ロクでなし魔術講師と戦闘民族   作:カステラ巻き

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 祝!20000UA突破!!あと、20話!

 これも全て読んでくださった皆様のおかげです。お気に入りや、評価、感想など本当にありがとうございます!

 それはそうと、原作一巻だけで20話を超えるなんて…。我ながらどんだけペースが遅いんだよって思いました。

 こんなスローペースの作品ですが、今後とも読んで頂ければ幸いです。


覚悟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 階段を駆け上り、再び廊下へと復帰した俺達。

 

 

 後ろから追いかけて来るボーンゴーレムの足音がはっきりと聞こえてくる。そんな中、息を切らしながらフィーベルさんが言う。

 

 

「先生!?この先は   

 

 

「あぁ、行き止まりだな」

 

 

 彼女が察したとおり、ここから先に一直線に続く廊下の先は袋小路だった。

 

 

 厳しい顔をしたグレン先生がフィーベルさんを見て言った。

 

 

「俺がここを食い止める。お前は先に奥まで行って……即興で呪文を改変しろ」

 

 

「え!?」

 

 

 戸惑いの声を上げるフィーベルさんを無視して、グレン先生は続ける。

 

 

「改変する魔術はお前の得意な【ゲイル・ブロウ】だ。威力を落として、広範囲に、そして持続時間を長くなるように改変しろ。節構成はなるべく三節以内だ。完成したら俺に合図しろ。後は俺がなんとかしてやる」

 

 

 うん、俺には難しそうだ。

 

 

「で、でも……」

 

 

 不安げな表情を浮かべたフィーベルさんが隣を走っているグレン先生の横顔を見上げた。

 

 

「わ、私にそんな高度なことができるかどうか………」

 

 

 言い(よど)んだフィーベルさんに、グレン先生は「大丈夫だ」と自信に満ちた声で答えた。

 

 

「お前は生意気だが、確かに優秀だ。生意気だがな」

 

 

「生意気を強調しないでください!」

 

 

「俺がここ最近で教えたことを理解しているなら、それくらいできるはずだ。てか、できれ。できないなら単位落としてやる」

 

 

 グレン先生は黒い笑みを浮かべている。

 

 

「いっひっひ、楽しみだなあ…?お前、もしかしたら進級出来ねぇかもなぁ?」

 

 

「ねぇちょっと!理不尽にも程があるでしょ!?……冗談ですよね?」

 

 

 講師にあるまじき発言に食ってかかるフィーベルさんを見て、こんな状況にも関わらず笑いそうになった。グレン先生がそれを狙ってやったのかは不明だが。

 

 

「……まぁ、わかりました。やってみます」

 

 

 フィーベルさんが頷いたのを確認し、今度は俺の目を覗き込みながらグレン先生は言った。

 

 

「お前も一緒に後ろに下がれ。その怪我じゃロクに動けないだろ?」

 

 

 悔しいが、その通りだ。今の俺は移動速度が極端に落ちているし、無理に足を動かしたせいで、肩から結構な量の血が流れていた。見れば、黒かった毛並みが赤く染まってしまっている。

 

 

「これが終わったらすぐに治療するから、もう少しだけ待っててくれ。それと……」

 

 

 今度は俺の耳に顔を寄せて。

 

 

「何かあったら、ソイツを守ってやってくれ。頼むぞ」

 

 

 そう、フィーベルさんにも聞き取れない程の小さな声で言った。

 

 

 やっぱりこの人は、生徒想いの優しい先生だと思った。同時に、信用できる人物だとも思う。だからこそ、その時はこう思えたのだろう。

 

 

 ………この人達になら、いいかな。

 

 

 ストンと胸に落ちた言葉。

 

 

 後になって気づいたが、俺はこの時、無意識に二人を試していたのかもしれない。普段の俺なら、絶対に実行しないことをした。一度見られていたということもあって、精神的にもその垣根は低かった。

 

 

「ヴルル……」

 

 

 喉を鳴らした俺は、大気中から魔力を集め、グレン先生にちょんと触れた。すると   

 

 

「うおっ!?」

 

 

 先生の全身に赤い炎が灯った。それはグレン先生を焼くことなく、身体を覆う様にして揺れている。

 

 

 そう、先程チンピラを倒した時に俺が(まと)っていた炎だ。

 

 

 グレン先生と、念の為フィーベルさんが触れても大丈夫なように温度も調節してあるので、触っても暖かく感じるだけだろう。仕組みは簡単だ。大気中の魔力を炎に変換し、先生に(まと)わせただけ。見た目的には燃えている様にも見えないことはない為、フィーベルさんが慌て声を出した。

 

 

「せ、先生!?」

 

 

 そして何故か大声を上げ始めるグレン先生。…あれ?温度調節、間違ってないよな?

 

 

「ひゃぁああっぢゃぁああああああ!!………あ?……熱くない。これって……」

 

 

 こっちが不安になってくるほどの凄い顔で叫んでいた先生は、熱さを感じないことに気づいたのか、自分の身体をあちこち触ったあと、こちらを不思議そうな顔をして見た。

 

 

「……お前の力か?」

 

 

 答える代わりに、俺も炎を身に(まと)ってみせた。

 

 

 この炎は、身体の好きな箇所に炎を移動、集中させることができる。集落にいた時から修練を重ねているうちに、これを他の人や物に付与できることがわかった。ちなみに、付与できるのは獣化している間だけだ。

 

 

 この炎は、腕に集中させれば攻撃した時に爆発させることが出来るし、背中に攻撃を受けそうになった時は、背中側を爆破して敵を吹き飛ばすことも可能。攻防共に優れている為、かなり使い勝手が良い便利な力だ。ただ、付与できる時間はそう長くはない。

 

 

 話すことができない為、使い方を直接グレン先生に教える事はできないが、まぁ、ないよりはマシだろう。……あ、今のうちにグレン先生の拳に炎を集中させとこうかな。

 

 

 それまでグレン先生の身体全体を覆っていた炎がユラユラと拳に集まっていくのを、グレン先生とフィーベルさんの二人は呆気にとられた様に見ていた。

 

 

「……これでアイツらを殴れってことか?」

 

 

「ヴァヴ」

 

 

「…何かよくわからんが、サンキューな」

 

 

 そう言って俺の背中をわしわしと撫でたグレン先生は、俺達に背を向けた。

 

 

「……よし、じゃあ、さっき言った通りに頼むぞ。さぁ行け!」

 

 

 その声を合図に、俺達は後ろへと走り始めた。反対に、グレン先生はボーンゴーレム達へと向かっていく。

 

 

 グレン先生が稼ぐ時間を無駄にしてはいけない。

 

 

 痛む足を引きずりながらも、俺は懸命に走った。

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜システィーナ〜〜

 

 

 

 

 

 

 廊下の最奥に到達した私は息を整えていた。この時間、一秒も無駄にはできない。

 

 

 廊下の向こうでグレン先生がゴーレム達を足止めしてくれているが、何しろ敵の数が多い。長時間はきっと持たないだろう。

 

 

 グレン先生に指示された通りに【ゲイル・ブロウ】の魔術式と呪文を思い浮かべながらも、私は視線を隣に向ける。

 

 

 隣にいる猫ちゃん(本当に猫かはわからないが)の怪我は酷い。肩から床に滴り落ちた血が、今なおその血は止まっていないことを表していた。

 

 

 一刻も速く治療しないと     !!

 

 

 焦りながらもグレン先生に教わってきたことを頼りに、必死に頭の中で演算しながら、黒魔【ゲイル・ブロウ】の呪文を少しずつ改変していく。

 

 

      怖い。

 

 

 ポツリと心に浮かんできた言葉を強引に打ち消す。しかしそれは、完全には打ち消せなかったみたいで。

 

 

       怖い、怖いよ  !!

 

 

 叫んでいる。

 

 

 強がりの仮面をつけて、これまでずっと隠していた、本当は誰よりも臆病で、弱い私が。

 

 

 私には実際の戦闘経験が全く無い。戦闘といえば、せいぜいが授業の模擬戦程度。そんな私が、本当の、ましてや命を賭けた戦いなんてできるわけがない    

 

 

 マイナスな思想ばかりが浮かんでは消えていく。そんな時   

 

 

      ふと、何か暖かい物が私に触れた。

 

 

「……?」

 

 

 見れば、隣にいた猫ちゃんが私に寄り添うようにして立っていた。その暖かみを感じて初めて、自分の身体が冷え切っていたことに気づく。

 

 

「…………」

 

 

 大怪我を負っているにも関わらず、猫ちゃんは静かに私を見つめている。

 

 

 私の不安を読み取ったのか、「大丈夫」と言う様にゆっくりと(まばた)いたその瞳を見て、不思議と心のモヤモヤが消えていくのを感じた。

 

 

 ……私が弱いことくらい、私が一番わかってる。でも、その弱さを理由にして逃げちゃだめだ。それをすれば、私は絶対に後悔する。

 

 

 震える膝を叱咤し、シャンと背筋を伸ばす。額の汗を拭い、一度大きく息を吐く。

 

 

「ふぅ     

 

 

 焦燥と恐怖、そして絶対に失敗できないというプレッシャーでパニック寸前だった(もろ)い心を何とか鎮め、私は中断していた呪文の改変を再開した。

 

 

 恐怖が消えたわけじゃない。

 

 

 それでも   

 

 

 前を見る。

 

 

 そこには、今なおゴーレムと戦っているグレン先生の姿がある。あの不退転の立ち回りは私を頑なに信じていなければ絶対にできないことだと、今見ていて気づく。その背中に強い勇気を感じた。

 

 

 横を見る。

 

 

 静かに自分を支えてくれた、不思議な力を使う猫ちゃん。大怪我を負っているにも関わらず、その瞳から知性が失われることは無い。どことなくウィルに似た雰囲気を(まと)ったこの子に何度助けられたことか。

 

 

 目を閉じる。

 

 

     ルミア。

 

 

 脳裏に浮かんだ、今は離れている大事な親友。

 

 

 彼女は恐ろしい敵を前にしても、一歩も怯まなかった。怖かった筈だ、戸惑いもあったろう。それでも、彼女は連れて行かれる最後まで毅然とした態度を崩さないままだった。

 

 

 今だけでいい……グレン先生や猫ちゃんみたいな……ルミアみたいな強さを……ッ!!

 

 

 私はルミアに、グレン先生に、そして猫ちゃんに救われた。

 

 

     だから、今度は私が助ける!

 

 

 カチリ、とパズルのピースが()まるように、最後のルーンを選び、呪文改変が完成した。

 

 

「先生、できた!」

 

 

 待ってましたとばかりに踵を返し、グレン先生が駆け寄ってくる。当然、ボーンゴーレム達も追ってくる。

 

 

「何節詠唱だ!?」

 

 

「三節です!」

 

 

 叫びながら発せられた問いかけに、私も叫んで返す。

 

 

「よし!俺の合図に合わせて唱え始めろ!奴らにぶちかましてやれぇ!」

 

 

「はい!」

 

 

 グレン先生がこちらを目掛けて走ってくる。その後ろを追いかけて来るボーンゴーレム。

 

 

「今だ、やれぇ!!」

 

 

「《拒み阻めよ・  

 

 

 合図と同時に開始した詠唱。

 

 

「《  ・嵐の壁よ  

 

 

 グレン先生が私の横をスライディングして通り抜けた瞬間。

 

 

「《その下肢に安らぎを》  ッ!!」

 

 

 呪文が完成。私の両手から、凄まじい暴風が吹き荒れた。

 

 

 風に足止めされたゴーレム達の進行速度は目に見えて落ちていた。

 

 

 いや、それだけではない。私が起こした風に乗って、猫ちゃんが生み出した炎がゴーレムに殺到していく。その様子はまるで炎の絨毯(じゅうたん)だ。ゴーレムにぶつかった炎は小さく爆発し、その動きを阻害している。

 

 

 だが、即興ゆえに威力が足りなかったのか、完全に足止めはできなかったようで。

 

 

 ゆっくりと、しかし確実にこちらに歩みを進める数体のゴーレムを見て、私は激しく(なび)く髪を抑えながら、スライディングした後の体勢のまましゃがんで息を整えていたグレン先生に声をかけた。

 

 

「ごめんなさい、先生……ッ!」

 

 

「いーや、上出来だ。よくやった、お前ら」

 

 

 荒い息をつきながら先生が立ち上がった。そして、ゴーレム達の前に向き直る。その手には何か小さな結晶のようなものが握られていた。

 

 

「こっからは   

 

 

 その結晶をぴん、と親指で頭上に弾き飛ばし、落ちてくるそれを横に()いだ手で掴み取る。

 

 

 そして、その結晶を握り込んだ左拳に右(てのひら)をぱん、と合わせると、グレン先生は不敵に笑った。

 

 

   今日だけの特別授業だ。しっかり見てろよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 




 ううぅ〜ん、システィーナ目線難しいな。

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