ロクでなし魔術講師と戦闘民族   作:カステラ巻き

21 / 41
獣の正体

  

 

 

 

 

 

 

 廊下に朗々と響く詠唱。

 

 

「《我は神を斬獲せし者・  ……」

 

 

 その声は静かに、なおかつ力強く響く。

 

 

「《我は始原の祖と終を知る者・  ……」

 

 

 隣で詠唱を聞いていたフィーベルさんが、呆けたようにつぶやいた。

 

 

「…う…嘘……?」

 

 

 彼女はグレン先生が唱えようとしている呪文の正体がわかったらしい。詠唱が進むにつれて、グレン先生の左掌に魔法陣が浮かび上がっていく。

 

 

「そ、その術は……」

 

 

 ちなみに俺にはサッパリわからない。詠唱をちょっと聞いただけで何の魔術かわかるって凄いと思う今日この頃です。

 

 

「《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離(かいり)すべし・いざ森羅の万象は(すべから)く此処に散滅せよ・  

 

 

 グレン先生はもうすぐ側まで迫ってきていたゴーレムを凛と見据えて。

 

 

  遥かな虚無の果てに》  ッ!」

 

 

 そう締めくくると、俺達二人の前になかなか酷いことを叫びながら躍り出た。

 

 

「いい加減にしやがれやああ!しつけーんだよこの、ストーカー共めらがあああ!!黒魔改【イクスティンクション・レイ】 ッ!!」

 

 

 グレン先生の左掌を中心に高速回転していた魔法陣が前方に拡大拡散しながら展開したと思った次の瞬間、魔法陣から巨大な光線が放たれた。

 

 

 廊下を駆け抜けたその光線は、直線上にいた無数のゴーレム達はおろか、天井や床まで粉みじんに消滅させていた。

 

 

「…え?」

 

 

 壁が消滅したことによって見えるようになった外の風景をためつすがめつ眺める。わー、いい天気だなぁ…。

 

 

 ……いや待て、なんじゃこりゃ!?

 

 

「す、凄い……こんな、高等呪文を……」

 

 

 混乱している俺と、賞賛半分驚愕半分な様子のフィーベルさん。

 

 俺達がポカンと破壊後(元廊下)を見つめていると、前に立っていたグレン先生が苦しげな呼吸音を漏らした。

 

 

「フン、ストーカーにはふさわしい末路だぜ……ご、ほ……っ!」

 

 

 そう言った直後に、その場に崩れ落ちようとしたグレン先生を俺は慌てて支えた。

 

 

「先生!?」

 

 

見れば、グレン先生は血を吐いている。顔色は悪く、今にも気絶しそうだ。

 

 

     内蔵にダメージを!?

 

 

 血を吐いていたのでそう考えたが、直ぐにそれは訂正された。

 

 

「これは……マナ欠乏症!?」

 

 

 フィーベルさんの鋭い声が響く。

 

 

 マナ欠乏症……それって魔力を使いすぎたら起きるあれか!?ちょっと前に教えてもらったやつだ!

 

 

「まぁ……分不相応な術を、無理矢理使ったからな……このザマだ…くそ、「特別授業だ」とか言ってカッコつけるんじゃなかった……」

 

 

 苦しそうに顔を歪めるグレン先生は、普段の軽口を叩く元気も無いようだった。そのマナ欠乏症を差し引いてもグレン先生の怪我は酷い。深い傷は見たところ無いが、結構な数の小さな傷がある。小さいといえども傷は傷。このまま血を流し続けるのはまずい。

 

 

「《慈愛の天使よ・彼の者に安らぎを・救いの御手を》」

 

 

 フィーベルさんが唱えた…えーっと……た、たしか白魔【ライフ・アップ】の呪文がグレン先生の傷を少しずつ癒やしていく。

 

 

「馬鹿、やってる場合かってんだ…よ……ッ!」

 

 

 フィーベルさんの手を払い除け、無理矢理立ち上がった先生。しかし、その膝は震えている。相当キツイんだろう、早く安全な所で治療しないと………ん?

 

 

 今、何か音がしたような…?

 

 

 耳をぴんと立てて、音源を探る。風に揺れる木の葉の音、今だ小さな破片をこぼし続ける抉られた壁。それらの音を意識から排除する。そして、捉えたのは   

 

 

「すぐに、ここを離れるぞ……その猫の肩も治療してやらねぇと……とにかく、早くどこかに隠れ………?」

 

 

 グレン先生のセリフを遮って、俺は低く唸った。

 

 

「ヴルルルッ!!」

 

 

「おい、どうし    っ!」

 

 

 言いかけて、グレン先生は苦い顔をした。どうやらグレン先生も気づいたらしい。俺にもたれかかっていた身体をグイと起こし、少しふらつきながらも自力で立った。

 

 

「……おいおいおい…最っ悪なタイミングだなおい……くそったれ…」

 

 

 崩壊した廊下の反対側から、カツンという靴音が微細に空気を振動させた。同時に声。

 

 

「【イクスティンクション・レイ】まで使えるとはな。少々見くびっていたようだ。それに、そこの獣………」

 

 

 姿を現したのは、ダークコートの男。その背後には五本の剣が浮いている。その刃の切っ先はこちらに向いている。

 

「あーもう、浮いてる剣ってだけで嫌な予感がするよなぁ……あれって絶対、術者の意識で自由に動いたり、達人の技を記憶していて自動で動くやつだろ」

 

 

 ぼやくようなグレン先生の呟きにコート男はゆっくりと足を止めた。

 

 

「グレン=レーダス。調査では第三階梯(トレデ)にしか過ぎない三流魔術師だと聞いていたが……評価を改めねばなるまい」

 

 

「わー、ありがとうございます。ついでに見逃してくれたりしちゃったりして……」

 

 

 その言葉に男は冷ややかな笑みを浮かべた。あかん、これ油断したら殺られるわ。

 

 

「それは無理な相談だ。貴様等にはここで死んでもらう」

 

 

「それは残念。で、なんだその剣は。俺対策か?」

 

 

「知れたことを。貴様は魔術の起動を封殺できる   そんな巫山戯(ふざけ)た術があるのだろう?」

 

 

 魔術を封殺?それってさっきのあのカードが関係してるのか?なんて言ってたっけ……えーと確か…愚者の   欠伸(あくび)

 

 

「あのジンが何もできずに一方的にやられるなどそれしか考えられん。加えて貴様はボーンゴーレムにはその妙な術を使わなかった………つまりは魔術起動のみを封じる特殊な術、ということだ。ならば、最初から術を起動しておけば問題はない」

 

 

 コート男がパチン、と指を鳴らした途端、背後に浮いていた剣が一斉にこちらに飛来してきた。

 

 

 ドンッ!

 

 

 それを見た俺はフィーベルさんを頭で強く押した。丁度グレン先生も同じことを考えていたらしく、手を突き出している。二人分の力で同時に押された彼女が大きくよろめいたその先に地面はない。

 

 

「えっ!?」

 

 

 中に浮くフィーベルさんは驚いたような顔をして、下に落ちていく。さっき外を眺めた時に、下に低木が密集しているところを発見していた。丁度そこに落ちるように調節したので大丈夫だろう。………高所恐怖症だったりとかしないよね……もしそうだったら申し訳ない。

 

 

 途中で大きな悲鳴と共に突風が吹くような音が聞こえてきた。きっとフィーベルさんの【ゲイル・ブロウ】だ。上手く着地できたかな?

 

 

 そう考えながらも迫ってきていた剣を睨み付ける。俺を狙っている剣は三本。身体を捻り、壁の残骸を蹴りつけ、直撃しそうな剣は爆風で軌道をずらしながら回避する。先生も上手く避けたようだ。

 

 

 状態は良くない。俺は機動力が落ちているし、グレン先生も体調が(かんば)しくない。それに引き換え相手が操っている剣は剣自体の速度も速い上に手で操っているわけではないので軌道が読みづらい。今の俺たちには正直キツイ相手だ。

 

 

 しかし、俺とグレン先生をなぜか男は追撃してこようとはしなかった。中に浮いた剣が廊下に(たたず)む男の元へと戻っていく。

 

 

 牙を剥き出して威嚇していると、男がおもむろに口を開いた。その口調はとても静かだ。

 

 

「……逃がしたか。まぁいい」

 

 

「……ぶっちゃけアイツを守りながらってのはしんどいしな」

 

 

 肩で息をしながらグレン先生が拳闘の構えをとった。俺も身を低く構える。こっちだって簡単に殺されるつもりは微塵もない。

 

 

 息を吸い、酸素を肺へ送る。同時に魔力も集めていく。

 

 

 魔力を元に変換された炎は身体に渦を巻いてゴウゴウと激しく燃え盛る。

 

 

「ふむ……やはり」

 

 

 その様子を見ていた男から発せられた、何かを確信したような言葉。

 

 

「まさかここで再び相見えることになるとはな……獣の一族よ」

 

 

    こいつ俺の、いや、()()()のことを知ってるのか!?

 

 

 驚愕している俺をグレン先生は横目で見てきた。

 

 

「獣の一族だぁ?」

 

 

 はいその話題ストップ。

 

 

 そんな心の声が届くことはもちろんなく。コート男はほんの少しの呆れを表情に載せて続ける。

 

 

「何だ、共に戦っている者の素性も知らんのか……その者は   

 

 

 待て待て待て!ちょっと待て!!

 

 

   人と獣、二つの姿を持つ者だ。最強の戦闘民族である彼らの名は  ベスティア」

 

 

 言っちゃった!言っちゃったよコイツ!!

 

 

「……は?ベスティア??」

 

 

 こちらを見る隣からの視線が痛い。

 

 

「彼らの存在自体を知る者は裏の世界でも少ない。名前を聞いても気づかなかったというのはそれも大きいだろうな」

 

 

 二人分の視線を受ける俺。

 

 

 ……流石にもう誤魔化せないか。

 

 

 纏ったままだった炎を空中に散らし、俺は変身を解いた。グレン先生の顔が驚きに染まった。コート男は少し意外そうな顔をしている。

 

 

「お前だったのか……」

 

 

「ほう……中々に威厳溢れる姿をしていたのもあり、壮年をイメージしていたのだが…」

 

 

 それぞれの感想を聞きながら、俺は最後の抵抗とばかりに一言。

 

 

「違います。【セルフ・ポーネグリフ】です」

 

 

「……………」

 

 

「……………」

 

 

「……お前、それ言うなら【セルフ・ポリモルフ】な」

 

 

「…………あ」

 

 

 結論    やっぱり誤魔化せなかった。

 

 

 

 

 




 なるべく引っ張りたかったウィルの正体についてですが、ここでグレンにバレてしまいます。

ちなみに、【セリフ・ポリモルフ】は肉体の構造そのものを作り変えて変身する魔術です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。