お兄さまが、お兄さまが…。
巨大な力を受け取ろうとした門の大きさが足りず、その中心であるお兄さまがボロボロになったことが知覚できた。
倒れ込んだお兄さまに害虫たちが鈍色の筒を向けて迫ってくる。
お兄さまに似た、別のお兄さまもそこに倒れている。
わたしは必死にお兄さまの所に走った。身体が大きく損傷したお兄さまを治そうとした時、
身体が弾き飛ばされる感覚、それに次いでじんじょうじゃない痛みと熱と寒気がわたしを襲った。
なんで、なんで、どうして?どうして?どうして?
こんなの知らない。わたしにはわからない。どうして?
「其処をどきな嬢ちゃん。ソイツは今からぶっ殺す」
害虫さんがわたしにそんな事を言った。害虫さん何で、そんな事をするの?
恐いよ、痛いよ。こんなのイヤだよ。
わたしはとっさに自分の身体を編み直して、お兄さまを引っ張って走る。
だけど、重たくて早く動けない。そうしている間に、
「あの女、自分の傷を治しやがった。アイツも化け物だっ!! 撃っちまえっ!!」
わたしとお兄さまに向けて筒が向けられて、そこから何か飛んできて、音と共に痛みがやって来て吹き飛ばされる。
でも、お兄さまの手は絶対に放さない。わたしが、わたしがお兄さまを守らないと。
わたしが、わたしが――――
そう強く思った時、わたしの背中には何かが生えていた。
それがわたしを空に押し上げてくれる。これで、お庭の中に逃げられる。
そう思ったのに、音と痛みは空にもやって来た。わたしは落ちた。落ちたのもとっても痛かった。
でも、お庭の近くに落ちたから、お姉さまが障壁を解除してくれたところでお庭の中に逃げられた。
だけど、その障壁が消えた隙を狙って、お姉さまが撃たれた。
なんで、なんで、どうして?
如何して害虫さんはそんなに怖いの?
「…誰か、誰か助けてよっ!!」
そう悲鳴を上げた後、良く解からないけれど、わたしは少し成長していた。
そして多くのお姉さまがそこからいなくなっていた。
お母さまの時と一緒なのかもしれない。お姉さま方はわたしを助ける為に犠牲になったんだ。
自身の
残った僅かなお姉さま方は、ニンゲンと戦い続けている。
そして根を張って、動かぬ樹となったお姉さまが、わたしに言った。
「にげなさい。さようなら、…ありがとう」
わたしは、みんなにごめんなさいごめんなさいをしながらお兄様を抱えて空へと再び飛び立った。
――そして数年が経ってから、ジオ・プラントだけでなく、他のプラントさえ存在しないものの、豊かな自然が存在した土地は、
急速に集まった害虫達により喰い尽くされ、再び荒廃した土地へと変わった事を知った。
「…お姉さま方」
あれから身長はそれなりに伸びてはいるけれど、まだお兄さま達ほどは成長したとは言えない。
それでも少しだけ賢くなった
▽△▽
ニコラス・D・ウルフウッド
所属:宗教系殺人集団ミカエルの眼
▽△▽
「貴方が新しいガンホーかしら? 私はリリー。貴方の持ち主になるの。これからどうぞ宜しくね」
ワイに殺しの
目の前には化け物である事があらゆる語幹から伝わってくるような恐ろしい男。
そして化け物の片割れを後ろから無邪気に抱きしめている彫刻染みた、文字通り人外の美を纏う少女。
確かにこの存在達が身の内に隠す恐ろしい力を知らなければ信仰の対象にされるのも無理はない。
だが、コイツらが信仰されているのはその恐ろしい力の方であるから、全く神サマってのは意地が悪い。
兄ナイブズの方からは圧倒的な生命体としての力の差がひしひしと伝わってくるが、
妹であるリリーの方からは強さによる恐怖は全然感じられない。
文字通り王子様や騎士様に護られるだけのお姫様だと言う事や。
『力』はあるのだろうが、戦う力を一切感じられない。
良くも悪くも女やっちゅう事か。
先ずは隙だらけのお姫様を先の先で殺害の手前まで追い込む。
そして冷静さを失ったもう片方の化け物に、手負いで瀕死の身内という足手纏いがいる状況を押し付け、冷静になるか怒り狂う前に潰す。
何やったらちゃんとした人質にはならんけど、完全に殺してしまって死体をタテに動揺を誘ってもええ。
最大効率の殺しは方はあの男によう躾けられた。身体がしっかりとやり方を覚えとる。傷を付けられる存在やからやれるハズや。
…幸いヴァッシュ・ザ・スタンピードの情報で、化け物でも傷は付けられる存在やって事はようわかっとる。
正直ワイやってこんな胸糞悪いことしたかない。
やが、ワイがやらんとふとした拍子に人類が滅びる。自覚の有る無しに物凄い力を持った化け物達が闊歩しとるのは不用意に爆弾転がしとんと同じや。
その為にワイが少し嫌な思いをするだけなら大したことやない。
それに嫌なことやったらもうさんざんやって来た。
直ぐに胸糞悪い手段を想定した上で、それを実行できる程度にはワイも立派な人でなしや。
そやからこそ、これ以上未来に昏い種を残さん為にも此処でワイがやってやる。
そう決意を固め直して銃を引き抜いて殺意を乗せてお姫様に向けた途端、お姫様はその瞳に如実に恐怖を浮かべた。
瞳だけやない。見れば全身を振るわせておどれの兄に抱きついている。
…ほんま化け物のクセにそんな普通の少女みたいな反応をされても困るわ。
――――――優しかった
多分、この一瞬の躊躇で死んだと思った。この一瞬で兄の方が殺しに来ると思っていた。
だが、お姫様の行動で命拾いした。助けられた。
ワイの銃から兄を護る様にお姫様の背中から純白の翼が生え出てきてナイブズを包み込んだ。
ナイブズはその中に包まれていて今は妹の羽根をどかすか傷つけるかしない限りはワイには攻撃できない。
お姫様は怯えを残したまま聞いてきた。
「貴方は
気が付けばお姫様が包んでいる中以外の場所からもワイに向けられた殺気を感じていた。
こうなってはもうお手上げや。
「後者でありたいけど、もう殺されてしまうからどっちでもエエわ」
「解ったわ。それでは貴方は私の物ね。大丈夫。誰にも壊させたりはさせないわ」
やからせめて一発だけでも報いて――――なんやて? ワイを助けるやと?
「リリー、今このニンゲンは確実にお前を殺そうとしていた」
この場の本来の最高決定者がお姫様の翼の中から告げる。
正しい判断や。ワイが逆の立場でもそう言うに決まっとる。
「お兄さま。ガンホーは私の物でしょう。お兄さまがくれた物でも私の物。
だからお兄さまでも壊して欲しくないわ。お兄さまが私にくれた大切なプレゼントの一つですもの」
人間には到底出せそうにない純度の笑顔でお姫様はそう言い放った。
…恐いなあ。本当に恐い。
戦闘力が無くても決定権があるのはこの子や。王が剣を振るう必要はない。極端な話、兵士より弱くてええ。
振るえと一言言うだけで騎士たちが後は勝手にやってくれる。この場で誰よりも戦う力が無いこのお姫様が一番の化け物や。
――カンニンなみんな。千載一遇の大チャンスを逃してもうたわ。ほんま、カンニンやわ。