先輩と後輩がダベってるだけ   作:ハトスラ

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先輩としりとり

 いつもの通学路。夕暮れの街並みに三人の男子高校生が並んで歩いている。

 

「スイカ」

 

 そう言った俺の隣には、普段の下校時にはいない友人が二人。

 俺の声を受けた二人の友人の内、大柄な方の男が首を捻った。

 

「カメ。……は、もう言ったな。じゃあカモメ」

 

 少し思案してカメからカモメに言い直したのは、友人の大平(おおひら)賢治(けんじ)

 バスケ部に所属するコイツは、今日は体育館の点検のために部活が早く終わったらしい。普段なら部活で汗を流している時間だろうに、日暮れ前に帰宅コースである。

 

「めだか」

 

 その大平の言葉を聞いて、口を開いたのはもう一人の友人であるところの城島(きじま)(あきら)だ。

 部活やってる大平とは対照的に、帰宅部の城島にしては遅い下校時間だが、今日は日直の仕事が長引いたらしい。ホントはもっと早く帰りたかったんだけどね、とは本人の弁だ。ご苦労なことである。

 

「カラス」

 

 で、そんな城島と同じく帰宅部の俺はと言うと、教室の窓ガラスが割れた現場に居合わせたせいで先公どもに事情聴取を受けていた、なんてバカバカしい理由で下校時間が遅れてしまった。俺への嫌疑は晴れたので、まあ良しとしておくが、とりあえずバカやった犯人は明日にでも殴っておくことにする。なんでアホのせいで下校時間遅れなきゃならんのだ。

 

 と、三者三様の理由で普段の下校時間がズレて、奇跡的にタイミングが被ったので一緒に帰っている最中である。

 普段は俺や城島にバイトがあったり、そもそも大平が部活で中々下校しないから、こうやって一緒に帰ることなどほとんどない。三人一緒に登校は珍しくもないが、一緒に下校ってのは割と珍しいかもな。

 

「す、す、……スマフォ」

「オートバイ」

 

 大平の言葉に城島が返す。

 事前のルールで『スマフォ』とか『コーヒー』みたいな語尾の場合は、そのまま答えても良し、語尾の一文字前の音で答えても良し、母音で答えても良しと決めていたから、これはありだな。今回は城島が答えた『オートバイ』他には『フリーフォール』『フォークダンス』なんかがセーフになる。

 

 いやこの歳になって何やってんだ、という感想も浮かんできそうだが、一回始めちまうと妙に熱中するよな、しりとり。なまじ小さい子供でもできる遊びな分、語彙力の増えた高校生ともなると絶対に負けられねえって心理が働く。

 そもそも男子高校生がしりとりを始めようという思考には中々たどり着かない訳だが、どんな始まりだろうが一度始まっちまった以上はもうそんなことはどうでもいい。ただ、目の前の相手には負けられない。それだけだ。

 

「椅子」

「また『す』かよぉ……。寿司!」

「食べたい! じゃなくて、獅子舞」

 

 ちらりと城島の本音が漏れる。安心しろ、俺も寿司は食いたい。

 それはそれとしてまた『い』か。無意識にしろ意識的にしろ、同じ文字が連続でくると身構えるもんだな。

 

「井戸」

「土間」

「間合い」

「犬」

「ぬいぐるみ」

「未遂」

 

 やりやがった……! 城島の野郎、涼しい顔をしてずっと『い』で攻めてきやがる!

 だが舐めるな。特定の文字による攻め立ては、しりとりの定番戦略ではあっても、『り』や『る』と違って『い』なら返すことは容易い。

 

「犬小屋」

「それありか?」

「ありだろ」「ありでしょ」

 

 大平の疑問にノータイムで返す。

 同じタイミングで城島もあり判定を下したから、多数決で『犬小屋』はありだ。

 

「んー、じゃあ屋台」

「居合い」

「……田舎」

「顔」

「お見合い」

「……インド」

「ドラえ……、いや待った! ど、ど、ドッジボール」

 

 口を滑らしかかった大平が慌てて言い直す。

 

「いまドラえもんって言いそうになったよね?」

「ああ、言いそうだったな」

「言ってないからセーフだろぉ!? ほらほら、城島の番だぞ」

 

 まあ確かに言い切ってないならセーフでいいだろ。

 っていうか俺は大平が自滅しかけたことなんかより、こっから城島がなんて返すかの方が興味あるからな。大平の阿呆はさっぱり気付いちゃいねえが、城島の野郎さっきから延々『い』で回してくる。

 

「えーと、『る』ね。ルーレット」

 

 ようやくか。下手したらこのままずっとかと思ってたから、少し安心した。『い』から始まる言葉は大量にあるだろうが、咄嗟にぽんぽん出てくるもんでもない。

 

「とんび」

「ビール」

「わ、また『る』だ。キツいなぁ」

 

 いや、さっきまでひたすら『い』を回してた奴のセリフか。たった二回の『る』攻めで泣き言を漏らすな。

 

「ルール」

「お前、そういうとこあるぞ……」

「へ?」

 

 なにもわかってねえ顔をしてんじゃねえよ。いや、確かにしりとりにおいて特定の言葉攻めは常套手段だが、城島お前結構容赦ないな。

 

「ルービックキューブ」

「ブラジャー!」

「アリ」

「りんご」

「ゴリラ」

「らっきょう」

「牛」

 

 なんだ、急に普通のしりとりになったな。

 いや、さっきまでも普通のしりとりだったが、誰も仕掛けにいかないとそれだけでかなり楽だ。この感じのしりとりなら、多分駅に着くまで余裕で続けられる。

 

「獅子舞……は、さっき出たんだっけか? シソ」

「ソース」

「スイッチ」

「ちん……」

「「それ以上いけない」」

 

 城島と声をそろえて大平の発言を止める。

 いやマジで。コイツ、天下の往来でナニを口走ろうをしやがった。

 

 そんな俺たちの態度に、当の大平は口をとがらせて不満げな表情だ。

 

「まだ言い切ってないのに、そういうのどうかと思うぞ? 千葉」

「言い直してる時点でアウトだったって認めてるようなものだよ? バリウム」

 

 城島のセリフが正論過ぎる。

 

「虫」

「進化」

「貝」

「ちっ、またか。……磯」

 

 連続で同じ言葉をぶつけれるのもうっとおしいが、忘れた頃にちょいちょいぶつけてこられるのも面倒くさい。早い話、いい加減俺に『い』を回してくるのをやめろ。

 

「ソックス!」

「なんでわざわざ英語で言ったのさ? 別にいいけど。水泳」

 

 やめろと言ったばかりだろうが。お前ホント、涼しい顔で容赦ねえな。なんやかんや、割とガチで勝ちにきてる感じじゃねえか。

 あと城島はさらりと流したが、大平のそれは聞きようによってはアウトな言葉だろう。いまみたいに勢いつけて元気よく発言されると、空耳しそうになる

 

「居間」

「マント」

「鳥」

「リース」

「スリーサイズ!」

「ズッキーニ」

「ニラ」

「ライバル」

「ルビー」

「イタリア」

「アイドル」

「ルパン三世」

 

 だから、地味に『い』に繋げてくるのをやめろ。もうそろそろ真剣に考えないと浮かんでこないだろうが。

 正味な話、お前に負けるのはいいが、大平には負けたくないんだ。しりとり一つにしたって、かけられたプライドってものがあるだろう。

 

「……イグアナ」

「ナイター」

「ター……。た、た、……あ、あ、あ」

 

 と、ここで今まで澱みなく答えを返していた城島が、初めて言葉に詰まった。『ナイター』からなら『タ』『ター』『あ』と取れる選択肢は多いハズだが、まあ思い浮かばないときは全く思い浮かばないのがしりとりの常だ。

 ここでさっくり城島が脱落してくれると、あとは普通に俺の勝ちになって、プライドが保たれるので非常にありがたい。大平? 一対一で負けるわけねえだろ。

 

「あ、そういえば今度の土曜か日曜って二人とも予定ある? 観たい映画があってさ、予定ないんなら一緒に映画観に行こうよ」

 

 と、言葉選びはもういいのか、白熱するしりとりの合間に、いま思い出したかのような調子で、唐突に城島がそんなことを言った。

 

 まあ映画観るのは構わんが、予定はどうだったか……。土曜は先約があるが、日曜は問題なかったハズだ。多分。

 

「予定? 予定か……、悪いが土曜の午前は用事あるな。大平は?」

「はー!? 帰宅部のお前らと違って部活ありますけどー!? っつうか、風間の用事ってなんだよ。デートだったら殺すかんな?」

 

 突如として奇声を上げる大平を半眼で睨みつける。

 デートではない。断じて。断じて違うが、用事の内容を話すとまた面倒くさく拗れる予感しかしねえな。ここは黙ろう。面倒事はごめんだ。

 

 そんな俺の心境を察して口を開いた訳ではあるまいが、絶妙なタイミングで城島がフォローを入れる。

 

「な、なにもそこまで言わなくても……。もしかしてヒロくんバイト? ケンちゃんも部活なら、映画はまた今度にしようかな」

 

 と、思ったらコイツはまた。俺たち相手になにを水くさいこと言ってんだ。城島は良い奴だが、こういうとこが良くないと、俺は常日頃から思う。少しは俺や大平を見習え。……いや、やっぱそんな城島は嫌だな。

 

「なに変な遠慮してんだ。俺は土曜午後と日曜はフリーだし、大平には部活休ませればいいだけだろ。っていうか、土日どっちかは休みだろ普通。休みじゃなくても休め」

「命令形!? 風間お前そういうとこだぞ。なんつうか、城島には露骨に甘いじゃん。っていうか俺に対してなんか厳しいし、お前もしかして俺のこと嫌い?」

 

 嫌いではないが、若干面倒くさいとは思っている。あと別に城島に甘いつもりもない。友人として適切な距離感だろ、これは。

 

「い、いや嫌いではないでしょ。嫌いなら友達やってないって。そ、それよりさ! ケンちゃんはホントに二日とも部活なの? どうしても無理そうなら仕方ないけどさ」

「最悪、俺と城島の二人で行くから無理しなくてもいいぞ。……いやもうホントに二人で行くか。大平に無理させるのも悪いしな」

「仲間外れ良くない!! 俺を気遣ってる風な言い回しだけど、煽ってるだけなの丸わかりだからな!? 部活なんか休む、休むわ、休めばいいんだろ! 欠席許可が降りなくても、なんだったらサボってでも行くわ!」

 

 こいつは本当に扱いやすいな。こういうところはわかりやすくていいと思うぞ。

 

「わあい、決まりだね! でもサボるのはどうかと思うから、ちゃんと許可は取ってきてね。で、日程はどうしようか? 僕は土日どっちでもいいんだけど」

「土曜午前じゃなきゃどっちでもいいよ。つまり日程はお前がいつ休めるかにかかってる訳だ」

「大丈夫、大丈夫。土曜午前以外の休み取ってくればいいんだろ? なんだったら二日とも休んでやるから心配すんなよ。大船に乗ったつもりで任しとけ」

「ケンちゃん、休み取れたら連絡してね。ヒロくんも、ケンちゃんの連絡待ちってことでいい?」

「いいもなにも、それしかねえからな。早めに休み取って、さっさと連絡寄越せよ。ギリギリに連絡くるとか勘弁だからな」

 

 特に土曜日の朝に連絡くるとか最悪に近いわけだが。大平にはこうやって釘を刺しておかねえと、実際にやりかねない。

 一方で大平の方は普段からやらかしている自覚がないのか、俺の言葉に不満気な顔だ。

 

「なんで風間はいつも上から目線なの? まあ、いつものことだからいいけどよ。心配しなくても明日部活で陽介にでも休みたいって言うよ」

 

 大平が上げた名前に、城島が首を傾げた。

 

「陽介くんに? そういうのって普通、キャプテンとか顧問の先生に言うものなんじゃ……?」

「時期的に考えると……、確かにそうだな。まだ三年引退してねえだろ。いくら山本が副部長たって、普通は三年の方に話通すよな。それともバスケ部は、もう来年に向けての準備してんのか。気が早ぇこった」

 

 城島の発した割とまともな指摘に、同調する形で口を開く。

 俺たちの言う『山本陽介』は確かに『モデル並みに背が高く、俳優並みに顔がよくて、スポーツ選手並みに運動が出来、学者くらい勉強が出来そうな、神に愛されまくった男』だが、それでもまあ俺たちと同じ二年生だ。筋を通そうというなら、連絡は山本ではなく部長か顧問にして然るべきだろう。

 

「確かにうちは来年への準備始めてるよ? 実際インターハイ予選までもうちょいだから、それ終わったら三年引退だしな。ただ今回のは、三年とか顧問より話しやすいからってだけだよ。っていうか、三年引退したらアイツ部長だし、別に陽介に話しとけばよくね? いや、そもそもお前らなんで俺の部活での報連相気にしてんの!? そんなんどうでもいいじゃん!」

「あ」

「お」

「?」

 

 大平の上げた声に、城島と二人で顔を見合わせた。しばらくしても言葉が続いていかないから、ヤツの発言はこれで終わりなんだろう。

 城島は少し残念そうな顔をしていたが、実のところ俺の方は大平がこれ以上言葉を続けようとしなくて安心している。少し肩の荷が下りた気分だ。

 一方で俺たちの反応に一人きょとんとしている大平は、状況をよくわかっていなさそうだが。まあもう色々面倒くさいので、説明する気は一切ない。

 

「なんだよ、二人とも黙っちまって」

「いや別に?」

「うん、終わっちゃったなってだけ」

「は?」

「気にすんな。じゃあとりあえず大平の連絡待ちってことで」

「ケンちゃんしっかりお休み取ってきてね」

「なにお前ら二人でわかりあってんの!? 俺だけなんもわかってない感じで疎外感スゴいんですけど!?」




※たまにはこんな、輪をかけてくだらない話を。
友人同士だと風間のテンションがちょっと高め。実は大平は天才かもしれない。
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