ロクでなし魔術講師と戦闘民族   作:カステラ巻き

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 今更ですけどサブタイトル考えるのって凄く難しいですね。全く案が浮かばない……。いつも超絶テキトーです。

 今回ちょっと話の進め方が強引かもしれません。


講師と生徒

 

 

 

 

 

 

 ……気まずい。とんでもなく気まずい。

 

 

 自然とグレン先生から目を逸らしてしまう。

 

 

 そんな俺を複雑な目で見ていたグレン先生は、大きなため息をつきながら言った。

 

 

「いろいろと言いたいことや聞きたいことはあるが……お前、白猫にちゃんと謝っとけよな。アイツお前が死んだと思い込んでめちゃくちゃ泣いてたぞ?」

 

 

「……はい」

 

 

 うん、それは本当に申し訳なく思っています。

 

 

「まあ、ひとまず今は    

 

 

 そう言ってグレン先生は目を動かした。その視線の先にいるのは、律儀にも会話が終わるのを待っていてくれたらしいコート男。

 

 

   コイツをなんとかしねぇとな」

 

 

「…そうですね」

 

 

 短く答えた俺とグレン先生の視線を受けて、腕を組んでいた男はゆるりと腕を解いた。その動きと同時に殺気が膨れ上がっていく。

 

 

「…話は終わったか?」

 

 

「ああ、おかげさまでな」

 

 

 俺の答えにフン、と鼻を鳴らしたコート男の周りを剣が漂う。その刀身は術者の心情を表したかのようにギラギラと輝いた。

 

 

「………では、行くぞッ!!」

 

 

 コート男の叫びを切っ掛けに、俺とグレン先生に剣が殺到した。ただ、俺は変身を解いたおかげで素早く動ける。相変わらず左肩は動かないし、武器もないが、機動力が死んでいたさっきよりは遥かにマシだ。

 

 

 俺は大きく踏み込むと、右拳で剣の腹を強く殴る。硬い金属の感触を拳に残してクルクルと宙を舞った剣は、ガギィン!という音を立ててグレン先生を狙っていた剣を巻き込み、かなり遠くへ弾き飛ばされていった。

 

 

 (ベスティア)の血を引く者は身体能力が元々高い。それは単純な腕力も(しか)り。

 

 

「助かったぜ、ウィル!」

 

 

 小刻みにステップを踏み、剣を(かわ)しながらグレン先生は叫んだ。

 

 

「どういたしましてぇえやあああ  ッ!!」

 

 

 飛んできた剣の柄頭に回し蹴りを放ちながら叫び返す。俺が蹴り飛ばした剣が床を削りながら滑っていく。これで今宙に浮いている剣は二本。

 

 

 そのうちの一本が斬り掛かってくるのを前転で回避しながら俺はコート男へと突進する。

 

 

「《炎獅子よ》   ッ!?」

 

 

 コート男は俺に指を向け、何かの呪文を唱えたが、魔術は発動しなかったらしい。グレン先生の仕業だろう。

 

 

「させねぇよ!!」

 

 

 案の定聞こえてきたグレン先生の言葉にコート男は一瞬だけ顔を歪めたが直ぐに無表情に戻り、手元に残っていた一本の剣を俺に向けた。周りから集まろうとする剣はグレン先生が相手をしてくれているようで、剣はなかなか戻って来ない。俺とコート男は一対一で向き合った。

 

 

 彼我の距離、約5メートル。

 

 

 俺は足元に積もっていた瓦礫やら砂やらを思い切りコート男の顔めがけて蹴り上げた。

 

 

「む…ッ!?」

 

 

 それを煩わしそうに手で払い除けたコート男。この一瞬だけ、砂と自分の手に阻まれて奴は俺を目視できない。

 

 

 前に飛び込みながら獣化し、転がるようにして伏せる。

 

 

 ビュゴオッ!

 

 

 頭上を風切り音を立てて剣が通り過ぎた。巻き起こった風が俺のたてがみを激しく揺らす。

 

 

 彼我の距離、僅か3メートル。

 

 

 瞬時に姿を変えた俺に驚愕の表情を浮かべたコート男。その周囲に剣はなく、頼りの魔術はグレン先生に封じられている。俺には、コート男の次の行動が簡単に予測できた。

 

 

  ッ!」

 

 

 俺から距離を取ろうとしたコート男の足を素早く爪で切り裂く。悪いけど、逃がすわけにはいかない。

 

 

「ヴオオオッ!」

 

 

 獰猛な唸り声を上げた俺はコート男に飛びかかり、男の右腕に噛み付いた。鋭い牙が腕に深く食い込む。

 

 

「ぐああッ!!」

 

 

 堪らず叫んだコート男を噛み付いたまま思い切り床に叩きつけた。炎を纏ってはいなかったが、それでも地面にめり込む程の力を込めたので、暫くはまともに起き上がれないだろう。コート男の顔を覗き込んでみれば、完全に意識を失っている。

 

 

 同時に後方から、ガシャガシャと何かが落ちたような音がした。振り返ると、コート男が操っていた剣が床に折り重なるようにして落ちている。術者の意識がなくなったので、制御できなくなったんだろう。

 

 

 俺は獣化を解いて、落ちていた布切れでコート男の腕をキツく縛っておいた。形ばかりだが、無いよりはマシだろう。何もしないで放置ってのもなんかアレだしね。

 

 

 その作業を終えた俺は仰向けに床に倒れ込む。そんな俺の隣にグレン先生もゴロンと寝転ぶ。外から吹いた風が前髪を優しく揺らした。

 

 

 先に静寂を破ったのはグレン先生だった。

 

 

「……なんとか助かったな…」

 

 

「……はい…」

 

 

「……お前のことは黙ってた方がいいのか?…」

 

 

「……皆にはなるべく黙っててもらえると助かります。とは言っても、既にセリカさんと学院長は知ってますけど…」

 

 

「……そうか…」

 

 

「……それはそうと、先生の…魔術を封殺する魔術?……すごい助かりました……ありがとうございます…」

 

 

「……ああ…」

 

 

 どちらも身体は満身創痍。幸いコート男との戦闘では大きな怪我をすることはなかったが、精神的な疲れが来ていたので、喋る体力も気力も尽きかけていたが、今の俺はなんとなく話したい気分で、それはグレン先生も同じようだった。

 

 

 お互いに間延びした声で会話を続ける。

 

 

「……つーかさぁ、お前って結構えげつねぇ攻撃すんだな。砂蹴り上げたり、噛みついたりとか…」

 

 

「……それだけ俺が必死だったってことです。魔術師と戦うのは今回が初めてでしたしね……」

 

 

 戦いに於いて、使えるものはなんでも使え。耳にタコができるぐらい聞いた父さんの口癖だ。

 

 

「それに、せっかくの牙ですよ?あそこで使わなくていつ使うんですか…」

 

 

「……まぁ、そりゃそうかぁ…」

 

 

 ポツリポツリと言葉のキャッチボールをしていると、床に反響して小さな足音が聞こえてきた。その音はどんどん大きくなっている。フィーベルさんが戻ってきたのかもしれない。

 

 

 ぼんやりと考えていると、グレン先生が寝転がったまま少し焦ったような声をかけてきた。

 

 

「…おおい、変身しなくていいのか!?もしかしたらその肩の傷でバレるかもしれねぇぞ?」

 

 

 ……あ、確かに。

 

 

 一度受けた傷は人と獣、どちらの姿であっても位置は共通だ。俺の左眉の傷跡と同じように。大体は毛で隠れはするが、これだけの大怪我だ。もしかしたら肩の部分だけ毛が抜けるかもしれない……。いや、今はそれは置いといて。

 

 

「やっば!」

 

 

 俺は飛び起き、大慌てで獣化、ライオンの姿になった。

 

 

 直後、角を曲がって廊下の向こう側からフィーベルさんが姿を表した。こちらに向かって一直線に駆け寄ってくる。

 

 

 あ、危なかった……。もう少し獣化するのが遅かったら見られていたかもしれない。……でも、彼女には炎まで見せてしまっている。どのみち直ぐに正体を明かすことになりそうだ。

 

 

「先生!猫ちゃん!」

 

 

 駆け寄ってきたフィーベルさんがグレン先生と俺を呼んだ   その時、なにが面白かったのか、突然グレン先生が吹き出した。何事かと耳を澄ましてみれば  

 

 

「ね、猫ちゃん…ぷっ……くくく…」

 

 

 (かす)かに聞こえてきたのはそんな押し殺したような笑い声。その笑い声を聞いたフィーベルさんは首を傾げている。

 

 

「……?猫ちゃんがどうかしましたか?」

 

 

「い、いや、なんでもねぇ。………な、猫ちゃん?」

 

 

 最後の言葉は俺に向けてだ。顔を真っ赤にして細かく震えながら笑いを堪えているグレン先生を見て。

 

 

     コイツぜってぇ後で泣かす。

 

 

 そう心に決めた。……いや、よく見ればもうすでに笑いすぎて涙出てるし!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 医務室でフィーベルさんに手当てしてもらい、なんとかまともに動けるようになった俺とグレン先生。

 

 

 俺達の治療で魔力を使い、疲れて眠ってしまったフィーベルさんをベッドに寝かせ、グレン先生は俺を呼んだ。

 

 

「ウィル、もういいぞ」

 

 

 獣化を解き、ついさっき治療してもらったばかりの左肩を制服の上から撫でる。触れば引きつるようなピリッとした痛みが走るが、動かす分には問題ない。

 

 

 改めて、魔術の凄さを実感した。

 

 

「魔術って凄いですね……あれだけの怪我を治そうとすれば、普通はもっとかかりますよ…」

 

 

 呟きながら、医務室に備え付けられている丸椅子に腰掛ける。

 

 

「……そうだな」

 

 

 反応が少し悪いグレン先生を見て、この人は魔術が嫌いなんだった、と思い出した。

 

 

 現役の魔術講師であり、誰よりもわかりやすい授業をしてくれるグレン先生が魔術を嫌っているのにはなにかよっぽどの理由があるんだろう。別に聞こうとは思わないが、グレン先生の前ではあまり魔術の話はしない方がいいのかもしれない。

 

 

 そう考え、別の話題を口にしようとした俺を、他でもないグレン先生が遮った。

 

 

「俺は魔術が嫌いだが、魔術が凄いのは確かに認めてる。……というか、生徒が講師に気なんて使うんじゃねぇよ」

 

 

「ありゃ、バレてました?」

 

 

 壁に寄り掛かりながら、少し得意げに笑うグレン先生。

 

 

「これでも一応お前らの担任だからな、それくらいは顔見りゃ分かる。……まぁ、非常勤だけど」

 

 

「…御見逸(おみそ)れしました」

 

 

 俺の言葉にグレン先生は笑みを苦笑に変えた後、表情を引き締めた。

 

 

「ウィル、お前は白猫を教室まで運んで、そこにいる生徒達を守れ。恐らく敵はもう居ないとは思うが、念の為だ。俺は   お転婆娘(ルミア)を助けに行く」

 

 

 お転婆娘(てんばむすめ)?ティンジェルさんが??…よく分からないが、ひとまず頷く。

 

 

「了解」

 

 

 短く返事をした俺を、グレン先生は少し驚いたように見てくる。

 

 

「…なんですか?」

 

 

「いや、自分から言っておいてなんだか、反対されると思ってな…」

 

 

「反対しようにも、俺達二人しかいないんで多数決もできませんよ……それに」

 

 

 脳裏に優男  ヒューイ先生の顔が浮かんでくる。

 

 

「……多分、向こうはグレン先生が来るのを待ってます」 

 

 

「?…ああ」

 

 

 グレン先生はティンジェルさんのことだと思ってるみたいだった。確かに彼女も助けを待っているだろう。早く行ってあげてください、とグレン先生の肩を叩くと、俺は眠ったままのフィーベルさんを起こさないように背負った。所謂(いわゆる)おんぶだ。前世でも同年代の女の子をおんぶしたことなんてなかったので、かなり恥ずかしい。心臓が破裂しそうだ。

 

 

「よいしょっと」

 

 

 恥ずかしさと急上昇した心拍数を紛らわす為にわざとらしく声を出してみたが、あまり効果はなかった。……ちょっとそこ、ニヤニヤすんの辞めてもらえます?

 

 

 無言のジェスチャーで(はや)し立ててくるグレン先生を華麗に無視し、俺は医務室のドア(引き戸タイプのやつ)を足で開けた。ガラガラと響いた音が無人の廊下に反響する。

 

 

「じゃ、また後で」

 

 

「おう」

 

 

 最低限の言葉を交わし、俺は医務室から出た。グレン先生と話し合った結果、俺は獣化せずに教室に戻ることになった。理由は二つある。

 

 

 一つ目、獣化していると背中に乗せたフィーベルさんを落っことすかもしれないから。俺たちの傷を必死に治療してくれた彼女をそんなふうに目覚めさせるのは大変忍びないし、階段などで落っことしたら大怪我を負わせてしまうかもしれない。

 

 

 二つ目、これはグレン先生の意見だが、俺は教室の皆からすれば死んだことになっている。その辺の事情を手短に話し、その状況を良く思わなかったグレン先生から、「今頃クラスの連中はお葬式モードだから、早くそれを払拭(ふっしょく)してこい、それにお前、変身しなくても普通に強いだろ」と、出撃命令を受けた。

 

 

 背中ですぅすぅと寝息をたてているフィーベルさんに振動が伝わらないように、慎重に教室へと向かって歩く。長い銀髪が俺の首をこちょこちょくすぐった。

 

 

「………」

 

 

 眠っている相手に対してガチガチに緊張するのも馬鹿らしいので背中側は意識しないことにした。……普通、普通に振る舞うんだ、俺!

 

 

 深呼吸を繰り返し、なんとか落ち着くことができた。

 

 

 ……落ち着いて考えてみれば、集落にいた頃は子ども達をよくこうやっておんぶしてたなぁ。きゃあきゃあ騒ぎながら群がってくるもんだから、ホントに大変だった。旅立つ日はちびっこ達は全員大泣きしてたっけ……。

 

 

 自然と笑みが(こぼ)れる。

 

 

 ふと、自分がまだ幼かった頃を思い出した。この世界での記憶ではなく、前の世界の記憶だ。

 

 

 当時、幼かった俺は、なにか悲しいことや嫌なことがあればいつも両親におぶってもらっていた。その頃の俺にとってはその背中が一番落ち着ける場所であり、安心できる場所でもあった。もちろん今の両親であるアレク父さん、レティ母さんのことも大好きだけど、やっぱり親孝行くらいはしたかった。

 

 

「…元気かなぁ…二人とも……」

 

 

 今はもう会えない両親のことを思い、少しセンチメンタルな気分になったが、そんな気分を背中から聞こえてきた声が消し去ってくれた。

 

 

「…うぅん………」

 

 

 ドキッとして動きを止める。背中でもぞもぞとフィーベルさんが動いたが、目を覚ますには至らなかったらしい。そのまま動かなくなった。

 

 

 ……あっぶな。起こしてしまうところだった。小さく息を吐き、止めていた歩みを再開する。

 

 

 教室まであと少し。

 

 

 どのみち教室についたら起きてしまうだろう。でもそれまでは、このまま寝かせてあげたいと思った俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 
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