今回は顔合わせということで大勢登場します。
「「ええええええぇぇぇっ!?」」
思わず、晶葉さんと声が重なった。
シンデレラプロジェクト――もう何も言えることは無いというほどに知名度と人気を獲得した、346プロの超人気アイドルグループ。
346プロなんておっそろしいバケモノ企業にアイドルとしてスカウトされただけじゃ飽き足らず、挙句にそんなトンデモプロジェクトに? ボクが?
マジで?
「げふっ」
「氷菓が倒れた!?」
「にゃはははははははははははっ!」
「ど……どうか落ち着いてください……」
胃が超痛ぁい。
最初からこのこと知ってたら、もっと先手を打って丁重にお断りもしに行けたのに!
呪ってやるぞ! あのバカ姉に呪いあれ!!
「……説明を、続けてもよろしいでしょうか」
「ど~ぞ~♪」
明るい表情で、志希さんがボクらの代わりに返答する。しかし、あの明るい表情……あれ、興味をそそられた顔だな、絶対。シンデレラプロジェクトの一言で眠気が全部ブッ飛んでる。
「……と、というか……何でそんな大事なことを黙っていらっしゃったんですか……」
「申し訳ありません。常……いえ、専務の意向です。『シンデレラプロジェクトの二期生を集めていることが大々的に知られれば、他社は必ず対策を打ってくる。名前は隠しておきなさい』と……」
「経営戦略か。ならば仕方ないな」
「……加えて、私の意向もあります」
「武内
申し訳なさそうに頷きながら、武内Pは自分の首の後ろに手をやった。
「第一期生――現『シンデレラガールズ』の皆さんは、笑顔の素敵な、素晴らしいアイドルたちでした。シンデレラの舞踏会が成功した今、シンデレラプロジェクトのユニットやそのメンバーは勿論、シンデレラプロジェクトという大枠そのものの知名度も高まっているのです」
「ふんふん。あ、つまりー……そーゆーコトかな?」
「……そうですね。このままシンデレラプロジェクトの二期生としてアイドルデビューすれば、ごく短い間に人気を獲得することも可能でしょう。ですがそれはあくまで『シンデレラプロジェクト二期生』としての人気なのです」
「私たち個々人が見られているわけではないと」
「その通りです。頭で理解してはいても、心のどこかで一期生のアイドルたちと『同じもの』を求めてしまう人は大勢いるでしょう。そのようなギャップがある中では、アイドルの皆さんも観客の方々も、本当の意味で笑顔になることはできません」
なるほど、一理ある。
ゲームで言えば、続編が出た時にあんまりにも前作とシステム周りが違いすぎて、変に黒歴史扱いされるようなものだろうか。そのゲーム自体には独自の魅力がちゃんとあるのに、「前作と違うから」という一点のみで受け入れられない、みたいな。
ならいっそのことタイトルを変えて販売した方が、独自の路線として独自の人気を得ることができる……ってところかな。この
「二期生に選ばれた皆さんも、個性豊かで魅力的な方々です。その魅力を正しく伝えるためには、シンデレラプロジェクトという名前を出すことができなかったのです。重ね重ね、申し訳ありません」
「あ、いえ、そんな、頭を下げていただくほどじゃ……」
それにしてもこの会社、アイドルのことをちゃんと考えているんだな。
武内Pのプロデュース方針が特別にそういう傾向が強いのかもしれないけど、曲りなりにもここに籍を置こうという以上、なんだか安心する。
「では、改めて説明を」
その後、しばらくは武内Pの作成した資料をもとに、第二期シンデレラプロジェクト改めスターライトプロジェクトに関する説明を受けた。
曰く、選抜メンバーたちにはしばらくの間レッスンを受けてもらい、その成果に応じて順次、ユニットとしてCDデビューしてもらうとのこと。本格的な出番は夏の定期フェスとなるが、それまでの間に小イベントやライブなどを通して経験を積んでいくそうだ。
メンバーとして選ばれたのは、ボクら三人を含めて十七人。多すぎねえかこりゃ。
……ともかく、この十七人の中から何人かを選定してユニットを組む、という話だが、なんでも、ユニットの編成は可変式なのだそうだ。
例えば、ボクと晶葉さんが普段組んでいると仮定して、時と場合に応じては晶葉さんの代わりに志希さんと組む……みたいな。
さっきからちょくちょく話題に上る専務さんと、武内Pとの協議の結果らしい。一つのユニットやグループに固執していては、アイドル個々人の可能性を広げることができない。それはアイドル本人のみならず、会社にとっての損失である……と。
だから、プロジェクトの内外を問わず積極的にアイドルの可能性を試す場を設けるため、ユニットそのものに高度な柔軟性を持たせておく、という。
アイドルグループの賞味期限はそんなに長くない。しかし、使い捨てなど論外中の論外。長く芸能活動を続けてもらい、積極的に商機を掴むため、今のうちにソロ活動も見据えておきましょうよ……というのが趣旨らしい。
また、武内Pはあくまで統括。一期生は舞踏会以降ソロ活動も増えてきたそうだが、彼女ら十四人のプロデュースに関しては未だ武内Pが受け持っている。流石にこの上二期生のプロデュースをしていくのは負担が大きいらしく、ボクら十七人の直接のプロデューサーは根津さんだという話だった。
そりゃ一期生十四人と二期生十七人、合計三十一人も同時にプロデュースなんて無理に決まってる。
……なんかやれそうな雰囲気はあるけど。まあ流石に無理だろう。
無理だよね?
「では、最後に質問などありましたらどうぞ」
「……はい」
「どうぞ、白河さん」
「選考理由って、聞かせてもらっても大丈夫ですか?」
「――――笑顔です」
きっぱりとした一言の後、晶葉さんと志希さんの視線が一斉にボクの方に向かう。
当たり前だろう。何せボク、ここに来てからっていうもの困惑顔と仏頂面ばかりで笑顔なんて一度も見せてないんだから。
「……と、言えるといいのですが、皆さんは根津君のスカウトで選抜されたので、私は選考にはそれほど関わっていないのです」
あ、そこはやっぱりそうなのか。
「しかし、彼の選んだ方々です。きっと、素晴らしい笑顔を見せてくれると、私は信じています」
「…………すみません。ありがとうございました」
全幅の信頼だった。
いや、でも――仮にも仕事を任せている以上、それは当然か。
まあ、詳しいことは後で根津さんに聞いてみよう。
「他にありますか?」
武内Pの問いかけに答える者はいない。
数秒ほど間を置いて、彼は一つ
「……無いようですね。それでは、これから別室で写真撮影と他のメンバーとの顔合わせを行います。根津君の指示に従って、移動してください」
「はい」
「うん」
「りょーかーい♪」
三者三様の反応を見せてオフィスを出ると、仕事を終えてきたらしい根津さんが待っていた。
しかし息一つ乱れてないあたり、やっぱこの人どこかおかしくないか……?
「みんな、お疲れ様。先輩から聞いていると思うけど、場所を移すからついてきてくれるかな」
そう告げてボクらを先導する根津P。足取りは軽快だけど、ついていけないことはないだけ幸いか。
エレベーターに乗って下の階へ。社内の別室に辿り着き、彼は扉を開いてボクたちを招き入れる。
「じゃ、入って入って」
導かれるままに部屋に入ると、そこには一般的に想像できる「撮影スタジオ」そのままの光景が広がっていた。
真っ白の反射板と、白い傘を利用した……レフ版、のようなもの。強い光を放つライトと多数の機材、機材……。
嫌でも346プロの資金力というものを実感させられる。ボク、これからここに所属していられるのか……?
そんなスタジオの片隅、待機用の部屋と思しき場所に、何人かの姿が見える。
あれが他のメンバー……なんだろう……と、思う、ん、だけど……何だろう。すごく、異質と言うか、異様というか……フリーダムというか。
ふわふわウェーブの金髪の女の子と、眼鏡のクールビューティー二人、それから黒髪のお姉さんは、一旦置いておこう。みんな美人だし、可愛い方々だけど、あえて今は置いておく。
問題は他の七人だ。清楚な服に着替えている、どこかで見たことのあるシスターさんに、なんか羽根生えてるパステルカラーの意匠に身を包んだスタイル抜群の美人のお姉さん(ツインテール)。さっきからフゴフゴ言って虚空を見つめながらパン食ってる女の子に、その隣に座ってメザシだかニボシだかをポリポリポリポリ口に運び続けてる子。果ては巨大なトナカイらしき生物を連れた白髪の女性まで、まあなんというかバリエーション豊かと言っても程がある。
加えて残る二人、眠たげに目を細める、妖精のように可愛らしい小さい子と、和服に身を包んだ栗色の髪の子……あの二人は何者なのだろう。神気というか、覇気というか。謎のオーラすら感じるほどのたたずまいだ。
え、何? 星晶獣か何かなの? いや流石にそれは無い。けど何だあのボクみたいな小物程度なら一瞬で消し飛びそうな雰囲気は。
「コフッ」
「しっかりしろ氷菓!?」
こ……怖いよぉ……一体なんだってんだよこの光景はよぉ……。
根津Pはいったいどういう人材集めてきてんだよぉ……。
「おーい、みんな! ちょっと来てくれ!」
精神的動揺によるダメージを受けているボクを他所に、根津Pは皆を手招きしていた。
しかし……ボクと違って志希さんも晶葉さんもダメージ受けてる様子は無い。ちょっと豪胆過ぎない?
「そちらの方々は?」
「よくぞ聞いてくれました、古澤さん! この三人は、今日このプロジェクトに加わってくれた新メンバーだ! はいみんな拍手!」
根津Pの号令に応じて、やや静かに……しかし、確かにボクらに聞こえる程度に拍手が巻き起こった。
……なんだか気恥ずかしいけど、そういうこと考えてる場合でもないか。志希さんと晶葉さんに向かって、自己紹介をしておこうと目配せする。まず最初に一歩を踏み出したのは、志希さんからだった。
「一ノ瀬志希でーす♪ 好きなことはハスハスすることー。ま、よろしくねー♪」
「池袋晶葉、天才だ。趣味はロボット作りだな。よろしく頼む!」
「……白河氷菓です。ゲームとか、アイス食べるのが好き……です。よろしくお願いします……」
……改めて考えると、ボクの自己紹介インパクトゼロだな。
いや、前の二人がちょっと爪跡残しすぎてるんだけど。
ハスハスとはどういう意味なのか。第一声が天才はいかがなものなのか。様々な意味で強すぎる。
「実は、あともう三人来ることになってるんだけど……先に自己紹介してもらおうかな。じゃあ、古澤さんから」
「あ、私……ですか? そうですね。
とりあえず、まずは一人ひとり名前と外見を一致させていくことから始めよう。
一人目は古澤頼子さん、か。全体的に清楚な雰囲気の漂っている女性だ。
雰囲気や口調とは裏腹にやや背が高い方に見えるが、声音は穏やかで威圧感に乏しく、どことなく和やかな印象を受ける。
「次は私かしら。
「どうでしょう。私は流れで言いましたけど、構わないのでは……?」
「そう。まあ、よろしく」
二人目、八神マキノさん。
この人も古澤さんと同じく眼鏡をかけているが、彼女とは異なり冷然とした印象を受ける。
クールビューティー、というやつだろうか。時折やっている眼鏡のつるを押し上げる動作がやけに堂に
「聖、どうぞ」
「はい……その、
望月聖さん。彼女はどうやら物静かで大人しめな子のようだ。柔らかい笑顔と、儚さすら感じるような淡い雰囲気を纏っている。
ボクや晶葉さんよりも背が高い辺り、「子」と表現していいのかは分からないけど。
なんというか、守ってあげたくなる子、というような印象を受けた。
「
こちらもやや大人しそう……というか、穏やかそうな女性だった。
言葉の一つ一つがしっかりとしていて、穏やかな中にも芯の強さをうかがわせる。
なんというのだろう。こう……チームリーダー向きの性格、というか。人を纏めることに向いていそうだ。
……さて、ここからか。
続いて、金髪の女性が前に出る。
「クラリスと申します。シスターとして神に奉仕する傍ら、こうしてアイドル活動に従事させていただくことになりました。池袋さんと、一ノ瀬さん……と、フフ。氷菓さんも、よろしくお願いしますね」
「……? 何だ、氷菓。知り合いなのか?」
「まあ、少し……」
シスター・クラリス。彼女については、知らないわけがない。ボクが暮らしてる施設にたまに訪問する、外国人らしきシスターさん。
同じく海外の血が入っていることもあってか――あるいは、ボクが施設の皆と距離を取っている場面が多いこともあってか、何かと世話を焼いてくれる優しいお姉さんではある。
ただ、外でこうして会うと気恥ずかしい。名前呼ばないでよぅ。
……で、だ。
「おっつスウィーティー☆」
「!?」
「!?」
「はぁーい! アナタのハァトをシュガシュガスウィート☆彡 さとうしんことしゅがーはぁとだよ☆」
うわキツ。
「あれぇ~? 反応が聞こえないゾ~☆」
「……さ、佐藤さん」
「しゅがーはぁとって呼んでね☆」
「え、でも」
「呼べ☆」
……シン? しん……あ、「心」!?
で、佐藤→砂糖!?
というか何なのこの人!? 急に絡んできたよコワイ!!
何なのだこれは! どうすればよいのだ!!
「ハイ次の人自己紹介行ってみよう」
「オイコラ☆」
根津P、すげえ。ここに割り込んで強引に進行させた。
敏腕司会者かよあんた。
「はい!
心なしか、晶葉さんがホッとした表情をしている。
うん……しゅがーはぁとさんに比べると、七海さんの方が薄味だよね。
けどそれ、天●一品食べた直後に背脂マシマシな醤油ラーメン食べて「そこまで濃くないな」って思うのと似てると思うの。濃いことは濃いよ、彼女も。
それはそれとして、彼女の腕に抱かれたぬいぐるみも、彼女自身の自己紹介もあって魚が好きなことがよく分かるいい言葉だったと思う。
なんとなく人懐っこそうで、舌足らずなあたりがその印象を助長する。可愛らしい子だと思う。
……で、次は。
「大原さん、自己紹介」
「フゴッ?」
――――何でまだパン食ってんの!?
あ、あれ二つ……いや三つ目!?
「フゴッ! モゴモゴ……んぐっ、ごめんなさい! 食べることに集中しすぎていました!
……す……すごい
一目見た時から分かってたけど、ボク程度の個性なんざ一足飛びに凌駕していきやがる。
へ……へへ……これが346のアイドルか……オラなんだか胃がキリキリしてきたぞ……。
……でも、まあ。溌剌としてて元気が良い、可愛い子ではある。
吸い込まれそうなくらい純粋そうな瞳に、ふわふわの――もしやクロワッサンでも意識していらっしゃる?――おさげ髪が良く似合っている。
「それじゃあ、イヴさん」
「はぁい。イヴ・サンタクロースです~」
「……!?」
「!?」
ん!? 何だって!?
いやちょっと待って!?
「グリーンランドからプレゼントを届けに来たんですがぁ~……ちょっとした事情もあって帰るに帰れなくなってしまいましてぇ。でも、根津さんに拾っていただいた上に暖かい家とお仕事までいただけました! 来年もちゃんとプレゼントを配ることができるように頑張りますので、これから一緒によろしくお願いしますぅ~♪」
あれ? 大きな星がついたり消えたりしている……あっははは……大きいや。彗星かなぁ?
いや、違う。違うな。彗星はもっとこう……バァーッて動くもんな……それにしても暑っ苦しいなぁ、ここ。
うーん…出られないのかな? おーい、出して下さいよ。ねえ!
「わけがわからないよ……」
「安心してくれ。俺も当事者だけど何がなんだかさっぱりだ」
「いいんですか当事者」
サンタさんやぞ。
多分本物だぞ。
いいのか。そんなことでいいのか。
「……そ、そちらのトナカイは?」
「ブリッツェンと言います~♪」
ブリッツェン。
「……な、なあ。確かブリッツェンと言えば、サンタクロースのソリを引くトナカイの一匹では……」
「……え、ええ」
……実によく懐いている。
もふもふだ。彼女にとってはアイデンティティに近しい存在なのかもしれないが、しかし何故撮影所に連れて来たのか、これが分からない。
宣材に一緒に写る気だろうか……。
「で……そのブリッツェンの背中で眠ってる子なんだけど……彼女は遊佐こずえちゃんと言うんだが」
「キミはチャイドルまでプロデュースしているのか?」
「違うよ!? こずえちゃん十一歳だよ!」
「えっ」
嘘やん。
「どこで拾ってきた!?」
「高知に出張に行った時に……」
「本当に拾ったのか!?」
「なんだか突然近くにいて……」
「ホラーか!」
ホントに個性派ばっかりスカウトしてんなこのPは!!
「よし、最後に芳乃さん!!」
アッこいつ強引に話を切り上げやがった!!
「わたくし、
――と、自己紹介の直後、スッと芳乃さんの視線がこちらに向けられた。
どこか、値踏みするような眼だ。何だか、心の中まで見透かされるような……。
「……ふむー。多少遠い場所であっても、特に問題はないゆえー。気兼ねなく頼ってくれてもよいでしょー」
……何だ!? ボク何を見られた!?
どういう意図の発言!? 何も分からなくてコワイ!!
「さて、そろそろ残りの三人も来る頃だと思うんだけど……」
どうやら、ボクが戦慄してる間に遅れてた三人も到着したらしい。
根津さんが扉を開けて三人の少女を招き入れる。遅れたのを取り戻そうとしてか、勢いよく入ろうとしすぎて転びそうにもなっていたが、なんとか持ち直したようだ。
「おっとっと……す、すみません!
「
「
どうやら、同じ電車に乗ってきた……三人の……友達同士、だろうか。
小さなおさげ髪を二つ頭の後ろに作っている可愛らしい女の子と、黒髪ロングの落ち着いた雰囲気の子。それと、ボブカットで、眼鏡をかけた……関西の子なのかな? 言葉のイントネーションにそんな雰囲気がある。
「……よし、全員揃ったみたいだね! それじゃあ、改めて自己紹介と行こうか!」
見れば、三人もブリッツェンやしゅがはさんたちを見て、驚きに目を剥いているようだ。
これからもっと驚くことになるのは…………多分、語るまでも無いだろう。
一応ですが、専務(常務)がやや丸くなった世界線です。
これで一応メインキャラは揃い踏みになると思います。
全員を一気に回しきるのは描写の関係上難しいので、2~3ユニット単位での出番になるかもしれませんが、なんとか全員分エピソードを描ききれればなと思います。