鬼は異端な夢を見る 作:カーネイジ・マルス
始まりはなんてことも無い何処にでもあるような出来事だった。
ほんの、ほんの気まぐれだったんだ。
友人達との楽しい海外旅行。
たまたまそこが近くにあったから、時間や資金にも充分な余裕があったから、何となくゲームで知ってたから。だから、少し言ってみようっていう本当にそんな軽い気持ちだったんだ。
そう、だから、あんな事になるなんて僕は、俺は、私は、儂は────知らなかった。
知らなかったんだ。あんな事になるなんて。だから、だから、だから、どうかどうか私を許してくれ……。
お願いします。お願いします。もう、もう、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ────こんな苦しい夢を誰か終わらせてくれ。
───無論だ。ゲールマン、我が戦友。
足音がする。月夜に美しく咲く花々を踏みしめて私のもとにやってくる者がいる。
老いて弱くなった眼で見てみればそこにいるのは私の知る狩人らとはやや違う様相の男。言うなればそれは鬼だ。
メンシス学派に通じる隠し街の狩人らが纏う黒衣によく似たモノを着込みながらもその四肢を覆うのは血か炎の如き唐紅の装具。そして頭部を覆うのは黒き四ツ眼の鬼面。
嗚呼、芳しい血の匂いを纏う狩人だ。君が、君が来てくれたのか。
───友よ。私が貴公を殺そう、月すらも殺してみせよう。故に死に給え。
慈悲深くそして呆れたように語る彼はその手に握られるのは『火薬庫』が造り上げたのであろう見知らぬ片刃の双剣。
君が私を殺してくれるのか。それはなんとも────だが駄目だ。
「君も何かに呑まれたか……」
車椅子から立ち上がりその背に手を回す。
この夢より解放されたい。分かっている、望んでいる、だがだがここは我々の知っている狩人の悪夢ではないのだ。アレを倒したとしてもどうなるかわからない。いや、そもそもアレを倒したところで君が────
───否だ。私は私の意思で貴公と月を殺すのだ。その先に何があろうとも……ここで貴公を解放するために…………
嗚呼、友よ。我がちっぽけな些細な気まぐれで巻き込んでしまった友人らの一人。
もはやあの時からこの時まで幾度もの時間が過ぎていった。そしていまなお、こうして獣でないのは、生きているのは私と君だけだ……。
例えば彼は……そう、この悪夢に耐えきれず自ら命を絶った。例えばあの彼は……獣となって私が殺したね。例えばあの男は……この悪夢で成した娘の夫に獣として狩られた……もう全てが昔のようだ。
───ならばこれで終わりだ。我々の全ては今宵終わるのだ
「…………そう、なればいいのだがね」
その言葉を最後に私は義足となった足で地面を蹴り、彼へと私は武器を振るった。
「さぁ、ゲールマンの狩りを知るがいい」
────────────────────
「……呆れた話だ」
私は目を覚ます。そこには工房は無く、血のように赤い月は無く、獣狩りの夜は無く、あるのは美しい朝日の輝く空が広がっているという事だけ。
なんとも清々しいのだろうか。嘗て生きてきた中でこれほど美しい朝日を見た事があっただろうか、いやなかった。友人たちと見てきた朝日のどれもが霞むほどの美しき朝日に私は感嘆の意を抱きながら自分の状況を理解する。
ここは何処か、アメリカにある都市・セイレムの片隅だ。嘗て私は友人たちと共に魔女狩りの舞台となったセイレムを見に行こうと決め、今のセイレムへと足を踏み入れた。夢想家の創作神話自体にそんな興味のなかった我々の中では宇宙的恐怖の類は大体あの
故に我々はこの地を訪れ、そして────
「悪夢に囚われたわけか……」
架空の物語であるはずの世界に我々は囚われた。アレは本当にただの悪夢だったのだろうか?否だ。
木の根元で座っていた私は立ち上がり木の根元に振り返れば、そこには四人の見知った人間が先程の私のように木に寄りかかっていた。
確認するまでもない。
既に彼らは冷たく。
悪夢で死した彼らはこちらでも死んでいるのだ。そして理解するあの悪夢は真、現実であり決してただの悪夢で片付けれるべくはないのだ。
私は彼らの荷物から必要なものだけを私の荷物へ移していく。金銭は無論の事、時計などといったモノは念の為に。彼らの懐かしき遺品はそのままに…………ふと、不思議に思う。
彼らの荷物と私の荷物から共通のものが無くなっていることに……それは狩人の悪夢に関するものだ。気まぐれで友人の一人が我々全員分買ってきたキーホルダーの類。
嫌な予感と納得の意を感じながら私は手持ちの端末で調べればそこには何も無かった。そして理解する、ここは未だ我々の世界にあらず、と。
「悪夢に囚われ、目覚めた先は見知らぬ世界。これは未だ悪夢の中にいる、と考えるべきかそれとも…………」
だが、今はいい。そういう事はおいおい考えていけばいいのだから。今考えるべくは目の前の彼らをどうするかということ、下手な事では隠せないが…………ふむ。
「どうやら、それも杞憂か」
念じればソレは現れた。
孔のような澱み。ソレが一体何なのかを私はソレが現れたと同時に理解し、彼ら四人を背負いその澱みへと足を踏み入れた。
「…………なるほど、ここは」
澱みのその先。そこに広がっているのは狩人の夢とよく似た場所。あそこのように霧がかり、月夜の怪しき屋敷と墓がある場所ではなく一転して美しい様々な薔薇が咲き誇る庭園にこれまた美しい白亜の館。
言うなればそこは曙光のさす世界。
月は死に私の支配する夢となったからだろうか。私はなんとも言えない感覚を覚えながら四人を背負ったまま進んでいき…………
「人形か、貴公もここに居たのだな」
見覚えのある後ろ姿に私は声をかける。
こうして夢が変わったことで彼女に何かしらの変化が生じ私の事を知らない可能性が無きにしも非ずではあるが私は親しく声をかけ、同時に何かしらの違和感を感じた。
「………………」
「ふむ…………すまないが貴公に頼みたいことがある」
振り返りこちらを見る彼女はどことなく私の知る人形よりも生者らしい雰囲気を醸し出している。私は彼女に彼らを頼もうとして────
「彼ら四人の身体を預かってもらいたいのだが────」
「貴公、勘違いしていないか」
「────」
え、あ、はい?
目の前の彼女の口から発された言葉は、否言葉ではなく声は私の知る人形のものではない。いや、似ているのだが違う、この声は……!
「き、貴公、まさか……」
首元に冷汗がつたる。私の感じていた違和感とはよもや…………こういうわけなのか!?
「あの時ぶりだな、鬼面の。私が知る貴公より些か若いように見えるが……その血の匂いは変わらないようだな」
「…………い、いや、待て」
鋭い視線を私に突き刺しながら彼女は一歩、一歩私へと近づいてくる。
今まで様々な獣や狩人、上位者を狩り殺してきた身であるが…………未だに恐ろしいものは変わらぬのか……!!
私は下がりつつ、庭園にある垣根に四人を寄りかからせ彼女から距離をとる。
「……なあ、聞かせてくれ鬼面の。貴公は私を誰と勘違いしたのか?私というものがいながら貴公はいったい何処の何某と勘違いしたのか?教えてくれ────
「」
彼女────マリアの言葉に私は今までの何よりも恐ろしいモノを感じ、彼女から逃げる事を心に決めた。
鬼面の狩人
ヤハグル主体の狩装束に手足を唐紅の鬼の手足のような装具を装備し鉄兜の代わりに四ツ眼の黒い面を付けている。
武器は『火薬庫』に受注生産させた片刃の双剣の形をした仕掛け武器。柄頭同士を接続させることで両剣にすることが出来る。
銃器においてはデュラと同じガトリング砲やエヴァリンを愛用している。
学生時代からの友人ら合わせて五人での海外旅行の際に『異端なるセイレム』の舞台であるセイレムを訪れその日の夜、悪夢に囚われた。
pixivで人形ちゃんの格好をして少し恥ずかしそうなマリアさんを見てとても興奮しました←