自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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第35話 さようなら

 □■<【冥骸騎】地下墳墓>

 

 

 

 

 

 『――~ッ!』

 

 

 それは驚愕と困惑、そして焦燥の絶叫だった。

 自我も思考すらも無い、【冥神騎 ペイルライダー】にとってスキルが使用できないのは未知の出来事。

 

 何故か発動しないスキル。

 吸収できない大量の魂。

 自身を殺すことが出来る武器。

 

 それら全ての未知が【ペイルライダー】の中で激流となって渦巻いた。

 吸収された魂が呪いのような泣き声を上げ、阿鼻叫喚のオーケストラとなって共鳴する。

 生者が耳を傾ければ気が狂ってしまうだろう絶叫。

 【ペイルライダー】はそんな悲鳴を聞き…………そして、本能が訴える衝動のままに憤怒した。

 

 ――生者だ。

 

 生者の灯火(いのち)を全て消し去らなければ、【ペイルライダー】の中の叫喚は消えはしない。

 この死への恐怖は、危機感は消えはしない。

 目の前の騎兵(ヴィーレ)を殺さなくては消えはしない。

 

 

 『――ァ、ァァァァァァァァァァアアアアアアアッ!!』

 

 

 轟く絶叫。

 そして【ペイルライダー】は目の前に立つ強大な猛焔(ヴィーレ)へと走り出した。

 憤怒のままに。

 衝動のままに。

 あまりの激しい怒りの衝動に、【ペイルライダー】は怨念の炎でアストラル体の巨黒狼は消えている事にも気が付かない。

 右手に握った刃折れの紫紺の長剣をヴィーレ目掛けて勢いよく振り上げ――、

 

 

 『――ァ?』

 

 

 次の瞬間、何かが横を駆け抜けるのと同時に焼失した右手(・・・・・・)を見た。

 ――ガキィーン、と。

 握っていた筈の紫紺の長剣が後方の地面に落ち、奏でた硬い金属音に気が付いた。 

 【ペイルライダー】はそんな音に反応するように。自らの武器を追うように背後へと振り返り、

 

 ――深緑の一閃に兜(・・・・・・・)の頬を焼き切ら(・・・・・・・)れた(・・)

 

 ……おかしい。

 騎兵と言うのはその機動力が、スピードが速いほど連続した攻撃や急なUターンが出来なくなるものだ。

 それが超音速。

 超々音速機動に達したならなおさらである。

 どうしても連続攻撃をしたいのならスピードを減速する、もしくは『Type:キャッスル』や『Type:テリトリー』などの<エンブリオ>のスキルで【騎兵】の全力が出せる戦場を作り出すしかない。

 

 しかし……やはりそれでも有り得ない。

 《一騎当神》によって加速したアレウスよりも高いAGIを持つ【ペイルライダー】が視認できな程の超速の攻撃。

 加えて、駆け抜けた方向からの連続攻撃。

 それこそ【騎兵】の常識を逸脱している。

 普通ならば……そう、普通ならば駆け抜けた後は大きく迂回し、再び攻撃するはずなのだ。

 それなのにヴィーレは――【騎神(ザ・ライダー)】は、

 

 

 

 

 

 ――『超々音速機動で駆け抜け、間髪を入れずに駆け抜けた方向から攻撃してきた』

 

 

 

 

 

 『――ァ、ァァァァアアアア!!』

 『WHAOOOOOoooooo~~Nッ!』

 

 

 気が付けば【ペイルライダー】はヴィーレから逃げるように、巨黒狼を召喚し、<地下墳墓>内を駆けていた。

 互いに同程度のAGI。

 鋼鉄をも踏み砕くSTR。

 二騎の騎兵が駆ける度に、地面を揺るがすような轟音と振動と共に<地下墳墓>が瓦解していく。

 【ペイルライダー】は疾走中に刃折れの紫紺の長剣を《ポルターガイスト》で操り、黒い靄を竜巻のように纏わせて飛ばす。

 ヴィーレは片手に握った深緑の長槍を片手に、卓越した騎乗技術で立ち回る。 

 

 ――紫紺の長剣、【ミラーズ・ベイ】で迎撃。

 ――吹き荒れる紅焔、黒い靄で防御と回避。

 ――そして……超々音速機動でぶつかり合う。

 

 一撃でも正面から食らえば即、デスペナルティ。

 打ち合っては駆け、そしてまたぶつかり合う。

 ヴィーレと【ペイルライダー】の戦いは時間が経過するごとに、熱を帯びるように加速していく。

 ――そして。

 

 

 『――ッ』

 

 

 【ペイルライダー】の左足が焼け落ち(・・・・・・・)()

 突然、超々音速機動で直角に曲がり、【ミラーズ・ベイ】を薙ぎ払ったヴィーレによって斬り落とされたのだ。

 そして、同時に見た。

 馬鹿らしい。

 信じられない。

 理屈は理解できても、絶対に実行しようとも思えない行為を実行している【騎神】の姿を。

 

 

 ――二本の紅鉄の鎖を地面へと突き立て、ブレーキをかけて急旋回した姿を。

 

 

 言葉で表すのは容易いが……それはあまりにも非常識な行為だ。

 少しでも間違えば身体がバラバラに引き千切られ、即デスペナルティになっても可笑しくない絶技だ。

 それは例えるのなら、数百キロで走行中のバイクから地面に足を突き出し、無理やりブレーキをかけながら曲がるようなもの。

 列車を足で止めようとするものである。

 いや……少しでも間違えばと言ったが、それも違う。

 

 ――実行不可能。

 

 実行すれば、間違いなくヴィーレの身体は反動に耐え切れず引きちぎれる。

 騎獣であるアレウスもその負荷に耐え切れず、【部位骨折】になるだろう。

 そもそもそんな事をすれば《騎乗》状態を維持できずに、ヴィーレは宙へと投げ出されてしまうはずだ。

 ……だがっ!!

 

 

 「――《紅鎖の翼(タラリア)》」

 ヴィーレは成した。

 

 

 そして、止まらない。

 ヴィーレは更に切り返(反転)し、超加速しながら振るった深緑の長槍が【ペイルライダー】の魔鎧を掠める。

 AGIで勝っているはずの【ペイルライダー】も何故かその攻撃を避けられない。

 【騎兵】にあるまじき怒涛の連続攻撃。

 あれほど絶望的なまでな強さを誇っていた【冥神騎 ペイルライダー】を圧倒する。

 強力な固有スキルを封じ、黒死の疫病を焼き尽くし、圧倒的なステータスに並んだヴィーレ。

 こうなってしまえば、卓越した技量を持つヴィーレが。

 ただの衝動ではない、覚悟と使命。決して曲げられぬ信念を心に宿すヴィーレに負ける要素は何一つとして有りはしなかった。

 そう……戦場はもはや、ヴィーレの独壇場と化していた。

 

 ――この土壇場で、【騎神】としての新たなオリジナル《騎乗》スキルを生み出すほどに。

 

 

 「――フッ!!」

 『HIHIIIIiiiiii~~Nッ!!』

 

 

 掛け声と共に、勢いよく引いた手綱。

 左手に握った手綱から伝わってくるのは、手綱の先が岩盤に繋がっているのではないかと思わせる程の重たく、そしてビクともしない硬い感触。

 しかし、その手綱を介してヴィーレの意志はアレウスへと伝わる。

 

 ――『加速しろ』、と。

 

 大きな嘶き。

 鼻から荒い鼻息を噴き出し、アレウスは背後に引かれた手綱に逆らうように。

 前へ、前へと猛進するように、その豪脚で地面を踏みしめた。

 そして……、

 

 

 「――」

 

 

 ……ヴィーレはほんの僅か。

 ほんの一瞬、《騎乗》スキルの判定が切れる程度その身体を宙に浮かせた。

 

 同時に、身体を襲う凄まじい程の衝撃。

 ヴィーレの四肢にそれぞれ一本ずづ巻かれた『紅鉄の鎖』。

 その足に巻かれた二本の鎖が地面へと突き立てられ、まるでブレーキのようにヴィーレの身体を背後へと引き留めていたのだ。

 

 それは、まさしく先ほど例に出した「走行中のバイクを足で止める」ような行為。

 

 ――左手には、猛進するアレウスと連結した手綱(アクセル)

 ――両足には、ガッチリと地面に繋がれた二本の紅鉄の鎖(ブレーキ)

 

 次の瞬間、貧弱なヴィーレの身体は千切れ飛ぶ光景を幻視してしまうが……そんな事は起こりえない。

 《騎乗》中の騎獣の全ステータスを十倍化する《一騎当神》やその他諸々のスキル。その全てが『不死鳥の魔人』であるヴィーレに掛かっているのだから。

 両足が圧し折れ、左腕が外れる。

 しかし次の瞬間、アレウスは確かに静止していた。

 そして…………静止しているの(・・・・・・・)ならば(・・・)方向転換は容易(・・・・・・・)()

 

 

 「アレウスッ」

 『BURURUUUuuu』

 

 

 その方向転換は直角――を超え、鋭角へ。

 普通の【騎兵】では取ることは不可能な機動変更を可能にする。

 

 同時に再びアレウスへと《騎乗》し、本来取りえない機動変更で【ペイルライダー】へと連続攻撃を仕掛けた。

 攻撃を仕掛けるヴィーレとアレウスには既に先ほどの負荷による負傷は見られない。

 何故か……と、問うのは愚問だ。

 ヴィーレには【焔神廻鳥 フェニックス】のスキルである《蒼焔の誕生》があるのだから。

 【部位骨折】程度一秒も掛からない。

 不死鳥の蒼い焔は全て再生し、完治させる。

 しかし何より驚くべきことは、これらの複雑な工程をヴィーレは一秒未満で同時にこなしている事だ。

 

 

 ――アレウスが『アクセル』としての機能を。

 ――紅鉄の鎖が『ブレーキ』としての機能を。

 ――ヴィーレが『制御装置』としての機能を果たす。

 

 

 簡単そうに見えるが……その実、即死しても可笑しくない荒業。

 ブレーキをかけるタイミングを間違えば。

 身体を僅かに浮かせたヴィーレが態勢を崩せば。

 そして、それらの状態を保った状態での機動変更や《蒼焔の誕生》を僅かにでも間違えれば――――全てが終わる。

 

 このスキルを成す肝であり、中核――それは他でも無い、ヴィーレの騎乗技術だった

 

 一つでも欠けてしまえばこのスキルは発動しない。

 《天つ暁星の転生者》を使用した上で、使用可能なヴィーレのオリジナルスキル。

 

 

 ――《紅鎖の翼(タラリア)》。

 

 

 それは【騎兵】としての不可能化を可能にする、“超機動&超加速スキル”だった。

 

 

 

 

 

 『――ァ、ァァァァアアアアアアアアアーーッ!!』

 『WHAOOOOOOOoooooo~~Nッ!』

 

 

 だからこそ、【ペイルライダー】はそんなヴィーレへ真正面から突っ(・・・・・・・・)込んだ(・・・)

 

 ――文字通りの“正面突破”。

 

 このまま戦えば、機動力に分があるヴィーレが勝つのは必然。

 それなら正面から小細工無しでぶつかり合った方がチャンスはある。

 《紅鎖の翼》はヴィーレの騎乗技術によって成り立っているオリジナルスキル……そこに大きな弱点があ(・・・・・・・)()

 決して克服できない、弱点があるッ!

 

 

 「――」

 『――』

 

 

 超々音速機動で駆ける二騎の騎兵。

 ヴィーレは真正面から突っ込んでくる【ペイルライダー】の姿に少しだけ眉を寄せ、そして――勝負に乗った。

 ヴィーレ自身も短期決戦は望むところ。

 《天つ暁星の転生者》のタイムリミットが存在する以上、時間を稼がれることが一番嫌な事だからだ。

 

 ――黒い靄をマントのように纏い、刃折れの紫紺の長剣を浮かせて疾走する【ペイルライダー】。

 ――紅鉄の鎖を四肢に巻き付け、【ミラーズ・ベイ】を片手に加速するヴィーレ。

 

 互いとの距離などもはや関係ない。

 次の瞬間、その距離は消えさっていた。

 残り一歩。

 数コンマ秒。

 二騎は互いの攻撃射程に入る――その瞬間だった。

 

 

 「――ッ!?」

 

 

 二騎を囲む、黒の帳が降りた。

 それは互いの退路を阻む様に展開された“半球の檻”、《ソウル・ドミネーター》による黒い靄の乱気流だった。

 一見すれば無意味な行為。

 《ソウル・ドミネーター》の進行をヴィーレは《蒼焔の誕生》で無効化している。

 黒い靄事態にも攻撃力は一切ないのだから。

 

 しかし……焔矢をはじく程度には強力な乱気流。

 もし仮に、《紅鎖の翼》を発動中にその黒死の靄に触れてしまえば。ほんの僅かでも態勢を崩せば反動をもろに受け、身体が引きちぎれて自滅する……ぐらいの事は起こり得るだろう。

 

 

 ――そう……《紅鎖の翼》の弱点とは、周囲の影響を強く受けるという点。

 

 

 例え、心地良いそよ風だろうと。

 戦闘中に気になるはずも無い微風だろうと吹いてしまえば、それはヴィーレにとっての大きな障害。

 ましてや乱気流ともなれば……今のヴィーレでは確実に自滅するに違いない。

 左右を塞がれ、進めるのは前方のみ。

 そして……。

 

 

 『――ァ、ァァァァアアアア!!』

 

 

 【ペイルライダー】の黒狼の魔鎧。

 その腰から伸びた『黒刃の尾(・・・・)』が唸りを上げた。

 黒刃の尾は、超々音速で【ペイルライダー】の周囲を切り刻む斬断の刃の結界と化す。

 

 ――それはまるで、【剣王(キング・オブ・ソード)】の奥義である《ソード・アヴァランチ》。

 

 六桁のステータスを持つ黒刃の尾だ。

 生半可な攻撃では武器ごと叩き切られ、身体を斬断されてしまうだろう。

 成長するのはヴィーレだけではない。

 

 【ペイルライダー】の窮地に立たされた危機感が。

 ヴィーレと言う強敵が、この土壇場で【ペイルライダー】を急成長させたのだ。

 

 敢えて名付けるのなら……《ソードテール・アヴァランチ》、と言ったところだろう。

 左右、背後には黒い靄の乱気流の結界。

 前方には全てを切り刻む《ソードテール・アヴァランチ》。

 既に《紅鎖の翼(タラリア)》以外では回避不可能な至近距離、ヴィーレは絶体絶命の窮地に立たされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――《紅鎖の翼》」

 『HIHIIIIiiiii~~Nッ!!』

 

 

 そして――【ペイルライダー】は判断を誤った。

 ヴィーレのオリジナルスキル、《紅鎖の翼》は超機動を可能にするアクティブスキル。

 しかし……同時に超加速スキル(・・・・・・)でもある。

 

 例えるのなら、それは“デコピン”だ。

 人差し指だけで物体を弾こうとしても案外その力は弱い。

 だが、親指を用いて力の貯め(・・・・)を作ることで、その力は数倍に。衝撃も遥かに大きくなる。

 

 その現象が同じく《紅鎖の翼》でも起きていた。

 ブレーキと言う名の『力の貯め』に、アレウスと言う名のアクセルが全力で力を込め――――

 

 

 「《チャージ・スパイク》」

 『――ァ?』

 

 

 ――――駆けていたヴィーレの姿が霞んで消えた。

 

 【ペイルライダー】でさえも反応できない。

 その姿を追うことも出来ない、一瞬の超加速。

 《チャージ・スパイク》と共に突き出された【ミラーズ・ベイ】は、《ソードテール・アヴァランチ》を突破し、【ペイルライダー】の黒狼の魔鎧を穿ち貫いた。

 凄まじい威力。 

 有り余る勢い。 

 【ミラーズ・ベイ】は使用者への反動も反転し、その矛先の攻撃力に変える。

 故に……。

 

 

 「――突き、抜けろォッ!!」

 『――ッ!??』

 

 

 その一撃は全てを穿ち、<地下墳墓>の壁をも突き抜け、岩壁まで貫き通した。

 音を立て、崩れる瓦礫。

 舞い上がる砂塵に映し出す二つに影。

 そして……その粉塵が晴れた時、そこにあったのは一つの光景。

 

 

 

 

 

 ――胸甲を大破させ、大穴から本体である霊体を晒した【冥神騎 ペイルライダー】の姿だった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 ――決着は付いた。

 

 

 絶望的が蔓延する<地下墳墓>で目を覚ました“冥府の騎兵(【ペイルライダー】)”。

 “不死身”の神話級<UBM>が地上に放たれる。

 その脅威は、<カルディア>のカルディナ議会(ラ・プラス・ファン)議長(タズマ)ですら推し量ることはきっと出来ない……<超級(スペリオル)>と呼ばれる者たちがまだ存在しない世界において、それは一国が滅びても可笑しくない『厄災』だ。

 しかし……勝った。

 それは“英雄譚(ヒロイック)”のような輝かしい物語ではない。

 

 【義賊王】は死んだ。

 多くの魂が飲み込まれた。

 黒死の疫病が蔓延した。

 

 泥に塗れ、血を流しながら掴み取った可能性だ。

 

 義行が残した最後の一手。

 【ヒエログリフ】への貸。

 そして……貫き通す覚悟。

 

 どれか一つでも欠けていては、勝利は掴むのは不可能だっただろう。

 唯の“少女”では勝てない。

 英雄にはなれない。

 しかし……“不死鳥の魔人”は、少なくとも【冥神騎 ペイルライダー】に勝つことが出来る存在へ堕ち上がる(・・・・・)ことが出来たのだ。

 

 【槍騎兵】ヴィーレ・ラルテの勝利。

 それは積み重ねてきたモノを貫き通したが上の奇跡だった。

 

 そして、同時にヴィーレは知っている。

 ――勝負には勝った。

 だが……まだ、【ペイルライダー】は倒せていない(・・・・・・)事を。

 

 

 

 

 

 『――ァ、ガァァァアアアア~~ッ!!』

 

 

 それは獣の雄叫びのような。

 金属が擦れ合っているかのような怨念の絶叫が轟き渡った。

 

 騎獣であるアストラル体の巨黒狼が消え、宙に浮くような形で【ミラーズ・ベイ】によって岩壁へと縫い留められた【冥神騎 ペイルライダー】。

 その左篭手が空気を叩き、瓦礫を粉砕する。

 その右脚甲が黒狼の魔鎧を揺らし、深緑の長槍を軋ませる。

 超紅炎を纏った【ミラーズ・ベイ】に苦しむ様に。その身一つで地上を地獄に変える【ペイルライダー】は手負いの獣のように暴れ始めた。

 

 

 「――ッ」

 『BURUUUuuu!』

 

 

 砕けた瓦礫が五月雨式に。

 叩かれた空気が衝撃波となってヴィーレとアレウスを襲う。

 

 

 ――分かっていた(・・・・・・)

 

 

 【ペイルライダー】に物理攻撃が効かない事は。

 致命ダメージを負いながらも【義賊王】の魂を取り込み、《自己再生》などによって回復した膨大な『HP』を削りきれない事は。

 ヴィーレは嫌と言う程に良く理解している。

 その身をもって嫌と言う程に体験している。

 ……もはや、まともな攻撃(紅焔の神舞)では倒すことは不可能である、と。

 事実、渾身の一撃すら膨大なHPのほんの一部しか削れておらず、【ペイルライダー】の強化された《自己再生》によって致命ダメージ……と呼べるほどのダメージは与えられていない。

 

 (――必要なのは、【ペイルライダー】のHPを一撃で葬り去ることが出来る程の攻撃ッ)

 

 故に、やるべきことはたった一つ。

 

 

 

 

 「――アレウス、これが最後の命令だよ。だから……残していた余力も全部、ここで絞り出せッ!!」

 『――! BURUUUUUuuUUUUUUU~~ッ!!』

 

 『――~~ッ!??』

 

 

 【ミラーズ・ベイ】を叩き折ろうと左手を振り下ろした【ペイルライダー】。

 しかし……その拳は己を貫く長槍に当たらずに空をきる。

 突如、上空へと上昇し(・・・・・・・)始めた(・・・)アレウスによって空をきったのだ。

 そして……気が付いた。

 

 天井が無い……今この場所は、<地下墳墓>内ではないと。

 

 そう、そこは【解体王】がヴィーレ達を強襲するために掘った、唯一の<地下墳墓>から地上への一本道。

 先ほどの《チャージ・スパイク》によって、ヴィーレは縦穴と<地下墳墓>を塞いでいた落石を突き破り、【ペイルライダー】ごと縦穴の底へと躍り出ていたのだ。

 上を仰げば視界を遮るものは何も無い。

 

 ――見えるのは月明りの無い夜空。

 ――顔を吹きつけるのは冷たい夜の砂漠の寒風。

 

 ヴィーレとアレウスは一塵の風となり、紅焔を纏い駆け上がる。

 アレウスの剛脚が壁を割り、馬脚を食い込ませながら加速していく。

 

 

 『――ァ、ァアッ』

 

 

 しかし……【ペイルライダー】もそんな行動をまざまざ見逃すはずも無い。

 自身の命を脅かそうとするその行為を、受け入れるわけにはいかない。

 ……逃れる手段は簡単だ。

 再び、その拳を振り下ろし【ミラーズ・ベイ】を叩き折ればいい。

 幸い【冥神騎 ペイルライダー】には物理攻撃は効かない。

 もちろんソレが落下ダメージであろうと――だ。

 そうなれば余力を振り絞ったアレウスが。態勢を崩したヴィーレが地面へと叩きつけられ死亡する。

 

 ……たったそれだけ。

 ほんのひと動作。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『――――』

 

 

 しかし、【ペイルライダー】はその動作を取ることが出来なかった。

 何があった訳でもない。

 ただ、その虚ろな眼孔に映り込んだ光景に見とれていた。

 

 ――アレウスの纏う、赤のオーラに。

 ヴィーレの白肌を侵食して広がる不思議な黒い紋(・・・・・・・)()に。

 

 

 「――ッ!」

 『~~ッ』

 

 

 見覚えがあった。

 【冥神騎 ペイルライダー】は知らない。

 ……それは【ペイルライダー】の元となった『超級職』――――【冥骸騎】だったころの記憶。

 今、目の前のヴィーレの姿が――かつて命を落とした戦場で共に戦った少女の姿と重なった。

 

 

 『HIHIIIIIiiiiiii~~Nッ!!』

 

 

 

  ――《軍神咆哮(ゴッド・オブ・ウォー)》。

 

 ヴィーレ自身も初めて使った日――あの【解体王】との戦いでは、その詳細を知らなかった謎のスキル。

 《軍神咆哮》、それは本来【女帝(エンプレス・レグナント)】の固有スキル。

 初代であり最後の【女帝】――かつて世界を襲った“進化の化身”討伐へ参加し、無念の内に死んだ。今はロストジョブとなった【女帝】の――『複数指定のバフスキル』だ。

 もちろんがヴィーレは【騎神】であって【女帝】ではない。【【女帝】の武の指輪】によって再現された、本来の《軍神咆哮》の劣化スキル(・・・・・)である。

 そして今、ヴィーレはそのスキルの意味を理解して使用した。

 

 『使用時に1秒間に【女戦士(アマゾネス)】系統ジョブレベルを1消費する。スキルレベル×対象に『消費したジョブレベル×100』のステータス増加を与える』

 

 その白肌を侵食する紋様は、軍神に認められた紋様だ。

 従魔が纏うその赤のオーラは、決して消えぬ闘志の表れだ。

 

 

 「――ァァァァァァアアアアアア~~ッ!!」

 

 

 ――『……どうした? まだ諦めるのは早かろう――■■■■■■■』

 

 

 フラッシュバックする誰とも知らぬ人顔。

 リプレイされる【ペイルライダー】を激励する凛々しい少女の声。

 

 たった今。

 ほんの一瞬、数秒程度。

 自我を持たない【冥神騎 ペイルライダー】は意識が芽生え、ハッキリとその声を聞いた。

 目の前で命を投げうち、戦うヴィーレの姿にかつての英雄(仲間)の姿を重ねた。

 そして……その一瞬が命運を分けた。

 

 

 「――聞こえてるなら、力を貸してッ! ――アロンッ!!」

 

 

 ()へと駆け上る紅蓮の一矢となって加速する。

 そのスピードは縦穴の底へと落下した時よりも遥かに速い。

 数秒の内に数キロメテル言う距離を駆け抜け、月明かりの無い、暗闇の地上へと飛び出たが――。

 

  

 『GWAWOOOOOOOOOOoooo--~~~ッ!!』

 

 

 ヴィーレの疾走は止まらない。

 

 肌をヒリつかせ、辺りに響き渡る轟く咆哮。

 アレウス越しに伝わってくる地面の大きな揺れ。

 そして…………道が現れた。

 

 ――それは、天へと伸び続ける岩盤の()

 

 ヴィーレが<地下墳墓>へと落ちた後も地上で待機していたアロンがヴィーレの意志に応え、《地盤操作》によってアレウスの駆ける道を造り出したのである。

 【ペイルライダー】も知らない、三体目の騎獣。

 遠く離れた戦場で、互いに意志の疎通も取れないヴィーレとアロン。

 いつ来るかも分からないヴィーレからの指令。

 しかし……今こうして、アロンは即座にヴィーレの声に。願いに応えて見せた。

 

 

 『――~~!??』

 

 

 戸惑う【ペイルライダー】を。

 全てを地平線の彼方へ置き去りにして、超々音速機動のヴィーレは加速していく。

 

 

 「ハァァァァアアアアアアッツ!!」

 

 

 ヴィーレの声に呼応するように。

 あまりの凄まじい加速に、宙に置き去りにされるように(ほど)けた4本の『紅鉄の鎖』。

 紅鉄の鎖は紅焔へ。

 紅焔は焔翼へ。

 二対の焔翼はヴィーレの背を押し、夜空に向けて加速する。

 

 

 

 吹きつける風圧に身体へと掛かるG(重力)が、容赦なくENDの下がったヴィーレを襲った。

 嫌な音が脳内に響き、内出血で肌が赤紫に腫れ上がる。

 

 ――しかし、それは決して折れない不死鳥の焔翼。

 

 

 アレウスのSTRや障害物の無い突風が、《地盤操作》の岩盤の塔に罅を走らせた。

 足場は不安定。駆ける程に細く、脆くなっている。

 

 ――しかし、それは決して崩れぬ不屈の義行が繋いだ道。

 

 

 アレウスを。ヴィーレの身体を極寒の砂漠が冷やし、【凍結】させて感覚を奪っていった。

 《火焔増蓄》の貯めこんだ火力は全てとあるスキルに回している。

 故に、ヴィーレを外気から守る紅焔はほんの僅か。

 

 ――しかし、その瞳の奥の炎は決して消えぬ……何百年の時を超えた意志が繋ぐ不滅の炎だ。

 

 

 

 「――ッ」

 『――ァ、ァァァアアア』

 

 

 そして今……それら全てを持って、ヴィーレは【冥神騎 ペイルライダー】を超えてみせた。

 天へと伸びる塔を駆け上り、夜空を覆う分厚い雲を突き抜ける。

 同時に、ヴィーレは見た。

 

 ――雲を抜けた別世界。

 ――月光が雲に映し出すヴィーレと【ペイルライダー】の影。

 

 金色の瞳に映ったのは、彼方まで続く雲の海原。

 天から顔を覗かせる、欠け一つない満月。

 硝子を砕いたような星々が散りばめられ、眩しい程に辺りを照らす。

 そして…………。

 

 

 

 

 

 ――【万死慈聖 アズラーイール】の純白の刀身が淡(・・・・・・・)く輝いた(・・・・)

 

 

 

 

 

 月明かりを吸い込む様に。

 あの日の(アイラちゃんと出会った)夜を懐かしむ様に。

 静かに、そのスキル(・・・)の使用条件を満たしたことをヴィーレに告げる。

 

 一つ、『黒い鞘から抜いた状態である事』。

 二つ、『使用相手が少女で無い事』。

 

 そして、三つ目。

 

 ――『月が完全に目視できる夜である事』。

 

 厳しい使用条件。

 加えて、【焔神廻鳥 フェニックス】の《火焔増蓄》による膨大なMPが手にはいる――と言うヴィーレにアジャストした『固有スキル』。

 だが、そのスキルは確実に厳しい条件に十分に見合うだけの効果を持つ。

 そして…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――ペイルライダー」

 『――』

 

 

 その戦いの終わりは呆気なく。

 静かに、そして穏やかにヴィーレと【ペイルライダー】のもとに訪れた。

  

 右手で固定するように【ペイルライダー】を貫き持ち上げていた【ミラーズ・ベイ】。

 摩擦に擦り向けた少女の手の平。

 滴る赤い血が腕を伝い、【ミラーズ・ベイ】の柄を伝い、遥か下の地上へ雫となって落ちていく。

 そんな血に濡れた【ミラーズ・ベイ】を――――ヴィーレは捨て(・・・・・・・)()

 

 

 ――空中に置き去りにするように手放した深緑の長槍。

 ――代わりにその手に握り込んだ、光を帯びる【アズラーイール】。

 

 

 故に【ペイルライダー】を宙に支えていたモノはもう無い。

 同時に、その黒狼の魔鎧は地上へと向けて自由落下を開始し、

 

 

 「……」

 『BURUUUUUUUuuuu……』

 

 

 【冥神騎 ペイルライダー】はまるで、夢に浸るように。

 自らその白刃を受け入れ(・・・・・・・)るように(・・・・)、【アズラーイール】の刀身を自身の本体であるアストラル体へ。

 猛威を奮っていた『神話級』<UBM>【冥神騎 ペイルライダー】。

 その身は何一つ抵抗することなく、ただ静かにヴィーレに寄りかかった。

 あれほど恐ろしかった雰囲気は何処にもない。

 【ペイルライダー】のその姿はまるでどこか満足したような…………何か、大切なモノ()を見つけ出したかのような穏やかな雰囲気だった。

 そして、ヴィーレは小さく。誰にも聞こえないような擦れた声で呟くのだ。

 

 

 

 

 

 「――――さようなら」

 ――と。

 

 

 【万死慈聖 アズラーイール】の第二の装備スキル。

 それは、殺せないモノを殺す為のスキル。

 

 ――雲の上の幻想と、地上の下の地獄。

 ――光と闇。

 ――生と死。

 

 二つの境界線を貫き、曖昧にする短剣型特典武具。

 それは、スキル名通り……『神』だって殺して見せるスキル。

 

 

 

 

 

 「《万神殺し》」

 

 

 

 

 

 <カルディナ>最北端都市――――“氷冷都市”<グランドル>。

 その日の天気、雨。

 後――曇天、また細雪(ささめゆき)

 

 そして…………快晴。

 

 《万神殺し》に込められた、【ペイルライダー】をも殺す膨大なMP。

 そのMPは、天地を貫く巨大な炎の十字架となって【冥神騎 ペイルライダー】を貫いた。 

 地表に降りた霜を溶かし。

 空を覆う曇天を蒸発させ。

 長い間、“怨念と復讐”と言う名の鎖に時間を止めていた都市……“氷冷都市”<グランドル>の時を動かし始める。

 

 ヴィーレの金色の瞳の中で、長きに渡る怨念を一身に抱えた【冥神騎 ペイルライダー】が光の塵となって夜空に溶けて消えた。

 

 

 「……」

 『BURUUUUuuuッ!??』

 

 

 同時に、ヴィーレの左手も手綱から放れ、力尽きたようにその身体を宙へとよろめき落ちた。

 傷だらけの身体を襲う浮遊感も。

 驚き、焦るアレウスの嘶きもヴィーレの耳には届かない。

 ただその瞳は満月の浮かぶ夜空を。

 タイムリミットを迎え、空中に霧散していく《天つ暁星の転生者》の焔翼を映していた。

 そして……。

 

 

 

 「――さようなら……」

 

 

 

 薄れゆく意識は、誰に向けたとも分からない別れの言葉と共に完全に消え失せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【<UBM>【冥神騎 ペイルライダー】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【ヴィーレ・ラルテ】がMVPに選出されました】

 【【ヴィーレ・ラルテ】にMVP特典【冥克騎脚 ペイルライダー】を贈与します】

 

  

 

 【クエスト【【墓守(アンダーテイカァー)】の頼み事――【義賊王(キング・オブ・シィーウズ)】シアンディールを救え 難易度:五】】

 

 

 

 ――クエスト失敗(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 




【解体王】vs.Type:メイデン。

――もう、いいんじゃないかと思えるほどに達成感ww





【冥神騎 ペイルライダー】(神話級<UBM>)
種族:アンデット
主な能力:《死屍累々》《魂食い》《高速再生》《ソウル・ドミネーター》《ポルターガイスト》等。
最終到達レベル:84
討伐MVP:【槍騎兵】ヴィーレ・ラルテ
MVP特典:【冥克騎脚 ペイルライダー】
発生:認定型
作成者:【冥償蘇生 コローネ】
備考:備考:生前の超級職―【冥骸騎】が最終奥義《黄泉返り》で眠っていたところを【コローネ】がリソースを注ぎ込み、<UBM>と化したアンデット。
生前の武具である【アダマンタイト】のフルメイルが騎獣である【ハイパシーン・ハイウルフ】と混じりあい、黒狼の騎士となっている。
武装は紫紺の長剣と『不可視の手綱』、黒い靄。

最終的に、【解体王】の殺した数百の魂と怨念。
【義賊王】の魂を吸収し、誰も手が付けられないモンスターとなった。
しかし様々な可能性がヴィーレに力を貸し、討伐された。
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