青空よりアイドルへ   作:桐型枠

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43:お客様の中にファッションに詳しい方は

 

 

 

 九月某日、夜。その日、事前ミーティングを終えたボクたちは、当初の予定の通りに歓迎会の会場へと向かっていた。

 奈緒さんを幹事に据えた歓迎会。楽しみに思う気持ちと共にほんの僅かな不安を抱きつつ、案内されるままに辿り着いたその場所は――――カラオケボックスであった。

 

 カラオケボックス。

 うん。よくあるタイプの、あれ。

 流石のボクだって一度や二度くらいは行ったことがある。スターライトプロジェクトのメンバーで、だけど。

 前に行ったのは確か、晶葉と聖ちゃん、七海ちゃんの中学生組でだったかな。

 さて、それはともかく。

 

 

「奈緒は普通すぎるよねー」

「何でだよぉー!?」

 

 

 加蓮さんのボヤきに、思わず奈緒さんから抗議の声が上がった。

 ……まあ、その、うん。言わんとすることは分からんでもない。カラオケ、嫌いじゃないし歌うこと自体むしろ好きなんだけど、歓迎会としてはありきたりだなぁ、と。

 でも学生の歓迎会として考えればこういう場所が当たり前なのだし、問題というような問題は無いと思う。メンバーは極めて豪華、というか豪華すぎるくらいだけど。

 

 ところでそこまで関係ないけど今の「何でだよぉー!?」って聞いてちょっとベアトリクスさん思い出してしまった。

 ぼそっと軽く声に出して呟いてみると、アーニャさんと凛さんが思わず吹き出した。

 

 

「でもゆいカラオケ好きだよー☆ 好きな曲歌えてたのしいもんねっ」

「そうですね。私も、普段歌えない歌が歌えるのは楽しいです」

 

 

 と、大槻唯(おおつきゆい)さんの言葉に応じるアリスさん。

 アリスさん、元々ヴォーカリスト志望だからそういうところはあるんだろう。元々の自分の売り出し方と違うものを歌ってみたいな、とか。ボクもそういう部分はあるし、周りを見ても頷いている人は割といるようだった。

 

 

「特にひょーかちゃんとは初めてだし、色々聞いてみたいな~♪」

「え、ボクですか」

「いや……普通に考えたらそうだよ」

「わ、分かりました」

 

 

 凛さんにツッコまれてしまったけど……ちょっと弱ったな、他の人、特に先輩たちと行って歌を披露するとなると少し気後れする。

 でもよく考えれば輝子さんや美玲さんも交えて寮のメンバーで行ったこともあるし、これもこれで一つの経験と思えば……。

 唯さん、今年から大学生だからあまり接点を持てないし……実質今回が初めての交流となってしまったわけだし、こう言ってくれてるからには頑張りたいところだ。

 

 

「大丈夫だよ、緊張しないで行こっ★」

「そうですね……」

 

 

 ……なんか美嘉さん、さっきよりだいぶ元気になってない?

 ボクの気のせいかもとは思うけど……いや、やっぱり元気にはなってる。安心したっていうか、肩の荷が下りたというか……ともかくそんな表情だ。

 もしかしてもう既に何か苦労することになってしまっているのだろうか。なってるんだろうな。頑張ってください。

 後ろを見ると、志希さんはフレデリカさんと周子さんと何やら話しているようだった。何を話しているか非常に気になるが、気にしてはいけない。後できっと何か妙な目に遭うはずだ。

 

 

「私は……少し、ああいった場は苦手ですね……」

「ン……でも、少し歌ってると、だんだん、楽しくなってきます」

「それは、はい。少し、分かります……」

 

 

 そっか、文香さんは文香さんでステージ以外であれやこれやと積極的に行動していくタイプでも無いし、ちょっと苦手意識があるのか。ある意味、印象通りではあるが。

 

 

「……それに、その。私は、持ち歌……というものが、少ない、ので……」

 

 

 歩いていく中でどんどん意気消沈していく。なんだか徐々に小さくなっているようにも見えるのは、委縮しすぎて雰囲気そのものまで小さくなってしまっているんだろうか。

 しかし持ち歌……持ち歌かぁ。流石に自分の歌をカラオケでも歌うっていうのはナシだろう。でも、じゃあ何を歌うべきなんだろう。趣味全振りでいいのかな? 奈緒さんもいるし。

 ……いや、分かんない人もいるし程々にしとこう。

 

 道すがら、ふと思い出してバッグの中に入れていた小瓶の中身を飲み下す。

 

 

「んにゃ? 珍しーね。保湿?」

「ん」

 

 

 と、そんな様子を不思議に思ったのか、志希さんがこちらに問いかけを寄越した。

 今飲み込んだのは油……オリーブオイルだ。喉の保護のためにいい、という話を聞く。あくまで民間療法に近いものだけど、ケアをしないよりはいいだろう。何より、今日は人前なのだ。錬金術を使ってケアというわけにはいかない。

 

 

「お、見えてきたぞー」

「ん、あれだね――――」

「うわ普通」

「普通言うなっ!」

 

 

 そんなこんなあって見えてきたカラオケボックス。奈緒さんに案内されてたどり着いたのは、やっぱりごく普通お店だった。

 ほんのちょっと、こう、もうちょっとランク高いところ無いかなと思わなくもないけれど、そこを言うのはやめておいた。ボクも同じ立場ならあまり良い店を選べる自信は無い。

 

 

「ぼ、ボクは普通なの好きですよ」

「氷菓、それフォローのようでフォローになってないからな?」

「えっ」

 

 

 どうやらダメだったらしい。

 反省。

 

 

 何はともあれ受付を済ませてからしばらく。ボクたちはカラオケボックスの広い一室に通されることとなった。

 大人数用の、よくあるタイプの部屋だった。とはいえボク自身あまり縁のない場所でもあるから、まだ新鮮味は薄れていない。

 ……それでもやっぱりこの人数だから、ちょっと手狭感は拭えないな。

 

 

「じゃあまず飲み物頼むかっ。みんな、何がいい?」

「「「水」」」

「歓迎会なんだからもっと良いもの飲めよぉ!?」

「じゃ、じゃあ、ボクはココアで……」

「喉、痛めちゃうわよ。レッスンもあるのだから、糖分やカフェインのあるものはやめておいた方が無難じゃないかしら」

「イチゴジュースはありますか?」

「……ありませんね……」

「残念です……」

「あ、から揚げでも頼もうよ。お腹すいたーん」

「脂もあるしねー♪」

 

 

 好き勝手に言い合うみんなだけど、奈緒さんはそれらを慌ただしい様子でメモにまとめていく。

 ただ、奈緒さんだし……少し注文と違うとか、そういうこともありうるかもしれない、なんて思うのはちょっと失礼だろうか。

 ともかくまずは一曲目からだ。まず最初に、ということでボクにマイクが手渡される。

 

 

「それじゃあ始めの一発どーんといっちゃおう★」

「あ、はい。それじゃあ……」

「あ、そうだ! みんなの持ち歌歌い合うのどーかな☆ なんか楽しそうだし」

「お、いいねー。それじゃあひょーかちゃん、どうする?」

「『薄荷 -ハッカ-』で」

「Нет!!」

「ダメだ氷菓死ぬぞ!!」

「ねえアタシの曲なんでこんな言われようなの?」

「加蓮じゃなくて氷菓だからじゃないかな」

「納得」

 

 

 ボク死ぬん?

 いや確かに儚げな曲だなぁとは思うけど、ここまで強硬に止めに来ることは無いんじゃないの?

 個人的にはかなり歌いやすいなぁと思ってるんだけど、これを止められるとなると……。

 

 

「じゃあ……『2nd SIDE』で」

「お、おうっ!? あたしの曲か!?」

「ふふっ。頑張ってね」

 

 

 凛さんからの激励も受けたところで歌い始める。

 元々、激しいダンスが特徴の曲だけど、ここはカラオケボックス。残念ながらダンスを披露できるほどのスペースは無い。

 とはいえそこはそれ、いかに歌そのものを魅せるか、である。そこ……というか、歌に関してはボクの得意分野だ。錬金術が無ければ歌一点特化だったとも言う。

 

 ともかく、そんな調子で歌い終わると、皆さんからは拍手を、奈緒さんからは赤い顔を向けられた。

 

 

「自分の歌って歌われると恥ずかしいぃぃ……」 

「前、裕子が歌ってたよね?」

「それとこれとは別だろ!」

「後輩に歌われるとってことかしら?」

「そう! そんな感じ! なんかむずむずしてさ!」

「いやぁ、ちょっとそれは分からないかな……」

「え!?」

 

 

 すみません、それボクもちょっと分かりません。

 

 

「ひょーかちゃんこっち座ってみ。ちょいちょい」

「え、えぇ……?」

 

 

 ……と、歌い終わった直後、ふと何の前触れも無く周子さんが自分の膝を指差した。

 何を思ってそうしようと思ったのだろうか。十中八九愉快犯的な行動だろうけど、まあ、別に大したことでもないしいいか。そう思ってちょこりと周子さんの膝に乗ると、なるほどと周子さんは頷いた。

 

 

「んージャストフィット。ちっこくて体温低くってきもちー」

「はあ。そうですか?」

 

 

 まあ、確かに身長差20cmならそうかもしれない。体重も低いし乗っても大して負担は無いのだろう、多分。

 

 

「というか何で氷菓さんは拒否しないんですか」

「大変な問題があるわけでもないですし……」

 

 

 中身的にある意味問題だけど、そこはもう今更である。

 男性に対して興奮するわけじゃない一方で女性に対して性的興奮を催すでも無いし。

 ……あれ。これ更に別の意味で問題では。

 いや、もういいや考えるのめんどくさいし。

 

 

「……ちょっとこっちも」

「加蓮は果てるから駄目だ」

「そんなに弱くないって!」

 

 

 おっとなんだかすごく加蓮さんに共感を覚えてきたぞう。

 もっともボクと違って加蓮さんは肉体的に殆ど問題無いって違いはあるけど。いやボクも問題無いけどね。問題……いや無い。無いし。無いって。無いったら。

 

 その後、奏さんやフレデリカさん、果ては文香さんに至るまで膝に乗ることになってしまった。

 途中からアリスさんもそこに加わることになってしまったのだけど、巻き込まれたと思って諦めてほしい。ボクは諦めた。

 

 さて、ボクが終わったので、次も同じく今日の主賓。二人目は志希さん、三人目は美嘉さんだ。

 志希さんはフレデリカさんの「き・ま・ぐ・れ☆Cafe au lait!」を。美嘉さんは唯さんの「Radio Happy」をそれぞれ歌い上げた。流石に先輩の貫禄と言うべきか、特に美嘉さんの歌う番になると、ボクらの時以上の盛り上がりが見られた。こうして改めて美嘉さんの手法を見ることで、今後のライブパフォーマンスなんかに活かせる……かも、しれない。

 

 そこから後はクローネメンバーの皆さんが歌う番だ。どうも前にカラオケに行った際に似たようなことはしたことがあるらしく、その時の歌は封印……という運びにはなったけど、それぞれ歌えるであろうものを見つけて歌を披露していた。

 奏さんがアリスさんの「in fact」。周子さんが加蓮さんの薄荷……ではなく「FrozenTears」。唯さんが凛さんの「Anemonestar」。文香さんは周子さんの「青の一番星」。凛さんは文香さんの「Bright Blue」を歌っていて、加蓮さんはアーニャさんの「たくさん!」、奈緒さんは奏さんの「Hotel Moonside」を歌うことになった。奈緒……もとい、なお、奈緒さんが歌う時はそのギャップ故かそこかしこから笑いが起きていた。

 アーニャさんとアリスさんは、今後ユニットで組む関係からかデュオでエリクシアの曲を歌ってくれた。一人足りないからということでそこにフレデリカさんも混じっていたけど、これは何かの暗喩だろうか。

 

 

「はー、歌った歌った」

「じゃあ、次は……」

 

 

 何はともあれ皆さんの曲を堪能したボクらだけど、こうしてぐるりと一周回った以上次はボクの番だ。さて、じゃあ何を歌おうかと思っていると、奈緒さんがふと上から機械を覗き込んでいた。

 

 

「どうしたんです?」

「な、なあ氷菓……フルボッコちゃんの曲歌ってくれないか?」

「はい?」

「エンディング」

 

 

 ……フルボッコちゃんのエンディング?

 あの、その回に登場したキャラが歌うあれ?

 

 

「あー。奈緒はファンだからね」

「なるほど」

「氷菓、ブランちゃんで出るだろ? ありすとデュオとか聞きたいんだけど……!」

「え、あ、はい……?」

 

 

 近い近い。

 こういうのは割とあることなのか、他の人はみんなどうも呆れてるような微笑ましいような表情をしている。なおありすさんはうんざりした様子だった。フルボッコちゃんへの出演が確定した時も似たような感じだったのだろう。

 しかし、まだ今だとまだ一話だか二話くらいの放送直後だったはずなんだけど……前情報とか見てるんだろうなぁ。

 前期と比べてまた更に変更があったあの作品、果たして奈緒さんは耐えきれるのだろうか。色んな意味で。まあ、律儀な人だし、流石にボクらにネタバレしてくれとは言いに来ないだろう。多分。

 

 

「なっ、頼むよありす! 氷菓!」

「橘です。どうですか氷菓さん」

「うーん……こんなに頼んできたんだから無碍にはできないけど……」

 

 

 ちょっと探してはみるけど、ボクらの収録した歌が無い。

 どうやら三期になるにあたってエンディングの変更があったようだ。まあそうだよねと思いつつ、二期のエンディングを選択して入力した。

 アリスさんだって出演するにあたって前期や前々期の復習くらいはしてるだろうし、歌の方も恐らく知ってるはずだ。

 

 

「じゃあ、本当ならこっちは歌わないんですけど」

「よっしゃ!」

「奈緒テンション上げすぎ」

 

 

 まあ、喜んでくれるならいいや。

 ちょっと歌ってる時の興奮度が奈緒さんだけ尋常じゃなかったけど……うん、まあ、好きなものを前にした時なんだし、こういうものだろう。きっと。

 

 しかし、さて。

 後日、奈緒さんがフルボッコちゃん三期にドハマリしてボクのことを時々ブランちゃんと言いかけたり、ありすさんとの組み合わせに興奮し始めたり、ある話を境にボクが突然死するんじゃないかと危惧し始めたりという事件に関しては、特筆すべきなのかどうか。

 ……まあ、それはいいか。うん。別段大したことでもなさそうだし……。

 

 

「ところで、今日はもしかしてカラオケだけ?」

「え? 普通そうじゃないのか?」

「……そう言うと思って二次会の場所は予約しておいたわ」

「えっ、あ、ごめん奏!」

 

 

 ……どっちかって言うと、奈緒さんのちょっとしたうっかりの方を語るべきか。

 あるいは、そもそもこのカラオケだけで満足できなかったことについてを語るべきか。

 

 

 

 @ ――― @

 

 

 

 さて。

 歓迎会も終わり、クローネとしての活動を始めることになるわけだけど、実を言えば歓迎会直後の今日この日からもう仕事を始めることとなったのだった。

 内容は、アリスさんと一緒にファッション誌の撮影……だ。

 

 ファッション誌だ。

 ファッション誌。

 ……ファッション。

 そう、ボクにとっての鬼門である。まあ、より正確に言えば、ファッション誌が鬼門なのじゃなくてファッションが鬼門なのだけど。

 

 

「無理だ……!!」

「いきなり諦めるんですか」

 

 

 撮影スタジオの控室。その片隅でボクは項垂れていた。

 想定外……いやアイドル活動続けていく上で想定外ってことは無いけれど、それでもボクにとってはファッションはこれまで非常に縁遠いものだったのだ。いきなり改善できるかと言われるとそれも非常に難しい。

 実際、今日ここに来るまでに着て来た服はいつものそれだ。黒のぴにゃパーカーに筆文字で「マッチョ」と書かれたTシャツ。あとショートパンツ。下はごく普通のスニーカーと靴下だ。

 しかし、これがただの撮影なら良かった。撮影側が用意している服を着て指定されたポーズで撮ってもらえば済むことだからだ。

 今回問題なのは、その後。どうも撮影が終わったらインタビュー記事も載せるようで、それについて「私服で」お願いしますと頼まれたのだった。

 

 私服で。

 

 

「ファーッ!!」

「クッションに頭を打ち付けるのはやめてください氷菓さん!!」

「それと知っていれば他の服くらい持って来たのに……!」

「付け焼刃ですよね?」

「うぐぅ」

 

 

 でもいいのだ付け焼刃で。こういう公の場で取り繕うことに意味があるのだから。

 プロデューサーも結構な頻度でイメージ戦略が大事と言っている。ボクもそう思う。だからこそ、完全にプライベートというわけじゃなければそれ用の服を持ってくると言うのに……!

 なお晶葉からは「でもそれって根本的な解決になっていないだろう?」と言われた模様。

 いいんだよボクはその場をごまかせるなら!

 

 

「でも、どうするんですか? 衣装のまま出るわけにもいかないでしょう」

「うん……まあ……」

 

 

 そして残念なことに、今回の撮影はゴスロリ系のブランドのモデルである。代わりの服なぞここには無かった。

 このままでは晶葉曰くどこぞのくたびれたオタクのような格好を世間に晒すことになってしまう……それは(プロジェクト的に)マズい……!

 

 

「どど、どうしようアリスさん……」

「って言われても……何で氷菓さん、そんな格好が好きなんですか?」

「好きというかこれで問題を感じないしっていうか」

「ええ……?」

「元々興味も無かったしそれでその」

「それでそのあまりにもアレな感じに……」

「アレって」

 

 

 ……うん、最近はなんというか、こう考えると相当に問題があることがよく分かってきたので多少は改善しないと、ということはよく分かった。

 せめてぴにゃと文字Tは部屋着に留めないと……いや、それでも多少はアドバイスを基に改善してるつもりなんだけど、今日は本当に油断しすぎてた。実は着替えすら今は持ってない。ヤバい。これどうしよう。

 間に合わせに錬成……はアリスさんボクの秘密についてはまるで知らないからここじゃできないし……こういう時は……他力本願!

 

 

「……プロデューサーに連絡してみよう……」

「まあ、そうなりますよね。ところでどこからどんな服を?」

「先に少し立て替えてもらって、ユニセックス系のを一点買ってきてもらえればそれで大丈夫と思うんだけど……」

「男性一人に買って来てもらうのも難しいんじゃ……」

「うわそうだった」

 

 

 ……詰んだ!?

 い、いやまだだ! まだちひろさんという手は……あの人も超忙しい身だから駄目だ!!

 やべえよ……やべえよ……こ、これどうしよ……。

 

 

「い、インタビュー開始まであとどのくらいかな……」

「30分くらいあるんじゃないですか?」

「その間に寮まで戻っいやダメだ往復しなきゃいけないしええとええと……」

「なんだか氷菓さんがそこまでてんぱってるの見るの、久しぶりな気がしますね……」

「久しぶり? あ、あの時ね」

 

 

 久しぶり、というとFROST収録の一番最初、眼鏡が壊れた時のことだろう。確かにあの時は未だかつてないほど取り乱していた。

 しかし今回はその時に比べると、まあ、多少はという感じだ。あの時が何だかんだ一番ひどかっただけとも言う。

 

 

「……よし、ちょっと買ってこよう」

「か、買ってくるんですか!? 氷菓さんのセンスで!?」

「アリスさんは時々素で酷いこと言うよね」

「ごめんなさい。でも大丈夫なんですか!?」

「そこは、まあ……多少なりとも学んだ……はず……だと思う」

 

 

 自信は無い。しかしやるしかない。

 フットワークは軽くしないといけないから荷物は最低限で。この時期だと……ギリギリ秋モノか? いやまだ夏の延長線上ってことにしておけばある程度安いものが買えるはず……。

 幸いこの周辺にも多少なりとも服屋はあるだろうし、30分あれば行って帰ってくることくらいはできる……はず!

 

 

「私も、一応行った方が……?」

「いや、大丈夫! アリスさんと一緒だとつい長話しちゃうかもしれないしまず一人で行って来るから!」

「え、あ、はい。が、頑張ってきてください……」

 

 

 不安さを滲ませた表情を向けてくるが、大丈夫、なはずだ。

 それよりも今はスピード重視。急がないと……!

 

 

 

 急いできました。

 というわけでニ十分後、ボクは息も絶え絶えに控室まで戻って来ていた。

 

 

「も、戻った……」 

「お、お疲れ様です。タオル要りますか?」

「くださーい……」

 

 

 その場に倒れ込むようにしながら袋の中身をその場にぶちまける。割とどこにでもあるような店舗で買ったので、当然ながら服そのものは没個性的だ。七分丈のレギンスに白のTシャツ、それから、灰色のカーディガン。生地は薄め……と、だいたいそんな感じでひょいとセレクトしてきた。

 店員さんからも(もっと良いもの買えばいいのに……)みたいな目で見られたけどボクはこういうのでいいしこういうのがいい。シンプルっていいじゃん? というのが正直なところである。

 

 

「すっごい普通ですね」

「普通でいいの」

「でも氷菓さん、見た目が派手めなのでもう少し派手めな方が合ってると思いますよ? 服の方が負けちゃってます」

「そう? そんな風に思ったこと無かったんだけど……」

「絶対そうですよ」

 

 

 自信ありげに言ってくるアリスさん。そこまで言うってことはそうなんだろうか。あんまり実感無いな……。

 クラリスさん(ラスボスの風格)も金髪白人の美人さんだけど、清楚な服を着ててそれが似合ってるし……割と派手めな外見って言うならイヴさんと聖ちゃんもそうだけど、かなり落ち着いた格好をしてることが多い気がする。

 

 

「例えば美嘉さんがそういう格好をしてたらどう思いますか?」

「ギャップで素敵」

「ごめんなさい例えるべき人を間違えました。」

 

 

 前に美嘉さんの家を訪ねた時もそうだったけど、服装自体は……パステルカラーや明るい色のものが多いとはいえ、それなりに落ち着いてるようだったのだけど。

 

 

「そうです! 例えばのあさんがそういう格好をしていたら!」

「……あ、ちょっと違和感あるかも」

 

 

 うん、まあ、着ないことは無いだろうけど、間違いなくクール系の人だし、私服もクール系のもので揃えてると聞いたことがある。

 

 

「氷菓さんはそっちの系統なんです!」

「……えっ。ボクそっちの系統?」

「どう見ても」

「はあ、なるほど……」

 

 

 そうだったのか……。

 そうだったのか……。

 そう……だったのか……。

 

 

「……つまり楓さんのファッションを参考にすればいいってことか!!」

「えっ。いや間違って……いや間違ってな……ううん、間違って……あれ?」

「何か問題が……?」

「いえ、間違ってないと思うんですが、楓さんの話題今一度でも出してませんよね?」

「?」

 

 

 のあさんに近い系統ってことは楓さんにも近い系統ってことだよね?

 愛海さんにも将来の保障はされてるし自分でも確かめたしそういうことならそういうことで大いに参考にできる人がいるってことになる。素晴らしいことではなかろうか。うん。

 

 

「……あ、晶葉さんの言ってたことってこれだったんだ……」

「何か?」

「いえ……氷菓さんがよっぽどの楓さんファンだと……」

 

 

 何故こんな当たり前のことを確認して遠い目をしているのだろうか。不思議なアリスさんだ。

 

 ともかく、これでなんとか窮地を脱したボクは、その後、なんとかきっちりとインタビューに答えることができたのだった。

 ……まあ、その、色んな意味で内容はともかくとして。

 どうもまだインタビューに慣れてないボクである。

 

 なお後日発売された雑誌では、インタビュー記事云々よりもボクがゴスロリ着てるという事実に対して大きな反響が寄せられることとなった。

 ……インタビューも頑張ったのだし、そっちもちょっと注目してくれないかなあという思いが、まあ、無いでもない。

 

 

 







 白河氷菓のウワサ②
 ファッション勉強中らしい。

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