ロクでなし魔術講師と戦闘民族   作:カステラ巻き

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お久しぶりです。最近はコロナが本当に怖いですね。私は帰宅してから真っ先に手洗いうがいをしています。こんな時でも働かなくちゃいけない社会人って本当に大変。


鬼ごっこの終わり

 

 

 

 勝手に動いた身体は気になるものの、いつまでもそのことばかり考えてはいられない。

 

 3人でとにかく通路を走る。行き止まりにぶち当たったら普通に詰むので、壁にレイピアでちょこちょこつけておいた傷を頼りに行き止まりを避ける。

 

 段々とゴーレムの足音が遠ざかっていく。走る速度を緩めながら、詰めていた息を吐き出していると、一組君が後ろを見ながら早口に呟きかけた。

 

「撒い――!?」

 

「バカ野郎!!」

 

 悲鳴の様に叫ぶと、一組君は顔を青ざめさせ、あっと口を開けたまま黙り込んだ。フラグを立てそうになったことに気がついたのだろう。俺の言いたいことがハッキリ伝わったようで何より。

 

「? どうしたのよ」

 

「四組さん! 鬼ゴーレムが俺たちの近くに現れるかもしれないから、一応注意しといてくれ」

 

「わかっ……ちょっと待って、四組さんって私!?」

 

「イエス。ちなみに一組の君は一組君」

 

「ライバルの名前くらい覚えろよお前」

 

「暗記は苦手なんだ。そう言う君らは俺の名前を知ってるかい?」

 

 ニヤリと笑みを浮かべて問い掛けると、二人とも微妙そうな顔をした。ほーら、お互い様だ……。いや待て、そもそもお互い自己紹介なんてしてないから当たり前か。

 

 鬼ゴーレムを警戒していたが、現れる様子はない。セーフだったらしい。胸をなでおろしていると、まだ俺が一度も通った事のない通路に出た。目の前には三本の分かれ道。どの道を進むか少し迷う。

 

「うーん……」

 

 ちなみに、俺は獣化していなくてもある程度は鼻が効くが、鬼ゴーレムはこの会場の土で出来ている様で匂いがしなかった。その為、匂いを頼りにすることは出来ない。草原の時も鬼ゴーレムの出す音と振動を頼りにするしかなかったしな……。

 

 懐中時計を取り出し、時間を確認する。セリカさんの言っていた仕掛けとやらを探すのもいいかもしれないとは思ったが、残り時間は15分。このまま時間まで逃げ回るのが俺的には楽だ。第一セリカさんも「仕掛けには触らない方がいい」的なこと言っていたので、ノータッチでいいだろう。

 

「じゃあ、俺は右に行くよ。二人はどうする?」

 

「じゃ、俺は真ん中で」

 

「なら、私は左かな」

 

 それぞれ別れることになった。まあ、俺たちは元々ライバル同士だし、お(あつら)え向きに三本の道があるんだ。無難な選択だろう。適当に選んだ右の道に足を向ける。

 

「じゃ」

 

 ひらりと手を振ると、一組君と四組さんからそれぞれ一言ずつ投げ掛けられた。

 

「色々助かったよ」

 

「ありがとね、ベスティア」

 

「おーう。お互い頑張ろ……ん? え、何で?」

 

 不意に呼ばれた名前に戸惑う。記憶を探るが、名乗った覚えはない。俺の顔がよほど面白かったのか、二人は楽しそうに笑っている。

 

「ウィリアス=ベスティア。何も俺たちは、お前の名前を知らないとは言ってないぞ」

 

「えっ?」

 

「同じ競技に出場する選手のことを調べるのは当たり前よ。あなた、少し前に転入してきてるから結構有名だし。その様子じゃ、自覚は無かったみたいだけど」

 

「……」

 

 ……なるほど。俺はこれまで前世の運動会的な感じで考えていたが、これは()()祭だもんな。スポーツの大会なんかでは対戦相手のことを詳しく分析したりするし、感覚的にはそれに近いと思う。これは俺が迂闊(うかつ)だった。確かに、前もって調べておくべきだった。ひたすら自己鍛錬とかやってる場合じゃなかったなあ。

 

「それじゃ、私行くから」

 

「俺も。じゃあな」

 

 俺が呆けている間に、一組君と四組さんはそれぞれ別の道へと行ってしまった。二人の名前を聞き忘れてしまったことに気づくが、俺は割と今の呼び方が気に入っている。これはこれでいい気がした。

 

 とりあえず、捕まらないことを第一に考えよう。あと! 怪しいものには触らない方向で!

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで!!」

 

 セリカさんの声が響く。

 

 あれから一回鬼ゴーレムに追いかけられはしたが、捕まることなく無事に生き残ることが出来た。いやあ、焦った。最後曲がり角で鉢合わせた時はもう駄目かと……。

 

 ラストスパートだと言わんばかりにスピードを上げた鬼ゴーレム。甲高い奇声を発しながら追いかけてくるもんだから精神的にも疲れた。クソ疲れた。

 

 服の袖で額の汗を拭っていると、何かの光が周囲を包み込んだ。あっと言う間に周りの土壁が消えて、普通のフィールドに戻る。途端、これまで聞こえなかった歓声が耳に飛び込んできた。反射的に耳を抑えていると、少し離れた所に一人、俺と同じ様に耳を抑えている生徒を発見。怪しがりて寄りて見るに、何のことはない、一組君だった。

 

「お疲れ」

 

「お前もな」

 

 生き残ったのは俺たち二人だけらしく、他の選手たちは隅っこの方でやたらと可愛くデフォルメされた牢屋に収監されていた。O★NA★WA★と書かれた牢屋の中に、悔しげな四組さんの顔が見える。

 

「さあ、見事生き残った二人のクラスには生存点をプレゼントだ!」

 

 皆が食い入る様に得点板を見つめる中、一組は相変わらず1位だ。そして、二組が2位に。ツートップと他のクラスを引き離す形で、差が生まれた。その途端、観客席がドッと湧いた。その方向を見ると、二組の皆がワーキャー騒ぎながら観客席から手を振っている。もみくちゃになりながら無邪気な顔で手を振りたくっている様子はちょっと可愛い。あそこが天国かな?

 

 俺も嬉しくなったので手を振り返した。どうだ! やったぞ俺! それと先生、アンタが手に持ってる紙切れについては詳しく聞かせて貰う。ここからでもバッチリ見えてますよ?

 

 いつの間に賭け事でもしていたのか、先生が一番はしゃいでいる。普通生徒で賭けなんてするか? この野郎……嬉しそうにしやがって。しょうがないから許してやろう。

 

 ちらりと一組の方を見ると、なんとハーレイ先生までもがその紙を握りしめていた。メガネの位置がズレているので、きっとハズレたんだろう。あららー……。賭けの内容が気になるところですね。

 

「『ハイド・ラン』! これにて終了だ!」

 歓声に包まれながら、俺たち選手はフィールドから退場した。

 

 

 

 二組の観客席へと続く通路をのんびり歩く。

 

 とにかく疲れた。が、これで俺の出番はおしまい。ちゃんと生き残るっていう目標は達成できたし、後は応援するだけだ。気楽でいいね。

 

 肩をぐりぐり回していると、進行方向からティンジェルさんがこちらに歩いて来るのが見えた。向こうも俺に気づいたのか、小走りに駆け寄ってくる。

 

「お疲れ様、ウィル君。凄かったね!」

 

「ありがとう。ティンジェルさんは今からだったよね?」

 

「うん。やっぱり緊張するね……」

 

「えっと、そういう時は周りの観客は全員じゃがいもだって思えばいいよ」

 

 俺がそう言うと、ティンジェルさんは少し考え込むような素振りで「じゃがいも……」と呟いた。「玉ねぎとかピーマンでも可」と付け足すと、ティンジェルさんは大きく頷いた。

 

「わかった! やってみるね」

 

「うん。じゃあ、頑張ってね」

 

 彼女が何を想像したのか気になるところだが、きっと可愛らしい物だろう。リンゴとか、イチゴ辺りの果物かもしれない。いや、イチゴは野菜だったな。

 

 そうこうしているうちに観客席に着いたので、特に理由はないが、真っ先に目に入った黒いしっぽ結びの頭を鷲掴みした。

 

「蒸かし芋を御所望か?」

 

「いやいきなりだな!? 蒸かし芋って何だよ怖えよ!?」

 

 尻尾を握っていると、フィーベルさんが水筒と紙コップを持ってちょこちょこ走ってくる。

 

「ウィル! はいこれお水」

 

「え? あ、え?」

 

 フィーベルさんが紙コップに水を注いでくれたので、掴んでいたじゃがいもから手を離す。コップに入った水を見た途端、猛烈に喉が渇いてきて、一気に飲み干した。空になったコップに二杯目を注がれたので、それも大人しく飲む。

 

 あちこち走り回った身体を慮ってくれたのだろう。正直物凄く助かる。そのまま三杯目を貰って、ようやく喉の渇きは収まった。

 

「……ん、ありがとう」

 

「どういたしまして。それよりウィル」

 

 その様子を見届けて満足したのか、フィーベルさんが穏やかに笑って、コツンと肩に拳をぶつけてきた。

 

「お疲れ様。頑張ったわね」

 

 その直後、全俺に激震が走った。

 

 ―――待って。この人これ無自覚でやってるの?

 

 あまりの破壊力にフィーベルさんを直視出来ない。それでも何とか「う、うん」と蚊のなく様な声で告げて、自分の席に足早に向かう。

 

 ちょっと俺の許容範囲を超えている。ビックバンがチャッカマンでソニックブラスト。もう俺は次元の彼方へ消し飛ぶしか無い。過ぎ去りし時を求めて。いやまておちゅちゅけ。こんな時は羊を数えるんだ。

 

 彼女はもっと警戒心を抱いた方がいいと思う。俺が同じクラスだから信用してくれてはいるのかもしれないが、だとしてもちょっと無防備過ぎやしないだろうか。あの笑みは誰彼構わず向けていいものではない。ボディータッチも禁止!!

 

 端的に言おう。心臓に悪いから控えて!!

 

「お疲れ……って、おい。おーい!」

 

「羊が一匹、羊が二匹…三匹、四匹、五匹ィ!!」

 

「……こいつパンクしたぞ。どうする?」

 

「うーん……ウィルには刺激が強すぎたのかもね。とりあえず、そっとしておこう」

 

 椅子に座り込んだ俺を、カッシュとセシルがそれぞれ両側から覗き込んで何か言っている。

 

「それもそうだな。こいつ、可哀想なくらいピュアだ」

 

「そうだね……まあ、それは置いておいて。お疲れ様、ウィル。皆で見てたよ、頑張ってたね」

 

 カッシュがご満悦そうに俺の頭をかき混ぜた。ええい、こらやめんか。俺は羊を数えるので忙しいんだ。セシルはにこにこしながら俺の服に着いていた草を払ってくれている。ありがとう。お礼にこの二十匹の羊は君に進呈しよう。

 

 俺が心の落ち着きを取り戻してからも、カッシュやセシルにされるがままになっていると、ふと疑問が湧いた。

 

「……そう言えば、アルフォネア教授が言ってた仕掛けって何だったの?」

 

「あー……えっとね、それっぽいやつはあったんだけど……」

 

「それがさ、誰も触らなかったんだ」

 

「触らなかったって、誰も仕掛けを発見出来なかった的な?」

 

「いや、それっぽいのはあったんだが……皆警戒してな。ちょっと迷ったやつもいたみたいだったが、結局ノータッチ」

 

「触らぬ神に祟りなし……やっぱり考えることは皆同じだなぁ……」

 

 わざわざ仕掛けを施した意味。まあ競技が終わった今になっちゃどうでもいい事だが。

 

 フィールドを見ると、午前の部最後の競技が始まろうとしていた。この競技にはティンジェルさんが出場する。しっかり応援せねば。……というか、女子の出場選手がティンジェルさんしかいないんだが。大丈夫だろうか……?

 

 

 

 

 

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