ロクでなし魔術講師と戦闘民族   作:カステラ巻き

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 何ということでしょう。とうとうお気に入りが100を越えました。わーい!!これも読んでくれている皆さんのお陰です。本当にありがとうございます。そしてこれからも宜しくお願いします!

 英雄王(ゝω・)さん、高評価ありがとうございます!とても励みになります!





黒き獣

 

 

 

 

 

 無人の校舎をぶらつき始めて数十分。俺は今、一階の講師玄関にいる。グレン先生が来ていないのはわかっているが「様子を見てくる」とフィーベルさんに言った以上、確認しない訳にもいかない。

 

 

 

 講師専用の靴を置く(たな)の名前を流し見ていく。

 

 

 

 グレン先生の名前はすぐに見つかった。ハーレイ?とかいう()(ぎわ)が危ない先生の横の棚だ。…あの人の頭を見るたびに切ない気持ちになるのは俺だけかな?

 

 

 そんな事を考えながら中を(のぞ)いてみるが、グレン先生の靴は入っていない。やっぱりまだ来てないよな…。

 

 

 ふぅ、と息を吐き、パタンと棚を閉める。そろそろ教室に戻った方がいい、あんまり遅いとまたフィーベルさんに何か言われるかも、と考えながら急ぎ足で歩を進める。窓から外の風景を眺めながら四階への階段を上っていたその時。俺はふと、一つの違和感に気づいた。

 

 

 

 

      静か過ぎる。

 

 

 

 

 ここから二年二組の教室までは少し距離があるが、俺の聴覚は(ぐん)を抜いて優秀だ。ましてや今はこの学院にいる生徒は二年二組だけ……。教室のざわめきぐらいは余裕で聞き取れる……(はず)なのだが、そのざわめきが全くと言っていい程聞こえてこない。

 

 

 

「……………」

 

 

 

 妙な胸騒ぎを感じた俺は、自然と気配を殺し、息を(ひそ)めながら教室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の予感は最悪な形で的中した。

 

 

 

 

 現在、俺が隠れているのは二年二組の隣である二年一組の教室だ。先刻(せんこく)から教室の一番後ろの壁に背中を預け、壁の向こうの会話を聞いていた。どうやら誰も死者はいないし、怪我をした者もいないようだ。これには心底安心したが、まだ気は抜けない。

 

 

 

 話を聞く限り、教室にいたのは俺が校舎をうろちょろしている間にどこかから侵入して来たらしいテロリストを名乗る二人組の男。そのうちの一人は軍用魔術【ライトニングピアス】の使い手らしい。俺はその魔術を知らないが、クラスメイト達の(おび)えた雰囲気と、『()()』という肩書きから、かなり危険な術だと推測(すいそく)出来る。もう一人の男に関しては、無口だということ以外は何も分かっていない。

 

 

 相手は二人、こちらは一人。戦うにしても、今の俺は何の武器もない上に、敵の情報も少なすぎるのに加えて、相手は生徒達がいる教室に陣取(じんど)っている。こちらから簡単には仕掛けられない。なんちゅーこっちゃ…

 

 

 そして一番の懸念(けねん)はというと、俺はこれまで魔術師と戦った事が無い。単純に武器での殴り合いなら星の数ほど経験しているが、魔術を行使(こうし)する敵との戦闘は、正真正銘これが初めてだ。素手で戦うにしろ獣化(じゅうか)するにしろ、俺の戦闘スタイルが通じるかわからない以上、慎重に行動しないといけない。

 

 

 ……きっついなぁ。傭兵時代にも難しい依頼はいくつかこなしてきたけど、こんなに動きにくい状況はあんまり無かった。

 

 

 

 思わずうめき声が()れそうになる。

 

 

 

 眉間(みけん)にシワが寄っているのが自分でもわかった。せめて魔術戦に()けたヤツがいれば…と思わずにはいられないが、無い物ねだりしても状況が変わる訳じゃない。今のところテロリスト達は大人しくしている様だが、それもいつまで続くかはわからない。犠牲者が出る前に、クラスメイト達を助けないと……。

 

 

 

 

 

 考え事に(ふけ)っていた俺の視界に、キラリと小さな光が(またた)いた。咄嗟(とっさ)にその場を飛び退く。

 

 

 

 

    ヒュッ

 

 

 

 

 顔のすぐ横で、静かな風切り音を立てて何かが通り過ぎた。見れば、先程まで俺が座っていた場所には、細く鋭い氷柱(つらら)が突き刺さっている。どうやらあちらさんはゆっくりと考え事をする時間もくれないらしい……。

 

 

 

 パチパチパチ、と控えめな拍手が響いた。そして誰かの落ち着いた声がそれに続く。

 

 

 

「凄いですね、今確実に当たったと思ったんですが…」

 

 

 

 物陰から現れたのは細めの優しげな顔をした男。ありゃりゃ、見つかってしまったか。そう思うが顔には出さない。こんな時こそポーカーフェイスだ。相手は俺と会話をするつもりなのか追撃してこない。ひとまずテキトーに言葉を返しておく。

 

 

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

 

「面白い返しですね。褒めておきましょう」

 

 

「…敵であるアンタに褒められても嬉しくはないけどな」

 

 

 

 苦笑し、言葉遣いを改める。俺は、きっと自分でも気づかない内に(あせ)っていたのだろう。そのせいでこの男に気がつけなかった。穏やかな日常に慣れて気が抜けていたのもあるだろう。自分の注意力散漫に小さく舌打ちする。それと同時に、何故か既視感(きしかん)を感じる…この男、どこかで見たような…?

 

 

 

「さて、どうする?俺をここで殺すか?」

 

 

 

 心のモヤモヤを振り払い、ぶっきらぼうに放った俺のあまりにもストレートな質問に、相手は苦笑した様だった。

 

 

 

「残念ながらそうです。これは仕事なので」

 

 

「さいですか…」

 

 

 

 ……先程から気になっていたが、どうもこの男からは、言葉の割に全く殺気を感じない。一体何のつもりだ、と警戒心()()しで(にら)みつける。が、相手はどこ吹く風、といった様子で余裕の笑みを崩さない。

 

 

 

「…ところで少年、君は最近編入してきた生徒ですね?」

 

 

「……さぁね」

 

 

 

 素っ気なく言い捨てると、男は控えめに微笑した。

 

 

 

「…今からする質問は単純に私の興味本位です。答えなくても構いませんが、私は相手のことは知っておきたいので」

 

 

「………」

 

 

 

 何を知りたいかはわからないが……視線で続きを(うなが)す。

 

 

 

「…君のクラスメイト達は、……元気でしたか?」

 

 

 

 まるで生徒達を知っているかの様なこの口ぶり、そしてテロリストにしてはおかしな質問でピンときた。この男、アレだ、グレン先生が来る前の先生だ。前にセリカさんに学院を案内された時に、学院長室の前の廊下に講師紹介の写真が貼ってあったから間違いない。確か名前は    

 

 

 

「……ヒューイさん、だったかな?」

 

 

「………貴方とは初めてお会いしましたが…?」

 

 

 

 俺の(つぶや)きを聞いた男が、不思議そうな表情を浮かべた。   ビンゴォオッ!!と叫びたくなるのを我慢し、

 

 

 

「クラスメイト達から前任講師の事を散々聞いてたので」

 

 

 

 とだけ言う。それから俺は、教室側の壁を(あご)で示した。

 

 

 

「さっきの質問の答えだけど…少なくとも、アンタ達が来るまでは皆元気だったよ」

 

 

「…そうですか」

 

 

「…何でこんな事してるのかは知らないし、興味もないけど……教え子達が知ったら悲しむ  

 

 

 

 俺の言葉を(さえぎ)って、瞑目(めいもく)していたヒューイさんは、不意にユラリとこちらに左手の指を向けた。

 

 

 

 

   魔術を使う予備動作(モーション)!!

 

 

 

 

 素早くヒューイさんから距離を取り、教室の前方、教卓側で構える。二組と一組の教室の間は多少分厚いが、壁一枚なので背を預けて戦うのには心細い。万が一戦闘中に壁が(くず)れたりしたらテロリスト達とヒューイさんに(はさ)()ちにされてしまう為、あの壁を背に戦うのは愚策(ぐさく)だ。……向こうの二人はもうとっくに俺の存在には気付いてはいるんだろうけど。

 

 

 

「では……知りたい事も聞き終えたので、そろそろ君には消えてもらいましょうか」

 

 

「ホント唐突だなぁ」

 

 

 

 相変わらず物騒(ぶっそう)なセリフの割には、殺気の欠片(かけら)も、それどころか戦意も感じない。油断なく構えを取りながらも怪訝(けげん)な視線を向けるが、もう俺とおしゃべりするつもりは無いようで、静かに俺を見返すだけだ。ヒューイさんの目を見ていると、俺は遅まきながらある事に気付いた。

 

 

 この人もしかして    

 

 

 

「《炎獅子よ》」

 

 

 

 俺の思考を断ち切るように唱えられた何かの呪文が聞こえた  直後、咄嗟(とっさ)に回避行動を取ろうとする俺の視界いっぱいに爆炎が広がるのを感じると同時に背後の壁が、そして爆発に耐えきれなかった壁付近の天井が   崩落した。

 

 

 

 バゴォォンッ!ガラガラガラ  ッ!!

 

 

 

 瓦礫(がれき)と共に落ちていく俺が最後に見たのは、こちらを見下ろすヒューイさんの無表情な顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜システィーナ〜〜

 

 

 

 

 

 

 バゴォォンッ!ガラガラガラ  ッ!!

 

 

 

 突如(とつじょ)響いた轟音に、それまで静かにしていた生徒達がにわかに浮き足立つ。

 

 

 

「お、おいっ、どうなってんだよ!?」

 

 

「きゃあああああああっ!?」

 

 

「うわぁああっ!!」

 

 

 

 一瞬でパニックに(おちい)りそうになる生徒達。それは私も例外ではない。悲鳴こそ隣のルミアにしがみつくことでかろうじて上げはしなかったものの、内心バクバクだ。ルミアも顔が青ざめている。

 

 

 

(な、何なのこの爆発?しかもかなり近い!?)

 

 

 

 戦々恐々(せんせんきょうきょう)とする生徒達を尻目に、チンピラとダークコートの男は落ち着き払っている。

 

 

 

「……こりゃネズミがいたな?」

 

 

「そのようだが…私達が行くまでもないようだ」

 

 

 

 

  待って。じゃあさっきの爆発は……

 

 

 

 

 男達の会話を聞いて一斉に凍り付く生徒達。一変した空気に、チンピラが顔を上げた。その顔には笑みが貼り付いている。

 

 

「君らの他にも生徒がいたらしいけど…残念だったねぇ。ソイツは俺らの仲間が殺したみてーだわ!ケケケ!!」

 

 

「そ、そんな……」

 

 

 

   ウィルが、ウィリアスが、死んだ…?

 

 

 

 教室に、重たい沈黙が満ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜カッシュ〜〜

 

 

 

 

 現在、俺達の両手は背中側で強力な(なわ)(しば)られている。呪文も【スペル・シール】をかけられているため、完全に無力化されてしまった。生徒は全員教卓のそばに集められていて、見張りは一人、あのチンピラが教室に残っている。

 

 

 

 もう一人いたダークコートの男は、何故かルミアをどこかに連れていってしまった。

 

 

 

 生徒達の表情は暗い。無理もない、クラスの担任と友人を殺され、女子生徒も一人どこかへ連れて行かれ、あとの自分達はどうなるかわからない……。

 

 

 ほんのついさっきまで楽しく談笑していた友人は   ウィルは、もういない。そう考えると深い悲しみが(あふ)れてきた。

 

 

 せっかく仲良くなれたのに……もっといろいろ話したい事もあったってのに……(こら)えきれなかった一滴の涙が、俺の頬を静かに(つた)った。こんなんじゃ駄目だ、と思い直し、腕で涙を(ぬぐ)おうとするが、腕は縄で拘束されていることに気付き、やむなく肩で拭う。

 

 

 

 

 そうして過ごす事数十分。一度、階下から爆音が響いてきたが、それ以外には何もない。

 

 

 

 

 見張りをしているのが退屈になったらしい。チンピラが突然、生徒達の方へズカズカと歩み寄ってきた。そして、システィーナの腕を乱暴に(つか)み、ドアへと向かっていく。慌て声を上げるシスティーナ。

 

 

 

「ち、ちょっと!何するのよ!?」

 

 

「暇つぶしだよ、暇つぶし。ケケケッ!」

 

 

 

 やめろ、と叫ぼうとするが、かすれ声しか出ない。皆も何かを言おうとしているが、その小さな声は届かない。見せつけられた力の差が、圧倒的な恐怖が、男に立ち向かう事を拒否してしまっている。

 

 

 

 結局、何も言う事が出来ないまま、システィーナは連れて行かれてしまった。ドアに再びロックの魔術が掛けられたらしく、ガチャンッ!という音が教室に響き渡る。誰も何も言わない。ただ(うつむ)いているだけだ。

 

 

 一体何をされるのか、助かるかさえもわからないこの極限状態(きょくげんじょうたい)に置かれた俺達は、

 

 

 

 

 

 

    皆、もう精神的にボロボロだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室に満ちた痛いほどの静寂(せいじゃく)を、突如ガラスの割れる大音響が破った。

 

 

 ガッシャアアア    ンッ!!

 

 

 びくりと体を震わせる生徒達。見れば、教室の後ろの大きな窓ガラスが割れ、丁度ウィリアスが座っていた場所の机に、黒く、大きな何かが(うずくま)っている。

 

 

「な、何ですの、アレ…?」

 

 

「……ここ四階だよね?一体どうやって入ってきたんだろう…?」

 

 

 ウィンディとセシルの呆然とした声が聞こえる。

 

 

 警戒し、教室の隅に固まる生徒達。皆の集中した視線の先で、ソレはゆっくりと立ち上がった。

 

 

 (たくま)しい四肢に、長い尾、揺れる(たてがみ)。それら全ては黒く染まっている。

 

 

 

 

 そして   

 

 

 

 

 

 

 

 呆気(あっけ)にとられる生徒達を、黒い獣の、強く輝く青い瞳が睥睨(へいげい)した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 突然のカッシュ目線。
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