ロクでなし魔術講師と戦闘民族   作:カステラ巻き

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ゴーストオブツシマ楽しいですね。万死モード最高。


編入生

 

「グレンはわたしの全て。わたしはグレンのために生きると決めた」

 

 そんなことを真顔で(のたま)ったリィエル=レイフォードと名乗った青い髪の美少女編入生を見て、浮かんできたのは「この子やべー」という感想と、「競技祭で見た事あるな」という驚きだった。

 

 確かティンジェルさんが競技祭で変身してたのってレイフォードさんだったな。あの青い髪に無気力な表情、間違いない。一応先生からレイフォードさんの素性は聞いているけど、彼女は帝国宮廷魔導士団に所属する魔導士で、ティンジェルさんの護衛をするためにこの学院に編入生としてやってきたんだとか。

 

 もう自己紹介から色々と不安なんだけど、大丈夫なんだろうか。今のところ全然大丈夫じゃない。

 

「きゃあ―――! 先生と生徒の禁断の関係ですわぁあああ! きゃああー!!」

 

「屋上へ行こうぜ……久しぶりに………きれちまったよ…」

 

「……先生と生徒がデキているというのは、倫理的な問題としていかがなものかと」

 

「誰か鈍器持ってない?」

 

「ウィル手伝って! このままじゃカッシュが逮捕されちゃう!」

 

 男子の悲鳴と女子の黄色い声が飛び交う教室。慌てふためく先生と、それを見てほんの少し首を傾げるレイフォードさん。カッシュは鈍器を探すのに夢中だし、癒やしのセシルは荒ぶるカッシュを宥めるのに苦心している。黄色い声を発する女子の群れの中に入るのは論外。よって唯一普段通り冷静な反応を示したギイブルの傍が一番安全だな。

 

 瞬時に状況を把握した俺は、セシルに笑顔で手を振ってから可及的速やかにギイブルの隣に移動した。この間約2秒。我ながら素晴らしい危機回避能力である。隣に座った俺を見て、ギイブルはその顔を顰めた。ひどい。

 

「……僕を避難所にするな。それと放置していいのか、あれは。君を呼んでいるようだが」

 

 遠くでセシルが俺の名を叫んでいるような気がしなくもないが、きっと幻聴だろう。

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 この教室の机と椅子は固定してあるタイプだし、他に鈍器になり得る物はない。しいて言えば辞書とか? いつだったかフィーベルさんが辞書を投擲物として使用して、先生の頭にたんこぶを作ることに成功していたから鈍器として使えばいけるか……?

 

「これでは授業にならないな…」

 

「そのうち落ち着くさ。ね、それはそうとここ教えてくれませんか?」

 

 行き詰っている錬金術の問題集をいそいそと広げながら俺がそう言うと、ギイブルは露骨に嫌そうな顔をした。そ、そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃないですか…。

 

「なんで僕に聞くんだ。君はシスティーナと親しいんだから彼女に教えてもらえばいいだろう」

 

「いやー、この状況では無理だろ」

 

 今や教室内はカオスと化した。フィーベルさんも先生に詰め寄るので忙しそうだし、何よりあの騒ぎに巻き込まれて先生からとばっちりを喰らう可能性がある以上は近づかない方がいい。それに、ギイブルは何でもそつなくこなす優等生だ。フィーベルさんも成績優秀だし、わかりやすく教えてくれるけれどやはり同性の方が気楽ではあるよね。……あ。ハーレイ先生がキレ散らかしながら教室に入ってきた。こりゃ長くなりそうだ。

 

「ギイブル、錬金術得意だったよな? ちょっと今回わからないところが多くてさ…」

 

「はぁ……どこだ?」

 

 クラスの中での一匹狼的存在のギイブルだが、彼は話しかけるときちんと言葉を返してくれるので、素直になれないだけで根は優しいやつだと俺は思っている。何だかんだ言いながら今もこうして教えてくれようとしてるしね。

 

「えっと…これと、これとこれとこれ。あ、あとそっちのも……まあ、うん。このページ全部ですね!」

 

「満面の笑みを浮かべて言う事じゃないと思う」

 

 まっさらな問題集を広げて笑いかけると、ギイブルは大きなため息をついた。

 

 

 

 

 

 予定では座学授業だったらしいが、先程の騒ぎのせいで思わぬ時間を浪費したため急遽魔術の実践授業に変更になった。

 

「よし、これで最後だ。やれ」

 

 学院の魔術競技場。先生の声を背に受けて、俺は二百メトラ(こっちの世界ではメートルをメトラと言うらしい)離れた先の的に、左手の人差し指を向けて叫ぶ。

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》ェええええ!! ふう゛う゛う゛う゛う゛当たれ当たれ当たれ―――あぁ」

 

 残念無念。俺の全てを込めた【ショック・ボルト】は二百メトラ先に設置された的から大きく離れたところに命中した。パチパチと霧散していく音が虚しい。通算五回目のハズレである。一節詠唱よりも三節詠唱の方が安定した呪文が放てるとアドバイスしてくれた先生が俺の肩を慰めるように叩く。

 

「六発中一発は当たってんだから、初心者にしちゃ上出来だ。そうめげるな。後はブレない様に狙いを定めることに集中しろ」

 

「んんん……精進します」

 

 すごすご皆の待機している場所まで戻る。カッシュがニヤニヤしながら肩を叩いてきたので肘でどつき返していると、先生がレイフォードさんを呼ぶ声が聞こえた。

 

「次は……よし、お前だリィエル。やれ」

 

「……ん」

 

「いいか、同じ的は狙っちゃダメだぞ? 一つの的につき、狙っていいのは一回だけ。今回はこういうルールだからな?」

 

「わかってる」

 

 レイフォードさんが所定の位置に着いた。その様子を、さっきまで騒いでいたクラスメイト達が静かに見守っている。やはり転入生の実力が気になっているのだろう。彼女は帝国軍への入隊を目指している(という設定)ので、それが拍車をかけているのもあるだろう。かく言う俺も気になっている。 

 

 皆が注目する中、【ショック・ボルト】を三節詠唱したレイフォードさんの指先から紫電が走る。放たれた紫電は、的を取り付けられたゴーレムを大きく外れて競技場の彼方へと飛んで行った。

 

「…………」

 

 沈黙に包まれる競技場。いや待ってほしい。レイフォードさんは顔には全く出してないけど、ひどく緊張しているのかもしれない。俺も初めてクラスメイトの前で魔術を使った時はすごく緊張したから。

 

 次いで放たれた二射目。これもゴーレムを掠りもせずに飛んで行く。途端に、クラスメイト達の値踏みするような視線が、小さな子供を見守るような優しい視線に変わった。応援の声があちこちから上がる。

 

「リラックスリラックス! いけるよー!」

 

「固くなりすぎですわよ。もっとこう、しなやかに腕を伸ばして……」

 

「はは、よかったね、カッシュ、ウィリアス。君らとタメを張れるのが出るかもよ?」

 

「オイこらやめろ、俺達と一緒にするなよ。レイフォードさんが可哀想でしょうが」

 

「自嘲が過ぎないか!?」

 

「そうだぞギイブル。リィエルちゃんに失礼だろう」

 

「カッシュ、君もか……」

 

 前世の俺が通っていた学校なら、必ず一人は人の失敗を貶すような意地悪な生徒がいたものだが、この二年二組にはそんな奴は一人も……約一名ひねくれてはいるが……意地悪なやつは一人もいない。皆純粋でいい奴ばかりだ。やさしい世界。

 

 ……しかし、レイフォードさんはティンジェルさんの護衛に来たれっきとした魔術師なんだよな? 見てる限りじゃまぐれで的に一回当たった俺とどっこいどっこいなんだけど。遠距離魔術が苦手なのかな? 魔術師の戦い方に俺はそれほど詳しくないが、レイフォードさんはもしかして近距離型だったりして。

 

 的に当たらないまま最後の一回を迎えたレイフォードさんが、グレン先生を仰ぎ見た。何か先生と話しているのは分かるが、内容までは聞こえない。

 

「頑張れー!」

 

「諦めないで!」

 

 声援が響く中、レイフォードさんは(おもむろ)に地面に両手をつく。いったい何を、と思っている間に地面に紫電が走り、次の瞬間、レイフォードさんの両手には大きな十字形の剣が握られていた。

 

「「「な、何だぁあああ――!?」」」

 

 彼女の足元には十字形の窪みがあった。まるで何かをそこからくり抜いた様に。

 

 素早く剣に視線をやる。…いや、ただくり抜いたなんてもんじゃない。原理は全くわからないが、あれは恐らく錬金術だ。彼女が握っている剣の輝きは、紛れもなくその刀身が鋼であることを示している。どうやら地面の土から鋼の大剣を作り出したらしい。ハガレンかな??

 

「いいいいやぁああああ―――っっ!!!」

 

 唖然としたまま俺が見つめる先で、レイフォードさんは握っている大剣を振りかぶると、跳躍しながら的へ向けてぶん投げた。

 

 ごおっ! と空気を裂く音が聞こえた。200メトラの距離を正確無比に飛んだ大剣が、ゴーレムごと的を全て粉砕する。あの子もしかしてスーパーサイヤ人か何かなの? というかあの小柄な身体のどこにそんな力を秘めていたのか。思わず人体の神秘について真剣に考えそうになった。それはそうと、さっきまで騒がしかったのに今はやけに静かな生徒達が気になる。

 

「「「………………」」」

 

 ああ…皆、レイフォードさんが発揮した超パワーに怯えてしまっている。まあ、うん、そうだね。小柄な女の子がいきなりバカでかい剣を無表情でぶん投げてたら普通は怖いよね。しかし編入早々にこれはちょっとまずいんじゃ……。

 

 先生も流石にこれはフォローできそうにないらしく、天を仰いでいるのが見えた。

 

 

 

 

 

 昼休み。座学の授業が終わるや否や、俺は先生に呼び出しを受けて廊下に出た。真顔の先生が言う。

 

「お前は傭兵の中でも何でも屋で通ってるんだったな、雇うからリィエルのフォローをしてくれ」

 

「料金は前払いでお願いします」

 

「なん…だと……」

 

「払えねぇならけぇんな! 文無しに用はねぇ!」

 

 払える保証がある人の依頼しか受けないよ、俺は。第一、ここには生徒の一人として来てる。制服を着てる間は依頼は受け付けません。

 

「まあ、冗談はこの辺にしといて……どうするんですか?」

 

 廊下からちらりと教室を窺う。レイフォードさんがポツンと一人、椅子に座っているのを生徒達はチラチラ見ているが、話しかけようとする者はいない。

 

 先生が難しい顔をした。

 

「教師の俺が出張るのもなんか違うだろ。お前がリィエルと一緒に……こう、何かこう……愉快なトークで場を盛り上げでこい」

 

「難易度ルナティック! というか愉快なトークって何だよ。俺はレイフォードさんのこと何も知らないんですが。どんな話題振ればいいんですか?」

 

 …まあ、ティンジェルさんとレイフォードさん。この二人の事情を知ってる俺が先生的には頼みやすいんだろう。しかしそもそもの話、俺はそんなにコミュ力は高くない。男子でもよく話すのはカッシュとセシルぐらいだし…最近はギイブルもか。女子に至ってはフィーベルさんとティンジェルさんの二人ぐらいしかマトモに話さない…あれ、待って。五人も話す人がいるって中々凄いことじゃない? …え、そうでもない?

 

 二人して色々と考え込んでいると、不意に顎に手を当てていた先生が顔を上げた。

 

「そうだな…ここは無難に昼飯にでも誘ってみろよ」

 

「いや、初対面の奴にいきなり誘われたら嫌でしょ」

 

「大丈夫だ。リィエルはそんなやつじゃない」

 

 いかにも名案だぜ! みたいな笑みを浮かべてる先生。クラスメイトと言えども、初対面の女の子にいきなり声をかけるのは俺には少しハードルが高い。……でも、もうそれぐらいしかないよなぁ。レイフォードさんも編入して早々一人ぼっちは寂しいだろう。

 

 切っ掛けさえ作れば皆なんやかんや仲良く出来ると思うし、ここは頑張ろうか。……問題は、俺がちゃんと彼女と話せるかどうかだけど……。

 

「逝ってきます」

 

「お、おお。頼むぞ!」

 

 意を決して俺はレイフォードさんの側まで歩み寄った。途端にクラス中から視線が飛んでくる。

 

「………?」

 

 レイフォードさんも俺に気づいたのか、目だけで見上げてきた。睨まれてる気がしないでもない。

 

「や。俺、ウィリアス。よろしく」

 

 挨拶大事。俺はこの挨拶のお陰でギイブルとも仲良くなれたんだ。大丈夫、自信を持て。

 

「…………」

 

「………えっと」

 

 遠くから先生の視線を感じる。やめろよ気配で笑ってんのわかってるからなコノヤロー。

 

 まだだ。まだ諦めんぞ。せめて皆が彼女との会話の糸口を掴めるように……! 息を呑む生徒達の視線を浴びたまま、俺は何とか話題を考える。

 

「レイフォードさん、さっきの凄かったね。あの剣、どうやって作ったの?」

 

「…………」

 

 依然としてレイフォードさんは無言だった。視線はこっちを向いてはいるが、どうなんだろう。ウザがられているのかもしれない。やばい挫けそう。どう考えても食事に誘える空気ではないよね。

 

 暫し無言の状況が続き、真面目に撤退を検討しだしたその時。

 

「………錬金術」

 

「えっ」

 

「……錬金術で作った」

 

 ……これは、さっきの質問に答えてくれたということだよな。も、もう少し話してみよう。

 

「…あの剣の形って、自分で考えてるの?」

 

「………ん。適当」

 

「そうなんだ……えっと、もしレイフォードさんがよければさ、今度もう一回やって見せてくれないかな」

 

「………ん。わかった」

 

 ……どうやらレイフォードさんは、話しかけられたらちゃんと返事をしてくれる人みたいだ。ちらりと先生を見れば、満面の笑みでグーサインを作っている。いつの間にかレイフォードさんは俺のことを目だけで見るのをやめていて、ちゃんと首を動かしてこっちを見ている。ウザがられているわけではない…のかな。

 

「ふふ、ご機嫌よう。リィエル、ウィル君」

 

 そのままレイフォードさんと会話を続けていると、ティンジェルさんがやってきた。後ろにはフィーベルさんも一緒だ。

 

「どうしたの?」

 

「二人とも、お昼ご飯まだ食べてないみたいだし、学食に行くなら一緒にどうかなって」

 

 お昼ご飯。そう言えば忘れてたわ。危ない、食べそびれるところだった。

 

「じゃあ、ご一緒させてもらおうかな」

 

「必要ない。わたしは三日間、食べなくても平気」

 

「えっ? だ、駄目だよ、それじゃ……身体に良くないよ? ちゃんと食べなきゃ。ほら、リィエルのお仕事にも差し障っちゃうよ?」

 

「……一理ある。でも、何を食べたらいいかわからない。今回の任務、食料が支給されなかったから。今までの支給分はここに来る時に全部食べたし」

 

 ………。

 

 黙って先生と見つめ合う。この子、一体どういう過ごし方をしてきたんですか? まさか、野戦食料しか食べたことないとか言いませんよね? もしそうなら俺のおやつ袋が火を吹くぞ。取り敢えず今日は……これでいいかな。

 

「はい、これあげる」

 

 ポーチの中に武器類とは分けて収納しているおやつ袋から、チョコレートバーを取り出してレイフォードさんの手に乗せる。彼女は手の上のチョコレートバーをまじまじと見つめた。

 

「……くれるの?」

 

「うん。ってそうだった、今からお昼ご飯だから、後で食べてね」

 

「……ん」

 

 そっとチョコレートバーを握ったレイフォードさん。その仕草がどこか小動物じみていて、素直に可愛いと思う。妹がいたらこんな感じなんだろうか。

 

 ティンジェルさんとフィーベルさん、レイフォードさんと一緒に学食に向かいながら、おやつのストックを増やしておこうと俺は心に決めた。

 

 

 




今年の夏は一度も花火を見ないまま終わりそうです。コロナェ……
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