しとしとと雨が降っている。
いつもの放課後。いつものバイト先。いつものように仕事を終えた私は、裏口の扉を開けた瞬間見えた光景に、踏み出すハズだった一歩を思いとどまった。
「あ。傘ないや」
降水確率10%。たぶん雨なんか降らないだろうって数値にも関わらず、バケツをひっくり返したような雨が降ったのはつい昨日のこと。
そんなことがあったばかりだから、たとえ今日の降水確率が昨日と同じ10%でも傘は持っていて然るべきなんだろうけど……。
「……待ってたらやまないかなあ」
見た感じ昨日と違って雨足は強くなさそうだ。あと30分もすればやむよ、と言われてしまえばそんな気もするような勢い。
逆にあと30分くらい経てばもっと雨足も強くなるよ、と言われるとそんな気もする微妙な降り方なんだけど。
……走ろっかな。
幸い私の家はここから徒歩圏内だし。なんなら帰り道にコンビニがあったから、そこでビニール傘とタオルかなんか買えばいいかな。
出費は合わせて700円くらいかな……。学生の身分だと突発的に千円近い出費って結構懐が痛い。かといって濡れっぱなしで帰るのも嫌だし。
うん、頑張って走ろう。これでも中学では運動部だったし? 必死でコンビニまで走れば、そこまでヒドく濡れることもないでしょう!
「よーっし、がんばるぞー!」
「……なにを?」
「っ!?」
突然の声にビクリと肩を揺らして振り返ると、そこには髪の長い美人さんが小首を傾げて立っていた。
「……ユキちゃん先輩」
「あの、えっと、驚かせてごめんね? なにかあったの?」
「ああ、その。傘を忘れてきたので、頑張って走ろうかと」
私がそう言うと、ユキちゃん先輩は身体を傾けて外の景色を覗き見た。
「……あ、ホントだ。降ってるね」
「はい。折りたたみ傘とかあれば良かったんですけどね」
残念ながら、そんな都合のいいアイテムは持ってない。
いや、普段は持ち歩いてるんだけど、昨日の突然の雨のせいで折りたたみクンは友達に貸し出し中だ。普通の傘に関してはこの通り、まさか二日連続で天気予報が外れると思ってなかったから自宅の傘立てです。
と、いうわけなので!
「じゃっ、ユキちゃん先輩お疲れさまでした! 私帰りますね!」
「えっ、あのっ」
「よっし、行くぞぉ!」
「ま、待って!」
「ふぉう!?」
勢いつけて飛び出そうとしたら、思い切り手を引かれてしまったよ。
カクーン、って転びかけた上に上擦った声が漏れちゃって物凄い恥ずかしいし。あと引っ張られた手というか、肩が普通に痛い。
「あっ、あっ、ごめんね!」
「イ、イエ。ダイジョウブデス」
「ご、ごめんね」
思わず片言みたいな話し方をしたら、めっちゃ気まずそうに謝られた。
いやうん。痛かったけども、そんな顔をさせたかったワケでもないというか。
ぶっちゃけ謝られる方が気まずいし、早々に話題転換するのが吉と見た!
「それで、どうかしたんですか?」
「……うん、そのね。傘を持ってきてないのなら、一緒に帰らない?」
「え? それはその、ユキちゃん先輩と相合い傘的な?」
確かにそれは普通に助かる。雨足は弱いとはいえ、傘ないとやっぱり濡れちゃうだろうし。すすんで濡れる趣味は私にはないし。
問題は、同じ傘の中にいるユキちゃん先輩、という現実に私が耐えられるかどうかだ。
え? っていうかそれ普通に無理じゃない? こんな美人と至近距離で一緒にいるとか無理すぎじゃない?
そんな私の内心や葛藤とは裏腹に、ユキちゃん先輩はゆっくりと首を横に振って言った。
「……あ、そうじゃなくて、わたし今日は車だから」
※※※
乗り込んだ助手席で、そわそわしながらユキちゃん先輩を待つ。
アイドリング中の車内は適度にエアコンが効いていて、外の蒸し暑さが嘘みたいだ。控えめな音量のBGMは、たぶん少し前に流行ったドラマのタイアップ曲。なんか高級そうな革張りのシートの上には、ちょっと不釣り合いな可愛らしいクッションが置かれている。
「ごめん、お待たせ」
そんな風に車内の観察をしていると、雨の中を小走りでユキちゃん先輩が車へと乗り込んできた。
「送るって言ったのに、いきなり寄り道しちゃってごめんね」
「いえ、全然平気ですよ。むしろ送ってもらっちゃってごめんなさい」
「……いいんだよ。わたしがやりたくてやっているだけだから」
そんな風に言って、ユキちゃん先輩はにこりと微笑んだ。
ドキリ、と胸が跳ねる。毎度毎度、ユキちゃん先輩の笑顔は破壊力がヤバい。めっちゃ綺麗だ。私が男だったり、それか女の人好きな人種だったらきっと一発ノックアウトでしょコレ。
「ええと、それでいったい何を買ってきたんです?」
「……修正テープと、ボールペンが切れてたから。あと家に帰るまでに眠くならないように、カフェイン採っておこうと思って」
コンビニの袋から取り出されたのは、某先輩のせいですっかり見慣れたデザインの缶コーヒーだった。
あ、いや、デザインロゴは似てるけど缶の色は違うな。先輩がいつも買ってくるのは赤か金だけど、ユキちゃん先輩のは黒いし。
「ユキちゃん先輩、コーヒー飲めるんですね」
「……? うん、普通に飲めるけど?」
「すごい……! これが女子大生!」
「え、ええ……?」
私の言葉に困惑の表情を浮かべるユキちゃん先輩。
確かに冷静に考えたら突拍子もないこと言ってるかもしれないけど、でもでもだってコーヒー飲めるのすごくない!? 私ぜったい無理だもん!
「私、コーヒー全然飲めなくて……」
「あ、そうなんだ。……味覚なんて人それぞれだから、飲めなくても仕方ないんじゃないかな」
「はい、最近そう思うことにしました。でもやっぱり、自分が飲めないと思うと、飲める人はスゴいなって思っちゃうんですよね」
思い出すのは先日の先輩とのやりとりだ。
先輩の飲んでたコーヒーを飲ませてもらって、そして吐き出しかかった。もし吐いてたら大惨事だったから、ちゃんと飲み込めて良かったと思う。
「私この先もきっとコーヒー飲めないままなんだろうなー。苦いし変に甘いし、どうしても苦手意識消えそうにないんですよね」
「……甘い?」
「はい。甘くないですか、コーヒー」
「……ああ、そっか。そうだね、ブラックでもなければ普通はお砂糖とミルク入ってるものね」
「ブラック……」
そう言われて、改めてユキちゃん先輩の手元を凝視する。
先輩がいつも買ってくる缶コーヒーの、缶の色が違うバージョン。色は黒で、ご丁寧に『ブラック』とかデザインされている。
「ユキちゃん先輩のそれって、もしかして……」
「……うん?」
「お砂糖もミルクも入ってない、いわゆるブラックコーヒーってヤツなんですか!?」
「えっと、そうだね?」
「ひえっ」
女子大生ってやっぱりすごい。
お砂糖とミルクが入ってないってことは、全く甘くないってことだよね? こないだ飲んだコーヒーから甘さを引いたら、ただただ苦いだけの飲み物になっちゃうと思うんだけど。それってもはや人類の飲み物じゃなくない!?
「そ、そんなに驚くようなことかな……?」
「だって、あの風間先輩だってミルク入りコーヒー飲んでいるというのに、ブラックコーヒーですもん! これが大人の女……!」
「大人かどうかはわからないけれど。……あと、風間くんも普通にブラック飲めると思うよ?」
「毎日くらい飲んでる上にブラックまで!? 先輩どんだけコーヒー好きなの!?」
「……うーん。レイナちゃんはレイナちゃんで、コーヒーを異次元の飲み物として扱いすぎている気がするけれど」
「うっ」
それは正論すぎる感想! 確かにコーヒー飲める人からすればアレな態度とってるとは思う。あとコーヒー農家さんに対してもかなり失礼な態度。
「つい一昨日くらいの話なんですけど」
「え? うん」
「せんぱ……、えっと風間先輩にコーヒー分けてもらって、今なら飲めるかどうかってチャレンジしたんですよね」
「……うん」
「ホント、コーヒー好きな人には申し訳ないんですけど。吐くかと思って」
「そ、そんなに合わなかったんだ……」
「はい」
そのチャレンジでトラウマ補強されちゃったので、もう二度とコーヒー飲まないと誓った私なのです。農家のみなさんごめんなさい。でも無理なものは無理なんです。
「なら仕方ない、かな? ただ、あんまり過剰な反応は気にしちゃう人もいるだろうから」
「はい、反省します」
「……うん。でもそっか。休憩時間にそんなことやってたんだ。二人はやっぱり仲良いんだね」
笑って告げられた言葉に、私は一瞬だけ固まって、それからニッコリ笑って言った。
「えへへ、仲良しに見えます?」
「うん、見えるよ。……なんだか嬉しそうだね?」
「はいっ、実際嬉しいので!」
前までは『仲良しかな?』と疑問に思うところだったんだけど、最近はもう自信がついてきたというか、なんていうか。先輩の友達にもお墨付き貰ってるから、その上で誰かから『仲良しに見える』って言われたら素直に受け取ることにしてる。
「そっか。レイナちゃんは風間くんのこと好きなんだね」
「ぴゃ!? え、それは」
「あ、そうだ。コーヒーは無理でも、ココアは飲める?」
「え、え、あ、はい」
「じゃあ、はいどうぞ。そろそろ出すから、シートベルトしてね」
「あの、えっと、はいっ」
戸惑う私を余所に、なんかレバー(?)とか操作して車を発進させてしまうユキちゃん先輩。
色々ツッコミたい部分とか、訂正しなきゃいけない部分とかあったハズなのに、私の頭がまともな答えを弾き出す前に、車はあれよあれよの内にコンビニ駐車場を飛び出してしまった。っていうか結局ココアまで受け取っちゃってるし。
「……ココア。ありがとうございます」
「どういたしまして。いま飲みたくなかったら、後で飲んでね」
「……はい」
「……あ、レイナちゃんの家ってこっちの方であってる?」
「大丈夫ですよ。あ、二つ先を右です」
うう、失敗した。会話の流れを掴み損なっちゃった。即座に違うって言えてれば……、いや好きじゃないわけじゃないんだけど! こう、なんか誤解がある気がするっていうかね。でも今、唐突に好き嫌いの話を蒸し返すと余計に誤解が深まりそうっていうか。あ、これ詰んだ?
「……レイナちゃんは」
「は、はいっ」
「風間くんとはどんなお話をしているの?」
「……どんな、ですか? 普通に世間話みたいな。昨日なに食べたとか、テストがどうとか」
それこそ冷奴になにをかけるか、なんてどうでもいいことを話した記憶もある。
……うん。改めて考えてもこの話題だけは唐突だったなー。
「……そうなんだ。わたしは基本的に仕事の話くらいしかしないから」
「そうなんですか? ああでも、確かに先輩って業務連絡くらいでしか話しかけてこないかもですね。こっちからお話振れば、結構律儀に答えてくれますよ?」
「……それは、そうだね。そういえば前に話を振った時は、ちゃんと話してくれたっけ」
おっと、それはちょっと気になるぞ? 先輩って、私以外の人といったいどんな会話してるんだろう。
「へえ、どんな話したんですか?」
「その時はたしか、最近学校で何か流行ってる? って聞いたんだったかな。そしたら友達がバイクのカタログ学校に持ってきてるから、それ見て色々話してるとか」
「バイク……」
「うん。乗るなら赤いドゥカティとか、あと免許の取り方も聞かれたなあ」
「そう! それです!」
「え?」
免許、というワードにピーンとくる。マンガ風に言うなら、きっと私の頭のあたりに『!』って出てたと思う。
「すっかり流されちゃってましたけど、ユキちゃん先輩って車も免許も持ってたんですね!」
「う、うん。そうだね」
「それもこんな大きな車!」
えっと、なんだっけ。SUVっていうんだっけ、こういうの。タイヤが大きくて見るからにパワーがありそうな車。
車持ってたことにも驚いたけど、乗ってる車がこういうタイプっていうのにもすっごく驚いちゃった。なんていうか、ユキちゃん先輩みたいな女の人は、もっと可愛らしい軽自動車とか乗ってそうだったから。
「……あ、でも車ならアキラも持ってるし。そんなに珍しいってわけでもないよ?」
「アキラさんも車持ってるんですか!? すごーい、これが大人……」
新たなる事実に驚きが重なっていく。
そっかー。アキラさんも車持ってるんだ。大学生ともなると、みんな車くらい持ってるものなのかな?
「すごいなー。車持ってることもそうですけど、運転できるのがまずスゴい。私運転できる気がしないですもん」
「うーん……。それ、前に風間くんにも言われたけど、ちゃんと教習受ければ案外なんとかなるものだよ」
「……教習。えっと、車に乗る前に勉強するんでしたっけ?」
「そうだね。交通ルールとか、救命講習とか。あとは実際に車に乗ったりとか」
「実技があるだと……!?」
「え……、それはない方が問題じゃない?」
そうなんだけど! そうなんだけど、免許取る前に車を運転するとか怖くない!? や、免許取るために運転するんだけどね!
「怖いなら別にわざわざ免許取らなくてもいいと思うけど。結構お金もかかっちゃうし、車が必要でないなら必須の資格ってわけでもないしね」
「で、ですよね。ユキちゃん先輩もそうですけど、アキラさんも免許持ってるって聞くと、大学生ともなれば免許いるものなのかと……!」
「うーん、周りで免許持ってる子はあんまりいないかなあ。大学生だからっていうよりは、やっぱり必要だから持つって方が多いよ」
ユキちゃん先輩のセリフに一安心。
そっか、免許持ってるのは少数派なんだ。なんていうか、これでもし免許持ってる方が多数派だったら、私は無理してでも免許取りに行ってたと思う。我ながらどうかと思うけど、私はどうも長いものには巻かれろ主義みたい。
「まあでも、当たり前だけど免許証あれば運転できるし。大概の場所で身分証明書に使えるから便利といえば便利だね」
「身分証ですか?」
「写真付きだからね。保険証だと写真付いてないし。……あ、高校生は学生証があるのかな?」
「学生証ありますね。……持ち歩いてる人は見たことないですけど。私もアレ、どこにやったかな?」
「ふふっ、学生証ってそんなものだよね」
カバンの奥底に眠ってるかなあ? たしか中学の時の学生証も、卒業して荷物の整理をしている時にポロっと見つかったんだよね。あそこで見つからなかったら、学生証って存在があったことすら忘れてたと思う。普段全く使わないと、記憶も曖昧になっちゃうよね。
「あの、大学生には学生証ないんですか?」
「あるよ? でもどうだろ、免許証の方が使い勝手いいかなあ。個人の意見だけど。……あ、そうだ! 『車乗ってきた』って言えば、飲み会でお酒避けられるよ。これは結構便利」
お、おおう。唐突な大人の話題。そっか、ユキちゃん先輩は20歳越えてるから、普通にお酒飲めるんだ。なんか、これだけでも私みたいなのとは違うなあ……。大人だ。
「えっと、ユキちゃん先輩はだから免許取りにいったんですか? 運転したいとか、飲み会めんどくさいとか」
「わたし? わたしはアキラに誘われて。元々あると便利そうだとは思っていたんだけど、一人じゃ踏ん切りがつかなくて……。いい機会だったから二人で教習所に通ったなあ」
「なるほどー」
「アキラの方は単純に運転がしたかったみたい。いまの住所が、少し交通の便が悪いって言ってたから、それが理由だと思う」
あ、それはなんか聞いたことある。電車もバスも微妙にうまい時間にきてくれないとかなんとか。時刻表を頭に入れてないと、いざというとき大変だよ、と語っていた気がする。
「風間くんが友達とのバイクの話題に前向きなのも、そういうことなんじゃないかな。たしか赤井羽でしょう、彼が住んでるの」
「……先輩の住んでるあたりって、そんなに不便なんですか?」
「みたいだね。……そういえば、友達に夏休みあたりに教習所いこうって誘われてるみたいだから、もしかしたら風間くんも免許取りに行くのかもしれないね」
「え!?」
さっきバイクのカタログ見てるとは言ってたけど、そんなとこまで話が進んでたの!? っていうか、免許証って高校生でも取れるものなの!?
「あの、免許って何歳から……」
「18。でもバイクなら16から取りにいけるから、取りにいくならそっちだろうね。それに男子ってバイク好きじゃない?」
「そ、そうなんですね」
し、知らなかった。もっと大人にならないと、免許証って取れないものだと……。え、つまり私もあと数ヶ月でバイクの免許なら取りにいっても大丈夫ってことなの? 日本の交通ルール怖くない?
っていうか先輩、バイクの免許とりにいくってことはバイク買うってことかな? まさか学校には乗ってこないだろうけど、もしかしたらバイト先には乗ってくるかもしれないってこと?
「……風間先輩がバイク乗ると」
「え、うん?」
「見た目凶悪になりませんか? 目つき悪いし。ガラの悪い学生みたいな」
「え、ええ……? そ、そうかな。……いやあの、目つきは悪いけど風間くんいい子だし」
風間先輩が見た目ほど怖くないのは、そりゃ知ってるけど。でも目つき悪いのは事実だし。実際、たったいまユキちゃん先輩も目つきの悪さは否定しなかったし。
それはそれとして。
「あ、ここまでで大丈夫です」
「え?」
「私の家、あの牛丼屋さん曲がった先なんですけど、車が入るには道が狭いので」
「……そう? じゃあ」
そう言ってユキちゃん先輩の運転する車は、私が指さした牛丼チェーン店の駐車場にイン。そのまま綺麗に駐車スペースに停車すると、ユキちゃん先輩は、わざわざシートベルトを外してこっちに向き直って言った。
「お疲れさま。気をつけて帰ってね」
「はい、ありがとうございました。今度、なにかお礼しますねっ!」
「お礼……?」
「って言っても、私にできることなんかあんまりないんですけど。ジュースおごるとか?」
あれ? 自分で言ってて虚しいぞ。
私に出来ることはユキちゃん先輩にも出来るだろうし、あんまりにも私に出来ることがなさすぎる。
そんな風に内心で自分の無力感に苛まれていると、ユキちゃん先輩が「あ、それじゃあ」となにか良いことを思いついたような声色で口を開いた。
「今度の土曜日、レイナちゃんは午前中シフトだったよね?」
「はい、そうですね?」
「じゃあ午後から、もし何も予定がなければ一緒にお出かけしない?」
「え、一緒に?」
「うん。アキラと遊ぶ約束してたんだけど、よかったらレイナちゃんも一緒にどうかな?」
え、ユキちゃん先輩だけじゃなくて、アキラさんとも遊べるの!?
「わっ、いいんですか!? 行きます行きます!」
突然降って湧いた素敵な提案に、私はもう反射的に答えていた。それこそ多分一秒以内。完全に予定とか確認しなかった早さだけど、しょうがなくない? むしろこれ以上に大事な予定なんてないよねっ。
「そっか。うん、よかった。じゃあアキラにはわたしから伝えておくから」
「はいっ」
「それじゃあ、気をつけてね」
「はい、バイバイです!」
車を降りて、手を振って別れる。
小雨の中、ユキちゃん先輩の車が国道方面に消えていくのを見送って、私ははた、と気が付いた。
あれ? これ結局私が嬉しいだけで、なんのお礼にもなってなくない?
アキラの車は中古の軽(本体価格78万円)
ユキの車は新車のSUV(本体価格400万円)
あと風間は、バイク買うかはわからないけど免許証は持ってても損はないだろうし、友人が取りに行くならいい機会だし、持つだけ持っとくかー、くらいの意識。早いうちに取れるなら、それに越したことはないとも思っている。
【大学デビュー】ユキちゃん先輩
抜群のプロポーションと顔面偏差値に加え、クールで落ち着いた性格から高嶺の花扱いされまくっている系女子。
実は高校時代は高身長、高体重、コミュ障&根暗だった。
大学受験のプレッシャーで体重は激減したが、それ以外の部分はまるで変わっていないので今でもコミュ障で根暗。他人との会話では内心で必死に言葉を選んでいるのだが、そのロード時間が他人から「落ち着いて話す人」という印象を持たれる原因になっている。
ある日の講義で日向アキラと隣席になり、めっちゃ気さくに話しかけてくるアキラに対して『もしかして覚えてないだけで知り合いだった?』と自分の記憶を疑った結果、話を合わせるために必死でレスポンス返していたら講義終わる頃には友達認定されていた。ちなみにやっぱ初対面だった。
化粧もファッションもアキラから仕込まれたインドア派な20歳(先輩と読書時点)。