今回はほぼ食べ物の話についてダベってるくらいです。
重要な話は序盤で済ませておりますので過度な期待はしないでください。
夕方ごろに差し掛かって、ようやく撮影も終わった。
ドラマの撮影ということでそれぞれの撮影時間以外は休憩にあてられていること、加えてボクの役柄自体が激しいアクションを必要としないこともあり、今日のボクは珍しくあまり体力を消耗していない。その辺の椅子に座って、他のみんなとお喋りできるほどだ。
もっとも、ずっと衣装で過ごさなきゃいけない関係上汗はすごいけど。
「「「お疲れ様でした!」」」
みんなでスタッフさんたちに挨拶して、スタジオを後にする。
今日は初日の収録ってことで、親睦を兼ねてレストランで打ち上げを行う予定になっている。
……あんまり重いものじゃないといいんだけど。
「これもまた可愛らしいことでしてー」
「うん……こっちも似合ってる……」
「や、やめてよ二人とも……撫でないでよ」
「よしよしー……」
「こ、こずえちゃんまで……」
こんな往来で三人の女の子――しかもその内二人は年下――に、頭を撫でられるなんて、恥ずかしいったらありゃしない。
問題はその年下の女の子に頭を撫でられるほどのボクの身長なんだけど。そこはもうどうしようもないが。
「しかしますます氷菓のことが分からなくなってしまったな。何だそのわけのわからん眼鏡の出自は」
「そんなこと言われたって……」
「おフランスに行ったことあるってことだよねー。でもそれ以外にも行ったんじゃなーい? エジプトとか」
「まあ、あるけど」
「やはりエジプトか」
アラビア語を学んだって言ったくらいなんだから、そのくらいは想定できるだろう。
もっとも、何でそこに行ったか、というところまで考えるのは難しいかもしれないけど。
「まさか吸血鬼がいたとか言わないだろうな」
「いるわけないでしょ、ファンタジーやメルヘンじゃあないんだから」
まあもっとも、ファンタジーやメルヘンの塊みたいなことをやらかしてるボクが言える話でもないんだけど。
いや、でもいるのかなそういうのも。ボクがこんなだし、いてもおかしくないような気も……。
……よそう。こんなこと考えても仕方ない。
「みんな、お疲れ様」
そんな与太話をしていると、ふと横から声がかかる。声をかけてきたのは……凛さんだ。
「ん……ニュージェネレーションズの渋谷凛か」
「お疲れ様です、凛さん。どうしたんですか?」
「うん、ちょっとね」
言いながら、凛さんはボクたちの方を見た。
いや、ボク「たち」、ってよりはこれ……ボク個人を?
「氷菓だっけ。少し話したいんだけど、いいかな?」
「え……と、ボクですか? でも、何で……?」
ここでこんな話されるなんて、とんでもなく怖い。
もしかして撮影中何か不手際を起こしてしまっただろうか。
いや、不手際も不手際……というか、ボクのせいで色々と順序が狂ったんだから怒ったりしててもおかしくないかも……。
「あ、だ、大丈夫だよ。怒るとかそういうのじゃないから」
「ホントかにゃーん?」
「ホントだよ。ちょっと個人的なお話だけ」
「……わ、分かりました。大丈夫です」
「うん、ありがとう」
と、打ち上げ会場に向かっているみんなとはやや離れた――ぎりぎりで声の聞こえないような場所へと移動する。
あんまり人に聞かれたくない話なんだろうか。だったらそれはそれで怖いぞぅ。
「ごめんね、呼びつけるようなことして」
「い、いえ。大丈夫ですけど……どうしたんですか……?」
「………………あのさ」
「はい」
「眼鏡、外してもらってもいい?」
「……はい?」
……眼鏡を?
ちょっと意味が分からない。けど、とりあえず言われたままに眼鏡を取る……と、凛さんがずずいとこちらに近寄ってきて、そのまま――ボクの前髪を真ん中から左右に分けた。
「……はい!?」
「……うん、ごめん、変なことして」
「い、いえ……大丈夫、ですけど……」
どういうことだろう。実は凛さんは非眼鏡派で、人の髪型に対して一家言あるとか……?
……流石にそういうことは無い、と、思うけど……。
眼鏡をかけ直しながら凛さんを見上げると、少し困ったような表情でこちらに笑いかけてきた。
「どういうことなんですか……?」
「……うん、実はさ。氷菓は、私の友達に似てるんだ。だから、もしかして、って」
「は、はあ。外国の方ですか……?」
「そうだね、遠いところ。氷菓もハーフだって聞いたけど、親はアメリカの人? ロシアの人?」
「北欧って聞いてます」
正確なところは知らないし、知ろうと思ってもその方法は無いんだけど。
……まあ、多分北欧の方だろう。ノルウェーとかスウェーデンとかあの辺。
「そのお友達ってどういう方なんですか?」
「優しい子、かな。純粋で、天真爛漫で……綺麗な蒼い髪の色、してた。氷菓みたいに」
まさかあのクソ親はいたるところで種を蒔いてたりしないだろうな。
今ものすごい嫌な予感が圧し掛かってきたぞ……!
「ルリア、って名前なんだけど。知ってる?」
「……すみません、知らないです」
みりあさんなら知ってるんだけどね。赤城の。
流石にルリアさんという名前の人は知らない。できるならなんとかお手伝いもしたいとは思うけど……そこは本人に言われないと、流石に踏み込みすぎだしな。
「もしもさ」
「……はい?」
「……もしも、ルリアに会うようなことがあったら、さ。私は……私たちは元気だって伝えてくれるかな?」
「あ、はい。会えたら、ですけど……」
「そっか。うん――――安心した」
凛さん、なんだか「そう」なることを前提に話してるようなフシがあるけど……あ、もしかしてそのルリアさんって人、海外でアイドルやってたりするのかな。
もしかすると今の凛さんとはランクが違ってて、ボクたちのランクなら会う可能性が高いから……とか、そういう話なのかも。
そういうことなら、もしもボクの方が先に会ったら伝えておこう。凛さんの方が先に会うって可能性も否めないけれど。
それから、トライアドプリムスの皆さんやクローネの人たちも交えて、交流も兼ねておしゃべりしながら打ち上げの会場へと向かった。
……なお、今回はお肉を食べなかったためお腹は下さなかった。
@ ――― @
「……疲れた……」
それから少ししたある日のこと。ボクは食堂の閉まった午後九時前に寮の自室に帰り着いていた。
ドラマ撮影はおおむね順調だ。NG(ニュージェネレーションではない)はそこまで出ないし、むしろ当初の予定よりもずっと撮影の進行は早いくらいだと思う。
けど今日はまた難儀な撮影で、「
結局、終わったのはちょっと前のこと。疲労感いっぱいすぎて思考が上手く回らないくらいだ。
「アイス食って寝よ……」
どうせ食堂は閉まってる。ボクも別に空腹にならないわけじゃないが、正直そのくらいしか食べられそうにない。アイス食ってお風呂入ってアイス食って歯ぁ磨いて寝よう。あ○すまんじゅうとBLACKRXモンブラン。ドがつくほど甘いけど、アイスに限っては大丈夫なんだよねボク。このくらいならぺろりといける。逆に言うとこれしか無理。ちなみに箱入りのちっちゃいやつだ。
――――ピンポーン。
と、そんなことを思っていると、不意に呼び鈴が鳴った。
こんな時間に誰だろう。こないだ美玲さんに漫画貸したからその返却かな。
「はーい」
そんなことを思いながら鍵を開ける――と。
「
「GO AHEAD☆」
「ぐえー!!」
――扉が開く勢いそのままに、ボクはそのまま扉と壁との間に挟み込まれてしまった。
「う……ウボァー」
「氷菓ちゃーん!?」
「あ……やっべ、挟まっちまった☆」
白河氷菓、
――――とは流石にならないけどさ。
「……せめてひとこと言ってから入ってきてくれないかな……」
「ホントにごめんなさい……」
「申し訳ないのれす……」
扉を開けて入ってきたのは、みちるさんと七海ちゃん、肇さんとしゅがはさん――「ミラ・ケーティー」の四人であった。
……結局あの後あの名前が正式決定したらしいけど、まあその辺はいったん置いておこう。
彼女たちはメンバー全員が寮生で交流もかなり増えたおかげか、ユニットの結成直後よりも遥かに仲は良くなり、近日中にデビューライブの実施も決まっている。
そんな状況下で、普通ならボクのところに来る理由なんて無いはずなんだけど……?
「どうしたのさ、こんな時間に」
「食堂が閉まってから帰ってきたので、何かお料理作ってないかなって思って!」
「……はえ?」
「ええと、順序立てて説明しますね。実は……」
――肇さんの説明によると、どうやらミラ・ケーティーの四人はデビューライブの直後に仕事が入ることが決まったそうだ。
その名も「
みちるさんはパンに限らず「食べること」全般が好きだし、七海ちゃんはおさかな筆頭に海産物ならだいたい好んでいる。しゅがはさんは……甘いもの好きじゃなきゃしゅがーはぁとを自称することは無いだろう。肇さんは川釣りが趣味のようでもあるし、ある意味で「食」はこの四人に関わる共通点と呼べるだろう。
「それで、リポートや食レポの練習にと思って、今日帰ってくるのが遅かった氷菓ちゃんのところに来てみたんです……けど」
「もしかして、それが晩ごはんのつもりなんれすか……?」
「……う……」
……その通り!!
なんて言わなくても通じるよね、この状況だったら。うん。このBLACKRXモンブランが今日のボクの晩ごはんだ。
「アイス一本って」
「に、二本食べるつもりだし……」
「ある意味、氷菓さんのところに来たのは正解れすね~……いくらなんでもこれはひどいれす」
「やっぱり氷菓ちゃんは食生活を改善しなきゃだめですよっ!」
くっ! 新企画にかこつけてダメ出しにくるとは……。
いや、まあ……それを言う理由自体は分からんでもないんだけど、そこまで言うほどかな……。
「ていうかさ……むしろあいすちゃんってごはん作れないんじゃね?☆」
「いや、作れるけど」
「作れるんですか!?」
「な、なんだかそういうイメージは薄いような……」
「作れるんですぅー。……実家じゃボクが料理当番とかしてたしね」
料理も化学も錬金術も、基本は正確な分量と正確な時間だ。
レシピ通りにやればまず、食べられないものを作ることも無いし。
……それはそれとして、なんだかこう、料理できないって思われっぱなしなのも
「……そういうことなら、今から買ってきてさっと作るよ」
「そんな無理しなくていいぞ☆ いや死ぬって」
「道半ばで倒れたりしないですか……!?」
「……するかも。ごめん、誰か荷物持ち手伝ってくれる?」
「あ、それじゃあ私が……」
「ありがと、肇さん」
と、手を挙げてくれる肇さん。ありがたい話だ。
買うものが買うものだけに、ちょっと人の手を借りないと疲労しきった今のボクじゃ途中で死ぬかもしれない。
暴漢が出た――とか言うのならなんとでもなるんだけどね。全身の毛根を死滅させたり指パッチンで火を出してみたり軟骨毟ったり。
「大丈夫なんれすかね~?」
「大丈夫だよ。今日のボクはシェフ白河だから。ちゃんとボクの実力をみんなの胃におみまいしてやるとも」
「氷菓ちゃん! 逆に怖いです!」
こらそこうるさい。
……で、十分ほどして、近くのスーパーで目当てのものを購入して戻ってきたボクは、早速キッチンに立って――正確にはキッチンに置かれた踏み台に立って――いた。
下ごしらえは順調、なんだけど、みんなどういうわけか……いや、どういうわけもクソもボクがあんまりにも頼りないからなんだろうけど、凄まじく不安そうにボクを見ている。
だがもう遅いッ! 脱出不可能よッ! 貴様らはこのピストル……じゃなくって、ビストロシラカワの射程範囲に入ったのだ! クックック……はーっはっはっはっは!!
「はははは……アごっ!?」
「いや何してんだよあいすちゃん」
「だ……大根擦ってたら重さと重労働に負けて手が攣って……」
「貧弱すぎれす……」
「あーもうちょっと貸しな☆」
「うぅ……すみません」
……「しょーがねーなー☆」と言いながら、しゅがはさんの手により大根おろしが量産されていく。
もりもり摩り下ろされていくその光景は、頼もしくもあり力強くもあり……これがある意味で女子力の発露というやつなのだろうか。
ともかく、これで一品目はできた。
「……お待たせ。まず簡単なのからね。おろしポン酢とごま油であえた、タコのカルパッチョ風サラダ」
「!? 思ってたよりもまともそうなのが……!?」
「ヒドくない?」
「氷菓さん、あんまり料理が得意な印象無いれすから~」
でしょうね。
「で、二品目はこれ。卵の白身だけで作った、簡単きのこチーズオムレツ」
「何で白身だけなんですか?」
「黄身を別に使う用事があって余ったから」
「余ったからで作っちゃうあたり手際は良さそうだな☆」
「じゃあ、いただきまーす!」
「……うん、タコさんの下処理もちゃんとしてるれす!」
「絡めた調味料も酸っぱすぎず主張しすぎず……うん、美味しい」
サラダに使った調味料は、ポン酢と大根おろし、それからごま油……なわけだけど、これだけだと酸味が強くなるため、少しだけ出汁と合わせている。
これでまろやかに……とまでは言わないけど、酸っぱいのが苦手だって人も大丈夫なはずだ。
「こっちのオムレツ、包み込み方がスウィーティー☆」
「フライパンをトントンしたり?」
「重いからできないかな。基本的には、フライ返しで頑張ったよ」
精度はミクロン単位だけどね。
外側はほぼ真っ白なオムレツだけど、割ってみると中から刻んで味付けしたキノコがチーズと一緒にとろりと溶け出す。卵とチーズの相性が抜群なだけあって、これも鉄板と言えば鉄板と言えるかもしれない。
さて、と。じゃあ三、四品目を……と。
「で、次ね。大根餅の揚げだし風」
「だいこんもち?」
「うん、大根おろしに片栗粉を混ぜて焼いたものなんだ。お餅みたいな食感になるよ」
それなりに量を作ることができて安上がりなため、あおぞら園でも割と作っててみんなに好評だった。
そもそものお餅がそんなに安くないからね……代用品でも決して悪くはない。栄養面は、まあそこそこだけど。
味は大根+片栗粉の域を出ないとはいえ、割と淡白なところもあるから味付け次第でどのようにも化ける一品だ。
「はむっ! ん~……おダシがいいれすね~……これ、アゴれすか?」
「うん、そうだよ」
「AGO?」
「トビウオのことだよ。九州の方だとよく使ってるんだって」
「へぇー……珍しい出汁ですね!」
東京の方じゃあんまり見ないか、見てもそこまで気に留めないかもしれない。基本、ポピュラーなのはカツウォ出汁だからね。
でも今回はあえて使ってみた。食事は多少のサプライズがあった方がいいものなのだ。
「あ。あいすちゃん、おろし大量にくれ☆」
「た、大量に? いいけど……お出汁に混ぜてるよね?」
一応、トロみのついたお出汁に大根おろしを混ぜた上で出してるんだけど……。
「大根の身体にいい酵素ってのは……熱を加えると無くなっちゃうんだゾ☆」
「ああ、そういう……はい、どうぞ」
「テンキュー☆」
アミラーゼとかプロテアーゼとかリパーゼとかバーゼラルドとかそんな名前だっけ。
確か60度に達すると効果が消えちゃうんだったような。そういうことなら、まあいいか。
「で、こっちはアカエイの煮つけ」
「おおっ!」
「ええ~? アカエイって……」
と、もう一品持ち出すと、七海ちゃんがハッスルするのと同時にしゅがはさんが目に見えてゲンナリしだした。
「アカエイ? ……あれ? どうしたんですか、はぁとさん?」
「いやー……アカエイって、アンモニア臭? がするとかで臭くって食べらんないとか聞いて」
「いやそれは」
「違うのれす……間違っているのれすよはぁとさん……!!」
「「えっ」」
と、ボクが割り込もうとしたその瞬間、七海ちゃんがゆらりと立ち上がった。
「エイさんもサメさんもいわゆる軟骨魚類と呼ばれてて身にアンモニアが溜まりやすい構造をしてるのれす。釣り上げた直後じゃないとアンモニアが回って食べられないという俗説もあります……が! このアンモニアは水溶性なのれす! なのでちゃんとぬめりを下処理して煮物にすれば、コラーゲンたっぷりのぷるぷるの身を美味しくいただけるのれす!」
「な、なるほど……?☆」
言いたいこと言われちゃったよ。でも、七海ちゃんの言うことはだいたい事実だ。
刺身にするのは流石に無理だけど、スーパーに並んでるようなものであれば煮物にすれば十分食べられる。割と安いし。
コラーゲンたっぷりの身で骨からの身離れが良く、小骨もほとんどないからお子様でも美味しくいただける。加えて「副産物」も取れるので、あおぞら園でもボクが料理当番の時は時々買ってもらってた。
難点はそれこそしゅがはさんみたく「エイ」って聞いた瞬間に拒否反応を起こす人が多いことと、やっぱり煮つけだから子供人気があんまりないことかな……。
「なるほど……うん、美味しいです!」
「こういう時みちるさんはフツーに食べちゃうね……」
「コラーゲン……コラーゲン……はむっ。ん、意外とイケるな☆」
「小骨も無くって食べやすい……うん、美味しいです、氷菓ちゃん」
「ありがと、肇さん。で、次がシメなんだけど……」
「……まさか、
「うん、アレ」
言って、ボクは四つの茶碗と白ごはんをみんなの前に置いた。
そして、そこに――――。
「コラーゲンの多い魚って、煮込んだらコラーゲンが煮汁に溶け出して、冷やすと固まっちゃうんだ。これがいわゆる『
「あ、知ってます! 料亭とかに行くと出て来たりするんですよね!」
「美味しいですよね、煮凝り。鳥の皮や牛筋を使う方法もあると聞いていますが……」
「今回はアカエイを煮た煮汁を使うよ。これを切り分けて、ご飯の上に置いて……」
ほかほかご飯の上に置くと、勿論ゼラチン質の部分は溶けてしまう。そして、溶けたものはご飯に染み込んでいくわけだけど……。
「更にその上に鯛の刺身(半額)をのせるね」
「!?」
「で、その上からだし汁をだばあ」
「!!?」
そうしてだし汁を注ぐと、淡い黄金色をしたつゆの中に煮凝りの濃い茶色が混ざっていく。
一番上にあった鯛の刺身は白くなり、独特の色合いが茶碗の中に広がった。
ごく、と唾を呑む音が、周りから聞こえてきた。
「美味しそう……」
「ははーん。氷菓さん、七海をころころする気れすね?」
軽くサムズアップすると、それに続くようにみんなは無言で茶碗の中身を口に運んでいった。
美味しそうに――下手するとかっこんでるんじゃないかって勢いで食べ進めていくその姿を見ていると、なんとなく嬉しくなってくる。なんというか、ライブで笑顔になってる人を見た時の感覚に似てるのかな。幸せそうで、その顔を生み出すことができたことが嬉しいっていうか。
やがて一番先に食べ終えた七海ちゃんが、ふとボクの方を見つめた。
「……おかわりもいいぞ……」
「ホントれすか……!?」
「いいぞ……遠慮せずに食べなよ……」
「じゃあはぁとも☆」
「あたしもいいですか!? あ、肇さんはどうします?」
「いえ、私は遠慮しておきます」
柔らかな笑顔で自分の茶碗を指し示す肇さん。まだそこには半分ほどお茶漬けが残っている。
でもみんな満足そうで良かった。作った甲斐があるってもんだ。
――――さて。
「いやぁ、満足れす……氷菓さんがお嫁に欲しくなるくらい満足れす……」
「ウチの妹はやらねーぞ☆」
「いつ妹になったんですか!?」
お腹八分目ってところかな。七海さんは特にご満悦そうだ。
ところでボクはしゅがはさんの妹になったような覚えは無いんですがそれは。
……まあいいや。
「ただ今よりデザートの配給を開始する!!」
「「「!?」」」
「あ、やっぱり……」
驚愕する三人とは対照的に、肇さんはそれを想定していたと言うように涼しげだ。
……ま、三人驚かせることができたからいいか。
「というわけで。パイ食わねえか」
「パイですか!? 食べますとも!」
「え、ちょ、今? マジ?」
「というか、パイって……確かに冷凍のパイシートを買っているのは見かけましたけど、どうやって作ったんですか?」
「これ」
と、ボクはあいす○んじゅうを掲げて見せた。
「え?」
「……いや、あいすちゃん。アイスでどうやって作んのよ?☆」
「これ、外側はバニラアイスで、中身はアンコなんだ。バニラアイスって、牛乳とバニラとお砂糖で作られてるよね。だから、この外側の部分をこそぎ落として鍋に入れて……卵黄を入れて、薄力粉で固めるとカスタードクリームができる」
「……あ」
「で、このカスタードクリームに粉末抹茶を混ぜて抹茶カスタードにして、取っておいたあんこと一緒にパイ生地に入れて焼けば……和風抹茶あんこパイの出来上がり」
「なるほど! ……食べていいですか?」
「どうぞどうぞ」
「ふごふご……んー! 甘くて美味しい!」
「私もいただきます……うん、作り方が簡単なのに美味しい」
と、みちるさんと肇さんが食べ進めている一方で、しゅがはさんと七海ちゃんは少し渋い顔をしていた。
ああ――うん、この人たち、さっきのでお腹いっぱいになったな。多分。
「……タッパ持ってくるから、つめて☆」
「七海もお願いするれす……」
「あいよー」
ま、今日中に食べなきゃ腐るってものでもないし、冷蔵庫に入れておけば問題無いだろう。
明日のおやつ時にでも食べてもらえればそれでいいかな、ボクとしては。
「はー食った食った☆ ……どっこいしょ」
「はぁとさん、どこかに行くんれすか?」
「いや……お腹いっぱいで辛いからちょっと立っとこって……言わすなよ☆」
いやそこはもうちょっと誤魔化してよしゅがはさん。
「いやあ、しかしこんなに氷菓ちゃんがお料理できるなんて、驚きました!」
「そんなに?」
「氷菓ちゃん、いつもあまり食べないですから……それこそ、少し心配になるくらいには」
うぐぅ。また自業自得か。
確かに食に興味ないって思われても仕方ないかもなあ……決してゼロってわけじゃないんだけど。
「あっ。そういえば氷菓さん何も食べてないれす」
「……あっ!?」
「い、いや、いいよボク、味見してたからそれでお腹いっぱいだし……」
「嘘こけ☆」
「いや、別に嘘ってほどでもなくって……明日の朝胸焼けしちゃうかもだし……」
どうせもう深夜に差し掛かるくらいだから、そこまで食べなくても大丈夫かなくらいには思ってるのは間違いないんですけど……。
「連行な☆」
「まっ……ヤメロー! ヤメロー!」
「流石にそろそろ観念するれす」
「慣れれば胸焼けも起きずに済みますから! 大丈夫です!」
それが慣れるのはいつになるんですか!
というか、胃の容積が大きくなるほど食べたらまた吐いちゃうと思うんですけど!!
……そんな訴えは勿論聞き入れられず、ボクは今日もファミレスに連れ出されたのだった。