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ビル・コンラッド
所属:元プロジェクトSEEDS研究員
現ナイブズ配下プラント研究者
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コンラッド、それにしても迂闊では無いかしら。
そんな風に彼女は語り始めた。
「プラントの融合の関係と、黒髪化の周辺にだけロックや情報改変の跡が見られるだなんて、
黒髪化は融合であれば何とか出来ますと言う様なものじゃない?
ねえ、貴方は一体どういう意図でこんな工作をしたのかしら?
余りにも解り易過ぎたし、プロテクトも簡単に溶けてしまったわ。
もしかしてお兄さまのピンチを救う手段を敢えて私に発見させたかったのかしら?
無知で愚蒙な私には言葉にして教えて頂かなければ理解できないの」
馬鹿な、あのプロテクトが容易だと?
冗談だろう。私の知る限り最上級のセキュリティをかけた上に、無理に解読したら中のデータが二度と覗けなくなる代物だぞ。
ナイブズの様に人類に憎しみを持つのではなく、ひたすらに恐れているだけ。
斜に構えた皮肉屋な気質では無く、ただ純粋な好奇心で知識を得ようとしているだけの彼女だが、
今の私にはその無垢さが最も恐ろしい。
私が適当に誤魔化せば一先ずはそれを信じるだろう。だが、すぐにその矛盾点を純真な瞳で聞いてくるだろう。
それに、私の予想が正しければ、彼女の存在がある時点でもはや黒髪化のプロテクトには何の意味も無いのだろうと思う。
ある意味ナイブズよりも人類に致命的な存在だ。
ナイブズの兄弟である彼にもリリーを倒す正当なお題目は存在しない。
何より純粋な被害者である彼女には非が全く無い。彼女から何かを奪う事など赦されない様にさえ感じてしまう。
ナイブズも守る者が出来て丸くなったが、逆に己の繊細さが弱まり、精神的に強固になった。
己の為でなく、他の誰かの為に命を賭けられるようになったナイブズは以前よりも遥かに恐ろしい。
意図的に黒髪化を進めさせた私さえ、妹が私の知識を越えて、私の存在が不要になる時までは生かすと通告してきた。
逆に言えばタイムリミットはそんなに遠くないのだが、それまではやれることをしなければ。
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レガート・ブルーサマーズ
所属:ナイブズ配下
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「コンラッド、それにしても迂闊では無いかしら。
プラントの融合の関係と、黒髪化の周辺にだけロックや情報改変の跡が見られるだなんて、
黒髪化は融合であれば何とか出来ますと言う様なものじゃない?
ねえ、貴方は一体どういう意図でこんな工作をしたのかしら?」
扉越しに中の会話を聞いていると、リリー様がその様にコンラッドに話し始めた。
僕であれば、返答次第でどうこうするつもりは無い。
何故なら答えの解っている場合には
あの方への背信など絶殺されて当然だ。
疑う事が得意では無いリリー様だからこそ疑問の段階で終わっているが、この事を僕が最初に突き止めていたらコンラッドを生かしてはいないだろう。
結局コンラッドは誤魔化しの屁理屈を並べた様で、リリー様の疑問を打ち切った。
万が一リリー様に危害を加えようとしていたら殺していたが、そうでない以上僕が手を下すわけにはいかない。
ナイブズ様の消耗を仕組んだことが発覚して尚、ナイブズ様はあの男を生かす事にしたのだから。
だが、それにしてもリリー様は賢くなられた。
悪意のある嘘や誤魔化しには未だに対処できていないかも知れないが、もしそれらに対する対処が出来る様になれば、
彼女に議論で敵う者はこの星にはいなくなるのかも知れない。それほどまでにリリー様の知識の吸収速度は素晴らしい。
そして何よりリリー様はお優しいのだ。
僕にとってリリー様と言う存在は、当初あの方の妹である事以外何の意味も無かった。
僕達人類との隔絶した何かを持つような存在でも無く、強固で鋭い意思と力を持つわけでも無さそうだった。
ただあのお方の妹である、それ以外の価値を感じなかった。
だが、最初に僕にとってそれ以外のものになった瞬間は思いの外早かった。
リリー様に無礼を働いたが故にナイブズ様から叱責を受けた僕を、在り得ない速度で完治させて見せた。
リリー様もナイブズ様が人類を憎んでいるのと同様に、人類を恐れている。
だが、己達を木々、人類を虫として扱うリリー様にとっては虫には害虫だけでなく、益虫もいるという事で、
木々を護る為に害虫を喰らう益虫は残したいという方針であった。
とはいえ、この星から害虫がいなくなってしまえば、益虫とはいえ不要になった虫の末路はどうなるかは判らない。
リリー様にとってGUNG-HO-GUNSはナイブズ様からの大切な宝物と言う扱いだから生き延びられるのかも知れない。
現にリリー様に銃を向けたというチャペルがリリー様自身の温情により生かされている。
正直に言ってしまえばGUNG-HO-GUNSの面々が少し羨ましいと思わなくも無い。
だが、リリー様は僕の事もナイブズ様の持ち物だとして親切に扱ってくださる。
「貴方はお兄さまにとって大切な存在だから、貴方も貴方を大切にしてね」
急激に大人びて成長していくリリー様は僕にそう言った。
やはり、人の感情の裏を読む事には長けていない御様子だ。
あのお方にとって、僕は用事が済むまでの間だけ生かされているゴミに過ぎないし、
僕にとって僕ほどこの世に不要な存在がいるとも思えない。僕が生きる価値があるのはあのお方にお仕えするという一点のみだ。
だが、どうしてだろう。
彼女が僕を抱きしめながらそう言ってくれた時、不覚にも少しだけ泣きそうになった。
きっと僕が僕自身の存在を認められなくても、彼女は僕の存在そのものを肯定してくれるのだろう。
それがあのお方が僕を切り捨てるまでの間だとしても。
隔絶した戦闘力も無く、超常的な存在感も無い。
真実を見透かす究極者の
元より彼女は土壌や地質などの環境を創り替える事に特化したジオ・プラントだ。
戦いに向いてないのは当たり前なのかもしれない。戦闘ではGUNG-HO-GUNS最弱の者よりも劣るだろう。
本気を出せる様になれば判らないが、僕には戦闘に本気になる彼女の姿は想像できない。
本気で殺す事を決意する事が出来ればやはりあのお方の妹なのだからだとも思うが、その上でも勝利する姿の前に戦う姿がイメージできない。
だが、何故だろう。
彼女はこの王国のお姫様なのだ。誰もが守護すべき至高の存在。そういう立ち位置にある。
少なくともナイブズ様はそう認識されているだろう。
だと言うのに、それだと言うのに、彼女に信頼されながら、剰え彼女の持ち物であるGUNG-HO-GUNSにさえ、
彼女を裏切ろうと考える輩が存在するであろうこの状況が僕には絶対的に許せない。
孰れは僕も不要と断じられ、消されるのかも知れない。
だけど、今は早くコンラッドの役目が用済みになって、処分しても構わない状況になる事が待ちどおしくてかなわない。