冥骸騎】の『最終奥義』の事を知っていたのだ。

 

 

 「分からないわ。仮に発動しても“冒涜の化身”に人形みたいに量産されるかもしれないし、“天秤の化身”に塵にされるかもしれないんだもの」

 「つまらない事を言うのぅ」

 「当り前でしょう? でも、そうね……」

 

 

 【冥骸騎】はとることの無かった冑を外しながら。

 邪魔になるため、冑の中へと押し込んでいた白銀の髪を振りほどき――夜空の星のように煌めかせ、この野営地に来てから初めて笑った。

 

 

 「――今の貴女なら良いって。そう思っちゃったわ」

 

 

 誰もが振り返るような綺麗な整った顔で微笑んだ。

 

 ……女神のような美しさ。

 

 と、言うのはチープではあるが……その言葉が最も似合うような美人。

 この暗闇で【女帝】以外には見えることは無かったが、仮に見た者がいればその美しさに見とれていただろう。

 甲冑で全身を纏った【冥骸騎】はそれほどに美しかった。

 ――事実、【女帝】は見惚れた。

 そして【女帝】もまた笑う。

 

 

 「……約束じゃぞ?」

 「――えぇ、もちろん」

 

 

 星空は輝き続け、二人は空を見上げる。

 夜は次第にその深さを増していく。

 彼女たちは夜が明ければ“進化の化身”へと決戦を挑む、これは変わることの無い決定事項だった。

 そして――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――次の夜を迎えられた者は誰一人として存在しない。

 それもまた、終わってしまった事実だった。

 

 

 

 

 

 □■

 

 

 

 

 

 【<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>認定条件をクリアしたモンスターが発生】

 【履歴に類似個体なしと確認。<UBM>担当管理AIに通知】

 【<UBM>担当管理AIより承諾通知】

 【対象を<UBM>に認定】

 【対象に能力増強・死後特典化機能を付与】

 【対象を逸話級――訂正】

 【対象を古代伝説級――【冥魂騎 ペイルライダー】と命名します】

 

 

 

 「……」

 

 

 闇の中で決められた作業を繰り返すソレは。

 かつて多くの英雄を葬った“進化の化身”――管理AI4号ジャバウォックは絶えず流れるログの中で少しだけ動きを止め、そのログを注視する。

 

 一日十数という討伐ログと作成をこなすジャバウォックにとっては珍しい。

 

 特定の<UBM>に興味を示した瞬間だった。

 そしてその<UBM>としての特性に目を向けて――。

 

 

 「フム」

 

 

 頷いた。

 【冥骸騎 ペイルライダー】がどこまで辿り着けるかはまだ未知数である。

 <UBM>としての頂点、<SUBM(スペリオル・ユニーク・ボス・モンスター)>まで到達するかは分からない。 

 しかし、同時に確信した。

 

 

 「神話級までは確実に到達する(・・・・・・・)か」

 

 

 幾つもの要因が絡まり合ってしまい、不死身と化した<UBM>を見てそう呟いたのだった。

 同時にジャバウォックは気が付かなかった。

 その<UBM>の元が、かつて自身が倒したティアンの果てだとは。

 

 

 

 

 

 

 




・【冥騎兵】→【冥界騎兵】→【冥骸騎】
・【女戦士】→【女傑】→【女帝】

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