これからもちょこちょこ出していこうと思います。文字数も少しずつ増やす予定です。
次の日、あれからカバンを忘れた俺は、学院に取りに行くのが面倒くさく、そのまま置いて帰った。まぁ、グレン先生の授業では教科書は使った試しが無いので大丈夫だろう。
家で朝飯の目玉焼きをちびちび齧り、コーヒーで頭のネジを回す。既に日課である筋トレは終わっていて、後は登校するだけだ。勿論筋トレの後は必ずシャワーを浴びるようにしている。汗臭いまま登校したら大変な事になる。具体的には「きゃ〜なにこいつマジ臭いんですけど〜」とか言われるかもしれない。そして俺はイジメの対象に……。
いや、飛躍し過ぎか。馬鹿なこと考えてないでサッサと行こう。唸りながらグリグリと肩を回し、俺はカップに残ったコーヒーをグイッと
食器を手早く片付け、制服を身に着けサイフをポケットに突っ込むと、俺は家を出た。冷えた朝の空気が風呂上りの火照った身体に気持ちいい。思わず「いい朝だなぁ〜」と声が漏れてしまう。誰かに聞かれたかな、と辺りを見回すが周りには誰も居なかったので良かった。
一度、獣化して街を思い切り走り回ってみたいという衝動に駆られた事があったが流石にそれは我慢した。こんだけ広い街だ。トップスピードで走れば気分は爽快だろう。そう思ってしまうのはもうしょうがないんじゃないかな。結局、夜中に少し離れた森を駆け回るにとどめておいた。どうにも窮屈に感じてしまうがこればっかりはどうしようもない。
ぶらぶら歩いていると学園に着き、ガラガラとドアを開けて教室に入る。まだ誰も来ていないようだ。静かな教室に俺の足音が響く。なんとなく「いっちば〜ん」などとつぶやきながら自分の机に座る。置きっぱなしのカバンに入っていた教科書をパラパラと
あれから色々と調べてはみたが、俺が知りたい事は何もわからないままだ。そのままにしておくのは何だか気持ち悪いし、本当どうしたもんかな……。
思考を彷徨わせながら窓の外をぼんやりと眺める。綺麗な青空には城が浮いているのが見えた。あの城も不思議なんだよなぁ。なんで空中に浮いてるんだ?あの城 《メルガリウスの天空城》については未だにほとんど何もわかっていないらしい。フィーベルさんがいつも熱心に話してくれる。
あの城の事を話す時のフィーベルさんはいつもキラキラした目をしていて、興味が無くてもつい話を聞いてしまう。なんでだろ?う〜ん…自分でもよくわからん。でも、あの城はホントに凄いよなぁ。綺麗だし見てて飽きないっていうか……。小さい頃に初めて見た時は前世のラピュタを思い出して大はしゃぎしたっけ……。
懐かしい記憶を
どうなってんの、コレ?
今、俺の頭上には大量のクエスチョンマークが跳ね回っている。いや、俺だけじゃない、クラスメイト達の頭上にもだ。俺達がクエスチョンマーク製造機になってしまった原因は、今教壇の前に無言で立つグレン先生だ。
時刻は少し前に
俺達がいつものように授業(と言うよりは自習だが)を待っているとグレン先生が教室のドアを乱暴にあけ、入ってきた。この時間にグレン先生が来る事がもう既におかしい。
いや、講師ならば当たり前の事だが、あのグレン先生だぞ?しつこい様だか重要な事なのでもう一度言うが、あのグレン先生だぞ?あの人が授業開始前に教室に来たのは正真正銘これが初めてだ。俺達が驚いたのはそれだけではない。
グレン先生は目を見開くクラスメイト達の間をズカズカと歩き、一人の女子生徒の前で立ち止まった。その生徒 フィーベルさんは窓の外をぼんやりと眺めており、自分を見下ろす先生に気づいていないようだった。グレン先生はぶっきらぼうにフィーベルさんに声をかけた。
「おい、白猫」
白猫?……なるほど確かにそれっぽいかも、うまく考えたなぁ、と思わず納得してしまう俺。のんびりとそう考える俺とは違い、クラスメイト達は昨日の事もあり、緊張した
フィーベルさんの背中かがびくりと震えた。が、顔は上げない。
そんな彼女に再びグレン先生は口を開いた。今度は少し大きめなボリュームで。
「おい、聞いてんのか、白猫。返事しろ」
「し、白猫?白猫って私のこと…?な、何よそれ!?」
肩を怒らせながら席を立つフィーベルさん。そのまま勢いよくグレン先生に
「人を動物扱いしないで下さい!?私にはシスティーナっていう名前が 」
「うるさい、話を聞け。昨日のことでお前に一言、言いたい事がある」
それを聞いて身構えるフィーベルさん。おいおい、今度は何を言うつもりだ?眉をひそめながらも二人を見守る。クラスメイト達も
「そこまでして私を論破したいの!?魔術が下らないものだって決めつけたいの!?だったら私は 」
「……昨日はすまんかった」
「え?」
え、今なんて?クラス中が呆気に取られる中、気まずそうなしかめっ面で、目をそらしながらグレン先生はフィーベルさんにもにょもにょと謝罪らしきモノを言い、頭をちょこっと下げた。フィーベルさんも戸惑っているようだ。顔を上げたグレン先生は、話はこれで終わりだと言わんばかりにサッと踵を返し、教壇へと向かった。
そして今現在。
グレン先生は腕を組み、黒板にもたれかかっている。その目は閉じられており、先程の事について何も語る気は無いようだった。ざわざわと騒がしくなる教室。
「一体何が起きてるんだろう?」
「ウィル?ありゃ一体、どういう風の吹き回しなんだ?お前何か知らないのか?」
「そんなの俺に聞かれても…」
隣に座っていたカッシュにそう聞かれるが俺も知らないので答えようがない。昨日の事を思い返しながらなんとなくフィーベルさんに目をやると、隣の席にニコニコしながら座るティンジェルさんと目が合った。彼女は俺の目を見てひとつウインク。……高威力なので控えた方がいいと思います。いやそうじゃなくて、彼女は何が言いたいのだろう?
そういえば、昨日俺がフィーベルさんを追って教室を飛び出す前に「先生は私に任せて」とか言ってたな。ははあ、今のグレン先生のあの態度、あれはティンジェルさんが何か言ったな。にしてもあのグレン先生を……。凄いな、なんて言ったんだろ?感心しながらも時計に目をやる。と、丁度予鈴が鳴った。さて、我らが担当講師はどう動くかな…?
黒板に背を預け、目を閉じていたグレン先生は目を開け、教壇に立った。教室をぐるりと見渡すと、一言。
「じゃ、授業を始める」
ざわめく教室。それを無視し、グレン先生は昨日黒板に釘で打ち付けようとしていた教科書のページをパラパラと
「さて、授業を始める前にお前らに一言言っておく事がある」
だが、皆の予想を裏切り、再びグレン先生は教壇に立った。動揺が走る生徒達をジロリと見ると、グレン先生はひと呼吸置いて 。
「お前らって本当に馬鹿だよな」
とんでもない爆弾を投下した。
「昨日までの十一日間、お前らの授業態度見ててわかったよ。お前らって、魔術のこと、なぁ〜んにもわかっちゃいねーんだな、わかってたら呪文の共通語訳を教えろなんて間抜けな質問出るわけないし、魔術の勉強だ〜とか言って魔術式の書き取りなんてするヤツがいるわけないもんな」
そんなグレン先生に誰かが言った。
「【ショックボルト】程度の一節詠唱も出来ない三流魔術師に言われたくないね」
しん…と静まり返る教室。そして、あちこちからクスクスと馬鹿にしたような笑い声が上がった。【ショックボルト】の一節詠唱がまだ出来ない俺からすれば他人事ではないので、あまりいい気はしない。ポーカーフェイスで場を見守る。
笑われた当の本人であるグレン先生はふて腐れたかのようにそっぽを向き、耳をほじった。
「まあ、正直それを言われると耳が痛い。だが、今【ショックボルト】程度とか言った奴。お前やっぱり馬鹿だわ。ははっ、自分で証明してやんの」
その物言いに段々とピリピリしてくる生徒達。場は完全にグレン先生のペースに乗せられている。
「まぁいい。じゃ、今日はその
その言葉に騒然となる教室。皆自分達が侮辱されたと怒っているようだ。うーん、魔術習いたての俺にはこれで丁度いいくらいなんだけどな。
「今さら初等呪文を説明されても…」
「やれやれ、僕たちはとっくの昔に【ショックボルト】なんて極めたんですが?」
やいやい騒ぐ生徒達を無視し、グレン先生は教科書を掲げて呪文【ショックボルト】について簡単に説明した。そして、壁に指先を向け、呪文を唱える。
「【雷精よ・紫電の衝撃以て・打ち倒せ】」
するとグレン先生が真っ直ぐに伸ばした指先から紫電が
魔術を知らなかった俺からすれば何度見ても感動する魔術だが、周りからすればグレン先生のそれは詠唱スピードの遅い、「出来損ない」に見えているようだ。価値観の違いってやつか。
失笑が漏れる中、グレン先生はそれを気にする素振りを見せずに呪文を黒板に書き写していく。が、どこかおかしい。書かれている呪文は不自然に節を切られ、三節から四節になっている。怪訝な顔をする俺達を尻目に、移し終えたグレン先生はくるりとこちらに向き直ると、ひとつ質問した。
「さて、この呪文を唱えると一体何が起こる?当ててみな」
それはそうと、UAがいつの間にか5000を超えていたのに驚きました。見て下さった沢山の方々、ありがとうございました!