青空よりアイドルへ   作:桐型枠

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39:ラビット&アイス

 

 

「今日も一日頑張ったゾーイ」

 

 

 フルボッコちゃんの収録と雑誌取材を終えたその日の夜。ボクは倒れ込むようにして自室の床に体を投げ出していた。

 時刻は午後八時過ぎ。ボクは強制HP1(コンジャクション)でも受けてしまったかのような疲労の中にいる。

 

 今日の撮影はアクションが多めで大変だった。ボクの体力を思えば普段から既に大変といえば大変ではあるのだけど、それを超えて大変というか……うん、なんというのだろう。今回は今期の佳境。フルボッコちゃんに対してブランが宣戦布告を行い敵に回る――というある意味最大の山場を迎えた今日、ボクの負担はマックスに到達していると言ってもいい。 

 迫る脅威! 最悪の状況での裏切り! そして最強の味方が最強の敵に! それを演出しなくちゃいけないんだからそりゃもうボクは今大変なことになっている。表情撮り、動き撮り、アクション撮り、ついでに裏で死ぬ。いつも通りと言われればその通りではあるが、それでも今日はちょっと濃厚だった。

 幸いなことに、この時間ならまだ寮の食堂は営業している。とはいえ残り十数分程度。急がなきゃいけないことは確かだった。

 

 

「お風呂は……」

 

 

 ……いいか。この時間なら人は少ないだろうし、汗は適当に分解すればいい。荷物だけ置いて早めに向かおう。

 大事なものもあるし、玄関に置いておくのも良くないし……と思いつつ、這いずるようにして内ドアを開いて部屋に入る。と。

 

 

「きゅ」

「……きゅ?」

 

 

 妙な声が、部屋の中から聞こえてきた。

 声。いや、鳴き声?

 何だ今の?

 

 慌てて電気を点けて部屋の中を確かめ、ついでに解析もかけてその正体を確かめる。

 それは――――。

 

 

「……う、さぎ?」

 

 

 ウサギ。ウサギ目ウサギ科の、あのウサギ。

 白くて、ふわふわで、なんだかやたらと首元の毛と耳が長いウサギがそこにいた。

 

 ……ウサギ? いや、うん、ウサギ……の、はず、だけど……。

 

 

「ウサギ……」

 

 

 うさぎ。ウサギ。ウサミン。ミミミン。いや違うそっちじゃない。

 ウサギ。ラビット。白い。長毛。耳長い。アンゴラウサギなんかの長毛種ともまた違う見た目。見たこと。無い。いやある。いや無い。ある? どっちだ?

 ……あっ!?

 

 と、その事実に気付いた瞬間、机の上に置いていた「あちら」と「こちら」を繋ぐ端末が鳴動した。なんともちょうどいいタイミングである。ボクは混乱しながらも後ろ手で扉を閉め、端末を手に取って応答した。

 

 

「氷菓です!」

『オレ様だ! そっちに何か行ってないか!?』

 

 

 そして、混乱の最中にあるボクの言葉に応じたのは開祖様だった。

 何かあったのかなぁとも思うし、このウサギの存在もそれに関わることかなぁとも思うけど……こっちの世界にいて何が起きたというのだろう?

 

 

「う、ウサギがいました。氷菓です!」

『いやお前がヒョーカなのは分かってるからちょっと落ち着け。死んだりしてないんだな? ひき肉になったりしてないんだな!?』

「してないですよ!?」

 

 

 何故そんなにスプラッタなことになる理由が!?

 ……なんて思っていると、開祖様は少しだけ安心したように軽く息をついた。

 驚いた。開祖様がここまで焦るなんて。明日は雪でも降るのだろうか。

 

 

『そりゃ結構。貴重なホワイトラビットが無意味に死なねえで良かったぜ』

「あ……やっぱりホワイトラビットだったんですか」

 

 

 ――――ホワイトラビット。空の世界では幸運の象徴として語られる希少な生物だ。

 棲息区域も生息数も限定されており、そのために気質も非常に臆病だ。当然ながら普通に暮らしていて姿を見ることはまずできない。だから、その姿を見ることができた人はその一日幸運になれる――のだとか。

 実際警戒心は強いらしい。ボクの目の前にいるこの子も、さっきからずっとこちらに向かって威嚇し続けている。可愛い。

 

 

「何があったんですか?」

『うちの騎空団でホワイトラビットの保護の依頼請けてんだよ。で、保護地になってる島に移送してる最中に脱走してな。オレ様の研究室に突っ込んでドーン! だ。現場にこの通信機があったんでまさかと思ったんだが……』

「うわぁ」

 

 

 何がどういう風に作用してこんなピタゴラスイッチが完成してしまったのだろう。

 いや、それ以上に――――。

 

 

「……開祖様、これ、偶然ですけど物質転送と生体転送が実現してるんじゃ」

『マジか。マジだ。……オイオイオイマジか!? マジじゃねーか!』

 

 

 大変だ。まったくの偶然と事故によってとんでもない現象が起きてしまった。

 これが運命的な大偉業ってやつか。違うか。いや何でもいい、この現象が起きたこと自体が問題なんだ。とんでもないことですよこれは。自分の意思で、ある程度自由に世界と世界を行き来できるなんて……。

 

 

『薬品の配分配合、それに衝撃の度合いやタイミング、温度湿度その他諸々……うおおおお全部すぐに洗い出して精査しねえと……! ああもう何で解析が得意なお前がそっちにいるんだよ!?』

「ご、ごめんなさい!?」

 

 

 理不尽である。

 そもそも今のボクはこっちの住人なわけで。

 確かに開祖様が言うならあっちにホイホイ戻ってってさっさと術理を解き明かすのもやぶさかでないが、現状その手段が無いのだからどうもこうもしようがない。

 

 

『オレ様の助手ができるヤツなんてそうはいねえんだぞ……あの馬鹿弟子はその点に関しちゃ論外だしグランのやつは死ぬほど忙しいしよォ……! ああでもやるしかねえ! ククク、楽しくなってきやがった……!』

「あ、あの、開祖様?」

『今は後にしろ! すぐに作業にとりかからねえと残留物質を調べられねえ!』

「あ、はい……すみません……」

 

 

 ――そのまま、通話は途切れてしまった。

 いや分かるよ。すごく分かる。錬金術師にとって未知を探求しようとすることは本能に近い衝動だ。原理不明の謎の現象が起きれば、混乱する以上に興奮する。現状のボクは疲労と混乱でそれどころじゃないけど、万全の状態の開祖様がこんな現象を見て発奮しないわけがない。今頃原理と状況とその他諸々を分解(バラ)して解体(バラ)して解析(バラ)してしまいたいと思って実際に行動している頃だろう。ボクも同じ状況ならそうする。クラリスさん(崩)はしない。

 

 ただ、ボク個人としてはその前にこのホワイトラビットをどうすればいいのかという指示をしてほしかったところだ。

 まあ、依頼内容から考えるとこっちで保護しとくのが妥当なところだろうけど。

 

 

「……どうしよっか?」

 

 

 軽く呼びかけるも、特に返事は無い。当たり前だけど、ずっと威嚇してきてるだけだ。

 危険度は極めて低いとはいえこれでも一応魔物の一種ではあるし、事情を知らない他人に任せるわけにはいかない。そもそもこちらに存在しない生物でもあるわけだし――そりゃもう色々と問題がある。可愛いけど。

 さて、どうしたらいいんだろう。

 ……寮ってペット可だっけ?

 

 

 

 @ ――― @

 

 

 

 後日、ボクはある人の家の前にやってきていた。

 築十年から二十年ほどの近代的な外観の一軒家だ。ごくありふれた造りの門には、「城ヶ崎」と表札が掲げられている。

 思えば、志希さんのマンションや晶葉の家、プロジェクトメンバーの人の家に行ったことはあってもこうして他の……特に、アイドルの先輩の家に行くのは初めてだ。

 そんなことを思いながらチャイムを鳴らすと、やがて中からぱたぱたと足音を立てて美嘉さんがやってきた。

 

 

「はいはーい、お待たせ! やっほ、氷菓ちゃん★」

「こんにちは。お忙しいところ、本当にありがとうございます」

 

 

 頭を下げると、美嘉さんは「いいっていいって★」なんて言って軽く許してくれた。

 受験の年度だというのにこの対応、本当にありがたい話だ。

 

 今回の件の発端は、今朝までさかのぼる。

 同じ寮生でかつあちらの世界に行ったことのある小梅さんに軽く相談してみたところ、「じゃあ美嘉ちゃんに相談してみるといいかも……」とのこと。その後、電話で取り次いでもらったらなんともあっさりと許可を貰えた。で、こうして訪問したという次第である。

 

 

「立ち話もなんだし、上がっちゃってよ★」

「すみません、ありがとうございます。こちらお手土産持って来たんですけど、お口に合えば……」

「え? そんな、気にしなくってよかったのに」

「礼儀ですし」

 

 

 先輩だし、カリスマだし。

 ちなみに中身は高級アイスである。手土産用にと思ってネットで調べて伊勢反(いせたん)だかに行ってみたのだけど、それはそれはべらぼうに高級であった。今度自分用にも買ってみよう。

 

 部屋に通されると、パステルカラーで彩られた内装がまず目についた。

 ボクの部屋と正反対である。そもそもボクの部屋がモノトーンな上に、晶葉曰く「男の部屋」ということもあって、比べるのもおこがましいと言えなくもないのだけど……。

 いやでも、最近はそれなりに気を遣ってるというか……蒼とかそんな感じの色のものも増えてるし……クレーンゲームで取ったぬいぐるみなんかも置いてるし。問題ないし。無いよね?

 

 

「片付いてなくってごめんね★」

「そんなことないですよ。ボクの部屋なんてこんな華やかじゃないですし……」

「そう? なーんか意外……でもないのかな……」

 

 

 事実である。

 そして意外に思われないこともまた別に驚くべきことじゃない。外から見ればボクを見ればそういう印象を受けてもしょうがないし。

 

 

「で、どんな話?」

「……美嘉さん、ちょっと、この子を見てほしいんですけど」

「んー? あ、カワイー★ ウサギ?」

「はい、ウサギです。ちょっと今ボクの部屋にいまして……」

「えっ。何でそんなことに?」

「……あの、『あちら側』からですね、その……来ちゃいまして」

「お空?」

「お空です」

 

 

 これでだいたい理解してくれたらしい。美嘉さんは懊悩するように額に手を当てた。

 

 こちらの世界の人間があっちに行ったことがあると言っても、あっちからこっちに来たという例はまだない。まあ、ボクみたいな特異な例はあるけど……それにしたって一度死んだ生まれ変わりという例外だ。開祖様の言葉を借りれば、生と死を司る神であるバハムートが、こんな風に他の世界に死者を転生させるというのは決して珍しいことではないはず。もしかすると、本人は気付いていないだけで他にもそういう人はいるかもしれない。記憶を引き継げたのは賢者の石の錬成のための実験体という経緯ありきのものだし、境遇自体は無いわけじゃないはずだ。

 その点、そのままの肉体でそのままこっちに来た、というものはまずない。今回のこれが初めての例になるだろう。

 

 

「そりゃー困るかぁ」

「寮もペット可だか分かりませんし、他の方に頼むにしても事情を知っている方じゃないとですし……」

「そうだよねー。マンションとかアパートとかに住んでる子だと、それも難しいだろうし。ペットを飼い始めるとなると、ちょっと負担もあるし、ね」

「はい……ボクがお世話できるならベストなんですけど」

「アタシの家でも……うーん、ちょっとどうかな、お父さんとお母さんに聞いてみないと難しいかも」

「ですよね……」

 

 

 ペットを飼う、と一口に言うのは簡単だけど……命を預かるというのは相当に覚悟の必要な行為だ。

 食事、住処、トイレに運動。一つでも欠かすことはできないし欠かしてはいけない。自分が難しいからって他の誰かにそれを押し付けるのはひどく不誠実だし、個人的にも後ろめたい気持ちは残るのだけど……それでも現状他にやれることが無い。資金面でのバックアップを全てボクがするという形なら、まだマシ……だろうか。

 

 

「あとは未央ちゃんとか卯月ちゃんとかにも聞いてみるといいかも★」

「未央さんに卯月さんですね」

「うーん、他……んー……ん? あ、えーっと、ちょっと待ってね。氷菓ちゃん、寮ってペット不可だっけ?」

「寮ですから……」

「……ブリッツェンは?」

「……ん?」

 

 

 ――――ブリッツェン?

 

 

「……ブリッツェン?」

「うん。ブリッツェン。トナカイでしょ? ……動物でしょ?」

「ほあっ!?」

「……えっ!? 気付いてなかった!?」

 

 

 ……マジだ!! そうだ、普段まるで気付いてなかったけどブリッツェン一応トナカイだし動物だ! 寮に動物がいるってことになる!

 ペット……いや、ペット、と言うにはちょっと、いや、かなり無理があるし、おかげで最近ずっと忘れてた……。

 何せ普段から二足歩行してる上に当然のように意思疎通できるんだ。人間が中に入ってるんじゃないかって疑いかけるくらいとんでもない。構造解析にかけてもトナカイとしか言えないからもうトナカイであってそういう生物なんだと思って普通に受け入れちゃってたし……動物がいる、っていう認識が完璧に抜けてた。

 

 

「あ、あ、でも、許可貰えるかは――――ちょ、ちょっと電話! してきます」

「ど、どうぞー」

 

 

 直後、ボクは部屋の外に出て専務へ電話をかけた。

 

 即許可が出た。

 イヴさんという前例があるので別にいいのだとか。

 事務所にも時々猫がいるし、将来的に寮に入る子にもペットがいたりする可能性があるわけで、後で寮長さんに言えば大丈夫だとか。

 ……もう解決してしまった。

 

 

「……か、解決しました」

「お、おつかれー……★」

「な、なんだかすみません……本当に……」

「あ、アタシなんだったんだろ……」

「で、でもボクや寮生のみんなじゃ多分気付けなかったでしょうし、美嘉さんみたく外部の人の見地があって初めて解決したことだと思います!」

「そ、そう? ありがと★」

 

 

 ……うん、実際指摘されなきゃ気付かなかったと思う。

 指摘されてなお一瞬戸惑ったくらいなんだから、これで何も言われなきゃ多分気付く気付かないどころか普通に引き取り手を探し続けてただろう。

 ボクも自分が大概ダメだと理解はしているが、これは本当にダメダメだ。それだけブリッツェンのことを「動物」じゃなくて「家族」と認知していたという意味でもあるわけだが。

 

 

「……話終わっちゃった」

「ん、でも解決して良かったよ★ これからクローネの方でもお世話になるし、良い関係作ってきたいもんね★」

「え、あれ? クローネの方で?」

「うん。今度そっちでできる新しいユニットに入るんだ★ 志希ちゃんと、奏ちゃんと、周子ちゃんと、フレデリカちゃんたちがいるって言ってたっけ?」

「あっ」

 

 

 あっ。

 ……あっ。

 

 

「……頑張ってくださいね、美嘉さん」

「え、何が?」

「良い胃薬、見繕いますから」

「だから何が!?」

「何か困ったことがあれば言ってください。志希さんの件に限り」

「限り!?」

「他の方は……無理です……」

「無理なの!?」

 

 

 奏さんは……まだギリでなんとかなるかもしれない。けど周子さんとフレデリカさんは無理だろう。うん。下手に手を出せばこっちが火傷することになる。いや、火傷で済めばどれだけ良いことか。死ぬな、うん。確信を持って言える。死ぬ。

 

 

「……あ、勉強なら見れますよ」

「み、見れるの? 入試問題だよ?」

「MITやCITでもないなら少々大丈夫ですよ。日本の入試問題だし。現国と古文以外ならなんとか」

「お、おお……え、本当に? 中学生だよね?」

「晶葉と志希さんと一緒にいるくらいなので、そのくらいはできないと」

 

 

 志希さんは元は飛び級でアメリカの名門大学にいたはずだ。多分、そのくらいまでならイケるはず。

 というわけでここからは美嘉さんの受験勉強のお手伝いのターンだ。貴重な時間を貰って、重要なアドバイスを貰えたのだからこのくらいお礼はしないと。

 実はボク、晶葉にはちょいちょい教えるのに向いてると言われてるんだよね。錬金術の基本原理に「理解」というものがあるが、そのためにはまず物事の流れ、根幹を理解しておかないといけなくなる。そのおかげで学習のための道筋を最適化できる……というのがあると思う。

 

 この後、美嘉さんのみならず現在受験生の人に勉強を教えることになるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 @ ――― @

 

 

 

「というわけでウサギを飼うことになりました」

「ウサギか……いいな。カワイイなッ!」

「ふわふわれす~♪」

 

 

 その日の晩、ボクはお隣さん二人を呼んでホワイトラビットのお披露目をすることになった。

 許可は取れたし、必要な道具も買って来たし準備も万端……と言いたいところだけど、やっぱり動物を飼うとなれば、周囲の人たちの理解を得られていた方が良いに決まっている。

 一応、寮長さんにも言っているし、万一の時にはあおぞら園かおじじのところに預ける手はずにもなっている。だから滅多なことじゃお願いはしないと思うけど……もしものこともあるしね。

 

 なお、ホワイトラビットは頬ずりされるのが嫌なのか、七海ちゃんの腕の中から逃げ出そうとしている。

 昨日のうちに餌付けしておいたのが功を奏したか、ボクに対してはほんのちょっとだけ慣れた。やはりニンジンの力は偉大だ。なお本日から通常のペレット――を、ボクが手ずから加工したものになる。

 

 

「名前は?」

「……あ、決めてない」

「それじゃダメれすよー。ちゃんとお名前つけてあげないと」

 

 

 名前、名前……名前か。

 確かに七海ちゃんの言う通り、これから一緒に暮らすというなら名前は必要になるか。どんなのがいいだろう?

 

 

「美玲さん、どんなのがいいかな?」

「いや、ヒョーカが決めなきゃだろ……」

「うーん……でもボク、別にネーミングセンス無いし……」

「ちなみに候補とかあるんれすか?」

「シロとかソラとか」

「それでいいじゃん」

 

 

 いいのか。

 それでいいのか。

 ……いいのかな、分かりやすいし。

 

 

「じゃあシロで」

「一番安直なのいったなッ。いやいいけど」

「ごはんとかどうするんれすか?」

「時間もキリがいいし、そろそろあげるよ。皿取って来てくれる?」

「はいれす」

 

 

 言うと、七海ちゃんはそのままシロと一緒に抱えていたぬいぐるみを手渡した。

 

 

「サバじゃねえ!!」

「サバオリくーん!?」

「どういう間違え方だよッ!?」

 

 

 勢いで投げ飛ばされたサバオリくんは、そのままベッドへ着地した。

 狙って投げたとはいえ、また見事な着地である。

 

 

「お皿って……もう専用のもの揃えたのか?」

「うん。帰るまでずっとそれに費やしてたよ……」

「だから部屋のものが増えてたんれすねぇ」

「……と、トイレとかはどうするんだッ?」

「どうも賢い子みたいで、場所を教えたらもう覚えちゃって」

「ふーん……良い子だなッ」

 

 

 美玲さんに撫でられるままに撫でられるシロ。抱きかかえられることは苦手なようだが、あの程度の接触なら特に何とも思わないらしい。

 餌付けされはしたが、根が臆病な性格だ……ということだろうか。まあ、その辺は徐々に慣らしていけばいいだろう。

 

 

「エサは何食べるんだ?」

「ペレットに独自配合で色々、みたいな」

「おさかな入れましょう」

「ウサギは草食だよ七海ちゃん……」

「じゃあワカメやこんぶを……」

「それ、食べてくれるのかッ……?」

「混ぜれば食べるんじゃないかな……食べさせる意味があるか疑問だけど」

「残念れす」

 

 

 隙あらばねじ込んでくるよね七海ちゃんは。

 いや、それが持ち味なんだからそれだからって遠慮したり自重したりする必要無いんだけどね。

 

 ……しかしだいぶ気に入ったのか、七海ちゃんはずっとシロを撫で回してるな……。普段からサバオリくんだったりあんきもさんだったりといったぬいぐるみをよく抱えてるし、ああいうふわふわしたのが好きなのかもしれない。

 

 

「それにしてもペットはいいれすね~……七海もアクアリウムとか始めてみましょうか」

「ウチは逆にしてなかったのかそれって状態なんだが」

「残念なことにしてないんれす……プロジェクトルームに置いたりしてもいいんれすけどね~」

 

 

 それは……来年度以降がちょっと大変にならないだろうか。主にボクらが移動することになった後。

 今後ずっとプロジェクトがあの部屋のままってことは無いだろうし……それこそ七海ちゃんの部屋に置くか、事務所の特定の場所に世話をできるようにして置いとくか、とかの方が良いような気もする。

 

 

「美玲さんは何かペットとか考えたことないの?」

「ウチか? んー……そうだな……熊とかかッ!」

「むりです」

「えー。ほ、ほらッ、こう、檻の中にッ!」

「やめてくださいしんでしまいます」

 

 

 せめてレッサーパンダとかにしてください。

 ……まあ、ブリッツェン並みに頭が良くて大人しい熊とかなら受け入れてもいいかもしれないけどさ。そんなのが果たしてこの世にいるのかどうか。

 

 いるかもしれないと思ってしまうのはブリッツェンに常識を毒されてしまっている影響だろうか。

 ボクは訝しんだ。

 

 

 





 この後氷菓はめっちゃガチャでSSR出たという。

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