ロクでなし魔術講師と戦闘民族   作:カステラ巻き

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「会社潰れねぇかな」が口癖になってきた今日この頃。もう立派な社畜ですね。学生時代が懐かしい……。

 あ、今回ちょっと三人称視点を試してみますね。「ここおかしいぞ!」という部分があれば教えて頂けると幸いです。



その頃の観客席

 

 

 

 わあわあと盛り上がりを見せる二組の観客席を尻目に、グレンは一人、目を瞑っていた。

 

 ぐうううううう……。

 

 空腹に耐える為だ。唸りを上げる自身の腹を悲しげに見下ろし、ため息を吐くグレンを、二組の大天使ルミアが心配そうに見つめた。

 

「せ、先生、大丈夫ですか…? その…さっきから凄い音が……」

 

「ああ……天使がついにお迎えに来ちまったか。おい白猫、後頼むわ。適当に指揮っといて」

 

「ふざけてないでちゃんと観戦してください! ウィルが今頑張ってるんですよ?」

 

「んあー…?」

 

 そうだった。天に召されている場合じゃない。グレンは草原と化したフィールドの上空に浮かぶ、魔術で展開されたモニターを見た。

 

 そこには、選手たちの姿がアップで映っている。様子を見る限りではウィリアスも含め、どの選手もまだまだ余裕そうだ。

 

「と言うか……彼は何をしているんですの?」

 

 グレンの近くに座っていたウェンディが、不思議そうな声を上げた。それは応援している二組の生徒たちの共通の疑問だったようで、自然と視線がグレンに集まってくる。

 

 他の選手たちが落ち着きなくフィールドを動き回る中、先程までウィリアスは周囲の草を何やらこちょこちょと(いじ)っていたが、今は地面に腹這いになり、目を閉じたまま動かない。

 

 ピクリともしないウィリアスの様子を見て、不安げな表情を浮かべるシスティーナ。

 

「あれじゃ、見つかっちゃうんじゃ…?」

 

「………」

 

 グレンが無言で目を細めた、その時。

 

 突然、ウィリアスがむくりと身を起こした。そのまま素早く移動を始める。その足取りに迷いは見られない。唐突なその行動に、逆に見守る生徒たちが戸惑った。

 

「? いったい何を…?」

 

「…まあ見てろ」

 

 そのまま見守ること数十秒後。先程までウィリアスがいた場所に、鬼ゴーレムが姿を表した。

 

 鬼ゴーレムはキョロキョロと周囲を見回すと、おもむろに足を前に踏み出し    転んだ。

 

 そこには、先程ウィリアスが仕掛けていた草結びが。

 

「すごい…これって」

 

 モニターが再びウィリアスを映す。彼は周囲の草を手早く弄ると、再度地面に腹這いになり、目を閉じた。

 

「もう分かっただろ?」

 

 ニヤリ、といつもの笑みを浮かべたグレン。

 

「あのゴーレムはおそらく()を頼りにターゲットを捕捉している。その代わりに、ちょっち視力が弱い。んで、」

 

 グレンは自分の耳を軽く摘んでみせた。

 

「ウィルは音と振動を頼りにして、ゴーレムの位置を探ってる。元々ゴーレムの方が身体は重いし、足音も大きいからな。先に居場所を把握出来れば、その場で音を立てずにやり過ごすも良し、距離を取るも良し。仮に逃げている最中に追いつかれたとしても、事前に周囲に罠を仕掛けておけば十分逃げる時間も稼げる」

 

 グレンの説明に、

 

「待ってくださいよ、ウィリアスはゴーレムとたった一回対峙しただけで、それに気づいたって言うんですか?」

 

 ギイブルがどこか疑わしげに言う。それをグレンは肯定した。

 

「まあ、そうなるな」

 

「…ッ!」

 

 自然と下に見ていた相手が、自分では気付けなかったことに気付いていることに、ギイブルはどうしようもない苛立たしさを感じた。

 

「まあ、お前らとウィルはそもそも場数が違うからな。魔術じゃお前らの方がまだまだ上だが、観察目や状況判断に関しちゃ、傭兵やってたウィルのが上だ」

 

 とは言っても、ウィリアスの魔術のセンス  特に魔力操作には目を見張るものがある。獣化状態での炎のコントロールが魔力操作に影響を及ぼしているのだろう。

 

 考え込んでいたグレンの耳に、何やら戸惑ったような声が届いた。

 

「……え? 傭兵?」

 

「あん?」

 

 顔を上げると、どこかポケッとした顔で、生徒たち(主に男子)がグレンに注目している。システィーナとルミアが二人揃って「あちゃあ…」といった風な表情をしているのが目に入った。

 

 これ、もしかしなくても話しちゃ駄目だったやつだ。

 

 グレンは確信し、咄嗟(とっさ)に口走っていた。

 

「あー………葉柄(ようへい)? なにお前ら葉っぱの柄に興味があるのかそうなのかー!! 葉っぱの葉脈ってキレイだよなあははははァ!!」

 

「ちょっと無理があり過ぎるでしょ……」

 

「あ、あはは……」

 

 そんなグレンの誤魔化しも虚しく。

 

「ま、マジかよおおお!!」

 

 目をやたらキラキラさせたカッシュが、大声を上げた。彼だけではない。他の男子たちも「かっけぇ!」「剣とか鎧とか持ってんのかな?」「後で見せてもらおうぜ!」と、興奮気味に騒ぐ。

 

 魔術学院の生徒たちは殆どが冒険とは無縁だ。冒険に対して憧れを抱いている者も少なくない。そんな思春期真っ只中な彼らが「傭兵」という言葉に反応しないわけがなかった。

 

(やべえ! 俺の昼飯があ!)

 

 勝手にバラしたことがウィリアスに知られれば、最悪今日の昼食の話がパーになりかねない。それだけは何とかして回避しなければならない。ここ最近はずっとシロッテの枝で耐え凌いできたので、グレンとしてはここで栄養補給をしたい。何より、もう今日は肉の腹になっている。ここまで来て昼食がシロッテは精神的にも肉体的にもキツ過ぎる。

 

 グレンは騒ぐ男子生徒を完全に無視することに決めた。

 

「……………それに、競技開始前にウィルが転移された時、あいつの目の前には起動前のゴーレムがいた。ここからじゃ見えにくいが、ゴーレムの耳にはびっしり魔術式が書き込まれてる。その時に軽く観察して、予測を立てていたんだろう」

 

「完全に無かったことにするつもりね…」

 

「まあ、わざとじゃないみたいだし…ウィル君も許してくれるんじゃ…ない、かな?」

 

 傭兵について好き勝手にわちゃわちゃ騒ぐ男子生徒たちから話題を逸らそうと必死になっているグレンの様子に、ルミアがにこにこと嬉しそうに笑みを浮かべて隣のシスティーナに囁いた。

 

「ね、やっぱり先生って、生徒のことをよく見ているよね」

 

「………そうね。まあそこは、ちょっとだけ認めてあげてもいいけど……」

 

 実際、この競技祭でここまで二組が活躍出来ているのは、グレンのお陰だと、システィーナもわかっている。

 

 普段はおちゃらけてはいるが、いざとなればグレンはとても頼りになるということを、システィーナとルミアは知っている。……普段の態度がいろいろと残念過ぎて呆れることも多いが、確かに講師としては認めているのだ。

 

「それにしても…なかなか捕まらないね、ほかの選手。結構時間経ってるけど……」

 

「……先生、今捕まってるのって何人くらいでしたっけ?」

 

「んー…四人だ」

 

 何とか別の話題に逸らすことに成功したらしく、疲れた顔をしたグレンは、懐の懐中時計をごそごそと取り出す。競技が始まってから、かれこれ30分が経過しようとしていた。

 

 脱落者は、十人のうち四人。グレンが最初に想定していたよりも脱落者は少ない。ほかの選手たちも多少は慣れてきたのか、上手く鬼ゴーレムをやり過ごしているようだ。

 

 残り時間は30分。時間的にも、丁度折り返し地点だ。フィールドにもあまり動きがなくなってきている。セリカが言っていた通りなら、そろそろ『時間経過で起こるちょっとした仕掛け』とやらが発動してもおかしくない。

 

 問題は、どんな仕掛けが起こるかだが、これについては全く予測出来ない。セリカとはまだグレンが子供の頃からの長い付き合いだが、ヤツのぶっ飛んだ思考回路はグレンでさえ読めない。……まあ、何とかウィリアスに頑張ってもらうしかないだろう。

 

「さて、どう来るかねぇ…」

 

「あ! そういえば先生!」

 

 ため息交じりに呟いた声は、すぐ後に響いたカッシュの声にかき消された。

 

「んー? 何だどうした?」

 

「その…テロの時の話なんですけど」

 

「あん?」

 

 グレンはどことなく嫌な予感がしたが、そのまま続きを促した。

 

「俺たちが教室にいた時に、なんかこう、でかい黒い猫みたいなのが助けてくれたんです。で、前から気になってたんですけど、あの猫って先生の使い魔かなんかですか?」

 

 「あ、それ俺も気になってた!」「じ、実は私も…」等の声が次々と上がる。

 

 ここで不味い返答をすれば、本当に昼飯が無くなる。いや昼飯どころじゃなくなる。グレンの脳はかつてないほどにフル回転した。そして、この件についてはテロの直後に事前にウィリアスと打ち合わせをしていたことを奇跡的に思い出した。

 

「ああ。あいつは紛れもなく俺の使い魔だ」

 

「マジすか!」

 

「あいつは『ライオン』っていう生き物でな。ほら、攻性呪文(アサルトスペル)に【ブレイズ・バースト】ってあるだろ? その詠唱に出てくる『獅子』ってのはライオンのことだ」

 

「へえ、そうだったんすね。それはそうと、えっと、今日会えたりとかは……」

 

「あー…、あいつは気まぐれだから、呼んでも滅多に来ないぞ」

 

「ああー、そうかあ。会いたかったんだけどなぁ…」

 

 どこか残念そうな生徒たちに背を向けて、グレンはこっそり額の汗を拭った。

 

 何気に、今日で一番ハラハラした。グレンを見守っていたルミアとシスティーナも冷や汗を浮かべている。事前に設定について打ち合わせておいて本当に良かった。

 

 この使い魔の件については後でウィリアスに報告しないといけないだろう。今後、何か事情がありウィリアスが獣化した場合、彼は使い魔という設定で動くことになる。詳しく口裏合わせをしておかないと、いざという時にボロが出ても困る。

 

 小さくため息をついたグレンは、何気なくフィールドに目をやった。

 

「……ん?」

 

 視界のどこかに何か違和感を感じて、もう一度フィールドを見る。じっと目を凝らしてやっと分かった。

 

 フィールドの周囲を、細い何かの魔術式が円を描くように取り囲んでいる。

 

「? 先生、何を……」

 

 システィーナもやや遅れてそれに気づいたようだ。

 

「あの魔術式は…!」

 

 

「さあーて、そろそろ、変化が欲しいよなぁ!」

 

 競技場全体に音が響いた。

 

 実況席に座っていたセリカ=アルフォネアが、拡声音響術式を使い、高らかに声を上げたのだ。

 

「草原での鬼ごっこに慣れてきてた選手諸君には大変申し訳ないが、変化の時間だ。さあ      

 

 パァンと一つ、柏手(かしわで)が打たれた。

 

 フィールドが大きく揺れる。周囲の魔術式が、強い光を放ち始める。

 

     第二ラウンド、開始といこうか!!」

 

 

 

 

 

 




 次回予告

 セリカ「第二ラウンドは…そうだな。早口言葉で『生麦生米生卵』を300回、一度も噛まずに言えた奴の勝利だ!」

 選手一同「!?!?!?」

 ウィリアス「生麦生米なみゃああああ嚙んだあああああ!!!」

 嘘です。
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