青空よりアイドルへ   作:桐型枠

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48:覆水盆に返さず

 専務は激怒した。必ずやかの厚顔無恥なマスメディアを除かねばならぬと決意した。

 専務は政治が分かる。専務は、大企業346プロダクションの専務である。経営の舵を取り、(最近は)アイドルを想って暮らしていた。それ故人一倍メディアの流れに敏感であった。

 ……ということがあったかどうかは定かではないが、ボクは専務室の応接用の椅子に座って専務さんの様子を見ていた。

 

 

「――――ですから先程から申し上げております通り、この番組内容で当社の白河を出演させるわけにはいかないのです。こちらとしても経営と売り出しの戦略がございまして……」

 

 

 言葉そのものは丁寧だが、強い怒気を感じるその声音。ボクに向けられているものじゃないと知ってはいても、怖いは怖い。

 電話先は、外部の制作会社。丁寧な言葉遣いになるのも、怒りを向けるのもある意味では当然だ。

 

 数分ほどで、電話は終了した。専務の口から深く深くため息が漏れる。

 

 

「すまないな、呼びつけておいて醜態を見せた」

「い、いえ、ボクの代わりに対応してくださっているのですし……」

 

 

 さて。

 何故急にこんなにも専務さんが怒っているのか、それは昨夜のことに遡る。

 

 近年、ニュースがバラエティ化していることが多々ある。

 堅苦しいだけのニュース番組じゃなく、もっとグルメ情報や最近の関心事なども取り扱うことで視聴者層の拡大を狙ったのだろう。実際、それで視聴者は楽しめているようだし、需要もある。テレビ局や広告屋としても、特集を組むことである程度流行を操作できるわけだし、こういう傾向は願ったり叶ったりだろうと思う。

 そうした一方で某公共放送などは、普通に硬いニュース番組などもやってるわけだけど……そこはまあ、需要の違いと思って置いといて。

 

 ともあれ、そういうニュース番組での話である。

 昨晩のこと。先生が録画予約のためにテレビの電源を点けたところ、そういったニュース番組が映ったのだ。

 内容は――「今注目の新人アイドル、白河氷菓の過去に迫る」だ。

 一応言っておくとこれ、ボクは特に出演していない。

 

 まず最初に放送されたのは、サマーフェスの映像。これに関しては既にディスク化しているので放送されても、まあ、仕方ない部分はある。何らかの形で346プロ側が出した許可を拡大解釈して使用したものだとか、別件で出した許可を流用したものだとか、色々と裏はあるようだけど。

 あおぞら園の外観が放送されたのも……まあ、一応は公的な施設でもある。腹立たしくはあるが仕方ない。

 けれどもその先が問題だった。あおぞら園の住所から元通っていた学校を割り出され、中学一年の頃のクラスメイトへのインタビューを敢行。根掘り葉掘りボクのことを聞いて回ったようで、その時点でボクがどういう境遇だったかを知られてしまった。

 その後は、あおぞら園をバックに劇団員と思しき……少なくともボクにとっては面識のない「近隣住人」だとか「職員」だとかの表示のもと、ボクの過去のことを好き勝手に語られてしまった。

 

 ……で、この専務のキレっぷりである。

 この件でボクが孤児……というか、まあ、捨て子だということは完全にバレてしまったわけで。

 もしかすると、以前危惧してた「二匹目のドジョウを狙ってあおぞら園の子を強引にスカウトする」ということが現実になりかねないということでもあるわけで。

 既にネットには色々と情報が出回っている。最悪だ。

 けれども専務さんがこうして対応してくれてるのだし……正直、今回はそこまで怒りは強くない。

 

 

「何でいきなりこんなことになったんでしょう……」

「局側に狙いがあると見た。まったく……これだからあちらに主導権を渡したくないと言うのに……」

「どういうことですか?」

「そうだな……我々346プロの経営陣とは違う目的で、テレビ局がアイドルを……『プロデュース』したいという狙いだな」

 

 

 と、不愉快げに深く椅子に座り直し、専務は続ける。

 

 

「現代社会において流行を作り出しているのはテレビ番組と言っても過言ではない。それは分かるだろうが……芸能人の人気に関しても似たようなことが言える。『こういう子だ』と紹介することで、視聴者にその人物の印象を強く残すことができるからだ」

「例えば、みくさんを『猫キャラです』とか……ですか?」

「そうだな。前川がそういうキャラであると紹介すれば視聴者も『そうなのか』と納得するだろう。それと同じことを今回はされてしまった。白河に『可哀想な孤児』というキャラクターを与えてしまったんだ」

 

 

 全く腹立たしい、と専務は眉間に皺を寄せた。心なしか腹痛に耐えているような表情にも見える。やはり昨日からずっとストレスを抱え続けているのだろう。

 個人的にも、そういうキャラクター性は御免被りたいが……そういう個人的な思い以上に、専務さんも経営者として何か思うところは確実にあるはずだ。

 

 

「あれも短期的に見れば確かに有効だ。薄幸の美少女という存在にはファンが付きやすく、同情票も得やすい。自社のドラマの適切な役柄などに起用すれば、視聴率アップも狙えるだろう。だが長期的に見れば不利になる」

「あくまで『同情』だから、ですね」

「ああ……そうするに値しない、そうする必要が無いと思われれば、そこで同情票は消える。それでも根っからのファンというものは残るだろうが……言ってしまえばドーピングのようなものだ。一時的にファンは増えるが、何かの拍子にがくりと人気が落ち込みかねない……」

 

 

 それ以外にも……演者としての役柄の幅が減るし、作詞・作曲に関しても表現の幅が狭まりかねない。長期的視野で見て、成長と共にアイドルとして円熟させていく過程を見せていく……というプロデュース方針を上げていたプロデューサーや専務さんとしては、痛恨の極みと言っていいだろう。もっとも、それを承知で売り込んでいくという手もあるんだけど……とにかく広い視野を持って、幅広い分野で活躍していく、というスターライトプロジェクトの趣旨とは反するだろう。

 なんというか今後の売り出し方針やら諸々の関係各所にクリティカルクルセイド。専務もマジギレである。

 

 

「星は空で輝くからこそ迷い人を導くことができる……それを地に落とし、消耗品に貶めるなど愚の骨頂だ……!」

「詩的な言い回しですね」

「キミの周囲で何か変わったことは無かったか?」

「親戚が三桁増えましたね。自称ですけど」

「……そうだろうな……」

 

 

 そもそもを言えば、血縁上ボクの名字は別に「白河」じゃない。あくまで戸籍上の名前をそういう風に登録しただけだ。名付け親も先生だし。

 そんなボクに「白河」という親戚は勿論存在しないし、そもそも認める気も無い。あと何人か引き取り先として手を挙げた人がいるようだが、そんなこと知ったこっちゃない。今更出てきて親と認める人なんているわけないだろう。もう14だぞぼかぁ。

 

 

「先生……えと。園長先生には、可能な限りノーコメントを貫くようには言ってあります。園の子たちにも、できるだけ報道関係者には近寄らないように……と、口止めも」

「すまない。先に私が伝えておくべきだったな」

「いえ、ボクの方が近くにいましたので……」

「今後の対応についてはしばらく協議する。なにぶん真実であるだけにタチが悪い。関係各所にはこれ以上の報道・特集を行わないよう差し止めを行っているが……ゴシップ誌がどう来るかがまだ読めない。できるだけ外出は控えるように。学校も……可能なら休んでほしい」

「はい。まあ、成績は大丈夫ですので、問題無いです」

「そこに関しては心配する必要すら無いだろう」

 

 

 一日か二日か、もうちょっとか……何にしろ大して問題が無いのはその通りだ。その気になれば別に今から大学受験しても特に問題無く合格くらいはできる。

 でもまあ、世間体もあるしそう長くは休むわけにもいかない。なにより、あまり長く休養を取っているとそれはそれでマスコミから突き上げを食らいかねないことだろう。

 ともあれ、今週中が勝負ってところかな。

 

 

「それじゃあ、失礼します」

「うむ。気をつけなさい」

 

 

 専務さんの心配を耳にしながら、ボクは専務室から出た。

 

 続いて、今度はスターライトプロジェクトのプロジェクトルームに向かう。こっちではプロデューサーとの話し合いだ。気は重いが、やらなければならないことには変わりない。

 プロジェクトルームの扉を開いてそっと中を覗き込む。

 晶葉が( ‘ᾥ’ )←こんな顔してキレていた。

 

 

「あのテレビ局爆破してやろうか」

「爆破しちゃダメだよ!?」

「は? 個人の勝手だろう……」

「法律ゥ!!」

 

 

 大変だ。こういう時普段冷静なはずの晶葉が一番キレてる。

 聖ちゃんとみちるさんもいるようだけど抑えきれてない。いや、そもそも混乱でそれどころじゃないのか。

 

 

「ええい止めてくれるな氷菓! それにちょっと爆破した程度で人が死ぬものか!」

「死ぬわ!?」

 

 

 もしかして一度「あっち」行ったせいでちょっと人の可能性に大きな期待でもしちゃったのだろうか。

 実際団長さんやそれ以外の団員の皆さんなら少々の爆発で死ぬことは無いだろうけど、こっちの世界の人間はあっちの世界ほど強くはない。よっぽどじゃないと死ぬよ、普通。

 

 

「大丈夫……?」

「ん、うん。ボクは別に大したこと無くって……」

「けど……秘密にしてたの、バレちゃって……」

「うん、まあ、それはね」

 

 

 一緒に部屋に待機していたのだろう聖ちゃんに不安げな視線を向けられたが、今は一応大丈夫ということにしておく。

 実際のところはと言うと、まあ、不安は不安だ。けどそれを口にしたって状況が変わるわけじゃないし、頼りになる大人の人たちも動いてくれている。ボクが下手に動けば邪魔になりかねないというのが実情だ。

 

 

「でも、氷菓ちゃん冷静ですね?」

「多少はね。周りがこれだけ怒ってる人ばっかりだと逆に冷静になってくるよ……」

 

 

 晶葉もそうだし専務さんもそう。プロデューサーも実はそうだ。というか、下手すると一番キレてるのプロデューサーかもしれない。元々、そこそこ感情的な人だ。衝動的にやってしまったのだろう。思わずといった様子で壁を蹴っていた。直後に足首を痛めたらしくうずくまってもいたが。何やってんだあの人は。

 

 

「というか、自分のことだろうに何故冷静でいられるんだ?」

「ホントのことだからかなぁ。嘘言って(けな)そうって言うんならボクだって怒るし東京湾に(ちん)するけど」

「今何て?」

「少なくとも今回の件、ボクに身寄りがないことと施設出身ってことは事実なんだよね。確かに後々のデメリットは大きくなるけど、知名度は上がるわけだし……商業的な意図があるにしても、怒るだけっていうのは違うかなって」

「しかしデメリットがあるのは確かなのだろう。それもかなり大きな」

「うん。それを解消できる手段があるならそれが一番なんだけど」

 

 

 でもそう簡単に見つからないというのが実情で、どうにもこうにもフラストレーションが溜まる。

 まったく厄介な話だ。最悪、このまま行っても問題無いと言えば無いんだけど――それはそれで損ばっかりだしなぁ。やられてばっかりなのも癪だ。

 爆破じゃないけど、何かしらやり返したいのも事実。さて、何があるだろうか。相手も相手で大きなテレビ局だから、関係各所にも迷惑がかかる。経済的打撃を与えるのはマズい。かと言って物理的なそれは論外。精神的ダメージを与えるのは……間接的かつ婉曲すぎる。オマケに大して意味があるとも思えない。却下。

 できるだけ物理的・経済的にお互いがダメージを受けず、かつデメリットを可能な限り解消してメリットを享受できる状況に持ち込むのがいいか。だとしてその方法は……という話でもあるんだが。

 

 

「だーめだ。何にも思いつかない」

「ダメなんだ……」

「……なんとかする方法はこっちでも考えてみよう。氷菓は……しばらく学校にも出られんのだったか」

「とりあえずパンを食べましょう! 糖分を摂ると違うかもしれませんよっ!」

「自分が食べたいだけじゃないのか」

「まあ、でも一理あるよ。それならボクコーヒー淹れてくるから……みんな、砂糖とミルクどうする?」

「マシマシで」

「ちょっとずつ……かな……」

「あたしはカフェオレで!」

 

 

 その後は、みちるさんの持って来ていたメロンパンやクリームパンをみんなで一緒に食べた。

 糖分はそこそこ補給されたけど、そこまで良い考えは浮かばなかった。

 

 

 

 @ ――― @

 

 

 

 結局特に何も思い浮かばないまま一日が過ぎた。

 模倣と解析ばっかりできる割に創造性に欠けるから、こういうアイディア考えるの本当に苦手なんだ。きっかけさえあればなんとかとは思うけど、そのきっかけがなかなか無い。刺激が無いんだからしょうがないとも言える。試しにちょっと開祖様経由で団長さんたちにも相談してみたんだけど、あっちの人たちはそもそも親がいないとか友達が死んだとかそういうことが普通のことすぎてあんまりピンと来てないみたいだった。そりゃそうだろうな。

 

 で、専務さんに言われた通り部屋で待機してるんだけど……どうしよう。久しぶりに一日やることが無いせいか、ひどく暇だ。ゲームのタイムアタックもだんだんドゥエドゥエ言い始めて記録更新以外することも無くなったし、本は一回読めばもう頭に入ってしまう。宿題は特に無いし、勉強は……何するかって問題もあるし。

 となると必然的に何かしらやって気を紛らわすことになるのだけど、ゲーム、料理、漫画、映画……と、まあ、やるにしても限度はあるというものだ。

 

 さて。学校を休んでしまったボクだけど、実を言えば今は一人じゃない。というのも、寮生でありながら学生じゃないという人が、寮に二人もいるからだ。

 しゅがはさんとイヴさん(+ブリッツェン)である。

 

 

「がっつり濃ゆめの二人が残ったな……」

「誉め言葉として受け取っとくゾ☆」

「あ、氷菓ちゃんおかわりいただけますか~?」

「イヴさんもイヴさんでだいぶマイペースだよね」

 

 

 いやいいけどさ。

 隣を見れば、ブリッツェンも一緒になってこっちにラーメン丼を差し出してきている。大盛りね。はいはい。

 

 

「あいすちゃん、ぶりっちゃんさぁ……塩辛いもの食べて大丈夫なん?」

「……何か問題あったっけ?」

「……せやな☆」

「ブリッツェンは大丈夫ですよ~?」

「大丈夫だって」

「何で……?」

 

 

 何でと言われても……………………何でだろうね。

 でもいちいち気にしててもしょうがないし、特に問題無いならいいかなって。ブリッツェンもイヴさんのバックダンサーやったりCMに出たりして、ちゃんと仕事の手伝いもするし、仲間と言って間違いない存在なんだし……言いすぎるのも野暮ってもんだよ。多分。

 ちょっとワケわかんないことについては否定しようがない。

 

 

「何かいいアイディア無いかなぁ」

「要は不幸に思われたくないんっしょ? だったら今までよりもどっぱーん☆ とハデな役柄演じたりするのもいいと思う☆」

「回ってくると思う?」

「無さそうですねぇ」

 

 

 そもそもそういう役のオファーが無い。加えて今ライブなどでそういう風に見せかけようとしても痛々しく見えるだけだ。

 見た目ェ……。

 

 

「いっそ豪遊してやろうか」

「何をするんですか~?」

「………………お、お肉食べるし」

「あいすちゃん贅沢の基準低すぎっぞ☆」

「ま、松坂牛とか、食べるし」

「お腹くだしませんか~?」

「くだすかも」

「弱すぎる」

 

 

 弱いって言うな。

 でも実際今は弱いので受け入れる他無い。悲しい話だ。

 しかしこの「実際弱い」を脱却してしまうと、今回の件で得られる……というか、得て「しまう」ファン層の理想からは外れてしまう。勿論ファンが増えるのは喜ばしいことだけど、それがまた厄介なのが今回の問題である。イメージ通りの人じゃないので失望しましたファン辞めますというやつだ。

 なので、初期段階でイメージを修正していきたい。しかしその手段が……って、堂々巡りだな。

 

 

「イヴさ……しゅがはさんの贅沢の基準って何なのさ」

「何で私スルーされたんですかぁ~!?」

「いーちゃんの贅沢も似たり寄ったりだろ☆」

「そんなことないですぅ~! 私ももっと……こう……スキヤキとか、ケーキとか、食べますよぉ」

「大差ないよ……」

「え~」

「はぁとはお洋服買ってすうぃーつ買ってエステも行ってー、それから嫁入り道具とか買っちゃう☆ キャッ言っちゃった☆」

「ご予定はどこに?」

「ないです」

 

 

 でしょうね。

 あってもらっても反応に困るし、誰とだよという点も追及せざるを得ない。

 そもそもそんな暇があったのだろうか。あったかもしれない。アイドルになる前の数年間とか。いやでも、しゅがはさんのストイックさを考えるとありえないか……。

 さて、と気を取り直してイヴさんが口を開く。

 

 

「氷菓ちゃんは、あんまり不幸だって思われたくないんですよね~?」

「まあそういうことになるかな」

「って言ってもねー。やっぱ孤児って聞くと不幸な生い立ちっていうのが結び付いちゃうと思うゾ☆」

「だよねー」

 

 

 いや分かってるんだ。だからできるだけ品行方正……とまではいかなくとも、最低限問題は起こさないように努力しているし、言動も丁寧になるようにはしている。というのはやっぱり、施設出身者が色眼鏡で見られやすいからこその対策ではあるのだけど……。

 ……まあ、どうしてたって大前提が大前提だけに、そういう目で見られるのは避けられないのだが。

 

 

「プレゼントを渡せば幸せに……っていう話でもないですからねぇ~……」

「いやまあ幸せは幸せだけどね」

「そういう問題じゃないだろ☆」

「やっぱ親がいないってのがネックか……」

 

 

 親代わり、家族代わりというならまあ、いる。先生や施設の下の子たちがそうだ。

 でも世の中の人はそれじゃ納得しない。本物じゃないからだ。

 

 

「本当の家族がいなきゃ納得しないって言うなら、結婚でもしなきゃ無理じゃないかなコレ」

「相手はー?」

「いてたまりますかって」

「んでも、家族作る方法なら他にあるじゃん?」

「……んん?」

 

 

 

 @ ――― @

 

 

 

 それから、数日。

 専務の手により色々と規制が敷かれ、関係各所でも色々と妄想じみた憶測が語られるようになったような頃、ボクはとある報道番組に出演することとなった。

 各所に手を回して余計なことを言わず、聞かず……ということを「せず」、真正面から受けて立つ形である。

 ボクがトークが苦手ということは織り込み済みだ。だから、事前にある程度の質問は想定した上で、だけど。

 

 

――春にデビューした新人アイドルの中では、大きな注目株と言われていますね。何でもドラマの主演のオファーが入っているとか。

「ありがとうございます。主演の話は今聞いたので後ほどプロデューサーの方に確認を取らせていただきますが……それだけ期待されてると思うと、ちょっとプレッシャーですね」

 

 

 始めは、ジャブのような軽い受け答え。メインの質問に行きつくまでは、当たり障りのない質問でお茶を濁す。

 それも含め、まずは適切な回答で受け流す。あちらとしても、これが捨て質問であることくらいは分かっている。期待された程度の答えを、必要十分程度に。それで視聴者は満足するはずだ。

 

 

――今後、どういうアイドルになりたいですか?

「同じプロダクションの、高垣楓さんを目標に……楓さんを超えられるようなアイドルになれたら、と思います」

 

 

 これは本心。あちらも少し驚いているように見えるが……楓さんは押しも押されぬトップアイドルだ。テレビ局的には、ボクみたいな線の細い人間が対抗心マシマシで話していることに違和感がある、というところか。

 けど、これはちゃんと楓さんと話した上でこの結論を出している。できると言ってくれた以上は、やってみせる。

 大きく出ましたね、というインタビュアーへ軽く返して次の質問を待つ。

 続いての質問もまた、当たり障りが無い。互いの腹を探り合うような奇妙な緊張感が漂う。

 そんなやり取りがしばらく続いた後、意を決したようにインタビュアーがこちらに問いかけた。

 

 

――先日、児童養護施設に保護された児童だったと報道がありました。ご両親が恋しくなったりはしませんか?

「特にはありません」

 

 

 はっきりと否定する。インタビュアーの驚く顔を他所に、続けて告げる。

 

 

「育ての親がいるんです。昔から外国の美術館や史跡に連れて行ってもらったりしていたので、あまり寂しさは感じませんでした。今はその人の養子(・・)に入ってるんですけど、今ではすっかり本当のお父さんという感じで……」

 

 

 照れりてれり。

 ……という風を装う。実際ちょっと気恥ずかしいところはあるが。

 

 ここしばらく、ボクは比較的暇があるしゅがはさんやイヴさんと一緒に、養子縁組について調べていた。

 親がいないことが不幸に思われることの始まりと言うのなら、親がいればいいじゃない――ということだ。力技にもほどがあるけれども、「親がいなくて不幸だと思われないようにする」「元のイメージを損なわないようにする」「テレビ局側の思惑を外しつつ利益だけ受け取る」という三つの課題を同時に解決するには、このくらいの力技の方が手っ取り早い。

 かと言って、勿論適当な相手と養子縁組するわけにはいかない。なので、親交が深く、かつボクの事情について詳しい上に元から打診はしていたおじじに頼み、養親になってもらったのだった。

 

 別に嘘は言ってない。(贋作の製造のために)美術館に連れてってもらったし、(錬金術の完成のために)各地の史跡を巡ったし、事実上育ての親みたいなものである。

 実際に養子縁組をしたのはほんの二、三日前くらいの話なんだけど、いつ手続したかとか家裁から許可が出たかなんてのは口にしなくてもいい話だ。それで視聴者が何年も前に養子になってたと勘違いしても、それは仕方のないことだ。うん。

 で、オマケに、と言っちゃなんだけど……そういう勘違いをさせることで、施設にいる間にアイドルとしてスカウトを受けたという事実も隠蔽できる。あおぞら園に限らず、施設周辺でのアイドルのスカウトの頻度も減らすことができるだろう。

 

 ……当然だけど、この件についてはプロジェクトのみんなやプロデューサー、専務さんなどの346プロ関係者にはだいたい伝えて許可も出ている。流石にこんな重要なことを誰にも伝えることなく行動するわけにはいかない。

 ところで専務さんにこの件を提案したら「私がやろうか」と提案してきたが、流石に冗談だと思いたい。

 

 とまあそんなわけで、今のボクは白河氷菓改め古宮氷菓である。芸名はそのままだけど。

 おじじたちが(おか)に上がってカタギ商売始めてくれてて本当に助かった。

 

 

「これからもっと活躍して、お父さんを安心させられればな、って思います」

 

 

 ……この発言の後、おじじのとこの従業員どもが泣き崩れたのは秘密だ。

 

 

 

 

 

 さて、ともあれそんな感じでインタビューも終わったのがちょっと前。

 描いていたであろう青写真から微妙に外れたことを言って、テレビ局側に微妙な表情をさせることに成功して事務所に帰ってきたボクは、プロジェクトルームに戻って一息ついていた。

 

 

「疲れた」

「お疲れ様です」

 

 

 机にぐでーっと倒れて溶けていると、クラリスさん(聖)が上からボクの方を覗き込んだ。

 軽くひらりと手を振って応えると、くすりと小さな笑い声が落ちてくる。

 

 

「ふふふ。園の先生方も『やっとか』と安心していらっしゃいましたよ」

「やっとも何も、こんなことが起きなきゃそうする気は無かったんだけど……」

「そうですか? 以前から親子のようでしたが」

「そう言ってくれるのはちょっと嬉しいけどさ」

 

 

 なお、おじじは大喜びだった。

 とはいえ、前の――ちょっと後ろ暗い海運業をしていた頃のことを思い返して、ちょっと躊躇してる風ではあったんだけども。けどそこは押し切った。ボク個人も、まあ、「親」として考えるならおじじかなって。

 先生も紛れもなく親だけど、あっちは何て言うんだろう。施設の子たちみんなの先生だから色々違うというか。

 

 

「クラリスさんも手伝ってくれてありがとう」

「いいえ。為すべきことをなしただけですわ」

「でもありがと。多分ボクら……っていうかしゅがはさんとイヴさんだけだったらちょっと空回ってたかもだから」

「ですので、為すべきことをなしただけ、と」

 

 

 なるほど。二人のフォローに入るのも「為すべきこと」か。さりげなくてカッコいいことを言ってくれる。

 まあ、しゅがはさんはああ見えてかなり真面目で誠実な人だから、問題は特に無かったんだけども。どちらかと言うと、こういうことになるとちょっと空回るイヴさんのフォローをしてくれたのが大きいかな。そもそも日本の法律とか制度上のことを知ってるかちょっと怪しいし……。

 

 

「これでやっと明日からいつも通りに戻れるよ……」

「お仕事の方も溜まっているとお聞きしましたが」

「オマケにボクに言ってない映画だかドラマだかの企画が進行してるっぽい」

「良かった……と言っていいんですか?」

「まず先に伝えてくれないと」

 

 

 激務なのは分かるし、この件が失敗して一旦局側の思惑に乗るハメになった場合に、頓挫するという可能性もあっただろうから……確実じゃないことはまだ伝えないって意味はあったかもだけど。

 もしこれで疲れてて伝えられなかったってことになってたら、プロデューサーはホントどこか体おかしくするんじゃないかとすら思うよぼかぁ。

 

 

「でも、まあ、とりあえず一安心ではあるかな」

 

 

 それでも、この先の展望が開け始めたのは喜ばしいことだ。

 直近のイベントとしては……ハロウィンがあるか。346プロの性質上イベントのタイミングで何もしないってことはまず無いだろうし……そろそろライブもやってくれるはず。

 とりあえずは、この先の仕事も楽しんでやっていこう。

 

 ……ところで、あっちの方に用意されてる、ハロウィンで使うのだろうコスプレ衣装の中に紛れ込んでるどっかで見た改造シスター服やら軍服は……。

 いや、よそう。ボクの勝手な想像で今後を語るのは良くない。いくら何でもそんな簡単にボクの予想が当たるわけないさ。はははは。

 

 

 





 法的なお話に関しては正確なことが言えそうにないのでファジーに捉えていただけるとありがたいです。
 次回・次々回は掲示板回の予定です。

 ※10/31 微修正
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