突然ですが猫舌ってキツイですよね。私はラーメンやうどんが大好きなんですが猫舌なのでちょっとずつ冷ましてからじゃないと食べれないんですよね。猫舌を気にせずに思いっきり食べれるようになりたいです。
それでは本編をどうぞ
《雷精よ・紫電の・衝撃以て・打ち倒せ》
俺達が無言で見つめる先の黒板には、不自然に四節に区切られた呪文。それをチョークでトントン突きながらグレン先生はニヤニヤと笑った。
「オイオイオーイ、まさかの全滅かぁ〜?」
「あれれ〜、おっかし〜な〜?魔術を学び始めたばかりのウィルはともかく、他の奴らはこの呪文はとっくの昔に極めたんじゃなかったのかな〜?」
先程のグレン先生からの質問に、未だに誰も答えを返せていない。と、クラスの成績優秀な生徒の一人、ウェンディ=ナーブレスさんが声を張り上げ、机をバンと叩いて立ち上がった。
「そんな四節で区切った呪文なんてありませんわ!」
「ぎゃははははっ!?いや、なかったら聞かねーだろ!?よく考えろよ!」
ナーブレスさんを下品に笑い飛ばすグレン先生。見た感じ完全に悪役だなぁ…。若干引き気味にグレン先生を見ていると、同じく成績優秀な男子生徒である、ギイブル=ウィズダンが負けじと眼鏡を押し上げながら言い返した。
「その呪文はマトモに起動しませんよ。必ず何らかの形で失敗します」
「あのなぁ、そんな事はわかってんだよ。質問ちゃんと聞いてたか?俺が聞いてんのは、その失敗がどんな形で現れるかって話だぞ?」
呆れたような声を出し、グレン先生は教室を見回す。やはり、誰もわからないようだった。
「もういい。答えは右に曲がる、だ」
グレン先生は四節になった呪文を唱えた。と、驚いたことに先生の宣言どおりになった。さらに呪文を区切ったり、節の一部を消したりしながら呪文を唱えていく。どれも宣言どおりになっていく。唖然としている生徒達を見ながら。
「ま、極めたっつーならこれくらいはできねーとな?」
もの凄いドヤ顔でチョークを回すグレン先生に、思わず噴き出しそうになる俺。ちょっと、ドヤ顔似合いすぎだろ。今のこの空気で笑ってはいけない、我慢だ我慢、と無表情を装っていると、グレン先生が言った。
「そもそもさ、お前ら、なんでこんな意味不明な本を覚えて、変な言葉を口にしただけで不思議現象が起こるかわかってんのか?だって常識で考えておかしいだろ?」
それは俺がずっと疑問だった事だ。思わず、笑うのを
「お?やっぱウィルは気づいてたか」
その言葉に一斉に俺に集まる視線を感じる。……見られてると思うとなんだか喋りにくい。俺は苦笑しながら口を開いた。
「…まあ、俺は最近になって魔術の存在を知ったばっかですからね。ここ
「だろうな、普通はそうなって当然だ」
そう言うとグレン先生はニヤニヤ笑いを消し、打って変わって真剣な表情で生徒達を見る。
「お前らは、
グレン先生は今度は自分の頭をトントン指で突きながら言った。その言葉に皆は戸惑ったようだった。誰も彼もが顔を見合わせる。そんな生徒達に言い聞かせるようにグレン先生は言葉を続ける。
「いいか、何かを学ぶ事において一番大事なのは、その現象が起こるにあたっての『過程』を知ることだ。今のこの現状のように曖昧に誤魔化すんじゃなく、ちゃんとそれを『理解』している事に意味はある」
グレン先生は苦虫を噛み潰したような顔をしながら教壇の周りをぐるぐると歩きまわる。先程までざわめいていた教室は静かだ。俺も含め、皆耳を傾けているようだ。グレン先生は続けた。
「まぁ、それはお前らが悪いんじゃない。魔術を志す者の大半は魔術を使うことに
一番前の席に座るフィーベルさんとティンジェルさんの机に乗っている教科書をチラリと
「ここの講師連中も、この教科書も『理屈はいいからとにかく覚えろ』っていう方式だからな。こんなんじゃわかるモンもわからなくなる」
そこまで言うと、グレン先生は真面目な顔から一変、今度は不敵な笑顔を浮かべた。
「つーわけで、今日、俺はお前らに【ショックボルト】を使った呪文の術式構造と授業のド基礎を教えてやるよ」
ま、興味ない奴は寝てな、と付け加え、グレン先生の初めてのまともな授業が始まった。
〜数刻後〜
授業時間を少しだけオーバーして続いたグレン先生の授業はとにかく凄い授業だった。他にももっと言い方はあるんだろうけど、残念ながら俺の
時間を過ぎてしまったことにブツクサ愚痴をこぼしながら教室を出ていくグレン先生。ガラガラ、と教室のドアが閉まった瞬間、それまで動きを止めていた生徒達がババッと動き出した。今まで黒板に書いていたあのミミズ文字は何だったんだと思うほどの小綺麗さで書かれた黒板を、一心不乱にノートに写し始める。俺は皆ほど必死ではないが、それでも真面目にペンを動かす。自然と頬が緩むのを自分でも感じた。
グレン先生の授業には、俺がずっと知りたかった魔術に関する『謎』に対する答えが全部あると直感した。そう思わせる何かがある。何故呪文を唱えるだけで魔術が発動するのか?何故何もないところに稲妻や炎、風が巻き起こるのか?他にも様々な疑問を抱いていた俺にとってグレン先生の授業はまさに『目から鱗』だ。他の講師と違って、グレン先生はちゃんと納得できる答えを丁寧に教えてくれる。まさに『本物の授業』だ。
写し終えたノートの上で手に持ったペンをくるくると回しながら、これからの授業は真面目に受けよう、と決めた俺だった。
あれから数日が経った。
グレン先生の授業の評判はすぐに学園中に広まり、俺達の教室はたちまち他クラスの生徒達ですし詰め状態になった。中には他の勤勉な講師もちらほらといるのが見える。立ち見をする生徒もいるくらいだ。俺は一番後ろの席なので立ち見をしている生徒と話す機会も多い。
最近仲良くなった他クラスの友人
「グレン先生は良いよなぁ〜、すげーわかりやすいし、他の講師に比べて話しかけやすいし!」
との事。確かにグレン先生は歳が近いし喋り方も砕けた感じなので質問しやすいのだろう。それも人気の理由の一つだ。だが、以前からの魔術嫌いは相変わらずでところどころ魔術を馬鹿にしたような言動を取る事もあり、授業の手腕は認めてもグレン先生をよく思わない人がいるのも明らかだった。まぁ、そこはしょうがないよな。俺達二年二組の生徒は比較的仲がいいほうだろう。そんな事を考えながらも俺は忙しくナイフを動かした。
今は昼食時。俺は食堂に来ていた。食堂の隅の方の机に座り、目の前でホカホカと湯気を上げる肉を切り分けている
それ
突然何言ってんだコイツ?と思われるかもしれないが、俺にとっては重大な問題だ。主に
知っての通り、俺は獣に変身する戦闘民族の一員で、俺の場合は大型の肉食獣であるライオンに変身する。そう、
今思い出してみれば、集落にいた頃は家の食卓にはかなりの確率で肉料理が乗っていた。肉が多かったのは父さんは黒い毛並みの熊、母さんは茶色っぽい毛並みの狼と、両親共に肉食獣だったからだろう。あ、あと魚も多かったかな?魚は父さんの好物だったからだ。今更だが母さんの父さんへの愛を感じる。息子の俺が言うのも何だけど、いい嫁さんだなぁ…。
脱線しかけた思考を頭をブンブン振って軌道修正する。
とにかく、食卓事情については俺も肉は大好きなのでそれは全く気にならなかった。
問題は、集落にいた時は森で適当に狩って来れば良かった肉だが、ここは文明都市フェジテ。
必然的に肉を手に入れるには肉屋で買うしかない。そうなれば当然お金がかかる。これがまたキツイ。家賃は両親からの仕送りでどうにかなっているが、いかんせん食費の消費が激しい。
今はバイトで
肉を頬張りながら金策を考えていると、上から聞き覚えのある声が降ってきた。
「ここ良いか?」
見上げると、そこにはグレン先生がこれまた大量の料理をお盆に載せていた。特に断る理由もないので「どうぞ」と隣の席を勧める。
「よっこいしょ」
席につくやいなや、食事にがっつき始めるグレン先生。おお、いい食いっぷりだなぁ。父さんと良い勝負ができそうだ。特に話したい事もないので
無言で食事を
と、そこへクラスの花、フィーベルさんとティンジェルさんが仲良くお喋りしながらやってきた。どうやら他の席が空いていなかったらしい。フィーベルさんは最初料理にがっつくグレン先生を見て顔をしかめたが、何も言わずに俺の正面に腰を下ろした。反対に、グレン先生の正面に腰掛けたティンジェルさんはニコニコ顔だ。
「先生が沢山食べるのは知ってたけど、ウィル君もとは知らなかったなぁ」
野菜シチューをスプーンで
「まぁ、男はこれぐらい食わないと腹いっぱいにならないし、それに俺にとっての食事は一日の楽しみっていうか…」
フォークに刺した熱々の肉にふーふー息を吹きかけながらそう返す。温かい食べ物は好きだが、前世から重度の猫舌である俺はちゃんと冷まさないと火傷してしまう。
俺の言葉を聞いたティンジェルさんとフィーベルさんはきょとんとした顔をして顔を見合わせる。……ん?何だその反応?
「ふふっ、先生と同じようなこと言うんだね」
ティンジェルさんの言葉に、え、そうなの?と思い、隣を見やると、グレン先生は俺に向けて無駄にいい笑顔でサムズアップ。
「…食事は心のオアシス。そう思わないか、ウィル?」
「…そうですね」
あなたそんなキャラでしたっけ?と言いたくなるのを我慢し、付け合せのトマトをちびちび
え、これだけ?たったこれだけであと半日過ごすつもりなの?唖然としてフィーベルさんの顔を凝視する。
「…何?」
「…えっと、ちょい待ち」
机に置かれたカトラリーセットから新しいナイフとフォークを取り出し、手をつけていない方の肉を大きめに切り分けると、新しい皿に載せ、フィーベルさんの方に寄せて。
「それだけじゃ体に悪いし、」
これ食べなよ。そう続けようとした俺の言葉を
「お、これもーらい」
そんな声と共に。一瞬にして消滅した肉を見て、俺はグレン先生に食って掛かった。
「おのれグレン=レーダス!なんて事を!!」
「わりぃわりぃ、美味そうだったからつい…。っていうか、お前ハーベスト先輩にそっくりだな!」
誰だよハーベストって!!悪びれる様子もなくそうほざいたグレン先生に、俺、フィーベルさんのジト目が集中する。その視線を見事にスルーしてグレン先生は食器を下げに行った。ティンジェルさんが苦笑しているのが視界に入る。グレン先生の背中を睨みながら、この野郎、覚えとけよ!食べ物の恨みは怖いぞ!具体的にはもうメシ
「あのお肉…私にくれようとしてたの?」
「あー、うん。それだけで足りるのかなって思って」
結局グレン先生に食われちゃったけどね…。実に無念だ。
「私はそんなに食べる方じゃないからこれで大丈夫。それよりウィルは良かったの?自分の分減っちゃったけど…」
そう言われ、自分の皿を見下ろす。そこには随分と小さくなった肉と、付け合わせの野菜がちょこちょこ散らばっていた。野菜達をフォークでつんつんしながら顔を上げる。
「まぁ、たまには良いかな。食いすぎると眠くなるし」
「そう?お腹減って不機嫌になったりしない?」
フィーベルさんは俺を何だと思っているんだろう。猛獣かなにかだと思ってないか?いや、間違ってはいないけどさ!
「そこまで子どもじゃないよ」
半眼になって抗議する俺を見てフィーベルさんとティンジェルさんはクスクスと笑った。
二人の笑い声を聞きながら、ふと考える。この学院に来なかったら今のような充実した生活はなかったのかもしれない、と。
俺は戦闘民族だ。今は考えられないが、いつかは何処かの戦場で戦士として死ぬのかもしれない。学院などに行かずにひたすらに自分を鍛え上げる方が賢いのかもしれない。
それでも、
今この時を後悔する事は、きっとないだろう。そう思えた。
どこで切るか迷った結果長くなりました。
カトラリーセットはレストランとかによくある箸とかフォーク、スプーンなどが入ってるヤツの事です。