青空よりアイドルへ   作:桐型枠

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10:これが俺の遊び心だ

 

 

「それでは本日のぴにゃこら太普及委員会を始めます」

「ちょっと待ってください」

「はい氷菓ちゃん」

「ボクこの会合に参加した覚え無いんですけど」

「えっ?」

「えっ」

 

 

 ――その日、レッスンを終えて帰宅したボクを待っていたのは、ぴにゃこら太普及委員会なる謎組織の看板を掲げてボクの部屋に押しかけて来た穂乃香さんだった。

 言っている意味がよく分からない。いや分かるけど、わからないわ。

 あと何故よりによってボクの部屋なのか。そこでやるとしたら穂乃香さんの部屋じゃないのか。

 

 

「それは勿論、今日から始めたので当然だと思いますよ」

「今日からですか」

「同好の士が今までいなかったので……」

 

 

 いなかったのか。いや周囲の反応を見るにそうなっておかしくないけど。

 

 

「あとボク、レッスン直後なんですけど……」

「? 何か問題が?」

 

 

 あっダメだ穂乃香さん体力ある人だ。

 ボクは死ぬほど疲れてるから寝かせてほしいんだけど、その辺がいまいちよく分かられてない系の反応だコレ。

 いやボクの体力なんて分からなくて当然だけど。

 

 

「それであの、普及委員会って何なんです……?」

「私が思うに、皆さんどうもぴにゃこら太に対してあまり興味を持っていないようで」

「まあ、そうですね」

 

 

 その辺りは見てたらまあ、分かる。

 嫌いとかじゃなくて、他に見るものがあるというような感じというか。

 でも、好きの反対は無関心だとも言う。興味が無いっていうのもまた微妙な話だ。

 

 

「この前、遊園地に行った時にはフリルドスクエアのみんなでぴにゃこら太の帽子でお揃いにしてみたりしたんですけど」

「はあ」

「その時はみんな、私に気を遣ってやってくれてるようで……ですがやっぱり、気を遣われてのことじゃなくって、ちゃんとみんなにぴにゃこら太のことを好きになってほしいんです」

「なるほど、自分の好きなものだからこそ他の人にも好きになってもらいたいと」

 

 

 イイハナシダナー。

 なるほど、自分だけじゃなくて友達も一緒に楽しむためにも、好きになってほしいと。ボクがそういう立場にいたなら嬉しくて涙が出そうになる。

 

 それはそれとして、何でそれがフリルドスクエア以外に伝播してるのか、これがわからない。

 

 

「……ぐ、具体的な方法は?」

「例えば、忍ちゃんのお部屋のぬいぐるみゾーンにこっそり一匹忍ばせたり……」

 

 

 テロでは?

 

 

「もうちょっと穏便な方法にしませんか」

「穏便ですよ?」

「いえそういうわけじゃなく。まず地道に良さを説いていくことから始めた方がいいと思います」

「だけど、今まで言ってもあまり効果が……」

「部屋の中に自分の知らないものがあるって怖いと思います」

「た、確かにあずきちゃんも『返却大作戦っ!』って言って返しに来た時に、同時に『怖いよっ!?』とも言っていたような気が……」

「もうやってたんですか」

「はい……」

 

 

 ……いや……その……もっとこう……あるだろう!?

 何で極端な方向にふれちゃってるんですかあなたは!?

 

 

「穏便に行きましょう」

「穏便にですね」

「何事に関しても大事なのは草の根活動だと思うんです。バーッと一気に駆け上がっていくのもアリですけど、もうぴにゃこら太は地上波に出てますし……やっぱり、良さを説いていく方向が一番いいかと……」

「なるほど……確かにその考えも一理あります」

 

 

 フッホホホ一理と来たか。百理くらい欲しいんだけど無理か。ホハハハハ。

 

 

「あまり急ぎすぎて、プッシュしすぎるとそれはそれで逆に嫌われちゃうかもしれませんし」

「それは……イヤですね」

「ですよね。なので緩やかに行きましょう。少しずつ行けばきっと流行ります」

 

 

 流石に流行らないし流行らせないなんて言い出す人はいないと思うけど。

 いないかな。

 いるかもしれん。

 

 あとこの手の話は基本ボクの気のせいってことが多いんだけど、ファータ・グランデ(あっち)にいる原生生物にぴにゃこら太が似ている気がする。

 ……まあ、何かの思い違いだろう。たぶん。

 

 

 

 @ ――― @

 

 

 

 そんなこんなで、始業式が目前に迫ってきたある日の朝。ボクたち三人と芳乃さんたち三人の2ユニットは、プロジェクトルーム横のオフィスに呼び出されていた。

 呼び出された理由は……なんとなく分かるような、分からないような。想像が当たっていなかったらいなかったで自意識過剰な感じがするから、断言はしないでおく。

 

 ……呼び出されていたんだけど、かれこれ30分。プロデューサーが指定した時間は20分ほど前なんだけど、あの人はまだ来ていない。

 

 

「ふわぁ……」

「うにゅ~」

 

 

 もうこずえちゃんはおねむになっているし、志希さんは今にも疾走を始めそうだ。いや違う。失踪だ。別にStart upしてReadyしてTime outはしない。

 芳乃さんがいるからその気になればすぐ見つかりはするだろうけど……。

 

 

「根津さん……遅い……ね……」

「うん……」

 

 

 おかしい。これは何かがおかしいぞ。

 346のプロデューサーは大変に優秀で、本来は連絡から五分以内にはアイドルのもとへ駆けつけていると言われている。

 何かがあったに……違いない……!

 

 ……まあ多分仕事だろうけど。

 

 

「許容するのもー、人としての度量でしてー」

「とは言っても……やっぱり遅刻は良くないよ」

「それもまた一つの真理でしてー」

 

 

 芳乃さんは相変わらず無敵だ。何をしたらこの人が怒ったりするのか、正直ボクには皆目見当もつかない。

 

 と、待ちぼうけている中、ふと、晶葉が何か作業している手を止めた。

 

 

「よし、できたぞ」

「んん~なになに? 何か作ってたの?」

「うむ、助手の身体に痺れを起こすスイッチだ」

「ナンデ!?」

 

 

 暇を持て余したからって何でそんな超技術なブツ作ってんの!?

 

 

「というか材料どこから持って来たんだよ!?」

「実は常々この白衣に部品やらなにやらを仕込んでてな」

「……え、ええぇ……」

 

 

 道理でなんだか重そうだったわけだ。何かあるとは思ってたけど、いつでもどこでも何か作れるようにとは。作らなくてもいいと思うけど。

 しかし、もしかしてこのおかげで体力がついてたりするんじゃないだろうな。

 

 

「な……何でそんなものを……?」

「5分前集合と言った張本人が遅刻してきているのだから当然の報いだと言っておこう。年少者への示しもつかないしな。さてぽちっとな」

「…………」

「…………」

 

 

 ……何も起こらない。

 いや当然だけどね。この場にプロデューサーいないし。お仕置き用に作られたものなんだから、これでいいんだけど。

 

 

「あきはー。これ、おしていいー……?」

「ああいいぞ、どんどん押せ……」

「わーい……」

 

 

 なかなかにヒドいことを平然と言ってのける晶葉に、それに乗ってポチポチポチポチスイッチを押し続けるこずえちゃん。

 今頃プロデューサーはどうなっているのだろう。電気信号を飛ばして単に痺れさせるだけのスイッチではあると思うんだけど。

 

 

「これ連打してもいいものなの?」

「うーむ、まあ死にはしないだろう」

 

 

 その段階の話!?

 

 

「せいぜい長時間正座した後の痺れが全身に回るくらいだろう」

「マジでヤバいやつじゃないか」

『はぁぁぁぁぁぁぁん!?』

「あっ」

「あ……」

 

 

 などと思っていると、部屋の外から大の大人が出していいようなものじゃない悲鳴が聞こえてきた。

 見に行ってみると、プロデューサーが倒れ込んでうずくまっている。

 おおぷろでゅーさーよ しんでしまうとは なさけない。

 

 

「これセーフなやつ?」

「(社会的に)アウトなやつかもしれん」

「……まいっか」

 

 

 まあ、プロデューサーだし、十分もしないうちに復活するだろう。

 

 ――そして大方の予想通り、プロデューサーは数分で元の調子を取り戻した。

 

 

「い、いくらなんでもあんまりだ……あぁんまりだぁぁ……」

「遅刻してきたのが悪い」

「5分や10分くらいならまだしもね~」

「うむ、社会人なら時間はキッチリ守らなければな」

 

 

 ボロクソな言われようである。しかし事実には違いないんだから甘んじて受け入れてもらおう。

 やがて大きな溜息をついて、プロデューサーは改めてこちらの方に向き直った。

 

 

「遅刻の理由を申しませー?」

「ああ、うん、そのことなんだけど、みんなのデビューライブまでの日程を調整してたんだ」

「ライブまでの……日程……ですか?」

「ああ。その日はライブだけじゃなくって、CDも同時発売の予定だからね。レコーディングやデビューシングルのCM撮影も必要だし、宣伝もしてもらわないといけないし……」

「なんだかややこしいねぇ」

「ややこしいんだ、こういう部分はね。というわけで許してくれるだろうか許してくれるね?」

「絶対に許さない。絶対にだ」

「ハハハ、私たち相手ならともかくその手の言い訳がクライアントや上司に通じると思うのか?」

「ちくしょう」

 

 

 まあ、上司でもクライアントでもないボクたちだからギリギリ許さないこともないけども。

 いや晶葉は割とキレてそうだな。

 

 ……まあ、それはそれとして置いといて。

 

 

「で、どういう風に決まったわけ?」

「そ、そうだな! ええと、まず十日後に社内スタジオでレコーディング。それから日程を調整してMV(ミュージックビデオ)を撮影することになる。系列局で流してもらうCMはこのMVの映像から出す予定だから、真剣に臨んでほしい」

「……なんだか……いきなり、大袈裟にも……」

「最初の宣伝だからね、大袈裟なくらいじゃないと」

 

 

 ボクも聖ちゃんに少し同意するけど、やっぱりそこは商業的に見て「やって当然」くらいのものなんだろう。

 と、そこでふと、プロデューサーがボクの方を見た。

 

 

「で……広報に言って宣伝をしてもらわなきゃいけないんだけど」

「分かってるよ。ボクたちのユニット名の話だよね」

「ああ。うちの会社だけの問題じゃないからね、早めに決めてほしい」

 

 

 広告代理店なんかの問題もあるしなぁ。確かに、早く決めておかないと問題があるのだろう。

 

 

「助手、作詞作曲のために提示した資料に仮の名前なんかは書いていないのか?」

「すまない、そこはユニットEって書いてる」

 

 

 6つユニットがあるからそれぞれにA~Fのアルファベットを振って、その内の五番目に決まったユニットだからユニットEね。わかりやすいけど無機質だな。まあ仮の名前なんてそんなもんだけど。

 

 

「はーい、じゃあEから始まる単語ー」

 

 

 思っていると、志希さんが手を挙げてボクらに問題を提示してきた。Eから始まる単語……ああ、成程。そういう意図か。

 

 

「エサクタ!」

「エレキテル」

「エリクシール」

「なんか最後のがティンと来たからエリクシールでどうかな~?」

「ちょっと待てよ!?」

「何です?」

「そんな雑に決めてしまってもいいのか!? もうちょっと真剣に悩んだ方がいいんじゃないか!?」

「もう悩むところは散々通り過ぎたんだよ」

「あとはもう閃きに身を任せるしか無かったのだよ助手」

「そ、そうなのか……?」

 

 

 雑であることは否定しない。だってこれ、前世にあった万能薬の名前だし。

 そもそもを言うと、エリクシールとは錬金術の世界では不老不死の妙薬として語られている代物だ。商品やブランドの名前なんかにも用いられたりもする。別名エリクサー。もったいなくて日本人が使いたがらないアイテム第一位。

 

 

「でもまあプロデューサーもこう言ってることだし、何か言い換えとかあるかなぁ、氷菓ちゃん?」

「ん……と。エリクサー、エリクシル、イリクサ、エリクシア、エリクシャー……」

「『エリクシア』が語感としてもいいな、それにしよう」

「雑ゥ!」

「けど悪い名前でもないんじゃない?」

「う……まあそりゃそうだけど」

 

 

 ボクたち個々人の特性を考えると、これがまあ悪くない名前なんじゃないかなと思う。

 科学や化学は錬金術から生まれ、派生していったものなわけだし。そういう意味で言うなら最適とすら言える。

 

 

「……分かった、エリクシア、だね。せめて英語表記とかにさせてもらうけど、いいかな」

「りょーかーい♪」

「問題無い」

 

 

 あとはプロデューサーのセンスの問題になるから、そこは任せるとしよう。

 

 

「ともかく、みんなはスターライトプロジェクトのデビュー第一陣になる。これまで以上にレッスンに励んで、最高のステージにしてほしい」

「「「はい!」」でしてー」

 

 

 何にしても、これからはプロデューサーの言う通りにどんどん忙しくなっていくことだろう。

 仕事が忙しくなれば、その体力が必要になるだろうし……うん……色々不安だけど、まあ、死ななきゃ安いさ。

 ……あ。

 

 

「そうだ、プロデューサー。やっぱりデビューシングルなんだから、あんまり(うま)く歌わない方がいいのかな」

「ん? まあ、一般的にはそうかもね」

 

 

 これはよく言われることだけど、アイドルのデビュー曲というのは、少し下手なくらいの方がいい、という話がある。

 デビューしたばかりの新人なのだから、上手い下手よりもフレッシュさを前面に押し出していく方がファンが増える。変に上手いよりは、ちょっと下手な部分があった方が、「新人として」味がある。今後に期待する人もいるだろうし、こういうデビューしたばかりのアイドルを好んで追っかけるファンもつく、ということだった。

 商業的に見てもまあ、そうなるのは当然だろうし、ボクとしても用意はある。こういう時のために様々な新人アイドルのデビュー時の映像を見てトレースしておいた。

 

 

「でも、それでみんなの個性を殺してしまうようじゃあ本末転倒だ。スターライトプロジェクトは、みんなの可能性を育てて伸ばしていくための企画なんだから、みんなには自分たちの思うまま、自由に(・・・)ライブを楽しんでほしい」

 

 

 その言葉に、聖ちゃんの顔がぱっと綻んだ。彼女は歌うことが好きだと言っていたから、余計な縛りを入れられずに済んでほっとしているんだろう。また、そんな様子を見てか、芳乃さんの顔にも笑みが浮かぶ。

 

 ――けれど、対照的にボクの表情は困惑に染まっていた。

 

 ここか。ここで「自由」と来るか。

 理念自体は素晴らしいものなんだろうけど、今のボクにとっては最悪だ。自由にやっていいと一口に言われても、どうすればいいのかが全く分からない。

 技術を披露するべきなのか? 周りとの調和を優先した演出をするべきなのか? それともさっき言った通りちょっと下手めにするべきなのか――――?

 

 

「だいたいウチのプロダクションの看板アイドルの高垣さんだってデビュー当初から『圧倒的な歌唱力!』って売り出していったんだ。何も問題はな……白河さん、どうかした?」

「え……あ、いや。何でもないです」

「です?」

「な、何でもないよ!」

「氷菓、少し調子がおかしいぞ。何かあったなら言うといい」

「うう……ん」

 

 

 肝心なところで鋭いなこのプロデューサーと友達は。でないとこの大プロダクションのプロデューサーなんて務まらないんだろうけどさ……。

 しょうがないか。聞かれた以上は答えなきゃ。

 

 

「……自由にって言われても、どうしたらいいのか……分からないし……」

 

 

 そこまで言うと、プロデューサーは何かに気付いたらしく、沈痛な面持ちでボクと他のメンバーとを見比べた。

 

 はっきり言って、今日までボクは人に言われたことしかやっていない。

 アイドルになったことだってそう。レッスンだってそう。一応、体力をつけるためにランニングなんかはしてるけど、それだって「そうした方が良い」と言われたからに過ぎない。

 例外があるとしたら休み時間の暇つぶしくらいのもので、自発的に「これをやろう」と思って行動したことは、数えるほどしかないように思える。

 個性を伸ばして自由な表現を約束する、という煌めくような理念も、今のボクでは目が潰れてしまいそうだ。

 

 

「一ノ瀬さん、ちょっと」

「ん~?」

 

 

 志希さんを手招きし、何かしら内緒話を始めるプロデューサー。少しだけ不安げだった志希さんの表情もなんだか明るくなっていく。

 一体何を目論んでいるんだ。ボクに関係あることだろうけど、だからって目の前でこんな風に話をされると不安になるんですけど!

 

 ほどなくして話を終えたプロデューサーたちは、こちらに向き直って口を開いた。

 

 

「依田さんたちは今日、午後からは特に何も無いよね?」

「はいー。れっすんは明日でしてー」

「分かった。じゃあ今日はお休みで頼むよ。もし自主練習をしたいならトレーナーさんたちに聞いてみてくれ。緊急事態があったら俺の携帯か、先輩に直接言ってくれるかな」

「はい……だけど、根津さんは……?」

「ちょっと白河さんの成長のために必要なことをしにね。一ノ瀬さんと池袋さんも今日は外に行こう」

「あいあーい♪」

「助手よ、これはいったいどういう趣向だ?」

「いいからいいから。それじゃあ後は任せたよ!」

 

 

 芳乃さんたちに見送られながら、四人で街の方へと向かって行く。

 それにしてもプロデューサーのあの不敵な笑み……いったい何を考え付いたというのだろう。

 不安しかないぞ、この状況。

 

 

 ――で、そんなこんなあって十数分ほどして。

 ボクたちは何故か都内某所のゲームセンターを訪れていた。

 

 いや、おい。

 

 

「ちょっと待てよ!?」

「どうしたんだい?」

「ボクの成長がどうのこうのって言ってなかった!? 何で遊びに来てんだよ!? というかプロデューサー仕事中じゃないの!?」

「いいかい白河さん。社会人にはね――有給というものがあるんだ」

「そういう意味じゃないよ!?」

 

 

 ぬああああああああああ!!

 

 内心でも実際にも頭を抱え込む。

 何だってここでゲーセンなんだよ! 普通合同レッスンとか見学とかそういうちゃんとした方向性のアレでしょ!? まるで意味がわからんぞ!!

 

 

「よぉし、今日は俺のおごりだ! みんな、存分に遊んでいいぞ!」

「にゃっほう!」

「フフフ……そういうことなら存分にやらせてもらおう! 行くぞ志希、氷菓!」

「え、ちょ、ちょっ……力強いな!?」

「氷菓ちゃんが弱いだけ~♪」

「ぬあああああああ!」

 

 

 事実なだけに否定できない!

 ずるずると引きずられながら、UFOキャッチャーなどが設置されている、入口にほど近いプライズゲームのコーナーへと向かって行く。

 馴染みの無い光量と音量に目と耳がやられてしまいそうだ。

 

 

「さぁて、どれがいい?」

「いや、別にボク、欲しいものっていうのは……それにそもそもゲームセンター初めて来たし……」

「あー……」

「今時の中学生にしては珍しいな……いや、そういう意味だと全員そんなものだが」

 

 

 志希さんもゲームセンターなんかにはあまり馴染みはないだろうし、晶葉も基本家で機械いじりしてる方が多いだろう。

 それでもボクほどじゃあないらしく、ゲームセンターって場所そのものへの抵抗感みたいなものは見られない。

 

 ……ここまで来ちゃうとしょうがないか。

 

 

「……じゃあ、あれ」

「またぴにゃこら太か」

「またなのか」

「まただ。何が氷菓の琴線に触れたのか……」

「別にいいだろ……」

 

 

 好きなものは好きでいいじゃないか。

 ボク自身、何で好きなのかって言われると、まあ、説明はしづらいけど。

 

 

「よっし。じゃあこのくらいなら俺が取ってあげよう!」

「プロデューサーが?」

「無理しない方がいいよ~?」

「何が無理なもんかって。これでも俺、学生時代はプライズコーナーの(ぬし)なんて言われてたんだぞ?」

「ホントかよ……」

「まあ見てなって」

 

 

 言って、プロデューサーは500円玉を突っ込んだ。

 どうやら500円を投入すると一回分サービスしてくれる形式らしい。残り回数が「6」と表示されたのを確認すると、プロデューサーは慣れた手つきで操作を始める。

 

 

「よっと……と……あれ?」

 

 

 しかし、アームがぬいぐるみを持ち上げることは叶わず、そのままぽとりと落ちて行った。

 二度、三度と続けても上手く行かない。これは……。

 

 

「……あのさ、プロデューサー。それってもしかして、取れないから延々居座ってるせいで付けられた異名なんじゃ……」

「うう゛っ!?」

 

 

 図星かよ。

 

 

「む、昔はこれでも結構な数取ってたんだけどなぁ……」

「累計何万使ったんだ?」

「ごめん、覚えてない」

「そうだろうねぇ」

 

 

 だから敬遠していたんだ、ゲームセンター。

 湯水のようにお金が消えていくから、金銭感覚が麻痺してきそうで怖いんだよ。

 

 

「白河さん、やってみるかい?」

「ボクが? やったことないけど」

「ああ。折角だし、どうかな?」

「……じゃあ」

「操作方法だけど……言わなくても大丈夫かな」

「うん。見てたら分かった」

 

 

 ごく単純なゲームだ。ボタンを動かしてクレーンを操作して、二度目の操作が終わった時点でアームが降りていく。

 この程度なら――。

 

 

「――――計算完了」

「うん?」

 

 

 内部構造、伝達系を解析してパターンを掌握。脳内で物理的挙動を模倣(エミュレート)。落下時の力の作用と現在の筐体の内部の圧力やその他諸々の構成要素を元に計算を重ねれば……。

 

 

「うん。取れた」

「うぇぇえ!?」

「おー、すっごーい!」

「一発で取ってしまうとは……やるな氷菓!」

「まあ、このくらいはね」

「お、俺の苦労は……い、いや。ビギナーズラックというやつだろうな、うん」

「……ふーん」

 

 

 ……どうやらプロデューサーはあくまで初心者だからこその幸運だと思いたいらしい。

 

 

「残り二回分あるよね。これ、やってもいい?」

「ん? あ、ああ、勿論いいぞ」

「ふーん。それじゃあ……晶葉、どれか欲しいものある?」

「あのうさぎがいい」

 

 

 あのピンク色のうさ………………杏さんのと同じデザインのやつじゃねーか。

 そうか、そういえば正式名称からしてアレ、「うさぎ」だわ。ま、でも問題ないか。今度も構造解析して……と。

 

 

「取れたよ」

「おお、流石だ!」

「何ィ!?」

「じゃああたしはー、それ!」

「……えっ」

「え?」

「えっ」

「いや……え?」

 

 

 何あのキワモノ臭のするぬいぐるみは。

 いや、ぬいぐるみなのか、あのよくわからない物体。チューリップ……? ……木? ……うえき……?

 

 

「……は、はい」

「わーい! ありがとー氷菓ちゃん!」

「ど、どういたしまして……」

 

 

 あの造形のインパクトに全てが霞んでしまった。

 ……いや、もう気にするまい。気にしちゃダメだ。志希さんが喜んでる、それでいいじゃないか。

 

 

「お、おかしい……こんなことは許されない……」

 

 

 プロデューサーはというと、なんだかやけにショックを受けている。

 流石にここまでやれば認めざるを得ないだろう。

 

 

「晶葉、次はどうする。次は何をやればいい?」

「どこかの火星人みたいなことを言いだすんじゃない」

「次はね~……あ、マリ○カート! あれやろ!」

「レース……? ま、まあいいけど」

 

 

 レースゲーム……対人ゲームかぁ。苦手なんだけど、まあ仕方ないか。

 

 プロデューサーも交えて乗り込んでそれぞれ100円を投入する。

 それにしてもこのゲーム、写真撮られるのか。別にいいけど、珍しいパターンだな……流石に保存はされないよね。

 

 

「よーい……スタートっ!」

 

 

 マリ○ーなら家庭用のもので何度かやったことがある。ボクはいつも使ってるキノコ王国人(キノピオ)を選んだ。プロデューサーは赤いヒゲ、志希さんはでっていう(ヨッシー)、晶葉は…………何でパックマンがいるんだろう。まあいいか。

 

 

「よぉし……」

 

 

 対人戦になるとクソザコナメクジと化すボクだけど、こういう系統のゲームならまだ勝機はある! ……はず。

 勝てなくとも最低限この中で最下位にならなければ、個人的には満足だ。

 

 ――――と思っていたら、熾烈なデッドヒートが繰り広げられることとなった。

 

 

「おのれこの裏切り者が!」

「にゃはははー! 騙して悪いけどゲームだからね! 落ちてもらおーう!」

「じょ、冗談じゃ……」

「貴様らには水底がお似合いだーっ!」

「ついに俺の番か……!」

 

 

 ……マ○カーにありがちな光景である。

 単なるレースゲームじゃなくって、アイテムを使って他のプレイヤーを妨害でき、かつ順位の低いプレイヤーに良いアイテムが配分されるという関係上、それはもう醜い争いになるのは避けられない。身体が闘争を求める。

 

 ちなみにボクの定位置はプレイヤー中最下位である。

 

 

「あ、抜いちゃった」

「うおおおおお!?」

 

 

 その後、晶葉と志希のデッドヒートの巻き添えを食らったプロデューサーを抜き去り、なんとか当初の目標を達成することには成功したのだった。

 なお、プロデューサーはバナナを踏んだりCPUの甲羅の直撃を受けたりして最下位に転落した。

 さっきから散々だなプロデューサー。

 

 

 ――――その後も、様々なゲームをして遊んだ。

 エアホッケーは物理演算による先制攻撃が猛威を振るった。対戦格闘ゲームはおよそボクの読み負けで9割がた負けてた。リズムゲームは特に盛り上がって、店内の新記録に挑戦してみたりしていた。でもダンスゲームは勘弁な!

 ……あと、プリクラなるものを撮ったりしたんだけど。あれはあれで色々と気恥ずかしい。でもまあ、みんな楽しそうだし、いいか。

 

 そんなこんなで遊び倒して数時間ほど。気付けば、日もだいぶ傾いていた。

 流石にやりすぎて目がちかちかするし、肉体的にも疲れた。そろそろ時間的にも良いころだ、と思ったところで、自然と皆の足も出口に向かっていた。

 

 

「今日は楽しかったかな?」

 

 

 ふと、プロデューサーがそんなことを問いかけてくる。

 晶葉と志希さんの視線も、その問いかけに合わせるようにしてボクの方に向けられていた。

 ふと気恥ずかしくなって顔を背けるけど、何も言わないわけにはいかないか。

 

 

「……まあ。楽しかったよ」

「そうか。良かった」

「でも、何でこんなことを突然……?」

「うーん……なんて言うのかな。俺なりの回答だよ」

「は?」

 

 

 何の? 回答?

 

 

「どういう風に『自由に』したらいいのか分からないって言ってたよね。俺は『楽しいこと』が自由なことだと思ってる」

「楽しいこと……」

「あくまで俺個人の考えだけどね。やっぱり、楽しいっていうのは一つの前提になると思う」

 

 

 自由なことは、楽しいこと――――か。

 どことなく引っ掛かる部分はあるけれど、なるほど、それも一つの解釈だと思うと腑に落ちないでもない。

 けど……。

 

 

「……それならそうと、言葉で伝えればよかったのに」

「ん~、氷菓ちゃんって、口で言って分かるタイプ?」

「納得できるなら、まあ」

「でも世の中には、経験して初めて分かることもあると思うんだ。白河さんは特に、自分で体感しないと理解できないタイプだと思ってるからね」

 

 

 ……ぐうの音も出ない。確かにボクは、体感して初めて本質を理解するタイプだ。錬金術の真理にしても、それ以外のことにしても。

 ん――――いや待てよ? でも、それって……。

 

 

「……しゅがはさんと同じ扱い?」

「……まあ」

「そういう部分はあるだろうな」

 

 

 ……ボクそういう分類なのね。

 いや、改めて考えると確かにそうだ。しゅがはさんも、自分で体験しないと考え方が改善されないだろうな、と見ていて思った。

 ボクも、どういう風に「自由にする」かを人に聞いてみても、多分体感してみないとどれも釈然としない反応を返すハメになったことだろう。で、最終的にわけがわからなくなってくるんだ。

 

 

「まあまあ、手のかかる子ほどかわいいって言うし? 甘んじて受け入れたまへー♪」

「手のかかる子扱いはそれはそれでヤだよ……」

 

 

 施設じゃむしろ手のかからない子扱いで通っていたっていうのに。

 

 でも、まあ。こういうのも、嫌いじゃない。

 ボクの中で明確な答えになったわけじゃないけれど、これはこれで一つの解釈だ。その上で、一つの方針が出来上がったのは喜ばしいことでもある。

 

 

「手のかかる子の面倒を見るのもプロデューサーの役目さ」

「…………」

「そ、そんなに睨まないでくれよ。その――思うにさ、お客さんが楽しむためにはアイドルが楽しんでいる姿を見せるのが一番大事だと思うんだ」

「ああ、もう分かったよ!」

 

 

 こう何度も言われると、それはそれで出来の悪い子のようでちょっと気に障る。

 ボクのわがままだってことは分かるんだけど。

 感謝も、そりゃあ、してるんだけど。

 

 

「……楽しむよ。楽しめるだけ」

「ああ。そうしてくれ」

 

 

 どうしても憎まれ口を叩いてしまうのが、肉体(からだ)精神(こころ)が引っ張られてるようでちょっと辛い。

 ホント、ありがたいのはありがたいんだけど、ね。

 

 

 

 








寄越しなさい……アーマードコアの新作を寄越しなさい!


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