先輩と後輩がダベってるだけ   作:ハトスラ

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先輩と休日 その2

 いつもと少し違う休日。いつもと少し違う場所で、いつもよく見る顔を見つけて、私は思わず声をあげた。

 

「あれ、先輩だ。こんなところで何してるんです?」

 

 私の声に振り返ったその人は、私の顔を見た途端に盛大に顔をしかめて、

 

「……映画館で映画観る以外になにがあんだよ」

「ここ、映画館以外も色々ありますけど」

 

 とんでもなく冷たいマジレスに、私も反射的にマジレスしてしまった。

 いま私たちがいるここ『グランプラザ愛川』はいわゆる大型ショッピングモールで、定番の洋服店や飲食店、食料品売場に映画館、ボウリング場にカラオケ、スーパー銭湯やスポーツジムまで詰め込んだ、夢のウハウハ娯楽施設なのである。

 そういうわけなので、いま私たちいるフロアが映画館だったとしても、別に映画観る以外の人もここを通るよね、というのが私の見解です。

 

 っていうか、うっかり流しかかったけど、人の顔見て顔をしかめるって普通に失礼なのでは!?

 

「えっと、ともかく先輩こんにちは。愛想良くしろとは言いませんが、声かけただけでその表情は普通に傷つきます」

「……悪かった。疲れてんだ、許せ」

「はあ。まあ確かに、長編映画とか観ると疲れますよね」

 

 私がそう言うと、何故か先輩の眉間の皺が濃くなった。

 え、なんで? 私おかしなこと言ってないよね。

 

「改めて先輩。こんなところで何してんです?」

「ツレと映画観にきてんだよ」

「え、先輩友達いたんですか!?」

「ぶっとばすぞ」

「わー、嘘です嘘です冗談ですー! 先輩のご友人なら、ちゃんと見たことありますって!」

 

 軽口に返ってきた低めのトーンに、思わず慌てて弁明する。

 そんな怖い声出さなくたって、先輩に友達がいることくらい知ってますよう。なんだったら喋ったこともありますしー。っていうか、疲れてるからか、なんか先輩の感情にいつもより余裕がないような?

 

「冗談は置いといて、何観にきたんですか? 最近話題のカーチェイスものですか? それとも心温まる犬ものですか?」

「……サメ」

「サメ? パニック系です? そんなの今やってましたっけ?」

「……アレだな」

 

 心底嫌そうな顔で先輩が指をさす。先輩の人差し指の先には、いま上映してる映画のポスターがいくつか貼られていた。

 えっと……、あの中でサメっぽいのっていうと。

 

「『劇場版ゴッドシャーク対フロンティアホエール! 世紀の山間決戦。太陽は赤く燃えているかパートⅡ』? え、なにこのB級映画臭……。先輩B級映画マニアなんですか?」

「アレをB級映画としてカウントしたくねえ……」

「やだこの先輩、疲れ切ってる……」

 

 遠い目をする先輩に、こっちも色々察してしまった。

 

「ええと、つまり先輩はもうそのサメもの観ちゃったってことなんですね。そして、だから疲れていると」

「今日ほど『別にどれでもいい』って言った自分をぶん殴りたくなった日はなかったな。なにが悲しくて立て続けにクソ映画観なきゃならんのだ……」

「? サメのやつの前にも、なんかヒドい映画観たんですか?」

「……まあそんなところだ」

 

 はあ、と大きめのため息を吐く先輩。

 なんで楽しく映画観るところで、その映画に苦しめられてるんだろう、この人。

 

「お前も、誰かと映画観に行く時はちゃんと自分の意見を言った方がいい。自分が観たいと思ったクソ映画ならともかく、他人が選んだクソみたいな映画だと退屈さを通り越して悲しさが浮かんでくるからな」

「実感のこもったご忠告どーも。それで、先輩のテンションをどん底に突き落とした映画チョイスをしてくれたご友人は一緒じゃないんですか?」

「下にあるゲーセン。俺は便所行きたかったから、先に行かせた」

「ふんふん、なるほど」

「そういうお前は? 一人で映画か?」

「違いますけど。っていうか、先輩には私が一人映画とか寂しいことする人間に見えてるんですか?」

「…………いや」

「いま間がありましたよ?」

 

 実に遺憾である。

 友達の数はめっちゃ多いとも言えないけど、一緒に映画観てくれる友達くらいいますよーだ。

 

 そんな想いで顔をしかめる私に、先輩は首を振ってため息吐きながら言った。

 

「感性の違いってやつを噛みしめてただけだよ、気にすんな」

「はあ……?」

 

 よくわからない。今、感性の話なんてしてたっけ?

 先輩と話してると、時々こんな風に話が飛んでしまうことがある気がする。

 

「そんで? 一人映画じゃないなら、こんなとこで何してんだ?」

「やだ。セクハラですよ、先輩」

「おいバカやめろ。全然理解出来ん流れだが、そのセリフはシャレにならんだろうが」

「ふふ、そんな焦らなくても。冗談です」

「冗談じゃなきゃ困るわ。最近は何がきっかけでエラい目に遭うかわからんってのに」

「えっと、先輩と同じですね。お手洗いです」

 

 そう言って、私は映画館エリアの外を指さした。

 

「あっちの方でお洋服選んでたんですけど、向こうのトイレ混んでて……。時間も勿体ないし、ちょっと歩けば空いてるかなって」

「まあこういう場所だとそういうことあるよな。特に映画館の便所だと、上映中は空いてるし」

「ええ。すんなり入れたし、こっちのトイレ選んだおかげで先輩にも会えたんで良いことずくめです」

「……お前はまた、無自覚にそういうことを」

「?」

 

 なぜか先輩の眉間の皺が濃くなる。おかしなことは一つも言ってないと思うんだけど、なんなんだろう。

 

「言い回し、もうちょっと気をつけろよ。そういうので勘違いさせることだってあるだろうしな」

「えっと、よくわかんないけど善処しますね?」

「よくわかんねえ時点でアウトだって気付け」

 

 ため息吐かれてしまった。

 先輩の言うことはもっともだと思うんだけど、じゃあせめてどこが問題だったのかくらいは教えてほしいと思う。

 

「先輩って、結構自己完結しちゃうところありますよね。もしかして天然さんですか?」

「無自覚天然やらかし女には何にも言われたくねえな」

「それもしかして私のこと言ってます!?」

 

 まさかのとんでもない返しに声を荒げる私。いやだって、普通に失礼すぎない? 失礼通り越して、もはや無礼だよこれ。

 

「わ、私がいつ無自覚に天然でやらかしたって言うんですか!?」

「いやもうマジで。それ言ってる時点でアウトだってさっき言ったろ」

「異議あり! 先輩はもうちょっとちゃんと説明する義務があると思います!!」

「あー、はいはい。わかったわかった、オマエハテンネンジャネーヨー」

「無礼な上に、あげく誤魔化しルートに入られた!?」

「うるせえなあ……。つーか、いい加減立ってんの疲れたし、話し込むなら座ろうぜ」

 

 心底面倒そうに言って、先輩が映画館ゾーン内の休憩スペースを指さす。いくつかのイスが置かれているそこには、イスの他にテーブルとか余分なものが一切ない。本当に座って休むためだけに存在しているスペース、と言った感じ。

 私の抗議に耳を貸そうとしない先輩の後について、私は大人しく着席した。

 

「あ。柔らかい」

 

 着席早々、無意識の内にそんな声が漏れる。

 ショッピングモール内にはいくつも休憩用のベンチが設置されてるけど、このエリアの休憩スペースに置かれているのはベンチというより、もはや大きめのソファだった。

 少し体重をかけるだけで、いい感じに身体が沈み込むこの感じ……!

 背もたれつき、肘おきつき、クッション性の高そうな見た目もそうだけど、座り心地が完全に高級なソファだ。家具屋さんのソファゾーンで散々いろんなソファを座り倒してきた私が言うんだから間違いない。

 え? こんないい感じのソファに無料で座り続けてても許されるんですか!?

 

「あー……、疲れた」

 

 私が一人ソファの座り心地に感動していると、そういう気配を一切感じさせない気怠さで、先輩が隣に着席してきた。

 ぐっ、ぐっ、と自分で自分の目頭を押さえながら背もたれに寄りかかっている。長時間映画とか見てると目が疲れちゃうだろうし無理もないって感じ。

 

「えっと、お疲れさまです。でも、そんなんでお友達と遊べるんですか?」

「……無理かもしれん。なんか座ったら一気に疲れがきた」

「ええ……? それまずいんじゃ……。

 あ、そうだ。なんだったら少し寝ちゃえばいいんじゃないですか? 目の疲れも含めて、究極的には睡眠で解決ですよ!」

「……お前な」

 

 目頭を押さえていた先輩が、手を離してこちらに振り向く。

 呆れたようなジトリとした視線が、いつもよりもずっと近い。今更ながら、ほんの少し身体を傾けただけで触れてしまう距離にいると理解して、私は思わず先輩から視線を逸らした。

 

「こんな人前で寝れるか。いろいろ問題あるだろうが」

「少しの間なら私が見守ってあげてもいいかなー、なんて」

「なんで上からだ。あとこっちを見ろ。目が泳いでる時点で適当なこと言ってるって丸わかりだからな?」

 

 無理です! あと別に適当なこと言ったつもりはないんです! 本心から見ててあげようとは思ってますけど、いまちょっとこの距離で先輩の顔を見る覚悟が足りてなかったっていうか!

 なんて、当然先輩に言えるハズもなく。私は誤魔化すように「あはは」と乾いた笑いを浮かべるのが精一杯。

 

「ま、まあほら。疲れてるんなら、もうちょっとここで休憩しててもバチあたらないんじゃないですかね」

「そうする。……なんでアイツら、あのクソ映画二時間も観たクセにあんなに元気なんだかな」

 

 ふう、と息を吐いて先輩は再び自分の顔を覆ってしまった。

 私は顔が見られなくなったことに少し安心して、けれど結局身体の距離は変わっていないことに、やっぱり緊張が残ってしまう。

 

 おかしいな。

 こうして先輩と二人きりでいることなんて、もう随分慣れたハズなのに今更緊張なんて。たしかにいつものバイト先での距離よりも近くにいるけれど、こんなたった数センチの差なんて誤差みたいなもんでしょ。だいたい電車とかバスとか乗ったときなんて、もっと近くに知らない人がいることだってあるのに、先輩相手に緊張って……。

 

 

 いや、もしかして。むしろ、先輩相手だから……?

 

 

「おい」

「ひゃい!?」

「?」

 

 自分の世界に入りそうになってた意識が、先輩の呼びかけで一気に浮上する。

 ちょっとビックリしすぎて素っ頓狂な声が出てしまったのが、結構恥ずかしい。

 

「そういえばお前、いま一人なのか?」

 

 相変わらず手で目元を押さえたまま、先輩がそんなことを聞いてくる。

 

「さっき一人映画はしねえって言ってたけど、結局は服買いにきてたわけだし」

「ああ。そうですね、お洋服なら一人でも買いに来ることありますけど」

 

 少しだけ跳ねた鼓動を落ち着かせながら答える。

 買い物に出かける時はいつもだいたい誰かしらと一緒で、一人のときの方が珍しいくらいなんだけど、それはそれ。たしかに遊びメインじゃなくて買い物メインなら一人の場合だってある。

 

 ただ、今日の私は友達と一緒どころか、ちょっと信じられないメンツと一緒なのです!

 

「今日はですね。なんと! アキラさんとユキちゃん先輩と一緒なんですよ!」

 

 私が少し興奮気味に言うと、やや間を空けて先輩が「先輩たちと?」と聞き返してくる。

 

「実はこないだユキちゃん先輩に誘われてですねー。今日は三人でショッピングしてたんです」

「へえ、なんか嬉しそうだな。お前」

「はいっ、嬉しいし楽しいです!」

 

 こう、普段バイト先で話すのも楽しいけれど、休日に仕事抜きでお話したりするのはもっと楽しい。三人でわいわいしながらお店を冷やかすのも楽しいし。二人が着てきた、お出かけようの私服見れて眼福ものだったし。

 

「あ、そういえばですね。待ち合わせしてた時の話なんですけど」

「あ?」

「集合時間より早めに着いたのに、もうユキちゃん先輩が待ってて」

「ああ。まあユキ先輩なら10分前にはいそうだよな」

「15分前にはいたみたいです。……それで二人でアキラさんを待ってたんですけど、そこでですね」

 

 いったん言葉を切る。

 ふと、こんなことを話したら自意識過剰と思われるんじゃないか、とよぎったけど、まあ事実だし。ここまで話しちゃったなら最後まで話そう。私にとっては結構衝撃的なエピソードだったし。

 

「なんと、ナンパされてしまいました」

「……それは、」

 

 先輩が顔を覆っていた手を下ろして私を見る。まだ疲れてるのか眉間の皺は普段の三割増しだ。

 

「いやぁ、ホントビックリしちゃって。マンガの中だけの話じゃないんですね、ナンパって。ユキちゃん先輩スゴいなあ……」

「なんで他人事なんだよ。その場にお前もいたんだろうが」

「いましたし、私にも声かけてきましたけど。ユキちゃん先輩と私が並んでたら、ユキちゃん先輩目当てで私オマケでしょう?」

「……チッ、こいつはまた」

「なんか言いました?」

 

 当たり前の事実確認に、なぜか先輩の眉間の皺が濃くなった。なんか小さく舌打ちまで聞こえた気がする。

 っていうかもの凄い眉間に力入ってるけど、そんなに力入れて痛くならないんだろうか?

 

「別になにも。で? 結局どうしたんだよ?」

「ナンパですか? 私そういうのに遭遇するの初めてで、ホントどうしたらいいかあわあわしちゃったんですけど、ユキちゃん先輩が毅然とした態度で『待ち合わせしてるので、余所に行ってください』ってですね。いやー、格好良かった。先輩にも見せたいくらいでしたよ!」

 

 美人がキリッとした表情と低めの声を出すと、あんなに迫力でるんだなあ。それに比べて私は、えっと、とか、その、とかしか言えてなかった気がする。

 

「つまりナンパはユキ先輩が追い払ったと」

「ああいえ、なんかちょっと食い下がられちゃって。最終的には集合時間ピッタリに到着したアキラさんが……」

 

 

『ナンパー? ごめんねぇ、今日はこの二人アタシのものだからー』

『アタシも? うーん、今日は女の子といちゃつく気分なの。間に入ろうなんて無粋なマネは嫌われちゃうよー?』

『ま、これに懲りずに紳士な感じでナンパに勤しんでくれたまえ! それじゃあバイバイ!』

 

 

「……って、感じであっという間に」

「目に浮かぶわ。さすが、慣れてんな……」

「はい。アキラさん本当に頼りになるなあ、って改めて思いました」

 

 二人で顔を見合わせて苦笑しあう。

 アキラさんはパワフル、っていうのは、多分私たちの職場では共通認識だ。

 

「つうか、そうか。先輩らと一緒にきてるなら、お前こんなとこで油売ってないで、さっさと帰った方がいいんじゃねえの?」

「ちょっと話したら帰るつもりだったんですけどね。先輩が座ろうとか言い出すから」

「俺のせいみたいに言うんじゃねえよ」

「えー、事実じゃないですかー。あれ? そういえば、ゆっくり話したいから座ろうぜ、ってナンパみたいなものなのでは? アキラさんたちのとこ戻ったら、先輩にナンパされてましたって言いますね!」

「死んでもやめろ」

 

 冗談なのにマジトーンで返されてしまった。普通にちょっと怖いからやめてほしい。

 

 さておき、思ったよりも長居しちゃったのは事実なので、そろそろ戻ろうかと思うんだけど。その前に、せっかく先輩に会えたんだし。

 

「ねえ、先輩」

「なんだ?」

「どうです、これ?」

 

 そう言った私はソファから立ち上がると、先輩の目の前でくるりと一回転。ゆったりめのフレアスカートを翻してにっこりと笑ってみせる。

 

「……どうって、なにがだ?」

 

 パチパチと瞬きをして、先輩からはそんな唐変木な返答。

 いや、先輩がそういう人だっていうのはわかってましたけどね? でもわかりやすくわざわざ回ってあげたのに、その意図すらわかってなさそうな返事は正直どうかと思うよ。

 

「なにがだ? じゃなくてですね、女の子が全身のコーデ見せてるんだからなんか感想くらい言うのがスジってものでしょう?」

「わけのわからん話をさも常識のように語るんじゃねえ」

「うわぁ、マジですか。その返事はモテませんよ。先輩……、かわいそう」

「哀れみの目を向けるな、理不尽すぎる」

 

 理不尽かなあ? ここまでの流れはともかく、服の感想を求めてきた女子にその物言いは普通に嫌われちゃうコースだと思うんだけど。

 

「それより先輩、感想ですって。ほらほらどうです? いまさっきアキラさんたちに選んでもらって、私的には結構似合ってるかなー? なんて思っちゃったりしてるんですけど」

「……買った服、その場で着てんのか?」

「ええ、はい。アキラさんもユキちゃん先輩も似合うって言ってくれたので、その場でタグ切ってもらって」

 

 ちなみに元着ていた服は、今はコインロッカーの中だ。荷物が増えるといろいろ大変だから、他に買った服も一緒に預けてある。帰りに忘れずに取りにいかないとな。

 

「……自分も先輩たちも似合ってるって思ってるなら、別に俺の感想とかいらねえだろ」

「またそういうこと言うー。ファッションは見られてナンボなんですよ、先輩。自分で似合うと思っても、やっぱりより多くの人の感想がほしいものなのです」

「服を新調しても、別に他人の意見とかいらんが」

「私は欲しいので! っていうかですね。自分で稼いだお金で初めてやった全身コーデなので、それなりに思い入れがですね……」

「ああ、そういう」

 

 ようやく納得したかのような声をあげる先輩。

 っていうか、ここまで言わないと人のファッションに感想言うの躊躇うとかどんだけなの……。ちょっとこの人、友達付き合いとか上手くいってるのか不安になるんだけど。

 

 なんて、私が若干失礼────でもないか、事実ちょっと不安だし。ともかく私がそんな風に思っていると、一応はなにか感想を言おうとしたのか、先輩がやや真剣に私のことを見つめてくる。

 

 今の私はダボッとしたやや大きめのグレーのシャツに、ゆったりめの黒いフレアスカート。足下は白のスニーカーという、至ってシンプルな構成なんだけど、果たして先輩の目にはどんな風に写るのか。

 

 さっきは自分でも似合ってると思う、なんて言ったけど実はちょっと不安もあったり。

 普段の私ならもっと明るめの色で全身まとめちゃうんだけど、今回はアキラさんたちの勧めもあって、黒とグレーなんてちょっと暗めの色合いだし。普段の仕上がりより大人っぽい感じにはなったとは思うんだけど、それが私に似合うのかっていう。

 

「……俺に女子のファッションはわからんが」

「はい」

「まあいいんじゃねえか」

「真剣に見てた割に投げやり! いまは私だからいいですけど、これ他の女の子なら納得しないやつですからね?」

 

 っていうか、下手したらケンカになる奴。どんな感想飛び出してくるのかと身構えて損した気分。

 まあ、先輩だし仕方ないかな、と思う私はちょっと甘いのかもしれない。

 

「別に投げやりではねえよ」

 

 ところが先輩は私の言葉に、心外そうにそう言って、

 

「そもそもお前なに着ても似合うんだから、俺からすりゃあどれ着てても一緒なんだよ」

「────」

 

 なんて、そんな爆弾発言。

 私はそれに数秒思考を停止させて、でもまあ先輩だしね、と再起動に成功した。

 

 うん、先輩だし。特に深い意味はないと見た。

 っていうかアレだ。人を天然呼ばわりしておいて、自分の方がよっぽどだよ先輩。

 

「またなんか妙な顔してる」

「妙な顔って……、先輩今日マジ礼を失しまくってるのでは?」

 

 天然さんの心ない一言で完全に復帰を果たしたアタクシ。

 ちょっと色々疲れるやりとりだったけど、まあ先輩から感想は引き出せたので良しとすることにした私なのでした。

 

 

 

※※※

 

 

 

「あ、レイナちゃん戻ってきたよ」

「おー、ホントだ。おーい」

 

 先輩と別れてファッションフロアに戻ると、こっちに気付いたアキラさんたちが手を振ってくれた。

 

「すみません、遅くなっちゃって」

「ホントだよー。またナンパにでも引っかかってるんじゃないかと心配したんだからね。もうちょい遅かったら電話してたとこだよ」

「ごめんなさい。ちょっとその、偶然風間先輩をみつけて」

 

 遅くなったことの言い訳を始めると、アキラさんとユキちゃん先輩はお互いに顔を見合わせて、にっこりと笑顔になる。

 

「ああ、それでか」

「え、なにがです?」

「良かったね、レイナちゃん」

「え、え、だからなにが?」

 

 なんだか訳知り顔で言ってくる二人に混乱する私。

 そんな私に二人は温かい視線を送りながら、

 

「いやあ、良いことあったって顔に書いてあるし」

「風間くんとお話できてよかったね」

「え……?」

 

 私、そんな顔してるの……? っていうか、二人の中では私が風間先輩と会話することが良いことって思ってるって思われてるってこと!?

 

「ようし、じゃあ何話してたか根ほり葉ほり聞いちゃおっかなー」

「……下の喫茶店にでも入る?」

「お、さすがユキちゃん。そうだねー、荷物いったん預けて喫茶店で査問委員会だー!」

「あのっ、え、ちょっと待って」

 

 

 

※※※

 

 

 

 桐原と別れてゲーセンエリアにたどり着いた俺は、周囲の騒音に顔をしかめながら友人の姿を探した。

 

「あ、ヒロくんおかえりー」

「おっせぇよ風間! そんなでけえウンコでたのか!?」

 

 どうやらクレーンゲーム(貯金箱)で遊んでいたらしい二人が、俺の姿を確認して声をあげる。

 到着早々あんまりな台詞をぶつけてきやがった大平には無言で手刀を叩き込んで、俺は盛大なため息を吐いた。

 

「なんだよ、普通そう思うだろ!? それを無言の手刀はねーんじゃねーの!?」

「ま、まあまあ。さすがに人前でウンコ発言はどうかと思うし、多少はね」

 

 城島が大平をなだめるが、もうこいつはほっといてもいい気がする。少しはTPOっての考えられんのか。

 

「あれ?」

 

 と、ここで俺の顔を見て城島が首を傾げた。

 

「……なんだ?」

「いや、なんか良いことあったのかなって」

「は?」

「映画観た後は本当に死にそうな顔してたのにさ。今は、なんていうかちょっと元気そうだよ」

「元気そう、ねえ」

 

 到着早々に大平相手に疲れを感じてんだが。

 ただまあ城島の言うこれは、もっと別の要因だろうと思う。確かに俺は、あのクソ映画のせいで死にかけてたし、それは大平相手に疲れるのとはレベルが違う疲れ方だった。

 

 それでもいま、俺が元気そうに見えてるっていうなら、

 

「アイツそれなりに癒し系だったのかもな」




※※※

【桐原】
映画ってみんなで観るものだし、一人で映画とか寂しいと思ってしまう、一人映画なし派。

【風間】
小学生くらいまでは一人映画とかないわー、と思っていたが高校生の今となっては、そんなもんどうでもいいな、と思っている一人映画あり派。ただし結局誰かしらと映画行くので、一人映画デビューはまだ

【アキラさん】
バカ映画や話題の映画はみんなで! 泣ける系とか自分一人の世界に入り込みたい系とかは一人で観たい! な、一人映画あり派。バリバリ一人でも映画観る。

【ユキちゃん先輩】
他人が一人映画してるのは『そういう楽しみ方もあるよね』と受け入れられるのに、自分が一人映画しようとすると『寂しい奴とか友達がいない奴とか思われてたらどうしよう』と思ってしまう、一人映画ありだけど自分でやるにはハードル高い派。なんやかや一人映画デビュー済みではある。
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