青空よりアイドルへ   作:桐型枠

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26:はろーわーるど

「そんなわけで次の企画は『星空にほえろ!』っていう刑事ドラマで」

「誰だよこんな企画通したの」

「いつものスタッフだよ」

「またあのスタッフか」

「また馬鹿映画か」

 

 

 ――――その日、プロデューサーからボクたちに告げられたのは、バカ映画出演の要請だった。

 

 ……何? いつものこと?

 その通りだ。そしてそれが仕事である以上応じなきゃいけないのもまたいつも通りのことだ。

 いつものことすぎてなんも言えねえ。

 

 

「おいおいみんな、そう嫌そうな顔しないでくれよ。なんと! 今回はスターライトプロジェクト全員参加、それも連続ドラマだぞ!」

「うわぁ」

「みんな! 一斉にドン引きするのはやめよう! な!?」

 

 

 ははーん、これ紛れもなくバカドラマだな?

 みんなの気持ちが一つになるのがよく分かった。

 

 

「ちなみに主演は?」

「あ、ごめん、主演(そっち)は実はうちじゃなくってセクシーギルティの三人なんだ」

「なーんだ」

 

 

 ややしらっとした空気が周囲に流れた。そりゃそうだ。おらがおらが、ってわけじゃないけど、こんな語り口から告げられた衝撃の真実なんだし、みんなもっとこう――この17人の中から選ばれると思わざるを得なかったのだ。こればっかりは、プロデューサーの伝え方もちょっと良くなかったんじゃないかなぁ、と思う。

 でも当然っちゃ当然だ。刑事ドラマなのにあの3人がいなくってどうする。3人が、っていうか正確には早苗さんが、か。

 

 

「というか助手、最近そういう仕事ばかりで私たちが本当にアイドルだか分からなくなってきたぞ」

「そっちに関しては任せておいてくれ。今月中に合同ライブイベントに単独ライブ&トークなんかも目白押しで入れてあるからな!」

「ホント変なところで有能よね……」

「それも良いところですよ~♪」

 

 

 有能……なんだけどなぁ。何で毎度毎度変な企画を持ってくるのかなぁ……。

 もう変人っぷりはアピールしなくていいからもっとちゃんとした有能っぷりをアピールしてほしいんだけどなぁ……。

 ただ、晶葉の言うことにも一理ある。ここんとこエリクシアの三人はドラマ撮影が多くて、アイドルっぽいかと言われるとそれもちょっと違うような気がしてきたところだ。これむしろ女優とかそっちの方面だろうし。いや、プロジェクトの本義としてはそれも間違っちゃいない。色んな方面に幅広く対応できるように、っていうのがあるんだから。

 

 

「で、どういう感じの役なんですかぁ?」

「ん? タイトル聞いてもらったらなんとなく分かると思うけど……」

「あれ? みんな知らないの~?☆ いや、マジ?」

 

 

 しゅがはさんを除き、みんな揃って周りの人と眼を見合わせた。

 いや――そりゃあ、名前くらいは知ってる。けど、実際に中身まで知ってるって人はこの中にはいないんじゃないかな……。

 これもジェネレーションギャップってやつだろうか。プロデューサーとしゅがはさんが一斉に慌てたのがよく分かった。

 

 

「えーっと……つまり何人かは死ぬってことだよね?」

「ざっくりしすぎよ」

「えっ、み、みんなもしかしてその印象しかない……?」

「すみません根津様。はっきり言ってしまうと……」

「マジかよ……再放送とかやってなかったっけ……」

 

 

 いや、下手したら再放送しててもその印象が強い気がするんだけどどうだろう。

 それにそもそも全……700回超だっけ? そんな長寿番組、気軽に目を通せる長さじゃないよ。

 

 

「と、とりあえずあれだ。概略としては、『体当たりで必死に難事件に向き合っていく若手刑事たちの物語』って感じだから! で、この話はそれぞれの刑事(デカ)にコードネーム……っていうか、まあ、それぞれにあだ名がつけられていくんだ」

「あだ名……そういえばそういう話を聞いたことがあります」

「有名な話やからな」

 

 

 ジーパンとかゴリさんとか、そんな感じだったっけ。

 で……346のバカ映画、もといドラマときたら通例なのは役名=実名か。何だか今から色んな意味でハラハラしてきたぞぅ……。

 

 

「じゃあ一人ずつ名前とあだ名呼んでいくから、順番に台本取りに来てくれ。村松さん、ピンク」

「はぁーい」

「大石さん、マイコン」

「……プロデューサー、それ原作そのまんまじゃ」

「いいんだよ、リメイクみたいなもんなんだから! 土屋さん、銭ゲバ」

「待たんかい」

 

 

 ひでぇ。

 よりにもよって年頃の女子に銭ゲバ呼ばわりは流石にひでぇ。

 

 

「お、俺が決めたわけじゃないし……」

「許可出したんPちゃんとちゃうんかい!? いくら温厚なアタシでもキレるで!?」

「さ、早苗さんに言われたら俺も流石に逆らえないんだよ……」

「せやかてPちゃん!」

「と、とりあえずこの話は後にしよう! 白河さん、シロちゃん!」

「……うん」

 

 

 まともだ。

 とてもまともだ。今までの役は何だったのかってくらいまともだ。ようやく普通の人間に戻ってきたぞボク。

 これはこれで今までのことを思うとこれでいいのかと拍子抜けする部分はあるけど、これでいいのだ。きっと。ただいま人類。そしてさらば非人類役。多分その内また()ることにはなるというかボクのキャラクター性鑑みるとそうなるのは規定事項だろうが、とにかくまたいずれ会う、というか遭う日まで。

 

 

「池袋さん、ロボコン」

「うむ」

「一ノ瀬さん、ケミカル」

「もっと際どいところ来ると思ったけどマトモだったにゃー」

「そりゃマトモだよ。クラリスさん、腹ペコ」

「ま、まあまあまあ……何故そのような……?」

「何ででしょうね。イヴさん、サンタ」

「はぁい!」

 

 

 ……だいぶ裏事情が明け透けだけどいいのかこのあだ名?

 本当にプロデューサー関わってない? 大丈夫?

 

 それから次々呼ばれていく面々。マキノさんは007から取ってボンド。頼子さんはアルセーヌ。芳乃さんはウラナイで聖ちゃんはモッチー。こずえちゃんが妖精。肇さん、みちるさん、七海ちゃんはそれぞれ陶芸、パン、お魚のあだ名が与えられたことが分かった。

 やっぱりこれプロデューサー関わってるよね?

 

 

「オイプロデューサー☆ はぁとはまだ?」

「分かってるよ。最後にはぁとさん、甘党」

「待てや☆」

「…………」

「こっち見ろよオラ☆」

「お……俺は反対したんだよ?」

「結果通っちゃってるじゃねえか☆」

「はぁとちゃん!」

「おうよ☆ プロデューサー後で別室な☆」

「…………べ、弁護を……」

 

 

 ちらりとプロデューサーが助けを求めるようにこちらに視線をやったが、自業自得ということにしておこう。

 止める権限はあったのだし、ボクから見てもこれはひどいと言うしかないのだから。

 というかあまとうって。えーっと……天ヶ崎竜馬(あまがさきりょうま)……じゃなくて、鬼ヶ島羅刹(おにがしまらせつ)……も違った。315プロ所属の天ケ瀬冬馬(あまがせとうま)さんっぽいあだ名だな。

 ……普通にはぁとでいいんじゃねえかなぁ……。

 

 

「お前が自己弁護するんだよオラッ☆」

「黙秘は許さんで……」

「た、助けっ」

「無理」

「無茶だよぉ」

「無理れす」

 

 

 もはやここまでだ。諦メロン。そんな思いでプロデューサーを見ると、絶望顔のまま別室へと引きずられていった。

 ……南無。

 

 

 

 @ ――― @

 

 

 

 衝撃の発表から二時間ほどして、ボクはクラリスさんと肇さんと一緒に近所にあるうどん屋へ来店していた。

 ここのうどんは、やや細めだがコシのある麺と、関西風の淡い見た目ながらもパンチのある美味しい出汁が特徴だ。その出汁から作る親子丼やカレーもまた美味しくて、本来の主役であるうどんを差し置いてそちらばかり頼むという人も見られる。

 

 ということでボクは親子丼(小)を。肇さんはきつねうどんを。クラリスさんは月見うどん(大)とカレーをそれぞれ目の前に置いて、机に向かい合って座っていた。

 さて。このパターンとなるとあのパターンかな。それともあっちのパターンかな。どっちかな。そう思いながら、ボクは恐る恐るクラリスさんへ切り出した。

 

 

「……ドラマの話?」

「さようでございます」

 

 

 あーそういうことね完全に理解した。

 うん理解した。まあこれ以外に無いわな……。

 

 

「演技が……ってことだよね」

「……そうなんです」

 

 

 さっきの話の直後、二人にこうして連れ出されて来たんだけれど……色々ストイックな二人のことだ。何かしらあるとは予感していたし、実際その通りであった。けど……。

 

 

「傾向的に今回のドラマ、殆ど素の状態でいいと思うよ……?」

「そうなのですか?」

「うん……台本に書いてあるスタッフ構成見たんだけど、ボクがドラマ撮る時にいる助監督さんや脚本の人もいるんだよね。だから、多分そうだろうって」

 

 

 この手のクソドラマ・クソ映画のお約束として、基本的にそれぞれのキャラクターは、演者の素の状態に近い。一部例外(ボク)を除く。

 だから晶葉や志希さんも演技経験が少なくてもごく自然にやれた……って側面もある。時々、素の自分と違う方が演技しやすいという人もいるけど、今はそれは置いといて……他の人もある程度それは同じだと思うけど。

 

 

「氷菓ちゃん、それはいいんですけど……」

「棒読みになってしまわないか、というようなところが心配で……」

「あ、あー……」

 

 

 棒読み。役者にとっては致命的な欠点だ。

 どんなに優れた脚本やアクションであろうと、演者が棒読みであるという一点のみで評価が下がるというのも昨今珍しくはない。

 洋画の吹き替えで、話題性狙いで芸能人が起用されるのが敬遠される理由も、その辺にあると言っても過言じゃない。ハマり役ならともかく、そうじゃなければ失笑とブーイングを浴びることになるだろう。時にはそれがクセになるという人もいるが……割と希少な例だろうし今はそこは置いておく。

 ともあれ、これから先何をするにしてもこういう経験が無駄になるってことは無いだろう。今のうちに修正しておくに越したことは無いはずだ。

 

 

「じゃあ、本格的なところはトレーナーさんたちのレッスンでやっていくとして……ごく初歩的なところから始めていこっか」

 

 

 言いつつ、親子丼を口に運ぶ。小さめに切ってある鶏肉は、一口の小さなボクにとってはちょうどいいくらいだ。肉の一つ一つが小さい分、量は普通の親子丼のそれと遜色ないため、がっつり食べたいという人にも嬉しいんじゃないだろうか。

 

 

「初歩的なところですか?」

「うん」

 

 

 そう聞いた肇さんがお揚げを口に運ぶと、染み込んでいた甘めの出汁がうどんのつゆの中に滴っていく。

 クラリスさんは2杯目のうどんを店員さんへ注文する中、ボクは指を2本立てた。

 

 

「とりあえず2つかな。1つ目に今の自分の実力を知ること。2つ目に、もし演技力が足りなかったらどうなるかを考えること」

 

 

 今日のレッスンは……確か夕方からだったな。それまでは自主練習ということで、肇さんとクラリスさんの練習に付き合うことにしよう。

 

 

 ……そんなわけで、クラリスさんが3杯目のうどん(大)を完食するのを見届けた後、三人で寮に向かうことになったのだった。

 346プロの寮はその特性上、歌や楽器の練習をするために防音が整っている。今はレッスンルームが使えないこともある。DVDやBDを再生する環境もあるし、練習にはうってつけと言えるだろう。

 

 

「じゃあ、まずは声だけでやってみよっか」

「声だけですか?」

「うん。それだけでも、未経験だったらまだ難しいと思うから」

 

 

 予め用意しておいたボイスレコーダーの電源を入れて台詞を待つ。こほん、という小さな咳払いをした後、肇さんが口を開いた。

 

 

「ぼ……『ボス、彼らのアジトと思われる場所を張っていたら、新しい事実が、ばん、はん、めい……しました』」

「カット」

「うぅ」

 

 

 早くも、目に見えて分かりやすいミスだ。ボイスレコーダーの録音を一旦取りやめる。

 これに関しては、肇さんもよく分かるだろう。

 

 

「『判明』って文字が二行にまたがってたから読みづらかったのかな。でも、脚本ってこういう部分結構あるから、そこを気を付けてね」

「はい」

「それから、演技に入る前から結構照れがあったけど、あれはやっぱり良くないよ。一人照れると他の人も巻き込んじゃうから」

「分かりました」

「トレーナーさんのようですね、氷菓さん」

「それなりに場数は踏んだから多少はね。監督さんたちの指導も見てるし、それなりくらいには言えるよ」

 

 

 と言っても、やっぱり本格的なところに入ると本職に任せた方がいいのは違いない。こちらから教えられるのは基本中の基本くらいのものだ。

 ボクの演じ方は決して一般的なものじゃないし、変な癖がついてもそれはそれで申し訳ない。

 

 続いて、肇さんに教えた注意点をもとにクラリスさんが自分の台詞を読んだ。

 その後、二人の前にボイスレコーダーを置いて再生する――と。

 

 

『私、七曲署の、クラリスと、申します。少し、お話、よろしい、でしょうか』

「ま、まあ……まあ、まあ、つ、拙いものをお聞かせしてしまって、申し訳ありません……」

「初めてなんだからしょうがないよ」

 

 

 棒読み気味な、しかしそれでも本人からすると精一杯に抑揚と感情を乗せた台詞だ。初めてと考えると、これも悪くないと思う。

 そもそも初めてでできる方がおかしいんだ。志希さんとか、ボクとか。

 哀しいことに流石にここはおかしいことを否定しきれない。

 

 とはいえクラリスさんは――本人曰く拙い――自分の演技の声を聞かれてしまって恥ずかしくなったらしい。赤くなった顔をクッションで隠してしまった。

 

 

「自分の声なんてなかなか聞く機会無いし……こんな感じでやれば自分の悪いところも客観的に見る、っていうか、聞くことができるから、ここから修正していける、と、思う」

「成程、勉強になります」

 

 

 勿論人によってやり方が違うから一概に言えることじゃないけど。

 それに、あくまでこれも一人でやる時の方法であって、他に見てくれる人がいるなら見てもらって調整してもいい。

 小難しいこと言ってるようだけど、要するに練習を欠かさないように、という話だ。

 

 

「じゃあ、二つ目。これは……反面教師にしてほしいものがあるんだけど」

「何ですか?」

「これ」

 

 

 肇さんと、未だクッションで顔を隠しているクラリスさんへ一つ、取り出したDVDのケースを見せる。

 

 その名は――――映像化された拷問具(デビルマソ)

 

 

 

 @ ――― @

 

 

 

 二時間後。ボクの部屋に三つの死体が転がった。

 

 およそこの世のものとは思えない稚拙な映像美! 原作を知る人も知らない人も皆一様に葬り去る、スピーディーかつ大胆すぎるカットを多用した徒労感しか生まないストーリー! そして何よりも主役を筆頭とした演技力の欠如! あらゆる要素が観る人間の精神を殺すために作られたとしか思えない映画だった。

 ……奏さんに演技力の低い映画って知ってる? という話をした時にこれが挙げられていた。あの人、映画鑑賞が趣味というだけあって雑食だし、どんな映画も実際に観なければ批評する権利は無いという意見を持っているあたりある種高潔な精神の持ち主とも言えるのだけど……これ、有名だから試しに観てみたら……ってことなんだろうなぁ、多分……。

 

 

「棒読みと演技力の有無がどれだけ映像に影響を与えるか、これで分かってくれたと思う……」

「嫌と言うほど分かりました……」

「神よ、憤怒を抱いたわが身をお許しください……」

 

 

 肇さんは目が死んでいるし、クラリスさんなんか神に許しを乞うている。何て惨状だ。くそっ、デビルマソ絶対許せねえ!

 まあこの映画選んで持って来たのボクだけど。

 

 

「もう何本かあるけど、反面教師として観ておく……? テラフォーマーズとシベリア超」

「「勘弁してください」」

 

 

 賢明な判断だ。ボクとしてもできるだけ観たくない。奏さんと同じく、観ずに批評することはしたくないが、そもそも批評する以前にまず観たくない。

 別にボクだって二人の精神面を攻撃しようと思ってこんな映画を選んでるわけじゃないんだ。そもそも一緒に観てるボクだってひどくダメージを食らってるし。

 

 

「ま、まあ……これだけ色んなことが分かれば、初歩的なところはすぐできると思うよ」

「そ、そうですね。ありがとうございました、氷菓ちゃん」

「ううん。むしろこっちが謝らないといけないかも……」

「あはは……」

 

 

 まさかここまでヒドいとは思わなかった。他もヒドさのベクトルは違えど、非常にアレという評判を聞く。

 確かにボクは色んな意味でこう、346の中でもクソ映画部だとかクソドラマ部だとか言われるような部門のお世話になることが多い。しかしFROSTは真面目かつ二期が決定してるようなドラマだしフルボッコちゃんも人気特撮。どっちもストーリー自体は決して悪くない。しいて問題を言えば、スタッフの趣味が前面に出すぎて、何でこれで人気が出るんだ……? と、スタッフを含めて本気で首を傾げなければいけないところだろうか。視聴者に受け入れられている分にはもうスルーするしかないのかもしれない。

 

 ともあれ、そんなこんなで本格的なレッスンの前に一応の練習を終えたわけだけど。

 

 

「……あの、何でボクここに呼ばれたんです?」

「まあまあ」

「まあまあ」

「まあまあ」

 

 

 ――それから一時間ほどして、何故かボクは寮の娯楽室にお呼ばれしていた。

 まるで意図が読めないし意味が分からない。人選も……奏さんに小梅さんに小松伊吹(こまついぶき)さんに松永涼(まつながりょう)さんに……何だかいまいち共通点が見えない人たちなんだけど……?

 

 

「少し前、私のところに映画を借りに来たでしょう?」

「う、うん」

「そ、それで……ね? 折角だから……オススメの映画を見せてあげたいな、って」

 

 

 …………ああ!? もしかしてここにいるの、みんな映画好きな人たちか!!

 確かホームページの趣味欄を見たことがある。奏さんは元より、小梅さんと涼さんはホラー映画が好きだし、伊吹さんは恋愛映画が好きみたいに書いてあったはず……。

 

 

「というわけでさっ! 何か気に入った映画とかあったらいっそそっちの道に引きずり込むのもアリかなーって♪」

「引きずり込むって言い方もどうかと思うけどな……でも、興味持ってもらったら嬉しいような気持ちはあるよ」

「お、おおう……」

 

 

 なんだか眠れる虎を起こしてしまったような、それとも藪をつついて蛇を出してしまったような……そんな気持ちが少しある。

 いや決して悪いことじゃないんだよ。ただちょっと――うん。ちょっと、いや、かなり唐突かつ行動が早すぎるってだけで。ボクが映画観たいって言ったのを聞きつけてから全員集合するまでにどのくらいの間があった……?

 

 

「……あの、でも今から観ようと思ったら、できても二本がいいところじゃない? もう夕方だし、夕食食べてあと一本くらいで……」

「ん? 氷菓って明日休みでしょ?」

「うん…………うん?」

「たまの休みなんだ。いっそ、さ。夜通し鑑賞会と行こうよ!」

「えっ」

「ふふ……今夜は寝かせないわよ。なんてね」

「えっ」

「こ、怖いの……大丈夫? ふふふ」

「えっ」

 

 

 えっ。

 ……えっ。

 

 

「……えっ」

 

 

 その日、ボクは徹夜の際の深夜テンションに陥った他人というのを初めて目にし、自分は自分で割と疲労困憊に陥ってしまうのだった。

 しかしながら、恋愛映画もホラー映画もいずれも奥深く、楽しんで観ることができたのはいい収穫だったと思う。この件で四人との仲もそれなりに深まったと思うし、こういう経験もきっと後のためにはなるのだろう。

 

 それはそれとして、途中で乱入して「マタンゴ」と「恐怖! キノコ男」を置いていった輝子さんのことに触れていいものかどうか。

 

 

 




 *その日のTwitter

 S_Hyoka:映画鑑賞なう
 kamiya70:S_Hyoka マジかっ! くそーっ、あたしも呼んでほしかったなー! サマーウォーズとかジブリとか君の名はとかいろいろ持って行ってたんだけど!
 S_Hyoka:kamiya70 奏さんと小梅さんと涼さんと伊吹さんと一緒なう。みんな徹夜する気満々なう
 kamiya70:S_Hyoka がんばれ
 S_Hyoka:kamiya70 たすけて
 arakiHINA00:kamiya70 S_Hyoka [「もう寝なさい」の画像]


※ 5/11 微修正
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