ロクでなし魔術講師と戦闘民族   作:カステラ巻き

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ああああ寒いですね! 皆さん風邪などにお気をつけて!


第二ラウンド

 

 

 眩しい光が止んだ時。真っ先に目に入ってきたのは茶色い壁だった。

 

 何度かぱちぱちと目を瞬いてから、ぐるりと周囲を見渡してみる。どうやら小さな部屋のようなところにいるらしい。ほかの選手たちも同じ部屋にいる。全員合わせて六人いるので少し狭い。

 

 部屋に窓はなく、明かりは壁に掛けられた二本の小さな松明のみ。出入り口らしきものは一つだけあり、のぞき込んでみると通路が先に続いている。この小部屋に比べて通路の天井はかなり高い。

 

 頭を引っ込めて、腕を伸ばして部屋の壁をぺたぺた触ってみるが、何のへこみもなく、つるつるしている。ふーむ……。

 

 顎を撫でているとどこからかセリカさんの声が聞こえてくる。

 

「先程と同じように魔術の使用は自由。鬼ゴーレムの数は全部で三体だ。残り30分間、引き続き頑張ってくれ……おっと」

 

 ……おっと??

 

 部屋にいた選手全員が疑問符を頭上に浮かべた。

 

「アドバイスだ。ここにある仕掛けは、むやみに触らないことをお勧めする」

 

 そんな一言を残して、セリカさんの声は聞こえなくなった。

 

 ――――――ねえええ! 待って!! 何でまたそんな不安要素を残していくのおお!?

 

 戦慄したのはきっと俺だけじゃないはず。

 

 鬼ゴーレムの数は増え、怪しい仕掛けもある。果たして30分も生き残れるのだろうか。

 

「なあ。鬼ゴーレムがもう動き出してるとしたら、ここにいるのは不味くないか?」

 

 選手の一人が言った。確かに、今ここに鬼ゴーレムが来れば皆一網打尽だろう。皆その意見にはっとして、小部屋の入り口に移動する。通路の向こうに鬼ゴーレムは見られない。少し進むとすぐに分かれ道があったので、俺はなんとなく左に進むことにした。……と、その前に。

 

 つるつるした壁に、レイピアで小さく傷をつけておいた。ここが迷路のようになっていたとしたら、迷うと厄介だしな。魔術の使用許可は出てるし、傷ついて不味いものなら、競技際には使わないだろうから大丈夫だ。多分。

 

 皆無言で二手に分かれ、通路を黙々と歩く。俺と同じ通路を歩いているのは三人。俺とあと名前を知らない男子二人(この人たちに至っては組も知らない)だ。その二人とも途中で現れた三本の分かれ道で分かれた。

 

 コツコツ、と通路に自分の足音が響く。とても静かだ。観客席の声も聞こえない。草原にいた時も聞こえなかったけど。どうやらこの場所に行き止まりはないらしかった。どこを通っても道がつながっている。鬼ゴーレムとは一向に鉢合わせない。

 

 歩き続けるうちに、広い場所に出た。同時に、人の気配。

 

「あれっ?」

 

「えっ?」

 

 最初の分かれ道で分かれたはずの一組君がいた。たどり着いた先が同じだったらしい。顔に少し疲労の色が見えるが、まだ余力がありそうだ。

 

「なあ。お前、ゴーレム見たか?」

 

「いや、まだ。……そっちも?」

 

「ああ」

 

 そのまま道なりに二人で歩いていると、今度は四組さんと会った。会うなり、質問が飛んでくる。

 

「貴方たち、鬼は見た?」

 

「いんや、見てない。そっちも?」

 

「うん……まだ一回も見てないよ」

 

 一組君も四組さんも、まだ鬼ゴーレムを一回も見ていないそうだ。二人とも嘘をついているようには見えない。鬼ゴーレムの数は増えているはずだが、何故だろうか。

 

 俺たちが思っていたよりも、ずっとここは広いのかもしれない。それとも俺たちの運がよかっただけか。分からないが気は抜けない。セリカさんが言っていた仕掛けらしいものもまだ見つけられていない。

 

 言いようのない不安がこみ上げる。お互いに言葉はなかったが、自然と三人で死角を補い合うようにして通路を進む。

 

 前を歩いていた一組君が、曲がり角を曲がろうとした矢先。

 

 何かが軋む音が聞こえた。

 

「―――っ!」

 

 一組君の襟首を咄嗟に掴み、強引に引っ張る。「うわ」とびっくりした様子の一組君の眼前を、太い腕が通り過ぎる。

 

 間違いない、鬼ゴーレムだ。

 

「逃げるぞ!」

 

 踵を返して、もと来た道を一目散に駆けだした。二人分の足音が俺に続く。

 

「急げ!」

 

「わかったから、手ぇ放せって!!」

 

「あ、ごめん」

 

 一組君を引きずったまま走り出していたことに気づいて、慌てて放す。ちらりと後ろを見れば、身体が大きめのゴツいゴーレムが目に入った。走る速度はそれほど早くはない。これなら撒けそうか?

 

 そう考えたのがいけなかったのか。

 

「きゃあああああああ!!」

 

 やたらと綺麗な響きをもつ悲鳴が聞こえた。隣を走る四組さんの声ではない。もちろん俺でもないし一組君のものでもない。後方から聞こえたその声は、紛れもなく鬼ゴーレムが発したものだった。

 

 待って、今の悲鳴ってゴーレムのなの? 立場的にも悲鳴上げたいのは追われてる俺たちなんですけど。

 

 ツッコミたい衝動を我慢出来たのは俺だけだったらしい。

 

 我慢出来なかったらしい二人が同時に叫んだ。

 

「声と体の厳つさが1ミリも合ってねぇよ! せめて統一しろよおおお!!」

 

「何よ「きゃあ」って! 乙女か!!」

 

「ツッコミがキレッキレだな二人とも!? ってそんなこと言ってる場合じゃない!」

 

 今の悲鳴? に集まってきたのか、前方からもう一体の鬼ゴーレムがこちらに迫っていた。左右に素早く視線を走らせるが、不幸なことに分かれ道はなく、真っ直ぐ一本道だ。このままでは三人とも仲良くお陀仏だ。

 

「《雷精の紫電よ》っ!!」

 

 【ショック・ボルト】を唱えるが、効果は見られない。近まる距離に、心臓が嫌な音を立てる。これが、恋……? いや待って本当にふざけてる場合じゃない。

 

「くっ……」

 

 ぎりり、と歯を噛み締めて、頭を回転させる。

 

 普通ならここで諦めるだろう。だが、あいにくと俺たちは普通じゃない。まだまだひよっこだが、れっきとした魔術師だ。普通の手段が駄目なら、普通じゃない手段で突破するのみ。

 

 俺は二人を振り返って、声を張り上げた。

 

「どっちか! あれ! 空飛ぶ系の魔術使えませんか!?」

 

 そこの君。散々偉そうなこと言っといて結局は他人頼りかよ、確かに普通じゃないな(笑)とか言っちゃあいけない。

 

 一組君は息も絶え絶えと言った様子で俺に叫び返す。

 

「【レビテート・フライ】な!? 悪いけど、魔力がもうすぐ底を尽きる。俺は無理だ」

 

 くああ、まじか。ならば四組さんは……?

 

 四組さんの方に視線を寄越すと、かえって来たのは爽やかな笑顔。

 

「ごめん、私も無理!」

 

 

 

 ――――――詰んだ☆

 

 

 

 鬼ゴーレムはもはや目前だ。背後の二人からも、絶望の空気が漂う。

 

 前方には鬼ゴーレム。後方にも鬼ゴーレム。左右は壁。逃げ場などどこにもない。

 

「でええいえああああ!?!?」

 

 もはや自分でも何をしているのか定かではなかったが、その時の俺は何をトチ狂ったのか、右肩に一組君を、左肩に四組さんを担いだ。その間僅か二秒。

 

 ―――いや、本当に俺は何をしているのか。この状況で担いでどうする? 「わっしょい!」とでも言うつもりか??

 

 捕まる、そう思ったが故の反射行動とでも呼べばいいのか。身体が勝手に動いている。過ぎる時間がスローモーションに感じる中で、俺の意思から離れた身体は淀みなく動き続ける。

 

 一歩踏み出した俺の右足は、正面でもなく、後方でもなく――――――壁を蹴った。

 

 だんっ!! と音を立て、身体が僅かに宙に浮く。だが、自分の体重に加えて、他の二人の体重も乗っているからだろう、続けて壁を蹴る前に、身体がゆるりと沈んでいく。駄目だ、落ちる―――!!

 

 自然と、口が言葉を紡いだ。

 

「……《三界の理・天秤の法則・律の皿は左舷に傾くべし》」

 

 それが自分の声だと、最初気づかなかった。先程から、意思とは関係なく動く身体に途方もない違和感を覚える。

 

 ――――――何より、()()()()()()()()()()()()

 

 ゾワリと総毛だつ俺の意識を置いて、身体が急に軽くなった。何らかの魔術が発動したのだろう。異常な身軽さで壁を蹴り上がり、前方から来ていた鬼ゴーレムを飛び越える。

 

 着地したところで、身体に二人分の体重の反動がやってきた。ズン、という衝撃に呻きそうになるが、俺が勝手に担いだのだ。そのうちの一人は女の子だし、流石にそれは失礼だ。

 

 同時に身体が意思通り動くようになったので、二人を肩から下ろしながら、再び通路を走る。少し気分が悪かった。

 

「わるい、助かった! お前、すげえな!」

 

「ありがとう!」

 

「いいから早く!」

 

 さっきのは一体何だったのか。気になるが、今は逃げることに専念しないと。

 

 自分にそうやって言い聞かせて、俺はひたすらに足を動かし続けた。

 

 

 

 




おや? 主人公の様子が……?
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