ライブを目前に控えながらも、仕事は入るものである。
というか、ライブを目前にしているからこそと言えるだろうか。宣伝のためにも、仕事を入れて知名度アップを狙わなきゃいけないという側面があるのは事実だろう。
しかしながら、今日の仕事はそれとはまた趣が異なっていた。
先輩のアイドルグループ、「セクシーギルティ」のライブの物販、そのお手伝い――だ。
場所としては、千葉某所の市民会館。キャパはおよそ1000人。規模としてはそれなりのものと言えるだろう。
セクシーギルティと言えば、
ユニットのコンセプトは「アイドル界の治安を守るためにパトロールする3人組!」なのだが、あの際どい衣装と今にも弾け出してしまいそうなお山で治安を守るとか各方面に失礼だよねと思わなくもない。
さて、それはともかく、問題は目の前の物販だ。
今回のボクらの役割は、ライブ前後に手売りで商品を渡すこと。
……なのだけれど。
「「「効率悪くない?」」」
三人揃って率直な感想を告げた瞬間、プロデューサーが頭を抱えた。
「……詳しく聞こうか」
「うん。まず会計だけど、ボクが計算してお釣りも出した方が明らかに早いと思うんだ」
「それはまあそうかもしれないね。次は?」
「グッズを自動的にこっちに持ってくる仕組みを作るべきだろう。ウサちゃんロボを連結して倉庫に繋げるべきだ」
「わ、分からんでもないけどちょっと飛躍してるかな……一ノ瀬さんは?」
「これ飲んだら脳が三倍速で動いてスッゴいよ~♪」
「アウト」
えー、と三人揃って軽く抗議の声を上げると、プロデューサーは思い切り頭を抱え込んだ。
「止めてくれないか白河さん……!」
「……別に副作用無いでしょ?」
「あんな毒々しい色なのにか!?」
「前に自白剤飲んだけど何ともなかったし」
「実証済みなのか。というかモノが違うんじゃないのか!?」
まあ、死にはしないでしょ。たぶん。
万が一本当にヤバいようならボクが治せばいいし。
「それに私と氷菓がいれば一時間程度でウサちゃんロボ(輸送用)は完成する!」
「何で当然のように一時間でロボットが作れるようになってんの?」
「前からだよ」
「嘘だろ氷菓郎」
誰だよ氷菓郎。
でも以前から大概とんでもないスピードでものづくりしてたよ。主に謎スイッチを。
しかも30分程度で作ったそれで情けない悲鳴を上げさせられてるじゃないか、プロデューサー。
まあ情けない記憶だから消し去ってても仕方ないけど。
「……ダメだ! 今日は普通に物販すること!」
「えー」
「えー」
「『えー』じゃない! これも経験だよ。ライブ目前になって気が昂ってるかもしれないけど……」
「そもそもこのお仕事取ってきたのもどんどん高揚させてくのが狙いだもんねープロデューサー♪」
「え゛う゛ん゛ッ!」
さて、ともあれ――単に経験を積ませるためにということなら、この仕事を選ぶよりかはもっと良い選択肢くらいはある。
例えば先輩アイドルのバックダンサー、例えば小イベントの司会、などなど……スターライトプロジェクトのコネを使えば、そうした仕事を取ることは容易い。となると、あえて物販の売り子をするだけの理由があるはずだ。
プロデューサーは何の意図を持ってこの仕事を選んだのだろう……とまで考えると、想像するのはそう難しいことじゃない。
エリクシアに限った話でもないけれど、スターライトプロジェクトは前身がシンデレラプロジェクトということもあって非常に恵まれた環境を持っている。ノウハウも蓄積されているし、幅広いコネもある。そのおかげでライブやドラマ撮影、ラジオ収録と言った華やかな仕事ができてるわけだけど……だからこそ、ボクたちには今のところ「下積み」の経験がそれほどない。
だからこそ、この仕事でもってその辺の経験を補おうというのがプロデューサーの考えだろう。加えて言うなら、志希さんが指摘した通り「高揚させる」こと――ライブに向けて、より気持ちを高く保ち続け、熱意を持ってもらおうというのがあるのだと思う。
一応、スタッフさんの計らいによってライブ中の見学は(交代交代でとはいえ)許可されている。先輩たちのライブを生で見ることになれば当然刺激になる。
これだけの規模となれば物販も死ぬほど忙しくなるだろうし、そういった人気のバロメーターとも呼ぶべきものを実際に見ることで、ボクたちも「これくらい人気になろう!」というような気持ちも持つだろう。
プロデューサーの反応を見る限り、図星であることは間違いないらしい。
「……というか、今回はセクシーギルティの三人が主役なんだから、でしゃばるわけにはいかないんだよ」
「しかし助手、ライブが終わったらそれこそセクシーギルティの三人はこっちに降りてくるんだろう?」
「まあ、そうだね。物販の手渡しなんかもあるし……」
「だったら物販の方の効率を上げてファンとの交流の時間を持たせる方がいいのではないか?」
「そうだよ。楓さんも『ファンとの交流の時間が大事』って言ってたって凛さんが言ってたよ」
「いやまた聞きって……でも、理屈としてはまあ、そうだね……」
「そういうことならホーイ☆」
「おごごごごごご!?」
プロデューサーが「そうだね」と言ったその瞬間、志希さんがプロデューサーの喉奥にフラスコの中の薬液を投入した。
言質は取れた。そういうことだろう。しかし抵抗すらできないうちにとは、巧みすぎやしないかね。
「ちょっと待ってこれさっき言ってたヤツ!?」
「ライブが始まる頃に効果が出始めるからー♪」
「いやちょっと……」
これどうにかならない? とプロデューサーが弱々しく視線を向けてきた。
即座に晶葉と共に首を横に振った。
「「どうなるか見てみたい」」
「薄情者ーッ!」
錬金術とは元来世界の真理を紐解かんとする学問である。当然錬金術師はあらゆる摂理を
つまり、まあ。錬金術師と狂気のマッドサイエンティストの倫理観を侮ったのが悪い。そういうことだ。
悪いがこのままにさせてもらおう。死にはしないし。
プロデューサーは犠牲になったのだ。
「よーし氷菓、私たちは目立たないようにベルトコンベアでも作ってこよう!」
「オッケー。そこの壁に仕込む?」
「施設を改造すると体裁が悪いから外付けにするぞ。そうだな、くま寿司のレーンのように注文したらスッとやってくるような仕組みにして……」
「ちょっとォー!!」
「ヘイヘイヘーイ、プロデューサーは志希ちゃんの研究ノートの犠牲になるのだー♪ ところで今どんな気分?」
「超怖いよ!」
「ふんふん、未知の薬品を入れられたことによる恐怖以外特に問題無しと」
「問題しかないからね!?」
そんなこんなあって一時間ほど、それぞれの構築したシステムを設置し終わったその頃になると、もうプロデューサーはなんだか動きがおかしかった。
どうやら薬が回り切って脳が三倍の速度で動くようになったらしい。周りがスローモーションに見えていることだろう。
「お、おおおおっ、遅っ、遅すぎる! 周りがみんなスロゥリィだ! フオオオオオオッ!」
「お~いいねー♪ あ、氷菓ちゃん、どうどうー?」
「へー。やっぱ周りがスローに見えてるもんなんだ」
「でもそれ制御できるのか?」
ひょいと晶葉がタオルを投げ渡すと、プロデューサーは目にも止まらぬ速さでそれを受け取ってのけた。
おお、と思わず声が上がる。しかしこれ――――。
「実用化は厳しいねえ」
「ん~確かにこれはプロデューサー限定だ♪」
それな。
元々プロデューサーは驚異的な身体能力を誇る超人である。超人強度で言うと25万くらいはあるかもしれない。だいたいティーパックマンと同じくらい。こう言うと強いんだか弱いんだか分かんねえな。
でもまあそんな感じなので純粋な能力だけで脳の加速についてってるけど、普通の人にやったら即日筋肉痛で動けなくなるだろう。ちなみにボクがやったら2秒以内に暴走して死ぬ。
「身体能力強化する?」
「ん~それやるとスタドリやエナドリの配合に踏み切ることになっちゃうしー」
「構造解析の精度を高めればイケるかな……」
「やめておいた方がいいぞ。調査しようとした人が闇の組織に連れていかれたとか……」
「何それこわい」
「ねえところでこれッいつまで続くのかなッ!?」
「あと三時間くらい?」
「プロデューサーの体感で9時間ってことかな」
「長っ!?」
だいじょーぶだいじょーぶ死にやしないからヘーキヘーキ。
まあちょっと長く感じるだろうけど、些細なことだよね。多分。プロデューサーいつも時間が足りねえって嘆いてたし。
やったねプロデューサー! 仕事が捗るよ!
なお精神的疲労については考慮されておりませんのであしからず。物理的疲労に関しても本人次第となります。
「あ、そろそろ入場だね。それじゃあ頑張ろーう!」
「おー!」
「ねえちょっと俺は」
「頑張れ」
「ひでえ」
プロデューサーにはしばらく裏の方で頑張ってもらおう。
ボクたちはスタッフさんに確認を取り、これまでに構築した手順をそのまま使うことを決めた。そうと決まればあとは入場者を待ち構えるだけだ。
――ただし、この数はちょっと想定外だけどな!
……およそ、千と数百人への対応を終えたあと、ボクは無様に控室でブッ倒れていた。
物販、すげえ。
何がすごいって、これ、ライブのチケットを購入したわけじゃない人ですら、購入することだけはできるのだ。
その辺も見越してグッズはかなり余分に作ってあるらしいのだけれど、それでも完売。ライブが終わるまでに一度会社の方に戻ってもう一度グッズを搬入するとのことらしい。その間、ボクらは自由時間となる。
「氷菓ー、行くぞー」
「うぃ……」
まずライブ見学に行くことになっているのはボクと晶葉だ。志希さんはボクたちと入れ替わりに行くそう。
気怠い体に鞭打って、なんとか体を起こす。スタッフ用のジャンパーをハンガーにかけて、手近な場所に置いておいたパーカーを手に取って、一緒に会場へと向かった。
セクシーギルティのライブの客層は、主に三十代以降の男性が多い。
女性の姿も見られるが、こちらもやはり三十代以降の方が多かったりする。それは多分、セクシーギルティに特有の、80年代というか……バブリーと言うか……ともかくそんな雰囲気が「そういう」世代を惹き付けてやまないのだろう。観客と一緒になって踊るその姿は言うまでも無くバブリー。まさしく当時のダンスホールさながらである。見たこと無いけど。
ちなみに彼女らは「セクシーギルティの世直しギルティ」という冠番組を持つほどの人気ユニットである。いや正確にはもう番組終わってんだけど。人気ユニットには違いない。
ともかく、そのためか割と若年層の姿も見られるが……誤差と言ってもいいかもしれない。
……しかし、やっぱり男性が多い理由は、早苗さんと雫さんのあの見事なお山だろう。
ダンスに連動して躍動する105cm。飛んだり跳ねたりすると暴れる92cm。ムムムーン! とするたびに揺れ動く……髪の房。
Dという数値は一般的に見ればまあまあ平均以上なんだろうけど、残念ながらこの中では見劣りしてしまう。彼女のバストは豊満であったが、彼女らのバストは豊満すぎた。
これがいわゆる相対性貧乳理論である。
なおボクのバストサイズはAAである。
そのバストは平坦であった。
更なる余談だが晶葉はCで志希さんはD。いずれも本人談。スターライトプロジェクトにおける最大バストは亜子さんとマキノさんのツートップ。カップサイズ的には亜子さんがナンバーワンだったりする。
ただ、公表してないだけで多分本来はしゅがはさんがワントップのはずだ。というかあの人スタイル良すぎるんだよ。自分で「B:ぼんっ」「W:きゅっ」「H:ぼんっ♪」とか書くだけのことはある。
あとこれは何気に知られてない話だけど、聖ちゃんはバスト82cmで単独5位である。その上にいるのが志希さんと泉さんで83cm。何気に聖ちゃんはかなりの恵体なのだ。歌が得意なだけはある。
「圧巻だな」
「うん」
パフォーマンスもさることながら、やっぱり一部がすごい。ゆさゆさぼよんぼよんばるんばるんムムムーン。一部ノイズが入った。
セクシーギルティのライブでは流血が絶えないという噂を聞いたことがあるが、納得である。特に前列席がひどいことになっている。あれはもはや暴力だ。視覚の暴力だ。
万が一にもこれが、ユッコさんでなく、例えば
そう考えるとユッコさんの存在は一種の清涼剤であり、むしろこの三人の構成こそがベストのものなのでは? とすら思えてくるほどだ。
このバランス感覚、三人での活動を決めたプロデューサーは相当な傑物なのではなかろうか。色んな意味で。色んな意味で。
「んに」
と、ふとした拍子に胸に何か当たったような感触があった。
隣を見ると、哀しげな表情で晶葉が指先を押さえているのが見て取れた。
「……虚無を感じる」
「ケンカ売ってんのか」
施設の子たちと同じこと言いやがって。
ネオエクスデスか
「バストサイズを上げる機械でも作ってやろうか?」
「いらないよ。その気になればなんとでもなる」
そう。なんとでもなる。なるのだ。
人のおっぱいもいで自分のものにすることだってできる。考えうる物理現象においておよそボクは万能だぜというやつなのだ。何を嫉妬することがあろうか。
……いやでもバカにされるのはそれはそれで腹立つな。
4月から同じクラスになった女子の中には、「あんなちんちくりんのまな板がアイドルとか」なんて陰口叩いてる人もいるっぽいし。あえて関わる理由も無いし放置してるけど、今度その胸と背ぇ削り取ってやろうかくらいには若干イラ立ってる。我ながら大人げない。反省。
「キレてるか?」
「キレてないよ」
「……青筋立ってるぞ?」
「立ってないよ」
あとこれ晶葉に対してじゃなくてただの思い出し怒りだ。
違う。怒ってない。思い出し…………イライラとか多分そういうやつなんだ。その程度のなんでもないものだ。
だから胸を突くのをやめるんだ晶葉。流石にそろそろ痛い。
「えいえい」
「…………」
「怒っ……死んでる」
胸を突かれたそのままの勢いで、肋骨がゴリッといってそのまま座り込んだ。
晶葉はもしかしてボクの耐久力ナメてない? ほんの些細なことで死ぬぞ? こんな風にな!!
ちなみにそこは一番肉の薄い部分だ。当然ボクも痛いが突いてて自分が痛いんじゃなかろうか。
「……だ、大丈夫か?」
「我魂魄百万回生まれ変わっても恨み晴らすからな……」
「すまん」
許すよ。だってわたしたち仲間だもんげ。
とまあそんな感じでニ十分ほど見学して、志希さんと交代。志希さんの見学が終わって戻ってきた頃には、もうそろそろライブも終わろうという頃合いだった。
―――再び地獄が始まる。
来場の時はまだ物販に飛びつく人は多くなかったけど、帰りともなればまたすさまじいことになる。
何せ、ほぼ満席だったこの1000人は入れるはずのハコに詰めてる人、ほぼ全員がドワオと出てくるんだから。
その中の何割が買っていくかは分からないけど……もうここまで来ると誤差だ誤差。
どうせなら早く来い。ボクはちょっとやそっとで死ぬぞォー!!
@ ――― @
死んだ。
「氷菓が死んだぞ」
「この人でなしー!」
「俺に言うのか!?」
流石にあの人間の濁流には耐えきれなかった。
スタッフさん、すごいね。効率化してあれってことは、本当はもっとひどいことになってるんだよね。
尊敬します。いつもありがとうございます。
できれば早く環境が良くなるよう働きかけていきます。
「もー、何で打ち上げの席で倒れちゃってるの! ほら、ジョッキ持って持って!」
「早苗さーん。これ、ジョッキじゃなくってグラスですよー?」
「え、そう? まあどっちでもいいわ! ほら根津君も
「あ、は、はい」
「はは……」
何となく気まずそうに、プロデューサーと……早苗さんたちのプロデューサーである後田さんが苦笑いをした。
……打ち上げ。そう、この場所は打ち上げ会場である焼き肉屋、である。
例の地獄の物販が終わってしばらく。ボクたちは、セクシーギルティの御三方と、その担当Pである後田さんと一緒に焼肉屋に来ていたのだ。
ちなみにボクが突っ伏しているのはギリギリで網に当たらない場所ではある。流石にそのくらいは分かってやってる。
「それじゃあ今回のライブの成功を祝して、カンパーイ!」
「「「カンパーイ!!」」」
「「「ワーッハッハッハ!」」」
みんなでガチンとグラスをぶつけ合って今回のライブの成功と物販の無事の終了を労い合う。
早苗さんは……まあ、いつも通りなんだろうけど、後田さんと根津Pはどことなくヤケクソな感の漂う笑いを漏らしていた。
ユッコさんも雫さんも早苗さんも、みんな勢いよくぐいっと一本グラスを空けていく。すごいなあの人たち。あのライブの後でこんなに飲み食いできるのか。
……という一方、プロデューサーたちの方はどういうわけか顔色を変えていた。
「「麦茶割りだコレ!!」」
「え」
「ええ……?」
なんと。
どうやら麦茶でなく、ウイスキーか何かの麦茶割りを注文してしまったらしい。
「何やってんのプロデューサー……」
「助手……流石にこれで『まったくもう仕方ないな』は無理だぞ……」
「ご、ごめん! ……ていうか頼んだの早苗さんですよね!?」
「え? あ、ごっめーん! 間違えちゃったわ!」
「早苗さん……」
なんだか後田Pがすごく諦観したような表情をしていらっしゃる。
……見たところ、こんなこともしょっちゅうなんだろう。まさかボクたちの方も、と思ったけど、どうやらこっちは安全なようだった。
今回の食事、ボクたちは四人掛けの席を分割して使っている。ボクのいる方は晶葉とユッコさん、雫さんとの四人掛けだ。注文したのは雫さんだったから、そういうミスも無かったのだろう。見たところ、志希さんはちゃんと自分で注文していたようだからこっちも問題は無い、と。
それにしたってこの有様は……勘弁してほしいなあ。
「ねープロデューサー? 志希ちゃんたちどうやって帰るのかな~♪」
「うっ……そこは……うん……」
この場所は、千葉である。
当然だけど346プロのある都心とは遠く離れている。電車を使えば一時間ほどで到着しはするが、じゃあ車を置いていくか? とか、運賃は? とか、様々な問題が湧いて来る。
代行を使えばいいじゃないかと言いはするが、あの厳しい専務が果たしてこんな間抜けなことに経費を出すことを許すだろうか。アイドルの電車賃くらいはいいかもしれないが、少なくともプロデューサー二人はダメだろう。
「父に送ってもらおう。志希、氷菓、乗っていくか?」
「それじゃあありがたくお邪魔しまーす♪」
「ユッコさんと雫さんはどうされるんですか?」
「電車で帰れるので大丈夫ですよー」
ゆさっ。
アピールすると同時に、揺れた。
この人何が詰まってんだろう、これ。
「む、ムムッ。そうですね……ここは! サイキック・テレポーテーション!!」
むむんっ。
アピールすると同時に、盛大に何も起きなかった。
この人何が詰まってんだろう。
「ダメでした。くっ……」
「安心するといい。ファミリーカーだから七人は乗れるぞ」
「ああ、晶葉ちゃん。あたしはいいわ。二次会行くからっ!」
「え」
「え」
「勿論後田君と根津君も行くわよね?」
「「……お供します……」」
プロデューサーたちは犠牲になったのだ。
犠牲の犠牲にな……。
「そういえば、今度ミニライブがあるらしいですねー」
「急激に話を変えにきましたね」
「まあまあ、いいじゃないですかっ! で、どうですか?」
「うむ、悪くない。準備は万端だ」
「それなら良かったですー。あ、でもそういうことなら、そろそろ個人曲も収録するかもしれませんねー」
「個人曲、ですか」
……それって例えば、
確かにそういうことなら、順序としてはそろそろあるかもしれない。
けど――――。
「ボクは、まだまだかな」
「何でだ? ……私たちの中で一番巧いのは氷菓だろう?」
「なんていうか、違う、っていうか」
何だろう。「ボクのための曲」ってのをやるとなると――すごい躊躇いが胸に浮かんでくる。
志希さんの曲。晶葉の曲。それはいい。けど、ボクの曲、それだけは……だめだ、分からない。浮かばない。
「……まあ、そのうち……です」
「こういう面倒くさい女なんだ」
「ムムッ、だったら……サイキック・ヒーリング! ムムムーン!」
「……あの。ユッコさん?」
「疲れてるからそういうこと考えてるのかと思ったんですけど……」
そういう意味だとボクは常時疲れてることになるんですが。
疲れてるのも面倒くさいのもあんまり否定しきれないけど。
「こういう時は美味しいものを食べるのが一番ですよー」
「そう……そうですね」
雫さんに促されてお肉を口に運ぶ。
うん。美味しい。確かに、美味しいものは人に幸せな気持ちを与えるものだ。
変にマイナスなことを考えても、プラスにできる特異な力を持っている。
……同時に、脂っこいこと脂っこいこと。
あっ今胃が鳴ったきゅるって。ぎゅるって。あ、これまた死ぬかも。
余談ですが、後田Pは牛、根津Pはモルモットをモチーフにそれぞれ名前をつけています。