自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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第30話 一騎打ち

 □<【冥骸騎】地下墳墓> 【槍騎兵】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 ――『古代伝説級』<UBM>――【冥魂騎 ペイルライダー】。

 

 

 その正体は、黒い甲冑に身を纏う一体のアンデットだった。

 突然、私達へと牙を剥いた【冥償蘇生 コローネ】のスキルによって蘇ったモンスター。 

 おそらく何もない空間から一から造り出された訳ではない……【冥償蘇生 コローネ】の本体である『黄金の棺』で眠っていた骸の魂が蘇生され、<UBM>として認定された存在。

 私はその姿に――悍ましい程の恐怖に身体を震えさせた。

 

 

 「――ッ」

 

 

 ……勝てない(・・・・)

 一目見てそう思ったのは今日が、【ペイルライダー】が初めてかもしれない。

 それはただの感覚でない。

 これまで幾度となく厳しい戦いを潜り抜け、生き延びてきた戦士(騎兵)としての経験と感覚が確信(・・)として本能に訴えていたのである。

 それほどに、視線の先で何もせずただ立ち尽くす黒騎士――誕生すると同時に【コローネ】を叩き殺し、自身の『リソース』として吸収して見せた【ペイルライダー】は恐ろしかったのだ。

 

 ――狼を象った【アダマンタイト】の黒甲冑に、赤白い朧げな光を宿す目。

 ――姿を隠すように身に纏う黒い靄(・・・)に首から背後へと流れる髪のような青白い炎。

 ――その篭手には紫紺の光沢の刃が特徴的な長剣を握り、もう片手には目には見えない(・・・・・・・)何か(・・)を掴んでいるようにも見える。

 

 ただ視界に入れるだけで身の毛がよだつ。

 鐙に掛けた足が震える。

 そして……口を開けていたことに感謝した。

 口を開けていなければ余りの恐怖に歯が鳴ってしまっただろう。息を吸うのも忘れ、そのまま心臓を止めてしまっていただろう。

 出来るなら今すぐこの場を離れ、【冥魂騎 ペイルライダー】が見えない場所まで逃げ出してしまいたい。

 そう思わせる程に、まるで心臓を鷲掴みにされたような『死』への恐怖が私を襲っていた。

 

 

 「――【義賊王】」

 

 

 呼吸が止まりそうな口から絞り出す、擦れて消えてしまいそうなか細い声。

 

 

 「大丈夫だ……」

 

 

 帰ってきた小さな声。

 それは何の意味も持たない、ただの生存確認である。

 私と【義賊王】は【ペイルライダー】から目を離すことも出来ずに互いに生きているかを確認していた。

 同時にこのままでは思考停止してしまいそうな脳を、何かに突き動かされるように【ペイルライダー】の観察に回す。

 

 (……確実に【嵐竜王】よりは上。……ううん、もしかしたら【封儀神獣 ヒエログリフ】よりも強い)

 

 『古代伝説級』<UBM>最上位の強さを誇っていた【嵐竜王 ドラグハリケーン】を上回る強さを持つと確信する第六感的な勘。

 加えて言えば、その恐ろしさは【ヒエログリフ】を遥かに上回っていた。

 一瞬でも気を抜けば殺されてしまう。

 生存本能をチリチリと刺すような危険信号だ。

 そしてそんな危険信号が脳を刺激し、呼び起こした記憶はずっと昔――【魔樹妖花 アドーニア】を倒し、『特典武具』を手にした際の思い出。

 私は『ヘルプ』に追加されていた“MVP特典のランク”という項目に目を通したのだ。

 

 <UBM>にはそれぞれ強さや保有スキルに応じたランクが付けられる。

 例えば、私が討伐した【アドーニア】や【アズラーイール】は<伝説級(レジェンダリー)>。ホオズキが討伐した【タロース・コア】は<逸話級(エピソード)>だった。

 <逸話級>の上位が<伝説級>、更にその上位が<古代伝説級(エンシェントレジェンダリー)>が存在する。

 そして……もちろんその更に上も……。

 

 

 「……<神話級(マイソロジー)>」

 

 

 気が付けば私はその言葉を口にしていた。

 私は《看破》のような敵のステータスを覗き見るスキルは保有していない。

 装備している【鑑定士のモノクル】でもスキルレベルが低すぎるのだろう……《看破》を使用してもそのステータスは名前以外が全て黒く塗りつぶされて見える。

 しかし……それでも見えてしまった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 【冥魂騎 ペイルライダー】

 種族:アンデット

 レベル:■■

 HP:■■■■■■■

 MP:■■■■

 SP:■■■■

 STR:■■■■■

 AGI:■■■■■

 END:■■■■■

 DEX:■■■

 LUC:■■■

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 ――7桁の超えたH(・・・・・・)P()5桁のSTRと(・・・・・・・)AGI(・・・)END(・・・)を見てしまった。

 ステータスに特化した<UBM>ならその数字も有り得たかもしれない。

 <古代伝説級>以上の<UBM>なのだから、それが当たり前なのかもしれない。

 しかし……【ペイルライダー】は違う。

 その右手に握った『紫紺の長剣』と左手に握った『何か』。身体に纏った何らかのスキルであろう黒い靄。

 明らかにそれらは私に見せつけるように、『ステータス』特化型ではない――と訴えかけていたのだから。

 そして……。

 

 

 

 

 

 『―――――』

 

 「構えろ【騎神】ッ、何か来るぞッ!!」

 「――分かってる!」

 

 

 ゆっくりと左手を(・・・)持ち上げた【ペイルライダー】に私達は武器を構えた。

 何かが来ようとも瞬時に反応できる――今できる限界まで研ぎ澄まされた感覚。

 【ペイルライダー】の一挙手一投足に、指先が、目が、息遣いが連動するように反応する。

 そんな私達は見た。

 

 ――振り下ろされた見えない何か(・・・・・・)を握った左手を。

 

 

 『WAHOOOOOOO~~~Nッ!!』

 

 

 ――【ペイルライダー】の身体を纏う黒い靄から現れた、アストラル体の『巨狼』を。

 ――いつの間にか、その左手に握られていた半透明な手綱を。

 

 目を見開き、驚愕を露わにする私達。

 そんなヴィーレ達を他所に、【ペイルライダー】は実体の無いはずの『巨狼』へと優雅に飛び乗り、《騎乗》した。

 

 (……そうだ)

 

 同時に、私はずっと勘違いしていた大きな間違いに気が付いた。

 ……【冥魂騎 ペイルライダー】。

 その名前に付いた『騎』と言う文字から、自然と『騎士』のアンデットだと思い込んでいたことに。

 『騎』が表すのは何も騎士だけではない。他でも無い、私が就いている【騎神】もそう――『騎兵』も指す文字であることに。

 いや……そうじゃない。

 私が気が付いたのは、【ペイルライダー】のアンデットとしての種族。

 その見た目……首が付いていた(・・・・・・・)ので直ぐには察することが出来なかった正体。

 

 

 「――もしかして【ペイルライダー】の正体は……」

 

 

 【ペイルライダー】の首の蒼白い炎が揺らめき、霊体の巨狼が牙を剥きだして唸り、その爪を地面へと食い込ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――【デュラハン】ッ!!」

 

 

 そして次の瞬間、その姿は掻き消え――。

 

 

 「――なッ!!」

 

 

 袈裟斬りに【義賊王】の身体から真っ赤な血が噴き出し……右腕が宙を飛ん(・・・・・・・)()のだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 「シアンさんッ!?」

 

 

 薄暗いキャンパスに舞い散る鮮やかな赤。

 スローモーションのような私の視界には、肩から脇腹にかけて真っすぐに伸びた傷口から勢いよく血が噴き出し、【義賊王】と【ペイルライダー】の間に右腕が舞う光景が映っていた。 

 誰もが反応できない速度で始まった戦闘。

 

 ――重傷を負い、身体が傾く【義賊王】。

 ――既に次の攻撃へと紫紺の長剣を振り上げる【ペイルライダー】。

 

 余りの驚きに、【義賊王】を前の名称で呼んでしまうが……それすら気にしている暇もない。

 次の瞬間【義賊王】が殺されていても可笑しくないその状況に、私は瞠目しながらアレウスを駆る。

 そして……。

 

 (――速すぎるッ!!)

 

 心の中でそう叫んだ。

 私も【義賊王】も動きを見せない【ペイルライダー】に油断していたわけではない。むしろ警戒は最大まで引き上げ、何にでも反応できる構えでいた。

 しかし……反応出来ない。

 

 ――単純に速すぎる(・・・・)

 

 5桁に達したAGIによる超音速起動。

 しかし【ペイルライダー】のAGIはギリギリ5桁に達しているわけではなくむしろ逆、ギリギリ5桁に(・・・・・・・)収まっていた(・・・・・・)

 8万以上にも及ぶ極まったAGI――0からの超加速攻撃に意識は追い付いていても、身体が反応しなかったのだ。

 故に、この状況は警戒していた賜物。

 警戒していたからこそ【義賊王】は殺される寸前で体を引き、危機一髪で命を取り留めることが出来た……幸運が重なった結果と言えた。

 

 

 「――ハァ!」

 『――』

 

 

 ブレーキを掛けることなく全速力で身体ごと【ペイルライダー】へと突貫するアレウス。

 『純竜』級モンスターすら簡単に踏み潰し、なぎ倒す体当たりを決行し――アストラル体の騎獣である巨狼をすり抜け、勢いよく【ペイルライダー】本体へと激突した。

 同時に【ミラーズ・ベイ】を振るい、振り上げられた紫紺の長剣を受け止める。

 しかしそれもほんの僅かな時間だけ。

 

 

 「ッ! ……STRも化け物みたいに高い!」

 

 

 まるで巨大なこん棒を振り下ろされたような全身に響く重たい衝撃。

 【キング・トロール】と戦った時も《騎乗》での肉弾戦へと発展したことがあったが、確実にそれ以上。

 これほどの衝撃は体験したことも無い。

 突き出した【ミラーズ・ベイ】は押し返そうにもビクともせず、あまりのSTRに弾かれた【ミラーズ・ベイ】と擦れ、火花を上げながら紫紺の長剣が軌道をずらしながら地面へと落ちた。

 倒れた【義賊王】の脇を掠めた紫紺の長剣。

 頑丈な床を叩き割り、瓦礫を弾け飛ばした長剣を見て私は思わず頬を引きつらせた。

 

 (――まともに戦うのはまずいッ)

 

 重たい衝撃に半身が後方へと流れる。

 しかし……そんな事を考えている暇もない!!

 

 

 「――アレウス!!」

 『HIHIIIIIiiiiiii~~N!!』

 

 

 掛け声とともにアレウスが激しく嘶く。

 そしてぶつかり合った【ペイルライダー】を無理やり押し込み、後方へと押し込んでいく。

 互いに『AGIとSTR型』――押し相撲の状態でつり合い……膠着する。

 そして……一歩、また一歩。

 地面へとめり込んだアレウスの剛脚が前へと進み、加速するように押し込み。

 

 

 『――?』

 『BURUUUUUUuuuuu!!』

 

 

 【ペイルライダー】の身体を黄金の棺があった祭壇へと、その身体を吹き飛ばした。

 ステータスはHPとMP、SP以外はアレウスが上回っている。

 複数のスキルを重ね掛けや重さの優位性もあったのだろう。

 

 

 「フェイッ、《紅炎の炎舞》で焼き払って!」

 

 

 【超重砲弾】を焼き溶かそうとした紅炎をそのまま【ペイルライダー】へ。

 床の特殊な石材ごと溶かしながら周囲一帯を焼き払い、私はアレウスから飛び降り、血だまりを作りながらうつ伏せに倒れ伏した【義賊王】へと走り寄った。

 骨の見えた脇腹と白を通り過ぎ、青白い顔の【義賊王】を抱き起こす。

 ……傷が酷い。

 【義賊王】の血で赤く染まる服にぬめりと生暖かい血。

 血の止まる様子を見せない切られた右腕に咽喉が音を鳴らし、息を飲む。

 

 (……ティアンは死んだら――蘇らないんだっ)

 

 【アイテムボックス】から取り出した【高位回復ポーション】の栓を勢いよく抜き、傷口へと振りかけた。

 しかし……回復する様子が見られない。

 一太刀の袈裟斬りによってできた深い傷。

 その傷口から黒く歪んだ不形のオーラのようなものが辺りを浸食していたのだ。

 

 ――【呪い】。

 

 たった一撃で付与された【回復阻害】……モンスターの自己再生すら阻害する高レベルな【呪い】が【義賊王】の身体を少しずつ浸食し続けている。

 

 

 「【ペイルライダー】の固有スキルか、紫紺の長剣のスキルか分からないけど……厄介だね」

 

 

 私は【アイテムボックス】から【高位霊水】を取り出し【義賊王】に服用する。

 <レジェンダリア>で買い込んでおいた3本の内の1本。

 時折、アンデット系の高レベルモンスターが使ってくる【呪い】だが、フェイや特典武具である【万死慈聖 アズラーイール】の相性上、それほど数をストックしていない。

 使う予定の無かった【高位霊水】の1本である。

 

 

 「残りは2本……これで一命は取り留めたと思うけど……」

 

 

 私は再び【高位回復ポーション】を振り掛け、【出血】が止まった【義賊王】を<地下墳墓>の隅へと運ぶ。

 私が出来るのはあくまでも応急処置。

 【出血】で失った血や右腕は、【司祭】系統上級職の治療を受けなければ完治しない……戦闘不能になった【義賊王】を見下ろしながら溜息を吐いた。

 

 (……【ペイルライダー】のまだ討伐アナウンスは流れていない。【義賊王】は戦闘不能で、あいつ(【解体王】)はもうどこかに逃げ出したみたいだし……)

 

 【ミラーズ・ベイ】を片手に再びアレウスへ《騎乗》し、私は未だに轟々と燃え続ける紅炎へ視線を移しながら考える。

 

 

 「――私だけで【ペイルライダー】を討伐しなきゃならないんだ……。炎でダメージは受けてるはずだけど……片腕であれを倒せるかどうか」

 

 

 アンデット系である【ペイルライダー】と相性は悪くは無いはずだ。

 弱点である炎に、【アズラーイール】で無制限に《怨念燃炎》でフェイのエネルギー補給が出来る。

 ただの<UBM>のアンデットならおそらく苦戦する事はあっても負けることは無い……が。

 

 

 『――ッ』

 「……何で効いてないの」

 

 

 鎮火する気配もない紅炎の猛火の中、陽炎のように揺らめく黒い人影。

 赤黒く焼け溶けた床がマグマの如く空気を歪ませながら……【ペイルライダー】の踏み出した足によって飛散し、黒い塊となって床に転がった。

 アンデットは火と光が弱点のはず。

 それなのに――【ペイルライダー】は何事も無かったかのように劫火の中を散歩し、姿を現したのだ。 

 黒狼の鎧は熱で所々が変形しているがそれ以外にダメージを受けたような痕跡がない。

 いや、それだけではない。

 紅炎を抜けると同時に、アストラル体だった巨狼が黒い靄の中から再び姿を現したではないか。

 

 

 「――『神話級』<UBM>……【冥魂騎 ペイルライダー】。……あれだけのステータスで炎も効かないデュラハンかぁ~」

 

 

 その禍々しい雰囲気に。

 圧倒的な強さに、私は一周回って笑みを浮かべながら苦笑を漏らした。

 

 

 「左手だけで。炎も、きっと弓も通じない上にソロ討伐って……」

 

 

 無茶な、無謀な戦いだ。

 それこそ、一撃貰えば私も良くて【義賊王】のように戦闘不能か。悪ければ【即死】してデスペナルティになり、【ペイルライダー】はシアンディールだけではなく<グランドル>を壊滅させ、誰も手がつけられない『天災』と化す。

 ホオズキもアンデット相手には相性が悪い。

 きっと死者は数千人はくだらない……しかし。

 

 

 「……何でかな、少しワクワクするかも」

 

 

 追い詰められたら状況に。

 同じ騎兵の<UBM>に。

 私以上の速度の敵に、心のどこかで戦いを楽しみにしている私が居た。

 故に、再び巨狼へと騎乗する【ペイルライダー】に、私は【ミラーズ・ベイ】を構えながら名乗りを上げる。

 

 

 「我が名は【騎神】――ヴィーレ・ラルテ。

  師匠から受け継いだ誇りのため、<グランドル>のみんなを救うため。そして……私自身の貫き通す信念のため」

 『――~』

 

 

 全身に炎鎧を纏い、手綱を炎の篭手で握り込みながら兜のバイザーを左手で下ろした。

 

 

 「【冥魂騎 ペイルライダー】、貴女を此処で討伐させてもらうッ!!」

 

 

 騎兵は2人。

 太古の先々月文明より《黄泉返り》し屍騎兵と、今世最速の騎兵は手綱を引き、互いに騎獣を駆ったのだった。

 

 

 

 

 




【冥魂騎 ペイルライダー】
種族:アンデット系
レベル:■■
能力:???
発生:自然発生
作成者:【冥償蘇生 コローネ】
備考:生前の超級職―【冥骸騎】が最終奥義《黄泉返り》で眠っていたところを【コローネ】がリソースを注ぎ込み、<UBM>と化したアンデット。
生前の武具である【アダマンタイト】のフルメイルが騎獣である【ハイパシーン・ハイウルフ】と混じりあい、黒狼の騎士となっている。
武装は紫紺の長剣と『何か』、黒い靄。
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