ロクでなし魔術講師と戦闘民族   作:カステラ巻き

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 この季節、虫が増えるから嫌だなあ。
 先日私は遭遇したんですが、やけど虫って皆さんご存知でしょうか? 細長くて、黒とオレンジ色のやつです。見かけても絶対に素手で触らないようにしてくださいね。


午後の部

 

 

「うわ、今持ち上げてるのって300キロの袋だぞ。凄いなテレサ!」

 

「僕だったら、多分1メートルも持ち上げきれないよ」

 

午後の部が始まった。現在行われている競技は、念動系の物体操作術による『遠隔重量上げ』。白魔【サイ・テレキネシス】の呪文で鉛が詰まった袋を空中に持ち上げて競う競技だ。より重い袋を持ち上げた選手に多くの得点が入るルールだ。ウチのクラスからはテレサ=レイディさんが出場している。おしとやかなお嬢様といった雰囲気の彼女がどんどん重たい袋を持ち上げていくので観客席は大盛り上がりで、クラスメイト達のテンションは天井知らずに上がっていた。

 

 そんな中、クラスメイト達とは打って変わって、ティンジェルさんと先生の様子が少しおかしい。何というか、ティンジェルさんは少し表情に影があるし、グレン先生はどこか上の空。一緒に昼ご飯を食べていた時は二人とも普通だったから、俺が二人と別れた後に何かあったのかもしれない。

 

(ま、まさか二人とも、昼の肉があたったとかじゃないよな?)

 

 だとしたら俺はとんでもないことを。いやでも待て。同じ肉を食べたフィーベルさんは何ともないみたいだし、別のことか…?

 

 うんうん頭を捻って考えていると、カッシュが大声を出した。見ると、レイディさんがこれまた大きな袋を空中に持ち上げたところだった。わ、すごい。あれ5メートルくらい行くんじゃないか…?

 

「おおお!! 500いったあ! こりゃもう一位確定だろ!! なあ、お前もそう思うだろ、ウィル?」

 

 しかもあの袋、重さ500キロらしい。それを持ち上げるってとんでもないな。

 

「ああ、さすが500の女は違うね」

 

「そのあだ名、本人嫌がるんじゃないかな?」

 

「えー、かっこよくない?」

 

 500の女の何がいけないというのか。貫禄があっていいじゃないか。そんな風に説明したが、セシルからは「うーん……女の子って、貫禄あるって言われてもそんなに嬉しくないと思うよ」と真顔で言われてしまった。まあ確かにそうかも。男はかっこいいって言われたら嬉しいけど、女の子はかっこいいよりも可愛いって言葉の方が嬉しいって昔父さんに聞いたことがあるのを思い出して納得した。

 

 そのまま見事1位を勝ち取ったレイディさんを見届けてから、喉が渇いたので水を飲んでいると、不意にカッシュがこちらを見て言った。

 

「お、そうだそうだ! ウィル、お前傭兵やってたんだって?」

 

「ぶっふお!!」

 

 いきなりすぎて噎せてしまった。そうだった、先生がバラしちゃったんだった!

 

 昼ご飯中に先生が「すまん。お前が傭兵やってたってこと、うっかり話しちまった」と言った時には思わず「はあん!?!」と叫んでしまったが、わざとではなかったらしいので許した。まあ傭兵やってるのを秘密にしてた理由は特にないからね。何となく秘密にしてただけで、別に知られても特に困るようなことはない。

 

 というか、傭兵()()()()って。カッシュ達は過去形として認識してるみたいだけど、俺は今もバイトと称して時々仕事を貰っている。俺はこの街の新入りだからそんなに大きい仕事はまだ入ってこないけど。最近は貯金が溜まりつつあるが、お金はいくらあっても困らないからね。

 

「家がそういう家系だったから……」

 

「な、剣とか持ってるなら見せてくんないか? 頼む、この通りだ!」

 

「うーん、別にいいけど。あ、じゃあ今度ウチ来る?」

 

 今も剣はポーチに入れて持ってきているけど、流石にこの場で出すわけにはいかないので家に誘ってみた。実は少し緊張してたりする。だって俺、まだ今世で友達と遊んだことないからね。

 

「まじで! 行きます。飲み物とお菓子持って行くわ」

 

 イエス! やったぜ。父さん、母さん。俺は今日初めて、友達を遊びに誘いましたよ。記念すべき日だ。これは手紙に書かなくては。

 

「えっと、僕も行っていいかな? ほら、僕たち仲良くなったのは早かったけど、まだウィルと遊んだことないし……」

 

「ウェルカム。実は俺、身近に同年代のやつがいなかったから、友達と遊ぶの初めてだったりする」

 

「え! そうなんだ!」

 

 わちゃわちゃ三人で盛り上がっていると、ふと顔を上げたところで二組に割り当てられた観客席の隅っこに座るギイブルと目が合った。と思ったらふいっと逸らされてしまう。そう言えば、彼とはあまり話したことがなかったな……。

 

 俺がギイブルを見ていたことに気づいたセシルが、

 

「ギイブルも誘ってみる?」

 

 と言った。するとカッシュが少し難しそうな顔をして唸る。

 

「あいつは気難しいやつだからな。誘いに乗ってくるかどうか……」

 

 ほう。気難しいのか彼は。だかしかし俺はなるべく沢山友達が欲しいぞ。

 

「ちょっと友人関係を広げてくる」

 

 そう二人に言い残して俺は席を立ち、にぎわうクラスメイト達の間を縫って歩いて、空席だったギイブルの隣に座った。たちまち隣から飛んでくる胡乱(うろん)げな視線を気にせず声を掛ける。

 

「ね。俺ウィリアス。よろしく」

 

「君の名前くらい知ってるけど?」

 

 おっと手厳しい。これはツン100%ですね。ぶっちゃけもうくじけそう。視界の隅でカッシュとセシルが頑張れとジェスチャーしてくれている。そうだ、まだ俺はくじけないぞ。

 

「見てこれ。何の変哲もないただのコインですね。それを握ると……あら不思議! コインが消えました! 一体どこに行ったのでしょうか?」

 

「ふん。子供だましだな。服の袖に落としたんだろう。……?…………??」

 

 うーん、思ってたよりも反応が素直だ。リアクションも面白い。ギイブルは、俺の服の袖をあちこち引っ張ったり覗き込んだりしてコインを探している。

 

「あ、次の競技が始まるね。応援しないと」

 

「待て、コインは何処に行ったんだ」

 

「一緒に応援しないか?」

 

「僕の話を聞け」

 

「えー、いいの? ありがとう!」

 

「勝手に話を進めるな」

 

 ガン無視とかされなくてよかった。ギイブルは話しかけられたらちゃんと答えるタイプの人らしい。俺たちの様子を見ていたカッシュとセシルがニコニコしながら近くに寄ってきたので「見て。新しい友達できたぜ」と報告したら「よかったなあ」「おめでとう、ウィル」と二人とも温かい言葉を返してくれる。

 

「ね、今度俺の家で遊ぶ予定を立ててるんだ。ギイブルも来ない?」

 

「僕には君の家に行く利点がない」

 

「本が沢山あるよ。学院の図書室には無さそうなやつとか」

 

 医学とか、科学についてとか。魔術と関わりのない専門書が、うちには何冊か置いてある。まあ勿論、前世のものよりは遅れているけど、それでも読んでいて為になることは多い。特に俺がお世話になってるのは医学書だ。怪我とかしょっちゅうしてたし、傭兵やってるとどうしても必要になってくるし。あ、あと食べられる野草図鑑。

 

 いくつかめぼしい本のタイトルを挙げていくと、興味を惹かれたのか、ギイブルはちょっぴり迷うような素振りを見せた。よしよし、もう少しだ。

 

「気に入ったのがあれば貸すけど」

 

「……………………行くよ」

 

 やったぜ。俺はガッツポーズを決めた。

 

「わかった! 後で詳しい日付決めよう!!」

 

「ああ」

 

 三人も友達が家にやってくるぞ。手紙に書いたら父さん母さん大喜びだなこれは。ちゃんと家掃除しとこ。お菓子とかも買い込んどかないと。

 

 

 

 

 

 

 どういうことだろうか。混乱している俺の目線の先にいるのは、長髪で鷹のような目つきの鋭い青年と、珍しい青い髪の少女。二人とも黒を基調としたスーツにクラバット、白い手袋をしている。

 

 現在、順位は上がったり下がったりを繰り返して4位。優勝を狙うのが少し厳しい状況だ。皆頑張ってはいるけれど、優秀な生徒を使いまわしているクラスとの地力の差が出始めている。司令塔である先生も、どこかに行ってしまったティンジェルさんを探しに行ったきり、帰ってこない。士気が下がり、皆どこか弛緩した空気が流れ始めている。

 

 そんな時に現れたのが、この二人組だった。

 

「お前たちが二組の連中だな?」

 

「そ、そうですけど……貴方たちは一体……?」

 

「俺はグレン=レーダスの昔の友人、アルベルト。同じくこの女はリィエル」

 

 アルベルト、という青年の話によれば、彼らは今日、グレン先生からこの学院に招待を受けていたそうだ。二人で楽しく競技祭を観戦していたところ、先生から連絡が来たという。それによると先生は急な用事が入ってしまったらしく、暫く手が離せないとのこと。動けない先生の代わりに、このクラスの指揮を執り、優勝させてほしいと頼まれたのだとか。

 

 会話を黙って聞きながら、目を細める。先程から何度も確かめているが……間違いない。アルベルトと名乗ったこの青年はグレン先生。そしてリィエルという少女はティンジェルさんだ。(ごめんねティンジェルさん。下心があって嗅いだわけじゃないから許してください)何故他人の姿をしているのかはわからないが、そうせざるを得ない理由があるんだと思う。

 

 どう判断していいのかわからないんだろう。クラスを代表してアルベルトさんの話を聞いていたフィーベルさんは困惑気味だった。匂いでわかる俺とは違い、フィーベルさんは二人のことを完全に他人だと認識している筈だ。困惑するのも無理はない。

 

 と、不意にリィエルさんが一歩前に踏み出して、フィーベルさんの手を握った。 

 

「……お願い。信じて」

 

「貴方たちは……」

 

 姿は違えど二人は親友同士。何か通じるものがあったのかもしれない。フィーベルさんは暫くの間押し黙り、そして言った。

 

「………わかったわ。うちのクラスの指揮監督をお願いするわ、アルベルトさん」

 

 不安げな表情を浮かべるクラスメイト達に、明るく声を掛ける。

 

「大丈夫よ。この人達は多分、信用できるわ。それに誰が総指揮を執ろうが、私達のすることは変わらないでしょ? 皆で優勝するんだって」

 

 一瞬、フィーベルさんが意味ありげな視線をアルベルトさんに向けた。………もしかして彼女、二人の正体がわかってるのかも。すごいな、俺は鼻が利かなかったら全然わからなかったと思う。

 

「せっかくだから、皆で勝とう! 先生のおかげで皆、ここまで来れたのよ!? 後もう少しじゃない! 諦めるにはまだ早いわ! それに、先生がいない時に私達が勝手に負けたら、アイツ、何て言うと思う?」

 

 俺もフィーベルさんに便乗するように言った。

 

「きっと先生のことだし、こう言うんじゃないか? あ、あー、ゴホン…………『え~、何? 負けちゃったの!? ぎゃっはははは! やーっぱお前らって、俺がいなきゃなーんも出来ねえんだなあ? あっごめんねぇ、キミ達ぃ。ボク途中で抜けちゃって~、てへぺろおっ』っつあ! 何すんだよ急に!」

 

「い、いや悪い。あまりにも似すぎててつい………」

 

 ビンタが飛んできたよ。ひどい、やめてよ。もう二度と物まねなんてしません。ともかく、皆やる気になったようで、鎮火しかけていた雰囲気に再び熱気が戻ってくる。

 

「……ありがとうウィル」

 

「どういたしまして。……頑張ろうね」

 

「ええ!」

 

 フィーベルさんはもう一度、意味ありげな視線をアルベルトさんとリィエルさんに向けてから離れていった。

 

 クラスメイト達の士気も上がった。焚きつけるのはこれで十分だろう。………さて。

 

 少し離れて静かに成り行きを見ていた二人にそろりと近寄った。きっと今、裏では何か公には出来ないことが起こっている。じゃないとこんな風に姿を変える必要、ないもんな。

 

「……俺、普通の人より鼻が利くんですよね」

 

「………!」

 

 彼らの正面に向き直る。ほんの少し困った笑みを浮かべてそう言えば、リィエルさんがわかりやすく反応した。本当にごめんなさい。女の子は嫌だよね。後で土下座します。……土下座で許してもらえるだろうか?

 

「…………」

 

 笑みを消して、アルベルトさんの目を見た。その内面は全く窺えない。見事なポーカーフェイスだ。……普段はあんなにわかりやすい人なのに、こういう時は何にも悟らせないんだもんなあ。大人ってずるい。まあ、俺も精神年齢で言えばもう大人だけど。

 

「何か俺に手伝えること、ありますか」

 

 暫く、アルベルトさんは無言だった。

 

「………正直、こういった事にはあまり慣れていなくてな。猫の手も借りたいところだが……今は大丈夫だ。グレンも表彰式が始まる頃には用事を終わらせて帰ってくる」

 

「………」

 

「それまでは、最善の指揮を出せるよう努めるつもりだ」

 

「……今からグレン先生に優勝の報告するのが楽しみですね、アルベルトさん」

 

「ああ」

 

 

 ふむん。表彰式ね、オーケー。

 

 

 

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