ロクでなし魔術講師と戦闘民族   作:カステラ巻き

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 冬のこたつで食べるミカンは最強。
誰かと握手する時はその人の指に注目してみて下さい。同志であれば、きっと爪がミカンの果汁で黄色くなっているでしょう…。




種目決め

 

 

 謎の決めポーズを決めて、教室の生徒達の視線を一身に浴びていたグレン先生は、教卓をバンと叩き、大声で宣言した。

 

「いいかお前ら! 今回の魔術競技祭だが、出場選手はスーパーカリスマエリートゴッドティーチャーである俺が決める。異論は認めん」

 

 なんという横暴。

 

 ざわざわと生徒たちが動揺した様にざわめくのを見ていた先生が、再び鋭い叫び声を上げた。

 

「静まれぇえい! 今回、俺が選手を決めるからには、目指すものはただ一つ   優勝だ」

 

 先生がチョークをゴリゴリと削りながら黒板に書いた文字は、筆圧が強すぎたのか潰れていて読めない。恐らくは『優勝』と書いたのだろう。その文字からはちょっと狂気を感じた。見れば、先生の目はまるで飢えた獣の様にギラギラと光っている。うん、普通に怖い。夜中に見たら泣いちゃうかも。

 

 先生は手から粉々になったチョークを払い落とすと、

 

「俺がお前らを優勝させてやる。いいか、やるからには全力で勝ちに行くぞ。遊びは無しだ。心しろ」

 

 そう言って先生は、フィーベルさんから競技名とそのルールが書かれたリストをひったくり、食い入る様に読み始めた。

 

 うーん、先生はどうするつもりなんだろうか? あの様子を見る限り「勝ちに行く」と言った気持ちは本物だろう。……何があそこまで先生を駆り立てるのかは分からないが、成績優秀者だけを出場させるのであれば、俺は今回は応援に回るだろうな。まあ、それはそれで楽しそうだし、応援は全力でするつもりだけど   

 

 周りをさり気なく見回す。

 

 いつもは元気いっぱいのクラスメイトたちは、今は揃って俯いている。成績優秀な生徒も、どこかぎこちない表情を浮かべていた。

 

    こんなんじゃ、楽しめないよなぁ。

 

 小さく嘆息する。

 

 勝つ為に。楽しむ為に。

 

 前世でもこんな空気を味わったことは何度もある。それは体育祭だったり、部活動だったり。勿論、優勝も出来て、皆で楽しめるのが一番良い。しかし、両方達成するのはそんなに簡単なことじゃない。勝つことにこだわりすぎて仲が瓦解したり、あるいは楽しむことを追求し過ぎて結果が出ずにメンバーと仲がギスギスしたりするのなんかはよく聞く話だ。

 

 難しい問題だと思う。人はそれぞれ楽しいと感じる定義が違うし、その人にとっては楽しくても、他の人からすれば不快に感じる様なことだって沢山ある。

 

 先生はどうするつもりなんだろうか…?

 

 むーん、と小さく唸りながら顎を撫でていると、リストを見つめていた先生が顔を上げた。その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。

 

「よし、ルミア。これから俺が言う名前と競技名を黒板に書いてってくれ」

 

「は、はい」

 

 自然と注目が先生に集まる中、先生は口を開いた。

 

「えー、まず一番配点が高い『決闘戦』だが、これは白猫、ギイブル、そして……カッシュ、お前ら三人が出ろ」

 

「……え?」

 

 呆けた様な声を上げたカッシュ。クラス中の誰もが首を傾げている中、俺は拍手を送ろうとしたが、流石にこの空気の中では止めておく。

 

 そもそも俺は競技祭に参加した事が無いので各種目のルールすら知らない。でも、一番配点が高いというのだから、それに選ばれたのは凄いことなんだろう。カッシュには後でお祝いに何か奢る事にしよう。本人は戸惑っているみたいだったが。

 

 次々と発表される参加メンバー。その中に何度も使い回されている生徒は一人もいない。どうやら先生は、クラスの生徒全員を、何らかの種目に出場させるつもりらしかった。ふざけている様子は一切見られないし、本気だろう。

 

 しかも、指名された生徒たちは得意分野を生かし、得意分野でなくても、得意分野の応用で対応できる種目に編成されている……らしい。まだクラスメイトたちの得手不得手を把握しきれていない俺に、席が近いセシルが丁寧に教えてくれた。

 

「先生って僕たちのこと、ちゃんと見てくれてるんだね」

 

「ああ…ちょっとびっくりしたよ」

 

 俺たちの視線の先で、生徒から上がった質問に対しても、先生はきちんと筋の通った、納得のいく答えを返し続ける。

 

 ……これで俺だけなんもなし、とかないよね? もしそうだったら流石に泣いてしまうかもしれない。

 

 「お前の出番ねぇから!」なんて言われるかもしれない、と内心バクバクしていると、先生が俺の名前を呼んだ。

 

「ウィル、お前は『ハイド・ラン』だ。やれるな?」

 

「ひゃほう!」

 

 内容は知らないが、俺でも参加できそうな競技があったことにひと安心。嬉しさのあまりおかしな声を上げた俺を見て、先生が苦笑した。

 

「テンション高ぇなおい」

 

「そりゃそうですよ。だって、普段はやる気なさげな講師が、実は生徒たちのことをちゃんと見てくれている……やりますね、先生。これは生徒たちのポイント高いですよ」

 

「やかましいわ」

 

 いい加減なことを言って誤魔化したが、俺がおかしな返事をしてしまったのは、自分が競技祭に参加できることでついテンションがあがってしまったのもある。が、なによりも、全員で競技祭に参加できるのが、俺は嬉しかったんだ。

 

 勝つにせよ負けるにせよ、全力で。

 

 一人静かに決意を固めていると、一人の生徒がゆらりと立ち上がった。

 

「やれやれ……先生、いい加減にしてくださいませんかね?」

 

 ギイブルだ。メガネをくいっと押し上げながら、彼は言う。

 

「なにが全力で勝ちに行く、ですか。そんな編成で勝てるわけないじゃないですか」

 

「ほう、俺的には完璧な編成なんだが……これ以上の編成があるなら言ってみろ」

 

「それ…本気で言ってるんですか?」

 

 あやや、結構イラついてますねギイブル君。

 

「そんなの決まってるじゃないですか! 成績上位者だけで全種目を固めるんです! 毎年恒例で、全クラスやってることじゃないですか!」

 

「………え?」

 

 ん? 先生のこの反応は…なんだろうな、そこはかとなく嫌な予感が。いや、流石に先生も生徒たちを喜ばせた後に落とすような外道ではないはず……。

 

 先生の表情をつぶさに観察する。

 

 最初は呆けた顔をしていた先生の表情。観察していた俺だからこそ分かったようなものだろう、その顔は次第に、ゆっくりゆっくりと歪んでいく。ああっそんな……。

 

「うむ、そういうことなら……」

 

   悲報、担当講師が外道だった件について。

 

 俺の脳内でそんなスレが立ち、外道(先生)がギイブルの意見に首肯しようとした、その時。

 

     救世主が現れた。

 

「何を言ってるの、ギイブル! せっかく先生が考えてくれた編成にケチつける気!?」

 

 ギイブルに真っ向から反論する救世主の名は、システィーナ=フィーベル。

 

 彼女はクラス一同に向き直ると、真摯な表情で訴えかける。

 

「皆、見て! 先生の考えてくれたこの編成を! 皆の得手不得手をきちんと考えて、皆が活躍できるようにしてくれているのよ!?」

 

 よく言った! 流石はフィーベルさん!!

 

「先生がここまで考えてくれたのに、皆、まだ尻込みするの!? 女王陛下の前で無様な姿を見せたくないとか、そんな情けない理由で参加しないの!? それこそ無様じゃない! 陛下に顔向けできないじゃない!」

 

「そうだそうだ!」

 

 俺も教室の後ろから吠える様に叫び、追随する。一瞬驚いた様に俺を見たフィーベルさんが、小さく笑い、声のボリュームを少し上げた。

 

   そのフィーベルさんの後ろには「余計なことすんな!」と言わんばかりの顔をした先生。

 

 悪いね、先生。でも、上げておいて今にも落とされそうな級友たちを黙って見ていることなんて俺にはできないんだっ!

 

「大体、成績上位者だけに競わせての勝利なんて、なんの意味があるの!? 先生は全力で勝ちに行く、俺がこのクラスを優勝に導いてやるって言ってくれたわ! それは、皆でやるからこそ意味があるのよ!」

 

 ブラボー! 素晴らしい!! 

 

 フィーベルさんの演説に、生徒たちの心はガッチリ掴まれたようだ。明るい声があちこちから聞こえてくる。

 

「ですよね、先生!?」

 

 そして、フィーベルさんのトドメの一撃に、流石の先生も、「お、おう……」と頷いた。

 

「ふん、やれやれ。君は相変わらずだね、システィーナ。…まあいい。それがクラスの総意なら、好きにすればいいさ」

 

 そして、ギイブルも皮肉げに冷笑して、着席した。もっと噛み付いてくると思っていたが、意外と押しが弱かったな。……さては彼、シャイボーイだな。

 

 ふぅー、とひと息ついた俺。

 

 とにかく、これでこのクラスは全員参加で決定だろう。俺がこの世界に誕生してからの15年の中でも、かなりのビッグイベントだ。わくわくしてないと言えば嘘になる。

 

 とりあえず、皆の足を引っ張らないようにしよう。…あれ、でも俺が出る『ハイド・ラン』って……。

 

「先生、思ったんですけど『ハイド・ラン』ってどんな競技なんですか?」

 

「あん? ちょっと待ってろ。内容は……『生き残れば勝ち』としか書かれてないな。今年初登場の競技らしい。発案者は…………ま、お前なら平気だろ」

 

「ちょっと待って!? 内容おかしくないですか? そして発案者は誰ですか??」

 

 なんかぼかされたんですけど。めっちゃ嫌な予感がするんですけど。大体なんだ、『生き残れば勝ち』って。死者が出るのか、この学院の競技祭は!?

 

 待ったを掛けて、発案者の名前を尋ねると、先生は渋々教えてくれた。

 

「…セリカだ」

 

 ジーザス! なんてこったい!

 

 この場では一番聞きたくなかった名前に、自然と顔が引き攣る。いや、あのセリカさんでもそこまで危険な競技を生徒にさせたりはしないはずだ。

 

「……ん? 注意事項があるな。なになに……『法医呪文(ヒーラースペル)の準備をしておいて下さい』……」

 

 誰か! 誰でもいいから助けてえ!!

 

 一瞬でサァッと血の気が引いた俺に、先生が憐憫(れんびん)の眼差しを向けてくる。

 

「あー、その…選んだ俺が言うのもなんだが、お前は頑丈そうだし…大丈夫だろ。ちゃんと治療の準備もしといてやるから、な?」

 

「それ、全然フォローになってませんよ!?」

 

「まあ待て。アイツ(セリカ)のことだ、どうせ長々とルールを書くのが面倒くさくて、色々と端折(はしょ)ってるんだろ」

 

 この時ほど、女性が面倒くさがりであることを強く願ったのは、前世でも今世でも初めてだよ、ちくしょう。

 

 『ハイド・ラン』。この競技の名前からして、なにかから逃げ回ることになるのは間違いないだろう。問題はフィールドだ。森なら逃げ回る自信はあるが、慣れていない環境がフィールドになる可能性もある。そこらへんも想定しておかないとな。

 

 とにかく、明日からの鍛錬メニューは決まった。持久力、隠密性を集中して鍛えよう。そうしよう。

 

 俺はそう決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

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