青空よりアイドルへ   作:桐型枠

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49:トリック・オア……

 

 

「氷菓さんは日本のハロウィンが世界的に見て異質だということはご存じですか?」

 

 

 十月下旬、ハロウィン当日を間近に控えたある日、ボクはアリスさんと一緒にクローネのプロジェクトルームに向かっていた。

 今日の予定は、とときら学園のハロウィン特番の撮影だ。346プロで制作している番組のコラボ企画のようなものであるらしく、フルボッコちゃん出演者であるボクらにもかなり早い段階から声がかかっていた。

 で、その道中のこと。アリスさんはなんとも不機嫌というか不満げな顔をして呟いた。

 

 

「ハロウィンが海外発祥だということはご存じだと思うんですが、ハロウィンの本来の形は悪霊を追い出すための行事で、お化けや魔女に扮することなんだそうです。で、この行事はあくまで子供たちのための行事なんだとか」

「そうだね。大人の家に行っていたずらかおかしか(トリック・オア・トリート)……っていうのは、有名だよね」

 

 

 知っての通り、ハロウィンとは本来子供のためのお祭りだ。子供の健やかな成長を願って見守るような……なまはげみたいな……いや、違うか。

 まあ何にしても、元々日本の風習じゃないし、大袈裟に祝うようなものでもない。アリスさんの言う通り、扮するのはあくまで「オバケ」か「魔女」。その辺については知っているから、アリスさんの言いたいこともなんとなくは推測できた。

 

 

「……コスプレ大会と化している今の日本のハロウィンはおかしくないですか!?」

「気持ちはよく分かるけど言い出すのが十年遅いかな」

 

 

 つまり不満げだったのはそういうことらしい。撮影外で同じ格好をするのに少し抵抗があるのだろうか。

 しかし魔法少女の格好で日本のハロウィンに警鐘を鳴らすというのもなかなかロックな話である。

 

 

「こればっかりはもうどうしようもないんじゃないかな。クリスマスもバレンタインも魔改造してきた日本人だよ」

「でも街中で大騒ぎするのは違うと思います」

「それはボクも感じてる」

 

 

 ハロウィンといえばと聞くと、返ってくる答えは「かぼちゃ」か「コスプレ」か、あるいは「渋谷の騒動」だろうか。

 346プロも都心に近い場所に建っているだけに、外の騒ぎもすぐに聞こえてきてしまう。警察もしょっちゅう出動しているみたいだし……アリスさんも去年から所属しているから、何度かそういう光景は見ているはずだ。

 

 

「誰かが取り締まってくれればいいんだけどね」

「経済効果とかで難しいとも聞きました」

「そうだね。人が動けばそれだけお金も動くしね……」

 

 

 アイドルのコンサート……に例えるのはちょっと荒々しすぎるしあんまりにも秩序が存在しないし違うな。

 けども、下手すると万単位の人が動いて、熱狂によって理性の「たが」が外れるというプロセスには共通するものがある。それによって周辺のお店なんかにお金を落としてもらいやすくなるし、経済的には……まあ、決して悪いことじゃないと言えなくもないと思う。それ以外の面ではかなりどうかと思うけど。

 パーティと言えば聞こえは良いけど、実際はなんというか暴動めいているからケガ人も出るし、モノを壊す人もいるし、大量のゴミが出たりもする。割れ窓理論――軽犯罪を見過ごしていると重犯罪が起きる可能性が増加する――から考えれば、この状態が続くようなら治安にも悪影響だ。

 あとちょっと生々しい話になるけど、一夜を共にする男女が増えるので、ここ2、3年ほど7、8月生まれの新生児が園に預けられることが増えた。ボクが言えるこっちゃないけど、あからさますぎて嫌になる。

 

 

「……で、本題は?」

「本場から見れば氷菓さんの格好は色んな意味でありえないと思います」

「知ってるよ」

 

 

 さて、今のボクが着ているものはといえば――某第三帝国風の軍服だ。ちょっとミニスカートだったりロングコート風になってるのは、フィクション作品だからというところでひとつ。

 今ボクが出演しているソシャゲ、グラレフ(グランドレッドインファントリーの略)の担当キャラクター、ファウストの衣装そのままのコスでもある。ゲームのキャラで、かつこの軍服。ハロウィンの本場的にも大激怒だろう。色んな意味で。

 でもボク自体一回死んだからオバケみたいなもんだし、そっち方面のオバケもいるだろうし、ダメかな? ダメか。

 

 

「というかブランの格好じゃないんですか?」

「……あれシスター服じゃないとお腹冷えるから。さっきまでこっちの収録もあったし、始まるまでこっちでいようかなって」

「……ああ、まあ、涼しくなってきましたしね」

「あれだとアイス食べたらお腹冷える速度が尋常じゃないんだよ……」

「……まあ、そっちだとタイツ履いてますし露出度も高くないですしね。ミニスカートですけど」

「ミニスカートだけどね……」

 

 

 でもいいんだ。そこそこ暖かいから。

 そんなことを考えていると、アリスさんが少し恨めしげな視線を向けていることに気付いた。

 

 

「……どうかした?」

「同じ身長なのに、カッコいい系も普通に着こなせるのズルいと思います」

「え、えぇ……?」

「私は可愛い系が多いのに氷菓さんはカッコいい系も満遍なくやれる。これはちょっとした贔屓なのではないでしょうか?」

「単なる営業方針の違いだと思うよ……」

「じゃあ何で私の方が少なめなんでしょう」

「いや、ほら……生存本能ヴァルキュリアの時の衣装とかカッコいいし、クールタチバナカッコよかったし……?」

「それほどでもないです」

 

 

 謙遜してテレテレしてるその姿、だいたいクール抜け落ちちゃってるんだけど自分で気付いているのだろうか。

 しかし、自称クール・タチバナは後々黒歴史と化してしまいそうともっぱらの評判なわけだけど……まあ、わざわざ言うことでもないな。

 

 

「でも、考えてみたら演技力があった方が氷菓さんみたく色んな役が来るんですよね」

「うん。そうだね」

「……なんだか遠くを見つめてませんか?」

「そんなことないよ」

「何かあったんですね」

「……要求されればやるべきことはやるけど、追加注文を当然のように三つも四つも五つも投げつけてこられると困る」

「投げつけられたんですか」

 

 

 ダメとまでは言わない。できると信じてくれたと思えばそれはそれでいいことだ。追加報酬もあったから仕事と思えば特に何とも思わない。

 しかしソシャゲで「2、3年後に使うかもしれない季節行事用のデレ台詞」を読むのは、流石に色んな意味で首を傾げざるを得ないだろう。もうボク個人の感情はこの際置いといても、未来を見据えすぎて足元の石ころに躓かないか心配になる。人気出なくてサービス終了とかなったらどうするんだ。

 

 

「……でも、あるに越したことがないのは確かかな」

「どうやったら鍛えられるでしょうか……」

「えーっと……」

 

 

 どうだろう。ボクの経験からということで話してもいいのかな。

 でもボクの場合色んなところで他の人と違うし……いや、そう思う前に一度言ってみるのが重要か。何が影響して良い方向に向かうかなんてわからないんだから。

 

 

「ボクは、とにかく人を模倣(まね)することから始めたかな」

「人まねですか? でも、それはちょっと恥ずかしいような……一応、プロですよ?」

「プロである以前に人生経験の足りない子供だよ」

「むぅ」

「自分の中に無いものはどうしたって演じられない。でも一朝一夕じゃ築き上げることはできない。だから、他から持ってくる」

「それも、少し不誠実な気がします……」

「『学ぶ』って言葉の語源は『真似(まね)ぶ』って言葉……人真似から来てるって説もあるんだよ。あくまで説だけどね」

「なるほど」

「だから、人を真似して足りないものが何か、どんなものが必要かを学び取る。ボクはそうしてる……かな」

 

 

 問題はボクを基準にするとこずえちゃん以外に同じことができる人がほとんどいないということだろうか。

 いやでも、ボクやこずえちゃんみたいな特異な例に関してだけじゃない。人真似から学ぶというのは他の人だってやってることだ。ちゃんとアリスさんにも通ずる話……のはず。時間はちょっとかかるけど。

 

 

「……実例として、ちょっとやってみていただけませんか?」

「えっ。ここで……?」

「お願いします」

 

 

 ……こう要求してくるとなると、アリスさん的には「普段のボクからは感じられないこと」を求めているはずだ。

 例えばカリスマ。これならボクには存在しない。悲しいことに。けれどもどうにもこうにもならないというわけじゃない。さっき言ったように、それが無いというのなら、他から持ってくればいいんだ。

 今のこの格好もちょうどおあつらえ向きだろう。ちょっと雰囲気出すためにも、バサッとコートの裾を軽く翻す。

 

 

「『既に退路など存在しないと知るがいい。全門解放。()ェッ!!』」

「!?」

「「!?!?」」

 

 

 アリスさんがビクッとしたのに合わせて、周囲の部屋でざわざわと人が動くような気配が感じられた。ちらりと部屋の中に視線を向けてみると、なんだかやけにスマホの画面を気にしてる人がいる。もしかして、自分のスマホから声が出たと勘違いさせてしまっただろうか。だとしたらちょっと申し訳ない。軽いテロだ。

 

 

「……氷菓さん二重人格だったりしますか?」

「いやしないよ」

「どこでそんなの学んだんですか?」

「アニメ見たり資料見たり?」

「それだけでできるわけないですよね!?」

「あとは時子さんを参考にしたり……」

「だいたい分かりました」

 

 

 みんなご存じ時子さん。その威圧感は下手なならず者を凌駕している。

 本当のことを言うと今回参考にしたのはパーシヴァルさんやイルザさんのような「あちら」側の人たちなのだけど、あえてそこに言及する必要は無いだろう。アリスさんはあっちのこと知らないし。

 

 さて、そんなこんなはあったけど、ともかくプロジェクトルームに到着だ。途中、立ち止まったり休憩室に向かったりはしたけど、まあ時間内だから問題無い。

 

 

「おはようございます」

 

 

 一言告げて中を覗き込むと、当然のように美嘉さんと奈緒さんが死んでいた。

 ボクはそっと扉を閉じた。

 

 

「にゃははははそうはい神谷奈緒ちゃん!」

「残像だよ」

「!?」

「ありゃ失敗しちゃった」

 

 

 直後に扉が開いたが、そこは体術でなんとかした。

 十天衆が知り合いにいて助かったというかなんというか。別の意味で目を付けられたような気もするが、その内別の方に目が向くだろう。多分。

 しかしなんというかまあ、古典的なトラップだ。ヒモくっつけておくだけなんて。見た途端にボクが逃げ出すことは、想定されていてもおかしくはないと思ったけど……ここから何されたとしても、ちょっとしたことなら何とでもなるだろう。

 というかやっぱりこうしたのは志希さんとフレデリカさんか。今からどうするんだろう、これ。

 

 

「何で私今日一日で氷菓さんのおかしな一面を次々見ないといけないんでしょう」

「あんまり動じてないアリスさんもアリスさんじゃない?」

「晶葉ちゃんもあたしもそうだったしもうそこそこ慣れる頃だよね~」

 

 

 慣れていいものなのだろうか。

 まあいいか。スターライトプロジェクトのみんなの方はもう完全に慣れ切っちゃってるし。クローネでも慣れてもらおう。

 

 

「お疲れ様。収録?」

「あ、はい。凛さんは、今日は特に何も?」

「うん。奈緒と来たんだけどね。ちょっと面白いことになっちゃった」

「面白いこと」

「志希の薬とかがね」

「とか」

 

 

 となると、志希さんの薬だけじゃなくてフレデリカさんが更に引っ掻き回していったっていうところか。

 で、それに巻き込まれる形で美嘉さんが大変な目に遭ったのだろう。毎度毎度のことである。これでいったい何回目だろうか。

 

 

「その服は……?」

「収録してそのまま来ちゃって。文香さんは……」

「ネコ、ですか?」

「そう、です……にゃ。なんて……ふふ」

 

 

 隣でアリスさんがそわそわしているのが分かる。本来、アリスさんのユニットは文香さんと一緒だ。仲の良いお姉さんがお茶目な様子を見せているとなると、こうもなるだろうか。

 文香さんが着ているのは、青を基調にした色合いの、猫を連想させる衣装だ。

 元々のスタイルも良いので、よく似合っているのは確かだけど……こう、何だろう。どこかでみくさんが拗ねているような予感がする。元々ハロウィンの時期の定番コスプレとも言える「猫」だけに、346プロでもやる人は多くなってしまうだろう。

 ……志希さんと合わせてもう一人くらい呼んで、ふみにゃん志希にゃん誰かにゃんで新生にゃん・にゃん・にゃん……いやダメか。うん。それこそみくさんに怒られる。

 

 

「凛さんは……魔女かな?」

「ん。変かな?」

「全然。ただ、その――」

「あ、うん……」

 

 

 本物の魔女を知っているだけに、どうしてもその人を連想してしまうというか。

 なんとなく似た衣装だけに、ちょっと比較してしまう自分がいる。ドラフのそれに勝るとも劣らないとんでもないスタイルの美女だったものだから、強烈に印象に焼き付いてしまっている。

 

 

「氷菓は収録って言ってたけど」

「あ、はい。ネット配信の特番で、ソシャゲの宣伝と紹介を」

「ふーん……その衣装ってことね」

「奈緒さんはあれ、一体……」

「犬だよ。加蓮はミイラの仮装しに行ってる」

「……それいいんですか?」

「……本人がいいって言ってるからいいんじゃない?」

「……それもそうですね」

 

 

 加蓮さん、昔は虚弱体質で病気をしがちだったという話だったな。命が脅かされてた……とまでは聞いてないけど、元気になった今、その当時のことをネタにして笑いに変えようとするのは……ちょっと気持ちは分かるかもしれない。ボクも死んだこと時々ネタにするし。なお志希さんにも微妙な顔をされる模様。

 

 

「フレちゃんは小悪魔だよー♪」

「あたしも見ての通り魔女だねー♪」

「でミカちゃんはサキュバス」

「こーあーくーまー!!」

「あ、復活した」

 

 

 小悪魔。

 小悪魔?

 ……うん、まあ、間違っては無いと思うけど、美嘉さんの見た目で小悪魔はちょっと無理があるような気がしないでもないんだけど……。

 

 

「何でフレちゃんさっきからアタシのことサキュバスとかずーっと言うわけ!?」

「んーでもミニデビルとかプチデビルとかそんなカンジじゃないしー。デーモン?」

「デーモン美嘉?」

「そんな十万歳みたいな名前は勘弁して……」

 

 

 なるほど、こんな感じでずっとイジられていたから精神が限界を迎えてしまったということか。

 多分奈緒さんも同じだな。二人とも真面目だからまともに受け止めちゃったのだろう。ボクが言ってもあれだけど、受け流すことを覚えないと。

 

 

「まあ、でも相対的に見れば小悪魔って感じだし、そこまで変に思うことも無いんじゃないかな」

「そうそう★ 氷菓ちゃんの言う通り!」

「それちっちゃい子が来たらそうでもないってことだよね~?」

「まあうん」

「そこは否定してよぉ!?」

「お姉ちゃーん! アタシも小悪魔ー!」

「(相対的に見て)サキュバスです……」

「莉嘉ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「えっアタシ何かした!?」

 

 

 しいて言えばここに来たことが不運と言うか。

 しかし相対評価とは残酷なものだ。

 圧倒的小悪魔感を備えたコスを着用した莉嘉ちゃんの登場により、結果、やはり美嘉さんのコスはサキュバスということになってしまった。

 いや、小悪魔なんだけどさ。放送倫理的に。

 

 

 

 @ ――― @

 

 

 

「それじゃあ本番行きまーす。3、2……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 

 それから数十分ほどして、ボクはレイナさん、光さん、千佳ちゃん、アリスさんとの五人で社内スタジオでの撮影に臨んでいた。

 全員、衣装はフルボッコちゃんでの普段着だ。魔法少女衣装はもう少し後の撮影で使うことになる。

 

 さて、今回の撮影はほんの一分程度の映像を作るためのものになる。これをCM前のアイキャッチとして利用するつもりらしい。

 監督曰く、コンセプトは「フルボッコちゃん第三期レギュラーメンバーの休日」。そんなわけで、今ボクたちはグリーンバックの前でテーブルに向かって、それぞれお茶を嗜んでいる。無言で。

 無言なのは、ハロウィンまでの放送時点で、まだ全メンバーがちゃんと打ち解け合いきれてないからだ。特にブラン(ボク)

 

 

「……どうぞ」

「あ、ああ、ありがとう」

 

 

 無言で延々とお茶を飲み、時々一言を差し込んでいくというシュールなスタイルだ。

 そもそも何でこの五人が集合してるのかすらよく分からないという念の入れよう。まあこれ、来週の10話の放送でブランの過去が明らかになった直後、という設定のもと放送されているので、今の時点で何でこんなことになってるのかが分からないのは当然なのだけど。今はあくまで純粋にシュールギャグな映像として楽しんでもらい、10話放送後に改めて「あの時の映像はああいうことだったのか!」と気付いてもらうつくりなのだそうだ。

 果たしてどれだけの視聴者が気付くかは分からない。

 

 

「はい、OKでーす!」

 

 

 しばらくそうして一言二言を挟み込んで、数十分ほどで撮影は終わった。

 続いて同じように魔法少女服での撮影を行い、こちらも同じような調子で数本分を撮り終えた。

 

 

「……な、なんだか静かな撮影だったな……」

「こ、これはこれで、しょうがないんじゃないでしょうか……」

「ハッ、しょうがない? どうせだからもっとオモシロくしてあげることもできるけどッ!」

「それはやめといた方がいいと思う」

「そうだよー。また専務さんに叱られちゃうよ?」

「……今回は見逃しといてあげるわ! アーッハッハッハ!!」

「レイナ、響いて他の撮影の迷惑になるぞ」

「うぐ」

「やっぱり専務さんには弱いんだ……」

 

 

 意外な――いや、意外でもないか。専務さん怒ったら怖いし、そもそも厳格な人だから勝手なイタズラとか許してくれるようなタチでもないし。

 ボクや仁奈ちゃん、あとは小さい子や裏表があまり無い素直な人なんかに対しては優しいけども、それはそれとして過去の言動から未だ苦手意識を持つ人も少なくないし。

 

 

「んー、楽しかったけど、ハロウィンなんだからもっとハロウィンらしいお洋服着たかったなぁ」

 

 

 そうボヤく千佳ちゃんの言葉に、内心少し同意する。

 ハロウィン本番はまだもうちょっとだけ先のことだとはいえ、着慣れている特撮の衣装だけというのもなんだか味気ない。それにアリスさんの言葉じゃないけど、ハロウィンらしい仮装じゃないというのもなんだか少し気になる。

 のだけれども、

 

 

「この後、みんなでちゃんとしたハロウィンの仮装してからエンディング撮るらしいよ」

「えっ、ほんと!?」

「そうだったのか?」

「うん。監督さんからみんなに伝えてって。衣装室にあるものなら何着てもいいとか」

「それならそうと先に言いなさいよッ!」

 

 

 忙しいだろうから、とフォローは入れておくけど……まあ、うん。そうだよね。通達大事だよね。うちのプロデューサーも時々いきなり寝耳に水なことしてくるから分かるけど。うん。

 ともあれ、ボヤくレイナさんをなだめながら、みんなで衣装室の方へ向かう。

 他のみんなが使ってるからそこそこ減ってはいるけれど、それでも結構な量の衣装がボクらを圧倒した。

 

 

「それじゃあ、あたしは魔女!」

「『子』じゃないんだね」

「えへへ、ハロウィンだからね。今日はラブリーチカもオトナモードなの!」

 

 

 そしてハロウィンが過ぎたらまた魔女っ子と。一晩限りで変身願望を満たすことができると思うと、それもまたハロウィンの醍醐味みたいなものだろう。何度も言うようだが、実質的にはもう数日先になるんだけど。

 

 千佳ちゃんに続くように、ボクを含めた四人もそれぞれ衣装を探しに向かう。

 さて、ハロウィンとなると何がいいか……魔女はやる人が多いから一旦候補から除外するとして、あとは……猫、は氷菓にゃんとか言われて志希さんたちに尊厳ブレイクされそうだから除外。同じくやる人が多くてみくさんに怒られそうでもある。ミイラ……は、事情を知ってる人たちからブラックジョーク扱いされそうだな。除外。

 となると、ハロウィンらしい……創作上の仮装じゃない……と。

 

 

「みんな、きがえたー?」

 

 

 少しして、千佳ちゃんの呼びかけに対してみんなそれぞれに返事を返す。ボクは準備のためにももう少し待ってもらうことにするが、他のみんなはどうやら既に着替えが終わっているらしく、おもてに出て行っているのが見えた。

 

 

「じゃーん、どうだ!」

 

 

 まず出てきたのは光さん。どうやら吸血鬼の衣装のようだ。紳士服のような黒い服にマント。赤と金の意匠が見え隠れしているのは、某吸血鬼ライダーリスペクトだろうか。

 次に出てきたのはレイナさん。イタズラ好き繋がりか、天狗っぽい衣装を選んでいるようだ。

 アリスさんは童話の「アリス」に出てくる時計ウサギ――創作物のコスプレは邪道って自分で言ってなかったっけ――だ。よく似合っているがそれはそれとしてちょっと釈然としない。

 で、千佳ちゃんは元々の予定通り魔女。大人っぽいと自ら豪語する通り、確かに大人っぽい衣装のようだ……衣装だけ。やっぱりまだちょっとあどけないところはあるので、そこはあくまで大人っぽさを「目指した」というところだろう。

 さて、ボクも出ないと。そう思ってみんなの方に出て行く――と。

 

 

「うわあああああああああ!?」

「ひゃあああああああああ!?」

「ギャアアアアアアアアア!!」

「きゃあああああああああ!?」

 

 

 四人揃って盛大な悲鳴を上げられた。

 何故だ。ハロウィンの趣旨から外れた格好じゃないと思うんだが……このスクリームの仮面と黒衣+鎌。

 

 

「アタシらをびっくりさせてどうするのよ!?」

「あだっ! いや、あの、ハロウィンだしオバケっぽい方がいいかなって思って」

「オバケっぽすぎます!!」

「こっち付けてなさい!」

 

 

 と、レイナさんの手により仮面をはぎ取られ、代わりにジャック・オー・ランタンが被せられる。

 まあこっちでもオーソドックスでいいか。あちら側の風習としても迷子のジャックという民間伝承があるみたいだし、どちらの世界にも共通したものに仮装できると考えれば、それも一興だろう。

 

 それはそれとしてあんまりにもビビらせてしまったせいで後でみっちり怒られた。

 ただちょっとレイナさんがイタズラする時の楽しい気持ちはちょっと分かった気がする。

 

 

 

 で、その日の晩。

 

 

「開祖様、もしハロウィンするならエルーンとドラフとハーヴィンとどの肉体になってたら一番驚きますか!?」

『何言ってんだお前』

 

 

 ――――ちょっと人を驚かすことにハマってしまったボクだった。

 

 

 








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