先輩と後輩がダベってるだけ   作:ハトスラ

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先輩と球技大会 その2

「休憩はいりまーす」

「はーい。いってらっしゃーい」

 

 そんな店長の声に見送られてバックヤードに引っ込む。

 ホールからの喧噪を背に、狭い廊下を抜けて休憩室へ。

 ガチャリ、と扉を開くと、退屈そうにスマホを眺めていた先客と目があった。

 

「お疲れさまです」

「おーう、お疲れーい」

 

 短く挨拶すれば、相手は退屈そうな顔を一転。ひらひらと手を振りながら、笑顔でそう返してくる。

 それに「うす」なんて軽く頭を下げてから、休憩室を突っ切ってそのまま外へ。裏口のすぐ側にある自販機に硬貨を投入してコーヒーを購入すると、さっさと休憩室に戻って着席した。

 途端、向かいに座った先輩がにこにことした笑顔で話しかけてくる。

 

「聞いたよー? 体育祭で大活躍だったんだってー?」

「は?」

 

 のっけからまったく身に覚えのない話題に、思わず素が出た。

 

「うちの体育祭はまだ一月先ですけど」

「あれ? じゃあ記憶違いかな。なんか運動にまつわるイベントだった気がするんだけど」

「……球技大会?」

「ああ、そうそれ!」

 

 うちの高校での直近のイベントというなら、と名前を挙げれば相手は嬉しそうに手を叩いた。体育祭と球技大会ではえらく違うように感じるが、目の前の人物的にはそれほど気にならないらしい。まあ、身体を動かすという点では似たようなもんか。

 

「つか、そんな話誰から……」

「え、それ聞いちゃう?」

「いや、想像はつきますけど」

 

 想像がつくというか、消去法で考えれば一発というか。俺の勤め先には、俺と同じ学校の人間は一人しかいないからまあ。特定は容易も容易だった。

 

「レナちゃんが、『風間先輩がスゴかったんですよぉ!』って自慢してたよー?」

「アイツはまた、誤解を招くような言い方を……」

 

 想像していた通りの情報提供者に、思わずため息を吐いた。

 高校の後輩であり、この職場のバイト仲間でもある桐原麗奈(きりはられいな)は、少しばかり話を大げさに伝えるクセがあるような気がする。

 最近だと『冷や奴になにかけますか?案件』だろうか。彼女はこの話題で友人と論争が起きたと言っていたが、さすがに話を盛られていると俺は感じていた。

 

「誤解なの?」

 

 ぱっちりとした大きな目をさらに丸くして、先輩が俺に問いかける。

 桐原が先輩に伝えたことは決して嘘ではないのだろうけど、スゴかったかどうかは別だと思う。

 

「アイツがどう思ってたかは知らないですけど、活躍はしてないです」

「でもメッチャ格好良くシュート決めたんでしょ?」

「そりゃ、点は取ったけども。格好良かったかどうかは……」

 

 微妙なところ。

 っていうか、格好良いって言うなら俺のシュート以前にアシストしたクラスメイトだと思う。華麗なるドリブル四人抜きからの、絶妙なパス。あそこで決められたから良かったものの、シュートを外していたら盛大なバッシングを受けていてもおかしくない絶妙さだった。まあ、たかだか高校の球技大会にそこまでシビアな勝負感は持ち込まれねえだろうけど。

 

「いやぁ、実際に現場を見てないアタシとしては、他人の評価を信じるしかないからなあ」

「アイツの評価は身内贔屓が入ってんじゃねえですか? シュート決めたっつっても、三点中一点だし。残りは勇輝(ゆうき)……、サッカー部が持ってったし」

 

 誰だかわからない先輩連中よりも、多少なりとも接点のある俺の方が目に留まりやすいってだけの話だろう。客観的に見れば、俺なんぞよりも勇輝の方が遙かに格好良かったハズだ。

 ちなみに勇輝っていうのは、前述した『俺に最高のアシストパスをしたクラスメイト』のことだ。サッカー部員だとは知っていたが、ああまで上手いとは知らなかった。俺の中で奴の評価が『明るいバカ』から『サッカー上手い明るいバカ』に格上げされた瞬間である。

 

「ふーん、そうなんだぁ。でもさ、それならそん中でも特に風間くんのシュートが格好良かったってことなんじゃないの?」

「……いや」

「自分のことは自分じゃわかんないしね! ここはレナちゃんが言った『スゴかった!』を信じることにしようよ!」

 

 それはどうだろうか、と言葉を詰まらせる俺を余所に、先輩は明るくそう締めくくった。

 

 俺としては若干言いたいことがないではないものの、別に貶されているでもなし。むしろ褒められているので、口答えするのもはばかられる。

 この先輩に自分の正当な評価を言い聞かせるのも億劫になって、結局は「そっすね」と諦めの言葉を吐いた。

 

「それでさ」

「はい」

「キミが活躍したのはわかったけど、レナちゃんはどうだった?」

「え?」

 

 思いも寄らない質問に、缶コーヒーのプルタブを開ける手が止まる。

 どうだったもなにも、桐原と球技大会の話をしたなら、そこでアイツがどんな活躍したかなんて知ってるだろうに。

 

「桐原からなんか聞いてないんですか?」

「一回戦で負けたー、とは聞いたよ?」

「へえ、負けたんすか」

「え、なにその反応!?」

 

 ガタッ、と先輩が勢いよく椅子から立ち上がる。

 なにやら物凄く驚いた様子だが、何をそこまで驚くようなことがあったのやら。

 

「俺は男子屋外でアイツは女子屋内だから、知らなくて当然でしょうよ」

 

 ついでに言えば学年も違う。早い話、球技大会中に俺と桐原に接点がない。

 一応最終結果としてどこのクラスが優勝したのかは各クラスのホームルームで伝えられるが、それだけだ。途中で散っていったクラスのことなど、直接試合を見ていた人間くらいにしかわかるまい。さして力を入れていない球技大会だけあって、そのあたりが実にゆるい。

 

 が、至極真っ当な台詞を吐き出したにも関わらず、目の前の先輩は俺の返事がお気に召していない様子だ。

 

「なにそれー!」

 

 不満の色を隠しもせずに先輩が口を開いた。

 

「応援とか行きなさいよもー。同じバイト先のよしみでしょー!」

「はあ」

「はあ、じゃないよもー。風間くんはそういうとこ!」

 

 そういうとこって、どういうとこだ。よっぽどそう聞いてやりたかったが、褒められていないことだけは理解できたので、大人しく口を閉ざす。

 興奮している相手に下手なことを言ってさらに刺激してしまうと、もうなにがなんだかわからないくらいに面倒くさいことになるものだ。我ながら小賢しい処世術だとは思うが、16年生きてきた中で得た実感を伴った教訓である。

 

「っていうかね、話を聞くにレナちゃんは風間くんの応援に行ってるんじゃん」

「まあ、来てましたね」

 

 言いながら思い出す。

 

『せんぱーい! がんばってくださーい!!』

 

 なんて、無邪気に両手を振り回す小柄な女子の姿。

 途端に当時感じた頭痛が蘇ってきた気がして、眉間を押さえた。

 

「アイツはホント……、恥ずかしげもなく……」

「んん? なになんか物凄く眉間に皺が寄っちゃってるけど」

「ただの思いだし頭痛です。気にしないでください」

「なにそのオモシロ現象」

 

 面白くはない。個人的にはかなり深刻な話だ。

 

『せんぱーい! 応援にきましたよー!!』

 

 球技大会の試合中、その台詞を初めて聞いたときは「どこのバカップルだ、うるせえぞ」と思ったものだが、ふたを開けてみればその正体は桐原だった。

 少し長めの髪を緩くまとめて、高校指定の体操着姿でぴょこぴょこ跳ね回りながら「せんぱーい」を連呼するその姿は、まあなんていうか目立つ。いつだったか「容姿には少しだけ自信がある」と本人が語ったように、客観的にみて桐原は人目を引くし、二年男子だらけのグラウンドで一年女子が声を張り上げて誰かを応援していたら、当然誰だって注目する。俺だってこれが他人事だったなら桐原のことをガン見していた自信がある。珍獣的な意味で。

 

 だがしかし、生憎と今回の件では俺は当事者の一人らしかった。

 というのも、声を張り上げ続けている桐原が視線を寄越しているのは明らかに俺だったし、そもそもアイツと関係がありそうな男子が俺ぐらいだったし。いや、後者に関しては俺の知らない桐原の交流もあるだろうから一慨には言えねえけど。それでもこっちを見てる、という感覚は自惚れなんかじゃなかったハズだ。

 

 そういう訳で、桐原の存在を認識した瞬間からシカトを決め込んだ俺は、試合が始まってから終わるまで気が気ではなかった。

 もし。もしも桐原が応援にきていたのが俺で(十中八九そうだろうが)、アイツが俺の名前を出したりした日には、クラス中どころか学年中から『どんな関係だ』と問いつめられかねない。そうなった日には説明が面倒くさい上、どうしようもないほど面倒くさい絡まれ方をするのは目に見えているのだ。

 恋愛話を主食にするのは女子だと相場が決まっているが、生憎とうちの男子には拗らせている連中も多いから、これは俺の余計な心配だったとは言えまい。

 

 ちなみに俺の祈り虚しく、桐原の応援先が俺だったことは試合終了直前に露見した。グラウンド上で注目を集めながら「せんぱーい」を連呼する桐原が、「せんぱーい」の頭に「風間」と一声添えた瞬間の絶望感といったら。

 

「いや、うん。マジ頭痛くなってきた」

「過去回想って頭痛を伴うようなものだっけ!?」

 

 さもありなん。

 球技大会から数日が経過したとはいえ、桐原が無自覚に落としていった爆撃は未だに俺の平穏な学校生活を脅かしている。

 当日は「バイト先の後輩」と事実だけを答えたのだが、それだけでは納得できない、もとい俺と桐原の関係を邪推したがる連中が俺の想像以上に多かったのだ。

 幸いだったのは、クラスの連中がろくに桐原の顔を確認していなかったことか。アホな奴らに詰め寄られるのは、今のところ俺一人ですんでいる。

 

「なんか、キミの様子見るだに大変なことでもあった感じ?」

「……大変っつうか、桐原に恥じらいが足りてねえっつうか」

「んー?」

 

 ざっくりと球技大会での出来事を説明する。

 桐原よりは一般的な感性を持ち合わせているのか、詳細に語らずとも、先輩は色々察したらしかった。

 

「まあ、人間なんて人の恋路が気になるもんだしねえ」

「なんもねえって言ってるのに、詰められても困るんスよ。桐原はなんでその辺わかってねえのか……」

 

 子供じゃねえんだから、と続けると先輩は少し考えるような素振りを見せた。

 

「キミが大変みたいなのは察するけどさ」

「はい」

「レナちゃんもその辺わからずに応援したわけではないんじゃない?」

「俺がこうなるってわかってて、わざわざ大声で応援したってことですか?」

 

 それは一体どんな嫌がらせだろうか。

 無自覚でのやらかしなら、天然ってことで『阿呆』の一言で済ませてやれるが、自覚的なやらかしだとこっちも流石に大目にはみれない。

 

 が、先輩は「嫌がらせとかじゃなくてね」と前置きして、

 

「それだけ目立つことしたなら、風間くんがそうなっちゃったように、多分レナちゃんもそうなってるんじゃない? ってこと。女子は男子よりも恋愛でご飯食べてるところあるから、風間くんより状況はヒドいかもねー。

 で、そうなるかも。って予測が立てられないほどレナちゃんはバカじゃないと思うのよ」

「? よくわかんねえんですけど、予測してたなら応援なんかしなけりゃ良かったんじゃ……?」

「ホント、そういうとこだよ」

「…………」

 

 本日二度目のそういうとこだが、やっぱりどういうとこだかさっぱりわからない。わかるのは、目の前の先輩が割と本気目で呆れていることくらいだ。

 

「そういうの全部置いといて、キミのことをちゃんと応援したい。それだけだったんじゃないの?」

「…………」

 

 それはまた、誤解を招くような言い回しというかなんというか。

 一瞬動揺しかけてしまって、しかしすぐに『桐原だしな』と思いとどまる。特になんの感情も持ち合わせてなくても、義理だけでそういうことができる人種だろう、アイツは。

 

 その辺、先輩も同じ認識なのか、特にこちらを茶化そうという雰囲気は見受けられない。それどころか、

 

「ま、レナちゃんだし、ホントのホントになーんにも考えずにキミを応援しちゃった、なんてこともあり得るのが怖いとこだけど」

 

 天然怖い。などとカラカラと笑っている。

 俺としては、この先輩も桐原とどっこいどっこいだと感じていたりもする。天然さが、ではなく、本人たちの性格からくる言いようのない恐ろしさが。

 まあそれは完全に余談だから今は置いておくとして。桐原に対する評価という点では、俺も先輩に概ね同意だ。

 

「とにかくさ」

「はい」

「キミがレナちゃんの応援に行かなかったことは、もうしょうがないことだと思うよ。過ぎちゃったことはどうしようもない」

「はあ」

「でもね、それならそれで、これからの対応ってヤツがあると思うのよ」

「対応? それは、お前のせいで迷惑を被ってるぞっていう被害届的な?」

「んふふー。おもしろくなーい。もし冗談じゃなく本気で言ってるんなら、こっちもマジでぶっ飛ばすからね?」

 

 あ、今マジの寒気がした。

 俺よりも遙かに華奢なクセにこの迫力とは。以前から思ってはいたが、この人は怒らせてはいけない手合いらしい。

 

「頭良い風間くんがわからないわけないでしょ。応援には応援で、誠意には誠意で、好意には好意で返しなさい」

 

 できるよね? と何か圧を感じる笑顔を向けられたところで、本日の先輩の休憩時間が終了した。

 

 

 

※※※

 

 

 

「お先に失礼しまーす!」

 

 制服から着替えると、裏口から店を出た。

 

「お待たせしました」

「こんなもんなら待ったうちに入らねえよ」

 

 先に店を出ていた先輩に駆け足で近づくと、先輩はいつもどおりのぶっきらぼうな返事。

 確かに長い時間待たせたワケではないけれど、それでも私が出てくるまで待っていてくれたのは事実だ。バイト上がりの夜道が怖い私と違って、先輩なら一人でぐいぐい帰れてしまうだろうに、いつもいつも私を送っていってくれる。

 

「じゃ、帰るか」

「はいっ」

 

 ゆっくりと歩き出す。

 日に日に陽は長くなって、今はこの時間でも相当に明るい。このまま季節が巡って夏になれば、きっと家にたどり着くまでずっと明るいままだろう。そうなったら、先輩が私を送って帰ってくれることもなくなるんだろうか。

 

 つらつらとそんなことを考えていた私の前で、不意に先輩が足を止めた。

 どうしたんだろう? と様子を伺うと、先輩はとある建物を指さして一言。

 

「悪い、ちょっと寄り道いいか?」

 

 その彼が指さした先には、見慣れた一軒のコンビニエンスストア。

 断る理由もなかったので頷くと、私は先輩の後に続いてコンビニに足を踏み入れた。

 

「いらっしゃいませー」

 

 気の抜けた店員の声を聞き流しながら店内を見渡す。コンビニに来る度に思うのだけど、ここは本当に雑多な種類の商品が売られていて、私はちょっと目移りしちゃう。

 そんな私とは対照的に、先輩はドリンクコーナーへと一直線。早々に大型冷蔵庫の扉を開けて目当ての商品を掴むと、そのまますぐに買い物カゴの中へと放り込んだ。

 

「迷いないなあ……」

 

 こういうところ、スゴく先輩らしい。なんていうか、カゴの中身が缶コーヒーなことも含めて全くブレない感じ。

 

「おい」

「え? はい、なんです?」

「お前は?」

 

 えーと。お前は、とは? なにか買うものないのかってことかな?

 そう言われても急には思いつかないというか。元々コンビニに寄るつもりはなかったから、買い物の予定もなかったわけで。

 

「うーん、特にこれといって思いつかないですねえ」

 

 正直にそう言うと、なぜか先輩の眉間に皺が寄った。

 元々目つきが良くない先輩だ。そういう表情は迫力がある。

 でもこれは、怒っている、というわけでは多分ない。これは先輩が何か考えている時とか悩んでいる時とかの顔、かな? 最近は先輩の表情変化にも慣れてきたと思ってたけど、これはちょっと自信ない。

 

「じゃあ、同じのでいいか」

「いや、私はコーヒーはあまり……」

 

 缶コーヒーに手を伸ばそうとする先輩に思わず口を挟むと、先輩は缶から手を放して言った。

 

「紅茶は? 飲めるか?」

「あ、はい」

「ん、わかった」

 

 短くそう言って、先輩は紙パックのミルクティーをカゴの中へ。

 そのまま足早にレジの方へ歩き出してゆく。

 

 ……って、待って! 待って!?

 

「ちょ、先輩っ」

「なんだ。他になんかいるのか」

「そうじゃなくて、これ先輩が買う流れなんですか!?」

「そうだけど」

 

 それがなんだ? と、眉をひそめつつも、先輩は買い物カゴをレジへと置いてしまう。

 

「2点で221円になります」

「あのあのっ、私自分の分は出しますよ」

「300円で」

「え、先輩待って」

「79円とレシートになります」

「ああああああああぁ……」

 

 店員さんと先輩の会話に割り込んでみたものの、私の存在を丸っとスルーして彼らの取引は終了してしまった。

 

 あろうことか先輩に奢らせてしまった私の、罪悪感を伴った声すらも無視して、ビニール袋を吊り下げた先輩がコンビニを出ていく。さすがに置いて行かれるわけにもいかないので、私も慌てて先輩の後を追った。

 

「ほれ」

 

 と店を出た直後に、主語やらなにやらが大幅に抜けた言葉とともに、たった今購入したばかりのビニール袋が押しつけられる。

 先輩の右手には缶コーヒーが握られているからして、袋の中身は紅茶で間違いないだろう。

 

「あの、先輩お金」

「いいよ別に」

 

 カチッ、とプルタブを起こす音とともにそう言い切られてしまった。

 

 いやでもちょっと。なんていうか色々待ってほしい。

 ただでさえ先輩には帰り道に送ってもらっているというのに、この上無闇に奢られたりしたら、いたたまれないにもほどがある。つまるところ、私の精神衛生上、非常によくないのだ。

 

「あのですね、先輩」

「んだよ。……のどが渇いてねえってんなら、家まで持ち帰って好きなときに飲めばいいだろ」

「あ、いえ。そうではなく」

 

 それは確かにそうさせてもらうけども。今はそれ以前の話をしたいわけで。

 

「私、奢られる理由がないです」

「またなんか面倒くさいこと言い出したぞ、こいつ」

「ええ!?」

 

 物凄く心外な切り返しかたされたんだけど!?

 

「やったあ、ラッキー。くらいに思っとけばいいだろ。理由付けとか面倒くさい」

「いや普通! 普通の感性ですって! 理由もないのに奢られるの、モヤモヤしますもん」

 

 日々お小遣いとにらめっこしている女子高生の身としては、尚更そう思う。なんだろう。そのあたり、先輩は意外と杜撰なんだろうか?

 

「じゃあ言うけど」

「はい」

「誰にでもは奢らねえし、いつでもも奢らねえけど。でも奢ろうかな、って思った時には奢るよ」

「……さっぱりわからないんですけど」

「お前がピンときてないだけで、俺の中ではお前になんか奢る気になったって、それだけの話だろ」

「えー……、と?」

 

 首を傾げる私を無視して、先輩は手の内にある缶コーヒーをぐいっと呷って言った。

 

「どうでもいい話してねえで、暗くなる前に帰んぞ」

「どうでもよくはないんですけどね」

 

 納得いく説明をもらってないのに、先輩の中ではどうやら説明義務は果たされたらしい。缶コーヒーをもてあそびながら、するっと踵を返してしまう。

 帰宅コースに戻ろう、という意思表示だろう。

 帰宅には大いに賛成だけど、何故急に奢られたのか、もうちょっとわかりやすい説明が欲しかったなあ。

 

 とはいえ、こうなったら最後、先輩は口を割りそうにない。というか、先輩の中ではこの話題は完全に終了ってことなんだろう。

 はあ、と軽くため息を吐きつつ、いつものように先輩の隣に立って歩き出す。

 

「なんつうか」

「はい?」

 

 しばらく道なりに進んでいると、ぽつり、と先輩が何かを呟いた。

 小さい声だったから気のせいかとも思ったけど、見上げた先輩の視線がこっちを見ていたから、きっと聞き違いではないと思う。

 

「どうでもいいと思っててもさ。見られてると思うと、手は抜けねえって思っちまうよな」

「?」

 

 なんの話だろう?

 先輩の視線はこちらを向いてはいたけど、私には要領を得ない話だった。結果、私は首を傾げることしかできない。

 

 一方の先輩は、言うだけ言って満足したのか。その後は説明どころか特に会話らしい会話もないまま、私たちはいつものように帰宅した。

 

 

 

 余談として、ミルクティーはお風呂上がりにおいしくいただきました。





サブタイを「先輩と先輩」にするか迷った。
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