青空よりアイドルへ   作:桐型枠

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24:いっしょにのろうよ

 

 

 遊園地と言えば。

 多くの人にとってはやっぱり、現実を忘れて夢に浸ることのできる場所、なんだろう。

 少なくとも、一般論としてはボクもそのように認知しているが、出自が出自だけに行ったことは一度も無い。

 小学校の頃の修学旅行だと社会見学という意図が強く、そういった施設の近くに行くわけでもないし、遊びに行くような暇も無かったし……正直なところ、生徒の中での評判は最悪だった。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 そんなわけで、罰ゲームとはいえ初めての遊園地だ。

 今日はできることもそう多くないけど、できる限りは楽しもう――いや、罰ゲームだから楽しんでるのもそれはそれで問題だろうか。

 ……表現はともかく、とりあえず、満喫させてもらおう。そう思って現場に到着したのだけれど。

 

 

「みんな、お待たせ! とりあえず何も言わずに受け取ってくれ!」

 

 

 そんな感じで、直前にボクたちはプロデューサーからあるものを手渡されていた。

 それは――――。

 

 

「ちょお!? これ、フリーパスチケットやん!?」

「……本当だ」

「どうしたのぉ、プロデューサー?」

 

 

 亜子さんたちが口々に追求するのでちょっと見てみると、確かにそれは当日限り有効のフリーパスチケット……のようだった。

 これ、高いものじゃないっけ? と視線を向けると、プロデューサーは至極申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 

「この前は俺の不手際で迷惑をかけて本当にすまなかった! 今日はほら、こんな機会だし……せめて精一杯楽しんでほしいと思ってさ」

 

 

 お詫び、ってことか。成程、納得だ。

 行動が唐突すぎてびっくりしたけど。

 

 

「そういうことなら遠慮なく貰おう。ところで助手、自分の分はどうした?」

「俺は寝る」

「アッハイ」

 

 

 賢明な判断だった。

 これで「俺も遊び倒す」とか言おうものならボクは流石にもう寝なさいと言って強硬手段に出る他無かった。具体的なこと言うと即効性の睡眠薬をこの場で錬成するなりなんなりして。

 

 

「それよりも」

「先に撮影を終えないとな。お楽しみはそれからだ」

 

 

 やや緊張した面持ちで晶葉が言う。

 もしかしたら怖いんだろうか。それが果たしてジェットコースターに対してなのかそれともオバケ屋敷に対してなのかはよく分からないけど。

 

 

「氷菓は初めてなんだよね、その……遊園地」

「うん。泉さんたちはここ、来たことあるんだよね?」

「そうね。でも――――」

「あんときはオバケ屋敷も行ってないしなぁ」

 

 

 ちらとさくらさんに視線をやる亜子さん。確かに、そういうのはあんまり得意じゃなさそうだ。

 なんというか、印象としてもメリーゴーランドにでも笑顔で乗ってそうって感じ。悪い意味じゃなく。ほわほわしてるというか。

 

 

「うー、怖いよぉ……一人で入ることになったりしないよね?」

「お互いのチーム一人ずつ、二人で入るんだって~♪」

「よ、良かったぁ」

 

 

 そこまで怖いって言うならなんだか色んな意味で心配だけど、大丈夫かな……。

 ここのオバケ屋敷、リタイア者続出ってのがウリなんだけど。

 

 

「ジェットコースターはどうだったんだ?」

「日本一の……以外は、乗ったかしら」

「以外か」

「以外や」

「……ジェットコースターってどうなの?」

「どうって……ああ、そっか。ええと、なんて言うんやろ。グイー……って上がって、ズバーッ! と降りて……?」

 

 

 まるで意味が分からんぞ!

 

 

「落ちたり、事故が起きたりする『かもしれない』スリルと、普段味わえないスピード感を楽しむもの、って言ったらいいのかな」

「思わず大声が出そうになる、だから『絶叫マシン』って呼ばれてるっていう側面もあるな」

 

 

 ……り、りろんはわかった。

 

 

「ま、あれだな! 経験すれば分かるさ!」

「投げたな晶葉」

「氷菓ちゃんも科学者の端くれなんだし、実証で確かめるのはどーう?」

「それもそっか」

「オバケ屋敷もな……しかし、まずは小さいところで慣らした方がよかったのではないか?」

「もうそんな時間無いよぉ」

「ここが基準になっちゃうっていうのもそれはそれで……変な話よね……」

 

 

 そんなにスゴいんだろうか、アレ。

 ……確かに、園外からも悲鳴と轟音が聞こえてくるけど。

 

 

 

 @ ――― @

 

 

 

『それでは発進しまーす』

 

 

 呑気な声と共に、マシンがゆっくりと進んでいく。

 さっきまで色々とこう、想定より痩せたボクのシートの固定が甘くて途中で吹っ飛ばされるんじゃないかとか、その他にも番組スタッフと遊園地のスタッフとのやり取りが少しだけあったが、予定通りにジェットコースターは発進した。

 みんなの顔がやや不安気味なのは……まあそれとこれとは関係なく普通にこういうのが怖いってことだろうか。志希さんは例外として。

 

 ……しかし、あれ……? このシート、やけに揺れるというか、自由だな。

 かなりこう、回転するというか、上下にぐるんぐるんと。逆に向いてない? ……いいのかこれ?

 そんなことを思っていると、もうジェットコースターの頂上に差し掛かっていた。周りを見ればみんな顔が強張っている。志希さん以外。

 

 ――――そして。

 

 

「……!?」

「きゃ――――――――ッ!!」

「びゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「イヤッッホォォォオオォオウ!!」

 

 

 勢いよく、体が「落ちる」。

 凄まじいスピードで体が振られ、上から下からくるくるくるくるくるくる……景色が揺れる! うォォンボクはまるで人間風車だ、いや違う!

 でもすごい。このジェットコースターってやつはすごい! スリルと、スピード感……怖いのも少しはある。レールの装飾にぶつかりそうなこの感じ、どんな声を上げたらいいのかさえ分からないこの緊張感、そして――――。

 

 

 ……やがて、コースが終わり、元の場所に戻ってくる。

 そんな中でもボクの心の中はさっきまでの興奮で煮えたぎっていた。他のみんなはなんとなくゲッソリした様子だけど、ボクと志希さんに限ってはそんなでもなかった。

 

 

「ど、どうだった氷……何でそんなに真顔なの!?」

「こ……これは、アレだな……怖いと言えばいいのか楽しいと言えばいいのかわからんがとにかく興奮してきてて、でも普段そんな表情作ったことも無いからどういう表情にするべきなのか迷ってる、そんな感じの表情だ……」

「よく学んどるな。まるで氷菓博士や」

「学んださ、地雷探知のためにな……」

 

 

 地雷って何さ。

 でも概ね晶葉の言ってることで正解だ。

 

 

「じ、実際どうだったぁ、氷菓ちゃん? やっぱり、怖かったよねぇ……?」

「ん、ちょっと怖かった」

「……ちょっと!?」

「それより楽しかった。そっか、ジェットコースターってこんな感じなんだ……」

「どうしよう亜子。変に基準上げちゃった」

「こりゃ色んな意味で大物やなー……」

「志希さん、後でもっかい乗ろう」

「いーよー♪」

 

 

 ぐるんぐるん回るこの感じ、スピード感。

 速い上に回るのね! 嫌いじゃないわ!!

 というかむしろ好きだ。改めてさっきまでのことを思うと高揚すらしてくる。最高にハイってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハハハーッ!

 

 

「♪」

「ひょ、氷菓がいつになく上機嫌になっている……こわ……」

「何か問題?」

 

 

 ボクだって嬉しけりゃテンションくらい上がるわ失礼な。

 

 

 ……さて。次は、オバケ屋敷だ。

 途中リタイア者も多くいるという噂のこのアトラクション、そりゃあもう当然のようにみんな表情は入る前から強張ってしまっている。

 約二名以外は。

 

 

「さっきも言ったかもしれんがもっと怖がれ君は!!」

「って言われても……」

 

 

 作り物だって分かり切っているのに、怖がるのはちょっと。

 行程は1km近くあるという話だったし、時間がかかって体力が尽きてしまわないかどうかという点は間違いなく懸念事項と言えるだろうけど……走らなきゃなんとかなるか。うん。

 

 それはそうと、入る前から震えた手でボクの肩を掴んで離さないさくらさんをなんとかしてほしい。

 この体勢、体重かかって結構辛いんだよね……。

 

 

「で……最初は誰だ?」

「名前順でお願いします」

 

 

 スタッフさんの指示に従ってそれぞれ名前順にペアを組む。

 トップバッターに晶葉と泉さん、次に志希さんと亜子さん、で、最後にボクとさくらさんだ。

 ……と、そのことに気付いた晶葉の額に汗が流れた。

 

 

「ちょ、ちょちょっと待ってくれ。トップバッターは私かぁ!?」

「うん」

「こ、ここは名字順ではなく名前をだな!」

「変わらないよ~?」

「……そうだった!?」

 

 

 たとえ名前順にしたとしても、「あ」きはと「し」きさん、それと「ひ」ょうかだから順番は今と何も変わらない。

 

 

「……もう覚悟を決めよう。行こう、晶葉!」

「う、うむ……」

 

 

 と、決心した二人は至極ゆっくりとオバケ屋敷の中に入って言った。

 そして、しばらくして。

 

 

「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああ!!」

「やっと出られた! やっと終わった! うわああああんよがっだあ゛ああああ!!」

 

 

 ――――すごい声とすごい顔で、二人がオバケ屋敷の中から出てきた。

 いつものクールさはどこへやら。普段涼し気な顔をしているあの二人がこんな表情で出てきただけあって、色んな意味で現場は大盛況だ。

 番組的にも最高にオイシイシチュエーションだろう。ボクとしてもあの二人の珍しい表情が見られてちょっと驚いている。

 

 

「あのイズミンがああまでなるとは……」

「ひえええええぇぇ……」

「さくらさん、あんまり力入れないで絞まる絞まるしまグエッ」

「わあああああごめんねぇ!?」

 

 

 そんな二人を見て服の裾に手をかけていたさくらさんだが、あんまり力を入れすぎてボクの首元が絞まってもいた。

 流石にここで死ぬのは看過できない。

 

 そんなやり取りをしながら次の二人を見送ると、今度も中から悲鳴が――亜子さんのものだけ――聞こえてきた。

 志希さんの声も時々聞こえては来るが、だいたい笑い声か解説だ。それを聞いて更に亜子さんが悲鳴を上げる。どういうループだ。

 

 ともあれ、出てきた二人は至極対照的。叫び疲れて汗だくな亜子さんと比べ、いつもと同じ笑顔のままの志希さんが印象的だった。

 

 

「にゃははー楽しかった♪」

「わ、わからん……全然わからん……何が楽しいことあるんやこれ……」

 

 

 ……憔悴しきった亜子さんのことはいったん泉さんと晶葉に任せるとして、次はボクらの番だ。

 

 

「さくらさん、そろそろ」

「う、うん……」

 

 

 体勢は相変わらずだ。でも他にやりようもないし、このまま行こう。

 スタッフの人に告げてオバケ屋敷の中に入れてもらうと、まずはビデオを見ることになった。どうやらこれで施設のバックボーンを説明しようということらしい。

 映像でも様々な恐怖シーン、怪奇シーンが流れている、その度にさくらさんが小さく悲鳴を上げる。

 

 しかし、医者が自分の立場を利用して違法な人体実験を繰り返していた……か。なんとなく身につまされる話だ。

 人体実験を受けた側に全くメリットが無くて、その上全くの無駄死にってところまで同じだ。そのせいで無念を抱えた魂がこの廃病院の中に漂っている……とか。

 うんうん。あんな意味無いことにつき合わされて死ぬなんて勿論無念だよね。分かるってばよ。

 

 その後、アトラクションの中に入っていくと、更なる怪奇現象――まあ、作り物だけど――に見舞われた。

 恨み言を呟く少年の声。背後から襲い掛かってくる怪物。そんな中でもなかなか開かない扉――――。

 

 

「キャアアアアアアアアア!! ひやああああああああ!! うわああああああああん!!」

「大丈夫? さくらさん」

「何で氷菓ちゃんは平気なのぉ!?」

「うーん……ボクが同じ立場になったら同じことするかもって思うからかな?」

「えっなにそれこわい」

 

 

 ドン引きされた。

 心なしか周囲から僅かに感じていた視線さえ熱が引いている気がする。

 いや……でも普通の考えだよね? 悪霊ってことにはなってるけど、自分を殺した人に怨みを抱くのは当然だし、生きてる人に嫉妬するのも当たり前だ。羨ましいと思っているのかもしれない。ボクだってあっちで母親と再会でもしたらまず顔面に一発叩き込む。

 それと似たようなものだろう。ボクはこうして別世界とはいえ、二度目の生を得られたんだからまだ良い方だ。死んだままとなれば怨恨も当然、恐ろしいことになっているはずだ。分かるってばよ。

 

 しかし後ろから襲ってきた怪物役の人、ボクのこと見るなり身震いしてそのまま立ち去っていったな……もうちょっと本気でやってくれないだろうか。目の前まで近づいてきてくれたら流石にちょっと怖かったかもしれないのに。

 

 

「♪」

「そ、それ何の鼻歌……?」

「『DIE SET DOWN』ってやつ」

 

 

 モツっぽいものがそこら中に転がってるし、なんかそれっぽい感じがする。

 例の人体実験を施した医者も明らかにサイコすぎて生まれるべきじゃなかったし。

 

 

「怖くないのぉぉ……!?」

「別に本物がいるわけじゃないしねぇ」

「ほ、本物見たことがあるのぉ……?」

「流石に幽霊は無いよ」

「……『は』!?」

 

 

 純粋な霊的エネルギー体である幽霊という存在を目にするのは極めて難しい。あっちの世界ではそもそもそれを認識するための受容器が整っていなかったのだから余計にそうだ。

 でもゾンビは見たことある。ゾンビパウダーみたいなものも普通に作れたし、作らされたし……あっちじゃ麻薬とかそういう類のそれじゃなくて本当にゾンビ作るものなんだよね。とんでもないことに。

 

 

「氷菓ちゃんが度々分からないよぉ……」

「人間、他人のことなんてよく分からないものだよ」

「年下なのに年上みたいなこと時々言ってくるよぉ……」

 

 

 これはさくらさんがちょっと幼さを残しているだけじゃないだろうか。それ自体は悪いことじゃないし、そういうところは残してた方が良いとも思うけど。

 本人が気にしているなら言うべきでもないか。

 

 そうこうしている内に、アトラクションも終わる。結果、出てきたのは清々しい表情のボクと色んな感情を含んだドン引きのさくらさんだった。

 放心しているようで、目の前で手を振っても反応が無い。大丈夫かな?

 

 

「二人とも、どう……元気そうだな氷菓は」

「さくらは……ダメそうね……」

「どうだったー?」

「色々勉強になったかな」

「何言ってん……? いやホント何言ってん……?」

 

 

 いや勉強になったよ。こういうアトラクションの作り方とか。他の人はどういうシチュエーションで怖がるかとか。

 ボクの常識、割とズレてるからその辺の補正にはちょうどいい。普段は別に普通というか、常識も備わってると自分では思ってるんだけど、いざ普通と違う状況に置かれるとギャップが出てくるし。

 

 

「怖いとかは……」

「作り物でしょ?」

「作り物だよね?」

「……うん二人はそうなるよね……」

 

 

 晶葉が怖がるのが不思議という人もいるだろうけど、晶葉は晶葉でかなり常識を弁えているし、感性もそうだ。ただロボットのこととなると自分からそれを突き抜けることがあるだけで。

 と、そんな話をしていると、スタッフさんがこちらにやってきた。

 

 

「皆さん、本日はお疲れ様です。今日の行程はここまでになりますので、あとは自由時間にしてください。我々は撤収しますので」

「はい、お疲れ様でした」

「お疲れでしたー!」

「お疲れ様です」

「あ、すみません白河さん、ディレクターからちょっと伝言が」

「はい?」

「ちょっと白河さんの顔抜いても使えない部分が多いので、出演時間が短くなりますが……という話で」

「あ……すみません、表情、普通すぎましたか……?」

「いえ、そういうわけではなく……視聴者が不安になるとか……」

「?」

 

 

 視聴者が? 不安に? ……何で?

 

 

「何でも、怖がらなさすぎて怖い、あと目が淀んでるとか何とか……後半はこっちの機材トラブルですね。すみません」

「いえ、お気になさらず。他は使えるんですよね」

「はい」

「良かったです。なら、その分他の人を映してください。あと、ボクの一存だとどうとも言えない部分もありますので、最終的な調整は担当Pの方とお願いします」

「ありがとうございます。それでは」

 

 

 ちょっと残念だけど、明確な理由があるなら仕方ない。潔く諦めよう。

 幸い、FROSTやフルボッコちゃんでメインクラスに抜擢されただけあって、今はボクの方がメディアに露出する機会が多い。今回は二人の方が多く取り上げられると言うのならそれに越したこともないだろう。

 さて。

 

 

「それじゃあ今度こそ遊びに――――」

「ちょ、ちょっと待ってぇ……今遊びに行くのキツいよぉ……」

「……それは確かにな」

「ちょっと休憩してから行かない?」

 

 

 ……そういうことになった。

 その後休憩のために向かった食事コーナーで軽食を摂ったのだけど、こういう施設の食事というのはいやに高いなと思って結局それほど食べられなかった。

 もしかして何か特別な味付けでもしてあるのかと思ったらそういうわけでもないし。

 マズくはないけれど、だからってここで食べるほどでもないな……と思っているとやっぱり他のみんなから変な目で見られてしまった。

 解せぬ。

 

 そんなこんなで休憩して十数分。

 ボクはまたもう一度ジェットコースターにやってきていた。

 

 

「ん~好きだねー氷菓ちゃんも♪」

「うん。なんか好き、これ」

 

 

 スピード感、回転感、それに――――そうだ。それだけじゃない。

 それが何なのかはよく分からないが、それでも何か、求めてるものが見えるような気がする。

 だから好きだ。この感じを味わうのが。

 

 

「ひゃー♪」

「……っ!」

 

 

 二度目の感覚。この浮遊感。こんな感覚をなんだかずっと求めてた気がする。

 もしかしてこれが、イヴさんの言ってた「最初」なんだろうか。いや、それそのものじゃないとも思える。

 でも、間違いなくこれも手掛かりの一つではあるようにも……。

 

 

「も一回」

「え」

 

 

 三度目、四度目、五度目……何となく掴めてきそうな気がする。

 スピード……いや違う。回転? というのも違う気がする。いや、もしかすると完全なる自然の美、黄金長方形の回転が関係してくるのか? 黄金比それ自体も錬金術に大いに関係してくる事象だ。ボクにとっての何か、というあたりが関係してくる可能性は大いにある。

 だけど、それも違う気がするんだよな……じゃあ何だろう。でも確実に何かが……。

 

 

「ごめんあたしギブアップ~……」

「えっ」

 

 

 六回目に差し掛かった頃、唐突に志希さんがそんなことを言い始めた。

 ……えっ?

 

 

「え、無理?」

「流石に疲れたよ~……ぶっ続けは疲れない?」

「ご、ごめん。ずっと物思いにふけってて」

 

 

 ……こうなると流石にどうこうできないな。頭を下げて謝りながら、二人でジェットコースターを降りる。

 降りてみると、別のアトラクションに行っていたみんなが待っていて、呆れたような表情でボクら、というかボクの方を見ていた。

 

 

「よくそこまでやれる体力があるな……というか大丈夫なのか? 吐きそうになったり」

「ボクは別に」

「あたしはちょっときつくなってきた~……」

「ごめんって」

「何でモヤシの氷菓の方がピンピンしているんだ……」

 

 

 三半規管ぅ……ですかねぇ……。

 あと単に研究・探求が目的になってきてそういうのを度外視する段階に入ってきたから、のような気もする。

 

 

「それより、他のにも乗ったら? ほら、あっちの方ならまだみんな乗れそうだから……」

「ん、そう?」

「うんっ、あっちは大丈夫だよぉ!」

「せやな。というかあっちは前も乗ったしな」

「ふぅん……あ、志希さんどうする?」

「休みゅ~……」

 

 

 置いてくってのもちょっと忍びないけど……比較検討も大事か。

 一つだけを見て判断するっていうのも、考えてみたらあまり良くないことだろうしね。

 

 

「うん、次あっち行ってみる」

「よし、じゃあ行くか。その次は――――」

「? 十回くらい乗らないの?」

「「「「無理!!」」」」

 

 

 全力で拒否されてしまった。

 

 ……普段ボクのこと散々虚弱貧弱脆弱って言ってるじゃないか、と思わなくもないけど、変に強行するのもそれはそれでみんなに悪いか。探求はいずれ、一日休みができた日に一人でやるとしよう。

 

 でもなぁ。できたらみんなで乗って楽しみたいって思いがあるのも……確かなんだけど。

 ……みんな、一緒に十回くらい乗ってくれないかな。






 好きなことに対してなら体力ももつのです。
 子供って割とそういうところありますよね。

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