ロクでなし魔術講師と戦闘民族   作:カステラ巻き

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 ウィルは基本的にクラスの誰とでも仲良しですが、特に仲がいいのはカッシュとセシルです。ちなみに女子は全員苗字(家名)呼びです。
 精神が日本原産である彼はシャイなのです。

 白竜王さん、高評価ありがとうございます!とても嬉しいです。これからも頑張ります!


それは突然に

 

 

 

       布団。

 

 

 

 

 それは俺にとってはどんな物にも勝る素晴らしい物だ。柔らかく、なおかつ暖かいそれに(くる)まれば、たちまち疲れた精神と身体を安眠の世界へと(いざな)ってくれる。そんな素晴らしき布団を生み出してくれた偉大な御方に、そして、布団が存在するこの世に生を受けることができた奇跡に万感(ばんかん)の感謝を。……つまり何が言いたいのかと言えば。

 

 

 (すなわ)   布団から出たくない。

 

 

 俺の朝は早い。毎日筋トレや走り込み、武器の素振りなどをするためだ。早起きは俺からすればそれ程苦痛ではない。そんな俺でも、たまにはゆっくりと惰眠(だみん)(むさぼ)りたくなる事だってある。

 

 

 本来なら、今日から五日間は魔術学会が行われる関係で休日となっていた。だがしかし、俺が所属するクラスである二年二組の生徒は登校日になっている。理由は(じつ)単純明快(たんじゅんめいかい)、授業が遅れているからだ。……くそったれがぁああ!!

 

 

 …別に学院が嫌いなわけじゃない。嫌いじゃないけど、何故か行きたくない。学生さんなら誰でも一度は思う事だろう。特に休み明けの月曜日の朝は絶望感がハンパない。

 

 

 ベッドの中で(うな)りながらも何とか体を起こす。行きたくはないが、自分で行くと決めて通い始めた学院だ、サボるのもなんだかなぁ…。

 

 

 俺はのそのそと安息の地  ベッドから()い出た。寝起きなので身体が上手く動かない。ビタン!と顔面で床に着地し、痛みに涙目になりながらも何とか立ち上がる。フラフラと部屋を横切り、洗面所で顔を洗い、好き勝手に跳ね回る寝癖(ねぐせ)を直しにかかった。

 

 

 もともと俺の髪はところどころぴょんぴょん跳ねているのに加えて、俺の寝癖はかなりたちが悪い。竜巻みたいな寝癖に苦戦しながらも、何とか「これならまぁ大丈夫」というレベルに整える事ができた。

 

 

 たしか、本日の授業開始予定時間は十時三十分と、いつもに比べればかなり遅めの時間になっていた。これだけはありがたいな、とつぶやきながら壁掛け時計に目をやる。現在時刻は七時三十分。普段は五時三十分頃に起きているので二時間程長く寝れた。それでもまだかなり時間的に余裕がある。

 

 

「………フム」

 

 

 (あご)に手をやり、二度寝をするか真剣に考えるが、どの道もう目は冴えてしまっているし、寝癖も直してしまった。二度寝して寝過ごしても困るしなぁ。と、すれば他にする事は……。

 

 

「…………フムム」

 

 

 ぐるりと部屋を見渡してみるが、生憎(あいにく)と暇を潰せそうな物は見当たらない。武器の手入れは昨日の夜に済ませてしまったし、部屋は片づいている。掃除もこまめにしているので目立ったホコリは無い。

 

 

 ……最近は忙しかったし、筋トレを済ませたら、久々にゆっくり読書でもしようかな。うん、そうしよう。

 

 

 と、静かだった部屋に、「きゅううう…」と控えめな音が響く。思わず俺は音の発信源である自分の腹をさする。

 

 

 

 ………とりあえず、朝飯にしよう。

 

 

 

 そう決め、俺は食料庫へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 〜数時間後〜

 

 

 

 あの後、学院に登校した俺。教室には既に全員集まっている。……グレン先生以外は。一番来ないといけない人がなんで来てないんだ?

 

 

 現在の時刻は十時五十五分。既に予定時間から二十五分が経過している。これはアレだな、あの人、きっと今日が休みだと勘違いしてるな?グレン先生らしいけど……。

 

 

 俺は深いため息を漏らしてしまう。

 

 

 一向に現れる気配のないグレン先生に、思わずといった様子でフィーベルさんが唸り声を上げた。

 

 

「…遅い!」

 

 

 隣に腰掛けるティンジェルさんに、何か(恐らく不満)を(まく)し立てるフィーベルさん。が、周りの生徒達は担当講師の遅刻にはもう慣れたものだ。それぞれで自習をしたり、お(しゃべ)りしたりしている。

 

 

「先生遅いな〜、このまま来なかったりして」

 

 

 右隣の席に座るカッシュが机にもたれかかり、眠たげに目を(こす)りながらぼやいた。コイツも俺と同じ様にアルバイトをしているらしく、朝は大体眠そうにしている。

 

 

「それはあり得る」

 

 

 頬杖をつきながら俺が真顔で肯定すると、カッシュの隣でセシルが呆れ笑いを浮かべ、俺の言葉を継いだ。

 

 

「あの先生だもんね…」

 

 

 もしグレン先生が本当に来なかったら俺達は待ちぼうけだな。それは時間が勿体無い。時は金なりって言うし、グレン先生が来ないんだから帰っちゃってもしょうがないよな。

 

 

 俺は席を勢い良く立ち、一言。

 

 

「よし、帰ろう」

 

 

 そして家でのんびり過ごすんだ。

 

 

 俺のやる気が欠落(けつらく)した帰宅宣言がバッチリ聞こえていたらしい、険しい表情を浮かべたフィーベルさんが素早(すばや)くこちらに振り返り、口を開きかけたのを見て、俺は慌てて訂正の言葉を放った。

 

 

「冗談!冗談です!やだなぁフィーベルさん、俺がそんなコトするわけないだろ?」

 

 

 幸い、彼女は黙って口を閉じたが、ジトっとした目をこちらに向けるのをやめない。これは何か言われる前に避難した方がいいかもしれない。

 

 

「…ちょっと様子見て来る」

 

 

 と言い残すと、俺は素早く教室を脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 〜システィーナ〜

 

 

 

 

 

「…遅い!」

 

 

 私は思わず唸った。その原因は、未だに姿を見せないこのクラスの担当講師、グレン先生だ。

 

 

「あいつったら…最近は凄く良い授業をしてくれるから、ほんの少しだけ見直してやってたのに、どういうことなのよ、これ!!」

 

「先生、最近は遅刻せずに頑張ってたのに珍しいよね?どうしたんだろう?」

 

 

 隣でルミアも不思議そうにつぶやく。

 

 

 グレン先生は、あれ程魔術を嫌っていたのに、どういう心境の変化があったのかは知らないが、最近は真面目に授業をしてくれる様になっていた。…全く、最初から素直にそうしてくれればよかったのよ!………コホン、授業に遅刻する事もなくなり、生徒の質問にもちゃんと答えてくれるようにもなった。良い事ではあるのだが、突然の授業態度の変化に私は少しだけ戸惑ってもいた。

 

 

 振り返り、後ろを見やる。元々余裕があった(はず)の教室は今や生徒で一杯だ。中には立ち見をしてまで授業に参加しようとする生徒もいる。

 

 

「本当に人気になったわね、先生の授業…」

 

「そうだね。先生の授業は凄くわかりやすいから」

 

 

 休日にも関わらず様々なクラスから授業を見に来る真面目な生徒達に感心しつつ視線を動かしていく。

 

 

 と、一番後ろの席に腰かけるウィリアスが目に入ってきた。

 

 

 ウィリアスは頬杖をつき、隣の席のカッシュと何か話している。それを眺めながら、私はふと彼の事を考えた。

 

 

 変化が起きたと言えば、ウィリアスもそうだろう。彼は、他の講師の先生が来ていた頃の授業ではどことなくつまらなそうにしていたが、グレン先生が来てからはそんな態度はすっかり鳴りを潜めていた。根は真面目なのか、それまで以上に真剣に授業に取り組んでいる。

 

 

 ウィリアスの勉強を見ていた際に「魔術に関しては知らないことの方が多い」と言っていたのを思い出す。自分で言うのは何だけど、クラスでも成績トップである私から見ても彼はかなりのスピードで知識をメキメキと身に着けている。このまま勉強を続ければ成績もきっと上位に食い込むだろうと思う。

 

 

 ウィリアスは最初の自己紹介の後、皆に質問をぶつけられていた際に、「最近までは魔術を全く知らなかったから、魔術を初めて見た時は凄くびっくりした」と言っていた。彼はこれまでの生活を魔術無しで過ごしていたらしい。それを聞いて、私は小さくない衝撃を受けたのを覚えている。

 

 

 魔術を知らない生活ってどんな感じなのかしら?想像つかない……。

 

 

 魔術の名門であるフィーベル家に生まれた私にとって、魔術はとても身近なモノだ。怪我をすれば白魔術で傷をすぐに癒せるし、重たい物も身体強化の魔術を使えば楽に持ち上げられる。遠くの物は遠目の魔術を使えば見る事が出来るし、黒魔術が使えれば護身術になる。他にも数えだしたらきりが無いが、魔術を使う事で得られる恩恵は大きい。

 

 

 この学院に通う生徒達は、その(ほとん)どが生まれながらにして魔術と何かしらの関わりを持ち、それを認識している。そのため、学院内の生徒や講師の中にはウィリアスの事を、魔術をほんの少し知っているだけの一般人が何故この学院に…と快く思っていない者も残念だが少なからずいるのを知っている。中にはありもしない悪質な噂をばら撒いている者もいるらしい。

 

 

 が、そんなモノはどこ吹く風。ウィリアスはそれらを全く相手にしない。魔術を馬鹿にした態度や言動から、同じ様に針のむしろ状態にあるグレン先生と気が合うらしく、学院の食堂で一緒に食事をしているのをよく見かける。

 

 

 落ち着いた性格に、大勢に敵意を向けられても堂々と振る舞うその豪胆さ。とても同い年とは思えない。これまで彼は一体どんな生活を送ってきたのか……。気にならないと言えば嘘になる。かと言って初対面からそれほど時間が経っていないのに本人に聞くのも馴れ馴れしい気がするので結局聞けていない。

 

 

 ……それに。気になっているのはそれだけじゃない。どうもウィリアスを見ると、何か大事な事を忘れているような気がしてくるのだ。それは一向に思い出せず、彼を見るたびに悶々(もんもん)とした気持ちになる。

 

 

 何を忘れてるのかな…?

 

 

 胸の内でポツリとそうつぶやくと、ウィリアスを見ていた私は前を向き、机に広げてある教科書に視線を落とす。今そんな事を考えてもしょうがないか、それよりも今は先生が来ない事について考えなくちゃ。

 

 

「遅いね、グレン先生…何かあったのかな?」

 

 

 あまりに来るのが遅いグレン先生に、それまでノートを整理していたルミアが首を(かし)げながら言う。

 

 

「あいつの事だから、今日が休みだって思ってるのかも」

 

「ええ〜、そんな事は無いんじゃ…ないかな…?」

 

 

 流石のルミアも断言は出来ないようで、困った様に苦笑を浮かべる。

 

 

 と、その時。

 

 

 突然、教室の後方からガタンッという音が鳴り、先程まで考え事の中心にいた当の本人である、ウィリアスの毅然(きぜん)とした声が聞こえてきた。

 

 

「よし、帰ろう」

 

 

 ……何が「よし、帰ろう」よ!ダメに決まってるでしょ!

 

 

 脳内で思ったことを言葉にするべく、素早く振り返り、ウィリアスを見ると、彼は"しまった"という顔をして、私が何か言うよりも速く言葉を紡いだ。

 

 

「冗談!冗談です!やだなぁフィーベルさん、俺がそんなコトするわけないだろ?」

 

 

 ……ほっといたら絶対帰ってたでしょ。隣で苦笑しているルミアを尻目に、無言でジトっとした目を向けていると、ウィリアスは私から目を()らしながら。

 

 

「…ちょっと様子見て来る」

 

 

 と、言い残し、教室のドアから物凄いスピードで出ていった。……完全に逃げたわね、アレは。

 

 

 はぁあ〜、とため息をつき、私はルミアと同じ様に自分のノートを整理し始めた。ノートは普段からキレイに(まと)めてはいるが、ところどころ書けていない所がある。意地悪な担当講師が、授業が終わや(いな)や、皆が板書をしているにも関わらず、すぐに黒板を消してしまうからだ。そのため私とルミアはそれぞれ黒板の板書を半分ずつノートに写し、それを後から見せ合いっこしていた。

 

 

 しばらくその作業をせっせと続ける。

 

 

「システィ、ここはなんて書くんだっけ?」

 

「ちょっと待ってて。ええと、ここは  私も書いてないみたいね……」

 

 

 あちゃー、とこめかみを軽く抑える。私としたことが…

 

 

「あはは、二人共書いてなかったんだね。先生が来たら聞いてみよう?」

 

 

 ルミアがそう言ったその時。

 

 

 教室のドアがガラガラと音を立てて開いた。

 

 

 ウィリアスが帰ってきたのか、それともやっとグレン先生が来たのか   

 

 

 そちらに視線を向ける。が、教室に入ってきたのはウィリアスでも、グレン先生でもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 すみません、今回は布団のくだりを長く書きすぎてテロリスト達が登場する所まで書けませんでした。最後ドアが開くだけという寸止め……。

 次回はちゃんと登場しますので、今しばらくお待ち下さい。

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