青空よりアイドルへ   作:桐型枠

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33:合宿の夏、ツッコミの夏

 

 

 

 晶葉は激怒(ぷんすか)した。必ずやかの常識にとらわれたままのプロデューサーを説き伏せねばならぬと決意した。

 晶葉は社内政治がわからぬ。晶葉はアイドルであり天才ロボ少女である。けれども己の研究成果を発揮する場を奪われることには人一倍敏感であった。

 

 

「いや普通にアレはダメでしょ」

「納得いかん!!」

 

 

 ……というようなことがあったか無かったかは定かではないにしろ、ライブが終わってからの晶葉はちょっとおかんむりだった。

 まあ、別に本気で怒ってるわけでもなく、不満で頬を膨らませているだけだからかわいいものだけど。

 

 ライブが終わったのがだいたい5時前。流石にそれから本格的なレッスンというわけにもいかず、その後は軽い合同レッスンをして今日のところは終了。あとは自由時間ということになる。

 まあ自由時間とは言っても、お風呂に入ったり食事を摂ったり、あとは寝る前にみんなでお喋りしたりというくらいだけど。流石に今日は疲れたので、明日のためにも早めに寝ておきたいところだ。

 

 

「だいたいアレは花火の『ようなもの』であって花火じゃないから火は使っていないしいわゆる昼花火のように色の付いた煙という風でもないから見た目にも優れているぞ! それを何故こうも注意されねば……」

「いや本物の花火に勘違いされた時点でマズいからね?」

 

 

 本物じゃなくたってそれに「類するもの」であっても割と罰せられるのが法律だ。今回は悪気も無かったしお客さんも沸かせられたし、初めてだったということもあってちょっと注意を受けるだけで済んだものの、じゃなかったら今頃まだまだお説教を受けていることだろう。

 次やるときはせめてプロデューサーに確認を取ってほしいものだ。多分許可の一つくらいホイホイ取って来てくれるだろう。その辺本気で有能だし。

 

 

「世の中は窮屈だな氷菓……そうは思わないか?」

「ボクに同意求めるのやめてくれる?」

「窮屈だろう?」

「いや別に」

 

 

 渋い顔をされた。

 何故だ。

 

 

「公にできない才能があるというのは窮屈じゃないか?」

「あー……そういう」

 

 

 言われてピンと来た。そういう意味か。つまり、できること=錬金術について隠していくのは窮屈じゃないか、と。

 ……って。

 

 

「何その魔王が勇者を勧誘するみたいな語り口」

「むぅ。こういう言い方ならノリで同意してくれるかと思ったのだが」

「疲れてなければしたかもね」

 

 

 流石に今日は疲れた。レッスン自体は、ライブがあったからそんなでもなかったけど……海ではしゃぎすぎたのもあるし、何より愛梨さんとのライブだ。精神と肉体の両面で疲労がかなり蓄積してるのは間違いないだろう。実際、ライブ終わりにはもうフラフラもフラフラだった。

 ともあれ、そんな状態でさえなければボクだってノっていたかもしれない。

 

 

「早くお風呂入って寝たい……」

「私は少し不完全燃焼なのだがな」

「とときら学園の方で散々語ったんじゃないの?」

「だからこそと言うべきだな……語るだけ語ったからこそ他にもこう……ロボを作りたい……!!」

「……そこはアイドル活動の方にしとこうよ」

 

 

 ともあれ、そんなことを話していると、気付けばもう大浴場だ。

 もう何人かは先にお風呂に入っているらしく、いくつかの籠の中に既に服が収まっているのが見えた。

 じゃあボクも……と服を脱ぐと、晶葉がこちらに視線を寄越していることに気付く。

 やたらと悲哀に満ちた瞳だった。

 

 

「何さ」

「いや……相変わらずだと思ってな……」

「どーせボクは貧相で貧弱でちんちくりんだよ」

 

 

 晶葉だって知らないわけじゃなかろうに。

 確かに直に見る機会はそんなに多くないから、改めて見ればそんな風に思うだろうけどさ……。

 

 つい、と晶葉が端の体重計を指差した。

 

 

「……ちょうどいいところに体重計がある。ちょっと乗ってみたらどうだ」

「……まあ」

 

 

 まあ、改善はしてるんだ。問題は無い……はず。

 そう思いつつ、渋々体重計に足を乗せる。

 

 31kgだった。

 減っとる。

 

 

「減ってるじゃないか!!」

「きょ……今日は調子が悪いだけだし……」

「キミはいつもそうだ!! 呪われてでもいるのか……!?」

「前はそうだったけど今はそうでもないよ!」

「ならい……いや待て今何て?」

「前はそうだったけど」

「マジか」

「マジだ」

 

 

 意図せずして突いてしまった核心に晶葉はドン引きし、ボクは他の原因を探るべく記憶を思い返す。

 食事量は前よりちょっとは増えたし、筋肉量も言わずもがな。最近はちょくちょく間食も……そう考えたところで原因の一つに思い当たり、近くの冷蔵庫に入っていたコーヒー牛乳を引っ掴んで一気に飲み干す。32kgと表示された。

 

 

「よし!」

「よしじゃないが」

 

 

 そのままビンをひったくられるが、記名はボクのものなので特に問題はない。そういう問題じゃあないと言いたげな目をしているけど、実際これで解決なんだから問題無いったらないのだ。

 

 

「もしや前計った時もお腹に水分を入れていたとでも!?」

「いや違うよ! 今日さ、結局ずっと泳いだり動き回ったりライブしたり」

「溺れたり」

「してたでしょ?」

「訂正しないのか」

 

 

 そこは事実なのでどうでもいい。

 

 

「ともかくそんなだったから今日は消費した水分と摂取した水分が釣り合い取れなくなっちゃってたんだよ! 多分」

「つまり脱水症状……それってヤバいやつじゃないのか?」

「あのまま寝てたら多少は? でも今水分摂ったからOK」

「いやそんな簡単に体に回るものじゃ……なんてキミに言っても仕方なかったな」

「まあね」

 

 

 当然である。ボクの錬金術に常識は通用しねえ。

 基になるものがあって適切に錬成さえすれば、体内状況を操作するくらいなんてことはないのである。

 

 ともかく問題は解決したんだし――と浴室に足を踏み入れると、まず、ボクは合宿所にあるまじき広さに圧倒された。

 右を見ればサウナ。左を見ればしゅがはさんinジャクジー。正面には巨大浴槽。温泉宿でもないっていうのにこの充実っぷり。何かがおかしいと思わないでもないが毎度のことなのでツッコむ気も無い。346プロだしな。しゅがはさんだしな。そういうことにした。

 サウナの中を見れば、クラリスさん(B80)が涼しい顔をしていた。興味本位で入ってしまったのか、聖ちゃん(B82)は目を回してしまっていた。こずえちゃんは平然としている。いつものことだな。

 

 

「あっ、お疲れー」

「お疲れ様」

「ん、お疲れ様」

「うむ」

 

 

 浴槽の方には、既に亜子さんとマキノさんがいた。珍しい取り合わせだな、と思いつつ、ぬるめのお湯で体を流してお風呂に浸かる。泉質のせいかボクの肌の弱さのせいか、あるいは温度のせいか……ほんの少し肌がひりりと痛んだ。いつものことである。

 しかし、ああ、それにしても。

 

 

「アイス食べたーい」

「食べたらええやん」

 

 

 お湯の熱さに額に汗が浮く。

 

 

「あら、知らなかったの? 今の氷菓は禁止令が出されているのよ」

「え、何なん禁止令って……?」

「『氷雪属性付与(エンチャントアイス)』とか言いながら一時間に一つくらいのペースでアイスを食べてな……。私は心底シビれたよ。まあお腹は下したのだが……」

「……だって暑いし」

 

 

 言外に「それだけ食べるならもっと普段から食え」と告げられているようでもあった。実際そういう意図もあるだろうけど。

 ただ、こう……ボクにとっては燃料みたいなものなだけに、いざ食べないとなると、それはそれで変に不具合がとなったりならなかったりなったり……何にせよ体が求めているのは確かだ。

 体が求める。アイスクリームと言う快楽を。

 

 

「もしかして氷菓ちゃんアホなん?」

「今頃気付いたのか」

「あんまり人のこと(けな)すの良くないと思うんですけどー」

「だったら貶されないような生活習慣にするべきだろう……」

 

 

 むう、何も言い返せない。

 確かに客観的に見ればボクの生活習慣は良くないだろうしその自覚もある。だからって直す気も無いけど。アイスはボクの燃料みたいなものだ。

 

 

「暑いのは分かるけどね。何にしても節度ってやつよ、節度」

「節度ね」

 

 

 節度。節度――ボクの場合、守ろうと考えなくても勝手に守られてるというか、節度を守る守らないという問題に達する以前というか。

 たまにタガが外れることもあるけど、それこそ夏場のアイスくらいのものか。

 

 

「……そういえ……」

「どうした?」

「何か言いかけてやめたわね」

「……何でもない。やっぱいいや怖いし」

「何がだ……?」

 

 

 ……「そういえばここにいるの全員ライブの時も眼鏡かけてる人ばっかりだね」、なんて思ったけど、口に出すと春菜さんが突然現れるかもしれないと思ってやめた。

 常識的に考えるとありえない、ん、だが……その常識を超越したことを時折やり遂げる人だし、色々と怖い。今はお風呂入ってるから全員眼鏡外してるし。

 もしかしたら春菜さんはお風呂に入る時用の眼鏡とか持ってるかもしれないけど……。

 

 ともあれそんな感じで今日のお風呂は終えた。

 部屋に戻ったら春菜さんからメールが来て戦慄したのはまた別の話である。

 

 

 

 @ ――― @

 

 

 

「ふう、さっぱりした」

「いい湯だったな」

 

 

 それから少しして、晶葉とボクは揃って部屋に戻ってきていた。

 この合宿所、元は旅館なんかの宿泊施設だったようで、基本的に部屋の割り振りは二人、ないしは三人程度がセット、ということになっている。ボクと晶葉が相部屋だ。

 なお、晶葉とボクと志希さんをセットにした場合、ボクがブレーキ役をせずにそのままアクセルぶっちぎって“不運(ハードラック)”と“(ダンス)”る可能性が高いため、志希さんは監視目的でクラリスさんと相部屋になっている。今頃フラストレーションが溜まっている可能性もあるが、その辺は何とか明日以降発散してもらおう。ちょっとボクかプロデューサーの負担は増えるけど仕方ない。いつものことだ。

 

 

「さて」

 

 

 まだ九時前くらいだし、時間的にも余裕があるな――なんて思っていると、晶葉がふと、カバンの中から何かを取り出した。

 ……何か、というか、プラモの箱だけど。

 

 

「……それ」

「ん? ああ、いわゆるガンプラというやつだぞ! 知っているか? いや知っているはずだよな。私も人型ロボットを作るのに際してマジンガーやら何やらを見て参考にもしでぁぁぁぁぁぁーっ!?」

 

 

 晶葉がそんなことを語りながら箱を開く――と、既にランナーから全てのパーツを切り離されているのが見て取れた。

 というか、ボクが外から錬成して切り離したんだけど。

 

 

「何をするんだ氷菓!? というか今の『それ』って掛け声か!? そうだったんだな!?」

「近くでぱちぱちされると寝らんないし」

「お、おのれ氷菓……切り離すところも含めてプラモの楽しみ……いやそうでもないか……?」

「そこは言い切りなよ」

「いや……そのな、組み立てる時はいいんだが、実際ニッパーでぱちぱち切ってる時は結構面倒だなー……と……」

 

 

 正直ボクはプラモを作ったことが無いし、言ってることはよく分からないが……そういう葛藤が生じるだけの面倒くささはあるんだろう、多分。

 

 

「何もしてないのにバリもゲート跡も無いし……正直プラモを作るのには途轍もなく便利だぞ……」

「そ、そう……そんな言うほど?」

「……塗装もできるだろう、多分」

「まあできるけど」

「おのれこともなげに……」

 

 

 やろうと思えば今すぐでもパッとできるけども。

 ……というか晶葉、塗装までする人だったんだ……。

 

 

「モデラー……いや私はモデラーじゃあないが……が、本気で取り組んだら一日や二日で済まないものを一瞬で済ませるのは反則だろう本当に……」

「そう言われても」

「オマケにフルスクラッチだってできるとか……あー……でも塗装は自分でやりたい……うう……この何というかこのううううううん」

「なんかごめん」

 

 

 どうでもいいけどこういう時の晶葉ってなんか妙に早口だよね。

 人間、好きなことに対してはだいたいそうなるもんなんだろうか。そうかもしれない。その辺ボクにも覚えはある。具体的には開祖様との話の時とか……。

 まあ、いいか。ともあれだ。

 

 

「さて」

「おい」

 

 

 次いで、ゲーム機(Switch)を引っ張り出したボクの手を晶葉が止めた。

 ……何か問題が?

 

 

「今パチパチ音がすると寝られないみたいな繊細なこと言ってなかったか」

「言ったよ?」

「それ持ち出したということはまだ寝ないだろう!?」

「に……二、三十分やるだけだし」

「テレビに繋げる準備をしておいて二、三十分で済むか!」

 

 

 むう。またも一切否定できない。

 事実として、ボクは堪え性は無い方だし、その気になったら日付が変わるまでやり続けるくらいはする。というか十中八九やる。自分のことだからよく分かる。

 

 

「で……何をやるつもりなのかだけ一応聞かせてもらおうか」

「ゼノ剣」

「RPGとかがっつりやる気満々じゃないか」

「じゃあマリカーで我慢しとく」

「ああ、そうし……我慢……?」

「晶葉もやる?」

「やらいでか」

 

 

 普通に食いついて来た。結局やるんじゃないか。

 

 

「いい機会だし、他に誰か呼ぶのはどうだ?」

「聖ちゃんとか?」

「まだノビているだろう。七海とみちるでどうだ」

「いつものメンバーだ……」

「む? ああそうか。それもそうだな……」

 

 

 ぶっちゃけた話、四人プレイできるゲームなら、寮にいる時は晶葉の代わりに輝子さんか美玲さん、ないしは紗南さんが入っての四人というのがだいたいデフォである。

 そして決まってボクが最下位になる。みんな適応力高すぎる。多少は勝ちの目があると思ったんだけどなぁ。いや、そういう浅はかな考えがあるのが良くないのか。

 

 

「マリオにしよう。カートじゃない方」

「なるほど、そっちもアリ……いやちょっと待て。キミいくつソフト持って来てるんだ?」

「思いつく限りだいたい……」

「もうちょっと準備しろと言った手前注意し辛いがキミちょっとエンジョイしすぎじゃないか?」

「エンジョイする分には問題無いでしょ」

「一応仕事のための合宿だからな……?」

「そこはホラ、プロデューサーも『仕事は楽しんでやろう』って言ってるし」

 

 

 無論、詭弁である。でも自由時間ではあるんだから遊んだって別に問題ないよね。

 うん、ゲームやってたからって言い訳がきかないくらいに実力を見せればいいんだ。毎日のレッスンをエンジョイしながら完璧にこなして、その上で今までよりもワンランク高いパフォーマンスを見せる、それだけのこと。

 向上心を失ったわけじゃない。むしろ逆。何事に関しても全力で――本気で楽しんで取り組もうと思っているからこそ、だ。

 ……まあ、結局遊んでるじゃないかと言われると、それこそそうだねと言うしかないんだけど。

 …………遊びだって全力!

 

 

「うーむ……まあ、そういうことなら構わないか」

「構わないでしょ。それじゃやろー」

「うむ」

 

 

 ――――その後、結局熱中しすぎたボクたちだけど、ちゃんと布団に入ったのはそれから数時間後。一時を回るかどうかという時間だった。

 

 ……た、楽しいから問題無い……。

 

 

 

 @ ――― @

 

 

 

 さて、ともあれ翌日だ。

 半ば寝落ちのような形で寝ることになってしまったり、寝惚けてたのかあるいは寝相のせいか、朝目が覚めると晶葉の布団の方に潜り込んでしまったりしたわけだけど、ともあれちゃんと予定した時刻に起きることのできたので、一旦よしとする。

 ともあれ――朝食を摂った後は、レッスンのための事前ミーティングが始まることになる。

 

 

「さて、みんな集まってくれてありがとう。まず、全体練習に入る前に、このプロジェクト全体のリーダーを決めていこうと思う」

「リーダーですかぁ?」

「そう、リーダー。みんなそれぞれ独自の個性を持って活動してるだろう? それ自体はアイドルとして大事なものだけど、いざこのプロジェクト全体で一つの目標に向かって……ってなると、やっぱりみんなを纏める人が一人はいた方がいいと思うんだ。自薦他薦問わない。この人がいい、というのがあれば存分に――」

「はい☆」

「――挙手してくれ」

「おい無視するな☆」

「申し訳ない、はぁとさん。流石に『まとめる』って趣旨じゃちょっと……」

「キレそ」

 

 

 しかし妥当な判断ではある。

 しゅがはさん、どう考えても自薦で自分をリーダーに、って感じだろうし……その上で自分を前に前に出そうとするもんだから、流石にちょっとリーダーには向いていないと思う。

 

 

「それじゃあ、は~い!」

「はい、イヴさん」

「クラリスさんがいいと思うんですが、どうですかぁ?」

「クラリスさんか……そうだね、確かに性格面では問題なさそうだ。どうかな、クラリスさん?」

「まあ……そういうことでしたら、恐縮ですが……喜んでお受けいたしますわ」

「うん、ありがとう。それと――」

「まだあるの?」

「ああ。もう一つ。クラリスさんの負担を軽減するため、サブリーダーを決めようと思う」

 

 

 サブリーダー……つまり、クラリスさん(ニューリーダー)の補佐ってことか。

 確か、前に収録の時に美波さんに聞いたことがある。美波さんもシンデレラプロジェクトのリーダーを務めていたのだけど、無理がたたって夏フェスの時に熱を出して倒れてしまった、とか。

 サブリーダーの選出は、その時の反省を活かした形になるかな。うん、いいこと――のはずだ。下剋上を起こそうって人も流石にいないだろうし。いやいるかもだけど。監視下でそれをしようとは思わないはず。

 

 

「それでは、そのサブリーダー……マキノさんを推薦したいのですが……」

「八神さんかい? うん――みんなはどう思う?」

 

 

 一も二も無く、頷いて返す。マキノさんは時々面白がってちょっとトラブルを起こすけど、そうじゃない時はいたって真面目だ。プロデューサーが今ちょっと言い淀んだのは、以前のことを思い出したからだろう。情報戦略にも長けているし、判断能力も優れている。クラリスさん、優しすぎて時々なあなあにしてしまうようなこともあるけど、それを引き締めるという意味では最適かもしれない。

 同じように思う人も多くいたのか、特に否定意見も無くそのままマキノさんがサブリーダーということで決定された。

 

 

「よし、それじゃあクラリスさんがリーダー、八神さんがサブリーダーってことで決定だな。二人とも、何か挨拶があれば頼むよ」

「では――――僭越ながら、今回リーダーを務めさせていただくことになりました、クラリスでございます。皆々様におかれましては平時より大変お世話になっておりまして、このような立場に選出いただいたこと、たいへんありがたく思います。リーダーとしての役割と責任を果たして参りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたしますね」

 

 

 盛大な拍手で迎えられて、クラリスさん(赤面)はちょっと恥ずかしそうに席に座った。次はマキノさんの番だ。

 

 

「推薦、ありがとう。クラリスさんに足りないものを補うことができる、ということで選ばれたという信頼に応えられるよう努力するわ。この合宿中のみんなのマネジメント、任せてもらうわね」

 

 

 次いで、盛大な拍手に対して涼しい顔で受け止めるマキノさん。やっぱりこうして見ると好対照だ。

 優しく、しかし時に厳しく導いてくれるクラリスさん(女神)。冷静に、冷徹に……けれど確実に状況と情報を鑑みて行動できるマキノさん。二人とも年長者だけあって、非常に頼もしく思える。

 続いて、さて、とプロデューサーが立ち上がった。

 

 

「今回のフェスに対しては、みんなの意気込みとしても並々ならぬものがあると思う。今回の合宿は、そのフェスに向けた大事な合宿だ。この合宿を通して、みんなのライブが一段と素晴らしいものになるよう、祈って――いいや、確信してる」

 

 

 強い信頼の込められた言葉だ。否応にでも心が奮い立つ。

 どうやら、ボクは思ったよりこういう激励に対して心が奮えるタチらしい。 

 前世だと、人に認められるとかいうことが無かったからってのもあるだろうけど……今更それはナシだな。単にこれは、双方向の信頼の証だ。多分。

 

 

 

「ノウハウの蓄積ならある。分からないことや疑問に思うことができたら、遠慮せずに俺に聞いてくれ。もしも俺に分からないことだとしても、ツテを辿ってでも絶対に応える! 俺もみんなを信頼しているから、みんなも俺を信じてくれ!」

「あったりまえやん!」

「ふっ、今更だな」

 

 

 それなりに長いことプロデューサーと一緒に仕事しているおかげで、ボクらだってプロデューサーが信じられる相手だってことは知っている。時々頼りないけど。

 けれども、アイドルと――その笑顔に対する情熱が確かだというのは、誰もが認めるところだ。

 だからこそ、みんな口々にその言葉に肯定の意を示した。

 

 

「ありがとう。昨日はライブと収録でそれどころじゃなかったから――改めて、今日が合宿の初日だ。残り数日、ライブに向けて全力で取り組んでいこう!」

「「「「おーっ!!」」」」

 

 

 ――――ちなみに、水を差すようではあるが、プロデューサーはトレーナーさん以上にレッスンできるわけじゃないので、実質応援だけである。

 この合宿所、都内からそれほど離れていないので、レッスンの折々にトレーナーさんがやってきて教えてくれる形式だ。もっとも、そうじゃない日はみんなで自主練習だけど。

 

 ……みんなの前に立って演説してこのオチは、ちょっと締まらないかもな、と思わないでもない。

 

 

 






 余談ですが私はどちらかと言うと財団BよりK社派です。

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