青空よりアイドルへ   作:桐型枠

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34:サマーギフト

 

 

 当初想定していたよりも、レッスンはやや難航している。

 ……まあ、あくまでボクの想定よりも、という話だけど。実際のところ、かなり堅調に進んでいる方だとは思う。

 そう、堅調には進んでいるんだ。ただ、ちょっとボクの見積もりが甘いというか、もっと上手くいくかな、なんて希望的観測があったからなんだけど。

 

 

「一度、中断いたしましょう」

 

 

 クラリスさん(実は碧眼)の出した号令に応じ、みんなが動きを止める。

 まだ止めなくってもいいじゃないか、と言外に主張する人もいないではないが、無言の圧力によって二の句を告げなくなっていた。

 

 

「まだ息が合っていませんね」

「流石にコンマ数秒まで問う気は無いけれどね……みんな、まだ自分の振り付けと歌詞で手一杯な部分はあると思うわ。ただ――こずえちゃん、それと志希さん」

「んにゃ?」

「にゃー……」

「……そうですね。お二人はやや、皆さんから先行しすぎているきらいがあります」

 

 

 うん――そう、問題はそこだ。

 二人は卓越した技量を備えているけど、惜しむらくは他の人よりも遥かに技量が先行しすぎているということ。

 ソロライブか、あるいはもっと少人数のライブであればそれも問題は無かっただろう。が、今回はプロジェクトメンバー全員でのライブ。重要なのは、目立つことよりも全体の雰囲気を調和させることだ。一人だけ目立ちすぎれば、それは全体の雰囲気の悪化に繋がり、完成度の低下にも繋がる。それではマズい。

 しかし、理解しているのかいないのか……こずえちゃんは小首を傾げていてよく分かってない様子だが、志希さんはいつも通りの表情のままだ。

 あるいは、それも含めて計算してやっているのか……ちょっと予測しきれないのが怖いところではあるけど、ボクとしてはほんの少しだけ理解できるような気はする。可能性程度だけど。 

 

 

「一旦休憩を入れましょう。再開は十分後にします」

「はーい」

 

 

 クラリスさん(実は寝ぐせが強烈)の号令で各自が休憩を取りに向かう。それに合わせて、ボクはボクで志希さんの方に駆け寄っていった。

 物陰の方――他の人からは見えづらい位置だ。これなら込み入った話もできるだろう。

 

 

「大丈夫?」

「何が~?」

「ん……いや、ちょっとね。志希さん、ちょっと気を張りすぎてないかなって」

「きおう? ……にゃははは! ナイナイ! この志希ちゃんがそんなことあるわけないって♪」

「ホントに?」

 

 

 じっと目を見つめると、爛々と輝くコバルトブルーの瞳が見つめ返してきた。

 いつもの、ともすると狂気的な色すら窺える輝きはそのまま。知性もまた同じく。しかし、その奥に僅かな迷い――あるいは、恐れ、のようなものを感じた。

 

 的外れならそれでいい。けれど――その違和感が、ボクにはどうにも見過ごせなかった。

 

 

「何か、怖がってない?」

 

 

 そう問いかけると、ほんの僅かに志希さんの肩が揺れた。

 表情は変わらない。けれど、その目は雄弁に動揺を表している。多分――図星だったのだろう。

 そも、「怖い」って感情は……正直、志希さんらしくはないけれど。それでも問いかける。脳裏に浮かんだ推論と照らし合わせるために。

 

 

「何に怖がってるように見えるー?」

「ボクら」

 

 

 正直なことを言えば、的外れなこと言ってるねー、なんて笑ってほしかった。けれど、そうはならなかった。

 志希さんは、ほんの僅かに目を剥いてボクの言葉に応えた。

 

 

「……ちょーっと、違うかなー」

 

 

 否定する割に、その表情は優れない。その様子が、余計に確信めいたものをボクに与えていた。

 

 

「でも、前『何も言うつもりない』って言ってなかったっけ?」

「そうだね。でも今回は仕事に影響が出てるようだし、あの時とはまた状況が変わったし」

「心情とかー?」

「心情とかー」

「にゃはは、あんなトコ行っちゃったもんねー」

「そうだね。おかげでボクもちょっと吹っ切れた」

 

 

 あちらの世界に行ったことは、少なからずボクの心にも影響を与えている。

 正直、一度口にしたことを覆すのもあまりずけずけと人の心に踏み込むのも好ましくないけど――でも、きっと志希さんの場合、踏み込まなきゃ何も話してくれない。

 ボクも、最低限距離を取ろうとしていたのは確かだ。けど、志希さんは多分それ以上に距離を取ろうとしていた。それをもう少し改善しようと思えば、ボクの方から首を突っ込まないといけない。じゃないと、この距離感は永遠に埋まらない。

 

 

「氷菓ちゃんって、猫みたいだよねー♪」

「志希さんもでしょ。でも何で?」

「近づいてったら離れてってー、離れてこうとしたら近づいてきて?」

「志希さんもでしょ」

「にゃはは♪」

 

 

 肯定も否定もしないあたりがなんとも――だ。いつものことと言えばいつものことなんだけど。

 でも、猫か。否定できないと言えばできないかも。……いやでも、どっちかって言うとボクもっと小動物というか痩せこけたハムスターとかそういう方向性の何かだろうけど。

 ……どうだろう?

 

 

「にゃあ」

「……!?」

「あ、流石に驚くんだ」

 

 

 身体をエルーンに錬成してネコミミを生やしてみたが、どうもよく分からない。志希さんの反応を見る限り、別に似合ってないとかそういう風ではないようだけど。

 ネコミミエルーンのセンさんを参考にしたりしてみたんだけど、どうなんだろう。とりあえず、他の人には見えないようにはしてあるけど……。

 

 

「かわっ」

「皮?」

「かわゆい!」

「えっ、わにゃっ!?」

「よぉーしよしよしよしよしよぉぉし! にゃははは、もふもふでかっわいー!」

「ギャフベロハギャベバブジョハバ」

 

 

 わっしわっしがっしがっしもふもふにふにふになでなでもふもふついでにもふもふ。延々と撫でられモフられハスハスされる。

 やっちまった、と思った時にはもう遅い。ひたすら両手で拘束され撫でられ続ける。

 コワイ! 何が怖いって、文字通りちょっと体イジって体組織も含めてエルーンにしてるから、撫でられてるとすごい心地いいのが怖い! こ、これ、あっ、これ志希さんの技術が卓越してるから余計にマズい! いや気分そのものは悪くないんだけどこのまま耽溺してるとそれはそれで休憩時間終わっちゃうし!

 くっ、力が強い! いやボクが弱いのだけれども。抜け出せない! からかってみようと思っての自業自得だけど! ぬわあああああああ!

 

 

「お……オ・ノーレぇぇぇぇぇ!」

「もふもふー」

 

 

 にゃーん。

 

 それから休憩が終わるまでの十分間ずっとモフられていた。

 我ながら、尻尾まで生やしてみたのは失敗だった。

 

 ……その後、結局志希さんはモフったおかげで極めて絶好調で他を置いてけぼり。

 憔悴しきったボクは絶不調ながら、今までの倍以上の疲労を感じつつもなんとかレッスンを果たした。次の休憩になる頃には半死半生という状態だったけれど。

 

 で、次の休憩になって。

 

 

「――――話を続けたいんだけど!!」

「にゃははー♪ うん、いいよー♪」

 

 

 ちくしょうボクがやらかしたこととはいえ上機嫌だな!!

 

 

「じゃあまずその手をわきわきさせるのをやめてくれないかな」

「だーめ☆」

 

 

 今度は志希さんの体組成変えるぞ。そう言おうとも一瞬は思ったが、多分それも嬉々として受け容れるだろうなぁと思って結局やめた。

 割とどころじゃなく志希さん自体かなりの無敵属性だからな……ボクなんか歯牙にもかけないレベルだ。言うなればハイパームテキだ。っょぃ。勝てなぃ。

 

 

「じゃあこのまま話させてもらうけど」

「折角だしおひざにカモーン♪」

「ノーサンキューで」

 

 

 流石にこの九割九分そのままハスハスされる流れに乗る気はない。下手するとそのままの流れでお山――いや、ボクの場合は平原か丘と言ったところだが――にイタズラでもされかねない。さっきに引き続きこれはマズい。またしても話がお流れになるパターンだ。もしかするとそれ狙いかもしれないけど。

 

 

「で――ボクの推論を語ってもいいかな」

「どーぞ?」

「志希さんは、みんなといることで自分が『普通』になることを、怖がってるんじゃない? ほんの少しだけど」

「どうしてそう思うのかな?」

「ボクがそうだから」

 

 

 ……だからこれはあくまで「推論」だ。同じ立場にあるからこそ、僅かにその瞳の中に共感できる感情を見いだせた――と、思いたい。

 だから、一応言葉としては、ボクは「そう」だけど、もしかしたら違うかも……というニュアンスを混ぜている。

 

 

「違うなら違うでいいよ。ボク、心の話については専門外だし。だからあくまで推論」

「にゃはは。それで核心に近づくあたり、マジなのかな」

 

 

 僅かに、志希さんの声音に真剣さが帯びられた。

 

 

「ちょーっとだけ、長い話になっちゃうけどいいかな?」

「……うん」

「だいたい30分くらい?」

「長すぎやしない!?」

 

 

 ……でも、だからって聞かないって選択肢も無い。まずはクラリスさん(視力2.0)にしばらく離れることだけ伝えておくとしよう。ボクらのレッスンに関してはそれほど心配は要らないというのは分かっているだろうし、許可もすんなり出る……と思う。

 聞いてみると、実際許可は出た。このレッスンのために、一度志希さんと話してみる……と言ったのが効いたのだとは思うけども。

 

 さて、ともあれ話はここからだ。

 誰もいないのを確かめつつ、砂浜まで一旦出る。流石に他の人に聞かせるのは躊躇いがある。

 

 

「あたしね、ちょっと前まで留学してたんだよねー」

「帰国子女だったよね。アメリカ?」

「そっちの方だったと思うよー」

 

 

 これ覚えてないな。いや、覚えててももう意識の外だな。

 そこまで興味無かったのか、もしかして。

 

 

「でもあんまり歯ごたえなくってさー? 普及、普遍化、単純化、量産化、簡単にして単純にして均質化してー。そういうの、飽きちゃったんだよねー」

「まあ飽きるだろうね、志希さんなら。それに――」

「――自分もそんな風に均質化されて普遍化される気がするんだよね」

 

 

 ……だろうね。

 科学、化学(ばけがく)、あるいは薬学、そういった専門的な学問は、最終的に一般人に「分かるように」するためのものとも言える。

 勿論、専門的な分野を専門的なまま突き進み、第一人者として研究の道に携わるということもできる。けれど最終的には、やはり普及化に動かなければならないことになるだろう。

 例えばテレビだとか、あるいはパソコンだとか――そういったものを広く一般に普及させたのは、世の中の科学者、化学者たちの功績が大きい。

 それがつまらないことだと言うのなら……志希さんからしたらそうかもしれない。いかに効率化させるかなんてことを追求するわけだし、徹底的に単純作業になっていくだろうし。

 

 

「周りに理解されるようじゃあ、ただの凡人でしょ?」

「ボクにはちょっぴり理解されかけてるかもしれないけど」

「ひょーかちゃんは比較的あたしに近いからねー。さもありなん?」

「そこまで近いかな」

「んー、考え方とかじゃなくって境遇とか、能力とかね? まあ、結果考え方も似ちゃったかもしれないけど。にゃはは♪」

「境遇……?」

「んー……ま、そこはチョコッとだけ」

 

 

 ……前から少し思ってたこと――志希さんは、ライブの度に誰かを捜してる。

 例えば、それが家族を探しているのだとしたら?

 ライブ会場に、家族の誰かが来ているのではないかと思っているのだとしたら?

 

 ボク自身、そうしているフシはある。もしかすると、実の母親が見に来たりしていないだろうか。実の父親が何か勘づいたりしていないだろうか――とか。

 まあボクの場合、そもそも見つけ出そうとするのが、前世の母親と同じように「ざまぁ」するためというやや後ろ向きな理由ではあるんだけど。我ながら陰湿だ。

 

 

「ひょーかちゃんも同じでしょ?」

「……そうだね。そう考えることはあるよ。もし錬金術を使えなくなったら――って」

 

 

 ボクの力は、言うなればあちらの世界から持ち込んだものだ。こちらの世界にいて唐突に消えて無くなってしまわないという保証はどこにも無い。こちらの世界で過ごす中で――何の力も持たないごく普通の人たちと接する中で、もしかすると錬金術が使えなくなるかもしれないという危惧を抱いたことはある。

 ……まあ、十数年と過ごす中、大して能力の減衰が無いことで、別にそんなことは無かったと気付きもしたけれど。

 

 正直に言えば今でもたまに思う。アイドル活動に際して、ボクの錬金術――というか、正確にはそこに付随する構造解析と模倣――は大いに役に立っているけれど、それが無くなればボクはただのか弱い生き物だ。そうなってしまったら、みんなに見捨てられてしまうんじゃないかとか……そういうことを考えることが、まあ、割とある。

 錬金術ができなきゃ、ボクはただの小娘だ。残るのは精々見た目くらい。それだって、錬金術が無けりゃもうちょっとみすぼらしい。ここしばらくの筋トレや走り込みで得た体力や筋力はあるけど、それだって一般人の平均を下回る程度。歌ならできる……かも、くらいかな?

 

 普通の人と一緒にいることで、「今までできたことができなくなってしまうのではないか」という不安を感じる。

 その一点に関しては、多分、ボクと志希さんは同じ、なのかもしれない。あくまで推論だけど。

 

 

「だよねー」

「ボクができることの殆どは錬金術由来だしね。それができなくなったらもう殆ど何もできないもの」

「でも、あんまり怖がってないよねー?」

「今はね。だって、怖がってもしょうがないじゃないか。そもそも、ボクが暮らしてたのってその『普通の人』ばっかりの孤児院だよ。もしその仮説が事実ならボクは今頃ただの人だって」

 

 

 そうじゃないってことは、つまりそういうことだ。

 人の才覚は、他人との付き合いそのものには影響されない。

 

 

「あたしの知ってるやり方はねー?」

「うん」

「冷たく、冷たく……冷たくした脳味噌に、アドレナリンをトッピング♪ だから、あったかいのは邪魔なんだよねー。あったかいと、なーんにも考えらんなくなちゃう」

「……本当に邪魔?」

「どうだろうねー?」

「――――本当に、邪魔なの?」

「んにゃっ」

「ギフテッドは、『一般的には』孤独で、だからこそ天才性が保たれてると思われてるけど、志希さんはその一般論にのっかる人じゃないよね? それこそ、『周りに合わせて自分のレベルを落とす』ことに繋がるんじゃないのかな」

 

 

 その言葉が出た瞬間、ボクは意を決して志希さんに抱き着く。僅かに沈んだその表情に光が差したのが感じられた。

 ――本当にそれが邪魔だと思っているのなら、志希さんはすぐにボクを振り払いにかかる、はず。けれど、そうはしない。

 しばらく、そのまま頭を撫でられ続けた。

 優しく――さっきよりも、ずっと優しく。

 

 

「暖かい?」

「うん。あったかいねー」

「……頭は、まだ冷たい?」

「……うん。不思議だねー♪」

「他の人もきっと同じだよ。ボクだけが特別なんじゃない。晶葉だってそうだし、クラリスさんもイヴさんも七海ちゃんもみちるさんも、みんな、みんな――同じだよ。誰といたって、志希さんの頭は冷えたまま」

「うん――そうだね♪」

 

 

 さっきも言ったけど、志希さんは、大概規格外だ。

 一般の尺度に当てはめて捉えられるほど、小さい人じゃない。それは一般に言われるギフテッドとしての尺度も同様。

 孤立していて、孤独で、だからこそその天才性が維持される――そんな風に矮小化されるべきじゃない。

 だからこそ、問題が表面化した今、それを口にしなければいけないと思った。

 

 ……思ったんだけど。

 思ったし、実際それが成功したようなんだけど。

 

 

「……あの、志希さん?」

「なーにー?」

「……暖かい通り越して……暑いんだけど……」

「にゃはははは♪」

 

 

 いやにゃははじゃなくって。

 ボク、上から抱き締められた格好になってるから志希さんの体温+日光+砂浜+海からの照り返しですごいことになってるんだけど。汗とか。意識とか。

 休憩前からそのまま話に入ったから水分補給もしてないし、ちょっとどころじゃなくマズいような……?

 

 

「いやその、もうちょっとだいぶ暑いというか、汗すごくって……そろそろ放して……」

「だーめ♪」

「いや、ちょっ……」

「にゃはは、だーめー♪」

「骨まであっためられるゥ!!」

 

 

 うおおおおおおおおあっちいいいいいいいい!

 水! 誰か水……いや水じゃなくてもいいからせめて冷風を! もうこの際海水を遠隔で錬成してなんとかするから! せめてもっと涼しくして! お願い!!

 

 

 

 @ ――― @

 

 

 

「おい何で氷菓が死んでるんだ」

「色々あって?」

「色々って何だ」

 

 

 色々である。

 志希さんにナデナデされて暑さに死にかけ、気分転換に食事を作ると申し出たら、「氷菓ちゃんが作ると食べ過ぎて太るので」と言われて許可が出ず、ついでに足を攣った。

 志希さんの件に関しては成功したと言ってもいいかもしれないけれど、それ以外は色々と空回り気味だ。そろそろボクは一回死ぬかもわからんね。毎度のことだけど。

 

 ともあれ、夕方。今日のレッスンも終了だ。

 志希さん以外にこずえちゃんもちょっと足並みが揃っていなかったが、そもそもあれは、あの子が加減するということを知らなかったがために起きたことだ。実際、手加減さえ覚えれば徐々に徐々に息も合っていった。

 元々、プロジェクト内の人間関係は円滑な方だったというのもあるし、プロジェクトそのものの方針として、後の活動のためにユニットの枠組みにとらわれないレッスンを元々していた――というのもある。志希さんとこずえちゃんの先行さえなんとかなれば、特に問題無くレッスンはこなせるのだ。

 それはそれとしてボクは死んだが。

 

 

「まあいつものことだから構わんが。おーい氷菓、そろそろ夕食だぞー」

「ボク作ってない……」

「いや作ってないのは関係なく食べろ」

 

 

 なんか色々やる気なくなった……。

 最近どうも料理が趣味になってきてる感があるから、その機会が失われると狼狽える悪癖がついたのかもしれない。本当にボクは精神薄弱だな。

 

 

「はぁー……」

「おーいあんまり気落ちするな私が志希のターゲットにされる」

「いーじゃんいーじゃん♪ たまにはいーじゃん?」

「いーじゃん……」

「疲れと気疲れでいつも以上にダウナーになっているな……」

「いや実際疲れるよ……」

 

 

 是非とも晶葉もボクと同じことやられてみてほしい。ボクと同じようにはならないかもしれないけど死にそうにはなるから。

 

 

「なあ志希、何をしたんだ?」

「ナーイショ♪」

「質問を変えよう。氷菓、何をされたんだ?」

「もう志希さんが何かしたのは前提なんだね」

「二人でいなくなってすぐじゃないか。そう考えるのが自然だろう」

 

 

 毎度毎度思うが、エリクシアの中でも晶葉は割と苦労人気質である。だいたいボクとローテーションする形でだけど。

 ダブルボケに対して一人がツッコミの比率だ。別にボクたちは芸人じゃないんだけどもうそういう感じでバランス取れてるしいいや……。

 

 

「で、何があったんだ?」

「説得したら」

「モフモフ」

「ちゃんとわからせようとしたら」

「なでなで?」

「うん、全然わからんぞ!!」

 

 

 そりゃそうだ。ボクも何が起きたかなんて説明し辛い。

 状況と状況が絡み合って結果何か妙な化学反応起こしたような感じ、としか言いようも無いし……。

 

 

「ひょーかちゃんがネコミミ生やしてねー」

「ちょっと今ここでやってみろ」

「晶葉にやるけどいい?」

「無理は言うまい。はははは」

 

 

 ちくせう。

 

 

「あ、そうだ。ドラフとかハーヴィンにはなれないのー?」

「ハーヴィンは骨格から変えないといけないし。ドラフは……足りないでしょ色々」

「まったくだ。どこから肉を持ってくるかという話になってしまう」

「んー残念。でも見てみたかったなー♪」

「やらないからね」

 

 

 エルーンはまだ尻尾生やしたり耳生やしたりくらいで大丈夫だったからいいけど、他は前準備をしないと難しい。

 前準備をしてもする気はないけども。だって絶対イジられるし。どこをとは言わないが。

 

 

「あ、そうだ。その内あっちとの通話ができるようになんとかしてみるから」

「なに?」

「ホントにー?」

「うん、ちょっと時間はかかるけど、試作品なんとかして作ってみようとしてるとこ。あっちで仲良くなった人たちもいるだろうし、今度愛梨さんたちに渡そうと思って」

「……そこまでできたのかキミは?」

「できるのだボクは」

 

 

 何せあの開祖様に認められたのだから。仮にでもできないなんて言えはしない。

 実際それができるからこそこの役が任されたとも言える。あちらとこちらの異世界間通信を可能にするというのは、ボクにとって新たな責務と言える。

 

 

「まだ実験段階だから、端末は一つだけだけど。繋ぎたいなら適当に誰かと繋いでみるよ?」

「本当か? では私はハレゼナと話したいところだったんだ」

「あたしはしばらくいいかなー」

「そう?」

「その代わりにひょーかちゃんモフモフしたいかなー♪」

「早急に誰かと話すか決めて欲しいな!!」

 

 

 ……志希さんへの説得は概ね成功したと言えると思いたいのだけど、ボクに対するこのモフモフ欲求を覚醒させてしまったのは失敗だっただろうか。

 少なくとも成功とは言い辛いだろうけど……まあ、他の成功で帳消しになると思えば、それでいいか。

 ボクじゃなくて本物のネコとか奈緒さんとか他のモフりやすい人を選んでほしいところだけど。

 

 

 






 志希にゃんの家族やらに関しては、主に[アイロニカル・エトランゼ]及びデレステのコミュ等を参考にしていますが、オリ設定も混ぜ込ているのでご注意を。
 また、家族への言及としてやや不十分な部分があったかと思われますが、原作設定に対して可能な限り矛盾を生まないよう明言を避けたかたちになります。ご理解いただければ幸いです。

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