「ええ、凄く可愛いわ。リリー様」
両端の髪を広めに束ねて、その上からもみあげの一部を細く編み込んで横から軽く押さえつける様に後ろに回した、
現在の私のヘアセットをしているガンホーのドミニク・ザ・サイクロプス。
ガンホーの紅一点である彼女はお兄さまにと言うよりかは私とレガートとに忠誠を誓っているように見えます。
ただし、彼女の忠誠は鼻から出る。忠誠心は時として目に見える形に発露するのだと彼女は言っていた。
流石に鼻から流れ出る見た目が汚いから、彼女の紅い忠誠心が私に付着しないようにはして貰っている。
所謂ごしっくろりーたと呼ばれる服装を用意してきた彼女に着せ替え人形の様に衣服を変えられた私は、ドミニクが用意してきた鏡を見せられた。
…だいぶ印象が変わったと思う。
――まあ、悪くはないのではないでしょうか?
お兄さまにも見せに行きませんと。
ええ、思い立ったが吉日です。きっとこの時間であればお昼寝も終わっている頃でしょう。
そう考えた私の足取りは軽かった。
きっとこの姿だってお兄さまは褒めて下さるはず。万が一印象が悪かったらドミニクには鏡に向かって自分に異能をかけさせましょうか?
…冗談です。彼女も出会った頃から変わってしまい、今では少々面倒ですが
さて、お披露目の時間です。
「お兄さま、リリーです。入りますね」
淑女の嗜みとしてしっかりノックをしてからお兄さまのお部屋に入ります。
ついさっき起きたばかりであろうお兄さまの前でクルッと回って華麗にポーズ。どうでしょうか? ばっちり決まりましたか? お兄さま。
「……その姿は」
「ドミニクがやってくれましたっ」
思わず両こぶしを軽く握りしめながら答える私では、まだまだ淑女には遠いかもしれませんが、
お兄さまは寛大なので咎める事はありません。
ですが、お兄さまもお鼻を抑えられていました。僅かに忠誠心が見え隠れします。
逆はあったとしても、お兄さまが私に忠誠心を示す必要など無いのですが、お兄さまはやはり優しいお方です。
愛に溢れていると思います。ラブ&ピースというものでしょう。
ナイブズお兄さまはやっぱり素敵です。
お兄さまと、お姉さま達と
ガンホーは私の物になってから、まだ欠員はいません。それほどまでに彼らは頼りになります。
とは言え、あの恐ろしい
夜に寝ようとすると時折夢に出てくる時があります。
そんな時はお恥ずかしながらお兄さまと一緒に寝る事にします。
賢くてお強い完璧なお兄さまの近くでなら、私は絶対の安堵を手に入れる事が出来るからです。
ですが、お兄さまも何時だって私の傍に居る訳ではありません。
その時の為のガンホー達ですが、彼らが強い事は理解していても、私の不安を埋められる存在ではありません。
そんな時は私は何時もの様に
かつては一人でいるばかりの時を過ごしましたので、読書はとても得意である事と自負しております。
ひたすらに、ただひたすらに、草木が水を吸うように知識を吸い上げていく作業は慣れ親しんだ暇つぶしです。
情報端末に映し出される情報を端から端まで検索していきます。ですが――――、
『ERROR』『ERROR』『ERROR』
その中に幾つか閲覧が出来ないものが在りました。
これらについては何時か読んでみたい事です。何と言ってもわたしとお兄さまとお姉さま達に関わる事ですから。
お兄さまやコンラッドに聞けばもしかすればプロテクトを解除できるのかも知れませんが、
読めない本や解らない言葉を調べていくのも読書の醍醐味です。折角なので一人でやってみようと思います。
そうやって暫く読書を続けていると、後ろから肩を叩かれました。
「リリー様、あまり夜更かしするのはお肌に良くないわ」
…そうですね、エレンディラの言う通りです。
それにしても後ろから足音も無く接近されるのは少々驚きました。エレンディラはわざとやっているのでしょう。
恐らく私が少しだけ驚いてしまったのも気が付かれている事でしょうけれど。
「ありがとうエレンディラ」
ですが、今日はお兄さまもいないので眠れそうにありません。
そんな私の不安が伝わったのかはわかりませんが、エレンディラはミッドバレイを連れてきました。
恐らくミッドバレイはガンホーの中で一番オシャレな雄性のニンゲンです。
エレンディラが用意してくれたテーブルに腰かけると、飲み物まで彼…もとい彼女は用意してくれました。
「ナイブズ様にはナイショね?」
グラスの中に入った液体はミルクとチョコレートと…アルコール?
これはお酒と言うものではないでしょうか? 成長がニンゲンより早くて丈夫だとは言え、私の実年齢は人間でいうところの未成年です。
これは、いわゆるイケナイ火遊びと言うものなのでしょうか?
少しだけ興味がそそられます。
まあ、エレンディラも口が堅いでしょうからと、私はその誘惑に乗りました。
喉を通って胃を少しだけ熱くさせる液体。それを飲みほした後グラスをテーブルに置くと演奏が始まりました。
音界の覇者の異名を欲しいがままにするミッドバレイはガンホーの余興隊長です。
ジャズミュージックと言うのでしょうか?
動植物に音楽を聞かせる事による成長促進効果についての記述が先程の読書の中に含まれていましたが、
私にも何となく解るような気がします。
音に身を任せていると、エレンディラがおかわりを用意してくれました。
アンズの核とアニスとジンジャーのカクテルでした。名前はよく解かりません。もしかしたら彼女のオリジナルかもしれませんね。
この味は先程の様なお子様向けの味ではありませんでした。私個人としては先程のお酒の方が好みでしたが、
淑女的には此方の方が大人びたお酒の様な気がします。
ですので、2つ目のお酒をエレンディラにお代わりしたのですが、その時に彼女には少しだけ笑われてしまいました。
恐らく子ども扱いされているのかもしれませんね。仕方のない事ですが、少しだけ思う所が無い訳ではありません。
私が4杯目を飲み干した時、ミッドバレイの演奏がひとまず終わりました。
私はグラスを置いて拍手をした後、耐えきれなくなり睡魔に身を任せました。
次の日、私の口元からの匂いで気が付いたお兄さまに、お酒を奨めたエレンディラが怒られていました。
少しスッキリしました。