先輩と後輩がダベってるだけ   作:ハトスラ

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先輩と体育祭 その2

「お疲れさま。一等賞、おめでとう」

「はい。ありがとうございます!」

 

 いつもは授業を受けている時間。いつもとは違う場所。いつもとは違う声に、私は息を切らしながらそう答えた。

 

「城島先輩も、ご協力ありがとうございました。おかげですんなりゴールできました!」

「うん。役に立ったなら良かったよ」

 

 柔らかい口調でそう返してくれるのは、私の学校の先輩である城島先輩だ。城島先輩とは、お互い共通の知人を介して知り合ったんだけど、知り合って以降、先輩はずっとこんな感じで穏やかで優しい。そういう気性なだけなのかもしれないけれど、私としてはスゴく話しかけやすいから正直助かってる。

 ちなみに私と城島先輩の共通の知人、というのは言わずもがな風間先輩です。私と風間先輩は同じバイト先の同僚、風間先輩と城島先輩は中学時代からの友人なんだそう。なんでこんな人当たりいい人と友達やってて、先輩はあんな無愛想なんだろ?

 

 閑話休題。

 

 そんな人当たりのいい先輩と私は、ついさっきまで競技をやってたトラックから連れだって外に出た。

 今日は愛川東星高校(ウチ)の体育祭で、私たちはその参加者。私たちがトラックを後にする頃には、既に次の走者がスタートを切るところだった。

 

「いやホント、先輩がたまたま近く歩いててくれて良かったです」

 

 全力疾走で乱れた呼吸を整えながら言う。

 

「お題が『実行委員』だったから。先輩みつけた時は内心でガッツポーズでしたよ!」

 

 身振り手振りを加えながら、私はやや興奮気味に語った。

 私が出場した『借り物競走』は、メモに書かれたお題を持ってゴールしなければいけないんだけど、どんなお題が当たるかは本番ギリギリまでわからない。簡単に借りれそうなものなら早くみつけられて再スタートも早いだろうけど、難しいお題を引いちゃうと、仮にそれまで大幅リードしてても一発でひっくり返されちゃう、そんなギャンブル性のある競技だ。

 現に今も、トラックの内側からは『せんせー!! 数学の先生ー!!』『消しゴム!? 体育祭に消しゴム持ってくる奴とかいねえよ!!』『メガネ、メガネが本体の人ー!!』と阿鼻叫喚だ。

 っていうかメガネが本体の人?

 

「借り物競走はそういうとこ運だよねえ。簡単なお題引けたみたいでよかったよ」

 

 そう微笑む城島先輩の肩には『体育祭実行委員』と書かれた腕章。

 実行委員の人たちはこうやって、見れば一目でわかるようにはしていてくれるんだけど、それでも近くにいるかどうかは別だからね。その点、競技場近くで歩いてて、なおかつその人が私の顔見知りだったとか超絶運が良かったとしか言いようがない。

 借り物競走ゾーンまでで遅れていた分をすべてチャラにする怒濤の三人抜きで、私は見事一位フィニッシュを決めることができたのでした。

 

「そういえばお題って実行委員さんが決めてるんですか?」

「原案は僕ら。検閲が生徒会かな」

「け、けんえつ……?」

「レイナちゃんは知らないかもだけど、去年は悪ノリが過ぎたからね。その対策だと思うよ」

「ああ、風間先輩からなんとなく聞いてます」

 

 なんか去年は人間関係にヒビを入れかねない、答えにくいお題が多かったとかなんとか。それのおかげで盛り上がったとも言ってたけど。

 

「そうそう。さすがにお祭りで険悪になっちゃうのはどうかと思うからねぇ。

 あ、ちなみに。レイナちゃんが引いた『実行委員』は当たりな方。体育祭中は僕らみんな腕章つけててわかりやすいし」

「あ、はい。そうですね。ラッキーでした」

「うん、それに実は『文化祭実行委員』でも『生徒会実行委員』でも『球技大会実行委員』でもオーケーなお題だから」

「へ? ……あ、ああー!! ホントだ、『実行委員』とは書いてるけど()()()なんて一言も書いてない!」

「ふふ、『実行委員』って括りなら各クラス最低6人くらいいるからね。えっと大体40分の6だから、6人に一人の確率かな? 結構簡単に見つかると思うよ」

 

 はあー、盲点だったなあ。確かにそれなら結構簡単な方のお題かも。

 でも、体育祭で実行委員って書いてたら大抵の人は体育祭実行委員を探すと思うんだけど。いや、言い訳とかではなくてね?

 

「それはそうだろうね。僕らも誰が抜け道に気が付くかなーって楽しんでたところがあるから」

「う、微妙にいじわるだ」

「あっははは」

 

 朗らかに笑う城島先輩と一緒に、デカデカと建てられた提示版の前まで移動する。掲示板には『各クラス得点集計』と書かれていて、私はついさっきもらった紙製の造花を『1ーB』の区画にいくつか貼り付けた。

 この造花が競技でもらえる得点扱いなんだそう。私は一着でゴールしたから造花6つ。ちんまりして可愛いそれを、生徒たちがそれぞれ自分のクラス区画に貼り付けていく。

 

「小中の運動会だと、委員会の人とかが勝手に集計してくれてたんですけど、高校ではセルフなんですね」

「集計自体は委員会の仕事だよ。ただ一回一回点数計算するの大変だから、こうやって自分たちで得点貼り付けてもらう方が、あとは数えるだけで済むから楽なんだよね」

「それは確かにそうですね。……でも、これお花もらった人が張り付けにこなかったらどうなるんです?」

「そこはまあ、当然無得点扱いだよね。掲示板に貼ってないし、連帯責任ってことでクラス得点は下がっちゃう」

「……お花むしり取られたら?」

「さすがにそういうことまで考えたくはないなあ……。でもそれは見つかった時点でペナルティだよね、具体的な内容は伏せるけども」

 

 内容を伏せる、ってことは一応そういう事態を想定してペナルティは用意されてるみたい。

 苦笑いした先輩は「でもまあ」と前置きして、

 

「高校生にもなって、そういうセコいマネするのもカッコ悪いよね」

「あ、はい。そうですね」

 

 思ったよりも辛辣な意見。

 ただ、確かにカッコ悪い。それもなんていうかこう、勝っても負けてもただのお祭り的なもので、と考えると余計に。真剣勝負なら不正を働いてもいいのか、と聞かれたら、もちろんそんなことはないんだけど。

 

「とにかく、もう高校生なんだから自覚ある行動を、みたいな?」

「……もう高校生だから」

「あれ? レイナちゃん的には、なにか思うところある感じ?」

「へ? いや、ないですないです! ああでも、確かに自覚みたいなのは薄かったかなー。どういうのが年相応、みたいなのあんまり考えたことなかったですし」

「そっか。……うん、じゃあ高校生になって変わったなーとかそういうのは?」

「高校生になって変わったこと……?」

 

 はて? そう言われると、うーん。思ったより多くない気がする。

 中学生の頃は『高校生は大人』と思ってたんだけど、いざ高校生になってみるとほとんど中学の延長みたいなものだったし。そりゃ授業の内容はグレードアップしたけど、それだって学校通ってれば毎年起こってたことだし。

 授業受けて、友達と遊んで。あれ? もしかして私の生活、中学生の頃となんにも変わってない?

 

「あ、いやいやいや! バイトするようになりました!」

「ああ、それは確かに大きいかもね。自分で働いてお金を稼ぐって」

「はい! おかげで毎月お小遣いに大きな余裕が」

 

 なにせ桁が今までと一つ、或いは二つ違ってしまっている。中学までだったら親に頼まないと買えないようなものを、自分のお金だけで買えちゃうと気付いたときの驚きといったら!

 

「城島先輩はなにかありました? 高校生になって変わったこと」

「僕? 僕はまあ、中学の時とは変わりすぎてて逆にコレ! っていうの思いつかないかな」

「そんなにですか?」

「そんなにですよ。人間関係とか、それこそバイトとかね」

 

 そう言った城島先輩は辺りをおもむろに見渡すと、

 

「強いて言うなら、高校の体育祭ってドームでやるんだ……みたいな?」

 

 僕の変化ではないけどね、と付け足して苦笑する。

 私は「ああ、確かに」と心の中で同意してから、ちょっとした疑問を口にした。

 

「これ、どのくらいお金かかってるんです? ドーム一日貸し切りって、結構なお金動いてそうですけど」

 

 県立愛川ドーム。

 いま私たちが体育祭を行っているまさにその場所で、面積は……ちょっとよく知らない。10000㎡とかそのくらい? 多分、野球中継とかで見るドームなんかよりずっと小さいんだとは思う。

 この辺りに済んでる人なら、多分誰もが一回は目にしたことのある有名施設。駅近。でも普段は誰がどんなことしてるのかわかんない、とにかく普通に生きてる分には縁のなさそうな施設。

 例によって私もここには初めて入ったし、体育祭のお知らせを聞いた時には驚いたものだ。小中のときの運動会は学校の運動場で砂にまみれてやってたから、高校もそうだと思ってたのにまさかね。

 

「それがね、意外と安いみたいだよ。貸し切り一日3万円くらいじゃなかったかな?」

「3万円!? それ私でもレンタルできるやつじゃないですか!?」

「ねー。もしかしたら学校への貸し出しだから割引あるのかもしれないけど、それでも3万円で快適な体育祭できるんだからすごいよね」

「本当ですよ! 冷房も効いてて、紫外線も気にしなくてよくて、運動場にイス運ばなくてよくて、出入り口には自販機あって、下が砂じゃないから汚れにくいし、快適! 最高って感じです!」

「全天候型トラックっていうんだっけ、このゴム質の競技場。確かに運動場より砂の心配はしなくていいね。あとやっぱクーラー効いてるのはいいなあ」

 

 教室からわざわざ運動場にイスを持って行って、クラスの集合場所にした日々が懐かしい。まず運ぶのが面倒だし、運動会終わった後に砂まみれのイスを掃除するのが面倒だし、もっかい教室まで運び直すのが面倒だし、いいことなかった。

 あとこの時期は本当暑いし、熱中症が怖い。日焼けも怖い。突然の雨も勘弁してほしかったし、風が強い日の運動会とか砂が舞うわ、イスは倒れるわ、テント倒れるわで散々だったもん。

 

 それがこのドームならあら不思議。

 屋根付きで天気の心配はないし、強風でもびくともしないし、イスを運び込まなくてもそもそも観客席があるし、中はエアコンついてて快適だし、入り口近くには自動販売機あるし、ホントいいこと尽くめ。

 

「私もともと体育祭は好きだったんですけど、それはそれとして色々大変だったんですよね。その大変なところが全部解決されてる……」

「台風きても体育祭できちゃうのはどうかと思うけどね」

「台風きたら流石に中止では?」

「いやー、四年くらい前にね」

「え」

 

 マジ?

 

「僕の先輩からの又聞きになっちゃうんだけど、強風注意報出てた時にやったらしいよ? 暴風警報なら中止だったらしいけど、注意報じゃね」

「いやそれ普通に危ないのでは?」

「外でやるなら危ないけど、ドームだし。それに注意報の時って、普通の授業は休みにならないじゃない?」

「あー、それは確かに」

 

 暴風警報なら休みだけど、注意報だったときって、外がどんな状態でも登校させられてる気がする。あと大雨洪水警報なんかでは頑なに休みにならないイメージ。休みになるのは、強い風の時だけ。

 

「まあ、ドームでやるのも一長一短ってことで」

「そうですね」

 

 と頷いてはみたものの、個人的にはメリットの方が大きいような気がしてるから、『一長一短』というよりは『三長一短』くらいな感じ。

 

「さて得点も貼ったし、僕はそろそろ次の競技に行くけど」

「次の競技……、って何でしたっけ?」

「玉入れだね。予定だとあと10分くらいで召集かかるから」

 

 そう言われて次競技の待機場所に視線を向けると、たしかにチラホラ生徒達が集まっているのが見えた。

 

 この辺りも、中学までの運動会なんかとは違う感じだなー、ってぼんやり思う。

 今までなら集合時間になったら先生なり、委員会の人なりが競技者を集めて入場。で、競技終わったらその場で待機して一斉退場って感じだったのに、高校だとそういうのがない。集合場所には自分で行って、競技終わったら各々勝手に帰って行く感じ。

 競技中の応援にしたって、今までならクラスの集合場所でずっと見学って感じだったのに、今は結構自由だ。最初の集合以降、別にクラス席に縛られることなく、競技中もみんな自由にその辺を歩き回っている。良くも悪くも大変自由。

 

「そういえばレイナちゃんは、なんの競技出るの?」

「私ですか? 個人競技は借り物競走しか出てないんで、あとクラスリレーで終わりですね。城島先輩は?」

「僕も似たようなものかな。ムカデ競争終わったし、玉入れ終わったらクラスリレーだけ」

「え、全然気付きませんでした!?」

「ん? ああ、ムカデ競争? ごちゃごちゃっとしてるし、出てるの知らなかったら、誰がどこにいるのなんてわかんないよね」

「えっと……、玉入れではちゃんと応援しますね!」

「あははっ、そんな気にしなくてもいいよ。……でも、ありがとうね。僕もレイナちゃんのクラスリレー応援してるよ」

「ありがとうございます!」

 

 柔和な顔つきで大変嬉しいことを言ってくれる城島先輩。応援にはくるな、応援もしない、なんて言ってた風間先輩とは大違いっていうか。いや、ほんと、あの人なんでこんな素直で穏やかな人と友達やってて、いつもあんな辛辣なの?

 

「どうかした?」

「へ? えっと、風間先輩が……」

「ヒロくん?」

「あ、いや、なんでもないです」

「?」

 

 歯切れの悪い私に、城島先輩は首を傾げてくるけど、うん。仕方ない。ちょっと先輩達を比較してました、なんて言えるわけないというか。冷静に考えると、結構かなり失礼だもんね。

 

「ああ、ヒロくんといえばね」

 

 と、ここで城島先輩がそう前置きして、

 

「男子100メートル走とスウェーデンリレー出るみたいだよ」

「あ、はい。知ってます、バイトの時聞いたんで100メートル見てました。スゴかったですねっ」

「ね。なんだかんだ言っても、ちゃんと一着取ってるあたり負けず嫌いだよなあ」

「……先輩、負けず嫌いなんですか?」

「本人は認めたがらないだろうけどね」

 

 はー……、言われてみれば納得のような。意外だったような。中学時代から先輩のことを知ってるだけあって、この人と話してると先輩の知らない情報がどんどん出てくる。

 

「あ、そうそう。スウェーデンリレーも応援してあげてね、後輩から応援してもらったら気合い入ると思うし」

「や、その……、応援はしなくてもいいって言われちゃってて」

「そうなんだ? うーん、まあわからなくはないけど、それでもアレは体育祭の華だしなあ」

「体育祭の華?」

「うん。例年、順位に影響が出る最終競技が男子2年スウェーデンリレーだからね。ポイントも多めだし、それにA組は総合優勝狙ってるって聞いたし」

 

 そういえば、先輩の競技調べてた時にプログラムの随分後ろに書いてあった気がする。確か最後から三番目。一番最後は閉会式で、その一個前が3年の『男女混合障害物玉入れ二人三脚走』とかいう訳の分からない競技だったから、確かに順位変動に影響が出る最後の競技っぽい。

 

「どのクラスもみんなガチ編成だから、普通に見応えあると思うよ」

「そ、そんな割と盛り上がりが確定してそうな競技に、先輩が……!?」

「おかげさまで去年は大変盛り上がったし、多分今年も盛り上がるんじゃない? 去年とか応援の声もスゴかったからさ」

 

 だからね、と城島先輩は優しげに目元を細めて、

 

「だから、そこにレイナちゃんが混ざっても、別にいいんじゃない?」





※基本フィクション。
 ただ体育祭のアレそれのいくつかは体験談含む。






【県立愛川ドーム】
 小ぶりのドーム。全天候型トラックを備える。あと野球もできる。ドームの外にはテニスコートもある。
 普段は企業向けの展示会会場やってたり、少年野球の試合やったり、中学の陸上競技会やったり、近くの大学のテニスサークルにテニスコート貸し出したりしてる。利用する機会がある人はそこそこ利用するけど、桐原には無縁だった。
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